オーバーロード ~集う至高の御方~   作:辰の巣はせが

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第101話

「今日のところは、これで失礼する」

 

 聖王国の外縁都市。

 冒険者組合前で、パベル・バラハがモモンガ達に一礼している。彼の隣で立つネイア・バラハは、何やら考え込んでいるようだ。

 この日、モモンガ達は、たっちとウルベルトの知人だという聖王国の兵士長、パベル・バラハと遭遇し、立ち話を始めた流れから手近の冒険者組合へ移動して、更に話し合っていた。

 会話内容は、主にパベルと同行していた彼の娘……ネイアの進路相談である。

 ネイアは、弓士としての才能がありながら、本人の拘りにより才能がない剣士……聖騎士を目指していた。父親の説得に耳を貸さない彼女に対し、当初は説得役としてモモンガに話が振られている。しかし、父親のパベルが弓使いであることから、ギルメンにおける弓使い……ペロロンチーノにお鉢が回ったのだ。

 結果、ペロロンチーノから「自分の人生なんだから好きにすればいい。ただし、後で悔やんでも自分の責任」といった内容の言葉を投げかけられ、ネイアは黙り込んでしまう。そこで会話が途切れ、気まずくなったパベルの申し立てにより、話の場はお開きとなっていた。

 そして今、冒険者組合前で別れようとしているのだが、ここでネイアがペロロンチーノを見ながら呟くように質問する。

 

「あの、ペロン(ペロロンチーノ)さん?」

 

「なにかな? ネイアちゃん……さん……」

 

 明るく応えようとしたペロロンチーノが、『ちゃん』を『さん』に変更した。

 ネイアの隣で居るパベルが、値踏みするような視線を向けてきたからだ。普通の眼差しであっても怖いのに、目を細めることで一層怖さが引き立っている。

 

(たっちさんとウルベルトさんは、『ちゃん』付けが許されてるのに! 俺は駄目だとか、これが格差社会か!)

 

 溺愛する娘と口をきこうという男。

 そこそこ付き合いのあるたっち達と、今日が初対面のペロロンチーノでは対応が違って当然なのだ。

 

「さっきのお話ですけど、ペロンさんは後悔とかは……したことないんですか? その弓使いの道を選んで……ですけど……」

 

 ネイアの問いかけは、自分の人生をかけるに足る『職業』として弓使いを選んだことで、ペロロンチーノには後悔はないのか……というものだ。

 この質問に、モモンガを始めとして居合わせた者達……全員の視線が、ペロロンチーノに集まる。

 当のペロロンチーノはというと……。

 

(う~ん……ギャグで返しちゃ駄目なんだろうな~……)

 

 のほほんと馬鹿なことを考えていた。

 仮に、ちゃらけたギャグを口走ったとしたら、茶釜による苛烈な折檻がペロロンチーノに対してなされるだろう。

 一瞬、背筋に冷たいものを感じて身震いしたペロロンチーノは、真面目に回答することとにした。

 

(けど、なんて答えたらいいんだろ? 俺にとっての『弓使い』は、あくまでユグドラシル……ゲームのジョブや特殊技能(スキル)でしかないし。後悔してるか? って聞かれると、ガチビルドだから後悔してないよ~……ってなるんだよね~……)

 

 だが、ネイアが聞きたいのは、そういう事ではないはずだ。

 ペロロンチーノは人生相談ということから、自分の半生を振り返りつつ、そこにユグドラシルにおける弓使いとしての自分を織り交ぜてはどうだろうと考える。本当なら姉やモモンガに相談したいところだが、目の前にネイアが居る状態では<伝言(メッセージ)>を使うわけにもいかない。

 

(喋るときは声に出す仕様だもんな~……。ラノベでよくある感じで、思念だけで会話ができればいいのに……)

 

 心の中で口を尖らせたペロロンチーノは、精一杯の思案顔で口を開く。

 

「後悔ねぇ……。後悔なら山ほどあるよ。あの頃、もっとああしておけば良かった……とか。あそこで、あのアイテムを入手できてたら……とか。別の仕事なら、もっと上手くやれてたんじゃないか……ってね。俺だって、何もかも上手くやってたわけじゃないんだよ。君のお父さんの……パベルさんも、そうなんじゃないの? 何かを選んで、死ぬまで後悔しないなんて……それ、もう色んな意味で『人』じゃないと思うし」

 

「だ、だったら! なんであんな話……」

 

 からかわれたと思ったのだろうか、ネイアが怖い眼差しに怒りを添えて睨んできた。その眼光を、ペロロンチーノは真正面から受け止める。怖いが、怒っているときの姉を思い浮かべることで耐えたのだ。

 

「俺は後悔したからだよ。ミスした経験からの助言ってやつ? ネイアさんは若いんだから、心配してくれる大人の言うことは聞くべきだとも思うんだよね。でも、そういう事を踏まえた上で、ネイアさんの人生はネイアさんのものでしょ? だったら、よく考えなくちゃ!」

 

 考え考えしながら言うペロロンチーノは、巻物(スクロール)を取り出す。それは高位幻術を仕込まれており、使用すると、任意の姿に変身できる効果があった。

 

(しかも、魔法職でなくても使えるタブラさん特製の逸品!) 

 

 手が込んでいる分、製作費用がかかるのだが……ペロロンチーノは使用を躊躇わなかった。

 紐を解いて効果を発動する。

 変身した姿は……冒険者ペロンの姿だ。

 つまり、巻物を使用する前と何一つ変わらない。

 

「おい、ペロン? 今、何をしたんだ? 巻物(スクロール)を使ったようだが……」

 

 皆を代表してパベルが聞くと、ペロロンチーノは「いや、ちょっとした筋力増強ですよ。ほら、武技にも似たようなのがあるでしょ?」と誤魔化し、幻術の下で人化を解いた。本来の姿である鳥人(バードマン)の姿となったわけだが、この幻術を見抜けているのはモモンガ達のみである。

 モモンガ達は「何処からか、よそのユグドラシル・プレイヤーが見てるかも知れないのに、よくやるよ……。後で説教だな……」と思っていたが、何か思うところがあっての行動だと判断し、口は挟んでいない。

 ペロロンチーノは背負っていた弓を取り出すと、矢筒から矢を一本引き抜いた。

 手に持つ弓は、主武装のゲイ・ボウに遠く及ばないものの、転移後世界では紛れもない神器である。幾つかのバフ効果を備えている……が、今回の外出で選ばれた理由は、ペロロンチーノの全力運用に耐える頑丈さにあった。

 

「でもさ~、こんなに後悔してる俺だって……」 

 

 ギリリ……と、矢をつがえて引き絞っていく。(やじり)の向く先は、最初は正面、そして徐々に角度が上がっていき……最後には真上、空に向けられていた。

 

「自分向きの『弓』に関しちゃ、多少は使えるんだよね!」

 

 叫ぶように言うと、ペロロンチーノは空に向けて矢を放つ。

 放たれた矢は一見、普通に空を目指した後……突如、速度を最大限に増した。

 

 轟っ!

 

 何かが高速で通り過ぎたような音がし、猛烈な風が皆の周囲に集まって吹き上げられていく。

 そして矢は、見る間に上空の雲へ到達すると、周囲数百メートルほどの雲を円形に吹き飛ばして更に高みへと昇っていった。

 モモンガ達は、「お~……やるやる」と、ペロロンチーノの『一発芸』に感じ入り、随行のNPC達は、それぞれが空を見上げて『至高の御方』の御業に感動している。そして、ネイアとパベルは……呆気に取られて雲に穿たれた巨大な穴を見ていた。

 

「んん~……。もうちょっと、綺麗な感じで『雲抜き』をしたかったけど……。この弓じゃこんなものかな?」

 

 ペロロンチーノは今ひとつ満足に到らなかったが、その彼に興奮した様子のネイアが話しかける。

 

「わ、私も、弓を極めたら! 今みたいな事ができるんでしょうか……」

 

 その見上げる瞳は、ネイアの思うところでは憧憬一色に染まっていたが、ペロロンチーノは、殺意に満ちた眼差しを向けられたような気分を味わっていた。

 

「う、う~ん。知らない!」

 

 身も蓋もない発言に皆の腰が砕ける。

 今までの展開は何だったのか。

 茶釜の握りしめた拳が徐々に持ち上がっていくが……続くペロロンチーノの言葉でスッと下げられている。

 

「それこそ、ネイアさん次第じゃないの?」

 

「私、次第……」

 

 ネイアはペロロンチーノの言葉を繰り返し、モモンガと弐式が顔を見合わせた。

 

(「弐式さん。こっちの世界の人が、訓練や修行でペロロンチーノさんと同じことができるようになると思います?」)

 

(「自力じゃ無理でしょ? いや、俺達が手を貸して、アイテムも貸したら今のくらいは……)

 

 この囁き声はネイアには聞こえなかったらしく、ネイアはペロロンチーノが持つ弓を見て、次いで自分の右隣で立つ父を見た。

 

「父さん……今度、私に弓を教えてくれる?」

 

「ね、ネイア!?」

 

 禍々しい眼差しが交錯し、すぐにでも殺し合いが始まるような絵面であったが、実態は親子の感動シーンである。

 その目つきのことは脇にどけて、パベルは幸せの絶頂にあった。

 あれほど弓に見向きもしなかったネイアが、弓に対して興味を持ち、父である自分に教えを請うているのだ。これほどの幸せは、そうそうあるものではない。

 今この瞬間、パベル・バラハは転移後世界で最も幸せな父親だった。少なくとも、パベルの主観においては、それが真実だった。

 が、その幸せも瞬く間に消え去っていく。

 

(俺が教えて……いいんだろうか?) 

 

 少し前までのパベルは、こと弓に関しては周辺国で随一の使い手であると自負していた。しかし、ペロン……ペロロンチーノが空に向けて放った矢。それを見た時の衝撃は、彼の自負や自尊心を消し飛ばすに十分だった。

 自分などより、この男に指導を任せた方が良いのではないか……。

 そう考えたパベルは、ネイアの頭に手の平を載せペロロンチーノを見るのだった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「いや、驚きましたよ。あのパベルさんが、『俺の娘の指導を頼む』なんて言い出すとは……」 

 

 再び移動を開始した馬車の中で、ウルベルトが言う。

 パベル・バラハは娘を溺愛するタイプの父親だ。ネイアを軟派するような男を見かけたら、弓矢の的にするに違いない。

 このウルベルトの発言に、珍しくたっちも頷き同意を示した。

 

「ですね。まあ、それだけ、ペロロンチーノさんの実力に感じるものがあったんでしょうけど」

 

 この二人の会話のとおり、パベルはネイアに対する弓の指導を、ペロロンチーノに依頼している。

 ペロロンチーノとしては、若い女の子に指導するのは喜ばしい話で、「頑張って格好いいところを見せた甲斐がありましたよ! フラグ立て成功!? 成功なの、これ!? いやっふー!」と馬車内で大騒ぎし、茶釜にボディブローをくらっている。

 なお、このペロロンチーノとネイアの一件は、傍目にも良い展開だったので「部外者だろ? 断っちまえ」と言うギルメンは居なかった。

 ネイアに対する指導については、彼女がナザリック通いをするのは無理だし、ナザリックで預かるのはパベルが許しそうもなかったので、ペロロンチーノが数日おきにネイアの元を訪れて指導することで話は決まっている。

 指導料はパベルの財布から出ることになっていて、指導一回につき銀貨五枚だ。

 ペロロンチーノほどの実力者を雇うには安い額だが、この銀貨五枚を言い出したのはペロロンチーノだったりする。ペロロンチーノとしては片手間に近いことなので、金額に拘るものはなかった。

 

(ふひひっ。女学生ぐらいの女の子に、手取り足取り教えられるとか! 元の現実(リアル)ではなかったことだよ~! ブラボー! 事案万歳!)

 

 ついさっき殴られたばかりなのに、ペロロンチーノは声に出したら、隣で座る茶釜によって雑巾のように絞られるであろう事を考えている。ちなみに、今は人化中なので、何を考えているかは表情から容易に読み取れていた。

 茶釜は苦虫を噛みつぶしたような表情で居るが、彼女が黙っているのは、ペロロンチーノが考えを声に出していないからに過ぎない。

 

「ああ、他のギルメンとも話がつきました。それぐらいのことなら、事後報告で構わないそうです」

 

 <伝言(メッセージ)>で各ギルメンに連絡を回していたモモンガは、ようやく一息つけると肩から力を抜いた。

 聖王国に入って少し時間が経過したが、さっそくイベントが発生したので、一行を率いる身としては緊張を強いられている。

 

(イベントと言っても、ペロロンチーノさんに女の子の教え子ができたんだけどな。エロゲーマスター恐るべし。少し出歩くと女の子が寄ってくるのか!)

 

 ペロロンチーノにしてみれば、ナザリック内で嫁候補を増やし、外でも増やして帰ってくるモモンガに言われたくないだろう。

 

(でも、ネイアさんってペロロンチーノさんの好みだっけ?)

 

 モモンガは、ペロロンチーノの異性の好み……その終局点がシャルティア・ブラッドフォールンだと知っている。

 美少女顔で、銀髪で、小柄で、吸血鬼で、ゴスロリで、残酷で、えせ郭言葉で、貧乳で……。 

 まさに、好みや性癖の闇鍋状態。

 そこから考えるとネイア・バラハという少女は、ペロロンチーノが気に掛けるタイプの美少女だっただろうか……とモモンガは首を傾げた。

 他人の女性の好みなど、本来ならモモンガが口出しするところではないが、やはり知っているだけに気になってしまう。

 

「ペロロンチーノさんは、ネイアさんのことが気に入ったようですね?」

 

 我知らず言葉に出してしまい「あ、言っちゃった……」と口元を押さえるが、せわしなく視線を振ると、車内のギルメン達は興味深そうにしているのが確認できた。モモンガと同様、ペロロンチーノとネイアの組み合わせについては気になっていたらしい。

 

「ネイアさん……パベルさんが居ないから『ちゃん』でいいかな? ネイアちゃんは俺的に良いと思いますよ!」

 

 ペロロンチーノはと言うと、この調子である。

 ああ、お気に入りなんですね……とモモンガが言い終えるのを待ち、今度はウルベルトが発言した。

 

「パベルさん似で目力がある子ですけど。そこも好みということでしょうか?」

 

 それは女性の顔立ちに関して意見を求めるという……同じ車内に女性の茶釜が居ることを考えれば危険な問いかけである。 

 車内の男性陣を緊張感が支配するが、茶釜は黙ったままだ。

 

(愚弟が言ったなら折檻だけど、ウルベルトさんは他人様。我慢我慢……)

 

 このように茶釜は自分を抑えているが、度を過ぎた会話になれば口出しする気では居る。このことはウルベルトも把握しており、額に一筋の汗を垂らしながらペロロンチーノの返答を待っていた。

 

(パベルさんとは知らない仲じゃないですし。その娘さんともなれば、エロゲーマスターに任せるのは要注意なんですよ。茶釜さん……)

 

 単なる好奇心ではなく、ペロロンチーノがどういう目でネイアを見ているかが気になっていたのである。

 一方、ペロロンチーノはウルベルトからの質問に対してキョトンとしていた。

 

「え? 目つきは怖いですけど、何となく惹かれるんですよね~……。……なんでだろう? 元の現実(リアル)では、エロゲ的に有りだとは思ってても、実際は、そこまで好みに突き刺さる要素じゃなかったんですけど……」

 

 言いつつ、途中から考え込んでいく。

 

「こっちの世界に来てから……ですかね? 獲物を狙う猛禽のような眼差しが、妙に良い感じに思えてまして……」

 

(……鳥だからだな……)

 

 それが、モモンガ達の統一した見解だった。

 この異世界に転移した時点で、モモンガ達は人ではない。人化こそできるものの、その本性は異形種なのだ。ただ、他のギルメン達との付き合い上、人としての心は維持しておきたいので、人化期間を設けることで調整している。

 モモンガは頷いた。

 

(そんな調整をしてても、俺はアンデッドだから、ウルベルトさんは悪魔だからといった具合で、少しの影響は出るんだよな~……。鳥人(バードマン)であるペロロンチーノさんの場合は、ああいう感じに影響が出たってわけで……)

 

 つまり、鳥人になったことで、ペロロンチーノの性癖に『眼光の鋭さ』が加わっていたのだ。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 パベル達と別れた後、モモンガ一行は日も暮れてきたので、ナザリック地下大墳墓へ戻って一夜を過ごしている。

 そういう事ができるのであれば、馬車移動などせずに、<転移門(ゲート)>を使って一気に聖王国王都に移動すれば良いのだが、そうしないのは事情があった。

 まず、<転移門(ゲート)>で聖王国入りすると、不法入国になること。

 

「やあ、聖王女様。魔法で移動してきました。え? 国境の入国審査? 知りませんけど?」

 

 では通らないのだ。突然、聖王都に出現するのではなく、きちんと移動してきたという実績が必要なのである。

 デミウルゴスやナーベラルは、知りませんけど? で通す気満々であったが、両者とも創造主に睨まれたことで提案を引っ込めていた。

 国境を普通に通過してからも馬車移動を続けている理由は、かつてヘロヘロが「馬車に乗ってみたいじゃないですか!」と、途中で飽きるまで馬車移動に拘っていたのと同じ理由だ。

 加えて言うなら、乗り物の中で揺られながら、皆でワイワイ話し合ったりしたかったというのもある。

 ただ、車中泊するのも一興という意見はあったが、やはり<転移門(ゲート)>を使えるのだから、ナザリックに戻ろうという決定がなされ、皆でナザリックへ戻っていた。

 そして、夜が明けてから<転移門(ゲート)>で聖王国へ移動。馬車移動が再開されている。

 

「出たり入ったりを<転移門(ゲート)>でやってますから、結局は不法入国ですね。あ、不法出国もあるのか……」

 

 たっち・みーが正論を吐くも、皆、聞かない振りをするのだった。

 モモンガなどは、たっちから指摘されたことで心を痛めたが、他のギルメン全員が<転移門(ゲート)>使用を是としていたので、たっちの肩を持つことはしていない。

 もっとも、馬車移動が再開されると、たっちも菓子などを摘まみながら機嫌良く会話に加わっていたので、モモンガの心痛はすぐに解消された。

 そして、モモンガ達の馬車は聖王都ホバンスに到着する。

 王都を見てモモンガは、立派な街並みだ……との感想を持った。

 王国の王都も立派だったが、そこはお国柄が反映されているのか、街並みは綺麗であり、一見してスラム街などは無いように見える。

 見たままの感想をモモンガが述べると、右隣のたっちが人差し指を立てた。

 

「スラム街っぽい区域もあると言えば、あるんですけどね。聖王女様が色々と手を尽くしているから、荒れてるように見えないだけで……」 

 

 神殿への奉仕活動を条件に、食糧配給などが行われているとのこと。その他にも職業の斡旋所などがあるらしい。

 

「スレイン法国でしたっけ? そっちも似たような奉仕活動をしているらしいですけど、良い感じでは伝わってませんね~」

 

 聖王国での冒険者活動時代に得た情報。それを聞かせてくれるたっちに頷きながら、モモンガはスレイン法国のことを考えてみた。

 

(……思い返しても、あまり良い印象がないな~)

 

 異形種に関して攻撃的だし、危ない宗教国家としてのイメージが強い。

 本来であれば、聖王国に対しても似たような印象を持って、モモンガは身構えたかも知れない……が、こちらはたっちとウルベルトが聖王国の高位者らと仲が良いので、すんなりと訪問に踏み切れていた。

 モモンガは左側の窓……ウルベルトの向こうで流れる街並みを見ながら、自分自身が聖王国に来ることになった理由を思い出す。

 

(聖王女様に会ってみたいですね……か)

 

 元の現実(リアル)における庶民だったモモンガからしてみれば、一国の王族などは雲の上の存在にも等しい。死の支配者(オーバーロード)として考えると、「人間ごときの王女が、何ほどのものだ?」となるが、モモンガは人の心を留めるべく精進しているため、聖王女カルカ・ベサーレスに対しては「偉い人だ」という感覚が強かったのである。

 

(バハルス帝国の皇帝なんかも、タブラさんが「元の現実(リアル)の歴史から見ても、かなり有能ですよ」とか言ってたし。王国だとラナー王女が凄いんだよな。やっぱ国の上の方に居る人って、庶民とは違うわ……。なのに俺ってば、聖王女様に会いたいですね……とか言っちゃって……)

 

 現時点のモモンガは、リ・エスティーゼ王国の辺境侯であり、六大貴族と並び立つ地位を得ている。そう卑下したものではないだろうが、組織のトップ……自身の為政者としての能力不足を自覚しているため、どうしても腰が引けるのだ。

 たっちとウルベルトは、カルカについて「美人で性格の良い人です」としか言ってくれないのだが……。

 

(不安だな~……)

 

 失敗が見えている学校受験や入社面接。

 そのような気分で居るモモンガは、内心で溜息をつくのだった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 少しばかり憂鬱な気分のモモンガだったが、そんな心境の時に限って時間は早く過ぎていく。

 モモンガの感覚で言うならば、あっという間に聖王国王城に到着し、たっちとウルベルトが城兵に連絡を行った。その後は、馬車を預けて城内の来賓室に通され、呼ばれるのを待つこととする。恐らくは謁見の間のような場所へ行くことになるだろうが……。

 

「随分と、簡単に通して貰えましたね~……」

 

 面を上げて人の顔を見せた弐式が、ソファの座り心地を確かめながら言った。たっちとウルベルトだけならまだしも、モモンガ達やNPC達まで簡単なチェックのみで城の中へ入れている。

 それだけ、たっち達の活躍が凄く、聖王女や神官団長、そして騎士団長から好意を抱かれているという事なのだろう。

 

(たっちさん達なら、もてて当然か~……)

 

 ギルメンが評価されているのを感じ、モモンガは鼻が高い気分だ。

 たっちは聖騎士団長のレメディオス・カストディオ、ウルベルトは神官団長のケラルト・カストディオと仲が良いらしいが……。

 

(後は聖王女様か……聖王女様ねぇ……。遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)で、姿は見た……と言うか、ちょい前のギルメン会議で見ることになったけど、確かに凄い美人さんだったな……。たっちさんとウルベルトさん、どっちが聖王女様の交際相手になることやら……)

 

 聖王女と交際するとしたら、たっち・みーかウルベルトのどちらか。

 自分は単に会ってみたいと言ったので、それを実行しているだけ……。

 これが、現時点におけるモモンガの認識である。

 茶釜にアルベド、ルプスレギナなどは、モモンガの新たな嫁候補になるかも知れないと、あれこれ理由を付けて同行してきたほどなのに、肝心のモモンガは……こうなのだ。

 交際相手はエンリ・エモットを加えて四人を数える状況なのに、モモンガの鈍感ポン骨度は成長が見られない。

 

(それにしても……)

 

 モモンガは、この室内で居るギルメンではない者達に目を向けた。

 女戦士ブリジットことアルベドと、もう一人、ルプスレギナ・ベータである。

 他のNPC達は別室で待機しているのだが、この二人のみは茶釜の提案もあって同じ部屋で待機していた。今は、モモンガの右にアルベド、左にルプスレギナの配置でソファに座っている。

 

(茶釜さんは、どうしてアルベド達だけ同室待機にしたんだろう?)

 

 モモンガは首を傾げたが、ここで「いや~、骨でも格好いいけど、人の顔で思案してるの……めっちゃツボだわ……」という茶釜の声が聞こえたので、左斜め前の茶釜を見た。すると茶釜は視線を逸らしてしまう。ただ、顔が赤くなっているのは見て取れた。

 

(指摘したり、気にしたりしない方がいいんだろうな……)

 

 脳裏に浮かぶのは、余計なことを口走って茶釜に折檻されるペロロンチーノの姿。それを日頃見ているモモンガとしては、同じ失敗をするのは避けたいのだ。

 もっとも、この時の茶釜は、モモンガから「茶釜さん? どうかしましたか?」と声をかけられた場合、『構ってもらえる嬉しさ』が先に立つことで、機嫌良く会話に応じていたことだろう。

 ペロロンチーノに言わせると、モモンガは会話フラグをボッキリ折ったことになるのだが、同様にペロロンチーノに言わせれば誤差の範囲でもあった。

 

「いや、逆に好感度上がってる感じ? その調子ですよ、モモ……んぎゃ!?」

 

 二人の様子を見てニヤニヤしていたペロロンチーノが、茶釜にどつかれている。 

 ペロロンチーノの左側にたっちが座り、モモンガから見て右脇の一人用ソファにウルベルトが座っているが、二人は茶釜達の様子を見て「またやってる……」と呆れたような視線を向けていた。

 

「おっ? 誰か来ますね……」

 

 たっちの対面側で一人用ソファに座っていた弐式が、まくっていた面を降ろしつつ、左肩越しに入口扉を見る。正確には扉から少し離れた壁を見ているのだが、彼が気にしているのは壁向こうの通路であるらしい。

 弐式は、身体能力と特殊技能(スキル)によって接近する人の気配を察知したようだ。

 彼の一言で全員が緊張感を持つが、大方は城側の誰かが呼びに来たのだろうと、臨戦態勢になる程ではなかった。

 

「ん~、三人……歩き方からして全員女。一人は帯剣してるかな? その剣を持ってるのが先頭で、残りの二人はついて歩いてる。最後尾の一人が付き従ってる感じだけど、真ん中の女は……いや、三人とも、ちょっと浮かれてる感じ?」

 

「足音で、そこまでわかるんですか? 忍者スゲぇ……」

 

 ウルベルトが感心八割、呆れ二割といった口調で言い、弐式は照れたように頭を掻いている。 

 ここまでのことを考えると、この部屋に近づいているのは聖王女カルカとカストディオ姉妹ではないだろうか。そのように考えたモモンガがたっちを見たところ、全身甲冑のたっちが腰を浮かせている。

 

「わかりやすいわねぇ……」

 

 その茶釜の呟きを聞かなかった事にし、モモンガは足音の主達を待つことにした。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 悪戯心で染め上げられた顔に笑みを浮かべ、レメディオス・カストディオが通路を歩いている。甲冑は着込んでおらず、弐式が音で聞き分けたとおり帯剣しているのみだ。そのレメディオスは肩で風を切りながら、整った顔を勝ち気で染めていた。

 

「ふふふっ! 来賓室で待たせ、使いの者が『もう暫くお待ちください』と言いに来たかと思いきや……いきなり我らが登場だ。これはタチ(たっち)も驚くぞ!」

 

「姉さん……。私、止めたわよ?」

 

 一人挟んだ後方より妹のケラルトが言うのだが、レメディオスは気にしない。

 二人の間に挟まれて歩く聖王女カルカは、苦笑するのみだ。

 

(レメディオスは普段堅いんだけど、こういう時は可愛いわね~)

 

 そう思うと同時に、自分がカストディオ姉妹よりも後れを取っていることを思い出し、カルカは嘆息している。

 冒険者の騎士、ヒロシ・タチ(たっち・みー)は、高潔であり正義を愛する剣の使い手だ。その剣腕は、聖騎士団長のレメディオスを大きく上回る。

 同じく冒険者の魔法詠唱者(マジックキャスター)アレイン(ウルベルト)は、冷静な判断力と知謀、そして神官団長のケラルトを上回る魔法を駆使する。

 実力と人柄から言って、カルカが望む『お婿さん』として申し分ないのだが、タチはレメディオスと、アレインはケラルトと仲が良かった。

 翻ってカルカは、タチ達とどういう関係にあるのか。

 カルカの認識するところではタチやアレインと親しくしているものの、カストディオ姉妹以上の好意を得ているかと言えば正直厳しいところである。

 

(と言うか、負けてると思うわ……)

 

 カルカとしては、タチとアレインにはアタックを仕掛けていたつもりだったが、どうやら『親しい女性』よりも先には達しなかったようだ。

 

(私の見た目や、性格が悪いってことじゃないと思うんだけど……。聖王女って立場が問題なのかしら? 男の人って、女性側の地位が高いと引いてしまうって聞くし……)

 

 そうは思ってもカルカの性格上、立場から来る責任を放棄することはできない。

 それ以前にカルカは王族なのだから、『聖王女』から降りたとしても地位は高いままなのだ。

 

(余程の不始末をしでかして、誰もが認める形で王家から除籍されれば……)

 

「はぁ……」

 

 カルカは頭を振る。

 王家から廃されるような『やらかした女』を何処の誰が嫁として欲しがるだろうか。

 そう思い、カルカは浮かんだ案を消去する。

 現実的には、聖王女でなくなったとしても、カルカを嫁に欲しいと望む男は多いのだが……それが今のカルカにはわからなかった。

 友人たるカストディオ姉妹が、一足先に独身卒業をするかもしれない。その追い詰められた状況にあって、カルカは少しばかり混乱していたのである。

 

(なんだか、こう……ねえ? 大臣とかが文句を言わない感じで地位があって、私を必要としてくれる優しい男性が居ないかしら……。もう、お婿さんじゃなくて、私が通い妻になる感じでもいいから……)

 

 我ながら贅沢なことを考えているなと、カルカは思う。

 この世界のどこに、そんな男性が居るのか。

 もう一度溜息をついてから、カルカは扉前で待つレメディオスを見やり、彼女の視線に向けて笑みを返した。そして、その笑みの裏側で小さく呟いている。

 

「聖王女になんか、なるんじゃなかった……」

 




 ペロロンチーノさんのイベント回・後編でした。
でも、モモンガさんの出番には行を割く。それが本作のジャスティス。
正直、雲抜きまでやったあたりで、ペロロンさんが初対面のネイアに肩入れしすぎな気もしましたが、性癖の追加で何とか……。

 NPC達の影が薄くなるのは、本作のタイトル上しかたないのですが、今のところは至高の御方無双(笑)に向けての準備パートなので、あとで全員に出番がありますので、暫しお待ちを……。
 全員と言っても、エントマとか出ないんじゃないかな……
 最後まで登場しそうにないキャラも居るので、キャラファンの方には申し訳ないです
 セバスとデミには、もうちょい専用で出番を作りたいかも。

 カルカとカストディオ姉妹ですが、モモンガさん中心で書き進めてますので、どうしてもカルカに焦点が合ってしまって姉妹の影が薄く……。
 いや次回か、次々回ぐらいでたっちさんや、ウルベルトさんとイチャイチャして貰いたいと思います。それでもモモンガさんメインで進めますけど。 

 そうだ、メコン川さんの出番も盛り込みたいですね。ベルリバーさんとヘロヘロさんは、ちょい前に出したから、次はメコン川さんです。ついでにフォーサイトの面々も出したいですね。余力があれば、アルシェのパパも。

 とか書いてると最終回が遠のく……。

<誤字報告>
ヴァイトさん、よんてさん、冥咲梓さん、佐藤東沙さん

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