第3話
私を助けくれた人は翌日の昼過ぎにまた会いに来てくれた。
『リンゴは好きかね?』
暫く他愛もない世間話の様な話をしていると。突然そう尋ねられ私は
『……はい』
そう返事を返すと。近くからシャリシャリとリンゴの皮をむく音が聞こえてくる。そして皮をむく音が止まってすぐ
『ほら、あーん』
口元に何かが近付いてくるのを感じ。少しだけ恥ずかしいと思ったが口を開く、そしてすぐに感じる爽やかな甘い果物の味
『……お、美味しいです』
今朝と昼食べたのは、味気ないお粥だったからか。余計に美味しく思える
『それは何より。まだ食べれるかね?』
にこにこと笑っているであろう。青年の声に
『……は、はい』
そう返事を返すとまた口元に運ばれるリンゴ。それをゆっくりと食べ。暫くするとまた仕事があるからと言って立ち上がる青年に
『……あの、あなたのお名前は?』
ずっと気になっていた事を訪ねると
『……名乗るほどたいした名前じゃないから気にしないでくれ』
名乗りたくないのかそんな事を言う青年に
『……名前を聞かないとお礼を言えないじゃないですか』
むむっと唸っている声がする。なんでそんなに名前を名乗るを嫌がるんだろうか? と私が考えていると
『ではフェイカーでも呼んでくれ』
『……100%偽名じゃないですか』
どう考えてもフェイカーなんて名前はありえないと思う。しかも青年はくすくすと笑いながら
『うん、偽名だからな』
認めちゃったよこの人……ええ? なんでそんなに名前を名乗るのが嫌なんだろうか? と首を傾げていると
『リーエの目が見えるようになったら、名前を教えてあげよう』
くすくすと笑う青年の声に私は
『何でですか?』
別に今教えてくれてもいいのにと思いながら尋ねると
『まぁ色々と訳ありでね、ではまた今度』
そういって遠ざかる気配と入れ替わりで別の人の気配がすぐ近くに来る
『こんにちわ、リーエさん』
穏やかな優しい声の女性の声がする。私は多分その人の顔の方だと思う方を見て
『ど、どうも』
少し年上の女性の声にそう返事を返すと女性はクスクスと笑いながら
『私はクレアと申します、あの方の指示で貴女の世話をすることになりました。宜しくお願いしますね』
あの方? そんな風に呼ばれるなんてあの人って実は凄い人なのかも知れない。私はそんな事を考えながら
『……えと、宜しくお願いします。クレアさん』
「はい。これから宜しくお願いしますね。リーエさん」
それから私はクレアさんと一緒に過ごす時間が始まった。顔が見えないのでどんな人か判らないが優しい人なのは良く判った
~1ヵ月後~
リーエさんのリハビリを終えて屋敷に戻り。今日のリーエさんの様子を王に伝えに行くのだが。
「どうかな? リーエの様子は?」
毎回部屋に入るなりそう尋ねてくる王に私は
「そうですね。特には何も、年相応の少女と言う感じですね」
まぁ9歳の割には礼儀正しいですけどね? と付け加え笑うと
「そうか……何か思い出した様子は?」
その問いかけに私は首を振りながら
「いえ。その様子はありません、どうもネクロに攫われた前後の記憶と一般的な生活の知識。それと魔法に関する記憶しか残ってないようです」
今のリーエさんの状態は記憶喪失というよりかは。記憶消失といえる。喪失では消失……元から無い物は思い出せるはずがない
「そうか……それについて何か悩んでいる様子は?」
「今の所は無いですね。決まってリーエさんが言うのは今日は来てくれますか? ですね」
くすくす笑いながら言うと王は
「……時間を作って会いに行こう」
「ええ。そうしてあげてください」
リーエさんは王が居る時と居ない時ではまるで反応が違う。事を思い出しながら言うと
「判っている。ではリーエを頼む」
「かしこまりました」
私は深く頭を下げてから。王の部屋を後にした
(もう少しで一ヶ月ですか)
リーエさんを保護してから。もうすぐ1ヵ月、そろそろ六課のメンバーにも説明しなければならないだろう
(馴染んでくれると良いんですけど)
リーエさんは若干の対人恐怖症のけがあるのでそれだけが心配になってしまう。
(まぁ。王が何とかしてくれるでしょう)
私はそう判断して、自室へと戻った
『……今日は来てくれないんですね。フェイカーさん』
昼食を終えたところでクレアさんにそう尋ねると
『あら、寂しいのですか?』
からかうような口調のクレアさんに
『……そ、そんなことは』
『無いと言えますか?』
楽しそうな口調のクレアさん……大分一緒に居るようになったから判ったが。クレアさんは意外と悪戯好きだ、だが下手に反論すると余計にからかわれるので
『……言えません』
正直にそう言うとクレアさんはくすくすと笑いながら
『正直なリーエさんに良い事を教えてあげましょう。あの方はとてもお忙しい方なのです、ですから偶にしかここに来れないのです』
滅多に教えてくれないフェイカーさんの事を話してくれる。クレアさんに
『忙しい? どんな仕事を?』
魔導師で忙しい仕事と言えば……管理局の人間だよね? と思いながら尋ねるが
『それは、ふふ、秘密です♪ 目が見えるようになってから直接聞いて見てはどうですか?』
どうも今はこれ以上教えてくれそうにない、私はそう判断し
『そうですね。そうします』
物分りのいい子は好きですよ、と言うクレアさんは
『ではそんな良い子にはご褒美がつき物ですよね?』
『クレア、お前最近おかしくないか?』
気配の無かった第3者の声に驚きながら
『……ふぇ、フェイカーさん? 何時から?』
居ない筈の人間の声に驚きながら尋ねる。まさか最初から……
『来てくれないからの所から……かな?』
最初からいたーッ!! 恥ずかしいにも程がある
『まぁ今日は嫌々ながら聖王教会に行かんとならんのでついでに来た』
聖王教会? 私が住んでる自治区の……じゃあもしかしてフェイカーさんは聖王教会の騎士なのかな?
『あの、正体を暴露しそうになってますよ?』
クレアさんのその言葉にフェイカーさんはうっと呻いてから
『つい口が滑ったな。まぁ問題ないさ、そうそう主治医の天災が言うには近いうちに目の包帯を取るそうだ。それからはリハビリを頑張ろうな』
『……はい』
『じゃあな。また』
ぐりぐりと私の頭を撫でて遠ざかる気配、その気配の移動先を見ていると
『名残惜しいですか?』
『……はい』
思わずそう返事を返してしまい
『……あ』
くすくすと笑われ気まずい気持ちで居るとクレアさんは
『聞かなかった事にしておきましょう。では今日のリハビリを始めましょうか』
微笑ましいものを見るような視線を感じ。恥ずかしいのやらなんやらで少しだけ涙目になりながら
『……ぐす……はい』
声を出せるようになるためのリハビリ、まだ目が見えないので歩く事のリハビリは包帯が取れてからになる。
「ではあ・い・う・え・お どうぞ」
クレアさんに先導されながら声を出そうとするが
「……ッ……あ……い……ッ……う……え……お」
声を発するだけで喉が痛むが、頑張って最後まで言うと
「結構です、ではつぎはかきくけこ」
この声のリハビリは辛い、声の出し方が良く判らないのだ……しかも喉も激しく痛む。そのせいか長い時間の発声練習は無いが、それでも充分きつい
「では声のリハビリはここまで、次は握力ですね」
その言葉に頷くと、開いた手の上に正方形の何かが置かれる。指先や握力のリハビリはパズルやルービックキューブ等の指先を使う物を使ってするのだが……
バキャンッ……乾いた音が病室に響き渡る……その音の正体は私の手の中で砕け散ったルービックキューブの音
「またですね、ではこれを」
『すいません』
全体的に力が強くなりすぎている、力加減のリハビリなのだ
「半ネクロ化の力を上手く使えるようにならないといけないですね」
『はい』
また手渡されたルービックキューブをさわり、数分で粉砕する
「では次を」
どんどん壊れたルービックキューブが量産されていく。毎日・毎日これの繰り返しだ。 だが最初の方はもっと酷かった、触った瞬間砕いてしまっていた。それと比べれば大分ましになってきている
「今日はこれくらいにしましょうか」
『……本当にすいません』
僅か一時間で150個の残骸の山が出来ているだろう、大分馴れてきたとはいえ力加減が難しい
「がんばりましょうね」
『はい』
クレアさんの励ましの声に頷き。何の光も映さない世界を見ながら
(早くフェイカーさんとかクレアさんの顔が見てみたいし、ちゃんと私の声で話したいな)
念話でしか話せないし、顔も見えない。だから早く包帯が取れるといいなと私は思った
書類整理を終えた所でブリーフィングルームに集合と言われ。ブリーフィングルームに向かうと
(スターズにアサルト。それにライトニングにロングアーチまで?)
六課の各部署の人間がいることに驚きながら。椅子に座ると
「全員揃っているな?」
龍也さんがブリーフィングルームに入ってくる。それに続いて部隊長になのはさんとフェイトさんも
(隊長陣が全員集合か……よっぽど重要な話なのね)
「さて。今回皆を呼んだのは他でもない。先日保護した少女の件だ」
ネクロによる集団誘拐の唯一の生存者。確か……リーエ・シュバイツァーだった筈だ
「長い事伏せてきたが、彼女は半ネクロとも呼べる存在になっている。詳細は今から配る書類に記載してある。全員目を通してくれ」
配られた書類に目を通し
(これは……酷いわね)
渡された書類にはネクロ化の弊害として、ネクロに近い再生能力と人間離れした力を与えれ。記憶の大半を消失し、祖父母には何の関係もないと見放された少女のことが詳しく文面にされていた
「そこでなんだが……彼女を六課所属として預かる事にした。一応聞こう、異論のある者は?」
私達を見ながら言う龍也さんに真っ先に反応したのは。チンクさんだった
「異論? あるわけないだろう? 彼女は私達と同じだ。何故拒絶する理由が在る」
ネクロによって。純粋な人じゃなくなったチンクさん達が反対する理由は無い。力強い声でそう返事を返すチンクさんに続いて
「そうですね。私も反対する理由はありませんね。ティアは? 何か言いたいことある?」
スバルのその問いかけは、私は何を言うのか判った上での問い掛けだ。私はスバルの目を見返して
「無いに決まっているでしょ? 何でそんなこと聞くのよ」
大体龍也さんの決定に異論が言える人間なんて六課には居ない。
「1つ質問が。リーエちゃんは何処の所属になるんですか?」
なのはさんのその問いかけに龍也さんは
「暫くはリィンとかと一緒に居させようと思う。その後はリーエが望む場所で魔法や体術の訓練をさせてやろうと思うんだが……まだ歩けないし喋ることも出来ないから大分先になるな」
9歳の女の子には余りに酷い仕打ちだ。もっと遊びたいだろうしやりたいこともあるだろうに……
「じゃあ。お見舞いとかは? 行ったら駄目かな?」
フェイトさんが手を上げて尋ねる。私含め、他のメンバーも同じ事を考えていたので同じ様に龍也さんを見ると
「1週間後に目の包帯を取る。その後ならお見舞いの許可を出そう」
お見舞いの許可を出したところで龍也さんはもう一度私達を見て
「彼女には心を休める時間が必要だ。そして居場所も、リヒトやアザレアの様に家族として迎え入れてやって欲しい。これは命令ではなく、私個人の願いだ」
元は呪われた融合騎にジオガディスのユニゾンデバイスだった。リヒトやアザレアをも家族として受けいれている六課がその程度で拒絶するわけが無い。全員で頷くと
「そうか。では六課に来る事になったら。皆で面倒を見てやってくれ、あと今日の夜の訓練は中止し外出許可を出すから。何かお見舞いの時の物を準備するなり、外でリフレッシュするなり好きするといい。では解散」
龍也さんがブリーフィングルームを出てから。5分後私達もブリーフィングルームを後にし。それぞれ思い思いの場所へと出掛けて行った……
第4話に続く
リハビリとかの表現は中々難しかったです。まだまだ頑張らないといけないですね、次回はリーエさんと龍也さんのエンカウントとかを予定しています
それでは次回の更新もどうか宜しくお願いします