オーバーロード ~集う至高の御方~   作:辰の巣はせが

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第103話

(「モモンが王国の貴族って……そんな話、聞いてないわよ?」)

 

(「言ってなかったからな」)

 

 目が据わるケラルトに対し、ウルベルトは鼻で笑いながら受け流す。

 現在、二人は聖王国王城の会議室、その片隅でモモンガ達に背を向けて囁き合っていた。

 かなり目立っているので、レメディオス、それに冒険者チーム漆黒……ナザリック勢の注目を浴びている。当然、モモンガと聖王女カルカも歓談を止め、ウルベルト達に目を向けていた。だが、聴力が強化されているとは言え、ここまで離れるとウルベルト達の会話は聞き取れない。

 

(「弐式さん。ウル……アレインさんが何を話してるかわかります?」)

 

 ペロロンチーノが隣の席の弐式に囁きかける。弐式は『忍者』を(史実に忠実ではなく、特撮時代劇系で)再現するビルドなので、離れた場所の音を聞き取るのが得意なのだ。聞き耳で言えば、ギルメン全員が元の現実(リアル)よりも遙かに聴力を増しているが、弐式が面の下で異形種化すると、その聞き取り精度は他のギルメンの及ぶところではない。

 ペロロンチーノと弐式の会話は、カルカとレメディオス以外……ナザリック勢の全員が聞き取っている……が、各人は顔に出すことなく平静を保っていた。

 

(「聞こえてるよ~。アレインさんの方で遮音する気がないみたいだし。え~……モモンさんが王国の辺境侯だって、ケラルトさんに教えてるみたい」)

 

 この報告を受け、椅子の後ろで立つ(しもべ)達は、特に反応を示していない。しかし、聞かされたペロロンチーノは、「ほえ?」と小声を発し、たっちと茶釜は「ほほう」と興味深そうな声を出した。そして、モモンガは「はぁ!?」と大きく表情に出してしまう。

 

(あっぶな! もうちょっとで声に出すところだった! ウルベルトさん、何してんの! その情報を出すかどうかは俺の判断次第でしょ!?)

 

 大声を出して止めさせたいが、そうもいかない。

 <伝言(メッセージ)>は声を出さなければならないので使用不可だ。

 <支配(ドミネート)>を使って邪魔しようとしても、モモンガの力量では、余程のバフをかけない限り、ウルベルトの耐性を突破できないだろう。

 つまり、すぐに打てる手立てがない。

 続く弐式の報告に耳を傾けながら、モモンガは気合いと根性で表情を元に戻した。いや、口元が僅かにヒクついている。

 

(これは良くない……。きっと……俺にだけ良くない流れだ!)

 

 

◇◇◇◇

 

 

(「ほら、聖王国までは情報が来てないか? リ・エスティーゼ王国で、新たに辺境侯ってのが……」) 

 

(「し、知ってるわよ? 報告書は読んだと思うし……」)

 

 ケラルトが、脳内の記憶を検索するかのように考え込んでいる。

 とはいえ、報告は来ているはずなのだ。

 何故なら、聖王国に向けて情報を流したのはデミウルゴスなのだから。

 

(「確かに……」)

 

 記憶を再確認したのか、ケラルトがウルベルトを見返す。

 

(「でも、辺境侯の名は、アインズ・ウール・ゴウンだったはずよ?」)

 

(「モモンの方が通り名でね。息抜きの冒険者活動がやりやすいんだよ」)

 

 この辺は、モモンガが考えた設定どおりだが、弐式経由で聞かされているモモンガは「俺の個人情報が広まる現場を見るのって、複雑な気分だな……」と渋い顔をしていた。

 一方、冒険者モモンがアインズ・ウール・ゴウン辺境侯と同一人物であるという情報、これが事実だと飲み込めてきたケラルトは、その表情をより一層険しくしている。

 

(「辺境侯って、六大貴族と同格だって聞いたわよ? そんな大物がお忍びで入国するなんて、大事件じゃない! 私を……からかってるんじゃないでしょうね?」)

 

(「まあ、あの人の冒険者活動は息抜きだし……。こんな冗談は言わないさ。そういった小難しい問題は脇に置いてだな……どうだ?」)

 

 ウルベルトはニヤリと笑った。

 黙っていると酷薄な印象のウルベルトだが、そうやって笑うと中々に格好良い。たっちのリア充要素の一つ……イケメン振りを嫌っているにしては、ウルベルトも中々に見目が良いのだ。

 自身の『イケメンぶり』について、ウルベルトがどう思っているのか、モモンガを始めとしたギルメン達は気になるのだが……今のところ、正面切ってウルベルトに確認した者は居ない。

 

(「くっ、この……良い顔で笑って……。じゃなくて、どうだ……って、何がよ?」)

 

(「王国の六大貴族と同格……。カルカ様のお相手としちゃ、良い線行ってるんじゃないか?」)

 

 言われたケラルトは一瞬だけ振り返り、モモンガを見た。モモンガとはバッチリ目が合ったわけだが、モモンガは不思議そうに首を傾げてみせる。

 もっとも、一連の会話内容は把握できているので、モモンガは聞こえていない振りをしたのだ。ただ、会話の流れの怪しさには気づいており、いよいよ声を出してウルベルトを呼び戻すべきか……などと考え出していた。

 

(「むう……」)

 

 一声唸って、ケラルトは元の体勢に戻る。

 

(「わ、悪くはないわよ? でも、カルカ様は聖王国の聖王女なの。何処かの誰かに嫁ぐわけにはいかないから、モモン……ゴウン辺境侯は、聖王国に婿入り……」)

 

(「ああ、それは無しで……」)

 

 一言で断られ、ケラルトは目を剥く。

 しかし、目を剥いたのはモモンガも同様だ。

 

(ちょ、さっきから変なこと言ってると思ったら! 何で嫁ぐとか、俺が婿入りするとかしないとか、そんな話になってるの! だいたい、俺は名目上、聖王女に会いに来ただけで、聖王女と結婚するとか、そういうのは……)

 

 聞こえた話が話だけに、モモンガは大きく混乱している。

 

(こういう時は相談だ! 報告、連絡、相談! ホウ、レン、ソウ! 聞いてください! 皆さん! 俺は無実……)

 

 聞いてくださいも何も声は出していない。

 だが、縋るように振り向けられたモモンガの視線を、ほとんどのギルメン達はニヤニヤしながら受け止めた。

 この瞬間、モモンガは悟ったのである。

 一連の流れにギルメン達が関与しているということを……。

 

(って、何を水面下で進めてるんですか――――――――っ!!!!)

 

 絶叫したいモモンガであったが、目だけで訴えているので迫力は今ひとつだ。

 ペロロンチーノは横を向いて口笛を吹き、弐式は両手を合わせて拝むように謝罪し、茶釜は親指を立ててサムズアップしている。たっち・みーは小声で「まことに御免なさい」と謝っているものの、モモンガを助ける行動に出る様子はないようだ。

 

(たっちさんまで……)

 

 周りに敵しか居ない。

 この言葉をギルメン相手に使うことになろうとは、ユグドラシル時代には想像もつかなかったモモンガ。しかし、思い起こせば転移後世界に来てからだと、割とあった状況かも知れない。

 

(が、頑張れ! 俺! 何とかして切り抜けるんだ!)

 

 そう、今は状況を嘆くよりも、被害の少ない方向に舵を切り直すべきだろう。

 第一、自分が弄られるのは構わないにしても、カルカに迷惑がかかるのは避けるべきだ。

 

(カルカ王女は気の合うっぽい女性……人物だから、迷惑かけるわけにはいかないものな……。さて……)

 

 上手く会話を誘導できるかどうか、モモンガは……ギルメンではなく、(しもべ)達に目を向ける。彼らの反応を利用して、活路を見いだせるかと考えたのだが……。

 

(……駄目かーっ!?)

 

 アルベドを始めとした女性組は、ギルメン達が気を良くしているため、この状況を悪いものだとは考えていないらしい。すまし顔を維持しているナーベラルは別にして、アルベドとルプスレギナは、瞳をキラキラさせて状況を見守るのみだ。

 

(セバスなんて、聖王女を見てウンウン頷いてるし! 俺の嫁さ……いや、交際女性が増えるかどうかって展開だぞ!? なんでお前達は、そんな感じなのかな~!)

 

 つくづく(しもべ)の思考は理解しがたい。

 自分のことで追い詰められているため、理解はできるが納得したくない……が正しい表現かも知れない。

 

(ええい! こうなったら元営業職の手腕を見せてやる!)

 

 ここは、丁重に……そう、凄く丁重に「そういう意図で、お邪魔したんじゃないんですぅ!」と説明するしかないだろう。

 

(見た感じ、聖王女はウルベルトさんの思惑について知らないみたいだし……。け、ケラルトさんと話すことができれば……)

 

 レメディオスが武人建御雷っぽい女性なら、ケラルトは言わばウルベルトっぽい女性だ。見た目も知的だし、誠意を持って話せば解ってくれるはず。

 そう思ったモモンガであるが、残念なことに、彼が発言するよりも先にケラルトが皆を振り返った。

 清楚かつ朗らかな笑顔。しかし、モモンガはその笑顔に悪寒を感じている。

 

(なんだか、駄目な予感!)

 

「皆さん、アレインと話して気がついたのですが……。聖王女様とモモン殿は話が弾んでいるようですので、お互いの指導者同士、二人きりの会談の場を設けたいと思います」

 

「はぁっ!?」

 

 今度こそ、思わず声に出してしまったモモンガは、その口を手で覆った。

 しかし、声が出た後の行動であるため、塞いだ意味はない。 

 ギルメン達を見ると『ニヤニヤ度』が上昇しているのが不本意だが、これ以上騒ぎ立てても逆効果だとモモンガは判断した。

 

(せ、聖王女が断ってくれたら……)

 

 モモンガは救いを求めるように、カルカを見てみる。

 カルカは……赤く染まった頬を両手で押さえていた。実に嬉しそうである。

 

「ぐぅ……」

 

 モモンガは力なく項垂れ、それを見たケラルトは悪い笑みを浮かべた。

 

「はい。じゃあ決定と言うことで、後はお若い二人に任せましょう。他の人達は……別の会議室に移動しましょうね~」

 

 ケラルトが場を仕切り、ギルメン達が席を立つ。

 弐式とペロロンチーノが「お若い二人だー!」などと言ってハイタッチしている姿が、モモンガとしては腹が立つ光景でしかない。

 ゾロゾロと出て行く者達を見送るモモンガは、緊張している様子のカルカを一瞥してから、出ていく者の後ろ姿を睨み直し……心の中で叫んだ。

 

(覚えてろよ、貴様ら! 俺の嫁が増えても知らんからな――――――っ!!!)

 

 そうやって吠えた後でモモンガは肩を落とし、小声で付け加えている。

 

「と、脳内で魔王ロールをやってみたものの……。そうなったら、そうなったで責任は取るけどさぁ……。そう、なるのかなぁ……」

 

 この口振りでモモンガは自覚するのだが、カルカと良い関係になるのは嫌ではない。気持ち的には、エンリ・エモットと親しくなった頃を思い出していたりもする。

 

(俺……元の現実(リアル)で居た時は、こんなに気の多い人間だったっけ?)

 

 そうではなかった。

 これは間違いなく断言できる。

 なのに今は、アルベド、ルプスレギナ、エンリ、ニニャに茶釜と来て、今度はカルカだ。

 アルベドだけならまだしも、ルプスレギナにも手を出した時点で、自分は何かのタガが外れてしまったのだろうか。

 

(ギルメンの誰かだったかな、後宮とか大奥とか言っていたのは……)

 

 そうなる未来が見えたような気がして、モモンガは深い溜息をつくのだった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「うん?」

 

 ここは、とある地下遺跡の中。

 石組みの通路を歩いていた冒険者シシマル……こと、獣王メコン川は、その人化した顔を天井方向に向けた。

 

「シシマル? どうかしたか?」

 

 隣を歩くヘッケランが聞いてくる。中列のイミーナや、アルシェ、最後尾のロバーデイクとエントマ・ヴァシリッサ・ゼータもメコン川を気にしているらしく、それぞれがメコン川の背に注目していた。

 

「いいや、なんでもない」

 

 メコン川は一言言って話を流すと、眉間に皺を寄せる。

 

(今、追い詰められた骸骨の絶叫が聞こえたような……)

 

 思い当たる骸骨と言えばモモンガだが、彼が単独行動をして手に負えない敵に囲まれるシチュエーションは、そうそう発生しない……とメコン川は考えた。

 

(モモンガさんは用心深いからな……。今はナザリックもギルメンが多いし、モモンガさんの近くには、弐式さんとか、たっちさんといった頼りになる人が多い……。ま、大丈夫だろ)

 

 その判断は正しい。

 だが、本来ならモモンガの味方をするはずのギルメンが、全員でモモンガを追い込んでいるとは、さすがのメコン川も気づけなかった。

 

(おっと、目の前の仕事に集中しなくちゃ……だな)

 

 可動域重視で装飾を可能な限り排した黒色の当世具足。それを身につけたメコン川は、顔を引き締める。

 今日のメコン川は、請負人(ワーカー)のフォーサイトに臨時加入中であり、バハルス帝国領での遺跡探索に付き合っていた。ちなみにメコン川の臨時加入についての提案者は、フォーサイトの魔法詠唱者(マジックキャスター)、アルシェだったりする。

 普段のヘッケラン達は、余所者の加入を好まない主義だ。今のフォーサイトメンバーでの連携に慣れているし、メンバーが増えれば報酬の取り分が減るので、それも良くない。だが、今回は生温かい目でアルシェの提案を受け入れていた。

 

「シシマルなら構わないぜ~。実力は俺達より上だし? 何よりアルシェが、ど~~~してもシシマルと冒険したいってんなら……いだぁ!?」

 

 余計なことを口走ったヘッケランが、イミーナによって尻を蹴飛ばされるシーンもあったが、メコン川の臨時加入は問題なく受け入れられていた。

 アルシェとしては、ナザリック地下大墳墓調査……の依頼遂行後、借金返済のために働く必要がなくなっており、肩の力を抜いての請負人(ワーカー)働きである。

 最近気になるメコン川と、一緒に冒険してみたいと思っていただけなのだ。

 

「ただそれだけ。他意はない。絶対にない。ないったらない……」

 

 杖を握りしめてブツブツ言っているアルシェは、顔が火照り赤くなっている。

 アルシェの様子を肩越しに振り返って確認したメコン川は、「フォーサイトのアルシェから誘われたから、一働きしてくる」と言ったときのギルメン達の反応を思い出していた。

 反対する者は誰も居らず、弐式とペロロンチーノがはしゃいだことで、建御雷と茶釜から拳骨をくらった程度だ。他ではモモンガから、護衛兼連絡役としてエントマの同行を条件にされたぐらいだろう。

 

(いい歳こいて、女の子と外出するのに他人さんの許可や応援があるとか……。しかも、保護者……じゃないけど、今回は護衛同伴だぜ? 勘弁して欲しいんだけどな~)

 

 そもそも、今回はフォーサイトと行動を共にしているだけなので、アルシェと二人きりというわけではない。だから、デート扱いされるのはメコン川としては不本意なのだ。

 とはいえ、こうして気ままに冒険をし、現地の気の合う者達と親交を深めるのは楽しい。

 メコン川は、イミーナにからかわれたことでアルシェが顔を真っ赤にして抗議しているのを見ると……僅かに下がっていた口の端を持ち上げた。

 

(ま、いいか。若い女の子と楽しくやれてるんだしな……)

 

 

◇◇◇◇

 

 

「セバス、もう少し右だよ」

 

「了解しました。デミウルゴス様」

 

 モモンガとカルカが残った会議室……とは別の会議室。

 そこで、ギルメン達が作業をしている。もっとも、ギルメン達は指図するだけで基本的に身体を動かすのは(しもべ)だけだ。

 今はセバスとデミウルゴスが、会議テーブルの端で遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)を設置中である。この二人は互いの創造主の影響を受けたのか仲が悪いのだが、ウルベルトの「デミウルゴス。例の物(遠隔視の鏡)を用意してくれ」に始まり、たっち・みーの「セバス。手伝ってやりなさい」という命令まで加わると、協力して作業せざるを得ない。もっとも、お互いの嫌悪感はともかく、至高の御方……しかも自身の創造主から命令されたことで、二人の機嫌はかなり良かった。

 室内では長方形の会議テーブルの一端に人が集まり、遠隔視の鏡に向かって右側にナザリック勢((しもべ)は、「至高の御方と並んで座るのは、やはり不敬!」と、椅子の後ろで立って待機中)、左側にカストディオ姉妹が座っている。そして、遠隔視の鏡に近い方で座るケラルトが、対面で座るウルベルトに話しかけた。

 

「ねえ? アレイン? あの大きな鏡、何なの? マジックアイテム?」

 

「あれは……。あ~……離れた場所での出来事を見聞きできるマジックアイテムだ」

 

 一瞬、言葉を濁したのは、ユグドラシルのアイテムについて普通に説明して良いかどうか迷ったことによる。しかし、面倒くさくなったのでウルベルトは普通に答えることにした。弐式や茶釜などのギルメン達も、その程度なら情報開示して構わないと考え、特に口を挟んでいない。

 ただ、ナザリック勢にとっての『その程度』は、聞かされたケラルトや聞いていたレメディオスにとっては大問題だった。

 椅子を鳴らして立ち上がったケラルトが、机上に両手を突きながらウルベルトを見る。その表情は真面目そのもので、視線鋭くウルベルトを射貫こうとするが、座ったままのウルベルトは平然と彼女の視線を受け止めた。

 

「何かな?」

 

「遠くの物を映し出して、現地の声も聞こえる? そんなマジックアイテム、聞いたこともないのだけれど?」

 

「そりゃそうさ。俺達で作ったアイテムだからな」

 

 本当はユグドラシルからの持ち込みアイテムを、課金アイテムとギルメンの力によって魔改造したのである。が、そういった事情を隠さずに話すわけにはいかないため、ウルベルトは嘘をついた。

 

「本当……いえ、『そういうこと』なわけね。それは、まあいいわよ……」

 

 内容はともかく、嘘をついていることは見抜いたのか、ケラルトは溜息をつきながら聞き流した。しかし、気になることを追及するのは諦めていない。

 

「でもね、これって途轍もないアイテムよ。わかってる? 敵国の重要会議とか離れた場所から見聞きし放題ってことだし……。敵軍の配置や陣形だって丸わかり……」

 

「そのとおりだ! これは大変だぞ! ケラルト!」

 

 普段の言動は脳筋極まるが、こと軍事に関しては頭の回転が速いレメディオス。その彼女が、すぐ隣で立つケラルトを見ながら声を挙げた。

 このように、聖王国の神官団長と騎士団長が揃って顔色を変えているのだが、対するナザリック勢の反応としては「大袈裟だなぁ……」といったものでしかなかった。

 確かに、この『遠隔視の鏡』は幾たびかの改修の末、探知範囲が拡大され相互の会話も可能となっている。想定される妨害魔法の緩和力も向上したので、大幅に強化されたと言って良い。

 しかし、ギルメン達は『ユグドラシル時代と変わらず、簡単に妨害される使えないアイテム』という認識が拭えなかった。

 何故ならギルメン達であれば、遠隔視の鏡による映像音声の転送を容易く妨害できるのだから……。

 ウルベルトとカストディオ姉妹のやり取りを見ていた弐式は、面の下で苦笑する。

 

(俺なんか、スキルだけで妨害できちゃうし……。転移後世界では有効なアイテムになったんだろうけど、どうも昔からの認識がね~)

 

 最後に弐式が肩をすくめると、それまで黙っていたペロロンチーノが挙手した。

 

「まあまあ、とにかくアイテムを起動しようじゃないですか。モモン……が、ゲフンゴフン、さん達が、何を話しているか気になりますしね!」

 

「ハハッ、それもそうですね! ペロンさん! ……タチさん、どうかしましたか?」

 

 朗らかに応じたウルベルトは、ふと視線をたっちに向ける。

 たっちは腕を組んだまま、横……遠隔視の鏡とは反対方向に顔を向けていた。カストディオ姉妹もつられて視線を向けるが、彼女らからすれば「何か気に入らないことでもあるのか?」といった印象でしかない。

 しかし、ウルベルト達、ナザリックのギルメンはわかっていた。

 たっち・みーは、モモンガとカルカの対談を盗み見ること、そして盗み聞きすることが気に入らないのである。

 ならば、彼だけ離席して会議室の外で待っていれば良いのだろうが、彼が居残っているのはモモンガ以外のメンバーとのギルメン投票で負けたことによる。いったい何の投票で負けたかと言えば、『モモンガさんのイベントトークを楽しむ会の活動停止』にかかる是非の投票だ。

 結論から言えば、反対票は一票のみ。

 つまり、たっちだけが反対という結果に終わっていた。それでも、たっちだけが離席することは可能だろうが、ウルベルトらが悪乗りした際に止める者として彼は会議室に留まっている。

 

(モモンガさん、すみません! けど、皆の暴走を止めるストッパー役は必要で、ああああ……)

 

 腕組みのまま微動だにせず、顔は遠隔視の鏡とは反対側向き。

 その内心は、葛藤で混乱の渦中にある。今は、フルフェイスのヘルムで顔を隠しているが、ヘルムを取ったら変な汗をかいているのが目視できたことだろう。

 そんなたっちを、ペロロンチーノと弐式が「たっちさん、苦悩してるな~。主に俺達のせいで」と申し訳なさそうに見ており、茶釜は「本当に見ては駄目な状況になったら受信をカットすれば良いんだし。たっちさんは、真面目よね~」と苦笑している。ウルベルトは「面倒くさい奴だ」と鼻を鳴らすのみだ。

 

「アレイン様。準備が完了しました」

 

 遠隔視の鏡の隣で立つデミウルゴスが、恭しく一礼している。その反対側、向かって左側ではセバスも同様に一礼していた。

 色々と面倒くさいことは多いものの、取りあえずはモモンガとカルカの対話を楽しもう。

 そう判断したウルベルトは、「では、始めてくれ」と指示を出しつつ、内心ではたっちに対して軽く舌を出していた。

 

(さて……後は、モモンガさんが気づくまで何分持つか……だな)

 

 普段のモモンガなら、ナザリック外で重要な会議をする場合は盗聴防止等の措置を施す。パッシブの妨害手段を備えているのにだ。そして、それはウルベルトから見ても、執拗に思えるほど念入りに行われるのだが……今別室に居るモモンガは、そういった防諜系の魔法を使用していない。

 モモンガが気を抜いているのもあるだろうが、カルカ……女性と楽しくお喋りすることについて、ナザリックの組織運営といった方面の重要性を感じていないからだろう。

 

(俺達にハメられたと気づいた時点で、普段のモモンガさんなら何かしら準備すると思うんだがな~……。やっぱり、浮かれてるのか? うむ、ギルド長が楽しそうで何よりです!)

 

 そして思う壺だ……と、ウルベルトはほくそ笑む。

 

(遠隔視の鏡の使用にあたって、弐式さんに追加で隠蔽のスキルを使ってもらったし……。モモンガさんが自発的に何かしなければ、このまま二人の会話は俺達に筒抜けか……)

 

 このまま妨害されず終いでも面白いだろうし、バレてモモンガが妨害するにしても、それはそれで面白い。

 

(安値だが、俺もアイテムを使って妨害対策してるからな。弐式さん相手にはキツいが、モモンガさんのパッシブでの妨害は通用しないぞ~? どうするモモンガさん? いや、楽しいな~。バレてもバレなくても俺得とか、さすがは俺、天才だな! ふはははは!)

 

 御満悦のウルベルト。

 だが、バレた場合、怒ったモモンガによる説教が待っている。いや、どのみちこの状況に追い込んだことで説教は確定しているのだが、楽しさ優先のウルベルトはまったく気がつかない。もとい、意識が及んでいないのであった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「どうも……その、神官団長が変な風に気を回したようで……」

 

「いえ、お気遣いなく……」

 

 仲間の『やんちゃ』に悩まされるところも同じで、親近感が湧く。

 モモンガは(ギルメンに対する説教内容は別で考えるとして)機嫌良く、カルカの謝罪に応じていた。

 そして今、会議室はギルメン達やカストディオ姉妹らが居なくなったことで、感じる『広さ』が増している。そんな状況下で二人きりになったせいか、モモンガの意識はカルカに集中した。

 先ず思ったことは、やはりカルカが美人だということ。

 顔の造形が美しいのは初見のとおりだが、話してみると穏やかな人柄が魅力を後押ししているのがわかる。

 

(話してて気が安らぐってのはいいよな~。普通の女の子なエンリや、魔法詠唱者(マジックキャスター)として慕ってくれるニニャに通じるものがある……ような気がする!)

 

 加えて言えば、生粋のナザリックNPC……アルベドやルプスレギナと違い、忠誠心といったものが無い。つまり、肩が凝らなくて良いのだ。

 

(一国のトップだから、それはそれで肩は凝るけど……。聖王女……カルカさんの場合は、癒し力がね~……)

 

 同様の感想は、カルカの方でも抱いている。

 

(改めて見ると、温和な顔立ちが……良いわ~。あと、顔立ちだけじゃなくて性格も温厚っぽいのが良いわね。私の周囲には居なかったタイプよ!)

 

 思えば意識していた異性……タチ(たっち・みー)とアレイン(ウルベルト)は、それぞれがレメディオスやケラルトと気質が似ている。普段から親しいカストディオ姉妹と似ている部分があるので、意識していたのではないだろうか。その様にカルカは分析していた。

 

(これは……これは、そうね! 暫くお付き合いして、お互いのことをもっと良く知ってから……キャー!)

 

 たおやかな笑みを浮かべながら、心の中ではテンション上がりっぱなし。

 この辺、アルベドも似たようなことをするが、アルベドの場合は、モモンガを対象とすると精神に抑制がかかる。最近は、その精神抑制がなりを潜めだしているのだが、これはタブラの考察によると、モモンガによる設定改変が、実体化したアルベドに馴染んできたということらしい。

 ともあれ現状、アルベドとカルカは、一部であるが通じるものがあると言って良いだろう。

 これらのことについてモモンガは把握できていなかったが、何となくアルベドっぽさを感じているので、これもまた好感度の上昇に繋がっていた。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「イイ感じね~……」

 

 遠隔視の鏡に映し出される、モモンガとカルカの会話模様。

 それを見つつケラルトが呟いている。

 遠隔視の鏡を起動させた当初こそ、ウルベルトに対して質問の嵐を浴びせていたが、今では落ち着き、画面に見入っていた。これはレメディオスも同様らしく、瞬きを忘れたかのように目を見開き、画面を凝視している。

 一方、ナザリック勢は、最初の方こそ「そこだ! 押せ!」や「モモン……さん! そこは褒めるんですよ!」といった声援が出ていたものの、モモンガとカルカが醸し出す甘酸っぱくもホンワカした雰囲気に当てられ、声が出なくなっていた。

 

「なんだろう、この『いけないものを見ている感』は……」

 

「姉ちゃん、いけないことをしているのは俺達……あ痛っ!」

 

 ペロロンチーノが茶釜に殴られている。

 ただ、折檻めいての強打ではなく、ぽかりと軽く殴ったのみだ。これは、茶釜の注意が画面だけでなく、後ろで並ぶNPC達にも向けられていたことによる。

 セバスやデミウルゴスは「ほほう」や「ふむ」といった小さなリアクションがあるのみ。ナーベラルは弐式が一喜一憂している(今は大人しくなっているが)様を見て瞳をキラキラさせているようだ。

 ルプスレギナに関しては「中々にイイ感じっすね~。……参考にしようかしら……」と、何やら企んでいる様子。

 残るアルベドはと言うと……。

 

「……」

 

 最初の頃のキラキラ感は何処へやら、どことなく口惜しげに、画面に見入っていた。 

 

(『(わたくし)では、モモンガ様とああいった風に話せない』とか思ってそうね~……)

 

 冒険者ブリジットとしてのアルベドは、砕けた態度でモモンガと話せている。だが、やはり演じている部分もあり、根本的にはNPC……『(しもべ)』なのだ。

 

「ふむ……」

 

 鼻を慣らした茶釜は、視線を遠隔視の鏡に戻す。

 今、モモンガとカルカは、互いの好きな食べ物……中でも菓子について語り合っている。モモンガが自分の屋敷(ナザリック地下大墳墓)に凄腕の料理長が居て、彼が作る菓子類は絶品だと言い、対するカルカは興味深そうに質問していた。

 すっかり『お見合い』の雰囲気となっている。

 

(マジでイイ雰囲気ね~……。NPCや現地の娘には無理でも、私なら、ああ出来たかもだけど……。いや、無理か~……) 

 

 元の現実(リアル)において、声優……芸能人である茶釜に対し、モモンガ……鈴木悟は憧れを抱いていた。それは高嶺の花を見るようであり、今のカルカに対する態度とは違っていたように茶釜は思う。

 

(今だって、一歩……いえ、半歩ぐらい引いた感じで接してきてるし。もうちょっと私にも、あんな……カルカさん相手みたいな感じで……ねぇ)

 

 茶釜に言わせれば、生まれついての王族であるカルカの方が、高嶺の花度が上なのだが、どうやらモモンガにそういった意識は(相手が王族という認識はあるものの)ないらしい。

 転移した異世界での王族なので、ピンと来ていないのだろう。

 

(で……考えれば考えるほど、アルベドの気持ちがわかっちゃうのよね~……)

 

 そして、わかるほどに自分に効く。精神系ダメージが入ると言ってもいい。

 このやるせない気持ちをどうすれば良いのか……。

 今更、モモンガとカルカの邪魔をするのは茶釜の趣味ではない。それどころか、見ていてホッコリした気分になれるので、応援したいくらいだ。

 となると、アルベドのフォローに回るのが良いだろう。そうすることで、自分の気持ちが少しは晴れるはず……。

 そう判断した茶釜は、悪い笑みを浮かべた。

 

「ここは、この茶釜さんが一肌脱ぐしかないわねぇ……」

 

「何を思いついたんですか! 勘弁してくださいよ、いや本当に! って、俺の話、聞いてます? 茶釜さん!? 茶釜さ―――――ん!」

 

 モニターに映るモモンガの絶叫が、幻聴となって聞こえた気がする。だが、茶釜は聞かなかったことにし、作戦を練り始めるのだった。

 




 心の絶叫をことごとく無視されるモモンガさん。
 頼りとなるはずのギルメンも助けてくれはしない。
 いったい誰が彼をここまで追い込むのか……。

 書いてる私なんですけど。

 終盤の展開をお読みいただいたとおり、カルカイベントに乗っかる形で、アルベド(メインヒロイン)のイベントを進めようと思っています。

 久々で登場したエントマを喋らせたかったけど、何処かで書こうと思います。

 それにしても最近、仕事が~……。
 投稿頻度は落ちますけど、頑張りますです。

 そうそう、アルベドイベントと、聖王国イベント。この辺を乗り切ったら最終回、最終回が見えて……きそう?

 ちなみに、今回悩んだのは、覗き見する場にたっちさんをどう居座らせるか……と、モモンガさんがギルメンを『貴様ら』呼ばわりするところ。
 後者に関しては、消したり書いたりしてましたが、魔王ロールということで落ち着きました。
 ギルメンに向けての『覚えてろよ、貴様ら!』は、言わせたかったんです。


<誤字報告>

はなまる市場さん、つがさん、D.D.D.さん、トマス二世さん、佐藤東沙さん、
V・X・Tさん

 各キャラのセリフ(話し言葉)については、人が話してる感を出すべく崩し気味にしてることがありますので、修正指定があっても、そのままにしておくことがあります。
 御了承くださいませ。
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