オーバーロード ~集う至高の御方~   作:辰の巣はせが

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第1話 モモンガさんに謝らなくちゃ

「ふざけるな!」

 

 ドン!

 

 巨大な円卓に叩きつけられた拳。その上部に、0ダメージを意味する表示が浮かんで消えた。

 拳を叩きつけた本人……豪奢な漆黒のローブに身を包んだ骸骨は、溜息をつきながら一人呟く。

 

「ここはみんなで造りあげたナザリック地下大墳墓だろ! なんで皆、簡単に捨てることができる!」

 

 彼の名はモモンガ。このユグドラシル……DMMO-RPGでは知られた存在だ。

 ナザリック地下大墳墓を支配するPKKギルド、アインズ・ウール・ゴウンのギルド長にして、非公式ラスボスと呼ばれる死の支配者(オーバーロード)

 だが、そのアインズ・ウール・ゴウンを率いてユグドラシル最盛期では八〇〇弱あったギルド中、第九位にまで登り詰めたのも、もはや過去の話だ。四一人居たギルドメンバーも、今では三人を残すのみ。

 サービス終了を目前に、最後の日くらいは皆で楽しく過ごしたい。そう思ったモモンガがお誘いのメールを出した結果、いましがたログアウトした古き漆黒の粘体(エルダー・ブラック・ウーズ)のヘロヘロと、先に来た二名だけがナザリックを訪問してくれていた。

 だが誰も、最後の瞬間までモモンガと共に居てくれはしない。

 楽しいときは好きなように楽しんで、ゲームが落ち目になったらギルドを脱退……するだけならまだしも、アカウントを削除して辞めていく。

 あれだけ皆で楽しんでいたのに。

 そう思うとモモンガの胸に、黒くドロドロとした物が湧き上がってくるが、彼はその思いを溜息と共に打ち消し……いや、抑え込んだ。

 解っているのだ。

 皆、そして自分にも 現実(リアル)での生活があり、人生がある。

 このアーコロジーに押し込められて行き詰まった人々は、その貧富の差こそあれ、働かなくては生きていけないのだ。ましてや『ただのゲームに人生を投げ打つ』など、愚か者の所業である。

 だが、モモンガは……鈴木悟は違った。

 少年期の頃までに父を亡くし、母を亡くし現実(リアル)に友人も恋人もなく、低学歴ゆえの底辺営業職として生きてきた。そんな彼にとっては、ユグドラシルこそがすべてだったのだ。

 勤労の果てに得られる給与のほとんどを、ゲーム機材やゲーム内課金に費やしてきたのは、ひとえにユグドラシル世界を愛し、ナザリック地下大墳墓を愛し、アインズ・ウールゴウンのギルドメンバー達を愛していたからだ。

 だが、それもあと少しで終わる。

 サービス終了と共に強制ログアウトさせられ、ユグドラシルは消えて、ナザリック地下大墳墓もモモンガも消える。

 後に残るのは、何処にでも居る底辺サラリーマン。鈴木悟だけだ。

 だが、ただ漫然と円卓で一人時間を潰し、ユグドラシルの最後を迎えるのは我慢がならない。

 

「そうだな。最後は十階層……玉座の間で迎えるか」

 

 ふと視線を巡らせると、執事のセバス・チャンに、戦闘メイドのプレアデス達が目に入る。

 ナザリックの防衛ラインを全て突破された後、時間稼ぎ程度にしかならないが、侵入してきた客を出迎えるために作成されたNPC達だ。特にセバスは本性が竜人であり、そのレベルは最高レベルの一〇〇に達する。

 

「せっかくだし連れて行くとしよう。九階層より深くは攻め込まれたことがなかったもんで、出番がなかったからな。最後くらいは……と言えば」

 

 円卓の間の壁に飾られた、ギルドの証し、スタッフ・オブ・アインズウールゴウンを招き寄せる。飾り棚から浮遊してモモンガの手に収まった杖は、作られてより初めて、ギルド長の手に収まった。

 

(これを作るのにボーナス注ぎ込んだ人や、奥さんと喧嘩した人も居たっけな……)

 

 素材集めで他のギルドメンバーらとユグドラシルを奔走したのも、今では良い思い出だ。いや、それだけではなく杖を持った瞬間。様々な思い出がモモンガの心を埋め尽くしていく。

 

「ユグドラシルしか……なかったものな。俺には……」

 

 一人呟くとモモンガは軽く頭を振り、セバスらを引き連れて円卓の間を後にした。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 モモンガがナザリックで玉座の間に赴いた頃。

 モモンガ……鈴木悟の自宅から遠く離れた場所で、一人自室にて項垂れる男が居た。

 先程、モモンガに別れを告げ、寝落ちすると言ってログアウトした古き漆黒の粘体(エルダー・ブラック・ウーズ)。ヘロヘロだ。

 確かに眠気は相当なもので、今にもPCデスクに突っ伏しそうである。

 だが、彼には一つ心残りがあった。

 それは先程、円卓の間でモモンガに投げかけた言葉だ。

 

『ここがまだ残っているとは思ってもいませんでしたよ』

 

 ガッ……。

 

 拳を右膝に叩きつける。

 

「俺は馬鹿じゃないのか? モモンガさんは最終日に一人で居た。たった一人で……」

 

 そして自分は、聞いた限りでは最後の訪問者だった。

 ギルドに残っていたのはモモンガと自分を含めても四人。引退した連中はともかくとして、その内の誰一人としてギルド長と最後に供をする者は居なかったのか。

 

(俺達がほとんどユグドラシルに行かなくなって、モモンガさんは一人でナザリックを維持していたんだぞ)

 

 不義理、不人情、恥知らず。

 そういった言葉がヘロヘロの胸に突き刺さる。  

 ユグドラシルはゲームだ。ただのゲームに過ぎない。

 しかし、この貧富の差が激しい糞のような現実(リアル)で、多くの仲間達と楽しくも真剣に冒険できた場所であった。少なくとも、自分は仕事さえブラックでなければ、もっとナザリックに入りびたり、モモンガたちと楽しく遊んでいたはず……。

 

(いや、それも言い訳に過ぎないな。顔出しぐらいは出来たはずなんだから……)

 

 モモンガの現実(リアル)とて、過酷な底辺企業だと聞く。その彼が足繁くナザリックに通い詰め、ギルドを維持してきた事を考えると、自分は駄目な奴だと……ひたすら情けない奴だと思うのだ。

 

「モモンガさんに謝らなくちゃ……。メール……いや駄目だ。こういう事は直接話さないと……。でも、今更どんな顔をして会えばいいんだ? 合わせる顔なんか無いぞ? それに……」

 

 ユグドラシルのアカウントは、ついさっき削除してしまった。ヘロヘロというアバターはもう無いのだ。

 

(だからと言って、このままで良いわけはない。だ、誰か……誰かに話さないと……)

 

 申し訳なさと恥ずかしさ。その他様々な感情が渦巻き、ヘロヘロは硬直する。放っておけば、そのままユグドラシルのサービス終了時間を迎えたのだろうが、ここでPCデスクに置いたヘッドセットから微かな音が聞こえた。

 それはメールの着信音。プログラマーとして一定以上の技量を有するヘロヘロだが、着信音には拘りを見せず、デフォルトの物をそのまま使用している。

 ともあれメールだ。単なる広告メールかも知れないが……と、ディスプレイに目を向けると、そこには知った人物からのメールが表示されていた。

 

「弐式……炎雷さん?」

 

 アインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバー、ザ・ニンジャとも称される人物からのメール。

 慌てて文面を確認すると、そこにはこう書いてあった。

 

『ヘロヘロさん。今、ユグドラシルの……に来られる? 他の何人かと会って話してるんだけど。アカウントとか消してるなら、適当にアバター作ってさ……頼むよ』

 

 ただ、それだけの内容。

 しかし、これを読んだヘロヘロの胸に生じた感情は……憤りだった。ただ単純に頭に血が上ったと言ってもいい。

 この人達は何をやっているんだ。

 モモンガさんは、今、ナザリックで一人だけなんだぞ。

 他の人ってなんだよ、引退した人も来てるのか?

 それらが雁首並べて、モモンガさんを放って、何を話し合うって言うんだ。

 ……と、ここまで考えたヘロヘロは羞恥に顔を赤く染めている。

 今思った事のどれ一つとして、自分は他のギルドメンバーに言える資格などないのだ。

 重く肩を落としたヘロヘロは、半ば無意識にユグドラシルアバターを作成すると、弐式炎雷に指定された場所に移動するのだった。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<次回予告>

 

 ヘロヘロです。

 弐式炎雷さんのお誘いでユグドラシルに戻りましたが、思ったよりギルメンが集まってますね。

 しかし、皆さん、ナザリックに行く決心がつかない様子。

 そこで私がお説教めいたことを言った結果、弐式さんが……。

 

 次回、オーバーロード 集う至高の御方 第2話

 

 弐式『ジャンピング土下座するしかありません!』

 

 感想待ってますよ~。

 

 




このような感じになります。
文章力が貧弱なので自分で不安なのですが、頑張って完結を目指したいと思います。

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