第55話
リッカさんと別れて転移してきた世界は、リッカさんの世界と同じく荒廃しきった世界だった、だけど決定的に違う点が1つ
「……警戒を」
フードを押さえて振り返りながら言うと
「言われなくとも」
既に臨戦態勢に入っているペガサスさん達。こういうところは流石としか言いようが無い、この世界に来るなり感じた叩きつける様な殺気。イシュリさんとスザク、ラビリルは
「ウルルルルルッ!!!」
毛を逆立て警戒している。イシュリさんはその殺気に気圧されたのか
「……ううう」
頭を抱えてしゃがみ込んでいる。スザクはそんなイシュリさんの頬を羽で撫でて、大丈夫と言いたげに励ましていた。その殺気と強烈な気配はネクロじゃない……この気配は
「半ネクロだね。前に言ってたアークって言うネクロかい?」
私を追っているネクロとしてアークの事は、皆に説明してある。だからそのアークか?と尋ねてくるアルハリムさんに
「……違います。この気配はアークじゃないです」
アークの気配はもっと静かで強烈だ。しかしこの殺気は獣のような獰猛さを感じる、アークの気配とは似ても似つかない
「ヴィルヘリヤは?この気配に覚えは?」
アシラさんの問い掛けにヴィルヘリヤさんは首を振って
「悪いけど、私もヴォルガンドも半ネクロにはあんまり詳しくないわ。半ネクロはヴェノムノ管轄だったからね」
「……ヴェノムさんですか。聞いておけばよかったですね」
私がそう呟くとヴォルガンドさんが
「何故ヴェノムを知っている?」
「……なんかスカリエッテイさんと融合したとかで、普通に六課にいますよ」
「自由ね。今度あったら叩きのめすわ。自分だけ平和とか許せない」
ヴェノムさんの話をしているしている内にその殺気は消えた。警戒を解きながら
「……どうしますか?この世界から転移しますか?」
あの殺気と魔力。半ネクロだがペガサスさんやヴィルヘリヤさんに匹敵するかも知れない、そう提案すると
「いや、それは余りに惜しい。この世界は私の世界だ、遺跡がある」
アルハリムさんの世界。となるとネクロの情報がある……
「団体行動だ。俺とヴォルガンドが前衛。リーエ・アシラが中軸、イシュリを囲うようにな。後衛はヴィルヘリヤとアルハリムだ」
騎士甲冑を展開しながら指示を出すペガサスさん。意見など無い完璧な配置だった、大型の盾を装備しているヴォルガンドさんと2刀流で手数の多いペガサスさん。そして私とアシラさんはインからロングレンジまで対応できる、状況に応じてシフトを変えればいい。後衛は遠距離攻撃が得意なヴィルヘリヤさんと、不思議な能力を持つ武器を多数持つアルハリムさん。これなら奇襲にも対応できる
「ラビリルとスザクはイシュリをガードだ。偵察よりもイシュリを守れ」
「キュ!」
「ニャーッ!」
スザクとラビリルはその言葉に頷き。ラビリルはイシュリさんの腕の中へ、スザクはイシュリさんの肩に止まった。これでイシュリさんは大丈夫ですね
「行くぞ。周囲の警戒を怠るなよ」
ペガサスさんの言葉に頷き。私達はゆっくりと遺跡の方へと歩みを進めたのだった……
「来たか」
俺は遺跡の1部に陣取り、リーエ達を待っていた。遺跡の文は俺には読めないが、何の指示も出されて無いことを考えると大した内容ではないのだろう
「アークは近くに来ているか」
アークの気配は俺には判る。リーエ達が気づいているかどうかは判らないが、戦闘中には合流するだろう
「問題はそこまで粘れるかだな」
元ダークマスターズが2人に、半ネクロが3体しかも戦闘力はかなり高い。俺1人で戦うのは流石に肩の荷が重い……普通に戦うのならだがな
(条件は整っている)
監視のネクロは居ない、そしてここは遺跡の奥のほうだ。俺の能力を見られたとしてもリーエ達だけなら問題ない筈だ
「アークの言っていた事も見極めないといけないしな」
アークの言っていた事も気になるが、それ以上に気になっていることがある
(なぜリーエをそこまで特別視するかだ)
LV5ネクロが何故そこまでリーエヲ警戒するのか?それが理解できない。普通に戦えば楽に倒すことは出来るだろうし、洗脳することも出来るだろう。それなのに俺やアークに追うように指示を出したり、戦えといったり……何か裏があるような気がしてならない
(とは言え、その事を探っているような素振りを見せるのは危険だがな)
半ネクロはネクロでも人間でもない半端者。こうして言う事を聞いている間は身の安全は確保できるが、何時切られるか判らない……ならば下手に探っている素振りは見せるのは危険だ。俺ではLV5に一矢報いる所か何も出来ずに殺されるのがオチだからだ
(さて……どれくらいの力を持っているのか、楽しみにしているぞ。リーエ)
俺は心の中でそう呟き、目を閉じた……ゆっくりと警戒しながら近づいてくる気配がする。本気の殺気を放ったから警戒しているようだな。だが大分離れているのにそれを感じ取った。索敵が得意なネクロが居るのかもしれないな……
転移してきた場所から少し進むと直ぐに遺跡が姿を見せた。アルハリムさんはここは私の土地だからと言って先頭を歩いている
「やっぱりだね。アズタミアだ」
アルハリムさんに先導されながら、遺跡の奥へ奥へと進んでいく……
「アルハリムの言葉の意味が判らないのだが?」
振り返り尋ねてくるヴォルガンドさん。そっかヴォルガンドさんは仲間になったばかりだから、知らないんだ。私が説明しようとしているとヴィルヘリヤさんが
「アルハリムはアズタミアの最後の皇族の魂を宿した半ネクロだからね。殆ど本人よ」
「そう言うことか。だからここまですんなり進めるのか」
道自体はかなり入り組んでいるけど、それなのに迷わず真っ直ぐ進めているのはアルハリムさんのおかげだろう
「……姉上」
ぎゅっとアシラさんの服の袖を掴んだイシュリさん
「みゃう?」
「キュー?」
左腕に抱えているラビリルと、肩の上のスザクが不思議そうにイシュリさんを見る。私もどうかしたのかな?と思ってみていると
「ん。おいで」
しゃがみ込んで両手を広げたアシラさんの抱きつくイシュリさん。アシラさんはよいしょっと呟きながら立ち上がり
「甘えたい気分みたいなのよ」
ラビリルとスザクは肩の上に器用にバランスを取って乗っている。イシュリさんはがっしりと抱きついている、その姿はリィンさんやアギトさんに似ていて、とても穏やかな気持ちになった。こういう殺伐とした世界に居ても、こういう穏やかな時は大事にしたい……ペガサスさんとヴォルガンドさんは辺りを警戒しながら進んでいるが、ネクロは愚かデクスの気配も無い。最初の半ネクロの気配は何だったんだろうか?そんな事を考えながら、アルハリムさんの後を追って歩いていると
「ここだね。着いたよ」
先を歩いていたアルハリムさんが立ち止まり、そう声を掛けてくる
「……これはまた凄いですね」
今度の遺跡は碑文だらけだった。アルハリムさんとであった遺跡は本棚になっていたのに、どうしてだろうと思っていると
「ここは歴史を記しているんだよ、だから碑文になっているんだ。黒龍皇の記録があるかどうかは判らないけど見てみよう。なにか良い情報があるかもしれない」
言うが早く、碑文の下に向かうアルハリムさん。私は少し考えてから
「……ヴォルガンドさんは古代文字は読めますか?」
ヴィルヘリヤさんが判るから、もしかしてと思いながら尋ねると
「期待してもらって悪いが、俺は古代文字は読めん。俺は騎士だ、学者のように過去を知りたいと思ったことは無い」
となると、古代文字を読めるのは私とヴィルヘリヤさんとアルハリムさんだけか
「俺とヴォルガンドが護る、解読は任せる。アシラはリーエ達の近くで警戒してくれ、イシュリは」
アシラさんの腕の中のイシュリさんを見て、考える素振りを見せたペガサスさんだが
「うにゃーお!」
自分に任せろと言いたげに鳴声を上げるラビリル
「任せた。出来るだけ早めに解読を頼む。何時来るか判らないからな」
そう言って、私達が入ってきた出入り口に立つペガサスさんとヴォルガンドさん。
「んーなるほどねえ……そっちは?」
「今のところは情報はないよ」
アルハリムさんとヴィルヘリヤさんはもう解読を始めている。私も2人の方に向かいながら
(この奥も気になりますし、それにネクロのこともあります。急いだほうが良いですね)
碑文は奥のほうに続いているし、それにこの世界に来た時に私達に殺気を飛ばしてきたネクロの事もある。出来るだけ早く解読を終えよう。私はそんな事を考えながら、碑文に目を通し始めたのだった……
何処か判らない闇に紛れた宮殿の中。私は自分の宮に向かって移動していると
「ランドグリーズ。最近何をしている」
「これはこれはヘルヴォル。お久しぶりですね」
黒髪に鋭い目付きをしているヘルヴォルに深く頭を下げる。ヘルヴォルは盟主付きだ、その面では私よりも上位と言える。礼節を尽くすのは当然なのだが、ヘルヴォルは暫く私を不信そうに見つめてから
「まぁ良い。それでお前は何故、リーエと言う半ネクロを仕留めようとしない?」
ふむ、そう来ましたか。いずれは聞かれると思っていましたが、予想より早かったですね
「それはちゃんと理由があります。リンカーネイションを使う半ネクロ、ただ殺すには余りに惜しいではないですか」
蘇生魔法リンカーネイション。今の時代に伝わってない希少な魔法。そして……
「歪められる前のネクロマンシー。これを分析すればネクロ化の効率が上がり、そうなれば盟主の為になる。敵対する可能性が高いからと言ってすぐ殺すのは余りに惜しいじゃないですか」
「だがそれで敵が増えているこの状態をどうするつもりだ」
LV4が2体半ネクロとして転生し、リーエの仲間になっている。だがそれがどうしたというのだ
「ただのLV4。恐れるに足りませんよ」
LV4になった。それだけだ、それに半ネクロになって戦闘力が低下している事も考えても、脅威とは思えないと言うと
「お前がそう言うならそれで構わない。追走はお前に任せているからな」
これで終わりですか、話が早くて助かりますね。そんな事を考えながら宮に向かおうとすると
「話はまだ終わってない。ネクロを襲って回っている半ネクロはどうなっている?盟主が気にしているぞ」
そちらですか。私は立ち止まり溜息を吐きながら
「大変申し訳ないのですが遭遇率が極めて低く、情報としてお教えすることが出来ないのです」
私自身遭遇したのは自身が出向いて、リーエと戦ったあの時だけだ。しかも向こうも私や上位レベルを警戒しているようで足取りが掴めないと言うと
「何か隠し事は?」
疑わしいという感じで尋ねて来るヘルヴォル。私自身も表と裏を使い分け、人間世界に溶け込んでいる。疑われる可能性は十分にあるが
「何もやましい事はしていませんよ。全ては盟主の為にです」
暫くヘルヴォルとにらみ合い続けたが……
「いいだろう。その言葉信じるぞ」
そう呟き背を向けて謁見の間のほうに歩いていくヘルヴォル。私はその背中を見ながら
(そろそろ成果を上げないと不味いですね)
盟主は強者に寛大だ、だから今まで結果を報告しろと言うことは殆どなかった。しかしこうしてヘルヴォルが声を掛けたきた所を見る限り、そろそろ形とした成果を出せという事なのかもしれない
(様子見に行きますかね)
ネクロの素体で落とせそうな人間が居るが、別に焦る事は無い。寿命と死について恐れネクロを独自に研究している男だ。そしてネクロを完全な存在と言うような奴だから、ネクロ化はすんなり行くだろう。問題は
(どこまで進化するかですね)
自らネクロになりたいと言う稀有な素体。どこまで進化するのかが実に楽しみだ、しかし今はリーエについている半ネクロの事を調べて報告したほうがいいだろう。たかがLV4と言いはしたが、その能力はピンからキリだ。もしかすると脅威となる能力を持つネクロが居るかもしれない。私はそんな事を考えながら、シンを待機させた世界へと転移したのだった……
フロアの碑文をすべて見たのだが、黒龍皇に関しての情報はなかった。変わりに興味深い文があったが
「ヴェルガディオスねぇ?黒龍皇と戦わせるために作ったのに、片っ端から逆に支配ってどういうことよ」
パンデモニウム事変の時に、負の神を名乗り龍也様と戦い、そしてジオガディスを洗脳していた。ヴェルガディオスが実は黒龍皇に対する抑止力として作られた魔導生物と言うことが判ったのだ
「……私も詳しくは聞いてませんが戦闘力は高かったみたいですよ」
龍也様にはやてさん達の魔力を全て上乗せして漸く互角。しかも自身の能力は分解、触れたものを何でもかんでも分解する魔力球を作り出す能力を持っていたらしい……詳しい情報は六課にもなかったので、大半は予測だ
「戦闘力に対して知性が伴って無かったって言う事でしょう?」
「なんともお粗末な話だ。敵と戦わせる筈が、逆に利用され自分たちを滅ぼそうとしてきたなんてな」
話を聞いていたアシラさんとペガサスさんがそう言うけど、私は違いますと言ってから
「……ヴェルガデイオスはかなり理知的で戦略に長けていたそうです。知性が無いというわけではないはずです」
「となると考えられるのは、黒龍皇の力がヴェルガディオスを上回っていたってことよね?」
真面目な話をしているんだけど、腰にしがみついて眠っているイシュリさんのせいで何かしまらなくなっている。アシラさんの言葉にアルハリムさんが
「だろうね、とは言え詳しい情報が無いから推測するしかないんだけどね」
情報が少ないので推測するしかない、いかに自分の国とは言え碑文の内容までは覚えてないということだろう
「リーエ!アルハリムー!こっちにも碑文あるわよ~!」
姿の見えなかったヴィルヘリヤさんの声が1番大きい石碑の裏から聞こえてくる。そっちの方に向かうと
「……これは随分と念入りに隠されてますね」
天然の吹き抜けのフロアの真ん中に安置された石碑。サイズは小さいけど、隠されていることを考えると相当重要な分が記されているのでは?そう考えてフロアに足を踏み入れた瞬間
「リーエ!飛べッ!!!」
ペガサスさんの怒声に驚き飛びのくと同時に爆炎を伴った一撃がフロアを大きく揺らす
「ちっ!避けやがったか」
「大技で行った貴方のミスですよ。シン」
聞こえてきた粗暴な声と静かな声。この声には聴き覚えがあった
「アークッ!!!」
一瞬で甲冑を展開しブレードを構える。アークはやれやれといいたげに肩を竦め
「女性なのですからもう少しおしとやかに出来ないのですか?ねえッ!!!
「くっ!」
影から飛び出し、奇襲をしようとしたアルハリムさんが腕を捕まれ、投げ飛ばされてくる。
「話には聞いていたけど、勘も鋭いね」
着地しながら、アークの評価をするアルハリムさん。アークと出会ったら逃げることを第一に考えるのは、この勘の良さと柔軟な戦闘スタイルを持つアークと戦うのは不利だからだ。
(しかしもう1人も危険ですね)
左手に炎。右手に紫電を纏わせ拳を構えているシンと呼ばれた半ネクロ。ただでさせ厄介な相手がいるのに、コンビを組んでいると考えると逃げる隙は殆ど無いと言っていいだろう。少し考えてから私はアシラさんに
(アシラはイシュリを連れて、後退しろ)
怪訝そうな顔をするアシラさん。確かにアシラさんは強い、だけど
(イシュリを護るのに人数を割けない。それにアークは私を狙うからイシュリの傍は危険だ)
「念話とは余裕ですね!」
カソックの裾に仕込まれた刃が音を立てて迫ってくる、それを側転で回避する。やはりアークの狙いは私のようだ、シンは
「ぶっ殺す。覚悟しな」
「弱い者ほど吼える。死ぬのは貴様だ」
「はいはい、突っ込まない。ヴォルガンド」
ヴォルガンドさんとヴィルヘリヤさんが当たっている。能力が判らないからフォローの出来るヴォルヘリヤさんと組むのは定石だ。私は二刀を構えて油断無くアークを見ているペガサスさんと、メビウスを構えているアルハリムさんを見て
(アークはミドルレンジが得意だけど、それ以上にクロスレンジは得意だ)
この場合フォローはアルハリムさんがいいはずだ。サイガスの稲妻で遠距離攻撃が出来る、スピードはラビリルにフォローしてもらえばいい。目配せをすると頷き、指笛でラビリルに合図を出す。吹雪を撒き散らしながらネクロモードになったラビリルの背中に飛び乗るアルハリムさんを確認してから
「行くぞ。リーエ!」
「判っている」
ペガサスさんの合図で私達はアークへと飛び掛って行ったのだった。だがこの時気付くべきだった、石碑に埋め込まれた宝玉がゆっくりと光を放っていることに……
第56話に続く
次回はバリバリの戦闘回で行きます。終わりのほうで次回のコラボに向けて動いて動いていこうと思います。アークとシン。その戦闘スタイルは某ゲームを参考資料にしております。判る人は判ると思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします