オーバーロード ~集う至高の御方~   作:辰の巣はせが

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第104話

「モモン殿……。この状況……誰の意図だかはわかってますが、こうして二人で話してみると……」

 

「ええ、聖王女様。思っていた以上に話が合いますね……。誰の意図だかはわかっていますが……」

 

 苦笑するカルカに対し、モモンガが笑いながら答えている。

 組織のトップとしての気苦労や、落ち着いた居室の良さに対する見解、菓子の甘さに対する好み。そういった諸々について、モモンガとカルカは意気投合していた。

 なお、モモンガが言う『この状況を意図的に生み出した者』は、ウルベルトであり、カルカにとってはケラルトだったりする。

 

(ウルベルトさんは後で正座させるとして……。気の合う美人さんと話すのが、ここまで穏やかな気分になるとはな~……。気のせいか、発狂ゲージも下がってる気がするな! 気のせいかもだけどな!) 

 

 異世界転移したことで、モモンガ達は人間から異形種になった。

 異形種のままで居ると、人間としての感性や心根がどんどん薄れていき、行き着く先は精神も含んだ完全なる異形種化。

 これが、弐式炎雷の発言が元となった『異形種ゲージが溜まる』という現象である。

 モモンガ達は、この転移後世界において、ユグドラシル時代のように楽しく過ごしたいと考えているため、身も心も異形種化するのは本意ではない。

 そこで、人化アイテムによって人化し、精神を人のものとすることで安定を図っていた。とはいえ、正体と言うべきか本性と言うべきか、本来は異形種であるため人化していても精神の異形種化が徐々に進行する。ならばと、適度に異形種化して『ガス抜き』を行い……と、一連の流れが繰り返されるのだ。

 しかし、単なる繰り返しで済むのならギルメンが面倒さを我慢すれば良いが、ここで隠しパラメータとでも言うべき『発狂ゲージ』が登場する。

 人の姿で居続けられない。

 異形種の姿で居続けられない。

 そうした時間が蓄積することでストレスのようなものが溜まり、普段の当人からは考えられないような言動に出てしまうのだ。

 これが発狂したかのような振る舞いなので、ギルメン間では『発狂ゲージが溜まる』と表現される。

 合流済みのギルメンでは、ブルー・プラネットが発狂したギルメンの代表例だ。

 

(発狂ゲージは、精神安定系アイテムを装備すれば、ガス抜きないし解消ができるわけだけど……。聖王女と話しているだけで同様の効果が得られるとしたら、これは重要な事実だぞぉ!)

 

 思わぬメリットを発見した(ように考えている)モモンガは、内心で歓喜したが、他のギルメンにも同様の効果があるか実験してみようか……とまで考えて、少しイラッとした。

 聖王女……カルカが、他の男性ギルメンと親しく会話している。その情景を思い浮かべたことで気を悪くしたのである。

 

(ふむ、茶釜さんや、やまいこさんが話相手だと特に気にならないか……。これはいったい、どういうことだ?)

 

 モモンガはカルカとの会話を続けながら、幾つかの会話パターンを思い浮かべてみた。たっちとカルカ、ウルベルトとカルカ、ベルリバーとカルカといった具合である。そして、そのどれもが気にくわなかった。

 これはカルカだけが特別だということなのだろうか。

 

(いや、もっと検証が必要だな……)

 

 カルカを除外して他の会話パターンを、モモンガは連想してみる。

 ヘロヘロとユリ・アルファ、獣王メコン川とソリュシャン・イプシロン。

 

(ルプスレギナとペロロンチーノさん……ぬうっ!? 今、かなりイラッと来たぞ!?)

 

 ルプスレギナ・ベータとペロロンチーノ。この両方、あるいは片方が原因なのか。手当たりを感じ取ったモモンガは、今度はルプスレギナとブルー・プラネット。続いてペロロンチーノとユリをカップリングしてみた。すると、ルプスレギナが加わっている時だけ苛立つことが判明する。

 

(では、次……)

 

 と、このように様々なパターンを短時間の内に試したみたところ、一つの結論が得られた。 

 現在、モモンガと交際中の女性が、モモンガ以外の男性と親しくしているパターン。それが脳内シミュレーションの結果であっても、モモンガは苛立ちを感じるということだ。

 

(うわっ、俺って独占欲……つよっ!?)

 

 ちなみに苛立ちの強さ順で考えると、最も腹が立ったのはアルベドが男性ギルメンの会話相手となったパターンで、その後はルプスレギナ、ぶくぶく茶釜、エンリ・エモット、ニニャ……そしてカルカの順になる。

 

(親密度や好感度が関係するとしたら、やはり俺の一押しはアルベドなのか……。さすがは俺の好みを集約しただけのことはあるな……)

 

 アルベドの制作者であるタブラ・スマラグディナのリサーチ力、恐るべし。

 そう思うと同時に、アルベドが自分の中で一番であることについて、モモンガは何となくだがホッとしていた。

 

(今度またデートに誘っちゃおうかな。あ、ルプスレギナや茶釜さんも……。ああ、体が交際女性の数だけあればいいのに!)

 

 悩ましいが、マジックアイテムでどうにかなりそうではある。だが、それはそれで誠意に欠けるような気がして、モモンガは眉間に皺を寄せた。

 

(アイテムで自分を増やして複数デートとか……。複数女性との交際を作業みたいに扱う感じで嫌だな……)

 

 やはり、スケジュールを上手くやりくりして、身一つで対応するべきだろう。

 

(ハーレム男にはハーレム男なりの、根性の見せ方や筋の通し方ってものがあると、俺は思うんだよな~。で……だ)

 

 そこまで考えたところで、モモンガの思考はカルカの件に戻る。

 どうやら自分は、自分で思っていた以上にカルカのことが気に入っているらしい。このまま親しくなり交際することになったら、ギルメン達の思惑どおり、モモンガハーレムに増員となるが……。

 

(皆の期待どおりの展開になるのは気に入らないけど、今更一人増えたところで俺の『ハーレム男』という立ち位置が変わるわけでも……。いやいや、そもそも聖王女の方で俺のことを気に入ってるとは限らないじゃないか。何を考えてるんだ、俺は!)

 

 実のところ、カルカの方ではモモンガをかなり気に入っているのだが、女性との交際経験、あるいはその期間の短いモモンガには、そこまで読み取れていなかった。

 

「あの……どうかしましたか?」

 

「あ、いえいえ。少し、チームの活動予定などが思い浮かんだものでして……。考えごとなどして申し訳ないかぎりです」

 

 怪訝そうにしているカルカに対し、モモンガは苦笑交じりで謝罪する。言い訳自体は咄嗟に思いついたものだったが、カルカは聞いた言葉をそのまま受け止めたようだ。

 

「そう言えば、モモン殿はチーム漆黒として行動中とのことですが……。聖王国では何か依頼をお受けになるのでしょうか?」

 

 そんな予定はない。

 今回、モモンガは、たっちやウルベルトにくっついて来ただけなのだ。

 だが、カルカから聞かれた『聖王国での冒険依頼』には、ほんの少し興味が湧いている。

 

(後で冒険者組合に顔を出してもいいかも……)

 

 聖王国における冒険者は立場が低い。そのような話を聞いた記憶があったが、何かしらの依頼はあるだろう。

 これも一つの冒険だ。それもギルメンと一緒の! と、モモンガがテンションを高めているところへカルカが話しかけてきた。

 

「もし、よろしければ……ですが、聖王国としての依頼を引き受けていただきたいのです……」

 

「ほほう。国からの指名依頼ですか……。内容を伺ってもよろしいですか?」

 

 モモンガは「イベント発生だ! 面白くなってきたぞぉ!」と内心で喜ぶ。本来、不測の事態を嫌うたちなのだが、今回はカルカとの対話で浮かれていたこと、そして「大方はモンスターの討伐依頼だろう」と当たりをつけていたので、落ち着いた状態でカルカの説明を聞くこととなった。

 そしてカルカが語った依頼内容とは……亜人の討伐。おおむね、モモンガの予想どおりである。

 

「最近、亜人の氏族が合流して一大勢力を構築しているとのことで……」

 

 それはデミウルゴスが意図的に流した情報なのだが、カルカは普段どおり、下から上がってきた報告だと思っているようだ。

 

「動き出す前に亜人の集団……連合のようなものを討伐しろと?」

 

「いえ、まだ何もしていない時点で攻撃するわけにはいきませんので……。それに、腕利きとはいえ冒険者チーム一つで対応するには規模が大きすぎます。彼らが押し寄せてきたときに漆黒が居合わせた場合、協力していただきたいと……」

 

 カルカは一介の冒険者チームに無理を言っていると考えたのか、申し訳なさそうにしている。

 一方で、モモンガは「甘いな~」と少し呆れていた。

 これまでに知った情報では、聖王国は亜人達に何度となく押し寄せられている。そこに敵対勢力が居るのなら、駆逐してしまえば良いのである。

 

(それを放置しているから、態勢が整うたびに押し寄せて……と、ここは国力や軍事力の問題もあるから、聖王女の対応だけを非難するわけにはいかないか……)

 

 何しろ、転移後世界において人間は弱者だ。

 モモンガ達ほどの強さがあればともかく、今の聖王国では一杯一杯なのだろう。

 もっとも聖王国の南部側との連携が取れていないそうなので、そこは聖王国の落ち度ではある。

 

(俺達がリ・エスティーゼ王国でやったみたいに、『内部改革』とかできればいいんだろうが……。今の段階で王国だけじゃなくて聖王国まで手を伸ばすのもな……)

 

 そこまでせずとも、カルカの依頼を受ける程度なら今は問題はないはずだ。

 そういったことを考えながら、モモンガは一つ頷きカルカに視線を合わせなおす。

 

「聖王女様。私は冒険者チーム『漆黒』のリーダーですが、総てを独断で決められるわけではありません。仲間達と相談してから依頼を受けるかどうかを回答する……とさせていただいてよろしいでしょうか?」

 

「もちろんです! 『漆黒』の強さは聞いています! タチ殿とアレイン殿の強さも知っていますから、是非とも前向きに検討してください!」

 

 そう言うカルカの表情は花の咲いたように美しく、モモンガにとっては眩しい限りであった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「てことは、この後は俺達と相談か~……」

 

 背もたれに体重をかけたペロロンチーノ……今は人化中である冒険者ペロンが、ギシリと椅子を鳴らす。

 モモンガ達が居た会議室とは別の会議室で待機していたギルメンと(しもべ)、そしてカストディオ姉妹は、遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)で二人の会話を見聞きしていた。

 モモンガとカルカが親しく談笑している様子は実に心温まるもので、極一部の者……アルベドを除いた者達は「いいものを見た」という気分で一杯である。しかし、覗き見が終わったところで、カルカがモモンガに依頼した内容が話題となっていた。

 

「タチさんはどう思う? けっこうな大仕事になると思うけど?」

 

 弐式がたっちに話を振るが、この場合の『大仕事』というのは転移後世界感覚での話だ。聖王国での亜人の暴れっぷりについては、弐式やペロロンチーノは伝聞でしか知らない。だが、一〇〇レベルプレイヤーとまともに戦えるほどでないことは容易に想像がついていた。なので、ここでたっちに意見を求めたのは、異世界転移から暫くの間、聖王国で冒険者として活動していた経験からの情報……それを再確認したかったからだ。

 

「そうですね……」

 

 騎士スタイルのたっちは、人化中の顔を硬くしつつ、腕組みをする。 

 

「確かに『大仕事』でしょうね。難易度は、ともかくとして……」

 

 たっちも亜人が集合したところで大した相手になるとは考えていない。彼と仲の悪いウルベルトも頷いているので、やはり大したことはないのだ……とギルメン達は認識した。

 そうなると、漆黒においてはどの程度の戦力で戦うかが問題となる。

 多めに人数を出して、それなりに頑張ってる……ように戦うか。

 小人数で軽く蹴散らして、チーム漆黒の武威を示すか。

 ウルベルトの背後で直立不動の姿勢を取っているデミウルゴス。彼から事前に受けた報告では、亜人達の動向は逐一把握しており、『至高の御方』の好きなタイミングで殲滅が可能であるらしい。

 

「モモン……ガ、ごほん! モモンが戻って来たら、その辺を話し合いますか」

 

 ウルベルトが咳払いしながら言うと、居合わせたギルメン達は皆が頷いた。

 一方、カストディオ姉妹は顔を見合わせている。

 タチとアレイン……たっちとウルベルトの実力は(二人が控えめに見せていた分には)知っているが、そこに数人程度の仲間が加わったとして、軍隊が相手する規模の亜人集団と戦えるか疑問だったのだ。

 

「タチ達の実力は理解しているつもりだが、大量の亜人が集まると……普通は冒険者の出番ではないぞ。補助戦力として参加するのが普通で……普通なのだが……」

 

 困惑しているレメディオスに妹のケラルトが頷き、次いでウルベルトを見た。

 

「姉さんの言うとおりよ。アレイン、無理はしなくていいんだからね?」

 

「大丈夫ですよ。やりようは色々とありますから」

 

 ウルベルトはニッコリと笑う。

 演技で慇懃無礼にしているのではなく、気を遣って安心させようとしているのだ。

 この振る舞いに、ぶくぶく茶釜が「声色からして……あれ、本心よね? かなり彼女に気がある感じじゃん……」と呟いている。異世界転移後の異形種化によって聴力が強化されているウルベルトには聞こえているが、彼は知らぬ顔で聞き流していた。

 このように、会議室内のギルメン達は総じてのほほんとしていたが、カストディオ姉妹は困惑するのみである。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 モモンガとカルカは、ギルメン達が待つ会議室へと移動を開始していた。

 元々、モモンガ達が居た会議室こそが最初に全員で入った部屋なのだが、再び他のメンバーを呼び戻すよりは……と、自分達が移動することにしのだ。

 今は、他の者が居る二つ目の会議室へと二人並んで……モモンガが少し遅れて歩こうとしたが、カルカが主従ではないのだし、並んで歩きたいと主張したことによる……歩いており、会議室までの距離が近いこともあって特に会話は生じていない。

 ただし、二人はそれぞれ、脳内で考えごとをしていた。

 モモンガの場合は、次のようなことを考えている。

 

(亜人の大集団か……。ここは一つ、俺達の実力の見せどころだな~。けど、俺的には、ギルメンと一緒に大暴れしたいんだよな~……。本来の異形種っぽく!)

 

 とはいえ、依頼を受けてチーム漆黒として行動するのに、異形種の姿をさらけ出すのは良くない。それにモモンガ達が本気で暴れたら、亜人達がどれ程集まっても一瞬で荒野の塵と化す。いや、塵も残らないだろう。

 

(……ウルベルトさんの大災厄(グランドカタストロフ)は封印だな、ふ~いん! 俺達の見せ場が無くなるというか、全部、ウルベルトさんに持っていかれちゃうし!)

 

 皆で適度に手加減しながら、色々と楽しく暴れる方法を模索するべきだ。

 後は、先程も考えたとおり、聖王国側の目のある場で異形種化できる上手い言い訳があれば良いのだが……。

 

(難題だな……。……そうだ! タブラさんと、ぷにっと萌えさんに相談するか! 今はウルベルトさんも合流しているし、俺が心配するようなことは何も……ないな!)

 

 困ったときに相談できる相手が居るというのは素晴らしい。

 カルカの件についてギルメン達に思うところはあるものの、今の自分は恵まれているとモモンガは思い……その頬を弛めた。

 

(営業職をしていたときは、一人で悩んで一人で決めてが多かったし……。上司は成果を催促するだけだし……。同僚も、ほとんどが競争相手で……。ああ、どうでもいいや、昔のことなんか……)

 

 目の前の楽しいことだけを考えよう。

 異世界に飛ばされた。

 元の現実(リアル)での色んな事が台無しになった。

 更には異形種になって、人間ではなくなった。

 だけど、今はギルメン達がナザリック地下大墳墓と共にある。

 

(それに……だ) 

 

 交際女性が出来たというのも、モモンガの幸福感上昇に大きく影響していた。

 茶釜、ルプスレギナ、エンリ、ニニャ……そしてアルベドだ。

 

(ひょっとしたら聖王女も加わるかも知れないが、一人増えたとしても小さな問題だよ! たぶん! そう、これ以上増やさなければ問題ないしな! たぶん!)

 

 頭の片隅で、タブラの「それはハーレム人員がどんどん増えるフラグですか~?」という声が聞こえた気がするが、モモンガは敢えて無視している。

 このように、モモンガは浮かれ調子であったが、隣で歩くカルカはというと……。

 

(ふふふっ! 上手く行けばモモンの凄いところが見られるかも!)

 

 と、為政者としてはどうかと思われる、しかし、婚活女子としては概ね真っ当な浮かれ方をしていた。

 カルカにとって、モモンの強さは疑いを持つにあたらない。何故なら、圧倒的な実力を誇るタチ(たっち)アレイン(ウルベルト)が所属する冒険者チームのリーダーであり、二人が口を揃えて「モモンは凄い」と言うからだ。

 

(そもそも、亜人が通常よりも大規模な徒党を組んでくるなら、戦力増強は必須だもの。決して私利私欲のためにモモンを……じゃなかった、漆黒に依頼したわけじゃないの!)

 

 そういうことはカストディオ姉妹や大臣、その他軍関係者に言えば良いのだが、内心で言い訳しているのは、自分を納得させるためである。もっとも、自分に対して言い訳している時点で、私利私欲を認めているようなものだ。

 

(だから、私利私欲じゃないーっ! あ……今度亜人が押し寄せてきたら、私も前線に出て視察しようかしら? レメディオス達が一緒なら、皆、反対しないわよね?)

 

 反対されるに決まっている。だが、モモン達の活躍の場を自分の目で見ようというのは、カルカの中では確定事項となっていた。

 ローブル聖王国、聖王女。カルカ・ベサーレス。

 自案を押し通すような強引さを持たず、八方丸く収まるように動きながら、結果としては及第点に少し足らない結果を出す為政者である。

 その人柄は温厚にして、時に優柔不断。それでいて清廉を目指す。

 近年は亜人への対応などで精神的に圧迫されていたが、ここ暫くはタチとアレインの活躍により、国防に余裕が生まれ、今また二人の本隊である漆黒の協力も得られる可能性が見えていた。

 漆黒が戦ってくれるなら国軍の負担減少が期待でき、それを考えたことでカルカは気が楽になっている。

 ……結果として、少しばかりポンコツの気配が漂いだしているようだ。

 が、そういった調子に乗ると暴走するところは、モモンガと一部似ていたりする。

 

「……」

 

 カルカは目の端でモモンガを見て、「何やら思案している横顔……素敵!」と少し頬を染めるのだった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 会議室に到着したモモンガは、「俺が先に入る……で良いんだよな?」と扉を開け、カルカよりも先に入って行く。

 そして中に居たギルメンと(しもべ)、カストディオ姉妹にカルカから「亜人大集団への対処」について依頼を受けたことを説明した。

 ギルメンからの反対は特にない。

 

(うん?)

 

 モモンガは首を傾げる。

 ギルメン達が反対しないのは良い。亜人達が、どれ程数を集めたとしても、ナザリックの脅威にはならないからだ。

 しかし、カストディオ姉妹が(微妙な表情ながら)平然としているのは不可解である。

 たっちやウルベルトの実力(の一端)を知っているとは言え、多種族の大規模構成に対する軍事的対応に、アダマンタイト級でもない低級の冒険者チーム(現状、チーム漆黒は合流したギルメンで銅級の者が居るため、チームとしては銅級の扱い)を加えること。これについて何らかの不安要素を述べても良いと思うのだが……。

 

(いきなり聞かされたにしては落ち着いてる感じなんだよな~……。あらかじめ知ってたみたいに……待てよ?)

 

 そのとき、モモンガの脳に電流走る。

 気がついたことについて確認しようとギルメン達の方へ目を……顔ごと向けたところ、ギルメンらは一斉にモモンガから目を逸らした。

 この振る舞いにより、モモンガの疑念は確信へと変わる。

 

(あんたら、俺と聖王女との会話を……覗き見してたのかーっ!)

 

 怒りマックス。しかも、今は異形種化していないので精神の安定化は発生しない。

 どうやって説教してやろうか、聖王女と強引に二人きりにさせられた件もあるが、たっちさんとウルベルトさんには割り増しで説教だ……などと考えていると、ケラルト・カストディオが挙手した。

 

「チーム漆黒の実力については、タチとアレインの強さを知っているので問題ないと思うの。本人達は自信がありそうだし……。でも……聖王女様には、すこ~しばかり私から御相談があるのです……。よろしいですわよ……ねっ!」

 

 語尾を強くした(途中の『です』も、怒りのせいか声色がおかしかった)ケラルトが、ギロリとカルカを睨む。

 それに怯えたカルカは「え、ええ、そうね! 相談は大事だもの!」と引きつった笑みを浮かべながら何度も頷いている。 

 

「では、俺達も相談するとしましょうか?」

 

 ケラルトとカルカの会話に区切りがついたところで、モモンガは「俺の番だな!」と話し出した。今は人化中だというのに、死の支配者(オーバーロード)の暗い眼窩で光る赤の灯火が見えたような気がする。

 ギルメンらが着席したまま硬直する((しもべ)達は少し前より硬直中)のを見て、モモンガは話を続けた。

 

「依頼を受けるかどうかについて意思統一する必要がありますし……。あ、そうそう、ケラルト殿。この会議室の机や椅子ですが、端に寄せても構いませんかね? 後で戻しておきますので……」

 

「ええ、モモン殿。ご存分に……」

 

 机と椅子を端に寄せた会議室で、モモンガが何をしようとしているのか。

 概ね察したケラルトは、異性に対して滅多に向けない柔らかな笑みを浮かべて頷いた。

 

「こちらはこちらで、時間がかかると思いますので……」

 

 

◇◇◇◇

 

 

「うう……だって、モモンの凄いところを見てみたいと思ったんだもん」

 

 カルカは自室のテーブルで椅子に腰を下ろし……項垂れている。

 大臣やカストディオ姉妹に相談もなしで、チーム漆黒に協力要請したことをケラルトから叱られているのだ。そのケラルトはカルカの対面で座り、腕組みをして頬を膨らませている。ケラルトの左側で座るレメディオスは、カルカ寄りの思考であったが、それを口に出すと妹の矛先が自分に向くので、カルカに申し訳ないと思いつつ視線をそらせていた。

 

「思ったんだもん……じゃないです! 子供ですか! もっと立場というものを考えて……」

 

 ケラルトのお説教は続く。

 カルカは基本的に相手の話に耳を傾ける性格なので、お説教が長引くほどに精神がすり減っていくようだ。

 だが、続くケラルトの「確かに、モモン殿や漆黒の実力については、私も見たいけれど……」という呟きを聞き取り、カルカは一気に気分を持ち直す。

 

「でしょ!? だったら……うっ!」

 

 花が咲いたかのような、聖王女のニコニコ顔が硬直した。ケラルトが半目で睨んでいるからだ。

 ケラルトは立ち上げると、両拳の甲を腰に当てて上体を前に倒した。二人の顔と顔の距離が縮まり、カルカは仰け反るように後退する。だが、椅子には背もたれが備わっているので、そこより先には後退できない。 

 

「カ・ル・カ・様? どうやら、今日は、いつになく、お(たる)みの御様子ですので……。聖王女としての在り方や、淑女のマナーについてお話しましょうか? みっちりと……」

 

「はわわ……」

 

 完璧にケラルトを怒らせたことを悟り、カルカは涙目となった。真正面の鬼……ではなくケラルトの隣には、レメディオスが座って居る。彼女に助けを求めるのはどうだろうか。

 

「れ、レメディオス? ケラルトを……」

 

「カルカ様」

 

 カルカが言い終わるよりも先にレメディオスが立ち上がる。

 

「用を思い出しましたので、席を外します」

 

「ちょっとぉおおおお!?」

 

 悲鳴をあげるカルカに対し、レメディオスは背を向けて歩き出した。

 

(申し訳ありません! ああなったケラルトに口を出すと、説教に巻き込まれ……いや、そうではなくて、これはカルカ様に対する愛の鞭! どうか、お許しを……)

 

 ドアノブに手を掛けたところで、「何の用かぐらい、言いなさいよぉ!」という声も掛かるが、それを振り払いレメディオスはカルカの部屋から出て行った。

 バタム……とドアが閉まり、カルカは「ああ……」と手を差し伸べる。しかし、そこにはもうレメディオスの姿はない。

 腰を浮かし、上半身を捻ってドア側を向いていたカルカに……背後から声がかかる。

 

「さて、カルカ様?」

 

 ドア側を向いたままのカルカはビクリと身を揺らし、関節に小石が詰まったゴーレムのごとき挙動でケラルトに向き直った。

 

「あ、あのね、ケラルト。私、政務とかが沢山あって忙しいと思うの……」

 

「大丈夫。ほんの数分です。……密度は濃くしますので……」

 

 怖い笑みを浮かべるケラルトを前にしたカルカの目に、じんわりと涙が浮かんだ。

 

(た、助けて! モモーーーン!)

 

 しかし、その悲痛な心の叫びは、モモンガの耳には届かなかったのである。

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 ここ数年内で一番の窮地にカルカが立たされていたとき。

 同じ城内に居たナザリックのギルメンも窮地にあった。

 椅子や机を端に寄せる……のではなく、アイテムボックスに収納することで片付けたモモンガ。彼による大説教が始まろうとしていたのだ。

 アルベドを始めとした(しもべ)達は、室外の通路で並んで待機。

 モモンガ以外のギルメンは、モモンガの前で並んで正座中だ。

 

「さてと……」

 

 大まかに事情を聞かされたモモンガは、すわった目でギルメン達を睨めつける。

 向かって左端から、たっち、ウルベルト、茶釜、ペロロンチーノ、弐式の順で並んでおり、全員が人化しているので緊張した面持ちがよく見えていた。人化した冒険者スタイルで顔が見えないのはたっちと弐式だが、双方、ヘルムを外したり面をまくり上げているのでやはり顔は見えている。

 

「俺の交際相手を、俺に無断で増やそうというのは、どうかと思うんですけどねぇ……。それと身内の会話を盗み見……盗み聞きするのは言語道断!」

 

 モモンガの声色は深く重く、そして暗い。

 

(「やっべ……モモンガさん、マジおこじゃん……」)

 

(「あ~あ、ペロロンさん。俺、知らないよ~」)

 

(「弐式さん!? 何、無関係っぽいこと言ってるんです!? 許しませんよ! 一人だけ逃げようだなんて!」)

 

 ペロロンチーノと弐式がコソコソ話しているが、距離が近いのでモモンガにはすべて聞き取れていた。

 モモンガの視線が二人に向けられ、ペロロンチーノ達は正座の姿勢を正す。

 現状、誰もモモンガの問いかけに答えていないが、回答者が居ないのであれば、指名して答えさせるまでである。

 

「では……ウルベルトさん」

 

 ドスの利いた魔王ロールの声が、静まりかえった室内に響き渡った。

 大災厄の魔、ウルベルト・アレイン・オードルが指名されたわけだが、今ここに居るギルメン中、悪巧みしそうな人物と言えば、これほどイメージぴったりな者は居ない。

 一方、ギルメン達は「ヤバい奴が指名された!」と顔を引きつらせている。

 そして……そういった周囲の様子には気づかない様子で、ウルベルトが頭を左に傾けた。

 

「え? 彼女、モモンガさんと気が合いそうだし? 面白いかな……って」

 

「その悪魔を黙らせろーーっ!」

 

 たっちが叫び、ペロロンチーノと弐式が立ち上がる。

 数秒後。正座で並ぶギルメン達の中で、ウルベルトのみが簀巻きで転がされることとなった。口には布が巻かれて発言できなくなっている。

 

「もぶ~? もももも、むぐもっももむももむ~(ええ~? 本当のことを言っただけなのに~)」

 

 何やら呻いているが、その意味は何となくわかる……いや、わからないことにしてギルメン達は無視をした。

 

「むう……」

 

 尊敬すべき大魔法詠唱者(マジックキャスター)の余りと言えば余りな有様。それを見たモモンガは一声呻く。この時点で気が少し萎え「もう、別にいいかな……」と思っていたが、こうしてギルメンを正座で並べた以上、何らかの落としどころは必要だろう。

 

(さて、どうしたものかな~……)

 

「あの、モモちゃん?」

 

 いつになくオドオドした様子の茶釜が挙手をした。挙げた右手の肘の高さが肩位置なので、遠慮がちであることも見て取れる。

 

「はい、茶釜さん。何でしょうか?」

 

「え~とね。実のところ、聖王女さんって、モモちゃん的にどうなの? 好みとしては、今交際中の私達と比べてどのくらいなのかな~~って……」

 

「うっ……」

 

 モモンガは、先程とは違った意味合いを込めて呻いた。茶釜の左右で居るギルメン達も呻きたい気分だ。

 交際中の女性が、新たに出現した女性に対する好感度について聞く。普通に考えれば、これは修羅場である。だが、モモンガがカルカと親しくなる機会を設け、後押ししたメンバーに茶釜も入っているのだ。

 

(茶釜さんの狙いが読めない! と言うか、俺は何て答えれば良いんだぁ!?)

 

 モモンガは大いに混乱した。

 異形種化していれば精神の安定化が発動するのだろうが、人化中であるため、その混乱状態は持続している。

 適当な言い訳を並べて煙に巻く……というのも一つの手だ。

 しかし、前述したとおり、カルカと親しくなるように仕向けたギルメン達には茶釜も含まれているので、その場しのぎな回答は避けるべきだろう。

 

(ぬうううう……)

 

 モモンガは考えた。

 今交際中の女性達と比べて、カルカ・ベサーレスは自分の中でどういった存在なのか。

 

(聖王女と直接会って話したのって、今日が初めてなんだけど……)

 

 あそこまで気が合って話も合うのだから、好感度はかなり高い。 

 知人レベルで留まらず、親しくしたいという気持ちは……ある。

 そしてカルカに対しての執着や独占欲は、先にカルカと話していた際に考えたとおり、かなり大きなものだ。

 だが、会ったばかりの人物をそこまで欲するのは、人としてどうなのか。

 

(今の俺は異形種だけどな! あ、でも人化中か……)

  

 そもそも、カルカの方でモモンガと交際したいと思っているかどうかは不明だ。

 

(俺も気が早すぎるって話だよな。下手したら風俗嬢に入れ込んで暴走するみたいな展開になるぞ? これは自重が必要だぞ……)

 

 モモンガは短い時間の中で熟慮を重ね、これが最適……と自分で考えた回答を述べるべく、その口を開くのだった。 

 




 間隔が開きまして……。
 書ける時間が中々取れないのです……。
 
 今後の予定としては、アルベドや、他2~3人のキャラのシーンを入れていこうかな……と。

 カルカをポンコツ度増し増しで描写しています。
 自分の幸せを見つけた崖っぷち女性の雰囲気が出ていれば……と。


<誤字報告>
はなまる市場さん、よんてさん、桜一郎さん、佐藤東沙さん

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