第34話
声が聞こえる……
どこまでも深い闇を漂う私に向けて……
まだその時ではない……
だけどそれは遠い話ではない……
もう1度目覚めるときはもう直ぐそこまできていることを私は感じていた……
ダハーカを倒したと思った瞬間。ダハーカは咆哮と共に3頭3口6目の巨大な龍へとその姿を変えた。神話に伝わる悪龍「アジ・ダハーカ」へと……
「ギシャアアアアアア!!!!」
咆哮と共に叩き付けれかけた爪を飛びのいて回避する
「くっあの巨体の癖になんてスピードだ!」
私と同じかそれ以上のスピードを持って放たれる打撃。範囲も広く回避するので手一杯だ
「キシャアアアア!!!」
ガバアッ!!!!
馬鹿みたいに開かれた大口に炎が発生するのが見える。それを見たアーシアさんとリーフとリーナが魔力の矢を魔力弾をそして重力球を打ち出す。それはアジ・ダハーカを捉えた
(良し今の内に間合いを……なにっ!?)
接近されていた私とイッセーさん。そしてペガサスさん達が離脱できる隙ができたと思った瞬間
クオオオオオッ!!!
キヤアアアアア!!!
攻撃を受けた箇所から小さな竜が這い出てきて咆哮をあげる
「くそっ! 伝承の通りかよ!!! 攻撃するな! 攻撃するほど奴は増えるぞ!!!」
イッセーさんがそう叫ぶがアシラさんとペガサスさんは既に攻撃態勢に入っていて
「螺旋ッ!!!」
「焔刃煉瓦ッ!!!」
放たれた6つの刃がアジ・ダハーカに命中すると今度は12体の竜が現れた
「シャアッ!!!」
「ちっ!? 何だこの能力は!!」
現れた竜のブレスを回避しながら舌打ちをするペガサスさんにアーサーさんが
「アジ・ダハーカは決して倒すことの出来ない悪竜なのです! 恐らくこの再生能力も有言ではなく無限でしょう!」
現れた小型のダハーカと切り結んでいるアーサーさんの叫びにペガサスさんが
「鬱陶しい能力だ! リーエどうする!?」
「どうするなんか私が聞きたい!!!」
地面を走りながら近寄ってくる小型のダハーカの攻撃と、本体のブレスと爪を回避しながらどうするか考える
(再生も出来ぬほど消し飛ばす……駄目だ。私にはあんな攻撃は出来ない)
龍也様かはやてさんなら空間ごと消し飛ばす大魔法を使えるが、私にはあれだけ複雑な空間把握と魔力制御は出来ない。仮に出来たとしてもイッセーさん達をも巻き込む危険性がある
(逃げる……いや、間違いなく追ってくる)
理性をなくしているが、私たちに対する恨みと怨念はひしひしと感じる。逃げたところで追ってくるのは目に見えている
(どうする! どうすれば良い!!)
いくら長い時を生きてきたとは言え、私にはこの状況を打破する手段が思いつかなかった
「くっ!?くそ!!!」
小型のダハーカとアジ・ダハーカがイッセーさんを狙い続ける。その手には写・約束されし勝利の剣の姿はない、もう魔力を使いきって無に帰ってしまったのだ
「アニキ!今行く!」
「イッセー!距離を取れ!!」
シュラウドさんとヴァーリさんの怒声が響く。私やペガサスさんもイッセーさんに近づこうとするが
「ちいっ!!鬱陶しい雑魚どもが!!!」
「くっ。倒しても倒してもきりがない!!!」
小型とは言え再生能力は本体と変わらない。引き裂けば2体に押しつぶせば倍以上に増える。ネクロ以上に厄介な相手だ
「くっよ、避け「ギッシャアアアアアアア!!!!」ぐがああああッ!!!!」
強烈な一撃を喰らい壁に叩き付けられたイッセーさんが私の方まで弾け飛んでくる。
(受け止めて回復を)
自身の身体を治すのは複雑な魔力コントロールが必要だ。だが他の存在、しかも人間ならば話は違う。即座に回復させることだって不可能ではない。回復魔法の術式を組み上げたその時……イッセーさんのほうから紫色のガイアメモリ。「V」と刻まれたそれが飛び出してくるそしてそれを見た瞬間
バサアッ!!!
私の意と反して口から呪文が紡がれる。自身の意ではなくまるで世界が定めた運命が動き出すようなそんな感覚……
私とイッセーさんの間で止まったVのメモリが光り輝く中。私の口は呪文を紡ぎ
――――我は理を知る者
――――死は忘却、生は記憶
――――揺蕩う(たゆたう)魂を誘い、もう一度この生へと刻む
――――我が理は円環、輪廻の廻りを求める
――――顕現
――――リンカーネーション
そして詠唱が終わると同時にVのメモリが放っていた光が一際強く輝いたと思った瞬間。
ビシリッ!!!!
メモリに亀裂が走り。それがあっという間にメモリ全体に行き渡る、そして次の瞬間メモリが砕け散りそこから。紫色の法衣を纏った私やペガサスさんと同じく。瞳孔が縦に割れた女性が現れ軽やかに着地する……幼さと美しさ、妖艶さと可憐さ相反する要素を兼ね備えた女性は私達から背を向けながら
「さーて最低な亡者ライフからまた生者に戻してくれたみたいだし……そのお礼をしないとね」
楽しそうに笑う女性に小型のダハーカが殺到する、だがある一定の距離を近づくとまるで金縛りにあったかのようにその場に凍りつく
「な。なんだ?何が起こってるんだ?」
「半ネクロよね?何かの能力?」
イッセーさんやアシラさんの驚きの声を聞きながら私はあるネクロの事を思い出していた。エリオさん達が戦い倒したLV4ネクロ
「ヴィルヘリヤ……?」
ネクロを支配する能力を持ち、呪いにたけたネクロ。全てを腐敗させる異形の右手はないが……それでも雰囲気が、纏う魔力が六課のデータベースに残されて居た物と同じだった……私の呟きを聞いた半ネクロは
「あらぁ?私のことを知ってるの?嬉しいわねえ♪でも話は後♪ぜーんぶ倒してからね」
くるりと回転しながらダハーカを見据え。ヴィルヘリヤは
「ふふふ……し・ん・で……くれる?」
邪悪さと無邪気さを兼ね備えた笑みを浮かべそう呟いた。そして次の瞬間
ザン! ザンッ!!!
無数の剣と槍が空中から降り注ぎダハーカを消滅させる。私達が何をやってもだめだったのに? 目の前の光景が信じられず目が点になっているとヴィルヘリヤは余裕の笑みを浮かべながら
「ただのネクロ如きが私にたてつこうなんて1000年早いわよ……ボーヤ?」
嘲りの笑みを浮かべ、アジ・ダハーカにそう告げる。するとアジ・ダハーカは
「キッシャアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
凄まじい雄たけびを上げてヴィルヘリヤ目掛けて突進した。ヴィルヘリヤは私達から離れながら
「ほら。時間は稼いであげるわ。今の内に回復しなさいな」
そう笑いながらウィンクしアジ・ダハーカに向かっていった
「うふふふ……そんなの当たらないわよ?」
くるくると舞いを踊るようにアジ・ダハーカの攻撃をかわしている女を見ながら
「リーエ。ヴィルヘリヤとかいっていたが知っているのか?」
「ああ、ヴィルヘリヤは元ネクロの筆頭幹部の1体でネクロを操る能力と呪術を使いこなすネクロだったはず。なぜ半ネクロとして復活させれたかは判らないが……協力してくれるは正直助かる」
リーエがそう言いながら印を組むと赤い光が俺達を包む
「すげえ……暖かいなあ」
日の光を浴びるかのような優しい暖かさに思わずそう呟くと
「私の光はそんなものではないさ。龍也様の光はもっと暖かくて心地良い……イッセー回復は使えないのか?」
「悪いんだが。段々力を感じなくなってきてる……もう直ぐ強制解除されそうだ」
エクスカリバーが消えてからだが徐々に力が抜けていくのを感じている
「そうか……早々上手い話はないか」
少しだけ哀しそうな表情をして呟いたリーエは「これで回復は終わりだ。感覚は戻っているはずだ」と告げた。試しに手を動かしてみる感覚も元通り万全だ。
「凄いね。回復も得意なんだ」
「馴れれば誰だって出来る。凄いというほどでもない」
そういって前を見るリーエ。それとほぼ同時に
「ふー疲れるわねぇ……で? 戦える準備は良いかしらぁ?」
猫撫で声で言うヴィルヘリヤにリーエが頷くと
「良いかしらぁ? あの化け物はどうもネクロの魔力と自身の魔力を交互に使っているみたいなの。だから私の呪いもあんまり効果がないのよねえ?」
……腕とか足とかどろどろになってるように見えるし
「シヤアアアアア!!」
威嚇の声にも気迫がないような……しかもなんか明らかにヴィルヘリヤを見ないようにしてるしどの首も……
「ふふふ? 余計なことを考えると去勢するわよ? ボーヤ?」
「は?ひいっ!?」
気がついたらさっきダハーカを消滅させた剣が俺を狙っていた。どこを? どんなものは言わなくても奴の台詞で判るだろ?
「ちょっ!?き、去勢は駄目!?」
「そう言うのは困ります!!」
ヴィルヘリヤにヴァーリとアーシアが近寄るのを見てなんか複雑な気分になっていると
「話を戻してくれるかしら?」
「あら?ごめんなさい?」
うふふと笑ったヴィルヘリヤは俺達を見て
「だから魔力と物理を交互に当てて回復を阻害してやれば良いの。簡単でしょう?」
そう笑ったヴィルヘリヤは指を鳴らしてイスを作り出すと、それに腰掛け
「じゃあ、頑張ってね~♪」
「なんで戦わない?」
ジト目のリーエにそう尋ねられたヴィルヘリヤは肩を竦めながら
「起きたばっかで魔力本調子じゃないの♪ そういうーことだからあと、よ・ろ・し・く・ね♪」
ウィンクしたヴィルヘリヤはそのまま何処かから取り出した扇子を広げぱたぱたと降り始めた。なんか腹がたつが……それなりに仕事をしてくれたのも確かだ。
「グオオオオオッ!!!」
咆哮をあげて威嚇をしているが、明らかに動きが鈍っている。アジ・ダハーカを見て俺は
「アーシア・リーナ・リーフ。俺達が動きを鈍らせたら胴体を打ち抜いてくれ」
接近しすぎるのも危険だ。いくら動きが鈍くなっているとは言えあの破壊力は健在なのだから
「一撃当てて離脱。肉を抉りコアを露出させるという事か?」
ペガサスの問いかけに頷く。何時まであの呪いが効力を発揮しているか判らない、他に案があるなら教えてくれと言うと
「いや。お前の作戦で行こう……そう言う思い切りの良さは嫌いじゃない」
にやりと笑うペガサスに少しだけ安堵しながら
「そう言うことだ。よろしく頼む」
「任せておけ」
皆これが最後の攻撃だとわかっているのか、何も言わず意識を集中させているのがわかる。後はタイミングだ
「ギシャアアアア!!!」
ダハーカの3つの首が吼えたと同時にペガサスとフートが走り出した
【Nasca MAXIMUM DRIVE!!】
「タイミングは合わせれますか!」
「誰に物を言っている!!!」
あって間もないというのに完全に息が合っている。ペガサスとフートは
「ナスカソニックエッジ!!」
「鳴神ッ!!!」
通り抜けざまにフートとペガサスの斬撃がアジ・ダハーカの身体を引き裂く。だが回復が遅い上に雑兵が出てこない……ヴィルヘリヤの言う事は本当だったわけだ
「じゃあ、アーサーはあたしとね。ちゃんとついてきてよ?」
「ご心配なく。ちゃんとついて行く所かエスコートしましょう」
アーサーとアシラが走り出す。……エスコートするとか言ってたが、アシラの方が早いのは言わないほうが良いのだろう
【Arthur MAXIMUM DRIVE!!】
チャキッ……
アシラが刀を鞘に納め
「コールブランド・ストラッシュッ!!!」
「焔火連閃ッ!!!」
金色の斬撃と炎の刃がアジ・ダハーカの3本の首の1つを完全に切り落とし消滅させる。
「ギアアアアアアアッ!!!!!!」
苦悶の声をあげ魔力でバリアの様な物を作りだす、それは魔力がこれでもかと込められた強力な物だったが
「防御なんて打ちぬくだけだよ!」
「好戦的だね……ヴァーリは」
「そう言うのは悪くないと思いますけどね」
【ルパッチ・マジック・タッチ・ゴー! ルパッチ・マジック・タッチ・ゴー!……】
【Fang MAXIMUM DRIVE!!】
【FINAL VENT!!】
「ストライク・ウィザードッ!!」
「ファングストランザーッ!!」
「ドラゴンライダーキックッ!!!」
ルフェイのストライク・ウィザードがバリアに皹を入れ。シュラウドのファングストランザーがそのバリアを完全に打ち砕き
「はああああッ!!!!」
ヴァーリの渾身の飛び蹴りがアジ・ダハーカの首を完全に蹴り砕き。体勢を大きく崩させる
【Taboo MAXIMUM DRIVE!!】
【Claydol MAXIMUM DRIVE!!】
【Crash!! MAXIMUM DRIVE!!】
「タブー・ルナティックエンドッ!」
「クレイドール・インパクトッ!」
「クラッシュアローッ!!!」
3つのマキシマムがアジ・ダハーカの胴体を完全に打ち抜き。そこから赤黒いコアが顔を出す……それを見たと同時に俺とリーエは同時に駆け出しながら、ほぼ同時に飛び上がり
「「いっけええええッ!!!!」」
俺とリーエの前に現れた黄金の光に飛び込みながらコアに蹴りを叩き込んだ
バキ……ビシビシ
何かを蹴り砕く感触が脚に来る。着地と同時に顔を上げるとコアに亀裂が走って行き……
バキャンッ!!!!
乾いた音を立ててコアが砕け散り、アジ・ダハーカの巨体が炎に呑まれていく
「ギヤアアアアアアアアアアッ!!!!!!」
身も凍るような断末魔の悲鳴を上げるのを聞きながら
「終わったな」
「そのようだな」
これで長いようで短かった戦いは終わりだ……握り締めていた拳を開こうとしたとき
「ヒャーアハハハッハハハハ!!!!終わりだとぉ!?違うぜぇ!!これは始まりだぁ!!!」
炎の中に浮かび上がる巨大な影は狂ったように笑い続ける。その声を聞いたヴァーリが
「アジ・ダハーカの本体!?」
取り込まれたはずのアジ・ダハーカが復活しているのかもしれない。思わずまた拳を作ろうとすると
「だけど今回だけは!素直に身を引いてやらぁ!邪龍の誇りを穢されてそのまま戦おうなんて思えねえからな!!だけど次はねぇぞ!! どこまでもキサマラを追い詰めて殺してやる!! ヒャハハハ!!!ヒャーアハハハッハハハハ!!!!」
アジ・ダハーカの影は徐々に消えていく。どうやら本当に退散したようだ……
「ふう……このメモリの……あ!」
腰のベルトのメモリを見る、それには細かい皹がいくつも走り今にも砕け散りそうになっていた。とっさに手を出した瞬間メモリは腰のベルトから外れ、地面に叩きつけられ砕け散った……
そして次の瞬間。俺達は紅い荒野に立っていた……その突然の事に驚いていると俺の隣のリーエが
「……龍也様ぁ……」
その声につられて前を見るとそこには黒いコートと長い銀髪を風に靡かせた八神龍也の姿があった……
なんど会いたいと願ったか……
なんど触れたいと思ったか……
なんど言葉を交わしたいと思ったか……
頭の中がぐちゃぐちゃで何を言えば良いか判らない。それでも一歩足を前に踏み出す
『リーエ』
龍也様の声が聞こえる。だけどそれはどこか遠くから語りかけられているのか良く聞こえない
「龍也様……」
色々と言いたいし、やっと会えたと言って泣きたいとも思うだけど……
(まだ再会の時ではないのですね……)
龍也様の姿はおぼろげで今にも消えてしまいそうだ……それでも触れたくてゆっくりと近づき手を伸ばそうとすると
『大きくなったな……』
半透明なので感触はおぼろげだし……
声も良く聞こえない……
それでも龍也様は私の頭を優しく撫でていた
『すまない……私はまだそちらにいけない……行けたとしてもきっとリーエはもうそこにはいないだろうな』
時間移動・平行世界移動はそんなに便利なものではない。制約もあれば制限もある……
『もう駄目みたいだ……すまないな。もっと話しをしてやりたかったのに……』
龍也様の姿がうっすらと消えていく。思わず伸ばしかけた手を胸の前で握り締めて
「大丈夫……です。私はまだ頑張っていけますから」
龍也様に心配をかけさせてはいけない。いつかまた会えるのだから
『いつか……また……み……で……一緒……に……』
龍也様の声は良く聞こえなかった……でも何を言いたいかはわかる
「はい。またいつか皆で過ごせるときが来ます。だから……私は頑張れます」
消えて行く龍也様に力強くそう返事を返す。その言葉が龍也様に届いたかは判らない……でもきっと届いたと思う……
こうして長いようで短かった戦いは終わり……
再び私達が旅に出るときは静かに
だが確かに近づいてきていた……
第35話に続く