オーバーロード ~集う至高の御方~   作:辰の巣はせが

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第105話

「そうですね。凄く話が合いますし、聖王女……カルカさんとは親しくしたいとは思いますね。そうだ、政治的な話ではかなり勉強になるかな……」

 

 ぶくぶく茶釜に答えるモモンガは、交際したいとまでは言わない。

 今回、聖王女カルカ・ベサーレスとの『お見合い』のような対談をセッティングしたのはギルメン達で、その内の一人が茶釜だ。つまり、茶釜はモモンガとカルカが親しくなることを良しとしている。むしろ後押ししていると言っていい。

 

(だったら、この回答で間違いはないはず! 一応、本心でもあるしな!)

 

 自分を鼓舞するように、モモンガは内心で確認した。

 あとは茶釜の反応だが……固唾を呑む思いで注視していると、正座する茶釜は思い詰めていた表情をニパッと明るくする。

 

「良かった~。怒られるかと思ったんだけど! そうよね! カルカさんってイイ感じだし? やっぱりタブラさんが言っ……あっ……」

 

 お日様のような笑顔で後ろ頭を掻いていた茶釜が、立てて振る右人差し指の動きと共に硬直した。左右に正座で並ぶギルメン達の視線が茶釜に集中する。立って見下ろすモモンガの視線もだ。

 

「茶釜さん……。タブラさんが……なんですって?」

 

「あ……う……」

 

 出てもいない死のオーラが見えたような気がし、茶釜は呻いた。

 

「に、逃げろ、モモンガさんと……茶釜さんから離れるんだ!」

 

 状況を把握した弐式炎雷の呟き。それと共に、正座中のギルメン達が膝移動で茶釜から距離を取りだした。なお、簀巻きにされたままのウルベルトは、尺取り虫のように這って移動している。

 

「ばばばはん。ぶっぼばっぷ~(茶釜さん。グッドラック~)」

 

 半目で「それは俺、関係ないし……」と遠ざかるウルベルトだが、そんな彼のことを気にする余裕は茶釜にはない。何故なら、涙目で見上げる茶釜の前に、モモンガが歩み寄ってしゃがみ込んだからだ。

 うんこ座りで両手を膝の上に乗せたモモンガは、底冷えする目つきで茶釜と目を合わせる。

 

「詳しく、話を、聞きたいんですけど……ねぇ?」 

 

 茶釜に拒否権はなかった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 結論から言うと、モモンガとカルカをくっつけること……その発案者はタブラ・スマラグディナである。ウルベルトが絡んでいるように思えたが、先の覗き見にいたる行動は、あくまで彼独自の判断によるものだ。

 一方、モモンガに新たな交際相手が増えることについて茶釜が乗り気だったのは、事前にタブラから企みに関して相談を受け、それについて納得していたからである。ちなみに、たっちらは単にノリではしゃいでいただけであり、タブラの企みには関わっていない。

 そして、そのタブラの企みに係る相談の内容とは……。

 

「え~……と、ですね……」

 

 急遽、<伝言(メッセージ)>及び<転移門(ゲート)>で呼び出されたタブラ(人化中で白衣の学者スタイル)が、モモンガの前で正座している。先程までのギルメン達と違う点は、後ろ手に縛られていることと……その膝の上に厚さ三センチほどの石板が載せられている(膝下に敷く三角の木材も完備)ことだ。もっとも、人化しているとはいえ、元の現実(リアル)時代よりも身体強化されている彼にとって、この程度の『石抱き』は苦にはならない。言うなれば『場のお約束』のようなものだ。

 

「モモンガさんは、これからナザリックのトップとして活動するわけですし」

 

 うんこ座りスタイルのモモンガと、その後方で並んで立つギルメン達から注目されるタブラだが、石抱きの刑に処されているのに軽い口調だ。痛みやダメージが苦にならないのは前述したとおりだが、雰囲気に呑まれることもないらしい。

 ふてぶてしいと言うか、タブラらしい……とギルメンらが思う中、タブラは説明を続けた。

 

「大方の相談事にはギルメン達が対応する上、アルベドやパンドラズ・アクター、それにデミウルゴスも居るでしょう? 盤石に思えるんですけど、やはりこう……転移後世界の人間の政治家で、イイ感じの人が居れば……と」

 

「ほ~う?」

 

 先程、タブラを真正面から見ていたモモンガであるが、今の説明に対しては一定の理解をしている。確かに、アルベドとデミウルゴスは有能だが、人間蔑視は消しきれない。パンドラズ・アクターに、そういう問題はないように見えるも、親の立場と言うべきか、モモンガから何でもかんでも相談するのは躊躇われた。

 となるとタブラが言ったとおり、転移後世界の政治家が身近に居ると助かるように思えるのだ。

 ただ……。

 

「それが、どうして彼女……聖王女カルカ・ベサーレスなんですかね?」

 

「いや、ほら、美人の女性に手取り足取り教えて貰ったら、モモンガさんも嬉しいでしょ?」

 

 ……。

 モモンガは、隣で立つ弐式を見上げた。

 

「弐式さん。一枚追加で……」 

 

「追加オーダー、うけたまわり~っ!」

 

 弐式がアイテムボックスから石板を取り出し、タブラの膝上に載せる。

 ズズ……ゴトンという重い音が聞こえたが、タブラは意に介さない。

 

「でまあ、一応、茶釜さんには話を通したんですけど……」

 

「あ、普通に話し続けるんですね……」

 

 デバフ魔法で、防御力とか落とした方が良いのかもしれない。

 そんなことを考えるモモンガであったが、タブラが茶釜について話し出したので説明内容に耳を傾けた。

 

「おおむね賛成ということで、茶釜さんに遠慮することなく計画を実施しました!」

 

「そこは俺や、アルベド達にも遠慮して欲しかったな~……。ああ、もう立って良いですよ。縄は自分で解いてくださいね?」

 

 タブラの行動は悪気があってのことではない。それは理解できている。

 しかし、既に数人の女性と交際しているモモンガに対して、女性関係で行動するなら相談はして欲しかったところだ。

 

(タブラさんには、何かペナルティが必要だな……) 

 

 モモンガは「あ~、『正座』がキツかった」と言いながら、弐式に石版を手渡すタブラを見て、その目を茶釜に向ける。茶釜は少しシュンとしているようだ。

 

「そうよね。悪ノリが過ぎちゃった……。私としたことが……。発狂ゲージ……のせいにするのは、女がすたると言うか、私の矜持が……。そうよ、私、悪乗りしちゃったんだわ……」

 

 呟き声の内容からすると、いつになく気分が盛り上がっての行動だったらしい。では、正気に戻った彼女は、カルカについてどう思っているのだろうか。

 

「茶釜さん。そう落ち込まないで、悪いのはタブラさんなんですから……。それで……ですね、実のところ、俺と聖王女が親しくなることについては、どう思ってるんです?」

 

「え?」

 

 顔を上げた茶釜は、モモンガから目を逸らしつつ左頬を人差し指で掻く。

 

「今さら一人や二人増えても……って思ってたし、カルカさんは悪くないと思うのよ? むしろイイ感じ。私が個人的に付き合うにしても、彼女、人柄がいいもの。あとは……ほら、一国の王女だから、そういう人が居るとタブラさんが言ってたみたいにメリットも多いでしょ?」

 

 その他のカルカと親しくするメリットとしては、美容関係のオリジナル魔法を編み出している点が上げられる。だが、この時点での茶釜は知り得ていない。デミウルゴスは調査していたものの、重要な情報だと認識しなかったため、『個人の趣味』扱いで報告からは省いていた。

 

「メリットか……。まあ、女の人と交際するのは、それだけじゃないと思うんですけどね~。……どちらかと言えば、メリットがオマケの方ですね。やはり、俺としては気持ちの問題が優先で……」

 

 ふうと一息吐いたモモンガは、天井を見上げたあとで皆を見回した。

 

「もういいですよ、皆さん。聖王女……カルカさんと交際するかは、まだ先の話ですし、確定事項でもないですし。けど、今後はこういうことは相談してくださいね?」

 

 そうモモンガが言って立ち上がったことで、場の空気は明らかに明るくなる。

 さあ、アイテムボックスから机や椅子を出して、会議室を元に戻そう……となったところで、モモンガは皆に交じって動き出していたタブラを呼び止めた。

 

「ああ、タブラさんには、ギルド長としてペナルティを科したいと思います。ウルベルトさんの覗き主導も問題ですけど、そっちはさっきの簀巻き姿を見られたので良しとしましょう。ただ、今回は……タブラさんがやり過ぎだと思いますので……」

 

 左斜め前、たっちと弐式が並んで立つ間……その少し後方で、ウルベルトが手の平を上にして握り拳を作っているのが見えた。タブラに矛先が向いたので、助かったとでも思ったらしい。実際そのとおりなのだが、モモンガは見ない振りをする。

 

(ウルベルトさんについては、何だか萎えちゃったものな……俺。けど、タブラさんには何をしたものかな……)

 

 下顎に手をやって唸るモモンガだが、振り返っていたタブラが身体ごと向き直り面白そうに笑う。

 

「ペナルティねぇ……。さてさて、どうなるものやら。……茶釜さんが普段、ペロロンチーノさんに対してやってる……ペロロンチーノの刑ですかね?」

 

「俺がされてる折檻を、刑罰みたいに言わないでくれますっ!?」

 

 モモンガの左後方でペロロンチーノが騒いでいる。しかし、彼に対して行われているような折檻では、タブラには効果が薄いとモモンガは考えた。

 

(「興味深い体験です!」とか言って喜びそうだし……)

 

 かといって、あまりにも凄惨なペナルティだとギルメン達の反感を買うだろう。それに、ギルメン達が何でもかんでもモモンガの言うことに従うわけではない。ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』のギルド長は、ギルドの長であって独裁者ではないからだ。

 

「でも、ああ……ふむ……。これなら……」

 

 考えのまとまったモモンガが呟くと、タブラは「決まりましたか?」と余裕の構えを見せる。

 

(タブラさん……。その態度、いつまで続きますかね……)

 

 後ろ手に手を組み、不敵に笑う白衣のタブラ。その彼に向け、モモンガはローブから出ている右手を持ち上げると……人差し指を伸ばした。

 

「タブラ・スマラグディナさん。あなたには……ナザリック地下大墳墓の最古図書館(アッシュールバニパル)の利用禁止一ヶ月間。そして、現在貸し出している書籍類の即時返却を命じます!」

 

「なぁっ!?」

 

 それまでニヤニヤしていたタブラが、驚愕で表情を歪める。そして一歩半ほど後退すると、縋るようにモモンガへ手を伸ばした。

 

「と、ということはモモンガさん! シアタールームや視聴覚設備の使用は……」

 

「禁止です!」

 

「で、データクリスタルで小説……いや、学術論文を……」

 

「禁止です!」

 

 取りつく島がない。

 タブラは両手の平を、親指が上になるよう差し出したポーズで固まった。

 その様を確認したモモンガが「うん! 効果大だぞぉ!」と頷くが、この様子の一部始終を目撃したギルメン達は、「あ~あ……」とタブラに目をやる。

 タブラは多趣味であるが、その中で映画鑑賞や書籍閲覧は大きなウェイトを占めていた。それを一ヶ月も禁止されるのは確かに辛いだろう。彼を知るギルメンは、皆がそのように感じていた。 

 無論、ギルド長命令に絶対服従する義務はないのだが、真っ当な理由で下された決定なら従わなければならない。何故なら、皆で「モモンガさんが相応(ふさわ)しい」と就任させたギルド長に対し、無闇に逆らうのは……ナザリック内での世間体が悪いからだ。

 

(ぐぬぬ……。客観的に見て、今回の私はやり過ぎだった……気がするし。ここで逆らうと他のギルメン達から不興を買う。しかし、一ヶ月……一ヶ月も映画断ち……。は、発狂ゲージが振り切れてしまうかも! だ、誰か……)

 

 ギルメンの誰かが同情して助け船でも出してくれれば、多少の緩和ないし減刑があったかもしれない。しかし、救いを求めたタブラが視線を巡らせると、周囲のギルメンらにタブラを助けようとする気はないように見えた。

 

「乗っかった俺達も悪いっちゃ悪いけど、事前に茶釜さんを説得するとか……計画性があるのは……ねぇ?」

 

 弐式が呟き、それに対してたっちやウルベルトらが頷いている。

 

(駄目か~……。ウルベルトさん、私を隠れ蓑にして逃げたな~……とほほ……)

 

 タブラは肩を落とした。

 かくしてホラー愛好家、タブラ・スマラグディナの『映画及び書籍断ち一ヶ月』が確定する。

 当人にとって、効果的な精神的ダメージが発生するペナルティ。それを考案したモモンガに対し、各ギルメンは「やっぱり、モモンガさんを怒らせるとヤバいんだな。自分は気をつけよう」と再認識するのだった。

 なお、このペナルティにより精神的に不安定となったタブラは、また新たな騒動を引き起こすのだが……それは後日の話となる。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「他の皆さんも、俺のことであまり色々するのは控えてくださいね? これを言うのは二回目ですけど、大事なことですから! じゃあ、後片付けの再開、よろしくお願いします」

 

 モモンガの指示により、ギルメンらが「了!」と応じて行動に移った。タブラがよろめいているようだったが、モモンガは心を鬼にして無視を決め込んでいる。

 そうして数分経たないうちに、会議室内の机椅子配置が元どおりとなった。

 

「さて……皆さんは、すでに御存知(・・・・・・)かと思いますが……」

 

 皆が席に着いたのを確認したモモンガは、サラッと嫌味を言っている。この切り出しにギルメン達は背筋を伸ばし、真面目な表情となって聞き入った。

 現時点、長い会議テーブル端の一辺にモモンガが座り、彼から視て右手前からたっち・みー、ぶくぶく茶釜、ペロロンチーノ。左手前からウルベルト・アレイン・オードル、タブラ・スマラグディナ(ぐったり脱力中)、弐式炎雷が席に着いている。

 

「聖王女からの亜人討伐依頼ですが、俺としては引き受けようかと思っています。まあ、聖王女に良いところを見せたい気持ちがあるのは否定しませんが……」

 

 一度説明を中断したモモンガは、皆を見回してから説明を再開した。

 

「合流ギルメンの人数も増えてきたことですし、この辺りで一度、大軍を相手に大暴れしてみたいんですよ。みんなで、それも本来の姿で!」 

 

 この提案を聞き、ギルメン達は顔を見合わせた。

 転移後世界に来てから、カルネ村以外ではモモンガ達が異形種であることを大っぴらにはしていない。一つには敵性ユグドラシル・プレイヤーに発見されないため。更に言えば、人類にとって異形種は恐るべき存在であり、正体を知られれば敵対行動を取られることが予想されるためだ。

 

「モモンガさん……」

 

 たっちが挙手する。

 

「お気持ちはわかります。みんなと大暴れするのは賛成です。しかしですね、亜人相手だと全力戦闘は瞬殺で終わりますから、大きな手加減は必要でしょう。更に言うと、本来の姿に関する情報開示……これは、そのままやっちゃうんですか? 聖王女達が警戒すると思うんですが?」 

 

 たっちの疑問は、他のギルメン達も同様らしい。各自、頷いているのが見える。

 モモンガは大きく頷くと机上で肘を突き、手指を組み合わせた。

 

「普通ならそうでしょう。しかし、ここに一つのストーリーを組み込みます」

 

「ストーリー?」

 

 質問者であるたっちが首を傾げたのを見て、モモンガは自案を述べ出す。

 

「異形種の姿は……俺達の正体じゃないことにすればいいんですよ」

 

 

◇◇◇◇

 

 

 半時間が経過した頃。

 モモンガ達は最初の会議室にて、再びカルカ達と対面していた。

 たっち、ウルベルト、茶釜、モモンガ、ペロロンチーノ、弐式の順で座り、モモンガの対面にカルカ、カルカの右側にレメディオス、左側にケラルトが座っている。

 アルベド、デミウルゴス、セバス、ルプスレギナといった(しもべ)は、モモンガ達の後ろで待機。タブラに関しては≪転移門(ゲート)≫でナザリックに帰還している。

 

「帰ったら映画……は見られないんでしたね……」

 

 そう言って暗黒環の中に消えたタブラの背からは、何とも言いがたい哀愁が漂っていた。

 モモンガは胸が痛んだが、タブラの自業自得なので心を鬼とし、そのまま見送っている。

 

「さて……おいとまする前に依頼の件について回答しておかなければ……と、聖王女様のお時間を頂いたわけですが……」

 

 そうモモンガが話し出すと、何やらやつれ気味だったカルカの目に力が入った。

 

「本当ですかっ!? モモン殿!」

 

(急に元気になった! 期待されてるんだな~っ! でも、カルカさんが落ち込んでる様子だったのは、何かあったんだろうか?)

 

 カルカが落ち込んでいたのは、ケラルトによる説教の結果である。説教開始前のケラルトは「数分で済ませる」と言ったのだが、最終的に数分では済まなかったことで、カルカは想定以上の説教時間により追加ダメージを(こうむ)っていたのだ。しかし、モモンガの言葉で少し気分を持ち直したらしい。今はキラキラした瞳でモモンガを見ている。

 

(落ち込まれているよりは断然いい。さて、依頼の件だが……)

 

 カルカからの依頼……亜人大集団の討伐協力については引き受ける方針だ。

 ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』は、虐げられる異形種の保護を目的として結成された。亜人も広い意味では異形種なので、保護の対象と言える。しかし、相手側で敵対的であったり、利害関係で対立した場合は……保護の対象外だ。

 それに、基本的にモモンガ達は『皆で暴れたい』のである。多少、報酬が物足りなくとも、チーム漆黒の面子を潰さない程度であれば気にすることはないだろう。

 なお、他のギルメンには事前に<伝言(メッセージ)>で連絡し、了承を得ている。

 

「ご依頼につきましては、承ろうと考えています。しかし、相手はあまりにも多くの亜人……。危険は大きいと考えますので、我ら『漆黒』の秘策にて対応したいのですが……」

 

 ここでモモンガは、悩んでいることが見て取れるような……そんな表情を作った。一方、依頼を引き受けると聞いたカルカは喜んだ様子で、机に手を突き腰を浮かせている。「本当ですか! ありがとうございます!」そんな言葉が出かけたのだろうが、モモンガの表情を見て口をつぐんだ。

 カルカは一時停止したが、その左側で座るケラルトは一瞬目の端でカルカを見た後に、モモンガへ質問を投げかけている。

 

「その秘策だけど、何か制限でもあるのかしら?」

 

「制限……。そう、制限と言えば制限ですね。もっとも、命を代償にするとかではなく、我らの風聞が悪くなるかもしれない……そういった制限ですね」

 

 モモンガは説明を続ける。

 チーム漆黒は、南方から来た冒険者集団だ。

 聖王国や王国に帝国、そういった地域では知られていない戦い方や秘術などがあり、その内の秘術に関するものを今回使用する。

 

「ケラルト様は、シャーマニック・アデプトというクラスを御存知でしょうか?」

 

 聞かれたケラルトは、軽く握った拳を口元に当てて黙り込んだ。どうやら、脳内知識を検索しているらしい。

 

「確か……入れ墨に関連する精霊か何かを憑依させて、一時的に身体能力を向上させる……とかだったかしら? 他にも使用方法はあるようだけど?」

 

「つまりは、そのようなものです。大きく違うのは、肉体を一時的に異形種へと転化させ、異形の力を得て戦闘力を増大させるというものですが……」

 

「そんな話……聞いたことがないわ……」

 

 カルカが呆然とした口調で呟き、カルカとレメディオスが驚きの表情で顔を見合わせている。

 そして、腰を下ろして座り直したカルカがモモンガを見た。そこには浮かれた様子が微塵も無く、聖王女としての威厳のようなものが感じられる。

 

「では、モモン殿は……どのような異形種になると?」

 

 その声は固く厳しいものだ。が、モモンガは肩をすくめ、困ったような笑みを浮かべて言う。

 

「私の場合は、『死の支配者(オーバーロード)』と言いまして、エルダー・リッチの上位種のようなものですね。人間からアンデッドに変わりますので、装備なども専用の物に変わりますが……」

 

「それを……今、見せていただきたいのですが……」

 

 このカルカの要望を聞き、モモンガは笑みの形で細めていた目を僅かに見開いた。

 両側で座るギルメン達も、表情を硬くしている。もっとも、それは演技であって、カルカ達から「じゃあ、やってみせろ」と言われるのは想定の範囲なのだ。

 

「かまいませんが……。見た目がモンスターのようだからと言って、いきなり攻撃したりしないでくださいね?」

 

「もちろんです! ケラルトもレメディオスもわかりましたね? レメディオスも!」

 

「あの……カルカ様? どうして私だけ二回言われたのでしょうか?」

 

 レメディオスが頬を膨らませ、ジト目でカルカを見ている。その視線をカルカは受け止めたが、それも一瞬のことで、すぐにモモンガへと目を戻していた。

 

「モモン殿。お願いします……」

 

「承知しました。それでは……」

 

 モモンガは「カルカ様、私の話を……」「ごめんなさい、あとでね~」という声を聞き流しながら、人化アイテムの効果を解除する。 

 次の瞬間、漆黒のローブの魔法詠唱者(マジックキャスター)モモンの姿は、グレート・モモンガ・ローブ等、神器級(ゴッズ)アイテムで身を固め、肋骨の内側に巨大な赤宝球を有するスケルトン……死の支配者(オーバーロード)へと変貌する。

 これを目の当たりにしたカルカ達は表情を硬くするが、ギルメン達は「お~、ギルド長、かっくい~!」と目を細めたり、頷いたりしていた。後方で並ぶ(しもべ)達に到っては、誇らしげに胸を反らせている。

 

「とまあ、こんな感じですけど。どうです? 怖いとか、やっぱり駄目だとか……そういうのはありますか?」

 

 敢えて威厳や威圧感を出さずにモモンガが言うと、カルカ達はホッとした様子を見せた。

 

「ええ、ええと、驚きましたけど、そうですね……。確認しますが、モモン殿はアンデッドの力で強くなって戦うと? その姿で?」

 

「そのとおりです。種族特性で出来ることが増えますし、使用可能な魔法の位階が上昇したりしますね」

 

 転移後世界の人間に対し、未知であろう死の支配者(オーバーロード)の特性を語るのは、愚かな情報開示だと言えるだろう。仮にモモンガが一人で転移してきたのなら、手の内を晒すことを危険視して口に出さなかったはずだ。それ以前に、人化した姿と異形種の姿を関連づけることさえしなかったに違いない。

 だが、モモンガは何の気負いもなく言ってのけた。

 それは、事前にギルメン達に相談し、了承を得ていたからでもあるが、やはり十人を超えるギルメン達が共にあることが大きい。大きな自信が生まれるし、ユグドラシル時代の感覚が甦ることで「これくらい知られても問題ない」と考えてしまうのだ。

 

(さて……カルカさん達は、どう出るかな?)

 

 モモンガは死の支配者(オーバーロード)の姿のまま、暗い眼窩の中で赤い灯火を揺らめかせている。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 ローブル聖王国の聖王女・・・・・・カルカ・ベサーレスの脳内では混乱の嵐が吹き荒れていた。

 好意を持って狙っていた男性が、異形種の姿と力を使って戦うと言うのだ。

 

(……本当……なのかしら?)

 

 さすがのカルカも、色目や欲目だけで判断を誤るほど浮かれてはいない。

 今、モモン……モモンガが語った、「必要に応じて異形種化する」という説明。これが本当なら、一風変わった異能者で済むが、話が逆だった場合……目の前に居る冒険者チーム漆黒は、ほぼ全員の正体が異形種だということになる。

 だとすれば、どうなるか。

 カルカは考えた。

 

(まず、亜人大集団の討伐という『国益』の観点から考えると……タチやアレインが、私が知るよりも更に強くなった状態で戦うことになるわ。それは、聖王国にとって良いことよね……。それに……)

 

 当初心配していた、一冒険者チームを指名して国難に立ち向かわせることの危険性。この危険性というのは、漆黒に多大な損害が生じるのでは……という意味だが、それが大きく軽減されることだろう。

 では、漆黒全員が異形種化して戦う場合の問題点はなんだろうか。

 それまで人間だと思っていた漆黒のメンバーが、人間ではなかった……となると、彼らを頼ったり親しくしていた者達にとっては、心理的ダメージが大きいと思われる。

 

(私が動揺しているくらいだし、彼らが人間ではないことで手の平を返して、批判したり蔑んだりする者が出るでしょうね……。聖王国としてフォローするのは当然として、私達……この私は……どうなのかしら?)

 

 考えている内に気が落ち着いてきたカルカは、よく知らない者達の心証ではなく、自分がどう思っているかを分析し始めた。

 

「あの、モモン殿? 今すぐに、『元の姿』に戻れますか?」

 

「え? あ、はい」

 

 モモンガが一瞬で人化する。

 元の気優しそうな青年が出現し、カルカは内心でホッとした。

 カルカが見た限りでは、異形種になることと元の姿に戻るにあたって特別の困難があったりはしないようだ。

 

(ならば別に……良いのではないかしら?)

 

 それこそ、さっきモモンガが言ったように『シャーマニック・アデプト』みたいなもので、一時的に姿を変えるだけのこと。そう考えてしまえば、不思議なくらいモモンガに対して恐怖心が湧かなかった。

 であるならば、変身後の姿がアンデッドだろうと何だろうと問題は無い。むしろ、強大な異形種の力が人の意識を持って味方してくれるのであれば、心強いと言うべきだ。 

 

(聖王国が異形の力を……という外聞が悪い面もあるだろうけど、今回の件は、こちらから依頼したことだもの。私が全力でモモン達を守らなくちゃ!)

 

 カルカは一瞬目を閉じると、少し多めに息を吸う。

 そして静かに吐き出しながら正面のモモンガを見た。

 モモンガはジッとカルカを見ている。異形の姿を目の当たりにしたカルカが、どういった反応を示すか観察しているかのようだ。

 

(いるかのようだ……ではなく、間違いなく観察している。私のことを試しているのね……。……私が受け入れることを、少しは期待してくれているのかしら? だと良いのだけれど……)

 

 異性として意識している男性からの視線に対し、カルカは場違いな感想を抱く。今は聖王女として思案していたはずだが、どうにもやはり自分は浮かれているらしい。

 

「フフッ、なんだか……ねぇ」

 

 自然に出た呟きと笑み。

 それは自嘲した笑いか、自身に可愛げがあると思ったことによる笑みか、カルカにはわからなかった。わからないまま、カルカはモモンガに回答する。

 

「モモン殿は、モモン殿ですから。怖いと言うよりは頼もしいですね」 

 

 そう言ったカルカの笑顔は、『清廉の聖王女』そして『ローブルの至宝』と呼ばれるに相応しいものだった。

 




 というわけで、カルカはモモンガ・ハーレム入りに向けて大きく前進しました。
 『集う至高』では、カルカ様には幸せな人生を歩んでいただく所存です。
 思ったよりカルカに行を割いてしまいましたが、その辺はノリと勢い。
 本作のモモンガさんは、気合いと根性とギルメン愛で人間性を維持(たまに異形種寄りになるけど)してますので、喧嘩を売らずに接していれば、カルカの理想のお婿さん……じゃなかった理想の旦那様なのです。たぶん。
 カストディオ姉妹に関しても、まあ心配なしということで。
 

 カルカ周りが話固まった感じなので、決戦前にアルベドとできれば茶釜&ルプスレギナにも行を割きたいですね。
 ヒロインをアルベドだけでやってたら、もうちょっと楽だったんでしょうけど、その場のノリでヒロインを増やすもんじゃないですね。
 エンリとニニャに関しては、最終話まで出番があるかどうかは未定です。
 最終話の『各キャラのその後』みたいな感じで名前が出るかな。

 今回、オバロ第4期の第3話を見ながら投稿作業をしています。
 ジルクニフ、可哀想……。笑いの後で目頭が熱くなりました。
 本作のジルクニフは、ナザリック地下大墳墓を放置中です。
 デミウルゴスの監視下ではありますが……。
 

<誤字報告>

桜一郎さん、D.D.D.さん、佐藤東沙さん、
煙草呑みの似非紳士さん、まるまる777さん

 毎度ありがとうございます
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