第65話
カルナージの初日はリーエと俺が釣った魚の塩焼きとフライ。それとルーテシア達が貯蔵していた肉と野菜を使った鍋とご馳走といえる者だった。満腹まで食べて布団に入った……そこそこ身体も動かしていたし、俺は自分でも驚くほどすんなりと眠りに落ちたのだが……
(またか。一体何故だ?)
ここ数日夢を見ると必ずと言って、俺がクラナガンに来たばかりのときの夢を見ていた
「……で、俺はなぜここにいるんだ」
「何でって言われても、ここで引き取るって言ったからだよ」
俺の呟きに能天気な顔をした女がそう返事を返す、あの男女に『保護』されて数日後。俺は、全く見知らぬ家に引き渡された……今、俺の目の前には青い短髪の女がいる。その女はニコニコと笑いながら、俺の目の前にカレーを置いて、自分は俺の質問を答えながら俺の倍以上の早さでカレーを平らげる。あまりの馬鹿馬鹿しさに、怒りを通り越して呆れさえ覚えた。
「ちっ……気に食わん」
俺がそうした打ちすると足元のドラゴンも
「ガウ」
自分もそう思っていると良いたげにコクコクと頷きながら一鳴きした
「お前もそうなのか、ドラゴン」
俺の横にいるドラゴンに声をかける。ドラゴンはこくこくと頷き、俺の足にしがみ付いている。今のこの状況は既に俺の理解の外にある。
「ほらほら、そんなこと言ってないでとりあえずカレー食べなよ。冷めちゃうよ」
それに加えて俺の目の前の女、確か名前はスバルとか言ったか。こいつを見ていると無性に苛立たしくなる。俺の記憶が関係しているのだろうか、とも考えたが、この女とあの影とは結びつくはずもなく……だとすればこの怒りは間違いなくこの女の脳天気さによるものだろう。
「俺は貴様らに引き取られるといった覚えなどない!」
無性に腹が立ち、そう怒鳴りながら席を立って出ていこうとするが
「だから、あまりわがまま言わないの!」
思った以上の力で腕を捕まれ引き止められてしまう。あまりに腹が立ち、焼き殺してやろうかとも思ったが、俺の私情で焼き殺してしまうのは俺を『保護』した奴らが迷惑がるだろう。
「ちっ……」
どうしようもない状況で、俺は舌打ちをするしかなかった。その時、謎の音がなる。リーンと言う妙な音だ
「ん、そういえばもうそんな時間か。ディエチー!」
「わかってる!すぐ出てくるから」
と、俺を少し離れたところで見ていた茶髪の女(ディエチという名前らしい)が嬉しそうに部屋を出て行った。少しして、部屋に赤い髪の男が入ってくる。見た目は俺と同じくらいだろうか、だが俺と違って随分まっすぐな目をしているように思えた。
「……誰だこいつ」
俺ではなくディエチにそう尋ねる男。その態度に若干の苛つきを感じた
「ジオって言って、今日から私達の家で引き取ることになったの。要するに新しい家族」
俺はまだ家族になるなんて一言も言ってないがな
「はあっ!?こいつが!?」
といって、赤い髪の男が俺を指さす。
「おい、気に食わんぞ貴様」
記憶がないが、指を指すのは失礼と言うのは判るし、それに睨まれているのだから面白くはない。男は顔を歪めながら
「うっぐぐぐ……!」
なにか言いたげな様子だったが、その男は何も言わずにため息をつく。
「くっそ、なんでいきなり知らない男が来るんだよ……」
「もう、嫉妬してるの? 私はセツナが一番好きだっていつも言ってるのに」
「そりゃそうだけどよ……」
気がついたら、スバルがげんなりしていた表情を浮かべていた。
「はぁ、また始まったかー」
疲れたような呟きが気になり
「……どうしたんだ?」
「見ての通りだよ、はぁ……」
見ての通り、と言われてもまったくわからない。やはり気に食わない女だ、と俺はスバルを見るのだった。
目を覚ますと腹の上に感じる重み。呆れながら腹の上を見ると
「またか」
「ガウルルルル……ガウルウウウウ」
俺の上で眠っているカエデはいびきをかきながら、大量のよだれをたらしている。俺はいつものようにカエデの首の後ろを掴んで持ち上げ、ベッドの脇の籠に放り込む……あの後しばらくは反抗していた俺だが、いつからかあまり反抗しなくなった。あの能天気な連中のせいなのかもしれないが、何故かあの空気は酷く居心地が良かった。それにあの男……セツナとも仲良くなり、ナカジマ家にも溶けこむことができた。今ではスバル……スバル姉とも仲良くなっている。まぁ殆ど会う事はないんだがな……そんな事を考えながら着替え終えリビングに出ると
「おはよジオ。ココア飲む?」
ルーテシアが手を振りながらそう尋ねてくる。俺はその言葉に頷き
「砂糖は3つで頼む」
「OK~ちょっと待っててねー」
そう笑うルーテシアとすれ違いでリビングに入ると
「おはようジオ。もう直ぐ朝ご飯できるよ」
「おはようジオ」
セツナとディエチにそう声を掛けられる。このお人よし達と一緒にいる時間はやはり
(悪くない)
俺は小さく笑いながらあいている場所に腰掛けるのだった……記憶がないというのは不安だし、恐ろしいが、こうして穏やかな時間を過ごすのは悪くない。自然に頬が緩むのを感じながらルーテシアに差し出されたココアを啜るのだった……
(見る限りでは特に違和感は無いですね)
一晩ネクロの魔力を放出し続けたがジオさんに目に見える変化は無い。むしろ変化があったのは
「にゃふ……
「キューア」
ラビリルとスザクだ。ネクロの魔力に当てられたのはこの2匹で調子を崩している。べとっとフローリングに伏せている2匹に
「あー」
「にゃー」
自分の食事を終えたイシュリさんが食事を与えている。最初は無口でアシラさんの後ろに隠れたままだったが、こうして喋るようになってくれたのはこの2匹の力が大きいだろうと思っていると
「ねえリーエ。今日はピクニックに行かない?お弁当とかを色々作ってさ」
ディエチさんの言葉に私達とゲンヤさんの表情が固まる。これは一応ネクロをこの世界におびき寄せるためであって、普通に遊びに来ているわけじゃないんですが
(とは言え断るわけにはいきませんね)
この人数なら多少のネクロの攻撃なら何の問題もない。アルハリムさんたちの結界もあるし
「……判りました。行きましょう」
私はそう返事を返すのだった。そして朝食の後。コテージの自分の部屋に戻ると
「あんなことを言っても大丈夫なのか?」
ヴォルガンドさんが来てそう尋ねてくる。私はその問い掛けに私は苦笑しながら
「……断れば何かあると勘ぐられるでしょう?それにこれだけ人数が居ればネクロがきても対応できます」
出来ればあんまりで歩きたくなかったんですけどねと返事を返す。いつネクロが繰る判らないのなら警戒してじっとしているのが良いと思うんですけどね
「まぁ仕方ないね。準備していこうか?」
「そうね。上位レベルはあんまりいなそうだし、大丈夫だとは思うけどね」
アルハリムさんとアシラさんのOKを貰ったので私もピクニックに行く準備をし始めるのだった……
「ここら辺が涼しくて良いんだよ?」
ルーテシアさんが先頭を歩いて案内してくれる。そこは草原があり、近くに湖のある良い場所だった
「あらあ?確かに良いところね?木陰もあって涼しそうだし♪」
ヴィルヘリヤさんが辺りを見ながら言うが、彼女が見ているのは景色ではなく周囲にネクロの反応が無いかだ
(今のところは反応は無いな。だが警戒を緩めるなよ?)
ペガサスさんの念話による警戒の声に頷きながら、ルーテシアさんの家から持ってきたブルーシートを引いてピクニックの準備をするのだった、できるならネクロの襲撃がありませんように……
なんとなく、今日のリーエたちは妙によそよそしい気がした。
「……良い場所ですね」
「でしょ♪私も良く散歩に来るんだ」
ルーテシアと話をしているリーエにしても、近くの湖の所でBBQの準備をしているペガサスとヴォルガンドも
「「……」」
何か周囲を見回したりしている。ゲンヤさんもここに来る前に「デバイスを持ったか?」と尋ねてきた。何年か前ならともかく、今、この世界で何かあるとも思えないんだけどな……。
(まぁ何があってもディエチは俺が護るが)
「セツナー!水が気持ち良いよー」
湖に足をつけて手を振ってくるディエチの方へ歩き出す
「やあ。良いところだねここは」
湖の近くにはアルハリムとアシラが居て、やはり楽しそうに遊んでいる。周りをよく見ているのは妹さん?を心配してるんだろう
「姉上。見て」
イシュリがさらさらとラビリルの上に砂をかけている。ラビリルはぺたっと地面に伏せたまま
「うにー」
気持ち良いのか、楽しいのか判らないが。いつもと全然違う鳴声をあげるラビリルを見て、アシラは
「……うん。イシュリ。ラビリルもスザクも普通の生き物より頑丈だけど、あんまり無茶をしないでね?」
イシュリはスザクとラビリルに砂をかけて遊んでいる。流石のアシラの顔を呆れ気味だ……
(だけど平和そうで良いな)
俺はディエチのほうに行き、一緒に湖に足をつけながら
(しっかし、遊んでばっかじゃなくて練習もしないとな)
そんなことを考えつつ、俺はこんな穏やかな時間がずっと続くと思っていた。その時……
「ん?なんだろう?あれ?」
昼食のサンドイッチと魚をBBQセットで焼いているとディエチが空を見てそう呟く。俺もつられて空を見ようとした瞬間
「セツナ!ディエチ!!」
「うお!?」
「きゃあ!?」
突然俺とディエチの身体が浮く、驚いて上を見るとローブが蝙蝠の翼と同じ形状に変化したリーエが俺とディエチの服を掴んでいた
「ゲンヤ!受け取れ!!!」
物のようにゲンヤさんのほうに投げられ理解出来ず混乱している間に。俺とディエチはゲンヤさんに抱きとめられていた
「さーて仕掛けてきたわねえ。ここからは私達にお任せ♪」
「ふざけてないの」
ヴィルヘリヤの服装が一瞬で紫の法衣に変わり、アシラはチャイナドレスに似たBJにロンググローブを身につけ、日本刀を構えていた
「なんだ!?何が起きてるんだ!?」
訳が判らず混乱していると黒い影が俺達の前に現われ
「「「キキッ!!!」」」
「「「グルルルル」」」」
その影から這い出すように無数の化け物が出てくる。それを見てますます混乱していると
「黙っていろ。喋るな、魔力を断て……狙われるぞ」
ヴォルガンドが甲冑を身に纏い俺とディエチの前に立つ。
「ちょっと待て!どういうことか説明して「説明している時間はない!!」
ザンッ!!鋭い風切り音と共に化け物が両断される。ヴォルガンドはそれと同時に地面を蹴り
「ラビリル!スザク!セツナ達を護れ!」
「ガオオオオンッ!!!!!」
「クアアアアアアアッ!!!!」
2匹は勇ましい雄叫びを上げたと思った瞬間。ラビリルは鎧を身に纏った虎の姿になり、スザクは巨大な鳥へとその姿を変えた
「あぶない。しゃがんで……」
「う、うん」
イシュリはルーテシアの手を引いて、こっちへ走ってきて頭を抱えてしゃがんでいる。だが俺は直ぐにしゃがむことは出来なかった。リーエやペガサス達が甲冑を展開し、その手に鎌や剣を構え這い出るように姿を見せた化け物と戦いを始めている。目の前の光景に驚いていると、ディエチが俺の手を握った。俺ははっとしてディエチの手を握り返し、炎の翼を広げているスザクの足元にしゃがみ込んだのだった……
(予想とおりとは言えやべえな)
俺の足元でしゃがみ込んでいるセツナとディエチを見ながら、俺は周囲を窺っていた……姿の見えないジオの姿を探していると
「う、ぐう……」
「ガウ!ガウ!!!」
苦しそうなうめき声とカエデの鳴声が聞こえてきて、セツナとディエチに
「ここに居ろよ!」
「ゲンヤさん!?」
「お父さん!?」
驚いているディエチとセツナの声を聞きながら、走りジオの元に向かい
「大丈夫か!?」
「ゲ、ゲンヤか?」
酷い汗を流しているジオに肩を貸しスザクのほうに戻ろうとするが
「グルルルル」
(ちいっ!またこいつか!)
クラナガンで俺を襲ってきた狼のような化け物が俺の前に集団で現れる。リーエ達は地面から這い出てくるネクロの対応のせいでこっちに来れそうはない。こうなりゃ全力で
「ウーガーウッ!!!」
カエデが翼で飛び上がったと思った瞬間凄まじい青い光を放ち
「ギャオオオオオオオオオッ!!!」
「うおおお!?」
咆哮と共に巨大なドラゴンの姿へと変化する。忘れてた……こいつはS級の危険生物だったんだけどな……普段のペットの姿のせいで忘れてた……
「シャアアアアッ!!!!」
全身から放電しながらカエデの放ったブレスが化け物達を焼き払う
「グウッ!」
ドスドスと地面を揺らしながら歩き出すカエデの後をついて、俺とジオはスザクの元へ戻ったのだった
「ジオ!?どうしたの」
「おい!?大丈夫か!?」
頭を押さえ何かに耐えているかのようなジオの姿に気付き、心配そうに尋ねてくるセツナとディエチ……ジオは閉じていた目を開き
「来る!敵が来る!!!逃げろぉッ!!!!」
ジオのその怒声と共に空間が裂けそこから、巨大な化け物が姿を見せる。白い身体をしているのにも拘らず、全身をどす黒いぶよぶよした体液を纏っているせいで嫌悪感を煽る
「カアアアアアアッ!!!」
先制攻撃と言わんばかりにその巨大な口を開き。どす黒い砲撃を放ったのだった……
「クアアアアアア!!!」
「グオオオオオ!!!!」
「シャアアアア!!!!」
それを見たスザク達が炎の翼を撒き散らし、氷と稲妻のブレスを吐き出しその砲撃を相殺しようとしたが、相殺しきれず発生した爆風にリーエ達と俺達は吹っ飛ばされてしまったのだった……だがこの時一瞬だけ黒い光が俺達を護るように放たれたのだった……
第66話に続く
次回はジオの覚醒の話になります。ジオの正体が何なのか?と言うのを漸く出せると思います。そして内容はバリバリの戦闘回で行きたいと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします