オーバーロード ~集う至高の御方~   作:辰の巣はせが

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第106話

「モモン殿は、モモン殿ですから。怖いと言うよりは頼もしいですね」

 

 そう言って微笑むカルカ。その彼女を見たレメディオスとケラルトは、顔を見合わせた。

 カルカ・ベサーレスは聖王国の聖王女。

 対するモモンは、人間の方が正体(と嘘をついている)とはいえ、変身した姿はアンデッド。そして、その姿で振るう力も、不死者のそれであるらしい。

 この二人の交際が周囲に受け入れられるかと言えば、極めて難しいというのがケラルトの見解だった。

 

(でも、カルカ様は良く考えた上でのことなのよね? モモンが異形種……不死者の力を使えても、自分の気持ちを貫く障害にはならないって……。事情を知らない者達の声すら気にならないって……。じゃあ、私と姉さんは……どうなのかしら? アレインとタチ、この二人の姿が異形種に変わったら……)

 

 ケラルトはニコニコしているカルカから視線を外すと、机上へと向け直す。

 そして一息吸うと、斜め前のアレイン……ウルベルトを見て言った。

 

「アレインは、どういった異形種になるのかしら?」

 

「私ですか?」

 

 ウルベルトは、ウルベルト・アレイン・オードルとして……つまりロールの入った口調で言い、自分の顔を指差した。

 

「山羊頭の悪魔と言ったところでしょうか。見てみます?」

 

「見たいわ……」

 

 硬い口調でケラルトが頷くが、それを見たウルベルトは(普段の不機嫌そうな表情や、他人を小馬鹿にしたような態度さえなければ)女性受けしそうな顔を僅かにほころばせる。

 彼を良く知るモモンガ達にすれば、「お高い課金アイテムを、敵性プレイヤーから強奪したときぐらいに嬉しそう!」という感想を抱くのだが、これはウルベルトの『嬉しそう』の中では上位に入るものだ。

 

(おお~、踏み込んできたな! さすが、俺が惚れ……げふんごふん! 見込んだだけのことはある!) 

 

 一方、ウルベルトは、モモンガ達の見立てよりも嬉しさを感じている。

 元の現実(リアル)において、普段の言動や態度から異性に言い寄られたり、惚れられたりすることのなかった彼であるが、腹黒い語り合いに興じられたりと気が合う女性と言えば、このケラルトが初めてなのだ。しかも、ケラルトはかなりの美人である。

 

(強いて言えば、茶釜さんが気が合う感じなんだけど、彼女、怒らせたら俺より怖いし……。そもそも、モモンガさんに気が向いていたし……。モモンガさんか~……モモンガさんねぇ……)

 

 皆の調整役であるギルド長、モモンガは、ユグドラシル時代……ウルベルトにとっては自分が引退して疎遠になるまで人柄が良かったと記憶する。実際、転移後世界で合流してからも変わらずに人柄が良い。そんなモモンガは、女性ギルメンなどから人気があった。もちろん男性ギルメンからもだ。その意味でモモンガは、ウルベルトの嫌う『勝ち組』に分類されていたが、彼の家庭的な境遇や、過酷な就労状況がウルベルトに共感を持たせていたのである。

 嫉妬せずに済んだと言っていい。

 

(まあ、昔のあれこれは、もういいか……。俺は俺で、今はケラルトと良い感じだしな……)

 

 ウルベルトは小さく肩をすくめ、ニヤリと笑った。

 

「じゃあ、お見せします……よ」

 

 次の瞬間、人化を解いたウルベルトは山羊頭の悪魔へと変貌する。

 黒い衣装とシルクハット、それにマント。シルクハットのつばには懐中時計があしらわれていた。

 大災厄の魔、ウルベルト・アレイン・オードル。

 その姿を目の当たりにした、室内の反応は大きく分けて三つだ。

 モモンガを始めとしたギルメン達は、「ウルベルトさん、格好いい!」や「モモンさん、褒めたら調子に乗りますよ?」といったもの。

 ギルメン達の後ろで並ぶ(しもべ)らは、「おおお! 我が創造主! 神々しいお姿です!」というデミウルゴスの胸中の思いを筆頭に、皆が感動しているようだ。

 では、三つ目の反応……ケラルト達はどうだったか。

 カルカは「悪魔!? でも、変身前を見ているから、それほど危険な印象はないわね……」と落ち着いている。

 レメディオスは「悪魔! む~ん、強そう……かな? よくわからないな……アレインが強いのは知ってるけど、やっぱり人は見た目じゃないのか?」と値踏みするような視線をウルベルトに向けていた。もっとも、それは嫌悪感のこもったものではなく、腕試しや試合の相手を見る目である。

 このように呟きには二人の個性が出ているが、共通しているのは否定的でないことだ。聖王国の聖王女や聖騎士団のトップの見解として驚くべきことであったが、これは冒険者アレインとして活動していたウルベルトと、以前より面識のあったことが大きい。

 事前に人柄を知っていて、好感を抱いているというのは重要なのだ。

 さて、カルカ、レメディオスときて、残るはケラルト。彼女とウルベルトの仲が良いのは皆が知っている。なので、異形種化した姿を目の当たりにした反応が、最も注目されるところであったが……。

 

(どうなる……かな?)

 

 表情のわかりにくい山羊顔で、しかし内心では額に汗する思いのウルベルトがジイッとケラルトを見た。

 ケラルトに怖がられたり気持ち悪がられたらショックだな……と思う一方、いい歳して何を十代の学生みたいなこと考えてんだ……と、自分に呆れていたりもする。その背後では人化したデミウルゴスが後ろ手に手を組んで立ち、「無礼な発言は許しませんよ?」と剣呑な気配を発していた。

 

(恐れ多くも、我が創造主様に色目をつかっているんです。ウルベルト様の御意思を尊重し、多少のことには目をつむる気ではいますが……)

 

 事と次第によっては、内密に調教……もとい、教育することになるだろう。

 同じ部屋にデミウルゴスが居ることによって、ケラルトの身の安全はかなり危ういことになっていた。

 もっとも、そういうデミウルゴスの様子は他のギルメンら全員が気づいており、何かあったら全員でケラルトを守るつもりであったし、デミウルゴスには改めて口頭注意するつもりである。

 そして、ケラルト。

 彼女は瞳を潤ませると、両手の平を合わせるようにして口元を覆う。

 

「か……可愛い!」

 

 ……。

 

(((((な、なんだってぇええええええ!?))))) 

 

 ウルベルト以外、居合わせたギルメン全員が同じ叫びを心であげた。

 

「た、確かに、山羊は見ようによっては可愛いですが……。茶釜さん、どう思います?」

 

「モモ……ンさん。私も同感だけど……二足歩行の服着た山羊を見て、初見で可愛いとか……。彼女、やるわね!」

 

 腰を浮かせたモモンガと、彼の右隣で座る茶釜が囁き合っている。これを聞いたモモンガの左方……ペロロンチーノと弐式は頷くことで同意しているようだ。

 

「ふふ~ん」

 

 ウルベルトが「さすがモモンさん達だ。よく解っている」と得意そうに、そしてケラルトから「可愛い」と言われたことについては嬉しそうに笑みを浮かべる。今は山羊顔だから、けっこう怖い笑顔なのだが……これもまた、ケラルトには可愛らしく見えているらしい。

 

「うは~……。ね? 撫でてもいい?」

 

 などと発言するも、カルカから「後にしなさい。私も撫でるから……」と叱られていた。

 以上、聖王国側女性陣の反応にウルベルトは御満悦だったが、たっちの「一見すると草食動物ですしね~……。いいですね~、見た目が哺乳類というのは……」という、ふて腐れたコメントにトゲを感じ、眉間に皺を寄せる。頭には少々血が上ってもいた。

 だが、いつものように口喧嘩を始める前に、たっちのことが心配になる。

 自分は如何してしまったんだ……と思うが、ここは聞かずにはいられない。

 

(「俺は可愛いって言って貰えたけどさ……。お前、どうすんのよ? 虫だろ? 草食うのは同じでも、女ウケしないんじゃないか?」)

 

(「ぐう……」)

 

 山羊顔のウルベルトに対し、人化した状態のたっちが呻いた。

 そう、ウルベルト・アレイン・オードルの正体は山羊の悪魔で、たっち・みーはバッタ……虫系の異形種なのだ。

 一応、カルカやカストディオ姉妹に対しては『人間が異形種の力を身に宿して変身する』設定で通しているが、同じ草食系とはいえ、哺乳類と虫では女性受けが大きく違うのではないか。そうウルベルトは思い、たっちのふて腐れた口調も、そこに原因があった。

 たっちとウルベルトは黙したまま視線を合わせ、同時にレメディオスを見る。

 レメディオスは二人からの視線を受けてキョトンとしていたが、?マークを浮かべつつもニパッと笑みを返してくる。

 

「アホ可愛いという奴ですかね。たっちさん、これは萌えですよ!」

 

 ここには居ないタブラの声が聞こえた気がした。

 たっちは「言いそうだな~」と思いつつ咳払いする。

 

「アレインさんが変身したことですし……。レメディオスさん? 私の変身した姿……見ます? バッタ……なんですけどね……」

 

 自分的には格好良いが、女性には嫌がられそう。

 そう考えるたっちの口調は重い。

 背後で立つセバスに対しては、主として情けない物言いと姿を見せてしまっているな……と申し訳ない気分になる。

 たっちはキャラメイク時にもっと人間寄りか、せめてウルベルトのように哺乳類系にしておけば良かったと、一瞬、後悔していた。

 

(いや、後悔はしないぞ! バッタの改造人間は、本当に格好いいから! 悲哀も込みで!)

 

 ユグドラシルにおいて、たっちが選択した種族は昆虫系の異形種なので、『改造人間』ではない。だが、そこは心意気の問題だ。

 心の中で一瞬だけ気分は盛り上がったものの、それはすぐに萎み込んでいる。

 肝心なのはレメディオスの反応。

 それを思い出したからだ。

 たっち自身、レメディオスを強く意識していることは自覚しており、それだけに彼女から拒絶されることは恐ろしかった。

 

(妻子に逃げられてから、そんなに時間が経過したわけじゃないし。レメディオスにまで嫌われたら……。ショックで一〇〇年ほど、ナザリックの自室に引き籠もるかもしれないな~……)

 

 そうなったら、一日二十四時間、ユグドラシルに入り浸って……モモンガさんに寂しい思いをさせなくて済むかも……とまで考え、たっちは正気に返る。

 今、自分が居るのは転移後世界だ。元の現実(リアル)ではない。

 

(現実逃避している場合じゃないか……)

 

 目の前には親しくなった……と、たっちが考える女性、レメディオス・カストディオが居る。彼女は……唸っていた。「うう~ん」という声が聞こえてくる。

 やはり、虫人間という見た目がアウトなのだろうか。

 たっちは両肩に重しを載せられたような気分になったが、やがてレメディオスは唸るのを止め、腕組みしたまま、たっちを見返した。

 

「わからない! やはり、実際に見てみないとな!」

 

 クワッと言い放つ姿は、女性であっても実に男らしい。

 これを見たたっちは眩しげに上体を反らしたが、やがて奥歯を一度噛むと目に力を入れた。

 

「いいでしょう。では、私の本と……じゃなかった、変身した姿をご覧に入れようじゃないですか」

 

 居合わせたギルメン達から「今、本当の姿とか言いかけたな?」といった視線が飛んでくる。それを感じ取ったたっちは、額に汗しながら異形の姿をさらそうとした。

 が、その直前でレメディオスに話しかけている。

 

「それで、ですね? できたら怖がったり気持ち悪がるとか、そういったのは無しの方向で……」

 

「いいから早くしろ」

 

「はい……」 

 

 ピシャリと言われたたっちが項垂れた。

 と同時に、室内にはひりつくような殺気が充満する。発生源は、セバス・チャンを始めとしたナザリックの(しもべ)らだ。

 今のやりとりにおけるレメディオスの発言……至高の存在に対しての無礼な物言いは、ナザリックの(しもべ)的にとって地雷発言も良いところ。到底、容認できるものではなかったからだ。

 まず、アルベドやナーベラルなどは、強い殺気を放っている。目つきの怖さもエンリ・エモットあたりが見たら卒倒しそうな迫力だ。

 

「クックック、おやおや……これはこれは……」

 

 小さく笑いながら、指で眼鏡位置を直すのはデミウルゴス。彼も殺気を放つ(しもべ)の一人だ。普段と変わらぬ笑みのようだが、表情に浮かぶ影が濃さを増して怖いことになっている。その怖さたるや、横目で見たモモンガが思わず肩を揺らして精神を安定化させたほどだ。

 そして、そういったモモンガの様子を、間に茶釜を挟んで左側で居たウルベルトが見ており、声こそ出さないものの「え? 何? 俺の後ろで何が起きてるの!?」と狼狽えていた。

 このように、(しもべ)達は怒気や殺気を放っていたが、中でも最も強い殺気を放った者が居る。

 たっち・みーの背後で立つ執事、セバス・チャンだ。

 

(我が創造主である、たっち・みー様に対しての乱暴な物言い……。許せるものではありません。万死に値するでしょう)

 

 普段のセバスであれば、『至高の御方』に対する不敬に関しては怒りを覚え、度が過ぎれば殺処分を決意する。

 そう、普段のセバス(・・・・・・)なら、多少の無礼については『怒りを覚える』だけで済むのだ。

 にもかかわらず、『万死に値する』とまで思い到ったのは、レメディオスの不敬な物言いの対象がセバスの創造主、たっち・みーであったからである。

 ナザリックの(しもべ)にとって、自身の創造主に対する不敬は重い。それはモモンガ達、ギルメンらが思う以上に……。

 セバスとしては、速やかにレメディオスに飛び掛かり、誅殺したいところであった。だが、それをすれば創造主のたっち・みーを含む、『至高の御方』全員に恥をかかせることとなる。

 

「ふう~……」

 

 セバスは、すぼめた口から息を吐き、その煮えたぎる殺気を消した。

 ナザリックの(しもべ)として、至高の御方……創造主の面目を優先したのだ。しかし、セバスが思いとどまった理由はそれだけではない。先程からのたっち・みーの様子を観察し、レメディオスの言動をたっちが容認しているとセバスは読み取っていたのである。 

 

(聞けば、たっち・みー様は転移前の世界……『モトノリアル』で辛い思いをされたとのこと。あの女性がたっち・みー様の気を紛らわせるのであれば、私は目をつむるべきでしょうね……)

 

 こうしてセバスは不動の姿勢を維持した。たっち・みーの創造物(セバス)が行動に出ない以上、他の(しもべ)達もセバスにならって行動に出ることはない。

 レメディオスは九死に一生を得た形である。

 もっとも、そのことにまるで気がつかないレメディオスは、わくわくした様子でたっちの『変身』を待っていた。

 

「虫系の亜人というのはあまり見ないが、どういったものだろう?」

 

 レメディオスの呟きが聞こえ、その声色に嫌悪感などが感じられないことで、たっちはいよいよ覚悟を決める。

 

「では……」

 

 たっちは変身……ではなく、人化を解いて異形種の姿に戻った。

 出現したのは、白色基調の甲冑(魔法処理しているので体格の変化には自動対応)に身を包んだバッタの亜人。

 ヘルムは先に取っていたので、昆虫然としたバッタ顔が剥き出しとなっている。

 哺乳類である人間とは掛け離れた面相は、無機質かつ感情を読み取ることができない。

 たっちは、静まりかえった部屋の中、対面で座るレメディオスに話しかけた。

 

「ど、どうですかね? 変身してみましたが?」 

 

 本当は『元の姿に戻った』であるが、そうやって嘘をついていることを、たっちは心苦しく思う。

 

(だが、今はまだ黙っていよう! モモンガさん達とも相談したけど、こちらの正体については当分は黙ってた方がいいし!)

 

 事前に、そのように相談していたのだ。

 現状、ナザリックのギルメン達は『人間種の冒険者』を装っている。カルネ村のエンリなど、正体を知っている者などが一部存在するものの、一応、正体が異形種である件については内緒にする方針でいた。

 また、レメディオスを意識するたっちとしては、正体について徐々に情報開示するのは都合が良かったのもある。

 以上のような思惑の下、たっちはレメディオスに異形種としての素顔を晒したのだが、その反応は……。

 

「なんだ、格好いいじゃないか」

 

 下顎に手を当てて呟く声は、なかなかの好印象。

 

「格好いいと、そう思いますか!?」

 

 喜色多めの声でたっちが問うと、レメディオスは大きく頷く。

 

「見ようによっては甲冑のヘルムみたいだしな。知らないのか、タチ? 動物を模したヘルムを被る騎士は、それなりに居るんだぞ?」

 

 レメディオスは上機嫌だ。この様子を見たたっちは「いいぞ! 悪く思われてない!」と拳を握りしめる。だが、レメディオスの右隣のカルカ、そして左隣のケラルトは知っていた。

 

(ヘルムのことをタチに教えられたのが、嬉しかった?)

 

(それですよね~……)

 

 無論、たっちに対する好印象もあるだろうが、普段、他人から知識や情報を教わることの多いレメディオスにしてみれば、誰かに物を教える体験は嬉しかっただろう。

 カルカとケラルトは、胸を反らして満足げなレメディオスを生温かい目で見ていた。

 一方、たっちは胸を撫で下ろして脱力しており、その様子を見るギルメン達が囁き合うように感想を述べる。

 

「格好いいと言えば、格好いいのかしらね~。たぶん……。男衆は、そこんとこどうなの?」

 

 茶釜が誰に言うともなく呟くと、弐式が腕組みをして頷く。

 

「俺は見慣れてますし、バッタの改造人間が主役やってる特撮ドラマは、(たっちさんに)見せられてますから。格好いい……で、いいんじゃないですか?」

 

「そうですね。慣れちゃいましたね」

 

 ペロロンチーノが同意し、それを聞いたモモンガも頷いてみせた。

 

(そうだよ! そのとおり! たっちさんは、ヘルムを付けても取っても格好いいものな!)

 

 モモンガにとって、たっち・みーという男はずっと以前……ユグドラシルで助けられたときから格好いいのだ。

 異世界転移直前のたっちの悲惨な境遇と、転移後世界に来てからの精神的混乱については配慮が必要だと思う。だが、たっちなら乗り越えてくれると、モモンガは信じていた。

 一人のファンによる過剰な期待に思えるが、実のところ、たっちは立ち直りつつある。

 それは異世界転移後、しばらく続けていた冒険者生活が、ある種の療養となっていたこと。そして、レメディオス・カストディオとの交友がたっちの心を癒やしていたからだ。

 モモンガは、人化して照れ臭そうに頬を掻くたっちを見て、フンスと鼻息をふく。

 

(まだ少し不安定なところはあるけど、きっと大丈夫! たっちさんなら!)

 

 

◇◇◇◇

 

 

「ふ~ん、じゃあ聖王国からの依頼を受けるってことでいいんですね?」

 

 ナザリック地下大墳墓。

 その第九階層にある円卓で、冒険する考古学者スタイルの樹人……ブルー・プラネットが確認した。

 現在、モモンガ達、聖王国訪問チームはナザリックに帰還している。

 カルカ達に対し、異形種の姿を『変身している』ものとして見せた後、モモンガ達は王都の宿に行くと言い残して、城を出た。その後、適当な宿へ入ってすぐに<転移門(ゲート)>で移動したのだ。

 理由の大半は、他のギルメンと直接に会議をしたかったこと。残りの部分は、設備の良いナザリックで休みたいというもの。

 ちなみに、カルカ達は王城に滞在するよう引き留めたが、モモンガは「一介の冒険者が王城で寝泊まりだなんて恐れ多いですよ」と固辞している。

 

「一介の冒険者って……モモンさんは、実はアインズさんで王国の辺境侯じゃん」 

 

「弐式さん、そこは空気を読んで欲しいところです」

 

 そういった雑談を弐式としながら、モモンガは名残惜しそうにしているカルカ達に背を向けたのだった。

 こうしてナザリックに帰還した後は、留守番組のギルメンを呼んで円卓に集合。内容確認に近い事情説明をし……先程のブルー・プラネットの問いかけに到る。

 カルカ・ベサーレスからの要請である『亜人連合による襲撃への対処依頼』。これはブルー・プラネットにとって初耳ではなく、依頼を受ける前に<伝言(メッセージ)>で相談を受けていたことだ。

 無論、相談を受けたのはカルカ達との対談に居合わせていなかったギルメンも同じであり、全員が引き受けることについて了承している。

 故に、ブルー・プラネットが聞いたのは、単なる確認に過ぎなかった。

 

「ええ、そのとおりです。ブルー・プラネットさん」

 

 モモンガは、ブルー・プラネットに対して頷くと、円卓を見回す。現在、円卓にはモモンガの他、合流済みのギルメンが全員揃っていた。皆、異形種化してリラックスした姿をさらしている。

 それぞれの制作NPCは、創造主の椅子の後ろで待機しているが、アルベドとパンドラズ・アクターは、ギルド長……モモンガの席のやや後ろ、右肩側と左肩側に分かれて立っていた。

 二人の役割はモモンガの補佐。

 もっとも、ギルメンにはタブラやぷにっと萌えが居るので、アルベド達の役割は必要な情報の提示や、会議内容を把握して各NPCに説明することにある。

 

(さて、亜人連合と戦うとなれば……。やっぱり全員で出撃したいところだよな) 

 

 モモンガが思うナザリックの一大決戦。その相手として、亜人連合は物足りない存在だ。しかし、大軍相手ではあるし、転移後世界の人間を相手にするよりは歯ごたえがあるだろう。それに、将来的にビーストマンや、ツアーなどのドラゴン達を相手にすることを考えれば、亜人連合との戦いは『演習』として都合が良い。

 そうした事情や思惑から、ギルメン達は事前の<伝言(メッセージ)>の時点で『ギルメン全員出撃』に賛成している。

 よって、会議はどのように戦うか、誰と誰が行動を共にするか……が主な内容となった。

 各ギルメンから出た提案や主張を、手早く纏めたモモンガが最後に確認する。

 

「……では、最後に<大災厄(グランド・カタストロフ)>でしめる……ということでよろしいですか?」

 

 ギルメン達が頷いた。

 これにより、亜人連合との大戦では、ユグドラシルにおける魔法職最高位、ワールド・ディザスターの最強破壊魔法……<大災厄(グランド・カタストロフ)>が投入されることとなる。

 モモンガとしては、他のギルメンの見せ場が減ったり食われたりするので、<大災厄(グランド・カタストロフ)>は使用しない方向で行きたかった。しかし、ウルベルトが「現時点でのナザリック全力出撃ですよ!? 私の<大災厄(グランド・カタストロフ)>が炸裂しないで、他にどういった盛り上げ方があるんです? あるわけないですよ!」と力説したことで、押し負けたのである。

 もっとも……。

 

(使用タイミングを最後にして貰えて良かった。確かに目立つだろうけど、ほとんど死体を吹き飛ばすぐらいの出番しかないんじゃないの?)

 

 とモモンガは考えており、それはウルベルト以外のギルメンも同様である。

 敢えて指摘しなかったのは、戦闘開始直後にブッ放されて戦う相手が居なくなるよりはマシであるから。そして、今のウルベルトが御満悦であるからだ。

 

(まあ、ウルベルトさんも解ってて言ってるんだろうけど……)

 

 どうしても<大災厄(グランド・カタストロフ)>をねじ込みたかったであろう彼の心境を思えば、モモンガは何となくクスッとしてしまう。そこへウルベルトの視線を感じたので、モモンガは視線を逸らせつつ咳払いをした。

 

「そ、それでは続きまして……」

 

 亜人連合の襲撃時期を操作できないか。

 これについてモモンガ達は話し合った。

 デミウルゴス情報では、相手方はヤル気満々なので、後は準備が整い次第押し寄せてくるであろう……とのこと。

 

「多少は裏から手を回して襲撃を早めたり、先延ばしにしたりとか、そういうのはできるんだよな?」

 

 半魔巨人(ネフィリム)……武人建御雷が挙手しつつ発言した。

 早めたり先延ばしにしたりと言っているが、建御雷自身は早めて欲しいらしい。

 彼に言わせると、元から押し寄せてくるつもりの連中なんだから、遠慮なく叩き潰したいし、ジリジリ待つのは性に合わない。何ならこちら側から乗り込んでもいいくらいだ……とのこと。

 

「ことさら人間の側に立つもんじゃねぇが、亜人の方から向かってくる以上は容赦しねーよ。なぁ、コキュートス?」

 

「オッシャルトオリデス! 武人建御雷様!」

 

 鼻息の荒い建御雷と、その背後で冷気の息を噴出させるコキュートス。

 モモンガ達は息の合った二人を見てホッコリしていたが、建御雷の質問……襲撃時期を操作できるかどうかについて議論ないし回答をしなければならない。

 

「デミウルゴス……」

 

 会議テーブルを指で叩きながら、ウルベルトが(しもべ)の名を呼んだ。

 その斜め後ろで立つデミウルゴスは、人差し指で眼鏡位置を直してから発言する。

 

「可能でございます。すでに私の息のかかった亜人……それも各氏族の幹部クラスを確保しておりますので、氏族会議等での議決を操作することは造作もないことです」

 

 この場合の議決操作とは、襲撃するか止めるかではなく、襲撃する時期の操作だ。

 おお……という声が、居合わせた(しもべ)のみならず、ギルメン達からもあがる。モモンガも声をあげた一人だ。

 

「そうか……そうか、よろしい。さすがはウルベルトさんのデミウルゴスだ。見事……と言っておこう」 

 

 そう言ってモモンガがウルベルトを見ると、ウルベルトは黙したまま頷いた。クールを気取っているようだが、口元が笑み崩れているので喜びを隠せていない。

 一方、モモンガに褒められ、創造主の満足を得たデミウルゴスは、満面に笑みを浮かべて尻尾を振っている。

 

(あっちこっちで仲のよろしいことで……)

 

 モモンガは、人化しているときの獣王メコン川ばりに口の端を持ち上げ、苦笑した。

 異世界転移した直後の頃なら、「どうせ俺のNPCは、アイツだしな……」と、黒歴史扱いしたパンドラズ・アクターについて嘆いたことだろう。他のギルメンが製作したNPCを羨んでもいたはずだ。

 だが、そうはならない。

 今のモモンガは、語り合ったり共に同じ湯船に浸かったりと、付き合いを重ねることでパンドラズ・アクターを気に入っている。いや、気に入り直しているのだ。

 

(今や、自慢の『息子』だしな~……)

 

 こう思えるようになったのは、合流したギルメンらがパンドラについて面白がりこそすれ、馬鹿にしたりしなかったことも大きい。そうであるからこそ、落ち着いてパンドラを見直す余裕も生まれるわけで……。

 モモンガは、左後方で立つパンドラズ・アクターを見た。

 黄色がかった軍服姿のドッペルゲンガー。

 パンドラは、モモンガの視線に気づくと表情のないタマゴ顔をククッと傾ける。

 

「いぃかがなさいましたか! んん、なぁィンズ様!」

 

 独特の口調で問いかけつつ、その場でクルッと回り、ポーズを取ってビシッと静止。

 実にウザい。

 が、それもまあ許容範囲……いや、我慢できる範囲だ。

 モモンガはギルメンやNPC達の「ああ、またやってる」といった視線を笑い飛ばすと、パンドラを軽く睨んだ。

 

「そういう、落ち着きのない行動は感心せんな。ただ、ちょっと見ていただけだ。気にせずにいろ」

 

 睨みはしたものの、口調としては半笑い。なので、パンドラも怒らせた等の認識はなく、その場で敬礼した。

 

「承知しました! ンアィンズ様!」

 

「敬礼は……まあ、いいか……」

 

 ハァと溜息をつく。これは子供のイタズラを放置する、親の心境なのかもな……と、モモンガは肩をすくめ、今度は右後方のアルベドを見てみた。

 タブラ・スマラグディナが、各ギルメンから情報を集めて『モモンガ好み』でデザインしたというNPC。そして、元より自分を愛するように設定されたサキュバス。

 現在は数人いる交際女性の一人で、その中の筆頭格とも言えるアルベドだが、その彼女は、どんな表情で居るだろうか。

 

(呆れ顔か? それとも俺みたいに苦笑しているかな? どっちでも美人には違いないんだろうけど……え?)

 

 少しの好奇心と共に振り返ったモモンガは、その動きをぎこちなく止めた。 

 アルベドは心ここに有らずといった様子で、視線を泳がせていたのである。

 それも一瞬のことで、彼女はフワリと微笑み「いかがなさいましたか?」と問いかけてきた。対するモモンガは、パンドラズ・アクターの時と同様の言葉を返している。

 

「い、いや、ちょっと……その、見ていただけだ。気にしないでよろしい……」

 

 パンドラの時とは違って、途惑いの色が濃くあったせいか、アルベドは心配そうに話しかけてきた。

 

「あの、アインズ様? (わたくし)、何か到らないことが……」

 

「いやいや、そういうことは一切なくてな!?」

 

 座ったまま狼狽えるモモンガと、状況は掴めずに心配し続けるアルベド。

 ギルメン達は議論等を止めて「モモンガさんが、アルベドとイチャイチャしてるぞ?」とか「俺も、部屋に戻ったらナーベラルと……」といった具合で話し合ったり、予定を決めたりしていた。

 中でも、頭にアウラ、膝にマーレを乗せたぶくぶく茶釜と、白獅子の獣人……獣王メコン川の後ろで立つルプスレギナは、視線を交わして頷き合っている。

 この後、二人は他の者には内密で会い、とある企みを語り合うのだが……アルベドへの対応で一杯一杯のモモンガは、この二人の姿は目に入らないのだった。

 




 前の投稿から間隔が開きまして……。
 仕事や実生活で色々あるので、まあ遅れがちなのです。

 レメディオスだけ、「バッタとかキモ!」という方向にして、たっちさんを本格的な鬱に追い込もうかと考えてたりしました。
 たまには原作風味を盛り込むのも良いかな……と思ったのですが、本作は「モモンガさんがギルメンとイチャイチャする」のが主旨なので、本文のような展開となっています。

 だいぶ涼しくなってきましたので、書くペースを上げられるよう諸々頑張りたいと思います。

 今回、ウルベルトさんの「あるわけないですよ」は映画『連合艦隊』から。『トップをねらえ!』よりは映画寄りで……。

 あと、たっちさんの種族はトンボ系とのことを以前に教わり、その時にも触れましたが、本作ではバッタにしています。
 もう書き直すのしんどい(笑

 あ、そうそう、そろそろモモンガさんが……ええと、清い身体じゃなくな……じゃなかった、大人になるかもですが、本作では詳細な描写はしない感じでいきます。別に『18禁』投稿することもないです。
 一応、同人活動してた頃で、18禁小説(オネショタ陵辱とか奴隷御奉仕とか)は他サークルさんの依頼を請けて何回か書いたのですが……。
 ……具体的に書かないだけかもしれませんが、今のところは、そう考えています。

 
<誤字報告>

 tino_ueさん、攻例萎さん、アカイカさん、はなまる市場さん、
 MASSAさん、D.D.D.さん、リリマルさん、佐藤東沙さん
 
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