第51話
ラビリルの上に乗って来た場所を見て私は目を見開いた。遺跡と街が入り混じった不思議な光景……これを見て驚くのは当然だが、それ以上に私はとても懐かしい気持ちになった
(私はここを知っているの?)
見たことがない筈なのにとても懐かしい気持ちになる。そんな事を考えながらラビリルから降りると
「にゃふ」
すぐに子猫の姿になってぽふっと軽い音を立てて伏せるラビリル
「つかれた?」
イシュリがしゃがみ込んでそう尋ねる。ラビリルは尻尾を立てようとしたが力尽きたようで
「にゃーふ……」
初めてイシュリの声を聞いたが鈴のようなそんな声だった。集中してないと聞き取れないかもしれない、イシュリは伏せているラビリルを抱えて私を見て街の方を見る。それからとことこと歩き出す
(人見知りが激しいって言ってたけど私には声を掛けてくれないのか)
なんとなーく寂しいなあと思いつつイシュリの後を追って歩き出す。今まではさくさくと砂を踏むような感触だったが、滅んでいるとは言えここは街並みコンクリートを踏みしめる感触が……
(コンクリートってなんで判ったのかしら?)
ネクロの里にはコンクリートなんかなかった。木で出来た素朴な家それがネクロの里の街並み、なのに私はすぐに地面がコンクリートだと判った。知らないのに知っている私は思わず顔を見上げて
(私はこの街の生まれなの?)
感じる懐かしさと知らないのに知っている知識。もしかするとここが私がネクロ化する前に暮らしていた世界?
(私に帰る場所はなかったの?)
いつかは私が記憶を取り戻して、元いた世界に変えることが出来るかもしれないと思っていた……だけど私に帰る場所なんかないそう思うとどうしようもなく哀しくなった。思わず俯くと
「行こう?リッカ」
イシュリが片手でラビリルを抱え小さな手で私の手を握り締めてくる。私の不安な気持ちを感じ取って心配してくれているようだ
「ええ、行きましょう……イシュリ。足元に気をつけてね」
「こくん」
街並みは荒れ果てていてあちこちにガラスの破片が見える。私はイシュリにそう声を掛けてからその小さな手を握り返しリーエ達を探して歩き出したのだった
「にゃあ!」
「危ないのね。ありがとう」
「うにゃーお♪」
疲れているとは言えラビリルは主人のアルハリムに私達を頼むと言われた責務を果たすつもりなのか、家が崩れかけている所や遺跡が壊れかけている所で1鳴きして警戒しろと教えてくれるし、尻尾を立てて通路を指差す
「こっちに姉上?」
「にゃお!」
道案内までしてくれた。本当に賢い猫……いや虎かな?私はそんな事を考えながらゆっくりと辺りを警戒しながら歩き出したのだった
「……どうですか?ヴィルヘリヤさん、アルハリムさん。何か半ネクロと黒龍皇に冠する記述はありましたか?」
アシラさんとペガサスさんそしてヴォルガンドさんは街の方の捜索に向かい。私とヴィルヘリヤさんとアルハリムさんは私と一緒に遺跡の捜索をしていた
「うーん。難しいわねえ……文法が厄介すぎるわぁ」
「もう少し待っていてくれ。今読み進めている」
私とヴィルヘリヤさんは禄に遺跡の碑文を読み事が出来なかった。私たちの知る古代語よりも更に古い時代のようで私とヴィルヘリヤさんでは読むことが出来なかったのだ
「ふむ。どうやらここに書かれているのは魔道賢者の伝承のようだ」
魔導賢者……どうも過去のベルカは当人の名前よりも称号の方が重要視されたのかもしれない。私はそんな事を考えながら
「……魔導賢者とは?」
「ベルカ創世記の王の1人だ。騒乱の時代の生き証人にして不老・不死の魔導師だ」
不老・不死……そんな人が、いやでも……もしそんな人がいるなら
「どうして私達が暴れてるときに出てこなかったのよぉ?創世記の王ならネクロの脅威は十分に知っているはずでしょう?」
私の疑問をヴィルヘリヤさんが尋ねてくれる。アルハリムさんは少し待ってくれと言って遺跡を読み進め
「何かをして聖王・剣王・覇王に追われて時空の狭間に封印されたとされているね。それ以上は書いてないね、そもそも私の生前にこの碑文は見たことが無い。もしかするとアズタミアではあるけど、私の知る時代とは違う時代のアズタミアのかもしれないね」
王族であるアルハリムさんが知らない伝承……アルハリムさんが生まれる前に壊されたのか、それとも死後に記されたのか?考えることは意外と多そうだ
「それ以外は真新しい発見はない見たいね。ここもやっぱり碑文が無いし、ネクロに破壊されたのかしらね」
遺跡はあちこち鋭利な刃物で切り取られたような後がある。ネクロの攻撃でこうなったのだろうか?とヴィルヘリヤさんと話していると
「違うよ。これは世界から切り離された証拠だよ。断面を見てごらん、鏡みたいに綺麗だろう?これは刀剣の類じゃ出来ないよ。これだけの範囲を切り裂こうと思えば、幾らネクロの剣でも刃こぼれする。その形跡が一切ないって事は別の要因としか考えられないだろう?」
そう言われて遺跡の断面を見ると確かに鏡のように綺麗だ。これは刀剣でやるのは不可能しか思えない
「なるほどねえ~となると何処かに遺跡の残りがあるってことよね?」
「多分。この世界に落ちてきた時にバラバラになったんだと思う。あくまで可能性の話だけどね」
初めてアルハリムさんと会った時のようにもしかするとここから転移するとその残り半分がある世界に行くかもしれない。だけど
(リッカさんを無事にネクロの里に連れて行きたいですし、遺跡捜索はあきらめたほうがいいかもしれませんね)
戦えないネクロのリッカさんを連れて転移するのは余りに危険だ。もしかすると上位ネクロが待ち伏せしてる可能性もある、この世界の捜索を終えバアル・ゼブルを倒したら1度ネクロの里に戻った方がいいのかもしれない
「……とりあえず。ペガサスさん達と合流しましょう。遺跡にあんまり情報がなかったのは残念ですけど、こればかりは仕方ありません」
遺跡に必ずしも情報があるわけではない、そう言うものだと割り切ったほうがいいだろう。肩の上で丸くなっているスザクに
「……ペガサスさん達を探してきてください。多分ラビリルがいるのでイシュリさん達もいる筈です、見つけたら合図をお願いしますね」
「クアー!」
一鳴きして飛び立つスザクを見送り。辺りの遺跡の壁を見つめながら
「……行きましょう。ここも何時までも安全とは言えませんから」
世界の崩壊はゆっくりだが確実に進行している。ここも何時までも安全とはいえない、この世界が完全に滅ぶ前にバアル・ゼブルを倒してこの世界を去る。それがもっとも得策な筈だ
「そうね。幾ら半ネクロでも世界の消失に巻き込まれたら無事じゃあいられないしね。早く移動しましょう」
「そのほうが安全だろうね。早くアシラ達に合流しよう」
2人も同意権のようで遺跡を調べるのを止めて移動しようと言ってくれた。遺跡の外に出てみると
(大分近づいてきますね)
山を飲み込んで少しずつ近づいてくる闇。進行は遅いが確実にこっちに近づいてきている、多分あまり時間的な余裕はないだろう。私はそんな事を考えながらアシラさん達と合流するべく移動し始めたのだった
「案の定食い物はないな」
スーパーやデパートを一通り探した後ペガサスがそう呟く。もしかしたらと思って見に来たんだけどどれも全滅していた
「ま。そうよね。普通の街だしね」
クラナガンとかの文明が発達した世界ではなく普通の街だ。どちらかと言うと海鳴とかに近い分明らしく、保存食の類は見つからない。
「流石にねえ。風化してるし、なんかヤバイ色しているし止めておいたほうがいいわね。でも服とかは平気そうね」
服を扱っているフロアは完全に無事だった。どうやら虫やそう言うのも死んでいるらしく虫食いの跡とかがない。完全な新品のまま
だ
「ヴォルガンド。あんた服選んでおけば?」
「む?おかしいか?」
ヴォルガンドの格好は何処かの民族衣装のようなものだった。なんでも自分が死んだ世界の村で着ていた物を和人の所で作ったらしいのだが
「浮いてる」
「変人だと思われるぞ」
マントとかついてるし鎖とかで止めているから普通の文明に出たらヤバイと思いながら言うと、ヴォルガンドはそうかと呟き
「ペガサスとかが来ているのを選べばいいんだな?」
ジーンズとシャツ姿のペガサスを見てそう尋ねてくるヴォルガンドに頷くと、捜してくると言葉を残して消えていった
「どうする?ペガサス」
「リーエ達も遺跡の捜索をしているようだしな。邪魔をするのは良くないな、イシュリ達と合流するか?」
さっき窓の外からリッカと手を繋いで歩いているのが見えた。今の所は近くにネクロの気配はないから大丈夫だが、何時襲ってくるかもしれない。合流しておいたほうが良さそうだ
「ヴォルガンド!あたしとペガサス外にいるからねー!」
「どうやらリーエ達も遺跡の捜索を切り上げたようだな」
ペガサスの呟きを聞いて窓の外を見るとスザクが旋回しているのが見える。目ぼしい情報はなかったのかもしれない、あたしはそんな事を考えながらデパートを出ると
「にゃー」
「姉上」
ラビリルを抱えて近寄ってくるイシュリを抱きとめて、一緒にいてくれたリッカに
「ありがとう。イシュリを見ててくれて」
「別に構わないわ。私も1人で行動するのは心細かったしね」
そう笑うリッカは街並みを見つめてぶつぶつと呟いている。何かを思い出しかけているのかと思っていると
「これならおかしくないだろう」
ヴォルガンドがデパートから出てくる。ジーンズに黒のシャツ。まぁ妥協点よね、これなら普通の世界に出てもおかしくないだろう。ヴォルガンドハ考え事をしているリッカを見て
「何かを思い出しかけているのか?」
「よく判らないの、思い出しそうで思い出せない。もどかしいものね」
そう苦笑するリッカ。もしかするとこの世界がリッカの生まれた世界なのかもしれない
「なら気になるほうへ歩け。俺達も着いて行ってやる、何かを思い出せるかもしれないなら立ち止まっている暇はあるまい?」
ペガサスがリッカを見てそう言う。リッカは一瞬驚いた顔をしてから
「いいの?私の勝手だよ?」
不安そうに尋ねてくるリッカにあたしは
「良いわよ。この世界は消えかけてる。消えてしまえば貴女の手掛かりは無くなってしまうわ。完全にこの世界が消えてしまう前に行って見ましょう?」
「ありがとう!多分こっち」
あたしの言葉に頷き歩き出すリッカの背中を見ているペガサスに
(随分と丸くなったのね?)
(うるさい)
以前からは考えれらないほど丸くなっているペガサスはふんっと鼻を鳴らすと歩き出してしまった。どうも照れているらしい
「じゃあ行きましょうか。イシュリ」
「ん」
あたしの手を握り返してくるイシュリ。頭の上にはラビリルが乗っている、知らないうちに随分と仲良くなったのね。あたしはそんな事を考えながらリッカの後をついて歩き出した
アシラが調べても良いと言うので私は脳裏に思い浮かぶ道を歩き出した。
(私はこの道を知っている)
ここも風化が激しいので周りを見ても良く判らないが、間違いなくこの道を私は知っている。もし風景がもっと普通だったらもっと思い出せるのにと歯がゆい思いをしながら歩く。
(ここは……)
暫く歩くと私はある場所の前で立ち止まった。目の前の家も周りの家と同様に半壊しているが周りの家とは敷地の広さも雰囲気も少しだけ違う……思わず半壊した家を見ていると
「ここ?」
アシラがそう尋ねてくる。自分でも良く判らないがここには何かある。そんな気がした私は
「何かここにある。ちょっと見てくるわ」
一緒に来てくれたアシラ達にそう声を掛けて敷地に入る。草木は枯れはてた冷たい世界なのにどうしても懐かしく思えて仕方ない。そして、庭にある一本の桜の木。その桜に私は惹きつけられる、そんな気さえした。そんな奇妙な感覚を感じながら半壊した家の中に足を踏み入れる。
「イシュリ何か見つけたの?これって……ねえ!リッカこれ貴女の写真じゃない?」
アシラの言葉に引き返し彼女が持っていた写真を受け取る
「ちょっと見せて!ッ!?……確かに私です」
目と髪の色は違うが間違いなくそれは私の写真だった、だが気になるのは私の隣にいる誰かの姿。顔の所だけが焼け焦げて存在しておらず判らない……
(私は知ってる。この人を知っている)
わかる。私はこの人のことを知っている。いつも笑顔で、私に微笑みかけてくれる彼を。それなのに、どうしても思い出したいのに思い出せない。まるで、私じゃない誰かがこの人を思い出そうとするのを拒むように。あなたは誰なの?写真を抱えて思わずしゃがみ込む、とても大切な事だったのにそれを思い出せない自分が嫌で嫌で仕方なくて
「やっぱりリッカはこの世界の住人だったのね」
「そう見たいです、だから私はここが懐かしいと思ったのね」
廃墟からそう呟く。私が帰れるかもしれない場所はもうないんだ……その事が悲しくて辛かった……
「そう落ち込むなリッカ。ここにいるのは大体がもう帰る場所が存在してない者たちだ」
励ましてくれているつもりなのかな?なんと言えば良いか判らないが心配してもらっているということが嬉しくて
「ありがとう。それじゃあリーエ達と合流「ググアアアアアアッ!!!!!」
私の声を遮って化け物の声がする。驚いて振り返り私は思わず絶句した
「な。なによ……あれ」
色んな化け物の身体を繋ぎ合わされた巨大な異形が4体。地響きを鳴らしながらこちらに近づいてきていた、その先頭にはバイクに跨ったバアル・ゼブルの姿があった
「どうも世界が消滅する前に仕掛けてきたようだな。ラビリル!」
「グルルルル!」
既にネクロの姿になっているラビリルは私とイシュリの前に伏せる
「乗って離れなさい。貴女は戦えないのだから」
「リーエ達もすぐに来るだろう。下がっていろ」
騎士甲冑とBJを展開して行けと言うアシラ達に逃げて良いのか悩んでいると
「さっさと逃げろ。庇いながら戦えるほどあいつらは弱くない。俺達を心配する余裕があるならさっさとこの場から離れろ」
ぶっきらぼうとも言える。ペガサスの言葉に私はラビリルの背中にいるイシュリを自分の胸の中に抱え込むようにして
「全力で走ってラビリル。私とイシュリは大丈夫だから」
「グルオオオオオオオッ!!!!」
咆哮と共に信じられいスピードで走り出すラビリル。私は吹っ飛ばされないようにしっかり自分とイシュリを抱える。ラビリルはリーエ達がいるであろう方向に向かって走り出したのだった……
第52話に続く
次回は戦闘回で進めて行こうと思います。出てきた異形は夜天でも登場した「キメイラ」です。外見イメージはキメラモンをイメージしてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします