第89話
幻想郷と呼ばれる異郷を後にした俺達はリーエの転移魔法で半ネクロの里に訪れていたのだが
「森林だな。村はどこにあるんだ?」
俺達が今いるのは山の中腹の辺り。周囲を見るが村や人の姿は見えない
「……村はこの山の麓です。直接転移する事もできますが、あえてしませんでした」
何故そんな回りくどい事をしたのか判らず俺達は首を傾げる。態々遠回りする必要なんてないはずなのだが……
「……この近くに遺跡があるんです。まだ中を調べはしませんが、一応見ておいたほうがいいと思ったんです」
遺跡……半ネクロの里に来たのはそれが目的なのだから。先に見ておくのも悪くはないだろう
「ぱっと見それならしいのは見えないけど……どこにあるの?リーエ」
アシラとヴィルヘリヤが周囲を調べながらリーエに尋ねる。リーエは確かと呟き……
「……こっちだったと思います」
自信なさげなその言葉に少しだけ不安になる……とは言え目的が遺跡にある以上……一応この山を調べる必要がある。
「まぁとりあえず調べればいいだろう。特に危険な気配もないしな」
「ガウ!」
カエデを背中に背負ったジオが山の中を進み始める。確かにここであーだこーだと話していても意味がない。まずはその遺跡を調べるべきと言うことになり俺達はゆっくりと山の中を歩き始めたのだった……
「変な場所だな。雰囲気がどうもおかしい」
俺の隣を歩いているヴォルガンドがそう呟く。索敵タイプではない俺達でも感じ取れるほどにこの山は妙な魔力に満ちている……敵の気配はしないのだが、この気配のせいで常に気を張っている
「……嫌な感じですね。前はここまで進めれませんでしたね」
前を歩いていたリーエがそう呟く。確かにこの山は1人では進もうとは思えないだろう……
「♪♪」
「アウー♪アウアウー♪」
なおネクロではない上に魔導師としての適性も低いイシュリは背中に背負ったレヴィルと歌いながら歩いている。その姿に若干のたくましさを感じていると
「ガウガウ!」
ジオの背中の上から飛び降り、周囲の木に頭突きを繰り返し、木の実を集めているカエデがその小さい手に大量の木の実を抱えてご満悦と言う表情をしている。
「気を張っていなければいけないはずなのに、何故こうも脱力してしまうんだ」
「……慣れろ」
溜息を吐くヴォルガンドにそう呟く。もうこの雰囲気に慣れるしかないのだ。真面目にやっていると苦労するだけだ……
「大分近くなってきたわね。警戒を強めた方が良いわね」
周りを調べながら歩いていたヴィルヘリヤがそう呟く。俺たちには感じ取れない何かを感じ取っているという事だろう。その証拠にアルハリムの肩の上のラビリルが尾を立てて警戒している。いつでも戦闘できるように身構えながら最後の茂みから抜ける。すると目の前に飛び込んできたのは巨大な石造りの門だった……
「これがその遺跡かい?リーエ」
アルハリムが門に触れながら呟く。リーエはそうですと頷きながら
「……どうやらこの山全体が遺跡だと私は推測しているのですがどう思いますか?」
「まぁその可能性は高いわね。どっちかと言うと、遺跡から木が生えて、山になった感じね。どっちにせよこれは入念な準備が必要だと思うわ」
この遺跡をどうやって進むか?と話し合っていると
「この場所は危険です。はやく村……へ?」
茂みを掻き分けて姿を見せたのは、銀髪にコバルトブルーの目をしたカソック姿の青年だった……
(この男どこかで?)
どこで見たかは覚えていないが、確かに見たことがある……俺が身構えていると
「……シリウスさん。お久しぶりです、今戻りました」
リーエが頭を下げながら言う。どうやらこの半ネクロがこの集落の指導者と言う所なのだろう
「初めての方もいるのでご挨拶を。私の名はシリウス。若輩の身ですが、この集落を纏めております。このような場所で立ち話もなんなので、宜しければ私の家へどうぞ」
そう笑うシリウス。敵対しようと言う意図は感じないが……何故か俺は警戒を解く事が出来なかった。どこかであったかもしれない。それがどうしても引っかかっているからだ
「ここはシリウスの善意に甘えさせてもらおう。この遺跡を調べるのにも準備がいるだろうしね」
アルハリムの言葉に頷き、俺達はシリウスの先導で山の中を降りていく、どうやら村から直接くることが出来るように道が整備されているのか非常に歩きやすい
「ようこそ、ここが半ネクロの集落ですよ」
シリウスの先導で訪れた村は木で作られた家が建ちな並ぶ素朴と言う印象を受ける村だった……俺の知る街や村とは違うが……どこか懐かしいと思う村だった……
あのシリウスと言うネクロは普通じゃないね。案内された大きな家の中で私はシリウスを観察していた、穏やかな風貌をしているが……
(随分と濃厚な血の気配を纏っているね)
それは既に死の気配とも言える。この半ネクロはかなり危険なのかもしれない。私やアシラ達が警戒している中リーエは顔見知りなのか、全く動じる気配がない
「……暫くこの集落に滞在したいのですが良いですか?」
リーエの言葉にシリウスはふむっと小さく頷き
「最近新築した場所があるので、そこに滞在すると良いですよ」
そう笑うシリウスだったが、尾も出したように苦笑しながら
「この村はあんまり食べる物がないので、基本的には木の実とかになりますけど……魔力に満ちているのでそれなりに美味しいと思いますよ」
木の実かぁ……机の下に全員の視線が集中する。そこにでは
「ガウ?」
「にゃう?」
「キュー?」
「アウ?」
「なーに?」
ちびっ子連盟が座り込み。カエデがさっき取ってきた木の実を既に食べていた、それを見たシリウスが
「それです。中々に美味しいですよ?」
既に食べている面子もいるけど、態々言うくらいならきっと美味しいんだろうと思う
「あの遺跡を調べるというのはわかりますが、あの場所はそれなりに危険なのでしっかり準備をしてからにすればいいでしょう。魔力と体力を完全に充実するまで待つと良いでしょう」
確かにあの周囲の魔力を見ると確かにしっかり準備をしたほうが良いと言うのは良く判る。
「じゃあまずはその場所で休ませてもらうわ。シリウスさん」
「それが良いでしょう。獣はいませんが魚は放流しているので捕まえて来て食べて頂いてもいいですよ」
そう笑うシリウスに頷き私達はシリウスの家を後にして、使うと良いと言われた家に向かいながら
「お前は気付いているのか?あの半ネクロの気配に」
シリウスの家から離れた所でヴォルガンドがそう尋ねるとリーエは
「……気付いていますよ。死の気配を持っていますが、あの人は良い人です。そんなに警戒しないでくださいね。この集落の人は皆シリウスさんを信頼しているので」
確かに周囲から私達を窺っている半ネクロ達は警戒するような顔をしている。それだけシリウスが信頼されているのが判る
(下手な行動をすると不味いね)
シリウスはよほど信頼され、頼りにされているのだろう。ここは友好的にすごすべきだろう……
「大きな家ね。これは良い場所ね」
見えてきたのは確かに大きな家だった。私達全員でも余裕で過ごせるだろう……
「あーまずはゆっくり休みましょう?あの遺跡ところで疲れたわ」
ヴィルヘリヤがそう呟く、幻想郷で休んではいたがあの世界は魔力が少なかったので、確かに自分達では気付いていなかったが、こうして魔力の多い場所に来ると疲れているというのが判る
「……少し休んで準備を整えてから遺跡の事を考えましょう。まずは休みましょう」
リーエも疲れているのかそう呟く。私達も疲れているのでとりあえず部屋に入り、各々眠りに落ちるのだった……
(ここは……)
寝ている筈なのに私の意識ははっきりしていた……
(もしかしてここに私に記憶に関する何かが……)
あの遺跡はもしかすると私にも何か関係があるのかもしれない。アズタミアの遺跡ではないが、もしかすると私の違和感のある記憶の謎が解けるのかも知れない。
(やはりあの遺跡なのか)
まだ山になる前の遺跡。背中しか見えないが、間違いない。あの背中は私だ……だが私の隣には一組の男女の姿があった。1人はくすんだ金髪の青年。もう1人は茶色の髪をした女性だ
(誰なんだ)
背中だけだが親しいというのが判る雰囲気をしている……誰なんだ……あの2人は……
【この場所に封印しよう。この剣は平和な時代にはこの剣は不要だ】
青年が背中に背負っていた剣を遺跡の奥の場所に突き立てる。その作りは金の柄と銀の鞘を持つ巨大な大剣だった
【次何時封印を解除できるか判らないのに本当に良いの?】
【かまわない、出切るのならば2度とこの剣が使われない事を願う。聖魔王の名の下にエグザディアの永久なる封印を願う】
私と青年と女性で3重に封印を施し、更に岩でその剣を完全に封印する……その所で目を覚ます
「聖魔王……ジオの事か」
目覚めてもしっかりと覚えているその名前。聖魔王にエグザディア……
「これは話しておいたほうがいいかもしれないね」
どうやらこの世界に隠されている秘密は私だけではなく、ジオにも関係しているのかもしれない。私は起きるなりリーエ達にこの話をするために部屋を後にしたのだった……
リーエが帰ってきたのは喜ばしいですが、予想外の事もあった……私は椅子に深く腰掛け、近くの山で取ってきた葉を蒸して蒸して発酵して作ったお茶を口に含む
「この苦味が癖になりますね」
強烈な苦味の後に来る鼻に抜けるさわやかな香り。これがこのお茶の良い所だ……頭が冴える感じがしてとても美味しい。とは言え飲むのは私だけなのですが……
「後でリーエにも勧めて見ますか」
あの場所は私が結界を張っているので直接転移しない限りは近づく事が出来ない場所だ。転移反応があったので見に行ったが本来は入れない場所だ。それはリーエもしっているのでまた尋ねて筈なのでその時にでも勧めて見よう
「なんの因果なんでしょうね」
リーエと旅をしている半ネクロの中に見知った顔がいたことに驚いた、私がまだネクロだったときに一緒に行動したことがある男がいたからだ
「出来れば気づかれずに判れることが出来ればいいんですが」
そんな事を考えながらカソックの中にしまっているある道具に触れる。金属の硬い感触と冷たさ……出来れば使うような事態にならないことを願う
「やれやれ……思い出してしまいましたね」
私に私の本当の願いを思い出せてくれた少女の姿が脳裏に浮かぶ。彼女の言葉があったから、私はもしかすると半ネクロへと転生し失った家族に再会できたのかもしれない……
「シュー様ぁ!木の実とって来たよ!」
「シーリウスー♪」
私の家の扉を蹴りやぶかない勢いで突進してきたミーとセイに苦笑しながら立ち上がり
「どうもありがとうございます。今ジュースでも入れますね」
木の実で造ったジュースとパン。それがお目当てだというのは判っているので立ち上がり戸棚からパンを取る。キラキラとした目で私を見ているミーとセイの前にパンを置くと
「わーい!シュー様♪すきー♪」
「い、いただきます」
椅子に座って足を揺らしながらパンを齧るミーとセイ。それはなんの因果かかつて失ったしまったはずの私の家族だった者達の生まれ変わり、かつて私が犯した罪を考えれば、こんななんの変哲もない日常を得る事すらおこがましいとおもう。かつて神の名を語り虐殺をした私がこんな幸福を得てもいいのだろうか?と思う反面。この幸福を得れたのだから2度とあんな真似はしないと改めて心に誓う
(半ネクロにも祈る神はいるのかもしれないですね)
ずっといないと思っていたが、もしかすると本当は半ネクロにも祈る神はいるのかもしれないと思っていると
「ガウー♪」
「ミャーん♪」
「クー♪」
「アウアウ♪」
奇妙な動物の声がして振り返ると、そこにはミーとセイと同じくらいの背格好の少女がアザラシを抱き抱え、頭の上に猫を乗せてこっちを見ていた
「か、可愛い~♪触らせて!触らせて!!」
ミーが少女の足元で手を振っているドラゴンに近づき頭を撫でたり、抱き締めたりしている。確かこの少女はリーエ達と一緒にいた……
「貴女も食べますか?木の実のパン」
もしかしてお腹が空いているのかもしれない思い尋ねる。アザラシを抱えた少女はこくりと頷く
「では座ってくださいね、直ぐ準備をしますから……貴方の分もありますからね?」
私をじっと見つめているドラゴンにそう言うとガウーと一鳴きして尻尾を振る。なんとも愛嬌のいいドラゴンですね。ミーとセイは初めて見るドラゴンや猫とアザラシに興味津々と言う顔をしている。その仕草がとても愛らしく、私は微笑みながら新しい木の実のパンを戸棚から取り出したのだった……
リーエ達が半ネクロの里で休んでいる頃。この世界に転移してきている人物の姿があった
「やれやれ、予定していた世界とは違いますが……これは幸運と言うべきなのでしょうか?」
この世界に転移してきていたのアークだった。彼はこの世界が噂に聞く半ネクロの里であるという事に気付く。この集落の話をすれば自身の立場が少しだが改善される可能性がある。だが彼は疲れたように溜息を吐きながら軽く頭を振り
「くだらない」
そう呟くと魔力を限りなく0にしてゆっくりと歩き出した……その進む先はリーエ達が潜る予定だった遺跡の方角だった……もし彼が最初からネクロの魔力を開放していればこの周囲を警戒しているシリウスが気付く所だが……
「少しやすまないと……動くわけにも行きませんからね」
いかに半ネクロが強靭な体を持つと言っても限界があった。魔力も体力も限界まで消耗していたアークは足を引きずりながら遺跡の中へと足を踏み入れ、そのまま姿を消すのだった……
第90話に続く
今回は少し短めでした。次回はリーエの視点から始めようと思います。遺跡組みは全員ではないので。シリアス半分・ほのぼの半分で進めて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします