オーバーロード ~集う至高の御方~   作:辰の巣はせが

102 / 133
第102話

「タチ! 久しぶりだな! さあ、手合わせをしよう! 私の準備は整っているぞ!」

 

 扉を開けて入ってきたレメディオス・カストディオが、喜色満面、他の誰に対しても向けたことがないレベルの笑顔でたっち・みーに呼びかけている。

 入室前は、いきなりの登場でたっちを驚かせるつもりでいた彼女だが、その計画ないし作戦は、すでに忘却の彼方のようだ。

 

「見た感じ美人なのに、ノリが建やんと似てる……」

 

 ボソッと弐式が呟いているが、モモンガは心から同意していた。

 続いて入ってきたのは、カルカの後ろを歩いていたはずのケラルト・カストディオで、こちらはニンマリとした笑顔をウルベルトに向けている。

 

「戻って来たのね、アレイン? 今日は、お仲間の方々を紹介してくれるのかしら?」

 

「ま、そんなところですかね」

 

 三人掛けのソファ、モモンガの右斜め前で座るウルベルトは、肩をすくめながらケラルトに答えた。親しい間柄に見えるが、恋人同士と言うよりも、悪友同士と言った方がしっくりくる。

 

(気が合ってるのかな~? でも、ウルベルトさん、嬉しそうだな~……。何となくだけど、声が弾んでるし……)

 

 こんなに機嫌の良いウルベルトを見たのは、いつぶりだろうかとモモンガは考えた。

 

(む~……ユグドラシルで、ボスドロップのアイテムが良い感じで出たときだったかな?)

 

 一瞬だが、ユグドラシル時代の……冒険していた自分達の姿が、モモンガの脳裏で思い浮かぶ。同時に、誰も居なくなったナザリック地下大墳墓を維持するべく、モンスター狩り等をしていた自分の姿も思い出された。

 胸が締めつけられるやら、せつないやらでモモンガは泣きたくなったが、今は同じ部屋にギルメン達が居る。

 

「……ふう……」

 

 皆の顔を一瞬ずつ目で確認したモモンガは小さく一息ついた。

 

「後で時間があればお相手しましょう」

 

「う……そ、そうか……」

 

 すぐに手合わせできないと言われたレメディオスが拗ね、たっちが笑いながら宥めている。一方、ウルベルトと話すケラルトが「カルカ様の『春』を横取りしてるようで気が引ける」と、苦笑しつつ言い、それを受けてウルベルトが「別の『春』を用意してあげればいいんですよ。丁度いい相手が居ますし……」と悪い笑みを浮かべつつ言った。 

 このように、たっちとウルベルトが女性相手に話しだすと、ソファに残ったモモンガ達は顔を見合わせてしまう。

 

「俺達は、自分の『子』を呼びましょうか?」

 

「弐式さんのナーベラルは隣の部屋で居るからいいですけど、俺のシャルティアは<転移門(ゲート)>で呼び寄せなくちゃですね~」

 

 と、小声で語り合っているのは弐式とペロロンチーノ。

 その二人を見ながら、茶釜が「あちこちでラブい空気が発生してるわね~」と笑っている。茶釜は、モモンガの両隣で座るブリジット(アルベド)とルプスレギナに、「うちの男衆は暢気(のんき)なものよねぇ?」等と話しかけたが、その男衆というのが『至高の御方』であるため、アルベド達は答えにくそうにしていた。

 

(う~ん。みんな楽しそうだな~……)

 

 皆の様子を確認したモモンガからは、先程までの胸のつかえや切なさのようなものが消えている。

 

(俺、あの頃みたいな『一人』じゃないんだよな。そうだそうだ、そうだった……。ふふ、ははは……うん?)

 

 軽く、そして明るくなった気分のまま声に出さず笑っていたモモンガは、ふと扉前で立つ女性に気づいた。

 先行していたレメディオスはともかく、後ろを歩いていたケラルトに先を越され、一人寂しく入室してきた聖王女……カルカ・ベサーレスである。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 ローブル聖王国の至宝、聖王女カルカは普段見ないほど嬉しそうにしているカストディオ姉妹を見て溜息をついた。そして、疲れたような笑みも浮かべる。

 

(『聖王女』を放置……。女の友情って……何なのかしらね……)

 

 カルカは『結婚願望』が強い。

 いつか理想の男性が目の前に現れる。そんな思いを抱きつつ二十代の半ばを過ごしているのだが、二十代半ばの後にやってくるのは、『三十路前』と『三十路』と『三十代』だ。カルカは(たゆ)まぬ努力と研究により、独自の美容魔法と、化粧品類の開発を行っていたが、それとて彼女が人間である以上は限界が訪れる。

 このまま、女としての春を迎えないまま(しお)れていくのだろうか。

 カルカの思考は、どんどん闇色に染まって重さを増していくが……聖王女としての立場が彼女を正気に留める。

 一人、憮然とした表情で立ち尽くしているわけにはいかないのだ。

 

「ケラルト?」

 

 声をかけた相手はケラルト。姉のレメディオスでは、細かい話がスムーズに進まない。これはレメディオスを馬鹿にしているのではなく、付き合いの長さから来る自然な流れだ。

 

「タチやアレインは、冒険者活動でのお仲間の方を紹介してくれるのではないかしら?」

 

 意訳すると、いつまでもイチャついてないで話を進めろ……となる。

 この時点でカルカは、タチとアレインに対しての『見込み』をほぼ諦めていた。理想の旦那様とするには申し分ないが、自分(カルカ)よりも好きな女性が居る男性相手に如何すれば良いのか。どうすれば自分を振り向かせることができるのか。

 カルカには、まるで方法が思いつかなかった。

 

(タチもアレインも、私のことを『聖王女』という立場じゃなくて、一人の女性として見てくれる殿方だったのに……。……惜しいけれど、しかたないのかしらね……)

 

 男側の好みもあったろうが、逃した魚は大きかったとカルカは思う。

 だが、その逃した魚に固執し、未練がましく求愛行動をすれば……他者からの心証は悪くなるのだ。

 したがって、諦めるときはスッパリ諦める。

 といった思惑の下に澄ました顔をしているカルカだが、この思考をケラルトが読み取っていたとしたら、「アレインを貰っちゃって御免なさいね。でも……好みの問題だから~」と悪い顔で笑い、カルカを落ち込ませていたかもしれない。無論、何らかのフォローはしただろうが……。

 ちなみに、レメディオスの場合だとどうなるか……。

 

「カルカ様? 何やら落ち込んでいる様子ですが……。そうだ! 今度、タチと出かけますので、カルカ様も御一緒にどうですか!」

 

 と、自分とたっちとのデート(レメディオスとしてはデートの自覚なし)への同行を進言し、カルカの落ち込みを激増させていたことだろう。

 

(うう、そうなりそう過ぎて怖い……。レメディオス、恐ろしい子……・)

 

 カルカは内心で戦慄したが、カストディオ姉妹に対して何ら含むところがないよう演じつつ……たおやかな笑みを浮かべて室内を見回した。

 現在、室内に居る男性は、タチとアレイン以外で三人。

 弓士(ペロロンチーノ)と、忍者(弐式)、そして魔法詠唱者(モモンガ)である。

 

(全員、若い殿方……。良し……)

 

 年齢的にモモンガ達(の人化した姿)は、カルカのストライクゾーン内だ。

 面を上げた弐式を始めとして全員が素顔を晒している。カルカが嫌悪感を抱くような顔立ちの者も居らず、カルカは心の中で胸を撫で下ろした。

 後は、人となりが問題となるが、その点について今のところは未知。そこは、この後の会話で確認するとして、第一印象でカルカの気が惹かれたのは……モモンガである。

 決め手は、優しげな雰囲気と醸し出される包容力。

 ペロロンチーノと弐式も、陽の気質なのでカルカ好みであったが、弐式は包容力の点でモモンガに僅かに及ばず、茶目っ気が多そうな点も考慮して、モモンガが一位となっている。

 

(それに……私には、あまり興味がなさそうだし……) 

 

 そうカルカは考えたのだが、弐式側では興味が無いわけではない。

 それどころか、弐式はカルカの美貌を高く評価している。

 ただ、弐式は転移後世界の美人基準で(元の現実(リアル)基準でもだが)、天上の美が備わっているナーベラルが居ることで満足していた。なので、カルカを見たところで、ちょっと目を引く以上の興味を示さないのである。

 では、ペロロンチーノはどうだろうか。彼は大人しくしていると、そこそこの美男子だ。だが、そこはかとなく駄目そうな気配をカルカは感じ取っていた。

 

(何と言うか、ニシキ以上に……私に興味ない雰囲気なのよね……。私の容姿が、彼の好みに合ってないのかしら……)

 

 このように、敏感にペロロンチーノの性癖を感じ取っていたのである。

 婚活女子の鋭い感覚により、ロリ専のエロゲーマスターを回避したことで、残るはモモンガとなるが、このモモンガが前述したとおり、カルカにとって惹かれる要素が多かった。

 

(一緒に居るだけで癒やされる雰囲気……。希少価値だわ! レメディオスも癒し要素があるけど、駄目なところも多いし……。ああ、駄目駄目、ジイッと見てたら失礼にあたるわ!)

 

 気合いで視線をずらすが、時すでに遅し。モモンガがカルカの視線に気づいた。

 

(今、聖王女が俺のことを見てたような……)

 

 カルカとしては、不躾に見つめていたことを触れられたくなかったが、ここでケラルトの声が聞こえてくる。

 

「すみません。久しぶりでアレインと会ったので、話に夢中になってしまいました」

 

 そう言ってケラルトが、座ったままのモモンガに歩み寄って頭を下げる。

 モモンガはカルカの視線に気づいたものの、ケラルトに話しかけられたことで、ケラルトに注意を向けた。

 

(助かったわ! 「何をジロジロ見ているんだ?」と思われては、いきなりつまずいてしまうもの!)

 

 カルカが内心で胸を撫で下ろしていると、モモンガが立ち上がり、ペロロンチーノと弐式、それに茶釜ら他の者達も席を立った。そして、モモンガを先頭に一行が進み出ると、モモンガが膝を突き、他の者達も倣って膝を突いたのを確認してから口を開く。

 

「はじめまして、聖王女様。私はモモン。冒険者チーム漆黒でリーダーを任されています」

 

 

◇◇◇◇

 

 

「はじめまして、聖王女様。私はモモン。冒険者チーム漆黒でリーダーを任されています」

 

 そう言って挨拶したモモンガであるが、身分としては冒険者モモンで通していた。

 リ・エスティーゼ王国の辺境侯、アインズ・ウール・ゴウン。この名を出すと、さすがに事前通達無しでの入国は不味いとか、政治的にややこしい問題が発生するからだ。

 もっとも、バレて問題になったとしても、レエブン侯に丸投げするつもりなので、モモンガ達は気楽に構えている。それどころか今回、話の流れとモモンガの気分次第で、アインズの名を出して良いとギルメン投票で決定されていた。

 決定の場に居合わせたギルド長……モモンガは「それでいいんですかぁっ!?」と声を裏返らせたものだが、ギルメン投票による決定だから、ギルド長であっても文句は付けられない。

 そこまでして『モモンガ次第でアインズの名を出して良い』としたギルメン達の言い分は……「面白そうだから!」……である。

 

(まったくもう! みんなで俺のことをオモチャにするんだから!)

 

 とはいえ、モモンガは本心から怒ってはいない。ちょっと拗ねてみた……と言ったところだ。

 十人を超えるギルメンが、自分をネタにして楽しくやってくれている。

 この事実は、モモンガの頬を少し膨らませつつも、彼の心を暖かく朗らかにしていた。

 なお、モモンガがカルカ達に「自分は王国の辺境侯だ」と明かした場合、先に述べたとおり、事後処理はレエブン侯に投げることとなっている。大変な迷惑を掛けることになるだろうが、これ幸いとレエブン侯やモモンガを攻撃するような貴族は、もはや王国に存在しない。そもそも、事の解決にはナザリックとして助力する予定なので、大した問題にはならない事が確定済みなのだ。

 

(そうなった場合の話だけど、レエブン侯には何かお礼をしておかないと。リーたんだっけ? 息子さんが喜びそうなお菓子を料理長に用意してもらうとか?)

 

 そんなことを考えていると、カルカが微笑みながら話しかけてくる。

 

「はじめまして、カルカ・ベサーレスです。ここは謁見の間ではありませんし、気を遣わないで普通に……立って話してくださいね。私も、その方が楽なので……」

 

「え? あ、はい」

 

 普通と言われても困ってしまうが、サラリーマン時代の営業トーク……これを流用した丁寧な会話はお手の物。モモンガは、少しホッとしながら立ち上がり、カルカと話すことにした。

 

「そうさせていただきます……が、本当にかまわないのですか? 私、聖王女様とは初対面ですが?」

 

 少しは遠慮した方が良いのではないか。

 モモンガが確認すると、カルカは口元に手を当ててクスクス笑う。

 

「聖騎士団長と神官団長が親しくしてる『男性』……のお友達ですもの。信頼に値しますし、私も親しくしたいですから……」

 

 カルカが『男性』の部分で少し声色を強くしたことで、モモンガは、カルカの両脇で立つカストディオ姉妹を見た。その二人はモモンガではなく、モモンガの後方に目を向けており、どこを見ているのかと肩越しに振り返れば……。

 そこには、たっちとウルベルトが居る。

 たっちは、モモンガが向けた視線に気づくと咳払いし、ウルベルトはモモンガに対し親指を立ててみせた。

 

(どっちも、どっちもらしいと言うか……)

 

 聖騎士団長と神官団長と言えば、聖王国でもかなり高い地位のはずだが、たっちとウルベルトは親しくできているらしい。さすがだ……と思う一方で、モモンガは「俺も、そんなに気負わなくて良いのかな」と考えた。

 そもそも、何らかの思惑があってカルカと会おうとしたわけではない。

 ギルメン会議で場を収めるために、つい弾みで彼女と会ってみたいと言っただけだ。

 そして、言ったとおりに行動し、今、聖王女カルカと面談できる状態となっている。

 交際相手たる、アルベドや茶釜、ルプスレギナに対して「申し訳ないな~」という気持ちはあるが、事、ここに到った以上……開き直ってカルカとの会話を楽しめば良いのではないだろうか。

 

(聖王女の方で親しくしたいって言ってるし! 美人さんだし……)

 

 異世界転移をしたことでモモンガは死の支配者(オーバーロード)になったが、日頃から人化を繰り返していることで、人間性を失ってはいない。

 気を惹かれる美人が居て、それで相手側から親しくしたいなどと言われたら、モモンガだって嬉しく思うのである。

 

(まあ、あれだよ。俺だって男だし?)

 

 好みのドストライクは交際相手のアルベド。そこに変わりはない。

 だが、髪の色も肌の色も、性格だって違うルプスレギナともモモンガは交際している。そして、それは茶釜も同様だ。

 今、目の前に居るカルカは金髪美人だが、金髪だって嫌いなわけじゃないんですよ……と、モモンガはタブラに言いたかった。

 どうしてタブラに言いたくなったかは謎だが、今は、後列で並んでいるアルベド。彼女のことを意識したからかもしれない。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 モモンガ達は、別室……会議室に移動していた。

 来賓室では手狭なので、カルカとケラルトが相談して移動を決めたのだ。

 モモンガ達にしてみれば、人数が多くて部屋が狭いという理由に反対する気もなかったので、言われるまま会議室へと移動している。

 壁に掛かった燭台などは、王城の一室に備わる品として高級感を漂わせ、入って来た扉の対面は窓が並んでいて、風通しも良い。今は午前中と言うこともあって、差し込む日差しだけで室内は充分な明るさを確保できていた。

 配席に関しては、モモンガ一行とカルカ達で対面となる。

 巨大な会議机の左端から、モモンガ、たっち、ウルベルト、茶釜、ペロロンチーノ、弐式、アルベド、ルプスレギナの順で座り、モモンガ、たっち、ウルベルトの対面には、カルカ、レメディオス、ケラルトが座っていた。

 更に、別室で待機していたデミウルゴス、セバス、ナーベラルの三人を呼び寄せ、ルプスレギナの隣から順で席についている。

ケラルトによって呼ばれた王城のメイドが、各人に紅茶セットを配し、それが終わったところでカルカが口を開いた。 

 内容としては、たっちとウルベルトが冒険者活動をしていたことで、聖王国は亜人の脅威が軽減され、大いに助かっている。たっち達には、礼は依頼の報酬で充分だと言われたが、この機会にチーム漆黒のリーダーであるモモンガに、直接に礼を述べたかった……と、おおむね、そういった事になる。

 

「それは、タチ(たっち)アレイン(ウルベルト)が頑張ったことですが……。ここは、チームメンバーがお役に立てて何よりです……と言っておきましょうか」

 

 チームメンバーの手柄は、チームの実績となる。そのように解釈したモモンガは、これなら無難だと思う言葉を並べた。反応はどうか……とカルカの様子を窺ったところ、どうやら少し驚いているようだ。

 

(恩着せがましいことを言うとでも思ってたのかな? 冒険者って、がめつくて荒くれのイメージが強いからな~……)

 

 蒼の薔薇のような冒険者は少数派だろうし、彼女らとて、お人好しの善人揃いではない。

 一方、カルカはモモンガの見立てどおり驚いていた。

 今の質問でモモンガの反応を見ようとしたのだが、謙虚な態度で返されたことで意外に思ったのだ。

 

(もう少し、ガツガツした感じかと思ったけれど……。第一印象のまま、穏やかな性格みたいだわ……。いいかも……)

 

 モモンガは、「魔法に関してはアレイン(ウルベルト)の方が上なんです」と自分の実力について本音を語っているが、裏表ない自己評価にカルカは好感を持っている。また、モモンガの自己評価に続けてウルベルトが「対応力はモモンさんの方が断然上ですがね」と語っており、こちらはモモンガに対する評価上昇に繋がっていた。

 

(実力も人望もある……。それでいて穏やか! ここは重要よ! 本当に……私の周囲には居なかったタイプ……よね)

 

 カルカにとって、『親しい』と言える人物は二人居る。

 憎めないが脳筋のレメディオス。

 色々と配慮してくれるが、腹黒い部分のあるケラルト。

 二人とも癖が強い部分があって、しかも、カルカとは同性なのだ……。

 モモンガのような異性は、カルカにとって新鮮と言って良い。

 以上のことから、この時点でのカルカにとって、モモンガはたっちやウルベルトと同程度に惹かれる要素が備わっていたのである。

 後は、二人だけの時間など設けて語り合い、気持ちを通わせるのだ。

 

(頑張るのよ! 私!) 

 

 内心で気合いを入れるカルカだが、その彼女の前に、新たな問題が立ちふさがる。

 現在、モモンガが三人の女性(エンリを含めれば四人)と交際中であるという事実だ。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 移動した先の会議室。

 改めて自己紹介をしていく中で、それは発覚した。

 モモンガ、たっち、ウルベルトまでは良い。すでに知っていた情報であり、三人とも、極普通の自己紹介だ。

 しかし、続いて茶釜が立ち上がり、「かぜっちです。戦士をしています。……リーダーのモモンとは交際中です」と言った瞬間、室内の空気にヒビが入った。少なくともモモンガは、そう感じた。

 この緊張感のようなものを発しているのは……聖王女カルカだ。

 続いて、弐式が「あ、ども。ニシキです。忍者をやってます」と、恐る恐る自己紹介をしたことで、ほんの少し空気は和らぐ。しかし、すぐ後でアルベドが「ブリジットと言います。戦士をしています。リーダーのモモンとは交際中です」と言い、ハーフヘルムの下で微笑むと、カルカの表情が大きく歪んだ。

 

(声に出したら「はあああっ!?」とか言いそうな顔してるな~……。気持ちはわかりますよ~?)

 

 モモンガは気恥ずかしく思いつつ、驚くカルカに同情した。

 今のところ、モモンガは王国の辺境侯とは名乗っていないため、カルカとしては冒険者のリーダー格の認識だろう。

 それが複数女性と交際していると聞かされれば、驚くのは無理もない。

 モモンガは、そう思っていたが、カルカとしては『その女性複数と交際中の男性が、ロックオンしようとしていた相手』なので、驚きはモモンガの想定よりも大きかった。

 そこへ更なる追い打ちがかかる。

 

「ルプスレギナと言います。チームでは回復役を務めていて、リーダーのモモンさんとは交際中です」

 

 『モモンの交際女性』としては、この場で三人目となるルプスレギナが、いつもの『っす口調』ではなく、妖しげな魅力を醸し出しつつ自己紹介をしたのだ。

 

「な、な、え……?」

 

 もはや、カルカは言葉も出ない状態となっている。

 その後、デミウルゴスやセバスなどの自己紹介が続くのだが、一応でも頷くなどして反応できたカルカは褒められて良いだろう。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 自己紹介が終わった後、当たり障りのない雑談に興じながら、カルカは混乱から回復できずに居た。

 

(え? なんなの? モモンは冒険者なのよ……ね? どうして交際女性が三人も居るの? 見た感じは、真面目で優しそうだけど……女好きの遊び人だったのかしら?) 

 

 モモンガが聞いたらショックを受けそうな事を考えるカルカ。しかし、これが普通の反応というものだろう。

 ここから呆れたり幻滅したりするまでがセットとなることが多い。

だが、カルカは踏みとどまった。

 タチ(たっち)アレイン(ウルベルト)。この素晴らしい戦士と魔法詠唱者(マジックキャスター)らを配下とする男がモモンである。それほどの人物ならば、女性の数人ぐらいと交際していても不思議ではないのではないか。大手の商人だって夫人を数人持っていたりする。

 であるならば……。

 

(これぐらいで引いていては駄目よ! 例え第四夫人になろうとも、機会を逃すべきではないわ!)

 

 第四夫人。

 それが聖王女に相応しい立場かはさておき、カルカは、涙目になりかけていた目に力を入れた。

 少し混乱気味ではあるが、まだ彼女はモモンガを諦めては居ない。カルカから見たモモンガ……モモンという男は、それほどの『良物件』なのだ。惜しむらくは冒険者であって身分が低く、カルカとの婚姻関係に持ち込むには大臣や親族に対する押しが弱い。

 

「も、モモンさんは、チーム漆黒のリーダーとのことですが。多くの冒険者の方を取り纏めるというのは、やはり苦労が多いものなのでしょうか?」

 

 身分の問題は一先ず考えないこととして、カルカは自分から話を振った。

 聖王国の聖王女という立場から来る、組織頂点の気苦労。ここから、モモンの共感を誘えないかと、カルカはたおやかな笑みを浮かべながら、モモンガに問いかけるのだった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 数分後。

 

「お恥ずかしい話ですが、大臣や貴族達を説得するのは難しいもので……。それは、あまり周囲には理解されないのです」 

 

「わかります。わかりますとも! そういう気苦労からは無縁で居られないんですよね~」

 

 モモンガは、カルカとすっかり意気投合していた。

 元より、組織トップの地位を望んでいたわけではないこと。

 自分が組織トップだからといって、皆が素直に言うことを聞いてくれるわけではないこと。

 その点において、モモンガは大いに共感している。それどころか、ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』が仲間同士の寄り合いなのに対し、カルカが責任を持つべきは国家だ。自分などより遙かに気苦労が多いのは、説明されるまでもなく知っていたが、当人から聞かされると同情することしきりなのだ。

 

(王国のランポッサ三世とか、バハルス帝国のジルクニフ皇帝だっけ? あの二人だって、胃の痛い思いはするんだろうけど……聖王女は気が優しい感じだから、俺としては親近感が湧くんだよな~……)

 

 事前にカルカの人柄は知らされていたし、遠隔視の鏡・改(ミラー・オブ・リモートビューイング)で容姿も知っていた。しかし、こうして話してみると大きな親近感が生まれ、モモンガは好感を抱いている。

 ただ、それは『付き合い上の好感』であって、カルカが望むような『結婚を前提とした好感』ではなかった。

 このまま会話を終えたとしたら、多少認識のズレがありつつも、モモンガとカルカは互いに好感を得た程度で終わっていただろう。カルカが何らかの行動に出るとしても、それはもう少し後になったはずだ。

 しかし、ここである人物が介入する。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 ウルベルト・アレイン・オードル。

 大災厄の魔の異名を持つ悪魔は、今は人化している口の端を持ち上げながらモモンガを見た。

 

(ふぅん。モモンガさん、ギルメン会議の時は勢いで聖王女に会いたいって言った感じだったけど、まんざらでもなさそうじゃん?)

 

 ギルメン会議では聖王国行きを後押ししてくれた形だったので、ウルベルトとしてはモモンガに借りを作った状態である。モモンガは「気にすることないですよ」と言うかもしれないが、ウルベルトにとっては間違いなく『借り』だ。

 何か、課金アイテムでも進呈しようか……などと考えていたウルベルトであったが、今の状況であれば自分にできることはあるように思えた。

 

(ケラルトは聖王女と仲がいいよな? フム……)

 

 ウルベルトはケラルトを見る。

 ケラルトはカルカの左方、レメディオスを挟んだ席で座り、談笑しているモモンガとカルカを横目に見つつニヤニヤしていた。だが、カルカの様子を見物しながらもウルベルトを意識していたのだろう。すぐ視線に気づき、ウルベルトに視線を合わせてきた。

 

(なに?)

 

(いや、ちょっと話が……)

 

 まったくの無言で意思疎通した二人は、同時に席を立ち、皆の注目を浴びながら部屋の隅へと歩いて行く。ウルベルトはモモンガ達からは遠い方、セバスなどの後ろを通って長大な机を回り込み、ケラルトと合流した。

 

(「で、なんなの? アレイン?」)

 

(「いやほら、カルカ……様さ、うちのモモンと気が合ってる感じだろ?」)

 

 既に親しい間柄のため、ウルベルトは素の口調で思うところを述べる。

 お若い二人を、二人で話させてみてはどうだろうか。

 そう提案したところ、ケラルトは肩越しにモモンガを振り返ってから、すぐに部屋の隅へ向き直る。

 

(「モモン……さんって、感じの良さそうな人だけど……。さっき貴方が言ってたとおり……本当に強いの?」)

 

(「攻撃魔法の威力と、魔法職としての立ち回りは俺の方が強いけど、あの人は覚えてる魔法の数がやべーんだよ」)

 

 モモンガが習得した魔法は、七百を超えるのだ。

 対応力に関しては、ウルベルトを突き放して高みに達していると言っていい。

 ユグドラシル時代、モモンガとはタイマンPVPを行って、ウルベルトは対して負け知らずだったが……。

 

(「集団戦で相手方にモモンが居たら、それだけで勝つのが難しいってぐらいで……とまあ、そういう事は置いておくとして……だ」)

 

 先程の提案について、ケラルトはどう思うか。

 その点を確認したところ、ケラルトは少しだけ難しそうな顔をした。

 軽く握った右拳を口元に当て、数秒ほど考えてから目線だけでウルベルトを見る。

 

(「カルカ様には『出会い』が必要だと思ってたけど、うう……言い方が悪いかも知れないから怒らないでね? 冒険者と聖王女じゃ、身分が違いすぎて色々と難しいわよ?」)

 

 カルカが聖王女ではなく、その辺の貴族子女であれば駆け落ちさせる選択肢もあったろうが、いかんせん『聖王女』としての立場が重すぎる。冒険者と結婚したいなどと言って、それが大臣達に知られれば、様々な妨害を受けることは明らかだ。

 

(「確かにな……」)

 

 ナザリック目線で考えるなら、聖王女という立場など些末なことだし、大臣の妨害などどうとでもなる。しかし、ウルベルトは難しい表情となった。

 政治体制の歪みや不備、腐敗が大嫌いな彼にとって、強引に聖王女カルカを引き抜き、そのせいで一国の政治が乱れるのは避けたい。

 

(元の現実(リアル)で俺はテロリストだったが、国民に迷惑掛けるだけの阿呆とは違う。それは異世界に来たって変わりゃしねぇ)

 

 どうしようもない状況でなければ、事はスマートに運びたいのだ。

 ドッペルゲンガーを身代わりにして、カルカを連れ去ることも考えたが、それではカルカが納得しないだろう。レメディオスやケラルトも怒るはずだ。

 そうなるとカルカを聖王女のまま、モモンガとくっつけることになるが……。

 

(モモンガさんを婿に出すのもな~……。んん~……聖王女は聖王女のままで、モモンガさんはこっちに残ったままで……。それって通い妻とか? いや、モモンガさんが単身赴任? あれ? どっちが単身赴任したことになるんだ?)

 

 少し思考が混乱したウルベルトは、最終的に本人同士の気持ち次第とし、問題がこじれたら魔法等で何とかすることにした。

 

(タブラさんや萌えさんも居るし、俺だけで考えることもないしな!)

 

 今は、モモンガとカルカの手助けか、ちょっとした後押しをすることに集中しよう。 

 そう決めたウルベルトは、カルカと話をするモモンガを見た。

 管理職としての話題でカルカと気が合い、先程から実に楽しそうである。

 一方、チーム漆黒側……それもモモンガとの交際女性らに視線を転じると、ルプスレギナが楽しそうなモモンガを見て嬉しそうにしているのが確認できた。アルベドはと言うと、興味深そうにカルカを観察している。 

 そういう二人を見てるだけで、ウルベルトは口元が弛んだ。 

 

(モモンガハーレムの女性陣のためにも、ここは埒を明けないといけないな……。と言うか、茶釜さん……)

 

 茶釜に関しては、ウルベルトと同じ考えなのか、ウルベルトに向けてウインクを飛ばしてきている。

 何だかなぁ……と肩の力が抜ける思いのウルベルトだが、居並ぶギルメンの中で、茶釜が肩を持ってくれるなら安心できるというものだ。

 

(茶釜さんが反対に回って、後でペロロンチーノさんみたいに説教されるとか冗談じゃないしな……。よし……やるか)

 

 決心したウルベルトは、ケラルトに囁きかける。

 

(「モモンの身分なら問題ないぞ? モモンは王国で貴族をやってるからな」)

 




 カルカの打算回。
 とはいえ、モモンガさんへの好感度は上昇しております。
 ここから、亜人襲撃を交えてモモンガさんと関係が進展……しますように。
 と言うか、たっちさんとウルベルトさんがカストディオ姉妹と仲良くしてなかったら、もう少し手こずってたかもです。
 
 今回、3月最後の投稿になるかもです。

 あと、読み返しと誤字チェックが、本作の中で一番間に合ってないです。ヤバいのです……。

<誤字報告>
D.D.D.さん、佐藤東沙さん、ヴァイトさん、Othuyegさん

毎度ありがとうございます
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。