第88話
この世界での遺跡を調べ判ったことを博麗神社で纏める。こういうのに向いていないジオとペガサス、それにヴォルガンド。それとイシュリは邪魔になるので庭に出した。ジオとイシュリはカエデとレヴィルと遊んでいるし、ペガサスとヴォルガンドは組み手を始めていた。やはりこういうのには向いてないと思ったのは間違いない
「……可能性としてですが、アズタミアの住民は黒龍皇に襲われた事があるのではないですか?」
この世界に来る理由になった遺跡とこの世界の湖で見た遺跡。その内容から導き出されるのはそれしかないが
「私にはネクロと戦った記憶はあるが、黒龍皇に関する記憶はない」
何度思い出してもこれだけはいえる、しかし今の私には確実にこうだと言えない理由がある。
「記憶があやふやなんでしょう?そう断言してしまってもいいの?」
アシラの問い掛けにうっと呻く。確かにそれを言われるときつい……だけど私の中ではこれは確かな記憶だと言えるのだが……
「まずはぁ~今までの遺跡の情報を纏めましょうよ~?それが何よりも優先だと思うわぁ」
にこにこと笑いながら言うヴィルヘリヤ。普段は何を考えているの判らないし、馬鹿なことしか言わないが、真面目なときは真面目だし、一応古代ベルカの学者らしいので頭は切れる。ヴィルヘリヤは目を閉じて謳うように
【黒き者が軍団を率いて国を攻めて来た。英雄殿がお護りしたこの国を、何としても――】
【……生き残った私が綴ろう。黒き龍が上空を飛んでいる時、私の目の前にいた人が急に黒き者になった。まだ意識があるようで、私に殺してくれ……と言ってきた……ア■タ■■の誇りを護るの為に、殺した。あのお方なら、この状況を打破出来るのだろうか……】
【黒き龍が、国の上空を飛んでいた。おぞましい何かが、我らの心を蝕んでいく。ああ――■■■■■様、万ざ――】
【英雄殿の安眠の為に、我らは国を護る。 忌まわしき黒き者から、英雄殿を護らねば】
「覚えていたのかい!?」
淀みもなくすらすらと言うヴィルヘリヤ。私のメモは急いでいた事もあり、少し省いている部分もある。それに比べてヴィルヘリヤは完全にそれを暗記していた
「はい。これね?一応メモしてあるから、リーエ達にも渡しておくわ」
はいっと手渡されていた紙を見る。一字一句完璧に記録されている
「意外と凄いのね。ヴィルヘリヤ」
「意外じゃなくて~私は結構凄いのよ~♪」
かるくウィンクしながら言うヴィルヘリヤ。普段の行いから馬鹿で変態と言うイメージが私達の中にあるが、やはり元学者だけあってしっかりしている
「私の推測だけどねえ?これはまだ少し石碑が残っているから特定できないけど……アルハリム。貴女の親しい人が記録したんじゃないかしら?」
そう言われてもね。私の記憶はここ最近あやふやになっているから何とも言えないのだが……
「……何とも言えないのではないですか?アルハリムさんに無理をさせるのも良くないですし」
リーエの言葉に小さく頷く。無理に思い出そうとすると頭痛がする、これは今までになかった経験だ……それは恐らくだが
「記憶を思い出すことを身体が拒否しているのか。それとも……記憶を封印されているか?のどちらかね」
「なんとも難儀な話だね。私自身には思い当たる節がないんけどね」
あるとすれば記憶の違和感程度。それが記憶が間違っている証拠と言えばそうだと言えるし、違うといえば違うだろう……
「まずはもう少し石碑を探してみるといいかもしれないわね~それを見つければ記憶も戻るかもしれないし」
戻るというのは果たして正しいのだろうか?私の中ではそこの記憶だけすっぱりと抜け落ちているというほうが正しいような気がする。もしくは
(意図的に削り取られているか)
記憶喪失と言う割には違和感がない。強いて言うなら布を切り、それを後をなく繋いだという感じがしなくもない
「……旅を続けるうちに記憶が戻るかもしれないですね。もしくは、あの遺跡の中で眠っていた人物を見つける事ができれば良いですね」
リーエが顎の下に手を置いて呟く。確かにその通りだろう……あの時スラッシャーと戦った時に現れた謎の人物。それが私の記憶に関係している可能性が高い
「でもそれらしい人物はこの世界にはもういないと、となれば世界を移動するしかないわね。もう体力と魔力は大丈夫?」
アシラの問い掛けに頷く、覇の技で消耗した体力と魔力は既に回復している。そろそろこの世界から移動してもいいだろう。この世界の住人の人達は全員スラッシャーから解放された。まだ目覚めてはいないが、時間が経てば目覚めるだろう。とりあえず、情報を集めるのは終わりだ。何せ手持ちの情報はこれで終わりだから
「話は済んだ?夕食の準備が出来たけどもう良いかしら?」
霊夢が襖を開けて尋ねて来る。外を見ると既に夕日となっていて
「結構話し合ってみたみたいね。手伝う?」
アシラが立ち上がりながら尋ねると霊夢は
「もう準備が出来てるし、イシュリも手伝ってくれたから大丈夫よ」
その言葉に少し驚く、私達は霊夢を見て
「「「イシュリが手伝ったの!?」」」
「え、ええ……そうだけど?」
信じられないあの人見知りの激しいイシュリが出会って数日の霊夢の手伝いをする。信じられない成長だ
「……レヴィルのおかげですかね?」
「かもしれないね。良い傾向だよ本当に」
あれだけ人見知りで内向的だったイシュリが自分から動いたという事に軽く驚きながら隣の部屋に向かうと
「姉上。私手伝いしたよ!」
「アウア!」
「ガウガウ!!」
イシュリが机の上に箸を並べ、レヴィルとカエデが頭の上や背中の上にお皿を乗せて運んでいた
「賢いんだぜ!本当に」
「ニャー」
「キュー」
スザクとラビリルも手伝いをしていた。その愛らしいとも取れる仕草に笑みを零しながら座布団に座る
「随分と遅かったな。話はまとまったのか?」
縁側で緑茶を啜っていたペガサスがそう尋ねて来る。昼前に話し始めて。終わったのが夕方、そして結論は
「特に進展はないよ」
「……とりあえず別の世界に行ってから考えましょう」
この世界ではもう調べる事はない。とりあえず世界を移動して、遺跡とこの世界にいた人物を探す事を第一にすることにした
「それが妥当か……まぁとりあえず飯にしよう」
もう我慢できないのかそう言うジオに苦笑しながら、
幻想郷での最後の夕食を食べる事にしたのだった……
~翌朝~
ゆっくりと休んだ次の日。博麗神社の前で霊夢と魔理沙そして紫達に
「……お世話になりました」
「世話になったのはこちらのほうよ。ありがとう、リーエ。それにアルハリム」
そう笑う霊夢。短い間だけど楽しい時間だったとおもう
「もうネクロが来るとは思えないが気をつけろよ」
ペガサスが霊夢達に言うと魔理沙が笑いながら
「心配ないんだぜ!リーエがくれた武器も在るしな」
リーエの能力で作った剣はネクロに対してもある程度の効力を発揮する。護身程度にしかならないが、無いよりかはましだろう
「さてといつまでもこうしていると名残惜しくなるから送るわ。私が貴方達を幻想郷に引きずり込んだ遺跡に戻せばいいかしら?」
紫の言葉に少し考える確かにあの遺跡は興味深かったが
「もうあの遺跡に戻っている可能性はないわね」
「だな。別の世界に行くほうが得策だろう」
アシラとヴォルガンドの言うとおり、あの遺跡のあの人物が戻っている可能性は限りなく0だ。2度手間になるくらいなら別の世界に行ったほうがいいだろう
「……その話ですが、1度ネクロの隠れ里に向かおうと思うので結構です」
ネクロの隠れ里?確かリーエの話で何度か聞いた半ネクロの集落だったか?
「そこになにかあるのか?」
態々送ってくれるという紫の遮って言うリーエにジオが尋ねるとリーエは
「……私1人では危険なので潜る事のなかった遺跡があります」
それは確かに興味深い話だ。半ネクロの集落にある遺跡。何かあると思って間違いないだろう
「そう。じゃあ私は必要ないわね。またどこかで、そうね……今度は平和な幻想郷に来て頂戴。歓迎するわ」
そう笑う紫達に頷き、私達は幻想郷を後にし半ネクロの里へと向かうのだった……そしてそこで私達を待っていたのは、予想だにしない人物だった
身体の傷が回復しない、それに魔力も減少を続けている。多分さっきの攻撃の後遺症だろう……
「はぁ……はぁ……危ない所だった」
どこかも判らない石造りのじめじめした場所。恐らく何処かの遺跡だろう……転移がギリギリ間に合い、逃げ出すことが出来たが……本当に危ない所だった
「あれが黒龍皇……思い出した、私はあれを知っている」
壁に背中を預け荒い呼吸を整える。体力と魔力は限界まで消費してしまったので不味い……意識を保つ事ができない
「……す、少し……休もう」
目を閉じて眠りに落ちる、こんな状況で眠るのは危険だが、幸いにもネクロの気配なく、代わりに感じるのは半ネクロの魔力しか感じないので危険性はないだろう……それに眠っていたとしても敵の気配を感じれば目を覚ます……私は目を閉じそのまま眠りに落ちたのだった……だが眠りに落ちたはずの女性は直ぐに目を開き
「漸く表に出れたわね」
ふーと溜息を吐きながら立ち上がり服の埃を払う
「ちょっと体は痛むけど大丈夫そうね」
ポケットから紐を取り出して髪を縛りなおす
「黒龍皇はもう目覚めている。少しは準備をしないと不味いからね」
その女性はさっきまでの女性の口調と違い。柔らかい口調と優しい光をその目に宿し遺跡の奥へと進みだす
「暫く身体を借りるわね。ラプス」
女性ラプスに身体を借りると呟いた女性はゆっくりと遺跡の奥へ進みながら
「少しだけ手助けしてあげる。聖魔王……」
本来は私の役目ではないけれど、きっとここに来たのも何かの運命。
「貴方の剣を返してあげる」
ここに封印された聖魔王の剣。ネクロと聖王の魔力の両方を扱う事のできる聖魔王のためだけに作られた剣。しかしその威力は凄まじく、黒龍皇との戦いの後にこの場に封じられた。その後何代か続く聖魔王の家系の中でこの剣を知るものは居ない。初代の聖魔王がこの場所の事を伝えることを良しとしなかったからだ
「それに聖魔王には封印を解除できないしね」
封印された剣を解放するには、聖魔王以外の皇の力が必要とされている
「全てを知る者・救世の皇・幼き英雄。そして私と聖と邪の皇……」
確かラプスの記憶で知っているが、聖魔王と幼き英雄は一緒に行動しているはず。幼き英雄と私が居れば封印は解除出来る筈だ……
「とは言え顔を見せるわけにはいかないしね」
まだ私が会う事は許されない。ラプスなら問題がないんだけど、私は駄目だ
「封印を解除したら……休もう。さすがに疲れてる」
足を引きずりながら遺跡の奥へと向かう。意識が目覚めたのはいいけど、ダメージも共有しているから私も痛む身体に眉を顰めながらゆっくりと遺跡の奥へと進んで行くのだった……
幼き英雄の追っ手に出していたスラッシャーの魂が戻ってきたのだが……
(劣化している)
何があったのかは判らないが、スラッシャーの魂の一部が欠損している。
(何をした幼き英雄……)
判らない、幼き英雄とは長い事戦っていたが、全ての能力を知っているというわけではない。それに魂が劣化しているとしても、戦闘力自体には問題はない。むしろ甘さや優しさを失ったスラッシャーの今の魂の方が使い勝手が良いとも言える……
「見失ったのが痛いな……あの女のせいか」
先ほど戦った女の魔導師。取るに足らない相手だったが……少しだけ監視の目を緩めてしまった。その隙に幼き英雄たちを見失ってしまった……
「少しばかり休むとするか……」
我も少しばかり消耗した。無論この程度で復活が遅れるということはないが、少しだけ休む事にしよう……周囲の魔力と負の念を取り込み、回復に集中するのだった……
(しかしあの女……どこかで見たような……)
どこかで見たような気がする……それにあの魔力もどこかで……確かにどこかで見た気がするのだが思い出せない……ほんの一瞬にも満たない闘いだったが、どうしてもあの女の存在がどうしても気がかりだった……どこか、そうどこかで見たのだが……
(星光に似ているのか)
記憶の中にある忌まわしき5人の1人に似ているのだと気付く、だが魔力も戦闘技術もまるで違う、他人の空似だと判断し我は目を閉じ今度こそ眠りに落ちたのだった……
だがこれがあともうほんの少し遅ければ気付いていただろう。遠く離れた半ネクロの里で目覚めた女の魔力に
その魔力こそが、かつて己を滅ぼした存在の1つであり……
2面性を持つ存在だったという事に……
私は誰……私はどこへ行きたいの……
判らない……ワカラナイ……
どこかに私の居場所があったはずなのに……
その場所がわからない……
帰りたいと思うのに……
どこに行けばいいのか判らない……
帰りたいのに……
私にはやらないといけない事があるのに……
うう……あったはずなのに……
私は……私は……どこへ行けばいいのだろう……
どこまでも落ちていく感覚……
不思議と恐怖はない……
ただ思うのは……
私が何者なのか……
どこへ向かっているのか……?
ただそれだけが気になるのだった……
私はどこまでも落ちていくその感覚に身をゆだね。眠りに落ちるのだった……
第89話に続く
次回は半ネクロの里の話を書いていこうと思います。
意外な人が居たりするので楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします