夜の台場はやはり人の出入りが多い。平日だというのに、アクアシティ近辺は渋滞だった。
「何かあるのかな? こんなに混んでるなんて」
後席から身を乗り出して、あかりは周囲を見渡した。きらびやかな街は人でごった返している。平日とは思えない様相だ。
その中を、車は気だるげな音をあげつつゆっくりと前に進んでいる。
「ハマった……。駐車場は別な場所探しましょうか」
遂に車が停車した。前方車両との距離が詰まりすぎた為だ。エレノアはため息を溢す。
車を置くなら、万が一に備えてすぐに出入り出来る場所に置くべきだ。これでは出られない。
エレノアはウィンカーを点灯させ、列から慎重に抜け出した。
「改めて訊くが、エレノア? 何かわしらを納得させられるような理由があって、台場に戻ったのじゃな?」
「……ごめん、あくまでも勘。けど美夜は『次に会った時は』と言った。そして何も告げずに切った。次の行き先が分かっていないか、もしくは同じ場所に戻る──その挑戦状だった、と思ってる」
勘だと語るエレノアに、鈴那は『やはりな』とそれだけ返した。それからスマートフォンを開き、じっと画面を眺め始める。
「一先ずここで待機ね。ピラミディオンに近づきすぎる訳にもいかないし」
「もし本当なら──だけどね……」
あかりまでエレノアを疑うような視線を向けるようになってしまった。当然、普段より混み合っている以外の動きはない。
ただ、眺めているうちに違和感を覚えるエレノア。
「随分混みすぎじゃない? 平日だけど、まるで休日かイベントだわ」
「確かに……。この混みようは異常だけど、それだけじゃ確証にならないわよ。エリー?」
六花の鋭い意見に、エレノアも言葉を呑み込む他なかった。だが違和感が抜けない。エレノアは絶えず行き来する人々に絶えず視線を向けていた。
「この人たち……ピラミディオンに向かってる」
人々の進行方向を目で追い、そしてエレノアは気付いた。
その先に合法カジノ、ピラミディオン台場があること。富裕層でないように見える人間でさえ、ピラミディオンに向かっていること。
「……どうやら当たりじゃな」
「え? 五十鈴さん、それって──」
あかりが鈴那に訊ねようとしたその刹那。空に巨大な花が咲いた。
同時に炸裂音と強烈な閃光──花火だ。
「花火……。不発弾ってまさか──」
六花が空を見上げて目を丸くした。
散見された不発弾事件。それは、爆弾でもなんでもないただのデコイか。専門の花火職人が作った物ならともかく、それ以外の人間が
そして、花火大会だと勘違いした群衆はピラミディオン周辺を塞いでしまう。エレノアも車を出せない状況だ。
ではもし、今ピラミディオンを襲ったなら? 内部に残るのは一部の客、スタッフ、警備員だけ。花火の音に銃声は掻き消され、騒ぎも漏れない。仮に警察が来たとしても、この混雑ではすぐに近付けない。それに、相次ぐ爆弾騒ぎで警察もそちらに人員を割いているに違いない。
不発弾の意味が、全員の中で繋がった。
「やられたッ! 今度は陽動なんて……!」
ステアリングを殴り付けてエレノア。車を動かそうとしても、先程よりも人が増えている。ピラミディオンに近付くのは難しい。
いや、それでは美夜は何の仕事を受けたのか。
「美夜の奴め。恐らくじゃが、脱出ルートの監視じゃな。スナイパーはその性質上、遠くを見る。監視にはピッタリじゃ」
スマートフォンを弄りながら、鈴那は悔しげに歯噛みする。
「五十鈴さん? 何見てるの?」
「GPSじゃ。美夜がオンにしたままじゃったからな」
鈴那の言葉を聞いて、エレノアは後ろを振り返った。
「どうして言わなかったの!?」
「言ってもこの人だかり……動けないのに変わりは無い。エレノア、恐らくピラミディオンに間もなく動きがある。美夜の信号が動いたようじゃ」
行くしかないぞ。鈴那は言う。
エレノアも反応した。エンジンを吹かし、クラクションを鳴らしながらゆっくりとピラミディオンへの道を開く。
人が道を塞いでいて、まるで壁だ。しかし無理に押し通る訳にもいかない。
「どうするの!? エリー?」
六花は焦り気味にエレノアへ訊ねる。これが本当に陽動なら、時間はない。
エレノアの視線は、道端に停められていたキャリアカーに向けられていた。荷下ろしが済んだまま放置されているようで、都合良くジャンプ台のようになっている。
「待って待ってエレノア、まさか飛ぶ気じゃないよね!?」
エレノアの視線から意図を汲み取ったのか、あかりの頬を冷や汗が伝う。
あかりの問いに答える代わりにアクセルを吹かし、センターコンソールを開ける。ロケットモーターと記されたスイッチに指をかけ、エレノアは運転席から空へ向けて発砲した。
荒療治だが、人を退かすにはそれしかない。案の定、危険を察知した人々はエレノアの車から逃げるように距離を置いた。
「全員掴まって!」
直ぐ様ロケットモーターオン。車両後端下部に備わったゲートが開き、噴射口が現れてラグもなく火を噴いた。
シートに叩き付けられるような凄まじい加速。ガソリンエンジンだけでは不可能な速度でキャリアカーに乗り、エレノアの愛車──ヴァンテージは空を飛んだ。
「このあとどうするの──!?」
宙を舞う車内であかりが叫ぶ。それと同時にエレノアはボタンを押し、畳まれていたジョイスティックを引っ張り上げた。
このまま着地してはボディフレーム、サスペンションに大ダメージを与えてしまう。なんとかソフトランディングさせねばならない。
六花たちが外を見ると、車体下部から飛行機の翼めいたウィングが飛び出している。操作はジョイスティックのようで、丁寧なことにエルロンなども連動している。
空を飛ぶ車。観客は大勢居て、歓声が上がっていた。
着地する飛行機そのものの様子でソフトランディングを決めたヴァンテージ。キャリアカーの向こうは警備会社による誘導が入っているようで人も少なく、車を思う存分に振り回せた。どうやら、一区画に人が固まりすぎていたようだ。
ピラミディオンまで、ここまで来れば早い。車を飛ばすエレノア、付き従う仲間たちのスマートフォンがメッセージ受信を告げる。
「周知メールッ!」
六花が内容を読んで声を上げた。
「ピラミディオン台場で立て籠り発生! 至急強襲科及び狙撃科、二年次生徒以上の武偵に出動の要請よ!」
「じゃあ、やっぱり奴等はまたピラミディオンを襲ったんですね」
つまり、美夜も何処かにいる。鈴那の話からしても、そう遠くはない筈だ。
相手の出方をうかがう為に車の速度を落とすと、不意にリアガラスが何かの衝突音を立てた。
すぐにもう一度。
「何!?」
あかりが後ろを見るが、何かがぶつかった痕跡はない。
車は停止し、エレノアはサイドミラー越しに輝くものを見た。ふと高所から煌めいたそれは、狙撃用のスコープだろうと彼女は解釈する。狙われている、それも恐らく友人に。
「美夜……!」
すぐにサイドミラーが弾丸に粉砕された。流石に構造的に脆い部分を防弾化はしなかったようだ。
「美夜ちゃん、本当に殺す気なの!?」
「いえ、多分違います」
六花の叫びを、エレノアは冷静に否定した。ミラー越しで距離もあった為不確かだが、違和感はあった。
「美夜は多分、
「じゃあなんで……!?」
「依頼は拒否できない。だから私たちを撃つしかない。だけど、美夜は裏切ってなんていない。姿を見せたのだとすれば、それが証拠です」
エレノアは語るが、狙撃は続いている。完全防弾化されたボディパネルは火花を散らして弾丸を弾いているが、どこまで完璧かは分からない。ピラミディオンにも駆け付けなければ。
どうにかして、一度目をくらませる必要がある。
「煙幕とか無いの!?」
継続される狙撃に身を伏せながら、あかりが叫ぶ。
促され、エレノアはスモークのボタンを押したが反応がない。二度押したが、やはり変わらなかった。恐らく配線されていないか、充填されていないのだろう。一部のガジェットは問題無く作動したことを考えると、充填されていない方が確かか。
しかし何にせよ、これでは撹乱する方法がない。
──これが普通ならば。だが。
エレノアはステアリングを右にいっぱい切り込むと、力任せにアクセルを踏み込んだ。
リアタイヤはグリップを瞬く間に失いスピン。テールスライドを誘発させ、素早いステアリング操作でスライドを継続させる。
『定常円旋回』と、業界では呼ばれる。リアタイヤを滑らせる、ドリフトの練習に採り入れられる技術だ。同じ半径の円を、リアタイヤを滑らせたまま描き続ける高等技術。エレノアでさえ、まだ綺麗な円は描けない。しかし、それでいい。
ぐるぐると回るうち、タイヤが巻き上げる白煙は周囲を濃く覆っていく。これなら美夜も車の正確な位置は把握できない筈だ。
「よし、射線は切れたはず。ピラミディオンに向かいます!」
定常円旋回をスロットルの開度とステアリング操作で終了させると、白煙を残したまま、ヴァンテージはエンジン回転のリミッターを作動させながら前進する。
摩擦熱によりタイヤの内圧が増し、グリップが緩くなっているが、問題は大きくない。エレノアは構わずピラミディオンへ車を向かわせようとした。
「エリー、左ッ!」
六花に言われ、視線を向ける。鮮烈なブルーの車体がまさに今通過しようとしていた。慌ててブレーキを踏み込み、難を逃れる。
「今のは……?」
あかりが去っていくテールランプを見送る。彼女には見慣れない形状の車体だった。それにとてつもなく速い。だが、エレノアには見覚えがあった。六花にもだ。
「エリー、あれって……」
「はい。多分、ピラミディオンの展示台に置かれていたブガッティシロン。無傷なら三億円以上の価値になる車です」
ピラミディオンの最初の事件で、エレノアは展示台にその車が展示されているのを見ている。特別な反応はしなかった。普通は動かないように、バッテリーなどは外されている筈で完全にマーク外だった。
しかし、それを何とかする方法があったなら、唯一金庫の外に置かれた巨大な走る金塊に早変わりする事になる。それも、乗りこなす腕があれば誰も追い付けない速さを備えた金塊だ。
「どのくらい速い?」
鈴那が問う。
「この車が今600馬力なら、向こうは約2.5倍。1500馬力、最高速度は時速420キロ。完全停止から時速100キロまで2.5秒」
「400──!? そんなの、どうしたら!?」
止めようなどあるのか。あかりが運転座席にしがみつく。
ブガッティを追うべきだろうが、ピラミディオンの方も気がかりだ。幸い人数はいる、戦闘を行える人間を武偵の援護に回すことが出来そうだった。
「鈴那、あかり。ピラミディオンで仲間の応援を待機して、事件を鎮圧出来る? 私は南野先輩とブガッティを追いたい」
「……そうじゃな。その采配に賭けよう。近くで下ろしてくれ」
「やってみる!」
異議は無かったようだ。車を動かし、ピラミディオン近くに鈴那とあかりを降ろす。
ブガッティはどんどん離れていくだろう。エレノアは下車した二人に手を上げ、早々に車を出した。
盗まれた車が走り去った方角を割り出し、追うエレノア。六花は助手席で通信科、情報科に追跡車両の現在位置調査を依頼する。幸い目立つ車体だ、情報は然程待つことなく共有された。だが速度が段違いに速い。距離を離されては、ヴァンテージに搭載された秘密兵器も意味がない。もっとも、そのどれもが残弾無しなのだが。
六花がGPSマップを表示し、ダッシュボードのスマートフォンホルダーに置く。既に首都高速に乗ってしまっている。逃走車両は悠々とその距離を離していた。
「どうするの? エリー」
「……ガス欠を待ちます」
「え……?」
あまりに単純過ぎる反応に、六花が思わずすっとんきょうな声を漏らす。
ガス欠を待つ? 本当にそんなことで大丈夫なのか。エレノアの方が確かに車は詳しいだろうが、車がそう思う通りにガス欠しないのは一般人である六花も分かっている。
「それまで犯人を走り回らせるの?」
だから、彼女はエレノアに訊ねた。
「展示台から無理矢理に動かした車体なら、ガソリン満タンは難しいと思います。それに、かなり飛ばしてる。シロンの燃費は高速道路通常巡行で燃料1リットルあたり約6キロです。燃料タンクは100リットル。これを満タンにしてても、一度フルパワーで走りつづければ七分も持ちません」
「それってつまり……」
「付かず離れず付いていけば、いつかは向こうから止まります」
安心すべきか、そうではないのか。六花は頭を抱える。
通り過ぎる一般車は軒並み速度を落としている。恐らく暴走する逃走車を避けようとしているのだろう。エレノアは無理に加速せず、ゆっくりと一般車を追い越していく。
『対象車両、停止! 被疑者は車を乗り捨てた模様!』
通信科の通信が知らせる通り、表示されるGPSマップの光点はつい先程とはうって変わり、同じ場所を記し続けていた。
「ウソでしょ……」
まさか本当にガス欠なのか。六花が驚愕に目を丸くした。
いや、ならば被疑者はどこに行ったのか? 停止した光点と現在位置はみるみる内に近付いて、ようやくシロンの異質なテールランプが視界に入った。
横一本に走った赤いテールランプ、低くワイドなボディ。何より存在感は他の追随を許さないものがある。
値段にして三億円超。走る豪邸とも例えられる車は、ドライバー不在のまま、首都高速湾岸線の端に停められていた。
「……誰もいない?」
ハザードランプを点灯させ、盗難車の後ろで車を停める。湾岸線に徒歩で下りられるような道はない。しかし、ドライバーの姿は現に何処にもなかった。
『該当エリアにて、不審なバンと対象車両から降りたドライバーが合流する様子が目撃されています。恐らく仲間が回収したものと思われます』
通信科の生徒が告げる。情報が正しいなら、捕らえるべき人間はもう既にここには居ない。
「どうするの? エリー」
「……まず車を確保しましょう。乗り捨てたということは、戻る確率は低いと思いますが」
たとえ乗り捨てられていても、立派なピラミディオンの財産だ。回収して、本来あるべき場所に戻さなくては。
車は幸いにして動かず、三角板を設置すれば危険は回避出来そうだった。応援到着までさほど掛からない。
エレノアは六花に残るよう頼み、自身は犯人を探すため湾岸線へと合流していった。
□
ピラミディオン台場を襲った強盗は展示台のブガッティシロン、金庫室の現金を狙ったが、武偵の展開により失敗。
鎮圧された強盗の他にいる筈だった、シロンのドライバーは事件から一週間経った今も見つかっていない。
そして、美夜もまたそれから姿を消していた。
──東京都内、某所オフィスビル。
夜の帳が下り、デザイナーズ風のオフィスは窓から射し込む東京のネオンに照らされていた。
スーツを着た一人の男が、一際豪奢な部屋の扉を開ける。どうやら社長室のようだ。
室内の電気を点けると、いつもは彼が腰掛けているのだろう椅子は彼に背を向けていた。違和感を覚えた男は、懐に手を差し入れる。それより早く椅子はくるりと回転する。椅子には、一人の少女がサプレッサーの着いた拳銃を構えて座っていた。
「お前……。ピラミディオンにいたガキだな」
男は現れた少女に問う。相変わらず拳銃は向けられたままだ。
「上手くやれば、武偵同士殺し合ってくれるかと思ったんだが……。オイ、仕事だ」
男が合図をすると、黒髪の少女が躍り出た。
「美夜……」
椅子に座った少女──エレノアに躊躇いが生まれる。構えた銃が迷いに震える。
「やっぱり知り合いか。このガキ、仲間に俺らの計画を横流しするような真似しやがって……」
男は少女──美夜の首に腕をかけると、そのまま盾にするように自身の前へ引き寄せ、美夜のこめかみに懐から取り出した拳銃の銃口を押し付ける。
椅子から立ち上がり、両手で拳銃を構え直すエレノア。しかし、男は動じない。
「武偵ってのは人殺しが出来ないんだろ? コイツを助けたきゃ、頭を撃つ以外無い」
男の言う通りだ。エレノアは小さく息を吐く。
照準の先──男を無力化するには、急所を撃つしかない。それ以外は美夜の身体が盾にされてしまっていた。せめて武偵校制服なら信頼がおけただろうが、服装は変えられている。会社に合わせたようなタイトスーツだが、防弾では当然無いだろう。そうであれば、撃てば銃弾が抜けてしまう。
「エリー、撃て。私は良いから」
「……美夜。私たち、友達よね?」
「は? そんなの……」
言い淀む美夜。裏切った罪悪感が、彼女に即答させまいとしている。
「私は君を信じる。君は?」
エレノアの問いから五秒ほど経って、美夜は答えた。
「……信じるに決まってるだろ。エリーも、皆もこんな私の為に来てくれた。何が起きても責めない」
「分かった。ありがとう、美夜」
美夜の瞳から、甦った熱を感じ取ったエレノア。構える拳銃からも、迷いが消えていた。
「まさか味方ごと撃つ気か? 防弾装備なんか着けさせてねぇ。撃ったら死ぬぞ」
「大丈夫。私は彼女の友達だから。彼女は私を信じてくれたから」
一発の銃声が響く。
銃弾は美夜の右肩を突き抜け、威力が弱まった状態で背後の男に命中した。
「いってぇ! やっぱいてぇ! もうこんなバカな真似やらんわッ!」
落とした武器を拾おうとする男から、美夜は悪態をつきながら拳銃を奪う。
「やっといつもの君に会えたわ」
「……そうだな。落ちるとこまで落ちると思ってた。騙されたこと知って──『ならいっそ』って、思っちゃったんだよな」
遠くからパトカーのサイレンが迫ってくる。
「なぁ、エリー。私に……帰る場所ってあるのかな」
出血する右肩を押さえながら、美夜は不安げにエレノアを見つめる。
「例えみんなが否定しても、私が受け入れる。私が君の居場所になってみせるよ」
「お前……よくそんな台詞吐けるな。でも、ありがと。ちょっとだけ楽になった」
パトカーのサイレンがビル前で止まると、美夜は膝から崩れ落ちた。意識を手放した訳ではなく、緊張の糸が切れたのだろう。
プロの武偵と警察官が突入してくると、ようやく事件の終わりを感じた。物々しい装備の警察官に囲まれ、美夜は無事な左手を掲げた。男もその場で逮捕されたが、まずは病院行きのようだった。
□
ピラミディオン台場強盗事件は、各メディアで大々的に報じられた。
合法カジノを狙った大規模強盗事件の一つとして、ニュースではコメンテーターたちが口を揃えて警備の一層強化を唱えている。
事件から二週間が経った。美夜は肩の傷で入院していたが、既に退院していた。
聴取がキツい、とはエレノアに送られてきた美夜のメッセージの一文だ。しかし、事件の片棒を担ぐ事になった重大さは彼女も理解しているようで、あらゆる計画があった事を警察に語ったようだ。
潜伏している強盗団一味も、次々に逮捕されていた。これも、美夜が探り当てた情報に基づいたものだったらしい。
エレノアが時計を見ると、既に夕刻。夕飯を食べに行こうか迷っていると、スマートフォンに電話が入った。主は武偵校の教務科──つまり、教師から。
曰く、エレノアの部屋に新しいルームメイトが入るため清掃を行え、との事。
足を伸ばせる一人暮らしも終わりかと思うと、途端に部屋が狭苦しく思えてきた。
粗方掃除機を掛け終え、自分専用だった冷蔵庫なども整頓した。
額の汗を拭い、一息ついたところで部屋の鍵が開いた。
「おーっす」
玄関先に現れたのは、漆黒の髪色の少女。ショートボブの髪が少々汗に濡れていた。
大きなリュックに、スナイパーライフルを固定してエレノアへ手を振っている。
「美夜? まさか、ルームメイトって君の事?」
そこにいたのは、確かに佐々野美夜本人だった。
「そうや? 家出しちった──ってのは冗談だけど、親も特に反論無かったしな。エリーの部屋空いてんの知ってて先生方に申請したんだけど、迷惑だったか?」
まただ。美夜は不安そうにエレノアを見る。
気丈に振る舞っても、やはり彼女は脆い。エレノアは首を横に振る。
「まさか。知らない人間より、君の方が安心する。よろしくね、美夜」
「うん。改めてよろしくな、エリー。部屋の用意したら、すぐ夜飯作るから待ってて」
静かだったエレノアの部屋。しかし、美夜との同居が始まると転じて賑やかになる。
夜は更け、次の朝が訪れて、エレノアは美夜と共に車で通学する。少なくとも、美夜が寂しそうな顔を見せることはエレノアの見ている限り、無くなっていた。
車を降りる直前、美夜はエレノアへ語った。
──もうバカな真似はしない、と。
エレノアは小さく笑って答えた。
──当然でしょ、と。
そうして武偵校一年生の一日が、また始まる。
なんか最終回みたいになってしまった。
まだまだ続きます。