第78話
朝食を終えてから、リーエとアルハリムに先導されて降りてきた砂浜を見て俺は
「魔力の道?昨日俺達が眠ってから何があったんだ?」
確か昨日の夜に魔力反応があったのは判っているが、これはなんだ?と尋ねると
「ヒュぺリオンが導いたのさ。あそこに行けとね?」
ヒュぺリオン。アルハリムが持つ特殊な剣か……そんな能力まであったのかと驚いていると
「ジオ?カエデ溺れてるけど?」
アシラが海のほうを指差す、つられてみると
「がう!!!がうがうがうーッ!!!!」
「にゃー!にゃーっ!!!」
海でばっちゃばっちゃ暴れているカエデとそれを見て慌てた様子で鳴いているラビリル。慌てて海に入っていくジオガディス
「ヴォルガンド。俺はこの雰囲気には慣れそうにない」
「奇遇だな。俺もだ」
カエデやラビリルは別に嫌いではないのだが、どうもあの雰囲気は苦手だ
「大丈夫?」
「ガウ……」
イシュリがタオルでカエデを拭いているのを見て、まあイシュリの教育にはいいのかもしれないとおもう。ジオガデイスは焔で服を乾かしている魔力の無駄使いと思わない程度には慣れている、なんせリーエとかも風呂に入るとかで、魔力で氷を作って溶かして湯を沸かしているからな……俺がそんな事を考えていると
「あちゃー手が全て海にシュートしちゃった」
頭をかきながら砂浜に下りてくるヴィルヘリヤに
「ラビリル。GOッ!」
「……スザク」
「ニャーッ!!!」
「キューッ!!」
アルハリムとリーエの手から飛び立ったスザクとラビリル。その嘴と爪がヴィルヘリヤを捉え
「いったあああああいいいいッ!!!!」
ヴィルヘリヤの絶叫が砂浜に響き渡った。それを聞いた俺とヴォルガンドはこの先のたびに若干の不安を感じ始めたのは言うまでもないことだろう……
魔力の道を通って海の上を歩き遺跡の方に向かってるんですが
「ガウウウウ」
「ああ、大丈夫だ。落ち着けカエデ」
溺れた事が相当怖かったのかジオさんにしがみ付いたままのカエデと
「距離があるから疲れたわよね。おいで」
「うん」
子供のイシュリさんはアシラさんに抱えられて移動している。ゆっくりと遺跡に近づくに連れて
(凄い魔力が集まっている。あの遺跡は一体)
とんでもない量の魔力があの遺跡に蓄積されている。あの遺跡は一体なんなのだろうか?今までのアズタミアと違うのは判るけど……そんな事を考えているうちに私達は遺跡の前に降り立った。それと同時にヴィルヘリヤさんが
「逆封印の呪法?なにこれ?」
頭に包帯を巻いているので締まらないが呆れた顔をしているヴィルヘリヤさんを見ていると
「これはね、魔力を封印する術式なんだけど、これ逆向きに配置されてるのよ。普段は外向きにして結界にするんだけど、これは中の物を封印しようとしてるみたい」
その言葉にアシラさんは遺跡の上のほうを見つめながら
「あそこにも何かあるわよ?あれも逆封印?」
アシラさんの指差すほうを見ると、確かに建物の上部にも何かの術式が刻まれているのが判る。だがあれは見たこともない術式だ
「あれは魔力を集める術式だね。随分と奇妙な遺跡だ。上で魔力を集め、出入り口を封印する。一体これはなんなんだろうね」
魔力を集めて、出入り口を封印する。ただ事ではないのは判る……
「……警戒していきましょう。アシラさん……先頭をお願いできますか?」
私やジオさんを含め、私達が扱うのは負の魔力だ。もしこの遺跡が悪霊等に関連する封印遺跡だとしたら、私達の魔力では分が悪い
浄焔を使えるアシラさんが先頭が一番無難なのだ
「了解。フォローはしてよね?」
BJを展開し、愛用の退魔刀の柄を軽く握り、遺跡の中に足を踏み入れるアシラさん。私はアシラさんの代わりにイシュリさんを抱き抱え、ヴォルガンドさんの後ろについて遺跡の中に足を踏み入れたのだった……
(この場所には何かある。間違いない)
私の第六勘が告げている。この場所には何かある、ちりちりとした静電気が全身に走るのを感じながら、私は遺跡の中に足を踏み入れたのだった……
アシラ・ヴォルガンド・私・リーエ(イシュリ)・ペガサス・ヴィルヘリヤ・ジオの順番で遺跡の中を進んでいるのだが
「どこまで一直線なの?これ」
先頭のアシラの呆れたような声が聞こえてくる。遺跡は入るとすぐに階段になっており、かれこれ5分ほど下り続けているのだが、まだ下には到着しない
「警戒を緩めないで、魔力は強くなってるよ」
「それは判ってるけど何も見えないのよね」
階段を下りるごとに魔力は強くなっている。その証拠に私の肩の上のラビリルの尻尾は立ちっぱなしだし
「ウルルルルルッ!!!」
「カエデも警戒しろと言っている。何かあるぞこの場所には」
ジオにおぶわれたカエデもその目の色を変えて威嚇している。動物の勘は鋭い、この場所に何かあるのは確実なようだ
「広い通路に出たわ!ゆっくり降りてきて!」
アシラの声が聞こえ、前を歩いていたヴォルガンドの背中が見えなくなり、漸く長い階段を降りきり私が見たのは
「これはまた随分と広い場所だね」
とても広い広間に出た。壁全体にも魔力が満ちていた……とりあえず捜索は全員が降りてきてからだね。私は近くに壁を見ながら
(古い割には風化してない。いくら海中にあったとは言えこれはおかしい)
遺跡の概観を見る限り1000年近く経っているはず。それなのにこの場所はまるで作られたばかりのようになっている
(外の魔力を集めて中を保存していた?何のために?)
この遺跡を作った人物は相当な技術力を持っていたに違いない、しかしアズタミアの技法が使われた遺跡。一体ここはなんなんだろうか?近くの壁を調べて推測しながらリーエ達が来るのを待つのだった……
「何もないわね?どういうことかしら?」
中にネクロの気配がなかった事でBJを解除して、周囲を見ながら呟くアシラ
「判らないね。もう少し奥に進まないと何にも言えないよ」
階段の次は広間、広間の先はまた通路だ……周囲を警戒しながら進んでいると
「む?向こうに明かりがあるな?」
ジオが遠くを見てそう呟く、私達には見えないけどジオには何かが見えているようだ。とりあえず今は進むしかないようだね……
「ひう!?」
アシラが背負っていたイシュリが悲鳴を上げる。だが無理もない、光っていたのは
「信じられんな。ネクロが完全に拘束されている」
「だが死んではいないな」
水晶の中に閉じ込められた様々なネクロ達が放っている光だった。完全に拘束され動く気配がないが、まだ生きているのが判る
「……なるほど、入り口の逆封印はネクロが外に出ないようにするために……」
万が一ネクロの拘束が解除されたときに対する備え……と言うことか
「見てみろ。水晶の横のプレートを」
ペガサスに言われて水晶の横を見ると
【×××無人世界にて捕獲】
他の水晶にもいつどこで捕獲したかが事細かく記されていた。
「ネクロを捕まえて何をするつもりだったのかしらね?。よしよし、大丈夫よ、イシュリ」
怯えているイシュリの背中を撫でているアシラ。だがそれは私が聞きたい……とりあえずなんにせよ
「進むしかないね。奥にもっと何かあるのかもしれない」
どんどん遺跡の奥へ奥へと進んでいく。ネクロを捕獲してある部屋の奥にあったのは研究室で
「これは随分とすごいわね。かなり細かくネクロの事を調べてあるわ……かなり稀少な文献ね」
「……ではヴィルヘリヤさんが持っていてください。これから何かの役に立つかもしれませんから」
フラスコやビーカーと言った研究器具が密集した。フロアで研究成果を纏めてあるらしい書物を回収していると
「何がしたかったんだ?この遺跡を作ったやつは」
ヴォルガンドが机の上を見てそう呟く、その視線の先には砕かれたネクロコアがある。何かの器具にセットされていて分析していたのがわかる
「狂人か?こんな世界にこんな場所を作ってネクロの研究?どう考えても狂人の仕業だろう?」
確かにこれだけを見ると狂人を思うのは無理もないが、私は違うと断定していた
「いや違うね。これを作った人物はとんでもなく知的な人物だよ」
ネクロの研究資料を見れば判る。LVごとの固体の分析データが纏められている。耐久力予想や移動力や成長力と言うものが事細かく記されている。これはとても狂人と呼ばれるような人間の纏めたデータではない
「……ネクロの対処法を調べていたのでしょうか?」
「ああ。しかもかなりの科学者であり、そして戦闘力も高いようだ」
あれだけのネクロを捕獲できるのは相当な実力者でなければ難しいだろう。殆ど無傷でネクロを捕らえているのを見る限り間違いない……その研究者の研究データを調べていると、奥から
「リーエ!アルハリム!来てくれ!!」
「ガウガウ!!!」
ジオとカエデの声が聞こえてくる。何かあったのか?と思い、走って奥に向かうと
「これを見てくれ!リーエ達なら読めるだろう!」
石碑の前にしゃがみ込み碑文を読んでいるジオ。言われた通り遺跡の文に目を通す
【黒き龍が、国の上空を飛んでいた。おぞましい何かが、我らの心を蝕んでいく。ああ――■■■■■様、万ざ――】
「!?これは黒龍皇の伝承か!?」
どういうことだ!?アズタミアの人間は黒龍皇となにか因縁があったのか!?ジオを押しのけ遺跡の壁に目を通す
【英雄殿の安眠の為に、我らは国を護る。 忌まわしき黒き者から、英雄殿を護らねば】
黒き者?ネクロの事か?しかし情報が余りに少ない。リーエ達も
「アルハリムが知らない文章なの?」
「かなり古い文書形式ね。アルハリムよりも前の時代?」
この字を読めないアシラと字を読んでから尋ねてくるヴィルヘリヤ。だが今の私にはその言葉に答える余裕がなかった
「他に!他に碑文はないのか!?」
何かを思い出しそうで焦りながらジオに尋ねる。
(私は……知っている。ここを作った存在を……くっ!!思い出せない……!!)
頭の中に何かがつっかえているかのように、思い出せない。もどかしく、違和感を拭えず、不安と焦りが心を支配していく。
【知ってはいけない。だが、知らなければならない】
その想いが、頭の大半を占めていた。今こうしてこの場に来たことで、昨晩私が感じていた違和感が再び形になろうとしている。今のうちにもっとこの遺跡の文書読みたい、先に奥を調べていたジオにそう尋ねると
「碑文は……ないが。着いて来てくれ」
神妙な顔をして進んで行くジオ。そして次にでたフロアを見て
「これは!?」
そこはまるで何かの祭壇だった。台座の上に巨大な何かを収める穴が開いていて、何かがいや
「誰かがここで眠っていたのか?」
研究室に置かれていた文書には、人間の魂を魔力を身体をそのままで保存する研究を始めると書かれていた。もしかすると研究者はこの世界で誰かが来るのを待っていたのかもしれないが……その身体を凍結保存して、何かの伝承を語るために……周囲を確認していたリーエ達の声が聞こえてくる
「……これは何があったのでしょうか?信じられない切断面ですが」
その言葉に何があるのか?と思い周囲を確認する
(この切断面は何をしたと言うんだ?)
その周囲は鏡のような切断面をしている、切り裂かれた岩が無造作に転がっていた……こんな事は魔力を使っても剣を使ったとしても出来はしない。ここで何かあったのかもしれない
「何か襲撃があったのかもしれないわね」
「心臓に悪い光景ねえ……ぞっとするわぁ」
ヴィルヘリヤの言葉は判る。魔力で水を押さえているが、壁は既に存在しておらず海の中が見えていて、落ち着かない。いつあの魔力が消えて海水が雪崩れ込んでくるか判らない。今のうちに遺跡から出るのが一番安全なはずなのだが
(何か頭の中に引っかかる……)
あの文書の筆跡どこかで見たことが……どこで見たかは判らないが、私はあの文字を見たことがある。その謎が解けるまではどうしても遺跡の中からでようとは思えず、周囲を確認しながら考えをまとめる事に集中する
「……え!?きゃあ!?」
「ぬお!?なんだ!?」
何か声が聞こえたような気がしたが、考え事に集中している私の耳には届かなかった。必死にあの文字を思い出そうとしていると突然
【見つけたぞ……小娘!!!】
背筋が凍るような殺気とおどろおどろしい声が遺跡の中に響く。その声に思考の海から引き上げられた私が見たのは
(なんだ!?これは!?)
闇が集まり目の形になる。蛇のような真紅の瞳と目が合うと身体が痺れる。
「なぁ!?逃げるぞ!」
闇が密集し、そこから覗く真紅の瞳。それに信じられない恐怖を感じ引き返すように言うが
「リーエ!?アシラ!?」
リーエ達の姿は無く、黒い空間の中に無数の目が浮かんでいる奇妙な物があり、まさかこれもあいつの仕業なのか!?私が身構えていると
「早く!貴女もこっちへ!!」
空間から顔を出した紫のドレスを身に纏った金髪の女性を見て、助けてくれるのだと理解した私はその空間の中に飛び込んだのだった……今あの存在と戦うわけには行かない、どうしても勝てるとは思えないからだ
【逃がしたか……ならば良い。追うまでだ……】
真紅の瞳はゆっくりとその目を閉じ、溶けるように姿を消したのだった……
第79話に続く
最後のスキマは判る人は判ると思います。あれです、人気があるはずなので大丈夫ですよね?
どことのコラボかは次回で判明します。何の作品とのコラボなのか?楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします