未合流のギルメン、るし★ふぁー。
彼がユグドラシル時代に仕込んであった悪戯……それが転移後世界のモモンガに直撃し、モモンガの性別は反転してしまう。
ついさっきまで、
モモンガは、泣いた。情けなさのあまり泣いた……。だが、泣いてばかりもいられない。
一刻も早く、この状態異常……女体化を解消しなければならないのだ。
(人化するたびにナニがなくなったのが実感できて、俺の精神が持たないからな……)
異形種化して
「ぬう……」
一瞬、硬直するモモンガであったが、スッと手をあげ、こめかみに指を当てている。
「はい、弐式炎雷ですが……」
『間違い通話のふりをしても駄目だよ、モモンガさん』
通話相手はタブラ・スマラグディナ。合流済みギルメンの中では、誤魔化しの通じにくい人物の一人だ。
『るし★ふぁーさんからのメールは見たよ。いや、元から設定してあったとは言え、メール機能が生きてるだなんて興味深いね。口頭では伝えにくい、例えば長文を送るのに使えそうかな? でも、今は……もっと重大なことがあるよね?』
「あ、あぁ~あ……アレねっ。るし★ふぁーさんの悪戯で、誰かが女体化したって話ですか? 困ったものですよ、まったく!」
無駄なあがきだと思いつつ、モモンガはしらばっくれる。言い始めの声が裏返っていたが……そのせいかどうか、やはり駄目。タブラには通用しなかった。
『なるほど、性転換したのはモモンガさんか……』
覚悟していたものの、あっさり見破られたことでモモンガは動揺する。その動揺は精神の安定化を起こすほどだったが、冷静になったモモンガは魔王ロールの低い声で聞いた。
「どうして……そう思うんですか?」
それなりに圧のこもった声だとモモンガは思う。しかし、通話相手たるタブラは、まったく気にする様子がない。
『だって、私は何が重大かなんて一つも言ってないのに、モモンガさんは女体化したとか言うし? 性転換じゃなくて女体化と言いだすあたり、悪戯が直撃したのは茶釜さんだとかの女性陣じゃないよね? あと、声も震えてたよ?』
一つ一つ指摘されるたび、モモンガの身体には見えない矢のようなものがブスブス刺さっていった。るし★ふぁーが、この場に居て、二人の会話を聞き取れたとしたら「もっとやって! モモンガさんのHPはまだゼロになってないよ!」と言って笑ったことだろう。
かくしてモモンガは精神的にボロ切れのようになるが、タブラ側ではモモンガの姿が見えていないため、更に続けた。
『それに……』
「それに……なんです?」
嫌な予感がしたモモンガは、再び声を低くする。直後、タブラの発した言葉を聞き、彼は肩を落とすこととなった。
『実は、モモンガさんに<
◇◇◇◇
「ギルメン会議を始めます!」
場所は、ギルメンのみが入室した円卓。
朗らかな声で宣言したのは、樹人ブルー・プラネット。
樹人となった彼の濃い髭面は、今、実に明るい。輝いてすらいた。
モモンガの苦境が、そんなに嬉しいのだろうか。普段は温厚な、ブルー・プラネットらしくない振る舞いと言える。
だが、これには理由があった。
転移後世界でモモンガ達と合流した際、軽い発狂状態にあったブルー・プラネットは、トブの大森林で居た大木モンスター……ザイトルクワエを『愛しい人』と認識し、モモンガ達を相手に大暴れをしたのだ。これは彼にとって恥ずべき黒歴史であり、以後は他のギルメンが後々まで羞恥を覚えるような事態に遭遇すると、お仲間が増えた気になって言動がハイになる。
みんなで恥ずかしい思いをすれば、お互いにわかりあえるじゃないか……という心境だ。
それが理解できるギルメン達は、苦笑しながらではあったが「おお~」だとか「いえ~」だとか、けっこう乗り気で応じていた。
何故、乗り気なのか。
それは今回、るし★ふぁーの悪戯が直撃したのはモモンガ一人であり、他のギルメンに被害はないからだ。加えて言えば、悪戯の内容が『性転換』なので、すぐさまモモンガの命が危ないような状況でないことも大きい。
そして、そんな異形種化したギルメンら中で、ただ一人……ふて腐れた態度の者が居る。
ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』のギルド長こと、モモンガ。
今回のギルメン会議は、モモンガの身に生じた異変について協議するためのもの。だが、モモンガにしてみれば面白おかしく弄られるための場でしかない。面白かろうはずがないのだ。
「むぁったく、みんなイイ気なもんだよ」
頬杖を突くギルド長席の骸骨……モモンガは、もう一方の手の指でテーブルをトントン鳴らしながら、ブツブツ呟いている。
「俺の性別が変わった一大事だってぇのに、皆でイベント扱いなんだものな~。……早く終わらないかな~」
「まあまあ、モモンガさん」
たっち・みーが挙手した。
異世界転移前に妻子に逃げられた彼は、躁鬱の差が激しい精神状態なのだが、今は調子が良いらしい。溌剌とした声で話しかけてくる。
「あの、るし★ふぁーさんの悪戯ですし、事は小さくないでしょう? 皆で相談するべきなんですよ!」
(さすが、たっちさんだ! 俺の苦境について真面目に対応してくれる!)
モモンガは、たっちに後光がさして見えたような気がした。居合わせたギルメン達の目には、実にチョロく映っているのは言うまでもない。だが、続いて口を開いた弐式の発言により、せっかく持ち直したモモンガの機嫌は急降下する。
「でもさぁ、相談するにしてもモモンガさんの女体化ってのが、どんな感じなのか。それを見てみないことには何とも……ねえ?」
つまりは、女体化したモモンガを見たいと言っているのだ。
この弐式の発言に関し、反対意見は出ていない。皆、黙ったまま……モモンガをジッと見ている。
これらギルメン達からの視線。そこに含まれる圧に、モモンガは抗しきれなかった。
「わかりましたっ……。今、人化しますから……。おっと、服の前を閉じておかないと……」
嫌々ながら返事をしたモモンガは、ふと思い当たって服の前を閉じる。普段は、
いそいそとボタンをとめていると、誰かの「ちっ!」という舌打ちが聞こえたが、モモンガは無視をした。
「では……」
モモンガは人化アイテムを起動する。
次の瞬間、ギルド長の指定席で座っていた
黒髪ショート、気優しげな表情。
元のモモンガの人化体……鈴木悟の面影を残しているが、面立ちは美人と言って差し支えないものだ。無論、アルベドや
もっとも今は、少しむくれた表情でいるのだが……。
その御機嫌斜め顔にもかかわらず、人化したモモンガを見たギルメン、特に男性陣から「おお!」という声が漏れ出た。
「こいつは……けっこうな美人だな」
「だよな、建やん。俺もビックリだわ……」
まったく同感。それが、ギルメン達の総意だ。
当然ながらモモンガにも聞こえているので、モモンガは不機嫌になって良いのか照れて良いのか、よくわからない気分になった。
「やべぇ……」
ペロロンチーノが、黄金仮面のくちばしの下に手の甲を当て、汗でも拭うような仕草をする。
「成人女性で、それなりに高身長で、おっぱいも大きいってのに……。俺の性癖が歪んじゃいそ……ぎゃん!?」
ペロロンチーノの頭部が斜め上に弾けた。
隣で座るピンクの肉棒……ぶくぶく茶釜が、アッパーカットの要領で殴り飛ばしたのだ。
「オメェの性癖は元から歪んでるだろが! それと! ダーリンに色目を使うんじゃない!」
これは茶釜姉弟のやりとりだったが、今の言葉を聞いて男性ギルメンらが姿勢を正す。
ペロロンチーノが『転び』そうになるほど、今のモモンガは魅力的。
それもまた同感だったため、茶釜の発言を聞いて気を引き締めたのだ。
何を考えてるんだ、しっかりしろ。あれはモモンガさんだぞ。
……でも、魅力的。
そういった空気の中、一人、
「不思議な魅力だよね~。美人だし可愛いし。色んな服を着せてみたいかもだよ~」
場の空気を一切読まない発言だったが、それで円卓の緊張した空気が緩んだ。
ぷにっと萌えが咳払いをしながら挙手をする。
「それで? モモンガさんは元に戻りたいんですよね?」
「当然です。人化できないなら諦めもつきますけど……。せっかく人化できるのに、この先も性別反転のままだなんて、色んな意味で発狂しちゃいますよ」
女性蔑視からくる発言ではない。
元からの性別を、本人の意に反して逆転させられているのだ。自由に元に戻れるのなら、一時的なおふざけとして良いかもしれない。しかし、半永久的に逆転したままだと、精神が持たないだろう。いや、下手をすれば、精神が女性寄りに変貌してしまう可能性だってある。
ウンザリした気持ち。それを重い息に混ぜて吐くモモンガを見て、さすがのペロロンチーノも、同情するような視線を向けた。
「モモンガさん……。もし元に戻れなかったら、俺で良ければ嫁にもら……うっ!」
胸に手を当て、真面目声で申し出ていたペロロンチーノが声を詰まらせる。
左隣で座る茶釜がアッパーの体勢を取っていたこともあるが、それ以上に、他の男性ギルメン達からの視線が恐ろしかったのだ。
その視線に含まれる意味とは……。
『『『『『そこのエロ鳥、モモンガさんを嫁にしようってか?』』』』』
元々、モモンガは皆から慕われているが、女性化したことで庇護欲のようなものが生じているらしい。男性陣の視線は、総じてキツかった。付け加えると、やまいこの視線もキツい。
それらギルメン達の視線には茶釜も気がついたようで、握り拳のようにしていた粘体を引っ込め「へっ? えっ?」と周囲を見回している。
「ペロロンチーノ……さん」
地獄の底から響いてくるような声でウルベルトが言った。
「ギルド長を困らせるような発言は……控えて貰えると嬉しいんですけどねぇ?」
「は、はいいいいっ!」
ペロロンチーノが絞り出すような声を出し、何度も頷いたことで、場の空気は再び落ち着いたものとなる。
「しかしなぁ、マジな話……どうするんだ?」
腕組みした白獅子の獣人……獣王メコン川が皆に問いかけた。
「アバターの再作成。こっちの世界でやるとしたら、モモンガさんに一回死ねってことだろ? 八欲王だとかの話を聞けば、蘇生はできるっぽいが……モモンガさんで試すわけにはいかないし。レベル一〇〇まで上げ直すってのも時間がかかりそう。となると、もう一つの手を使うのがいいと……俺は思うんだけど?」
もう一つの手、それはモモンガが元の性別に対する異性と寝具入りし、性交することだ。
つまり、誰か女性が、今のモモンガと女性同士の性行為をしなければならない。
いったい、誰がそれを行うのか。
ギルメン達の脳裏に浮かんだ女性は三人。
一人目は、モモンガの交際相手の一人で、モモンガのために製作されたアルベド。
二人目は、モモンガの二人目の交際相手となる、ルプスレギナ・ベータ。
三人目は、ギルメンの一人で、交際相手の三人目である……ぶくぶく茶釜。
誰と『元に戻る儀式』を行うのか。一人だけ選ぶのが面倒なら、三人と一緒にしてもいいだろう。
「結局は……モモンガさんが決めることですよね?」
ベルリバーが皆を見回しながら言うと、モモンガ以外の全員が頷いた。
当面、性別反転以外の実害がないのだから、モモンガの好きなタイミングで好きな相手といたせばよい。
ちなみに、先述した『モモンガといたす相手になりそうな三人』のうち、茶釜のみ、今同じ部屋に居るのだが、彼女が「私がやる!」と、この場で立候補することはなかった。つい先頃、アルベドとルプスレギナを加えた三人で、アルベドに対して早くモモンガとエッチするように言いつけたばかりだからだ。そして、その気持ちは今も揺らいではいない。
(……な~んてね。モモンガさんが私と……って選んでくれるなら、私としては……やぶさかではないのよね~。アルベドには後で詫びを入れることになるだろうけど……。あ~、でも、アルベドの背中は押しちゃうかな……。私ってイイ奴よね!)
ともあれ、モモンガの女体化解消については、安全度の高い解決策が判明しているため、モモンガの任意で元に戻る『作業』ないし『儀式』を行うことが、ギルメン会議で決定する。
また、ナザリック内には、モモンガの女体化について通知が出されることになった。
「ええええっ!? ナザリック内に通知しちゃうんですか!?」
人化中のモモンガは高い声で悲鳴をあげたが、ぷにっと萌えから「じゃあ、会議終了のすぐ後でいいから、アルベドか茶釜さんか、それともルプスレギナを呼び出すかして寝室にしけ込みます? 俺達は何だって良いですよ? でも、やっちゃうまでに時間がかかるようなら、周知しておかないと混乱の元ですし……」と言われ、力なく項垂れるのだった。
◇◇◇◇
「で? ヘロヘロさんは、どうして俺と同じテーブルの……対面で食事してるんです? ソリュシャンと一緒なら、離れて二人で食べれば良いのに……。あと、ロンデスとクレマンティーヌも連れて来てるし……」
これは食堂における、モモンガの台詞である。
ギルメン会議後、小腹が空いたので食堂に立ち寄ったのだが、一人で食事をしているところにヘロヘロが食堂入りし、ソリュシャンとロンデス達を連れてやって来たのだ。
そして今、モモンガの対面には人化したヘロヘロが居て、きつねうどんを食している。ずぞぞぞ! と麺をすする音が、日本人のモモンガとしては心地よい。
そのヘロヘロの左側には
「ヘロヘロ様……あの、アインズ様が……」
モモンガの問いかけには若干トゲがあったため、ソリュシャン(ナイフとフォークでパンケーキを食し中)が、心配そうな視線をヘロヘロに向けている。
一方、事情を良く知らないらしいクレマンティーヌが「ねえ? アインズ様……だと思うんだけど、女の人だったっけ?」とロンデスに囁きかけ、ロンデスは「至高の御方には深い事情がおありなのだろう。俺達は詮索しないことだ」と答えていた。
もちろん、モモンガには小声だろうと聞き取れている。
(ロンデス達には、俺の女体化について通知が行ってないのか? 外部からの雇い入れだから、情報の回りが遅いのかもな。それと、ロンデス……気遣いは有り難いが、逆に心に刺さるぞ……)
モモンガが食べているのはオムライス。
スプーンを握る手に力がこもるが、それでスプーンを曲げるわけにはいかないので、軽く深呼吸をする。そのタイミングで、ヘロヘロがきつねうどんの麺をすすり終え、モモンガの質問に答えてきた。
「やだなぁ、邪険にしないでくださいよ~。モモンガさんのことが心配だからに決まってるじゃないですか~。ロンデス達とは食堂前で会いましてね。……で? お相手は決まってるんですか?」
「決まってません。食べながらする話じゃないでしょーが。もう!」
プウと膨れるモモンガが妙に可愛らしい。
これでも本人は御機嫌斜めなのだ。
もっとも、キツく言いすぎたと思ったモモンガは、
「あ~……ロンデスが訓練で着ている黒い甲冑。あれは、ヘロヘロさんが王都でやってる武器防具店で用意したものだったか? どんな具合なんだ?」
ぶっきらぼうな物言いだ。しかし、ほわっとした気優しさを醸し出す女性が、男っぽく喋っているようにしか見えない。ロンデスは一瞬、スプーンを持つ手を止めて硬直したが、すぐさま、クレマンティーヌの肘が脇腹に入ったことで我に返っている。
「ロンちゃん、鼻の下を伸ばさない……」
「ぐぅ、そんなわけ……。し、失礼しました、アインズ様。甲冑及び剣などの装備は、最高の一言です。ナザリックを知る前なら、神器であると確信するほどですが……。実は、そうではないのですよね? ヘロヘロ様?」
女体化しているとは言え、ナザリック地下大墳墓の最高権威……モモンガ相手の会話は精神がすり減るのだろう。質問に対して回答しつつ、ロンデスはヘロヘロに話を振った。そのロンデスの気分が理解できるヘロヘロは、ニッコリ笑いながら頷いている。
「ロンデスは、ナザリックを良くわかってきたようですね~。そのとおり、お渡しした甲冑や剣はアダマンタイト主体です。ナザリックで運用する金属の中では、柔らかいと言って良いでしょう。ですが、一つ訂正しておきます。甲冑は特注モデルで、良い素材を混ぜています。例えばコキュートスに殴られても、一発ぐらいなら耐えられますよ。斬神刀皇で斬られたら真っ二つでしょうけどね~」
「おお、アダマンタイト主体なのに凄いじゃないですか!」
モモンガが感心する。
コキュートスのレベルとアダマンタイト鋼の硬度を考えると、これは驚くべき性能だと言って良い。もっとも、ロンデスの筋力ではコキュートスの打撃に耐えられない為、殴られたら吹っ飛ばされるであろう……とヘロヘロが付け加えたところ、モモンガは「駄目じゃないですか……」と盛り上がった気分を低下させた。
その様子が、これまた可愛らしい。
美人の可愛らしい姿は、男性のある層には直撃であり、ヘロヘロとロンデスは息を呑んだ。
「そ、それでも……ですが」
敢えて気にしない風を装ったロンデスが、クレマンティーヌの肘を警戒しつつ、モモンガとヘロヘロに笑いかける。
「素晴らしい武具には違いありません。私は……今、アインズ様やヘロヘロ様達の元で居られることを幸せに感じています」
「そうか、そういうものか……。ふむ……」
モモンガが周囲を見回すと、食堂内には一般メイドや、エクレア配下の男性使用人がおり、ロンデスの言うとおりだと何度も頷いている。
こうして一つの会話が終わり、皆の食事が進んだ。
……が、不意にクレマンティーヌがスプーンを置き、発言する。
「それで……アインズ様は、どうして女性の姿なんですか?」
ピキッと、場の空気が凍りついた。
(ほほう……)
どんぶりを持ち上げて汁を啜っていたヘロヘロは、どんぶりから口を離してニヤリと笑う。
(俺が、『女体化』云々を直接言わなかったのは、必要以上にからかって、モモンガさんを怒らせたくなかったからですが……。いいですね! もっと言ってやりなさい!)
無論、声に出していないが、ヘロヘロはクレマンティーヌを応援した。
ヘロヘロが『女体化』について突っ込んだ話題を展開すれば、モモンガは『ギルメン相手なりの不機嫌』になるだろう。しかし、クレマンティーヌのような、外部から雇った人間が相手であれば……モモンガは、それなりに対応するはず。少なくとも感情的に叱りつけたりはしないはずだ。
どのようにモモンガが対応するか、ヘロヘロはワクワクしながら続く展開を待った。
「く、クレマンティーヌ……」
沈黙は数秒ほど続いたが、最初に口を開いたのはモモンガ……ではなくロンデス。
「もうちょっと場所柄をわきまえて……」
声の震えを隠せないロンデスに対し、クレマンティーヌは「え~? だって気になるじゃん?」と口を尖らせた。しかし、ロンデスの難しい表情を見て、面白くなさそうな表情になるも……すぐにニンマリ笑って上体を倒し、左側……ロンデスとヘロヘロの向こうで座るソリュシャンを見た。
「イプシロン様も、アインズ様のお姿には興味がありますよね~?」
「えっ?」
この時、ソリュシャンは気遣わしげにヘロヘロを見ていたのだが、不意に話を振られてキョトンとする。これが自分に関する話題だったら、相手が人間のクレマンティーヌなので「あなたの関知するところではないわ」と塩対応をしたことだろう。いや、今は同じナザリックの一員なので、もう少し柔らかい物言いをしたかもしれない。
また、ここで大事なことは、質問内容がモモンガに関するものであること。
突き放すような物言いはできない。
そして、このソリュシャンの反応はヘロヘロ的に大当たりだった。
(死に目クールビューティーの虚を突かれた表情! 最高です! ツボですよツボ! クレマンティーヌ、よくやりました! これは建御雷さんに頼んで、装備のグレードアップをしてあげるべきでしょう!)
密かにクレマンティーヌの強化が決定されたところで、ソリュシャンが気を持ち直す。
「そ、そうね。ナザリックの
同じテーブルで居るヘロヘロとロンデスも、特に文句はない。
聞いたクレマンティーヌにしても、やはり文句はなかった。何故かと言うと、話を振ったソリュシャンから否定や叱責の言葉が出なかったからだ。そうなると、後はモモンガによる回答を待つのみとなる。
一方、質問された側のモモンガは、当然ながら面白くなかった。
何故なら、ソリュシャンは元からナザリックの一員なので、外部から雇い入れたクレマンティーヌと違い、モモンガの女体化に関する通知を知っているはずだからだ。それだけでなく、ヘロヘロから事情を聞かされている可能性も高い。
(こんな時に模範解答しないで、俺の代わりに説明してくれよな~)
とはいえ、そこまでの
モモンガは小さく溜息をついた。質問された以上、モモンガとしては何らかの回答をしなければならない。また、同じテーブルにヘロヘロが居るので、上位者として質問を封殺するのはマズい……とも考えていた。
(他のギルメンに、どんな風に噂を流されるかわかったもんじゃないし……)
結論、素直に自分の口で説明する。
ちなみに、ナザリック内における、モモンガの女体化についての通知内容は次のようなものだ。
『ギルド長(アインズ・ウール・ゴウン)は、現在、アイテム実験により人化時の姿が女性となっている。ナザリックの
つまり、モモンガが
モモンガ一人では解決できないこと……女性特有の問題もあるだろうからだ。
(ともかく! この通知内容から逸脱しないよう、クレマンティーヌに説明しなくては……)
モモンガは舌で唇を湿らせると、興味深そうにしているクレマンティーヌを見て、口を開いた。
「
何も間違ったことは言っていないはずだ。
モモンガはフウと息を吐いたが、クレマンティーヌの様子は……と見たところ、彼女の興味深そうな雰囲気は消えていない。
「なるほど。良くわかりました。それで、ふと思ったんです。もし、私の性別が変わって、自分が男になったとしたら……と」
「ほう……。興味深い考察……と言って良いのかな?」
モモンガは純粋に興味を持った。女性視点での性転換について、人間であるクレマンティーヌの見解が聞けるのなら、今の自分にとって何かの役に立つかもしれないからだ。
「それで、どう考えたのだ?」
少し上向きになった気分で聞くモモンガ。その彼に対し、クレマンティーヌは人差し指を立てると……珍しく真面目な表情で言った。
「おトイレや入浴の時に、新鮮な感覚が味わえるのでは……と」
◇◇◇◇
昼過ぎ。
晴天下の聖王国で、ペロロンチーノは大きく伸びをした。
今立っている場所は騎士団の訓練所で、ペロロンチーノ自身は冒険者ペロンとして行動中だ。なお、お供としてシャルティア・ブラッドフォールン(日傘装備)が同行している。
ギルメン会議の後、シャルティアを呼んで<
このことについて以前、ネイアとは約束しており、父親のパベルの了承も得ている。妙にパベルが乗り気だったのが、ペロロンチーノとしては気になるところだが、とにかくネイアを弓使いとして強くすればいい。それ以外は、あまり考えないことにした。
「……う~ん、開放感! 良い天気だし、空とか飛びたくなるね!」
「仰るとおりでありんすえ! ペロ……ン様!」
元気よく言うシャルティア。しかし、ペロロンチーノの偽名に慣れていないのか、呼び方がぎこちない。これでは、弐式炎雷を呼ぶときのナーベラル・ガンマのようだ。
ペロロンチーノとしては早く慣れて欲しいと思う一方で、こういうシャルティアも可愛いと思っている。言い終えてから、自らの失態を恥じるように口元を押さえる姿など、ペロロンチーノにしてみれば、御飯三杯はいける可愛さだ。
「ペロンさーん!」
訓練場の入口から、騎士団従者のネイア・バラハが駆けてくる。
弓を持ち、矢筒を背負っている姿は、遠目に見てもやる気十分だ。
「ちっ!」
嫌そうに舌打ちしたのはシャルティアだったが、気がつかないペロロンチーノは、目深に被った帽子のひさしから半目でネイアを視姦……ではなく、観察する。
(うむ。細身であり、大きく揺れる程ではないオッパイ。
茶釜に聞かせたら五回は殺されそうなことを考えつつ、ペロロンチーノは最近弟子になったばかりの少女を待った。
その隣では、シャルティアが変わらぬ鋭い視線でネイアを睨んでいる。
もちろん、ネイアを注視するペロロンチーノは気づかなかった。
女体化したモモンガさんは、モテる。
というのを自分でも書いてみたかったわけでして……。
読みたいなら自分で書くを実践してみました。
もう一つか二つエピソードを入れたいかもです。
感想リクエストの2番目は、血風連さんによるネイア関連のお話です。
今回、食堂シーンで行を使ったので、諸々次回に持ち越し。
モモンガさんが元に戻る頃に亜人と決戦できれば……というのが、今のところの構想。
どうなるかは未定ですが……。
<誤字報告>
D.D.D.さん、佐藤東沙さん
毎度ありがとうございます