第88話
プーア……プーア……プーア……
奇妙な寝息を立てて畳みの上で伏せているレヴィルを見ながら
「……アザラシって鼻提灯作れるんですね」
「私もこれは予想外だよ」
少しずつ回復してきているアルハリムさんも驚いた顔をしている。レヴィルは池で泳いだり、イシュリさんと遊んでいることが多いのですが、昼寝も同じ位している。そして私の目の前のレヴィルの鼻からは鼻提灯が……アザラシの生態を少し知った気がする
「……トテトテ」
リュックサックを背負ったイシュリさんが部屋の中に入ってくる。そして寝ているレヴィルとその鼻提灯を見て
「そー」
ゆっくりと指を伸ばしてその鼻提灯を割ると
パチンッ!
「アウッ!?」
びくっと身体を動かしたレヴィルだけど、閉じている目を開くことは無く。そのままころりと転がり白いお腹を上に向けると
プーア……プーア……
再び鼻提灯を作るレヴィルに再び手を伸ばそうとしているイシュリさんに
「……レヴィルに用事でもあるのですか?」
折角寝ているのに起こすのも可哀想だと思いそう尋ねると
「……姉上呼んでる」
小さくそう呟いて寝ているレヴィルのお腹に手を伸ばしたイシュリさんは
「こちょこちょ」
「アウ!?アウウウウウ!?」
びくんびくんと身体を揺すりながらおきたレヴィルは目の前にイシュリさんを見ると
「アウ♪」
頭を擦り付けて親愛の情を示すレヴィルの頭を撫でて、よいしょと呟きながらレヴィルを抱えて出て行くイシュリさんを見送り
「これから如何するつもりだい?」
アルハリムさんの問い掛けに少し考える。アルハリムさんの体調も大分回復してきた、そろそろ別の世界に移動してもいい頃合だとは思うのだけど
「……もう少しこの世界にいます。少し気になる事もあるので」
「スラッシャーの事だね?」
アルハリムさんの言葉に頷く。この世界は魔力も薄いし、そしてこの世界の住人はネクロ化させる事ができない。それなのにあれだけ強力なスラッシャーがこの世界に残っていたのには何か理由があるのではないかと思う。それに……
「私を助けようとした存在の事だね」
アルハリムさんの言葉に頷く。アルハリムさんのことを知っているローブの人物。その人物がこの世界にいるかもしれない可能性がある以上そう簡単に移動するのは早計だろう
「……もう少し調べてみましょう。何か判るかもしれないので」
私達がこの世界に来る理由となった遺跡。そしてあの紅い目の謎もある。この世界にはまだ何かあるような気がする
「だね……私も完全に回復にはまだ時間がかかるしね」
「……準備は万全にしておきましょう。何があるかも判らないので」
最近現れる事の多い強力なネクロ。そしてあの紅い目……私達の知らないところで何か大きな事が動いているような気がする。警戒はいくらしても足りない……念入りに準備してからこの世界を後にしましょうと話をしていると
「ミィー♪」
「ニャー♪」
スザクがラビリルを抱えて飛んでくる、ラビリルはその前足で何かを抱えているようで、それを私とアルハリムさんの膝の上に落とす
「木の実かい?ありがとう」
「ミャーオ♪」
「……ありがとうスザク」
「キュー♪」
2匹に差し出された木の実を少し齧ってみる。小さい割にはしっかりとかみ応えがあり、とても甘い
「……美味しいですよ」
「うん。これは中々だよ」
私とアルハリムさんがそう言うとますます嬉しそうに鳴くスザクとラビリルに笑みを零しながら、その木の実をゆっくりと齧るのだった
博麗神社に滞在して5日目。そろそろこの世界を移動するのかと思っていたら、リーエとアルハリムはまだこの世界を移動するつもりは無いらしく、この世界で調べ物をしたいと言っていた
「遺跡か。何か見たか?ジオ」
ペガサスの問い掛けに俺は首を振る。カエデと散歩をするついでにこの世界を随分と調べたがそれらしい物はなかった。
「うーん。あたしとかも随分と見て回ったし、魔理沙とか霊夢にも手伝ってもらったけどそれらしい物はなかったけどね」
ただ何もせずに5日も過ごしたわけではない。俺達だってちゃんと考えてこの世界の事を調べていたのだ。
「既に破壊されたもしくはこの世界にはそもそも存在していない。その可能性はどうだ?」
ヴォルガンドが俺やアシラの考えていることを言う。リーエも時折捜索に出ていたのだから、その可能性は充分に考えていたのか考え込む素振りを見せている。
「んーそれらしい所は一通り紹介したしね、魔理沙は他に心当たりは?」
「ないんだぜ?私が知ってる限りは全部教えたんだぜ」
この世界に住む魔理沙と霊夢が言うなら、これ以上は無い可能性が……
「アウーッ!!!アウーーーーーッ!!!」
もうこの世界を移動したほうがいいのでは?と言う雰囲気になったとき、イシュリに魚の切り身を与えられていたレヴィルが大きな鳴声を上げる
「ガウ?」
「ミャー?」
同じように餌を食べていたカエデとラビリルが首を傾げる中。それでも必死に何かを伝えようとしている
「何か知ってるの?レヴィル?」
イシュリがそう尋ねると尻尾を振りながら
「アウッ!アウアッ!アウアーッ!!!」
何かを伝えようとしているのは判る。だが1つ致命的な問題があった
「誰かこの中にアザラシの言葉を判る者は?」
無論誰もいるわけが無い。そもそも初めてアザラシを見るものが多いのだからなおの事だ。
「案内できるのかしら?それなら教えてくれる?」
「いや無謀だろ?レヴィルだぞ?」
ヴィルヘリヤの言葉にペガサスが突っ込みを入れる。レヴィルはアザラシだから移動速度がかなり遅い。そんなレヴィルに案内されることを考えれば一体何時間かかることやら……
「アウアー!」
気合を入れた声でレヴィルが鳴声をあげると、レヴィルを包み込むようにして水が空中から溢れ出る
「ちょっ!?畳み!!」
霊夢がそれを見て怒鳴るが、不思議な事に畳みは濡れていないそれ所か
「アウー♪」
レヴィルの全身を包み込んで、プカプカとその姿を浮かせている。こんな事ができたのか、随分と器用なアザラシだ
「すごい!」
レヴィルはイシュリをその背中に乗せて、その水の中を泳いでいる。レヴィルが泳ぐと水も動くようであっちに行ったり、こっちに来たりしている。中々のスピードで動いているその姿を見て
「この移動力ならいけるかもしれないね。そこそこ早いじゃないか」
アルハリムがそう呟く。カエデとラビリルの歩くスピードと殆ど同じだ、これなら後を着いて行くのもいいだろう
「アシラ。どんどんイシュリがたくましくなっているな」
「そうね、いい傾向じゃない?」
イシュリの世話をしているアシラとペガサスがそんな話している。俺は最近仲間になったばかりだから、あんまり違和感が無いがイシュリはかなり引っ込み思案だったらしいので、これはかなり進歩しているのだろう
「アウー」
イシュリを背中に乗せたまま泳ぎだす(?)レヴィル。早速案内してくれるようだ
「……案内してくれるみたいですね、霊夢さん少し出て来ます。おいでスザク」
「キュー♪」
スザクは定位置のリーエノ肩の上に止まる。俺は木の実を齧り終えたカエデに手を伸ばし
「行くぞ」
「ガウ!」
ちょこちょこと歩いてきたカエデを抱き上げて庭に出る。水を美味くコントロールして階段を下りていくレヴィル
「器用ねえ……あれもしかするとシャワーとかお風呂に流用できるんじゃない?」
「その可能性はあるね。丁度いい岩を削ってそこにレヴィルの能力で水を溜めればいいんだよね」
「……お湯はスザクの羽で調整すれば良いですね。これで少しは埃っぽいのから解放されますね」
「いいネクロが仲間になったわね。今まではラビリルの氷を解凍してたもんね」
きゃいきゃいと楽しそうに話をしているヴィルヘリヤにアシラとリーエとアルハリム。俺はカエデを抱えたまま少し下がり
「こういう時の温度差が俺には耐えられん」
半ネクロではあるが人間としての感性もある。俺はどうしてもあの黄色い声を言うか女子だけの話がどうも苦手でそう呟くと
「私もです。ジオガディス様」
同じように渋い顔をしているヴォルガンドがそう言う。俺はその言葉に眉を顰め
「様は止めろ。敬語もな」
俺はもうネクロの王でも何でもないと言うのに。ヴォルガンドの奴め相変わらず頭が固い。ペガサスだけは少し遠い目をして
「慣れるんだな。どこの世界でも男の形見が狭いというのは当然の事だ」
何か嫌な思いでもあるのだろうか?若干引き攣った顔をしているペガサスに
「何か嫌な経験でもあったのか?」
興味が沸いて尋ねるとペガサスは遠い目をしたまま
「ノーコメント。ただ女は怖いぞ」
何か絶対嫌な経験をしているであろうペガサスの言葉に俺は大きく溜息を吐きながら
「知りたくないぞ。そんな話」
「ガーウ?」
俺達の会話の内容を理解できていないカエデが俺の腕の中で首を傾げるのを見ながら、レヴィルとイシュリの後を追って歩いていくのだった……
イシュリとレヴィルが案内してくれたのは大きな湖の前だった
「アウ!アウ!」
この中だよと言いたげに鳴くレヴィル。少しその湖の中を覗き込むが相当な深度がありそうだ……
「……私とアルハリムさんとヴィルヘリヤさん。それと水中を案内してくれるレヴィルとイシュリさんにアシラさんですかね?」
リーエがざっとメンバーを決める。古代ベルカ語が読める面子になるのは当然のこと、レヴィルに案内して貰うのだから飼い主のイシュリも当然同行だ。そして文字が読めない面子は
「……準備が良いですね」
リーエが感心したのか?呆れたのか判らない。多分後者かもしれない、釣竿をスタンバイしているジオ達は
「どうせ読めないのだから少しでも食糧確保だろう」
「うむ。読めないしな」
戦闘派のヴォルガンドとペガサスは解読する事を完全に諦めた感じで告げる。その後ろのジオは
「読めるが面倒くさいので断る」
駄目人間だ……それかストレスでも溜まっているのかよっぽど釣りがしたいのかもしれない。私はその可能性が高いと判断して、これ以上何かを言うのは止めることにした
「それじゃあ、案内を頼める?」
水中の中に潜っていくために私とリーエでプロテクションを発生させ、アシラとヴィルヘリヤはいざと言う時の戦闘要員だ
「アウーッ!!!」
気合を込めて一鳴きして、湖に潜っていくレヴィルの後を追って私たちも湖の中に入って行った
「かなりの深度があるわね……それに泳いでいる魚を見ると陸封ね」
ヴィルヘリヤが周囲を見ながらそう呟く。確かにかなりの深度があり、そして海の魚が泳いでいる
「もしかするとあの遺跡の海なのかもしれないわね」
私達がこの世界に来る原因となった遺跡があるのかもしれない。アシラと私はそんな真面目な話をしている隣では
「アウー」
「「ほう……」」
水の中を自由に動き回り、水でわっかを作ってイシュリとリーエを楽しませているレヴィル。おかしいね?真面目話をするはずなのに……どうしてこんなことになってしまったのだろうか?私はそんな事を考え、早く遺跡に着かないかな?と思うのだった……
「見えてきたわね。やっぱりあの遺跡の残骸ね」
深い湖のそこに沈んでいた……いや何かの結界で自身を護っていた遺跡のつくりは、遠めにしても判る。あの遺跡の残骸だ……
「こんな所にあれば誰も気付かないわね。レヴィルがいてよかったわ」
確かにこの湖の存在は知っていたが、まさかこんな物が沈んでいるとは思わないのでノーマークだった
「アウー」
遺跡の中に潜り込んでおいでおいでと呼んでいるレヴィル。危惧していた戦闘はなかったことに安心し遺跡の中に降り立つ
「……殆ど何もないですね」
辺りを見たリーエがそう呟く。壁があるから中身があるように見えたが、実際は殆ど何もなかった……
「うーん……外れなのかしら?}
「その可能性もありそうね」
ざっと見ても隠し通路などはない、もしかして来ただけ時間の無駄だったのか?と言う考えが私の頭を過ぎるが
「アウ!アウー」
「呼んでる」
私達を呼ぶレヴィルの声とイシュリの後を着いて行くと……白い尻尾が壁に突き刺さっていた、それは言うまでも鳴くレヴィルだった……信じられない光景を見た私達は
「刺さってるわね」
「刺さってるわね」
「……刺さってますね。どうなっているんですか?」
「刺さってるねぇ……この岩は見た目より柔らかいのかな?」
レヴィルが遺跡の壁に刺さっていた。尻尾がじたばたしているのは可愛らしいが、とてもシュールだ
「レヴィル!?」
イシュリが慌ててその尻尾を掴んだ瞬間。気合の入ったレヴィルの鳴声が響き。2人の姿は壁の中に消えていった……もしかして私が壁に触れるとすっと腕が壁の中に吸い込まれる
「幻術だね。やれやれ……私達が気付かないとは……相当腕の良い術者が居たんだろうね」
半ネクロである私達を騙すほどの幻術……きっとこのおくには……確信を持って壁の中に踏み込む。そこには
「やっぱり……」
あの遺跡の削り取られた部分。誰かが眠っていたであろう装置と複数の石碑……そして
「アウ?」
「ぎゅー♪」
レヴィルを抱っこして座り込んでいるイシュリ。……彼女は好きにさせておいていいと判断して
「調べようか。リーエ、ヴィルヘリヤ」
同じようのこの中に足を踏み入れてきたリーエとヴィルヘリヤにそう声をかける。前の世界であった碑文、それは私と何者かの存在を示唆していた。きっとここにはその続きがある……私はそう確信し、一番近くの碑文に目を向けた。そこには予想通り、あの石碑の続きが刻まれていた
【黒き者が軍団を率いて国を攻めて来た。英雄殿がお護りしたこの国を、何としても――】
「……この黒き者と言うのはネクロでしょうね」
リーエが石碑を読みながらそう呟く、だが私の記憶ではネクロの襲撃は1回だけだったはず……
(私の記憶が間違っているのか?)
この石碑を読むたびに違和感がドンドン私の中に生まれる……正しいと思っていた記憶が違うのか?
【……生き残った私が綴ろう。黒き龍が上空を飛んでいる時、私の目の前にいた人が急に黒き者になった。まだ意識があるようで、私に殺してくれ……と言ってきた……ア■タ■■の誇りを護るの為に、殺した。あのお方なら、この状況を打破出来るのだろうか……】
「この石碑を見る限り、どうも話が繋がらないわね……となと業と分断して記録したって事かしら?」
ヴィルヘリヤが顎の下に手を置いて呟く。確かにこの遺跡の文と前の遺跡の文を会わせても。どこかが抜けているような気がする……
「他にもまだあるんでしょうね。この遺跡みたいな感じで、なら探せばいいじゃない。どうせまだ旅は続くんだから」
アシラがそう呟く。確かに私達の旅はまだ終着点など見えはしない……どこまで続くか判らないのだから気長に探せば良い
「そうだね。この石碑の文だけでも記録しておこうか」
あの遺跡の文もしっかりとメモしてある。後でうまく組み合わせて話が繋がるように考えれば良い……そんな事を考えていると
「……アルハリムさん。これはもしかして……」
リーエが見つめているのはポットのような物だが、肝心の中身がない。これはアズタミアに存在していた
「封時の機械だね。1回しか使えないけど、中の人物を完全に保存する機械だ。無論魔力がないと使えないけどね……」
私に覇の技を使えといった人物はやはりアズタミア関係のある人物なのは間違いないだろう……そんな事を考えながら、その周りを調べていると
(これは?)
何かの家紋の刻まれたバッジの様な物を見つける。だがそれはアズタミアの紋章ではない……この中で眠っていた人物の物だろうか?これも何かの手がかりになると思い、自分のポケットの中にしまい
「もう少し調べてみようか。まだ何かあるかもしれない」
この遺跡には複数の幻術が掛けられているようだ。もしかするとまだ何かあるかもしれない、私はそう判断してアシラとヴィルヘリヤ、それにリーエと
「アウ♪」
「頑張る」
任せてくれと言う感じで鳴くレヴィルと、小さい握り拳を作ってやる気を見せているイシュリ
「期待してるよ」
意外と索敵能力が高いレヴィルと直観力の高いイシュリ。このコンビはかなり良いコンビになると思う、来たときと同じようにレヴィルの背中の上に座って移動するイシュリを見ながら、私も近くの遺跡を調べ始めるのだった……
「釣れんな」
「全くだ」
残された男連中は釣り糸を垂らしていたのだがノーヒット。そもそも釣りなどしないペガサスとヴォルガンドは本当に釣り糸を垂れているだけだ。ジオだけはなんとしても釣ると思っているのか
「今度はこれだ」
ルアーを替え、あれやこれやと投げ込んでいる。ペガサスは釣りに飽きたのか竿を地面に突き立てて、寝転び始めている。
「ガウガウ」
「ミャーミャー」
「キューキュー」
小動物たちが鳴いているのを無視して眠りに落ちるペガサス。ヴォルガンドも飽きてはいるが、1匹は釣るという意地で釣りを続けている……日の明かりも届かない湖の底で捜索を続けているリーエたちと違い。のんびりとした時間を過ごしていた
「カエデ……もうお前しかいない」
「ガウー!?ガウガー!!!」
あまりに釣れなくて切れたジオがカエデの胴体にロープを結び、放電させて一網打尽にしようとするとんでもない一幕があったりするが、基本的に平和な時間を過ごしているのだった……
第89話に続く
次回でコラボの話は終了になります。今後の物語に重要なポイントになる話を複数用意しているので楽しみにしていてください
それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。なおアザラシが鼻提灯を作るかどうかはしりませんので、そこはスルーでお願いします