第67話
気絶しているジオに肩を貸してコテージに戻ってきてから
「で、あの化け物どもはなんなんだ?」
リーエ達は明らかにあの化け物との戦いに慣れていた。だからそう尋ねるとリーエは
「……少々長くなりますが、お話します」
そう前置きしてからリーエは話を始めた。リーエの話は到底信じられないような内容だが、ああして見た以上信じざるをえない。
「前に話を聞いたときとは大分内容が違うんだが」
俺がそう尋ねると、リーエは紅茶を飲みながら
「……この世界にネクロはいないようなので、大事な事は伏せさせていただきました。いきなり言っても信じられないでしょう?」
確かに、信じろと言われても信じられる内容じゃない。俺はソファーに深く腰掛けながら
「理解が追いつかねえぜ……ディエチはどうだ?」
「わ、私もかなあ? 頭がパンクしそう……」
情報を整理するのが手一杯。頭痛がしてきそうだ……
「……すみません、今まで嘘を言っていて……」
そう頭を下げてくるリーエ。だが嘘とは言え、最初に言われてもどうせ信じられなかっただろうしなあ……
「それで、ジオはどうするの?」
ディエチの言葉にリーエは
「……どうもしませんよ。それを決めるのはジオさんと貴方達です。こうして観察してましたけど、ジオさんの家はやはり貴方達の場所だと思うんです。だから私は何も言いません。どうするかは貴方達で決めてください」
リーエはそう言うと立ち上がり、大きく欠伸をする。急に欠伸をしたことに驚くと
「……失礼。少々力を使いすぎたもので。アルハリムさん達も眠ってますよね?」
確かに、アルハリム達はソファーに腰掛けて目を閉じている。ペガサスとヴォルガンドは起きているようだが
「なんだ?リーエの次は俺に話でもしろと?」
「いや別に」
普段の二割増しで目付きが悪い。それは疲労のせいだろうし、リーエの話は判りやすかったから別にこれ以上聞く事はないと言うと
「それなら、俺は休む。話しかけるな」
「回復に集中しないと動けんからな」
ペガサスとヴォルガンドは腕を組んで目を閉じて黙り込んだ。暫くすると寝息が聞こえてくる。
「ネクロに半ネクロ……正直、とんでもない話としか言えないね」
「ああ。だが……証拠があまりに多すぎる」
リーエ達はコテージの部屋に引っ込み、ペガサスとヴォルガンドはソファーで腕を組んで眠っている。俺ははぁ、と溜息を吐いていると
「悪いな、セツナ。俺はリーエに話を聞いていたんだが……。話し合って、被害が低いだろうと思ったのがここだったんだ」
カルナージに俺達を連れてきたのはやはりそうだったのか……
(だとすると、ゲンヤさんの行動は正しかったわけか)
アレだけの化け物が市街で暴れれば大惨事だ。カルナージはルーテシアの住むところ以外は自然豊かな世界だし、クラナガンとかで暴れられるよりよっぽどましか……。
「それは別に良いかな。お父さんの判断は正しかったわけだし。でも、疲れたから少し寝るよ……」
「俺も……酷く疲れたしな」
ネクロとの戦いに巻き込まれた上に、自分でも理解できない話が多くて正直疲れた。だから俺はゲンヤさんにそう声を掛けてから部屋に戻るのだった……
「ううん……ここは」
けだるいものを感じながら身体を起こすと俺の隣で控えていたカエデが
「ガウ♪」
水に入れたコップを差し出してくる。知らないうちにかなり器用になっているなと思いながら
「ありがとう」
コップを受け取り中身を一気に飲み干す。その水は少しぬるかったが、身体に染み渡っていくのを感じた……
「ガウ!ガウ!」
ベッドサイドで跳ねているカエデの頭を撫でながら
(やっと記憶が全部戻ったか……)
俺が思いだしたのは守護者と共に戦い、ヴェルガディオスに挑みやつにダインスレイフを託した所までだ。しかしその記憶はあやふやではっきりと覚えているのは俺がネクロになる前の記憶だ。しかしそれだけではなく
(セツナ達の事か……)
平行世界のクラナガンで作った思い出だ。しかもその方が色濃く俺の脳裏に残っている
「ガウ?」
「ああ。気にするなたいした事はない」
カエデの頭を撫でながら、俺は俺が何をしたいのか?を考える。
「少し外に行くか?カエデ」
「ガウ♪」
ベッドサイドに居るカエデを抱き上げて部屋を出る。外はもう夜なのかセツナやルーテシア達の姿はない。俺は起こさないようにカエデを抱き抱えたまま外に出た
「良い星だ」
無数の星を見ながらそう呟く。この空は俺の国と同じだな……そんな事を考えながら歩いていると
「やぁ?気分はどうだい?ジオガディス」
石碑の近くに腰掛けている少女にそう声をかけられる。確か
「アルハリム・アズタミア。アズタミアの皇族にこうしてお会いできるとは光栄だ」
俺の記憶が間違ってないのなら、アズタミアは俺の時代にも伝わっている皇族だったはずだ
「その様子なら全てを覚えているようだね。それで改めて聞こうか?気分はどうだい?」
猫の頭を撫でながら尋ねてくるアルハリムに
「良く判らないな。記憶が戻ったのは嬉しいがな」
記憶が戻ったせいか自分が何をすれば良いのか判らなくなってしまった
「それならば、世界の平和を護るのはどうかな?」
「なに?どういうことだ」
石碑を指差しながらアルハリムは
「貴方なら読めるんじゃないかな?」
そう言われ抱えていたカエデを地面に降ろし石碑の前に行き、その分に目を通す
「黒龍皇……伝承ではなかったのか!?」
俺の時代にも黒龍皇の存在は伝わっていた。だがそれは伝説だと思っていた……しかもこの文は!?
「正と邪2つの力を持つ黒き王が己を取り戻す時。崩壊は始まる……黒龍皇を目覚めさせてはならない。××××盟主を止めろ。世界の滅びは近い。滅びの徒を止めよ。そして××××が消え。全ての記憶が零になりし時滅びは始まる……覚醒させよ。××××が全てを救う者となる……アルハリムこの××はお前がやったのか?」
この読めないところは全部誰かに削られた後がある
「するわけないだろう?私が見たときは既にこうだったんだよ。それでこれを見てどう思うかな?」
滅びは近い。滅びの徒を止めよ……これは言うまでもなく、ネクロの事だろう。
滅びる……それはセツナ達の居るこの世界も含まれているのだろう……
「来るかい?来るというのなら私がリーエに話を通しておくよ。よく考えると良い」
そう言ってコテージに戻っていくアルハリム。俺は自身の足元のカエデを抱き上げ
「どうする?カエデはセツナの所にも「ぺチ!ガウ!!ガウガウ!!!」
俺の頬を叩いて首をぶんぶん振るカエデ。
「そうか。お前も一緒に来るんだな」
「ガウ♪」
どうも俺の進む道は決まった。その為には1度……
「旅立たねばならぬだろうな……」
もう1度全てを失うかもしれないと言うのならば……俺は1度手にした物を手放すのも悪くないかもしれないな……俺はそう呟き、カエデを膝の上の乗せて空を見上げたのだった……
クラナガンに帰った後、リーエ達は暫くしたらこの世界を去ると告げた。それから2日後
「セツナ。ディエチ。俺はカエデと共にリーエの旅について行くことにした」
「えっ?」
ジオの言葉に驚きながら振り返るとジオは真剣な顔をして
「俺は全てを、そして俺の国に残っていた神話を思い出した。いずれ避けられない滅びが起きる。だから、俺は旅立つ」
「で、でも伝説なんじゃないの?」
そんなのを本気にするのはおかしいんじゃないか、と思いながら言うと、ジオは首を振り
「心当たりが多すぎて、伝説と割り切る事ができないのだ……それに、もう決めた事だ」
それまで黙って聞いていたセツナは、ジオを見て
「なあ。もう戻ってこないのか、『ジオガディス』?」
「ちょ、セツナ!?」
私達はこれまで、敢えてその名前を呼ばないようにしていた。ジオの本名を知ってもなお、ジオと呼び続けていた。ジオガディスとジオは違うから。ジオをジオガディスと呼ぶと、ジオが消えてしまうような気がして……
「やめてくれ、セツナ。俺はジオガディスではなくジオでいい。ジオで居たいんだ。だからこそ、そのために旅に出る……。全てが終わったら戻ってくると、約束しよう」
そう笑って、セツナに手を差し出すジオ。セツナは、どこか寂しそうな、でもこれ以上ない笑顔でその手を握り返す。そんな二人を見て、私はこれ以上ジオを止める事を諦めたのだった……
~翌朝~
「気をつけてね、ジオ。これ、お弁当だから。スバ姉たちも手伝ってくれたんだよ」
作ったお弁当を差し出すとジオは笑いながら
「ああ、悪いな。大事に食べる」
「ガウ♪」
カエデの背負っているリュックには木の実の砂糖漬けの瓶を入れていた。カエデの大好物だからだ
「死ぬなよ」
「言われるまでもない。俺はここに戻ってくるために旅に出るんだ。死んでたまるか」
ジオは鞄を背負い歩き出す、その鞄の上にカエデが乗って
「ガーウ」
少しだけに寂しそうに手を振るカエデに手を振り返す。ジオは前を向いたまま拳を振り上げて
「行って来る!健やかに過ごせ!セツナ!ディエチ! ……スバル姉にも、よろしく頼む!」
ジオはそう言うと、ゆっくりと私とセツナの下から歩き去った。私とセツナは、ジオの姿が見えなくなるまで手を振り続けたのだった……
この世界を去ろうとしている時
「待て。俺も行くぞ」
「ジオガディス」
カエデを背中に背負ったジオガディスがゆっくりと歩いてくる。あの石碑を見たときに思っていたが、ジオガディスが記憶を取り戻したのは何かの意味があるのかもしれない……
「……良いのですか?セツナさん達と別れて?」
「石碑を見たんだろう?俺は自分のすべきことは判っている」
ジオガディスはゆっくりと歩いてきて、私達を見て
「連れて行け。俺は足手纏いにはならんぞ、勿論カエデもな」
「ガウ♪」
小さく手を振るカエデに苦笑しながらヴィルヘリヤさんとヴォルガンドさんを見ると
「はーい♪ジオガディス様?お久しぶり~♪」
「お久しぶりでございます。お元気そうで何よりです」
「ああ。だが俺はジオガディスよりも、ジオの名が好きだ。その名で呼ぶな」
ヴィルヘリヤさんとヴォルガンドさんの話を聞いていると
(良いのか?守護者の腕を奪った男だぞ?)
(構いません。あの石碑の通りなら、ここからが本当の勝負になるでしょう?少しでも戦力は多いほうが良いですから)
ペガサスさんの言葉にそう返事を返す。
(まぁお前がそう言うのなら良いがな……)
私はヴィルヘリヤさん達と話をしているジオガディスに
「……それでは行きましょうか?かつての魔王様?」
「とんだ皮肉だな。だがまぁ良い……言い訳をするくらいなら行動で示すだけだ」
ジオガディス……いやジオさんは
「いくぞ。かつての破壊者が世界を救おうとする。とんだ喜劇だとは思わないか?」
楽しそうに笑うジオさん。私は
「……そうですね。では行きましょうか」
そして私達は再び世界を渡る……石碑に刻まれた運命に導かれるかのように……だが私はどうしても気になる事があった……
(××××が消え。全ての記憶が零になりし時滅びは始まる……)
この削れている部分は一体。それに何故かここは誰かの名前を示しているような気がして……どうしてもそれが
(龍也様……)
龍也様の事を指しているような気がして……
(はやく龍也様の居る世界へ……)
嫌な予感が頭を過ぎるのだった……私はそんなことを考えながらこの世界を後にしたのだった……
何処かも知らぬ闇の中で脈打つ鼓動。それは今までは止まっていたのだが……いま急に動きだしたのだ。あの石碑の言葉の通り……ジオガディスが記憶を取り戻した事が引き金となったかのように……
「あ、あっははははははは!!!!ついに!ついにこの時が来た!!!!」
そしてその鼓動を聞いて狂ったかのような笑い声が響く……その笑い声を上げているのはランドグリーズだ
「ふっふふふふ!!これで良い……やっと終焉の時が幕を開ける!」
ランドグリーズはひとしきり笑うとくっくっくと喉を鳴らしながらその世界から去って行った。それも当然。この世界はこの鼓動の持ち主の世界であり、揺りかごだった……故にこの世界の主以外の存在を全て主の為の餌と判断し、その魔力と生命力を無尽蔵に吸い上げる。いかにLV5のラングリーズとは言え、この世界に長時間いるのは自殺行為だからだ……そしてそんな世界がまともな世界な訳なく、その世界は異常としか言いようがない世界だった……1つの世界なのだが、それは1つの世界と言うには余りにおかしな世界だった……色のない無数の世界がパズルのよう何重にも重なり、1つの球体のような世界になっていた……全であり1であり、そして0でもあるそれがこの世界だった……そしてその世界の中心に存在する黒い球体は、ゆっくりとだが徐々にその鼓動を強くさせていた……自らの生まれいずる時を待つかのように……
第68話に続く
次回はネクロの話をしたいと思います。ただし第3のネクロ。リーエ派でもLV5でもないネクロの話にしたいと思います。
それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします