第94話
アークの救援を求める連絡で来た世界は不思議な場所だった。魔力に満ちているのにネクロの気配がない世界だった
(これが話に聞く半ネクロの里)
上位レベルが必死で探している場所にこうして訪れる機会があるなんてな。なんとなく感慨深い気分だ。山の中を流れる清流の水を皮袋に詰め、今隠れ場所としている洞穴に向かう
「おや、お帰りなさい」
土を削って椅子にしたのか、それに腰掛けているアークに皮袋を投げつける。おっと危ないと呟き皮袋を開け、中身を口に含んでいるアークに
「もう身体を動かしても平気なのか?」
魔力ダメージが酷いと昨日呻いていたのにと思いながら尋ねると
「確かにまだ動ける段階ではないですが、いつまでもそんな事は言えないでしょう?調べれる事は調べたいじゃないですか」
そう笑うアークの顔が青褪めているまだ体力が回復していないのだろう
「死んでも知らんぞ」
弱っている身体で下手に動くのは得策ではない、もう少し休めという意味も込めて言うが
「早々死ぬような体ではないでしょう?私も彼方も」
違いないな……死ねる身体ならまだ救いもあったものを……
「それで調べたい物とはなんだ?」
態々俺をこの場所に呼び出し、念入りに結界を張らせ更に影による空間湾曲をさせた。その理由はなんだ?と尋ねると
「恐らく私はネクロの真実に最も近い場所にいるでしょう」
その言葉に眉を顰める。ネクロの真実……それが何かは判らないが、判っている事は別にある
「危険な橋か?」
「ええ。これ以上にないほどに危険です」
そう笑うアーク。その顔を見れば判る、その言葉が本当であると……
「監視される身から追われる身か……まぁそれもまた良いんじゃないのか?」
いつまでも上位レベルの指示に従う気はない。これもまた良いタイミングなのかもしれない
「ええ、そうですね。とは言え情報はバラバラですし、穴あきもある。ある程度は予測になりますが……それでもかなり良い線行っていると思いますよ?」
俺にはそう言うのは判らん。アークに任せるしかないだろう……近くの岩に腰掛けようとした時
「いい勘をしているね?反逆者」
突然聞こえた声にアークと同時に振り返る。そこには黒い法衣の青年が佇んでいた
(馬鹿な、結界も空間も越えられた気配もなかったぞ!?)
俺の結界と影の空間湾曲。それを破られた気配なんてなかった
「貴方は何者ですか」
視線で黙っていろというアークに頷き、その青年とアークの会話に耳を傾ける
「僕かい?僕は傍観者さ、君達の選ぶ選択肢を見ている。それだけだよ」
くすくすと笑う青年。その目には絶望にも似た諦めの色が浮かんでいた
「それでいい勘をしているとは?」
「ネクロには最上位レベル。それもたった7体しか存在しない、もっとも位の高いネクロがいる。ああ、LV5なんて物じゃあない。もっと凶悪でもっと残虐なネクロさ」
LV5の上!?あの化け物よりも上の存在がいるなんて信じたくはない
「嘘を言っているんじゃないだろうな?」
「そんな事をして僕に何の得があるのさ?」
嘘ではない……つまりLV5よりも更に上のランクが存在すると言うのは本当のことなのだろう
「何故貴方はそれを?」
アークが尋ねると青年は懐から紙の束をアークに渡し
「気紛れだよ。かつて至高の存在に挑んだ僕と同じ末路を君達が歩むのか?それとも別の道を見つけてくれるのか?それが気になっただけさ……じゃあね、悔いのない選択したまえ」
溶ける様に消えていく青年。転移……か?しかしそれにしても魔力も感じなかったが
「どうする?アーク」
信じて良いものなのか?いや、正しくは信じたくない現実……アークは膝の上に落ちた紙を見ながら
「信じましょう。あの青年の言っていたことは正しい。いずれそう、私も貴方も追われる身になる。その時に向けて準備をしましょう。反旗の時……その鍵となりえる存在をより強くなるように……」
リーエか。確かに彼女が俺達半ネクロが解放されるためには必要な存在なのかもしれない。その力の伸び代を見れば判る、彼女は普通の半ネクロではないと……
「それで?俺はどうすれば良い?」
何か別の思惑があるはずと思いアークに尋ねる、そしてアークは暫く考え込む素振りを見せてから、俺にたった1つ。そうたった1つの頼みをした。俺はその言葉に込められたアークの想いを聞き
「任せろ。全て何とかしてみせる」
「頼みましたよ。シン……」
拳を互いにぶつけあう。きっとこの世界を出ればアークと俺の道はきっと交わる事はない……もし賭けに負けたとなればこうして言葉を交わす機会もないだろう……その時までは半ネクロとなりつつ出来た友人との時を過ごそう。俺はそう思ったのだった……
「肉とか食べたいですね、何とかなりません?」
「猪でも探してくるか……」
だからあの馬鹿の我侭を聞くのも、まぁ仕方のないことだろうなと思い、石斧を手に洞穴を後にしたのだった……
「グルルルル」
「これは死ぬぞ……」
そして小山ほどの猪に遭遇し、思わず死を覚悟するのだった……
あの遺跡の世界から転移しようとして無理やり別の世界に跳ばされた私は胸を押さえながら
(私の中にまだ誰か居る?)
若干の違和感を感じる。別の世界で取り込んだ異なる私……その存在は今もこうして感じているし、話をしようと思えば出来る。だけど……
(誰?誰がいるの……)
自分が認識できない存在が自分の中に居る。それはとても不快な感覚だ……そんな事を考えている間に別の世界につく
(!?)
その世界は既に死んでいた……無数のネクロに埋め尽くされ、存在を吸収され消滅していく星……それは見るだけで危険と判りすぐにでもこの世界を後にしたいと思うほどに……だけど頭の中で動揺する気配がする
(どうしたの?珍しいじゃない。なのは?)
自分の中に居るなのはへと声をかける。どこかの世界でネクロになりかけていた、彼女の魂を取り込んだ時にその魂と精神をも取り込んだ。だから私の中には平行世界の高町なのがが存在している。彼女は動揺したまま
(急いでラプス!ここには!ここには私の……私も友達がいるの!)
友達?こんな世界に?目を細めて周囲を確認すると
「もう手遅れだと思うわよ」
半分ほど消滅している建物が見える。そこもネクロが群がっているのが見える、あれはもう完全に手遅れかもしれない
(だけど生きているかもしれないでしょ!?あそこにいるのはきっとリーエの味方になってくれる!)
リーエの味方……そう言われると少し考えないといけないわね。これからドンドン戦いは激しくなる。味方は多いほうが良い
「手遅れでも知らないからね」
リベイジングハートを手に地面を蹴る。本当なら飛行魔法を使ったほうが良いんだけど、これだけ魔力が薄いと飛行するのも難しい
(半ネクロで良かったわね)
自前の魔力で補える。身体強化と同時にリベイジングハートをランサーモードに切り替え、砲口から魔力刃を作りネクロの中を突破していく。
(ここまで来ると愚かを通り越して憐れね)
魔力がないから同属を、それを繰り返して以上に巨大化したネクロは消滅し再生を繰り返し、消滅できなくなり。ついには星を食い尽くそうとしている。そうすれば消滅するだろうが、それを理解する知性がない。それに私を敵とも認識出来ていない。これは既に知性もない証拠
(なんて滑稽)
今まで色々なネクロは見てきたけど、ここまで愚かなネクロは初めて見た
「それでこの世界には誰がいるの」
伸ばされているだけのネクロの触手を切り払いながら尋ねる
(マテリアルが幽閉されているんだ)
その言葉に眉を顰める。マテリアル……闇の書の闇……私も戦ったから覚えている
(だけど私の世界のその子達はとっても友好的で友達だった。だけどネクロの進行のせいで危険視されて幽閉された。それがこの世界)
フォローするかのような声。まぁ私にとってはどうでもいい話だ、リーエの味方になってくれる可能性がある。それだけだ……そんな事を考えながら通路を駆ける。崩壊する音が聞こえてくる、どうもこの世界はもうそれほど長く存在できない
(そこの通路を右へ!)
脳裏に響く声に案内され、通路を駆け抜け一際大きなフロアに着く、そして
「やっぱり手遅れだったみたいね」
そこに幽閉されていたのだろう。ポットのようなものが4つ見える。だけどそのうち3つは既にネクロに飲み込まれている。そして最後の1つはまだ無事だ……
(これも何の運命かしらね)
そこにいたのは私達をモチーフにしたマテリアル。「シュテル」の姿……だがそのポットも今にもネクロに飲み込まれそうになっている
(早く!助けてあげて!)
「言われなくても判ってる!」
ここまで来て助ける事が出来ませんでした。じゃあ割に合わない、ネクロの上に僅かに浮かんでいる瓦礫を踏んでポットのほうに走る、もう少しで手が届くという所で
「しまっ!?」
ここまで来るのに時間を掛けすぎた。甲高い音を立てて世界が崩壊する……
「ちいっ!!!」
舌打ちしながら瓦礫を蹴ってポットに手を伸ばす。なんとかその縁を掴む事は出来たが、流石に無理な体勢だったせいか、直ぐに手が離れる。そして目の前に広がる漆黒の穴を見る、それは空間の裂け目……世界が崩壊した事で新しい裂け目が生まれたようだ
(ラプスごめん!)
不安定な魔力のせいで今は魔力を使う事ができない。目の前の空間の裂け目のほうへ落ちながら
「仕方ないわよ!」
謝るなのはに怒鳴り返す。世界が崩壊した事で生まれた空間の裂け目にそのまま飲み込まれ、その衝撃で手を放してしまい。転がり落ちていくポットを探し、私は慌てて飛行魔法を発動させポットを追いかけて行ったのだった……
荒廃した世界を歩く、目的の物を探す為に……
(時間がない)
気持ちだけが焦っていく、今もまた世界が壊れた。それは恐らく黒龍皇の魔力が徐々に回復しているからに他ならない
「まだ術式が完成していない」
出来ることならば今すぐにでもアルハリム様の記憶とお身体をお返ししたいのだが、まだ不完全なのだ。私の理論は
(もう少し情報がいる)
研究の途中で黒龍皇に襲われたのが悔やまれる。それがなければもう完成していてもおかしくないのに
「あは?みーつけた」
瓦礫を拳で砕き姿を見せた女のネクロ。その前には狂気の色しか写していない
「狂人の類か、哀れ」
半ネクロへと転生しているが、元々破壊衝動を持っていたのかそれに完全に飲み込まれているようだ
「死にたい。生きたい。殺したくない。壊したい。本当の私はどこだろう?」
狂ったように言葉を紡ぐ女。どうも完全には狂っていないようだが……
(どうした物か)
この女を治療する事は不可能ではない。だがはたして捕らえる事が出来るだろうか……魔力量はそれほどでもないが、手から噴出している血の刃……あれの直撃を喰らえば致命傷になることは必須
(逃げるか)
今私にはやるべきことがある、ここで要らない魔力を使う事はできない。気配を窺っていると
「た……す……けて……もう……いやあ」
一瞬理性の光を取り戻して弱々しい声で呟く女。その声は少女と言って良いほど弱々しい声だった。だがそれも一瞬
「さー?どこから切り刻んで欲しい?あ、女だから殺さないで生かしておいて血を吸うのも良いわねえ」
再びどんよりとした目に戻る女。助けてか……この身はアルハリム様の剣であり盾だ。だがしかしてこの身は騎士である、助けを求める存在を見過ごす事も出来はしない。ローブを脱ぎ捨て、アズタミアの紋章が刻まれた甲冑を露にする
「アズタミア親衛騎士団軍団長ライマクス・アヴァルス」
腰の鞘から剣を抜き放つ。私は本来は中・後衛が得意なのだが……そうも言ってられない
「あーはいはい、じゃあ、ベルチェ・ルナヴィレスト」
面倒くさそうに名乗るベルチェ。私は抜き放った剣を正眼に構え
「参るッ!!!」
本当はこんな事で時間を潰している余裕はないのだが、仕方あるまい。この女があわよくば、アルハリム様の味方になるかもしれない……私はそんな事を考えながら首元に伸ばされた血の刃を弾き、反撃の拳をベルチェの顔面に叩き込んだのだった……
「はぁッ!!!」
それがどうしたと言わんばかりの邪笑を浮かべて再び爪を振るう。今度はそれが私の頬を浅く裂く……余裕を持って避けたはずなのだが……どうもリーチを自在にコントロール出来るようだ
「どうもそう簡単に調伏できる相手ではないか」
直ぐに再生するが、あれは並みの相手ではない。私は小さく息を吐き、剣を構えなおすのだった……
第95話に続く
今回はネクロサイドをメインに書いてみました。次回はラプスの視点をメインに書いていこうと思います。最後の方でリーエ達もだそうと思っています。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします