第68話
何もない廃墟の世界を見ながらゆっくりと歩く。生きる者のいない世界なのに見ていると自然に
「♪~♪~~♪」
鼻歌を歌わずには居られない。滅んだ世界、生きる者の居ない世界、そしてまた私も生きていると同時に死んでいるのだから……瓦礫を虱潰しに探して周り……
「みーつけーた♪」
「ヒイイイイイイッ!!!!」
悲鳴を上げて逃げていく化け物。両肩に山羊の頭に似た肩当を持ち、重厚な黒い甲冑を身に纏っていたが、それは私との最初の衝突で半壊し自分の仲間を見捨てて逃げだしたネクロだ
(なんて言ってたかなあ……)
私の前に現れたときは意気揚々と名乗りを上げてたけど、何だったかなあ……
「まぁ良いかッ!!!」
どうせ今から殺すんだ。名前なんてどうでも良い。地面に落ちていた剣を拾い上げ大きく振りかぶり
「行けえッ!!!」
全力で投げつける。私の手から飛び出した剣は空気の壁を突破し一瞬で逃げ出したネクロの身体を刺し貫く
「げぼお!?」
胸の中心を貫かれバランスを崩して倒れかけたが、それでもなお逃げる事を止めない。何の音もないからネクロの呟きが風に乗って聞こえてくる
「つ、伝えなくては……ヘルヴォル様に」
ヘルヴォル?聞いた事のないネクロだ。確か今まで私を襲ってきたネクロが言ってたのは……
(ランドグリーズとフリストだったよね?)
LV5様の~とかを決まった歌い文句にしていた。聞いた事のないネクロの名前に首を傾げたものの
「にがーさーない♪」
逃げようとしていたネクロの頭を掴み地面に叩きつける
「がっぐああああああ!?」
「あっはははは♪痛い?ねえ痛いの♪化け物なのに痛いの!!」
化け物なのに?化け物の癖に?私と同じなのに?ネクロの首を掴んで無理やり持ち上げる。胴体にひびが入りコアが姿を見せている
「死んじゃえっ!!」
コアを握り潰すと暴れていたネクロはぐったりと抵抗を失い、つま先から徐々に消滅し始める
「化け物は化け物らしくしてれば良いんだよ」
消滅しているネクロの首を掴んで引きずりながら滅んだ世界を歩き続ける
(あーあーつまらない……)
化け物だから、化け物になってしまったから、私は今消えようとしているネクロと同じいつかはこうして消えて行く存在。
「死にたいけど死にたくない、生きたいけど生きていたくない」
あーやっぱり私は壊れてるなあ。だけどそれが愉快で仕方ない……
「早く次のネクロが来ないかなあ……」
早く殺したい(早く死にたい)早く壊したい(もう壊したくない)相反する言葉が次々と浮かんでは消えて行く
「もう私は戻れない……」
私は狂ってしまった、壊れてしまった……生きたいけど、死にたい、死にたいけど、生きていたい……
(ああ……もう何も思い出せない)
かつて私が居た暖かい場所はもうなくなってしまった……そして思い出からも消え失せた……今私が覚えているのはかつてそんな場所があった。それだけだ……そして徐々に頭の中がぼんやりとして何も考えられなくなる。いや何も考える事が出来ないというのは違ってるか……
「ふふふふ。行こう次の世界へ……今度はもっと壊して殺そう……」
どす黒いネクロの体液を踏みしめ廃墟の中を歩く……壊して(壊したくない)殺して(殺したくない)もっと生きて(もう死にたい)相反する想いだけを心の中に閉じ込めて……
廃墟の鏡に映るは血に飢えたネクロと人間の狭間で狂い破壊と殺戮を望む悲しき女。地面に映るは顔を押さえて泣き続ける少女……そのどちらが「ベルチェ・ルナヴィレスト」の本当の姿なのか?それは本人さえもわからない……
狂ったように笑いながら歩いていくベルチェを見つける黒髪の青年と
「あっははは♪良いじゃないか?力ある者は皆好きだ。何とかしてあのネクロを引き込めないか?」
少女にも少年にも見える。中世的な外見の子供がベルチェを見て楽しそうに笑う
「盟主様「固いぞヘルヴォル。我の事はアルファでかまわん」
そうこの子供こそが盟主と呼ばれている存在だった。くすんだ金髪と黒と赤のオッドアイを持つアルファが身に纏うのは、白地に金の装飾が施された豪奢なマントだ。ヘルヴォルは
「恐れ多い。我が君」
「ふっふっふ。そう畏まる事もなかろうに」
片膝を着き深く頭を下げるヘルヴォルを見て
「顔を上げよ。護衛ご苦労であった……さてランドグリーズ」
「はっ!」
我の後ろで膝を着くランドグリーズに声をかける。
「我をこの世界に案内した事についての褒美を使わそう。何を欲する?」
ランドグリーズは我とヘルヴォルをこの世界に案内したと事に対する褒章が必要だ。今まで見ることの出来なかった。リーエでも我側でもないネクロ。その強さは話には聞いていたが、ここまでとは思ってなかった
「褒章と言うのならば少しの時間で構いません私に自由に動く時間を与えて欲しいのです」
自由に動く時間か……後ろで控えているヘルヴォルを見る。何も言っては居ないがその目は疑いの色に染まっている……
(ランドグリーズを嫌っているからな。ヘルヴォルは)
あまり定期報告をせず、そして何を考えているのか判らない。ヘルヴォルのような武人気質にとっては気に食わないネクロだろう。我は少し考えてから
「好きにしろ。だが出している指示は忘れるな」
「判っております。それではしばしの暇を頂きますので失礼いたします」
闇に溶けるように消えて行くランドグリーズを見ながら
「不機嫌そうだな?ヘルヴォル?何か言いたい事があるのでないのか?」
「いえ。全ては盟主の心が赴くままに」
そうは言っているが不機嫌そうな顔をしているヘルヴォル。我は力ある者は認める、ランドグリーズは力もあり、知恵もある。そして常に我を欺こうとするしたたかさがある。だからこそ傍に置いている
「我がランドグリーズを好きにさせている理由を見誤るなよ?ヘルヴォル」
我がランドグリーズを好きにさせているのは仮にランドグリーズが反旗を翻したとしても、ヘルヴォルならば倒せると判っているからだ
「盟主に仇なすならば、それは私の敵。例え同族であれ倒す事に躊躇いは在りません」
そうだ。ヘルヴォルのこの闘志を我は気に入っている。揺らぐ事のない忠誠とその剣技を我は買っている
「さて、そろそろ戻るか?ヘルヴォル。この場所は少しばかり寒い」
マントを身体に巻きつける。普段は王座から動く事はない。こうして久しぶりに外に出てきたから余計に寒く思う
「戻りましょう。盟主……全ての終わりの時まで貴方の動くべき時ではありません」
ヘルヴォルの言葉に頷きながら
「ああ。そうだな、まだ動くには少しばかり早い。手駒も足りないしな」
リーエ達も徐々に力を増している。もう少しばかり戦力が欲しい……我はこの世界をさ迷い歩いているベルチェの姿を見ながら
「リーエを仲間に引き込んでいるみるか?」
「お戯れを」
くっくっく……判っているさ。リーエが仲間になるわけがないと……
「ふっふっふ……さあ戻るぞ。ヘルヴォル」
「仰せのままに」
我はヘルヴォルを連れてこの世界を後にしたのだった……
そしてまたリーエ達の派閥でもなく、そしてネクロの陣営でもない半ネクロ。ラプスもまた世界を渡っていたのだが
「最近は随分と世界の境界線が曖昧ね。また道が途絶えてるわ」
世界を渡る道が途絶えており、また引き返えさなければならないようだ
(しかしそれにしても急に世界の境界線が曖昧になったわね)
今まではここまで世界の乱れはなかった。しかしここ数日世界の乱れが激しく、思うように移動できないでいる
(それにしても何故?ここまで世界観の乱れはないはずなのに……)
世界は無数の姿を持ち、そして数多の分岐を持つ。それゆえに世界を渡る事が出来る。しかしここ最近はその道が途中で途絶えているのだ……引き返すのを止めて世界の裂け目に腰掛ける
(何か大きく動いているのかしら)
ここまで世界のつながりが乱れるのが自然現象とは思えない……何か特別な力が動いていると思って間違いない……
(魔力の流れはあっちに続いているわね)
世界から少しずつ魔力を奪っているの世界はあっちの方角ね……
「見に行っておきますか」
あの世界で見た石碑の事を思い出す。
(正と邪2つの力を持つ黒き王が己を取り戻す時。崩壊は始まる……黒龍皇を目覚めさせてはならない。××××盟主を止めろ。世界の滅びは近い。滅びの徒を止めよ。そして××××が消え。全ての記憶が零になりし時滅びは始まる……覚醒させよ。××××が全てを救う者となる……)
黒き皇は間違いなく、ジオガディスの事を指しているだろう……そして盟主に世界の崩壊……この全てはどう考えても繋がっていると考えて間違いない……
(この先にいる存在が滅びをもたらす物……すなわち黒龍皇の眠る世界……)
ここまで考えた所で激しい頭痛が私を襲う。それと同時に記憶が蘇ってくる……
「アイヒシュッテト……この先にあいつが」
1度ベルカを滅ぼした皇の名前を今唐突に思い出した。かといって思い出せたのはそれだけだ……これ以上は思い出せない。
(直接見れば思い出すかもしれない)
黒龍皇アイヒシュッテト……それの目覚めが近いのかもしれない。あの当時の皇の全てがその命を賭けてもなお封印する事しか出来なかった狂気の鬼神。それがアイヒシュテット……
「確かめなければ……あの世界にある物を」
魔力の流れを辿っていけば、私はおのずとアイヒシュテットの眠る世界にたどり着くだろう……
「行きましょう。全てを知るために……」
私はそう呟きながら立ち上がり。全ての魔力を吸い込んでいる世界へと足を向けた。その先に何があるのか?なにが待っているのか?私はそれを知るために進まなければならない……
ジオガディスが己の記憶を取り戻し、盟主が動き始め、そして終焉の使者が覚醒を始めた……全ての世界の終焉と滅び……それは確実に迫ってきているのだった……
ドクンッ!
ドクンッ!!
ドクンッ!!!
闇の中で鼓動する脈拍は徐々にその強さを増し、無数の世界から魔力を……そして絶望を吸い上げていた。その負の念を己の糧にする為に……滅びの世界に映し出されていたのは
【グオオオオオッ!!!!】
7枚の翼を持つ、刺々しい姿をした魔龍の姿だった……それは闇の中で己の傷を癒しながら復活の時を待つのだった……そして闇の中で眠る黒龍皇アイヒシュテットの意識は既に覚醒していた……だがまだ動く事ができなかった。故に世界中から魔力を吸い上げ、自身の再生に集中していた。それほどまでに黒龍皇は傷つていた。かつて不完全なときに復活し、8枚あった翼を消滅させられた……無論ただで翼を奪われたのではなく、向こうにも手痛いダメージを与えたが、魔力を吸収する翼を1枚失った事で回復に時間が掛かっている。かつての失敗を2度繰り替えさぬ為に……慎重にそして確実に己の身体を癒す事に集中するのだった……今度こそ全てを滅するために……その憎悪と牙を研ぎ続けるのだった……
第69話に続く
次回はリーエ達のサイドの話になります。ジオそしてカエデの参入でおきるイベントを多くやりたいと思っています。夜天とは違うジオ様をお楽しみください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします