第66話
空間の裂け目から現れたネクロを見て私は驚いた。それは既にネクロと言う枠ではなく、より上位の存在だった……あれは間違いない。龍也様を苦しめた化け物である「ヴェルガディオス」だった
(そんな!?どうして!?)
あれは龍也様が倒したはずなのに……思い出したのは量産型の存在。でも何故量産型のヴェルガディオスがここに居るのか。一瞬だけなにが起こったのか理解できず、思考が停止する。だが実戦で一瞬の隙と言うのは致命的な隙となる
「ウルオオオオオッ!!!」
ガパッ!!!
大きく口を開き、それと同時に両肩が変形し砲門になる
「リーエ!何を呆けている!」
アルハリムさんの怒声に驚いたが、そのおかげで身体の動きは戻った。
「ヴォルガンド!アシラ!」
あの砲撃の威力は下げないと不味い。あれは一撃で全員を全滅させるだけの威力がある。慌ててプロテクションを発生させ直撃を防ごうとする。そうしたのは私達だけではなく
「クアアアアアア!!!」
「グオオオオオ!!!!」
「シャアアアア!!!!」
セツナさん達を護るように言っていた、スザク達がそれぞれの得意な攻撃方法。爆発する翼、氷のブレス、そしてカエデが変身したであろうドラゴンの稲妻のブレスが放たれる
「カアアアアッ!!!!!」
ヴェルガディオスの砲撃とスザクたちの攻撃がぶつかり大爆発を起こした。その威力は凄まじく
「く、押さえきれない!」
「う、うおおおおおッ!?」
プロテクションを張っていた私達とスザク達に護られていたスザク達を同時に薙ぎ払ったのだった……
(ここは……)
俺は気がついたら闇の中で浮かんでいた……何か判らないがとても穏やかな気分だ。頭が割れると思っていた頭痛も治まり、とても安らいでいる……このままこうしていても良いと思える
【いつまでそうしているつもりだ?】
突然聞こえてきた第3者の声に驚き立ち上がる。そこには黒い甲冑に身を包んだ青年が腕を組んで立っていた
(誰だ?)
青年と言うのは判るのに何故か顔を見る事が出来ない……
【いつまでも甘えているな。お前にはお前のできることがある。いつまでも逃げているな】
その偉そうな口調にいらっとして、ばっと飛び起き
「俺のどこが逃げていると言うんだ!」
【記憶を思い出そうともせず、そして今手にした安寧に浸りきっている。それを逃げと言わず何と言う?】
安寧……確かに俺はあの場所を気に入っていた。穏やかでここに居ても良いと思えたからだ。
(だから俺は本気で記憶を思いだそうとしなかったのか)
記憶がないことに焦りは感じていた。だがそれだけだ、本気で記憶を取り戻そうとはしなかった……それだけ今のあの場所は居心地が良かった……
【そして今はお前がこうしている間に、お前が手にしようとした物は危機に瀕しているのが判らないのか?】
そう言われて思いだすのは、空間から這い出てきた巨大な化け物……それを見た瞬間。俺は激しい頭痛を感じて、頭が割れそうになった……そして
「セツナ!ディエチ!」
そうだ。あのままではあの2人が危ない。こんな所でもめている場合じゃない
【思い出したか、なら行け。俺は護りたい物も自分の国も失った……まぁそれはお前にも言えるがな】
「お、俺だと!?」
ここで初めて青年の顔を確認できた。成長しているが間違いなかった。それは俺の顔だった……そして唐突に思い出した。俺が何を失ったのかを……そして俺が起こした戦いのことを……
【お前はやり直せる。俺は今更そんなことを願う事など許されない……とっとと行け。2度と来るな】
ふんっと鼻を鳴らし背を向ける青年はゆっくりと闇の中に消えていった。俺は拳を強く握り締めた。揺らめくように現れる炎を見て
「今行く」
闇を炎で焼き尽くしたと同時に俺の意識は急速に浮上していくのだった
「くっううう……なんて威力だ」
直撃ではなかった。スザクとラビリルが威力を低下させてくれたのに身体が動かない、信じられない威力だ。直撃だったらそのまま死んでいたかもしれない……それほどまでの威力だった。だがそんな事を言っている場合ではない……早く立ち上がらないと、だがそれが判っているのにも拘らず私の身体は動かなかった
「くっ……流石にダメージがでかい」
「そ、そうねえ……私も不味いかも」
だがそれはペガサスさん達も同じで動けないで居る。その間にヴェルガディオスが空間から這い出る、その身体は黒い体液で繋がっているようで、記録の者よりも醜悪で気味が悪かった
「ォアアアアア」
ヴェルガディオスは私達ではなくセツナさんのほうにその手を伸ばす。脅威となる者を理解して先に取り込めるほうを選んだんだ……このままではいけないと思い、無理やり身体を動かした瞬間
「グギャアアアアアアア!?!?」
ヴェルガディオスが奇声を発してその巨体を大きく仰け反らせる。ヴェルガディオスが手を伸ばした先には
「……」
俯いているジオさんが居た。だがその雰囲気は先ほどまでと違い、触れれば切れるような気配を放っていた。ジオさんが無言でゆっくりと歩き出しながら
「思い出したぞ。俺が何者なのか……そうだ。俺はお前に全てを奪われた!!!だがもう奪わせはしない!!」
ジオさんが走り出すとその身体を黒い炎が包み込む。そしてヴェルガディオスの巨体を殴り飛ばしながら
「俺は!俺の名前は!ジオガディス!聖魔王ジオガディスッ!!!貴様に断罪を下す!!!」
黒い甲冑と4枚の赤い翼。そして眩いばかりに輝く魔力……
(聖王の魔力……)
左手に黒炎右手に虹色の魔力を発生させたジオさん。いやジオガディスは
「焔のごとく燃え尽きろォッ!」
拳を地面に叩きつけ巨大な火柱を作り出しヴェルガディオス目掛け放つ。その魔力は私、いやアルハリムさんやペガサスさんよりも上で……そしてあの虹色の魔力を見て私は
(信じるしかない。あの人は間違いなくジオガディスだ)
龍也様の目と腕を奪い。最後は龍也様と共に戦い、ヴェルガディオスを倒した。ジオガディス本人であると……
「あ、アレがジオなのか?」
俺は目の前の光景を信じる事が出来なかった。ジオは黒い炎と虹色の魔力を巧みに使いこなし、自分よりも数倍でかい化け物を殴り続けている
「おおおおおおッ!!!!」
「ギギャアア!!!!」
化け物の反撃を高速で空を舞いながら回避し、反撃と言わんばかりに顎を蹴り上げる。その動きは俺が何回もジオを叩きのめした動きだ
「どうやらお前は俺を利用したヴェルガディオスではないようだな。だがそんなものは関係ない」
「ギガァ!?」
丸太のような腕をねじり揚げるジオの顔は良く見えないが、普段の……いや、俺の知るジオではないことだけは判った
(ジオ。お前はどうするんだ)
記憶を取り戻したお前は、リーエと一緒に行くのか、それともまだ俺達と一緒にいてくれるのか。確かにいつも喧嘩腰だったが、お前は大事な友だちなんだ。そんなジオが遠くに言ってしまうような気がしてならねえ。それだけじゃねえ、リーエ達は俺達に何かを隠していた。いきなりカルナージに来たのだって、もしかするとあの化け物の攻撃を予測してたからだってのか?
(くそ。考えがまとまらねえ……!)
こんな状況になるなんて誰がわかるってんだ?頭の中がぐしゃぐしゃで考えがまとまらず混乱していると
「やれやれ……こんなことになるとはな」
頭から血を流しながらこっちに歩いてきたペガサスを見て
「ペガサス!どうなってんだ!?説明してくれ!あの化け物はなんなんだ!」
事情を知っているであろうペガサスにそう怒鳴ると、ペガサスは血を拭いながら
「後にしろ。俺は今無駄な労力を使うわけには行かない」
そう言うと剣を構えたペガサスの前に狼のような化け物が姿を見せる
「すいませんね。答えてあげてたいのですけど、余裕がありません。ちょっと待っててください」
気がつくとアシラやリーエも俺達の前に居て、全方位から襲ってくる化け物と戦っていた。その光景は俺の理解を超えていて……どうなっているのかまるで判らなかっただが
「貴様は俺が潰す。二度は奪わせはしない、今の俺のすべてを!!!」
力強いジオの言葉と、俺の手を握っているディエチ。そしてディエチは
「頑張れジオ……」
恐怖で声が震えているが、そのつぶやきは確かに聞こえた。だから俺も
「ジオー!!!負けるなッ!絶対勝て!!!!」
俺がそう叫ぶとジオは驚いたように一瞬だけ振り返ったが、直ぐに
「当然だ!!!」
虹色の魔力を化け物の顔面に向かってたたきつけたのだった。ジオの正体がどうなのかなんてどうでも良い、ジオはジオ。それで良いはずだ
(ありがとう。セツナ)
今聞こえてきたセツナの声が妙に嬉しかった。記憶を取り戻し、本来の力を取り戻した。残念な事に守護者に渡してしまったブレードはないが、問題ない
「おおおおッ!!!」
魔力も力もあの時以上に万全だ。それに比べてこいつは劣っている負ける要素などないが
(慢心はしない。あの時身を持って理解しているからな)
パンデモニウムで守護者と戦った時。俺はあいつよりも遥かに強かった。それなのに俺はあいつに負けた、その理由は2つ在ったはずだ。1つは慢心。そしてもう1つは
(護るべきものの有無)
護りたい者がある。それだけでこんなにも力が増す……あのときの俺にはそんな事を考える余裕なんてなかった。そもそもネクロのせいでそんな事を考える気持ちなんてなかった。だが今は違う
「俺はもう何も失わんッ!!!」
王としての誇りも、護るべき者がある騎士の心も、そして記憶を失っているのにも拘らず、俺を家族と呼んでくれたあのお人好し達を
「失ってたまるかぁ」
「ギギャアアアア!?」
ヴェルガディオスの顔面に全力で拳を叩きつけると同時に炎を解き放つ。それはヴェルガディオスの顔面を焼き潰したが……
(ちい!攻撃が届かん!)
ヴェルガディオスはコアが砕けるまで無限に再生する。倒すためにはコアを砕く必要があるのだが
(素手ではコアまで攻撃が届かない)
コアを攻撃しようにも、あの巨体と生成する肉のせいで攻撃が届かない。どうしたものかと考えていると
「ジオガディスッ!!!!」
リーエの声がしたとおもい、振り返ると空を切りながら一本の剣が飛んでくる
「これは、感謝する」
少々作りがおざなりだが問題ない。一撃をコアに叩き込むことを考えればこれで十分だ
「はああああ……」
刀身に虹色と黒炎が纏わりつく、手の中でビシリと金属にひびが入るのを感じるが問題ない
「貴様に利用され死んでいった者たちの怒りを思い知れ!!!!」
虹色の炎と黒炎が融合し眩いまでの輝きを放つ、力強く地面を蹴り間合いを詰めながら
「遊びは終わりだ!泣け!叫べっ!!!」
炎と斬撃を同時に叩き込み、ヴェルガディオスの動きを完全に拘束する
「ギッ!ギガアアアアアアアッ!!!!」
炎に飲まれ串刺しになったヴェルガディオス。最後の一撃を叩き込もうとしたが、手の中の剣はもう限界なのか刀身に大きなひびが入る。ならば
「そしてッ!!死ねえっ!!!」
刀身の皹の入った剣を上空に放り投げると同時に飛び上がり
「おおおおッ!!!!」
柄に蹴りを叩き込み強引に皹の入った剣をヴェルガディオスの身体の中に押し込む
「ググギャアアアアアアア!?!?」
身体の中で魔力が暴れまわり苦悶の声を上げるヴェルガディオスに背を向け
「失せろ、目障りだ!」
親指を下に向けると同時にヴェルガディオスの身体から虹色の魔力が溢れ出し、その身体を消滅させる、その中から石版が現れ地面に突き刺さる。俺は怨敵を倒したことに笑みを零したが
(限界か……)
目覚めて直ぐの魔力の大量消費。俺の意識は休息に闇に沈み地面に倒れかけると
「ジオ!大丈夫か!」
「お疲れ様」
セツナとディエチに抱きとめられ、俺は地面に叩きつけられることはなく、それと同時に自分が護る事が出来た者の存在がたまらなく嬉しく……自分でも驚くほど安らかな気持ちで眠りに落ちたのだった……
ジオガディスを抱き抱えているセツナさんとディエチさんが私を見て
「どういうことか説明してくれるよな?」
尋ねてきてはいるが、言うまで納得しない、と言う目をしていた。私は甲冑を解除しながら
「……ええ。全てを説明したします、ネクロの事も、半ネクロのことも」
私には自分達のことを説明する義務がある。そしてその後の事を決めるのはジオガディスとセツナさん達の話し合いだ。
「ヴォルガンド。その石碑運んでくれる?」
「判った。何か意味があるのかもしれないからな」
ヴェルガディオスが体内に取り込んでいた石碑。これはどう考えても何かの秘密があると考えるのが妥当だろう。そして私は曇り始めた空を見上げて
(……これは何かがあるのかもしれないですね)
龍也様が倒したヴェルガディオスの量産型。そして聖魔王ジオガディス……私は何か大きく時代が動くのでは?そんな不安を感じながら魔力を使い果たしてダウンしている。スザクを抱き上げてコテージへと足を向けたのだった……
第67話に続く
ジオの正体はジオガディスでした。夜天のラスボスのジオガディスの再登場です。味方になるかどうかはまだ判りません。どうなるのか楽しみにしていてください。普通の狐様のコラボは次回で尾張の予定です、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします