第45話
ヴァールと和人さんの間に割り込んだのは濃い灰色のフルプレートに身を包む藍色のマントをたなびかせた半ネクロだった。しかしあの甲冑は先日回収した、「竜魔将」の鎧と同じだ。陥没していた胸部や失われていたマントに右腕。そして、
「はっ!はっ!」
黒い閃光のように何度も何度も空を走る突撃槍は恐ろしいまでの切れ味で、六課の槍の達人だったぜストさんと同じかそれ以上に思えた。ヴィルヘリヤさんが和人さんに手当てをしているのを横目に、私はあのネクロが何者なのかを考えていた。
「これだ!これが俺の望んでいた死合だ!もっとだ!もっと俺を楽しませろ!」
その槍で身体を貫かれているのにも関わらず喜々とした声で叫ぶヴァール。それに対して竜魔将の鎧に身を包んだネクロは、
「貴様はかつての俺のようだな!」
若干の苛立ちを伴った声で左腕で持っていた大型の盾を振るい直接ヴァールを殴りつける。盾による強打、立派な戦術の一つとして教わったが私では盾を持つとバランスが崩れるし、腕力もそんなに高くない。故に教わりはしたが使えなかった戦法の1つ。
「がっぐうう」
半ネクロ。そして全身にフルプレートを纏っているだけあり、あのネクロの筋力は凄まじくヴァールを吹っ飛ばした、それと同時に地面を蹴り槍を背中にマウントして腰のブレードを抜き放ち突進していく。その戦い方はどこと無くだがアイギナさんやシグナムさんに通じるものがあった。
「そんなにあいつが気になる?」
和人さんの手当てをしながらたずねてくるヴィルヘリヤさんに頷くと、ヴィルヘリヤさんは、
「ヴォルガンド。竜魔将ヴォルガンド知らないの?おかしいわね?あいつは私と同じでダークマスターズに含まれていたんだけど……戦ってない?」
その言葉に頷く。ヴォルガンドと言うネクロのことは知っているが、パンデモニウム事変の時のネクロとの交戦データの中にヴォルガンドの名前は無かったと言うとヴィルヘリヤさんはうーんと唸りながら
「おかしいわねえ。何か事情があったのかしら?」
ネクロと言うのも一枚岩の組織ではない。何かあったのかもしれない
「ヴィルヘリヤ。あのヴォルガンドと言うのはどんなネクロなんだ?」
戦いを見ながらもしもと言うことを想定しているのかそう尋ねてくるペガサスさんに
「ネクロらしくないネクロって所かしらね。最初は殺しとか破壊を楽しんでたみたいだけど、私達が守護者に仕掛けた頃は殺戮本能とかはかなり押さえ込んでいたし、弱者を手に掛けるのを嫌った騎士道精神って奴を持ってたネクロだったわね」
はい。終わりっと言って和人さんの頬をぺちぺちと叩くヴィルヘリヤさん。戦闘では呪いや破壊の能力を駆使するが実は防御や回復の術にも詳しかったりする。とは言えネクロだから効果は通常よりもかなり劣化してしまうが回復魔法が使えるのはありがたい
「仲間になってくれそうなネクロなの?」
「かもね?ヴォルガンドは話せば判ってくれると思うネクロよ。まぁ話は戦いが終わってからね」
そう笑うヴィルヘリヤさんを見ながら
「……援護とかは?」
「やめといた方が良いわね。あいつ石頭だから、下手に協力しようとするとへそを曲げて話を聞いてくれなくなるわよ」
ネクロにも個性がある。だけどヴォルガンドと言うネクロはその中でもかなりの変わり者らしい。激しい戦闘を繰り返しているヴァールとヴォルガンドを見つめてどうしようかと考えていると
「いてて……死ぬかと思ったぜ。おろ?これはどういう状況だ、なんで竜魔将の鎧が動いているんだ?」
絶妙すぎるタイミングで目を覚ました和人さんの問い掛けに私はなんと答えようか真剣に悩むのだった。
力が滾る。今までの自分がなんだったのかと思うほどに身体が軽くそして力と魔力に満ちている。
「はあああッ!!!」
「ぬんっ!!!」
振り下ろされた刀をゴーゴンで弾き。横薙ぎの一撃をヴォルトガングで受け止める
「おおおおッ!!!」
食い込んでくる刀を力ずくで弾き飛ばし、ヴォルトガングを腰の鞘に収めそのままヴァールの顔面に拳を叩き込む。
メキャ
「あぐああ!」
短い悲鳴を上げて飛んで行くヴァールを見据え。ゴーゴンを構えようとして
(?魔力が通らない。そうかネクロのときの能力は十全に使えるわけではないのか)
少し離れたところで見ているネクロ。いや半ネクロと同じになったと言う事かと解釈する。だがこの程度どうという事は無い、破壊者でありながら守護者になりたいと願った代償がこの程度なら安いというものだ。
「この一撃にて冥府へ行け!ヨミジッ!!!!」
「!」
ヴァールの身体から分離した鬼面が4つ。それが複雑な機動を描きながら魔力波を撒き散らす。
「こんなもので」
ゴーゴンを構えヴァールのほうに突進する。何発かは直撃するが、対したダメージは無い。ここまで俺の魔法防御は高かったかと一……瞬疑問に感じたが今はそんなことを考えている場合ではない。
「ぬおおおおッ!!!」
「なっ!ぐあっ」
弾幕を無理やり突破し、肩からヴァールに突っ込みショルダータックルでヴァールの顎をかち上げる。
「うおおッ!!!」
身体が浮き上がったヴァールの腹に、拳を突き立て更に打ち上げると同時に回し蹴りを叩き込み蹴り飛ばす。
「かああっ!!!」
「ぬう。ぐうう!!」
蹴り飛ばされたヴァールはそのままの体制で両腕を突き出す。それと同時に両腕が伸びてきて、左右から挟み撃ちを仕掛けてくる、予想外の攻撃に対応できず左腕は弾いたが右腕は深く肩に突き刺さる。
(この程度なら回復する。間は与えん)
半ネクロといえど回復力は健在だ。だがネクロであるヴァールの回復量と比べると劣る、多少のダメージは覚悟し突っ込む。
「ライゴウエッ!!!!」
全身から放たれた魔力波をゴーゴンを正面で構え強行突破する。
(これはさっきの魔力波とは違う)
さっきのはゴーゴンで簡単に弾くことができたが、今のは一発一発が重く。ゴーゴンがみしみしと軋みをあげているのが判る。だがそれでも立ち止まらない
(ヴァールは強いネクロだ。魔力も戦闘能力も十分だ。将の名を名乗るのに相応しいネクロだ)
だがそれゆえに見逃す事などできない。破壊者でありながら守護者になりたいと思った俺が手にした第二の生。そしてその1番最初の敵がかつての俺のように闘いを望んでいた。それはある意味運命のように思えた
(かつての俺を倒す事が俺が変われる唯一のことだ!)
地面を踏みしめ弾幕の雨を無理やり突っ切る。途中でゴーゴンは砕けて散ったが関係ない、俺が進むべき道は判っている
(過去は変えることが出来ない。ならば俺は)
眩いまでに輝くたくさんの笑顔。俺を受け入れた者達の姿が何度も何度も脳裏に浮かんでは消えていく。そして最後に浮かび上がるのは守護者の背中だった。やつは一体戦い続けた先に何を見たのか?護り続けて何を得たのか?俺はそれを知りたいと思った。ネクロでありながら誰かを守りたいと救いたいと願った。だから俺は
「俺は誰かを救える破壊者になる!!!!」
もう盾としての機能は殆ど残っていないゴーゴンを投げ捨てヴォルトガングを右手に持ち、バルムンクを左手に持ち雨霰のように降り注ぐ魔力弾を弾き前に進み続ける
「誰かを救える破壊者だと?竜魔将と名を持った貴様が!ネクロとしての誇りを捨てたか!」
魔力弾を放つのをやめ両手にブレードを持って突進してくるヴァールに
「ネクロとしての誇りなど必要ない!俺がなすべきことは判っている!」
ネクロでありながらそうじゃない生き方をしたいと思った。誰かを守れる存在になりたいと思った
「「おおおおおおッ!!!!」」
俺とヴァールの怒声が重なる。互いに両手に自身の得物を持ち、目の前の敵を排除しようとする
俺は誰かを護る為。破壊者でありながら守護者になりたいと思ったその思いを胸に抱きそれを成し遂げようとして
ヴァールは全てを壊すため。破壊者として、殺戮者としての使命を果たす為
「「おおおおおッ!!!」」
何度も何度も金属音が響き渡る
「おおおおッ!!!」
「馬鹿な!?俺の刀がぐがああああッ!!!」
バルムンクでヴァールの右手の刀を叩き折り。返す刀でヴァールの右肩を切り落とす
「馬鹿な!?何故ここまで差がある!?」
動揺するヴァールの腹にバルムンクを突き刺し魔力波を叩き込む。その一撃でバルムンクは中ほどから折れてしまったが構わない跡でまた再生するからだ
「ごがあっ!?ぎ……回復がまにあわ……」
左腕で風穴の空いた箇所を押えるヴァール。だがその目はまだ死んでおらず鬼面を分離させて攻撃を仕掛けようとしてくる。
「遅い!!!」
ヴォルトガングを逆手に持ち分離した鬼面を両断しそのまま間合いを詰め
「おおおおおッ!!!!」
「く、舐めるなアアアアア!!!!」
ヴァールがどす黒い体液で濡れた左腕で刀を持ち突き出してくる。回避しようと思えば回避できる、だがそうすれば回復させる時間を与えるかもしれない。そう判断した俺は減速せずあえて加速しヴァールの懐に飛び込んだ
ザンッ!!!!
「……ぐう」
ヴァールの一撃は俺の右肩を貫く。その代わり俺の一撃は
「がはぁ」
ヴァールの露出したコアを完全に刺し貫いていた。ヴァールはゆっくりと倒れこみ
「……俺の負けか。だが……構わん。最後に……満足行く戦いが……出来た」
そう呟きその身を粒子にへと変えて散っていくヴァールを見て
(最後までネクロの運命に抗おうとはしなかったか)
ネクロ特有の破壊衝動と殺戮本能はその気になれば押さえ込むことが出来る。ルキルメスが良い例だ、あいつは俺と同じ騎士として闘士としての誇りを最後まで貫いた
(貴様もまた別の道があったのやもしれんな)
破壊者としてではなくまた別の道が合ったのかもしれない。今となってはもう遅いがな、そんなことを考えながら甲冑を解除する
「人間の手か」
俺がネクロだったときはこの腕は竜のような腕だったはずだ。竜魔将の名が示すとおり俺は龍のネクロだったからな
「お疲れ。ヴォルガンド」
「ヴィル……ヘリヤなのか?」
声こそ同じだが俺の知るヴィルヘリヤと比べると一回り小さい
「そうよお?お久しぶりね?」
くすくす笑うヴィルヘリヤの後ろには瞳孔が縦に割れた。半ネクロが数人見える
「半ネクロか」
「そうよお?私も貴方もね?」
ぱちーんとウィンクしたヴィルヘリヤに差し出された鏡には、ヴィルヘリヤ同様瞳孔が縦に割れた俺の顔が映っていた
「私はいまあの子について旅をしているの。気にならない?ネクロの秘密とか?」
ネクロの秘密……確かに気になるが
「あの子はリーエ。守護者に育てられた半ネクロ。彼女は守護者の元に帰ろうとして旅をしてるのよ」
守護者の名に一瞬眉を動かす。守護者との対峙は今の俺には必要なものだ、
「興味出たでしょ?それにLV5っていうものすごーく強い「良い。それ以上は無用だ」あらあ?話が早くて助かるわぁ」
俺をたきつけようとして守護者の名前を出し、LV5の存在を口にした。ヴィルヘリヤが何をしたいかとなんて判っている
「俺も一緒に来いと言うのだろう?」
「ほーんと話が早くて助かるわ。同じLV4同士仲良くやりましょ?まずはリーエに紹介するからさ」
そう笑うヴィルヘリヤの後をついて歩く。どうやら俺の進む道は俺が目覚めた瞬間に決まっていたのかもしれないな
ヴィリヘリヤさんの後をついて歩いていくヴォルガンドさんは、燃える様な赤髪をした長身の青年だった。私を見下ろし
「ヴォルガンドだ。ヴィルヘリヤに大体の事情を聞いている。力になれるかどうかは判らんが、お前が守護者の元に帰れる様に努力しよう」
口の端を軽く上げて笑いながら、手を差し出してくるヴォルガンドさんの手を握り返しながら
「……リーエです。よろしくお願いします」
自己紹介は大事なのでちゃんと目を見て言うとヴォルガンドさんはペガサスさんとアシラさん、そしてアルハリムさんを見て
「ヴォルガンドだ。よろしく頼む」
「ペガサス。ペガサス・ナイトアークだ。ペガサスで良い」
「私はアシラ。アシラ・ローウェル。アシラって呼んでくれればいいわ」
「アルハリム・アズタミア。アルハリムで良い」
アルハリムさんの名前を聞いたヴォルガンドさんは少し眉を顰めて
「アズタミア?帝都アズタミアの関係者か?」
「おや。LV4は随分とアズタミアに詳しいんだね?」
肩を竦めるアルハリムさんにヴィルヘリヤさんが
「まぁねえ?LV4はそれなりに長く生きてるしね」
そう笑うヴィルヘリヤの後ろで頭を抱えている和人さんはヴォルガンドさんを見て
「ロストロギアだったんだが。それはどうしろと?」
「知らん。それに元々あれは俺の持ち物だ。俺がどうしようと俺の自由だ」
自分の鎧のことを言われていると気づいたヴォルガンドさんがそう言うと、和人さんは深く溜息を吐きながら
「またレジアスのおっちゃんから大目玉くらうな……これで取りあえずは一件落着だよな。ロストロギアの事は後で考えるとして六課に帰ろう」
その言葉に頷き。私達は六課へと戻って言ったのだった……
第46話に続く
次回でコラボ回は終了です。またネクロ回や謎解きの話をやろうと思っています。新規仲間のヴォルガンドはデジモンの「カオスデユークモン」がモデルですのでよろしくお願いします。それでは次回の更新もよろしくお願いします