オーバーロード ~集う至高の御方~   作:辰の巣はせが

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第100話

 モモンガ達の馬車に続く、二台目の馬車。

 その馬車には、聖王国行きの随行として選ばれたNPC達が乗り込んでいた。

 車内では、アルベドが『女戦士ブリジット』として、ナーベラルが『女忍者ナーベ』として座っている。加えてデミウルゴスも、漆黒版スーツ着用と、普段とは違う姿だ。一方、セバスとルプスレギナに関しては、いつもの執事服と神官風メイド服のままとなっていた。これは、冒険者チーム漆黒の一員として、服装を黒色で統一しているが、セバスとルプスレギナは元より仕事衣装が黒多めであるからだ。この理由では、ナーベラルもメイド服で良いのだが、彼女が忍者服を着ているのは弐式の指示である。

 車内におけるNPCの配置は、前席で進行側に向けて左から、セバス、ルプスレギナ、ナーベラルで、後席の左からアルベド、少し離れて右扉付近でデミウルゴスが座っている。

 この配席には一応の基準があり、セバスと戦闘メイド(プレアデス)、守護者統括アルベドと第七階層守護者デミウルゴスというものだ。要するに、使用人組と守護者組……所属別で分かれている。

 ただし、車内の者達には別の思惑があって、その思惑とは普段から仲の悪いデミウルゴスとセバスを、向かい合わせや隣同士で座らせないというものだった。

 

(無用の諍いを避けたいから、なるべく離れて座って貰ったのだけど……)

 

 ブリジットとしてハーフヘルムを着用するアルベドは、露出した口をへの字に曲げる。彼女の正面で座るセバスは、普段の落ち着いた表情に見える……が、付き合いの長さから顰めっ面であるのは把握できていた。

 一方、アルベドの右方で座るデミウルゴスは、こちらも普段と変わらぬ薄笑いを浮かべているが、こちらも付き合いの長さからイラッと来ているのが感じ取れる。

 アルベドはウンザリしつつ、残りの二人、ルプスレギナとナーベラルに視線を転じた。これは二人に救いを求めたのではなく、様子を確認しただけだ。

 ルプスレギナはアルベドの視線に対し、困り顔の苦笑で応え、ナーベラルは視線には気づかない様子でガチガチに緊張している。

 

(ルプスレギナ以外は全員が上位者だから、ナーベラルもあてにできない。となれば、やはり(わたくし)が口を出すべきね)

 

 セバス、デミウルゴス。その刺々しい空気をどうにかしなさい。すぐ前の馬車には至高の御方がいらっしゃるのよ。

 これはアルベドの台詞だが、それが声として発せられる前にセバスが発言した。

 

「デミウルゴス様。今回の(しもべ)の護衛随行にあたって、デミウルゴス様のみ、随行を熱望されたとか?」

 

 セバスは両膝に手を乗せ、背筋を伸ばしている。一分の隙もない執事のように見えるが、デミウルゴスに向けられる視線はキツい。口調も詰問風なため、かなりの圧力が発生しているが……これをデミウルゴスは薄ら笑いのまま受け流した。

 

「確かにそうだね。ええと、君は、たっち・みー様が、ナーベラルは弐式炎雷様が、アルベドとルプスレギナはアインズ様が随行者を決めたのだけど。私の場合は、ウルベルト様が随行者を選定する前に、私が熱望した。けれど、それがどうかしたのかね? 君に何か関係でも?」

 

(しもべ)が至高の御方に対して熱望をするのは、如何なものかと思っただけですが……」

 

 ナザリックの(しもべ)が……この場合は、車内のアルベド達が聞くと、一瞬、セバスの言葉に頷いてしまう。だが、普段のアウラやシャルティアなどが至高の御方に対して『熱望』している事例を思い出し、首を傾げてしまうのだ。

 

(アウラやシャルティアに対して、至高の御方達が叱責しないのだから……そういうときは許されていると思うべきよね?)

 

 黙って様子を見守るアルベドは、頭の中でそう思っている。

 そもそも、今回のデミウルゴスの『熱望』先は、ウルベルトでありモモンガだ。その二人共が了承しているのだから、セバスは言いがかりを付けているとしか思えない。

 さて、デミウルゴスはどう出るか……と車内の注目が集まる中、デミウルゴスは右手の中指で眼鏡の位置を直し、ニヤリと笑った。

 

「ああ、それならば問題ありません。私が熱望したお相手は、ウルベルト・アレイン・オードル様です。そのウルベルト様も、ギルド長のアインズ(モモンガ)様から許可を得ているので、何ら問題はありません」

 

 至極、真っ当な反論である。

 対するセバスは、「むむ……」と唸った後に黙り込んでしまった。

 どうやら、感情的にケチを付けただけのようだ。

 そして、この話題はこれで終わってしまう。

 セバスの感じた憤りは皆が理解できていたし、デミウルゴスの説明に反論の余地がないことも又理解できていたからだ。だが、普段から不仲の二人が一度衝突したことで、車内の空気は一気に悪いものとなる。

 ぎすぎすした空気が蔓延したのだ。

 そして、それは先程、アルベドが苦言を呈しそびれた時よりも酷くなっている。

 呆れ果てたアルベドは無視を決め込んだが、ルプスレギナとナーベラルは上位者二名の醸し出す緊張感に、胃の痛い思いを強いられていた。

 ローブル聖王国の北部領王城までは距離があるため、戦闘メイド(プレアデス)らの苦難の時間はまだ続くように思えたが……ここで馬車が停止する。

 聖王国兵士長、パベル・バラハが先頭車を止めたことで、(しもべ)達の乗る馬車も停車したのだ。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「いやあ、門兵からの伝令で、随分と豪華な馬車が通過したと聞いてな。様子を見に来たんだが……。まさか、タチ(たっち)アレイン(ウルベルト)が乗った馬車だったとは!」

 

 そう言ってパベルがギラリと笑う。

 本人はニヤリと笑ったつもりだろうが、パベルの眼光が『凶』の方向に鋭すぎるため、モモンガ達には笑みよりも目つきの方が気になったのだ。

 なお、パベルへの応対は先に降車したたっちとウルベルトが行っており、モモンガ達は歩道寄りで停車した馬車……その左側扉から覗き見している。

 

「ああ、パベルさん。ご無沙汰しています。王国で仲間と合流できましてね。その報告に戻って来たところなんです」

 

 溌剌とした声でたっちが喋っているが、今のところ鬱な気分にはなっていないらしい。

 隣で立つウルベルトが思うに、モモンガ達との合流、そして制作NPCであるセバスとの再会が、どうやらたっちには良い影響を与えたようだ。

 

「タチが、レメディオスさんに会いたいと言って聞きませんでしてね。いやはや、困ったものですよ」

 

 ボソッとウルベルトが言い、たっちが「だだをこねる感じでは言ってないでしょ!?」と反論すると、パベルが胸を反らして大笑(たいしょう)した。少し顔が上向き、目は開かれたままたっち達を見ている。正直言って、かなり怖い。

 たっちとウルベルトが我知らず身を寄せ合ったところで、パベルは咳払いをした。

 

「いや、失敬。二人は冒険者活動中も、仲が悪いことで有名だったからな。変わらず仲が悪いことで結構……ん? これは言い回しがおかしいか? それはそうと、二人だけで戻って来たのか?」

 

 そう質問されたたっちとウルベルトは、顔を見合わせる。そして二人で馬車を振り返った後、たっちが説明を始めた。

 

「いえ、王国で合流した仲間が、聖王国には行ったことがないと言うので、ギルマ……リーダーの他、三人ほど連れてきました」

 

「ほぅ、リーダー? 俺は、てっきりタチかアレインがリーダーだと思っていたが……」

 

 この一連の会話は馬車内でも聞き取れており、モモンガは「そうですよ! バラハさんとかいう人! もっと言ってやってください!」と小声で、パベルに声援を送っている。だが、そんなモモンガの声援を、たっちの朗らかな声が打ち砕いた。

 

「いやあ~。今のリーダーの手腕は、私なんかより素晴らしいですから!」

 

「ぐはっ!?」

 

 モモンガは両拳を握りしめたまま固まり、茶釜とペロロンチーノは、ヒビが入って崩れ落ちる骨格標本を幻視する。

 

(「今のモモちゃん、人化してるのに……大変な幻覚を見てしまったわ~」)

 

(「モモンガさんの外堀がどんどん埋まってくよね~。元々、堀なんてないんだけど。でもさ……」)

 

 ペロロンチーノは、モモンガが本気でリーダー……ギルド長交代を願っているようには思えなかった。それを姉の茶釜に言うと、茶釜も苦笑しながら頷いている。

 

(「たっち・みーさんがギルド長をしてる姿を見たい! って思いはあるんでしょうけどね~。でも、引き受けた責任から逃げるようなモモンガさんじゃないし。軽くだだをこねて、それが上手く行かなくてへこむところまでを楽しんでるんじゃないの?」)

 

(「あ~……姉ちゃん。それ、ありえるっぽい!」)

 

 茶釜姉弟が囁きあう一方、馬車の外ではたっち達がパベルとの会話を続けていた。

 

「そもそも、私なんてリーダーの器じゃないですね」

 

「そのとおり!」

 

「ウル、アレインさん。うるさい……」

 

 またも二人は睨み合うこととなるが、パベルがマアマアと取りなすことで険悪な雰囲気が霧散する。これはパベルが仲裁慣れしているということではなく、禍々しい目つきで笑いかけられると、たっちらとしては身体が固まるのだ。

 一瞬、息が詰まる中、たっちより先に再起動したウルベルトがパベルに話しかける。

 

「そういや、パベルさんって、この辺りの配属でしたっけ?」

 

「違うぞ? 今日は……と言うか、数日ほど休みを取っててな。溜まった休暇を消化しつつ、娘のネイアと買い物デート中! というわけだ」

 

「お父さん……。そういうの恥ずかしいから、やめて……」

 

 小声で抗議するネイアが、パベルの袖を掴んで引くも、父親のテンションは天井知らずで上昇していく。

 

「年頃になった愛娘とデート! 男冥利に尽きるってもんじゃないか? ええっ?」

 

「まったくもって、そのとおりです!」

 

 たっちが力強く同意した。しかし、すぐに萎れるがごとく脱力する。

 

「私も、そうだった頃がありましてね~……。けど、なかなか家に帰らないからって……じゃあ、どうしろってんだよ……。養っていけないだろ? 人手も少なかったから休めないし。ふざけや……」

 

 どんどん雰囲気が黒化していくたっちを前に、今度はパベルがおののく。

 

「お、おい、アレイン? タチは、いったいどうしたんだ? 何かあったのか?」

 

「え? いや、その、家庭的な事情がですね……」

 

 たっちの離婚事情は個人情報に関わることなので、自分が説明して良いか判断できない。ウルベルトは短く、ボカした説明をするのだが、それでパベルは察したようだ。

 

「そうか……。気をしっかり持つように……としか言えんな。俺で良ければ、愚痴ぐらいは聞くぞ? タチ?」

 

「ハア……はい。機会があれば……。ところで、ネイアちゃんは訓練兵……でしたっけ?」

 

 完全に気が晴れたわけではないが、幾分か気を取り直したたっちは話題を変える。

 パベル・バラハの娘……ネイア・バラハは、たっちが言ったとおり訓練兵だ。聖騎士志望ということも聞いている。ただし、たっちが見たところでは、彼女に剣を扱う才能はない。

 

(職業の特殊技能(スキル)の反応だけじゃなくて、元の現実(リアル)での訓練経験からしても、ネイアちゃんは向いてないように思うんだよな~……)

 

 魔法が存在する転移後世界の人間に対し、魔法のない元の現実(リアル)感覚で見ても、才能が欠けているように見えるのだ。この才能のなさは相当なものだと言える。

 

(そもそも、ネイアちゃんって弓士向きじゃないかな? 九色に選ばれるぐらい強い弓士の、パベルさんの娘なんだし……。普通に考えると、弓士の方向に進んだ方が良いと思うんだけど……)

 

 父親が凄い弓士と言うことは、凄い指導者と同居しているということでもある。その恵まれた環境を活かすべきではないか。

 そう思うたっちだが、ネイアの聖騎士への志望動機が家庭内事情によるものなら、自分が口出しするべきではないだろうとも考えている。しかし、一度気になってしまった以上、関係者二人が目の前に居るので意識から消えてくれない。更に言えばたっちは、さっきパベルから聞かされた『父親が娘と仲良くする』関連の話題を再開したくなかった。

 

(また、鬱になりそうだし! もういいや、聞いちゃえ!)

 

 たっちは「ふむ、そうだが?」と言ったまま、たっちの反応を待っていたパベルに質問する。

 ネイアちゃんは、弓士の才能があるんじゃないですか……と。

 聖騎士に向いてないのでは……と聞かないのは、聖騎士志望のネイアに配慮したからだ。

 この質問を聞いたパベルは、困り顔で鼻の頭を指で掻き、ネイアはプイと顔を逸らした。

 

「いや、なんだ、俺が見ても剣の才能は無いし、弓使い向きだから……。止めておけとは言ってるんだけどな~……な?」

 

「そんなの、私の勝手だもん……」

 

 他人の前で自分の我が儘を話され、ネイアは機嫌を損ねている。

 たっちとパベルは顔を見合わせて苦笑したが、ここでウルベルトが人差し指を立てた。

 

「路駐した馬車前での立ち話も何ですし。近場の酒場か何かにでも入りませんか? それに今日は、うちのギ……リーダーも居ますから……。そうそう! チーム漆黒、随一の弓使いも居るんですよ。これは何か、相談に乗れるかも知れませんし……ね?」

 

 ウルベルトの本音としては、立ち話が面倒になっていたし、顔見知りが悩みを抱えていることと、それに連動してたっちが情緒不安定になっているのが気になっていた。

 

(パベルさん達の悩み。これを解決できる方向で話を進められたら、たっちの奴も少しはマシになるか? 一石二鳥ってやつ?)

 

 と言った具合でアイデアを思いつき、別所での悩み相談を行う提案をしたのである。

 なんで俺が、たっちのために知恵を絞らなくちゃいけないんだ……という思いはあったが、たっちの鬱が悪化して暴走でもしたら被害は甚大。そのことを思うとギルメンとしての手助けは必要か……といった具合で、自分を納得させていた。

 一方、パベルとしてはネイアの機嫌の問題上、この話題を打ち切りたかったが、アレイン(ウルベルト)の言うとおり、今の自分達は通行の邪魔だと判断する。

 その後、話し合いが行われ、パベルが冒険者組合への移動を提案した。そこなら大人数で話し合っても他人の迷惑にはならないと考えたのだ。なお、馬車は都市の駐留兵の詰所で預かって貰う予定である。

 

「民営の駐車場もあるんだが、詰所だと俺の顔で無料駐車できるからな。馬の世話もバッチリだぞ?」

 

 モモンガ達は、元々、冒険者組合に顔を出すつもりだったし、さっさと用事を済ませて、休憩がてらパベルと話をするのも良いか……と、パベルの提案に乗ることとする。

 弐式が御者に馬車を任せて降車し、次いで車内に居たモモンガ、ペロロンチーノ、そして茶釜が降車した。先頭馬車の御者(悪魔を人化させている)が連絡のため、二台目の馬車に向けて駆けて行くと、モモンガは御者の背を見送ってからパベルに挨拶をする。

 

「はじめまして。チーム漆黒でリーダーを任されてます、モモンです」

 

 元の現実(リアル)での本名は鈴木悟。

 転移後世界での本名はモモンガ。

 王国での貴族としては、アインズ・ウール・ゴウン。

 モモンという名は、アインズ・ウール・ゴウンが冒険者活動を行う際の、通り名やペンネームのようなものとして使用している。

 

(モモンがアインズの通り名だって知れ渡るようになったら、モモンです~……って名乗っても、王国のお貴族様ですか!? って驚かれるようになるんだろうな~……。また新しい名前でも考えるかな?)

 

 ギルメンとのお出かけは、もっと気楽にしたいのだ。

 しかし、モモンガがチーム漆黒のリーダーである以上、名前と見た目を変えたところで結果は同じである。

 

(やはり、ここは新たなリーダーが必要なのかな~……。そうだ! そもそも、チーム漆黒は班活動の体制なんだから、俺が誰かの班に、班員として潜り込めばいいじゃん! これはナイスアイデアだぞ~!)

 

 後日、たっち・みー班に班員として参加することで、モモンガの希望は叶うこととなる。

 たっち・みーによる指揮の下、パーティーの一後衛、一魔法詠唱者(マジックキャスター)として、他のギルメンと共に奮闘するモモンガは……一点の曇りもなく幸せだったという。

 

「なるほど、貴殿がタチとアレインのリーダー……モモン殿か。御存知かも知れないが、私はパベル・バラハ。聖王国で兵士長を務めている」 

 

 キリッとした表情(眼光による怖さが増し増しである)で自己紹介したパベルは、怖い笑顔を浮かべるとモモンガを睨ん……見つめた。

 

「ふむ。装備からすると魔法詠唱者(マジックキャスター)ですかな? 優しげな面立ちだが……人が集う御仁だと見受けた。なるほど……」

 

 パベルは納得しているが、ネイアは不思議そうにしている。ネイアには、一見しただけでモモンガの実力を測りきれないのだ。この辺は、父と娘の人生経験の差かも知れない。とは言え、パベルは全面的にモモンガの人望や統率力を評価していたわけではなかった。

 

(悪い人物ではなさそうだし、馬鹿そうでもない……。それに、あのタチとアレインが大人しく従っているんだ。実力者だ……と認めておいた方が、付き合いの上で無難だものな)

 

 このように第一印象に打算を加味していたのである。

 では、モモンガを一目見て『人が集う人物だ』と評されたことに対し、各ギルメンや、馬車から降りて合流していた(しもべ)達はどう思ったかと言うと……大いに気を良くしていた。

 

(「人間にしては見る目がある奴っす」)

 

(「評価に値するわ。名前を覚える努力をしても良いかもしれないわね」)

 

 ルプスレギナが機嫌良く語り、忍び装束のナーベラルが頷いている。ナーベラルに関しては、異世界転移当初のように人間蔑視をするような発言がなかったため、肩越しに振り返っていた弐式がサムズアップを贈っていた。

 

(「はうあう~。弐式炎雷様~……」)

 

 嬉しさのあまり真っ赤になって俯くナーベラル。

 その姿を、アルベドやセバスなどNPC達が見ているが、至高の御方、それも自身の創造主に褒めて貰えたナーベラルを羨ましく思う気持ちで一杯だ。

 幸いなことに、自分達にはナーベラルと同様、至高の御方……創造主様が共に居る。アルベドとルプスレギナに関しては創造主は同行していないが、こちらは交際中のモモンガが一緒なのだ。

 ここは失敗のないよう手柄を立てて、それでお褒めの言葉を頂けたら無上の幸せに違いない。

 何一つ示し合わせたわけではないが、全員が同じ思いを抱き決意を固めている。

 このNPC達の決意から来る『やる気』を向けられるのは、いったい誰になるのか、この時点では定かではない。だが、転移後世界の者が相手になるとしたら、ほぼ間違いなく悲惨な目に遭うことだろう。 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 モモンガ達は、パベルに連れられて冒険者組合に移動した。

 一階が広いフロアとなっており、組合受付と小さな売店がある他、待合用の円テーブルと椅子が何組か置かれている。どこの国でも、冒険者組合の造りは似たようなものとなるが、聖王国と王国の冒険者組合は雰囲気が似ていた。

 似ている理由の一つとして、バハルス帝国の冒険者組合では感じられない活気が挙げられる。

 

「おやぁ? 私達が活動していたときよりも、冒険者が増えてませんか?」

 

 金の刺繍が施された黒のローブ。モモンガよりは「高いローブを着ている」といった風体のウルベルトが受付ホールを見回した。彼が知る聖王国の冒険者組合の受付前と言えば、もう少し……バハルス帝国の組合ほどではないが閑散としていたはずなのだ。

 ウルベルトの声を聞き、モモンガは首を傾げたが、その彼にたっちが歩み寄って耳打ちする。

 

(「モモンさん。聖王国は、亜人の襲撃をたびたび受けてまして……。その亜人が、転移後世界感覚では割と強いんです。いわゆる討伐依頼の難度が高いわけでして……」)

 

 襲撃側の亜人が多い場合は国軍が出動するのだが、それで討伐しきれない場合や、少数での襲撃では、国からの討伐依頼として組合に仕事が回ってくる。しかし、亜人の難度が高いため、依頼を受ける冒険者は少ないのだ。加えて、亜人が彷徨いている中では遺跡探索などできないので、冒険者が減るという状況だった。

 

(「腕の立つ冒険者も居るには居るんですけど、そういう人達は、依頼を受けて出かけてますしね~……」)

 

(「へ~、そうだったんですね? でも、今は冒険者の数が多いんですか?」)

 

 たっちの説明は、聖王国の冒険者組合で冒険者を多く見かける部分に触れていなかったが、ここでタイミング良くパベルが話し出した。もっとも、モモンガとたっちにではなく、先のウルベルトの呟きに対して反応したものだ。

 

「要塞や外壁の向こう、近隣で彷徨く亜人……その中でも好戦的な亜人は、タチとアレインで撃退してたからな。冒険者感覚で安全度が高くなってるんだよ。稼ぎ時だってことで、冒険者が集まるわけだ」

 

 座ろう座ろうとパベルが促すので、モモンガ達は六人がけの円テーブルに移動する。

 パベルの右隣にモモンガが腰掛け、ウルベルト、弐式、茶釜、ペロロンチーノ、たっち、ネイアが座り、ネイアはパベルの左隣という配置だ。なお、足りない椅子は隣のテーブルから取り寄せている。六人掛けのテーブルに八人集まっていることになるが、元々六つの椅子は間隔を空けて配置されるので、八人でも座れるのだ。

 ちなみに、チーム漆黒のリーダーであるモモンガが、パベルの対面に座らなかった理由は、パベルの眼光が怖いからである。

 

「タチさん達は、聖王国で冒険者をしてたって聞きましたけど。亜人を駆逐して回ってたんですか?」

 

 (しもべ)達が隣のテーブルに移動しているのを見ながら、モモンガが確認すると、たっちとウルベルトは顔を見合わせ共に首を横に振る。そして、たっちが話し出した。

 

「モモンさん。亜人はね、時折、ちょっとした集団で押しかけてくるんですよ。それの討伐や迎撃の緊急依頼で私達が出ますよね? で、その亜人達と戦ってると、周辺で居る亜人が察知して集まってくるんです」

 

「けど、私とタチさんでコンビ組んでましたから……。多少数が増えたところで……ねえ?」

 

「なるほど……」

 

 たっちに続いてウルベルトが語り、聞き終えたモモンガは頷く。

 意図したわけではないが、その都度、一網打尽の形になったということだ。

 後に残るのは、亜人が存在しない真空地帯である。

 たっちの話では、普段は月に二回ほどの襲撃が、冒険者活動中に月十数回も発生したそうで、その回数だけ亜人の数が減っているのは確実とのこと。これなら都市外の安全度も高くなると言うものだ。

 そして、襲撃回数増の理由。

 これは、たっち達の知らない話だったが、意気揚々と出かけていった亜人達が戻らないので、興味を持ったり警戒した亜人氏族が、新手を送り出していたことによる。

 それら新手も、二人の働きで磨りつぶされており……今は、各氏族長が合議して、近日中に一大集団となって押し寄せる準備中であった。

 

「さて、何の話でしたっけ? ネイアさんの……進路相談でしたか?」

 

 モモンガが確認すると、左隣のパベルが『愛想のいい人殺し』的笑顔を見せ、その向こうで座るネイアは、注文した果実水に口を付けながら目を逸らす。

 ネイア・バラハの志望は聖騎士。しかし、剣を扱う才能はない。

 父親のパベルは、娘の才能を把握しており、聖騎士……広い目で見て剣士系の職を選ばせたくはないようだ。

 

(て言うかさ、なんで俺が相談聞く流れになってるの?)

 

 パベルに対し、ネイアの進路等について質問したのはたっち・みーだったはず、だが周りを見れば皆がモモンガを見ているのだ。

 

(俺はギルド長ですけどねぇ……。そんな何でもかんでも、良いアイデアが思いついたりはしませんよ?)

 

 事実、良いアイデアを思いつかなかったので、モモンガは他の者へ投げることにする。

 ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』随一の弓使い。

 爆撃の翼王、ペロロンチーノである。

 そのペロロンチーノは、「ネイアちゃん、目力あるな~。……エロゲ的には有りだけど」などと呟き、隣の茶釜によって脇腹を殴られていた。

 この男を、少女の人生を左右する話題に引き込んで大丈夫かどうか。モモンガは不安を覚えたが、結局はペロロンチーノに話を振ってみた。エロゲーマスターではあるが、弓の話となれば信頼できる。ユグドラシルにおける弓使いとしての立ち回りなどは、転移後世界でも通用するはずだからだ。

 

「ペロロ……ごほん……ペロンさん。ネイアさんは、不向きの剣士系、あるいは戦士系を志望されてるそうです。お父上のパベルさんとしては、ネイアさんは弓士向き……でしたか?」

 

「ん? ああ、才能的には俺似だと思ってる」

 

 一応、確認をした上で、モモンガはペロロンチーノに視線を向け直す。

 

「パベルさんと同じ、弓使いとして……ペロンさんはどう思います?」

 

「どう思うったって、自分の人生だもの。好きにすれば良いんじゃないの?」

 

 それだと、向いてない仕事でネイアが苦労するのが目に見えている。だからこそ、パベルは悩み、何度もネイアを説得しているのだ。

 ペロロンチーノとネイア以外が大きく溜息をつき、ネイアは瞳を輝かせていた。

 

(もうちょっと、マシなことを言いなさいよ。この愚弟……)

 

 茶釜は、弟の発言を苦々しく思っているが、先程、ペロロンチーノが下品な軽口を叩いた時のように、物理的な仕置きはしていない。ペロロンチーノの言い分も、間違ってはいないからだ。

 本人のしたいようにすればいい。

 それで失敗しても、本人の責任だし本望でもあるだろう。

 だが、そうなることが解っているのに、放置しておくのは如何なものか。

 

(けど、あまり踏み込んで関わるのも、どうなのかしらね?)

 

 たっちとウルベルトは、パベルやネイアとそこそこ付き合いがあるようだが、モモンガや他のギルメンは初対面だ。これ以上は、他人の余計な差し出口になるのではないか。そう考える茶釜は、自分の口が重くなるのを感じていた。

 しかし、姉の思惑に微塵も勘づいていないペロロンチーノは、続いて口を開く。そして出た言葉は、ネイアを戸惑わせた。

 

「でもまあ、後悔はしないようにね?」

 

「後悔ですか?」

 

 剣の使い手として大成しなくても、自分の選んだ生き方だ。後悔するようなことはありえない……と、若いネイアは思う。そして、斜め前で座るペロンという弓使いの青年、彼もまた自分を説得する気なのではと、少し身構えた。

 ペロロンチーノはと言うと、思うところを述べているだけなのか、大して気負いもせずに話を続けている。

 

「え? だって……何年も経って歳を取ったら、躰は若い時みたいに動かないじゃん? その時になって、少しでも見込みのあったことに時間をかけてれば良かった……とか。そんな風に思っても、やり直しは利かないことが多いし? 歳取ってから才能のある事を始めても、若い頃から頑張ったよりは凄くならないと思うんだよね~。けど、そういうのも踏まえて覚悟があるんだったら、好きにすればいいと思うよ? 人それぞれの人生だからね!」

 

 そう言ってペロロンチーノは朗らかに笑ったが、対照的にネイアの顔色は良くない。

 視線をテーブルに落とし、何かを考え込んでいる。

 その様子に、パベルは落ち着かない様子だったが、ペロロンチーノの口振りに非がないのは理解できていた。

 そしてそれは、モモンガ達も同様である。

 ペロロンさん、明るい口調で痛いところを突くよな~……少女の拘りを蹴散らすスタイル、嫌いじゃないけど容赦がないわ……。

 そういった思いで、ギルド長とギルメン達の心は一つになるのだった。

 




 第100話に到達しました。
 正直、100話も書くとは思わなかった……。

 いつもより千~二千字ほど少なめです。
 これから4月ぐらいまで、投稿ペースが落ちると思います。
 あと、14巻あたりを読み返して、各氏族の長の口調をチェックしなくちゃ……。
 覚えてないのです……。

 聖王国の冒険者組合の状況は、本作独自の展開です。
 ヤルダバオトの裏工作が無くて、たっちとウルベルトのコンビで腕自慢が倒されてますので、モモンガさんが聖王国に足を運んだときの、亜人の圧力の無さが大きく原作と違うところかと……。

 ちなみに、ペロロンさんの「人それぞれの人生だからね」は、アニメ北斗の拳から頂きました。
 ラオウ軍の一グループのリーダーが、持ち場を離れて逃げる際に言った「残りたい人は残ればいいよ。人それぞれの人生だからね」が元ネタ。


<誤字報告>

D.D.D.さん、リリマルさん、ヴァイトさん、ARlAさん、佐藤東沙さん

毎度ありがとうございます。 
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