オーバーロード ~集う至高の御方~   作:辰の巣はせが

107 / 133
第107話

 ギルメン会議が終了し、モモンガ達は円卓で解散した。

 最初に部屋を出た武人建御雷が、傍らのコキュートスを待たせて弐式炎雷を振り返る。

 

「俺は部屋に戻るぜ。コキュートスと新たな武器を模索するつもりだが……。弐式はどうするんだ?」

 

「ふふふ、自室でナーベラルとイチャイチャするんだよ。そして、今日こそは!」

 

 扉付近、弐式炎雷が握った拳を持ち上げた。そのすぐ隣で専用メイド服姿のナーベラル・ガンマが、嬉し恥ずかしといった表情で両頬を押さえている。

 創造主とNPCで仲が良くて大いに結構。だが、テンションの高い弐式の背後で、ユリ・アルファを連れた半魔巨人(ネフィリム)……やまいこが通り過ぎた。

 

「僕とか、かぜっちとか女の人が居るのにね~。そういうこと話すの……感心しないな~……」

 

「ひいっ!?」

 

 女性から投げかけられる氷点下の声。

 弐式は、珍妙なポーズで飛び上がった。更にやまいこ達を追うように、アウラとマーレを触腕状の粘体で抱え上げた茶釜が通っていく。

 

「弟じゃないから、とやかく言わないけどさ……。ナーベラルには優しくしてあげなさいね~」

 

 こちらは、やまいこほど声が冷たくない。『よその子』が相手なので、控えめにしてくれているのだろう。しかし、度が過ぎると茶釜の怒りは爆発するはずだ。

 

(それも弟のペロロンさん向けじゃない、赤の他人相手の戦闘モードで……。恐ろしすぎる……)

 

 この時、弐式は面の下で異形種化しており、ハーフゴーレムの状態だった。顔面はツルリとした『無加工』状態で、材質からして汗などかくはずもない。しかし、確かに弐式は感じていた。

 自分の額から、右頬を伝って落ちる汗の感覚を……。

 

「弐式さん……」

 

「うひゃあ!?」

 

 背後からかかる男性の声。

 やまいこと茶釜に関しては、それほど気にしていなかったが、今驚いたのは弐式の油断によるものだ。忍者としての気配感知を忘れるほど、動揺していたと言うことでもあるのだが、声をかけた人物……ペロロンチーノは顔を左右に振った。

 

「いけませんね~。エッチな話題は、時と場所を考えないと……」

 

「ペロロンさんに言われて、これほどショックな言葉はないですよ……」

 

 ケタケタ笑うバードマンに、弐式は怒りを禁じ得ない。

 面の下で(気持ちだけ)口をへの字にした弐式は、ペロロンチーノを振り返った。ペロロンチーノはシャルティアを伴っていたが、この二人こそ、これからどうするのだろうか。

 

「で? ペロロンさんは、シャルティアと何処へ行くんです?」

 

 そう聞く弐式の口調には嫌味分が増し増しだ。しかし、ペロロンチーノの傍らでシャルティアが上品に会釈したことで、弐式は少しだけ気を和らげている。

 

(NPCは良い子なんだよな……。思い切り悪寄り設定で、創造主はエロゲマスターだけど……)

 

 シャルティアのナイスフォローであったが、それに気づくことのないペロロンチーノが喜々として質問に答えた。

 

「ふふふ、自室でシャルティアとイチャイチャするんですよ。そして、今日もバッチリ!」

 

 先の弐式の台詞を聞いていたのか、ペロロンチーノはそっくり同じ……ではなく、少しばかりアレンジを加えて言い放つ。姉の茶釜が去った後なので、エロトークも思いのままだ。さらに、この後のエッチ行為を思えば気分は上々、挑発行為も平気らしい。

 弐式は、再び気分を害された感覚であったが、ペロロンチーノの左肩側、シャルティアの頭上付近から奥へ進んだ場所……通路の曲がり角を見てニヤリとする。

 

「ペロロンさん……。後ろ……通路の角を見て……」

 

「え? 後ろ? ……げぇ!?」

 

 振り向いた黄金仮面の下から、絞められた鶏のような声が出た。

視線の先で居るのは……ぶくぶく茶釜。

 ピンクの肉棒にしか見えない頭頂部を十字路の角から出し、触腕状の粘体でサムズダウンを作っている。

 その後、無言で頭を引っ込めているが、これは「折檻までする気はないけれど、余計なことを言うな」ということなのだろう。

 一気にテンションを下げたペロロンチーノは、項垂れつつシャルティアの手を引いた。

 

「シャルティア~。部屋に行こうか~……」

 

「はいでありんす……」

 

 創造主が落ち込んでいるので、シャルティアの表情が暗い。

 ペロロンチーノはともかく、絶世の美少女が落ち込むので弐式は気まずくなった。彼の認識において今の一件、シャルティアに落ち度はないのだから……。

 

「あのな、ペロロ……」

 

「まぁ、なんだね! 気に病んでてもしかたないよね!」 

 

 弐式が声をかけ……ようとして、言い始めた直後にペロロンチーノが顔をあげる。

 

「こういう時こそ気分転換だよ! 部屋で美味しいものでも食べたり飲んだりしよっか! シャルティア!」

 

「はいでありんす! ペロロンチーノ様!」

 

 創造主の機嫌良い声を聞いて、シャルティアも暗い表情を輝かせた。

 そしてそのまま、二人で手をつないで去って行く。

 後に残ったのは、ペロロンチーノの肩に手を掛けようとしたのか、右手を差し出した……その状態で固まった弐式と、隣で立つ無表情のナーベラル。

 そして、円卓入口の室内側で立っていたモモンガと他数名だ。

 

「あの、弐式さん? 元気を出してくださいね?」

 

「モモンガさん……。モモンガさんの優しさが、ハーフゴーレムの身体にしみるぜ……」

 

 呟いた弐式は、モモンガに対して一言礼を述べると、ナーベラルを伴って去って行く。先ほど言っていたように、自室でナーベラルとイチャイチャするのだろう。

 移動した先でやろうとしていることは、ペロロンチーノと弐式で大差がない。しかし、二人の気持ちの浮沈には大きな差があるようだった。

 残ったギルメンらは弐式を見送ったが、親しくする異性が居ないブルー・プラネットからは「ペロロンさんや弐式さんも、ああいうのは羨ましいかな……」と声が漏れ出ている。彼の近くで居たのは、近々恋人が出来そうなたっち・みーとウルベルト・アレイン・オードル、請負人(ワーカー)アルシェと仲が良い獣王メコン川。そして、弐式やペロロンチーノと同様に、制作NPCのソリュシャン(および多数の一般メイド)と仲が良いヘロヘロ。エルフ娘三人に慕われているベルリバーなどだ。

 他にはタブラと、ぷにっと萌えも居るが、ぷにっと萌えは最近、やまいこと親しくしている。

 以上のことから、親しい異性の影がないナザリックのギルメンと言えば、今やブルー・プラネットと建御雷のみ。建御雷はコキュートスと共に去った後なので、今ここに居るギルメンで言えば、ブルー・プラネットだけだ。

 居合わせたギルメンらの多くは、「そう言えば、タブラさんも独り身だっけ?」と考えたが、元の現実(リアル)で妻と死別しているタブラに対し、余計な軽口をたたける者は居ない。そもそも、タブラの制作NPCであるアルベドはモモンガの嫁候補だが、彼には他にニグレド等の制作NPCが居るのだ。

 

(タブラさんは、アルベドやニグレドを娘みたいなものと言ってたけど……)

 

 ギルメンにかかる異性交遊の問題だが、モモンガは落ち着いて考えた。

 タブラに関しては、制作NPCとの関係は本人次第なので特に気にすることはないだろう。先述したとおり、悲惨な家庭環境のことを思えば、変にちょっかいを出すべきではない。

 

(そういや建御雷さんも彼女とか居ないんだっけ? あの人は彼女が欲しかったら自分で何とかしそうだけどな~。さて、ブルー・プラネットさんは……どうしたもんかな?)

 

 妙に世話焼き的なことを考え出したが、今のモモンガは複数女性と交際中なので、気分的に余裕があるのだ。

 

(……ふ~む、女の世話で動き回るのも、大きなお世話かも知れないし……。暫くは様子見かな……)

 

「あの、アインズ様?」

 

 ススッと左側に進み出たアルベドが、モモンガを遠慮がちに見上げる。何か言いたそうなので、モモンガは視線だけでなく顔ごと向けて聞いてみた。

 

「アルベド。何かあるのか?」

 

「はい……。ぶくぶく茶釜様から相談があると……。お側を離れても構わないでしょうか?」

 

「茶釜さんが……」

 

 何の相談だろう……と、モモンガは首を傾げる。

 アルベドは、ギルド長モモンガの秘書的立ち位置だが、現在はモモンガと交際中で、創造主はタブラだ。モモンガとしては聞いていない話なので、タブラに視線を向けたが、首を振って返す仕草を見るに、タブラも知らないことらしい。

 

(俺やタブラさんを通さずに……か。これはいったい、どういうことなんだ?)

 

 モモンガ達には聞かせられない話なのだろうか。

 あるいは単なるガールズトークかもしれない……と、モモンガは判断した。

 

「ふむ、ふむ……まあ、いいんじゃないか? 用があれば<伝言(メッセージ)>を出すから。茶釜さんのところへ行ってきなさい」

 

「承知しました。アインズ様……」

 

 許可を得たことで安心したのか、華のような笑みをを浮かべてアルベドが一礼する。そしてそのまま、茶釜達が去った方へと通路を歩いて行った。

 

「タブラさん……」

 

 モモンガが名を呼びつつタブラを探すと、先程のアルベドが居た側とは反対……モモンガの右側に、タブラが移動していた。

 

「いつの間に……。いや、タブラさん……。茶釜さんは、茶飲み話か何かでアルベドを呼んだと思いますか?」

 

「どうだろうね? そうかもしれないし、あるいは重大な話かも……。少なくとも、モモンガさんにとって悪いことにはならないんじゃないかな? 何しろ茶釜さんもアルベドも、両方ともモモンガさんの『彼女』だし……」

 

「うっ……」

 

 モモンガは呻く。

 茶釜とアルベドは、モモンガの彼女。

 タブラの言ったことに間違いはない。

 ただ、それを『アルベドの創造主』から言われると、なんだか居心地が悪かった。

 

(タブラさんめ、最古図書館の使用禁止の件がキツかったので、その仕返し……かな? まあ、俺の邪推かもだけど!)

 

 モモンガが改めて視線を向けると、タブラはタコ似の顔でジッとモモンガを見てくる。

 相変わらず表情が読めない。

 

「あ、後でアルベドから話を聞いてみますかね……」 

 

 モモンガは目を逸らしつつ声を絞り出した。それを聞いたタブラは「話の内容を? アルベドから? そうだね、そうなるだろうね」と言い、笑い声を残しながら去って行く。

 

(なんだろう。この敗北感……)

 

 敗北と言っても何に負けたのかがわからない。

 その後、ウルベルトとベルリバーが連れ立って去り、ブルー・プラネットが「そうだ、カルネ村に新しい肥料を持っていかなくちゃ」と呟きながら去っている。ブルー・プラネットの足取りは軽いように見えたので、女性関係についてはさほど気にしていないらしい。

 

「あ、モモンガさん。私はセバスと、自室でお茶でも飲んでますから」

 

「わかりました~」

 

 シュタッと手を挙げて歩き出すたっちと、律儀に一礼してから歩き出すセバス。

 騎士と執事のコンビは、格好良さを振りまきつつ去って行った。ウルベルトが見たら舌打ちしただろうが、モモンガからすれば格好良く思えるのだ。

 

「獣王メコン川様! アインズ様! 私も失礼します!」

 

「ん? あ、ああ……」

 

 元気な声とともにルプスレギナが一礼して歩き出した。それを見送るモモンガの近くでメコン川が「おう、行ってきな」と声をかけている。 

 

「ルプスレギナは……メイド業務ですか?」

 

 恋人の一人でもある彼女の背を見送りながら、モモンガはメコン川に問いかけた。

 

「いや、茶釜さんに呼ばれたとか言ってたな。戦闘メイド(プレアデス)の仕事は、その後になるんじゃないですか?」

 

 メコン川は、赤い衣装に黒の胴鎧といった出で立ちであり、今は白獅子顔の下顎を掴んで撫でている。

 ルプスレギナの動向については、あまり気にしていない様子だが……。

 

(ルプスレギナも茶釜さんに呼ばれた……。アルベドが呼ばれたのと、何か関係があるのかな? でもこれ、後で俺がアルベドに聞いていいことなのか? やっぱりガールズトークなのか? もう気にしない方が……)

 

「どうかしたんですか? モモンガさん?」

 

 上方から白獅子顔が覗き込んできた。

 顔を上げて見返したモモンガは、今考えていたことを口に出そうとしたが、一瞬目をそらせてから再度、メコン川と目を合わせている。

 

「いえ……ルプスレギナですけどね? 俺とメコン川さんを呼ぶのに、メコン川さんの方が先なんだな~……って」

 

「そりゃあそうですよ、モモンガさん」

 

 思っていたことではなく適当な話題を振ったところ、メコン川は牙を剥きつつニンマリ笑い、黒胴鎧の胸を反らせた。人化していたなら、例の口の端を持ち上げる笑みを見せていたことだろう。

 

「だって、俺はルプスレギナの『創造主様』だもの。彼氏や将来の旦那相手にだって、負けない部分はありますよ」

 

「何と言うか、ごもっとも……」

 

 モモンガは肩をすくめながら苦笑する。

 メコン川との合流前に、彼の作成したNPC……ルプスレギナ・ベータを交際相手とした。そのことは事後承諾ではあったがメコン川に認めて貰っているので、負い目を感じることはない。だが、やはり気にはしてしまう。

 

「メコン川さんは、これからどうするんです?」

 

「俺か~……タブラさんに<転移門(ゲート)>で送って貰って、フォーサイトに会いに行って来ますよ。連中、よそで見つかった遺跡に行くって言ってましたから、それに交ざるんです」

 

 その『フォーサイトに会いに行く』という目的の中で、『アルシェに会いに行く』というのは、理由の何割を占めているのか。興味を持つモモンガだが、これも先程の『茶釜に呼ばれたアルベドやルプスレギナの件』と同様、深入りすると良くないことなのかもしれない。

 

「じゃあ、行ってきま~す」

 

 メコン川が肩越しで手を振りながら去り、合わせるようにヘロヘロもソリュシャンと共に去って行く。

 残ったのは、モモンガとパンドラズ・アクターだ。

 モモンガは、いつの間にか左隣に移動してきたパンドラを見た。

 異世界転移した直後であれば、パンドラに対して今後の予定を聞き、パンドラが本来の配置場所である宝物殿に行くと言って、二人は別々に行動したことだろう。

 だが、ジッと見てくるパンドラの視線を真っ向から受け止めたモモンガは、おもむろに口を開いた。

 

「お前は、あ~……宝物殿に行くのか?」

 

「はい! アインズ様っ!」

 

 ビシリと敬礼をキメてくる姿に、かつてほどの羞恥心は感じない。

 面白くもあり、やはり格好良いとモモンガは思っていた。

 

「そうか……。では、俺も久しぶりで宝物殿を覗きに行くか……。俺以外の人が放り込んだ面白アイテムがあるかも知れないしな……」

 

 ボソッと呟くように、しかし、パンドラに聞こえるように言うと、パンドラが大きく肩を揺らす。

 

「きょ、共同作業! 望外の喜びですが、よろしいのですか? ぬぁインズ様……」

 

「ぬぁって何だよ。俺が行きたいから行くんだ。と言うか、他に人も居ないしモモンガとか、その……他の呼び方で構わないんだが?」

 

 ギルメン相手に近い、しかし微妙に違った口調でモモンガが言うと、パンドラは再度敬礼をした。心なしか先程の敬礼よりも気合いが入っているように見える。

 

「承知いたしましたっ! 父上!」

 

「うむ……うん。じゃあ、行くか」

 

 モモンガは、自分の口調が鈴木悟寄りになっていくのを感じながら歩き出した。

 

「そういや、お前。いつも宝物殿のアイテム整理が……って言ってるけどさ。お前が好きで整理してても追いつかないわけ?」

 

「はい、父上。何しろナザリックの宝物殿には、膨大なアイテムや宝物が……」

 

「だよな~……。源次郎さんが合流できたら、雑にしてる収納区画の整理をお願いしようかな? ……駄目か。あの人の整頓欲に突き刺さる要素って、よくわかんないし……」

 

 自室は汚部屋。しかし、宝物殿に関しては整頓好き。

 そんなギルメンのことを思い出していたモモンガは、軽く頭を振ると、左隣……少し後方を歩くパンドラを振り返った。

 

「やはり、宝物殿の整理に関してはパンドラに頼むのが一番だな。ま、無理しない範囲で頼むよ」

 

「お任せください! 父上!」

 

 歩きながら敬礼するパンドラと、それを見て「ははは、そっかそっか」と機嫌良く笑うモモンガ。

 二人の足音は、通路の奥へと消えていくのだった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 ナザリック地下大墳墓、第九階層。

 この階層に位置するショットバーで、至高の御方……ギルメン二名が酒を酌み交わしている。

 右側で座るのは山羊頭の悪魔、ウルベルト・アレイン・オードル。

 もう一人は、ウルベルトの左隣で座る多口四腕の異形、ベルリバー。

 二人は連れだって入店し、マスターの茸生物(マイコニド)……クラヴゥ(通称・ピッキー)に対して、ウイスキーをボトルで要求。以後は、二人で話をしたいとしてクラヴゥに席を外して貰い、黙々と飲んでいた。

 

「ピッキーの奴……」

 

 ウルベルトが何杯目かのグラスを干してから口を開く。

 

「弁当でも持って、ブルー・プラネットさんの畑に差し入れしてこいって言ったら、すっげ浮かれてたな……」

 

「彼の創造主は、ブルプラさんですからね~……」

 

 ブルー・プラネットの帰還の儀(帰還報告会)には、当然ながらクラヴゥも同席しており、創造主と二人で一晩語り明かしたらしい。

 

「あれで性別的に女性だったら、ブルプラさんと良い仲になってたかもしれませんね~」

 

 ベルリバーがグラスの氷をカランと鳴らす。それを聞いて、ウルベルトが肩をすくめた。そしてグラスを置くと、肘をついて手を持ち上げ……指を折りだす。

 

「自分の製作NPCと、『男女の関係』でイイ感じになってるのは……ヘロヘロさん、弐式さん、ペロロンさんってところか。あと、将来的に茶釜さんとマーレ?」

 

「制作NPCが異性だと、そういう感じになるんですかね~」

 

 ベルリバーが呟きながらグラスを干し、ウルベルトを見ると、ウルベルトもベルリバーを見ていた。

 このとき、二人で共通する思いは「俺達、相手がNPCじゃないけど上手くやってるよな……」というものである。

 

(ベルリバーさんは、現地のエルフ三人とだっけ?)

 

(ウルベルトさんのお相手は、聖王国の神官団長だったかな……)

 

 二人は黙したまま互いのグラスにウイスキーを注ぎ、チンとグラスを合わせた。

 そして二人してグラスに口を付けていると、ウルベルトが左側に目だけ向けて口を開く。

 

「で? ベルリバーさんは、そういう女がらみの話だけしたいんじゃないんでしょ?」

 

「ん~……まあ、そうなんですけど」

 

 ベルリバーがグラスに付けているのとは別の口、ウルベルト向きに付いている中の一つでモゴモゴ言った。言いにくそうなのだが、ウルベルトはフッと笑い目を閉じる。

 

(服を着た山羊なのに、様になってるな~……。ウルベルトさん、やっぱスゲーわ)

 

 感心九割、呆れ一割の視線をベルリバーが向ける中、ウルベルトが話し出した。

 

「わかってますよ。……俺が元の現実(リアル)に戻るつもりかどうかだろ?」

 

 途中で口調を変えたウルベルトに、ベルリバーはグラスを置いて頷く。

 元の現実(リアル)において、ウルベルトとベルリバーは、社会を牛耳る巨大複合企業に一矢報いるべく活動中だった。そして、二人共が志半ばで異世界に転移した。ベルリバーとしては、元の現実(リアル)でやり残したことが気になったが、この転移後世界の居心地が良すぎて、戻る気がほぼ無くなっている。

 

(けど、ウルベルトさんが戻るって言うなら……戻っても良いかも……)

 

 元の現実(リアル)への帰還理由として持ち出すには、ベルリバーとウルベルトの『友人付き合い』は深くない。ただ、巨大な社会悪を相手に戦ってきた関係性は、住みよい転移後世界を諦めても良い……と思う程度には強かった。

 

「そうですね。それを聞きたかったんです。ウルベルトさんは、どう思ってるんです? 元の現実(リアル)に戻る気は……」 

 

 この問いかけに対し、ウルベルトは再びフッと笑うとベルリバーと同じようにグラスを置いた。そのままカウンターに両肘を付くと、腰から上を捻ってベルリバーに向き、次のように言う。

 

「ない!」

 

「あ、そうなんだ?」

 

 ベルリバーは一瞬気圧されたが、すぐに肩の力を抜いた。

 

「てっきり、『魔法も使えるし、強くなったんだからさ? 意地でも元の現実(リアル)に戻って巨大複合企業に<大災厄(グランドカタストロフ)>だ!』とか言い出すかと……」

 

「いや、チラッとは思ったけど……そんなことしたら、周辺家屋も中の人間ごと全滅じゃん? そりゃ転移前は、多少の人的被害はやむを得ない……とか、馬鹿なテロリストの理屈で突っ走ってたけどさ。そのときでも、周辺住民を全滅させて構わないとか思ってないし……」

 

 世にも奇妙な山羊悪魔の早口。

 全編に渡って言い訳がましさが満ちあふれている。

 何となく笑いたい気分のベルリバーだったが、ここでブフッと吹いたが最後、どんな魔法が飛んでくるかわかったものではない。せっかく異世界転移したというのに、そんなことで死ぬ気はなかった。

 

(しかし、馬鹿なテロリストの理屈か……。そう言われると、そうだよな。俺もウルベルトさんも、相手がデカすぎて気が変になってたのかね……。いや、ウルベルトさんの思いや怒りは本物だったかな? ……俺のだって当時は本物だった……と思うけど)

 

 今は今で異形種になり、人間とは違う倫理や感覚が主となっている。そういったことも、過去の自分達を見つめ直せるようになった大きな要因だろう。

 一方、ウルベルトは長々と言い訳をした自分を恥じていた。

 

(くそ~……さっきみたいなのは俺のキャラじゃないんだ。でも、山羊悪魔になった今のオツムで考えると、つくづく元の現実(リアル)では無茶無謀で馬鹿なことしてたって思うよな~……)

 

 限られた資金と物資をやりくりし、爆弾テロなども行ったが、どうしても巨大複合企業の上層部にまで手が伸ばせなかったのである。元の現実(リアル)でウルベルトができたことは、巨大複合企業に幾分かの物理的破壊、あるいは修繕費的な意味合いで出費させたことぐらいだろう。

 

(ベルリバーさんには例の情報が渡ってたはずだけど、アレを上手く使えたとして、巨大複合企業は本当に傾いてたかな? 大打撃が精々かもな……。まあ、転移前の俺達は、やれると踏んでたわけだけど……)

 

 ウルベルトは本心を頭の中で組み立てると、ベルリバーに対して口を開いた。

 

「ベルリバーさん。こっちの世界……素晴らしく良いじゃないか。八欲王だかが手を出して、色々とユグドラシル風に作り変えられてるみたいだけど、俺は気に入ったね。空気は綺麗で飯も美味い。その上、俺達は強い存在だ。好き放題できるじゃないか。あとは……」

 

 ベルリバーが頷く。

 

「あとは、元の現実(リアル)での巨大複合企業みたいにならないよう、気をつけなければ……ですね?」

 

「そうだ。俺達は人間じゃなくなったし、人間に対して同族意識はなくなった。けど、それだけは気をつけないとな……」

 

 異世界転移するまで戦い続けてきたウルベルトの信念は、山羊悪魔になった今でも変わりない。負け組……弱者に対する不当な理不尽を、ウルベルトらは許さないのだ。

 フウと、二人で息を吐く。

 数秒ほど二人は黙っていたが、気が落ち着いたらしいウルベルトがニヤリと笑った。

 

「とはいえ……だ。こっちで定住するけど、元の現実(リアル)へ戻る……じゃないな、元の現実(リアル)と行き来する方法は模索しておくべきだ」

 

「と言うと?」

 

 興味深そうにしているベルリバーに対し、ウルベルトは語る。

 元の現実(リアル)との行き来が可能になれば、あちらの世界にあった技術や機器などを転移後世界に持ち込めるだろう。転移後世界で現実のものとなった魔法は強力かつ強大だが、魔法だけで出来ないことは多いはずだ。

 

「それとな、このままだと巨大複合企業に負けて終わりだろ? 悔しいじゃないか」

 

「悔しい……。そうですね、まさしくそのとおりです」

 

 ウルベルトさんの言うとおりだ……とベルリバーは思う。

 やられっぱなし、敵わないままで終わった等というのは、容認できるものではない。このまま燻った気持ちを抱えているぐらいなら、転移後世界で得た力で再挑戦するべきだ。

 

(何もしないよりは、ずっといい……。……そうしてる方が、元の俺を忘れないでいられるだろうしな……) 

 

「別に<大災厄(グランドカタストロフ)>しなくたって、巨大複合企業のトップ共の心を折る方法はあるだろうさ」

 

 考え込むベルリバーをよそに、ウルベルトは独り言のように呟いている。

 具体的な心の折り方は思いつかないが、ナザリック地下大墳墓にはニューロニストのような拷問のプロも居る。元の現実(リアル)との行き来さえ可能になれば、彼らに任せる手もあるだろう。

 

「モモンガさん達には、一応、相談しておくか……。俺が『ウルベルト・アレイン・オードル』で居る今は、もうゲームじゃなくて現実だもの……。ユグドラシルの時は、気の向くまま突っ走ってたけど、もうそんなことしてられないし……」

 

 俺にも若い時分があったもんさ、今も若いけど……。

 そんな風に笑っていたウルベルトは、ふとベルリバーの視線が気になった。

 

「……なんだよ?」

 

「いや、色んな意味で大人になったなぁ……と。じゃあ、ウルベルトさん。たっち・みーさんに対しては、嫌いだ~……とか、そういう気持ちはもうないんですか?」

 

 もし、二人の会話をモモンガ達が聞いていたとしたら、今のベルリバーの質問は、ある意味において巨大複合企業に対する二人の思いよりも興味深かったかもしれない。

 ベルリバーも、ウルベルトとたっちの確執は知っているので、今の質問は相当な勇気を必要とした。この質問一つで、ウルベルトの機嫌が急降下する可能性があるからだ。

 対するウルベルトは、グラスを傾けて舌を湿らせてから、ゆっくりベルリバーを見る。

 

「そんなの、嫌いに決まってるだろ?」

 

「ええ~……」

 

 肩を落とすベルリバーをジト目で睨み、ウルベルトは続けた。

 

「今のあいつは、嫁さんと娘に逃げられて確かに不幸だろうさ。精神的にも不安定で、勝ち組要素が少なくなったと言っていい。しかしな、長年身に纏ってきた勝ち組オーラが……俺を苛つかせるんだよ。だいたいなんだよ、あいつ。家庭崩壊して落ち込んでると思いきや、ちゃっかりレメディオスといい感じになりやがって」

 

「いや、聖王国で『彼女』を見つけたのはウルベルトさんも同じで……」

 

「俺は良いんだよ。今は、たっちの話だ。そもそも、あいつと来たら、聖王国を出てから暫くの間、躁と鬱の入れ替わりが激しくて、俺に介護みたいなことさせてたんだぜ?」

 

 正確には、やむを得なくウルベルトがたっちの面倒を見ていた……である。たっちが介護を強要していたわけではない。つまり、ウルベルトの面倒見が良いという話なのだ。

 

「はあ……」

 

「それに! 常々思ってたけど、特撮特撮って五月蠅いんだよ。俺にだって好みってもんがあるんだ。お綺麗な……ありきたりの『正義の味方』なんか、お呼びじゃねーっての。基本とか知ったこっちゃねーし? たっちの奴はな、本当の格好良さってもんをわかってねーのさ。やっぱ、ダークヒーローこそが至高だよな。そうそう、至高のダークヒーローって言えば、モモンガさんが至高の存在でダークっぽいか? あの人を主人公にして小説でも書いたら、受けそうだし……。って、おい! ベルリバーさん、聞いてるか?」

 

「ああ、はい……うん」

 

 何かしら妙なスイッチが入ったウルベルトを右隣に置き、ベルリバーは生返事をする。そして、自分のグラスにウイスキーを注ぐと、ウルベルトとは反対側にある口の一つで呟いた。

 

「……残ってくれるって、聞けただけでもいいか……」

 

 

◇◇◇◇

 

 

 モモンガとパンドラが宝物殿へ向かい、ウルベルトとベルリバーが楽しく酒を飲んでいた頃。

 ナザリック地下大墳墓の第九階層、そのとある一室……机も椅子もない空の部屋に、三人の女性が集合していた。マジックアイテムのカンテラによって不自然に明るい中、互いに向き合うようにして立つ女性とは……。

 一人はナザリック地下大墳墓、守護者統括アルベド。

 二人目は、戦闘メイド(プレアデス)のルプスレギナ・ベータ。

 三人目は、緊張の面持ちでいる前者二名を前に、腕組みをして立つ……ピンクの肉棒。

 ぶくぶく茶釜である。

 アルベドとルプスレギナは割と高身長で、茶釜も人化すればユリ・アルファと同じと背が高いのだが、今の茶釜は異形種化しているので他二人よりは背が低くなっている。つまり、(しもべ)達から向けられる視線は上から来ていた。入室してすぐ、アルベドとルプスレギナは跪こうとするも、話をする体勢ではないと茶釜に止められている。

 

「さて、私に呼ばれたていで集まって貰ったわけだけど。実は、アルベドから相談を受けたのが集合理由よん!」

 

「えっ!? そうだったんすか!?」

 

 ルプスレギナが大袈裟に驚いた。その隣で立つアルベドは、ヘソの前あたりで指を組んでモゾモゾ動かしており、居心地が悪そうだ。茶釜が下から覗き込むと、アルベドの顔は真っ赤になったり、元に戻ったりを繰り返している。

 

「おお、顔色で精神の沈静化がわかるって凄いわ~。モモンガさんも中途半端な設定換えをしたものだわね~」

 

「あ、ああ、アインズ様は! ……アインズ様は(わたくし)のことを思って、(わたくし)の在り方を変えられたのです。アインズ様は……」

 

 叫ぶように言った後、すぐさま冷静さを取り戻したアルベドが続けて言うので、茶釜は「まあまあ」と触腕状の粘体を振った。

 

「中途半端と思っただけよ。そう焦るほど悪く言ったわけじゃないから、落ち着きなさい」

 

「はい……」

 

 シュンとなったアルベドに対して頷くと、茶釜は改めて話しだす。

 

「ええ~と、それでは『アルベドによるモモンガさんとのベッドイン大作戦』に関する作戦会議を開きたいと思います!」

 

 

 




 1~2ヶ月に1回が良いとこの更新ペースになってしまいました。
 暫くは、モモンガさんの脱童貞話を挟みつつ、各ギルメンの日常行動を追いたいと思います。
 だいたい3話か4話分ぐらいかな~……

<告知>★終了しました。
 感想のとこで、『誰と誰の組合せで会話シーンが見たい』……とかありましたら、先着で3組受付けますよ~。
 ……今居るキャラ限定……別にナザリック勢に限定しませんので。
 登場キャラが多すぎると、私の判断で対象外にしたりしますので御了承くださいませ。★終了しました。

<誤字報告>
ジュークさん、桜一郎さん、tino_ueさん、佐藤東沙さん、ゲーム大好きあっきーさん、冥咲梓さん

毎度ありがとうございます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。