オーバーロード ~集う至高の御方~   作:辰の巣はせが

114 / 133
第114話

「いや、すまなかったな。急に押しかけて……」

 

「い、いえ! すまないだなんて! どうぞ、ゆっくりしていってくだ、ください!」

 

 用意されたクッションに座る、ガチ装備の骸骨……モモンガに対し、闇妖精の女装少年……マーレが慌てて手を振った。合わせるように首も振っているが、その小動物的愛らしさにモモンガはホッコリする。

 モモンガが転がり込んだのは、ナザリック地下大墳墓の第六階層。その中にある巨大樹だ。そこにはマーレと、彼の姉であるアウラの居住区があり、タブラ達の追及……アルベドとのベッドイン遂行要望からの避難先として、モモンガが選んだ場所でもある。

 

(ここに逃げ込んだことは、もうバレてるんだろうな……)

 

 モモンガには徹頭徹尾逃げ切るつもりはなく、気が落ち着いたらアルベドに会いに行くつもりだった。

 

「ぼ、僕、お茶の用意をしてきますね!」

 

「あ、ああ、うむ……」

 

 死の支配者(オーバーロード)はアンデッドなので、飲食の必要はない。そしてモモンガの外見的デザインの問題から、飲食をしても下顎あたりから落ちてしまう。にもかかわらずモモンガがマーレを止めなかったのは、この世界に来た自分が人化アイテムを運用しているからだ。

 もっとも、現状、人化をすると彼は女性化してしまうのだが……。

 

(それを解決するためには人化……女性化した状態でアルベドと……。ああ、そこに行き着くんだろうけど嬉しいやら、いざとなったらやっぱり腰が引けるやら。あと、やっぱりアルベドに申し訳ないし! アルベドが納得してくれてるのは本人と相談してあるから確認済みなんだけど、でもな~……うん? 木の香り……) 

 

 大仰なガチ装備のまま座るモモンガは、漂う木の香りに気が向く。

 巨大樹の中なのだから、そういった香りがするのは当然だが、モモンガは何となく落ち着くような気がした。

 

(木の中か……木造家屋というのもイイかもしれないなぁ……)

 

 落ち着くと同時に懐かしい気にもなる。元の現実(リアル)に居たときだって、木造家屋に住んだことはないし、営業先でも見たことはなかったのに……。

 

(大昔の日本は木造家屋が多かったって、何かの記録映像で見たっけ……)

 

 そのようなことをふと思う。そして、暫くしてマーレが戻って来た。両手でトレイを持ち、おぼつかない足取りで入室してくる。何ともか弱く頼りない様子だが、これはそのように振る舞うよう創造されているからで、必要な場合にはキビキビと動けるのだ。

 そうして小さな円テーブル(座卓)にトレイが置かれる。載っているのは、二人分のティーセットと、クッキーなどの焼き菓子だ。

 

「ど、どうぞ! です!」

 

 上擦った声はモモンガの対面……ではなく、右斜め後ろで聞こえる。モモンガは首を回すと肩越しに骸骨顔を向けた。

 

「なぜ……そこに立つ?」

 

「あ、アインズ様がお座りになっているときに、僕が座るわけにはいかないからです!」

 

 真剣。まさしく真剣な顔でマーレが言うので、モモンガは気圧されてテーブル側に上体を寄せる。

 

(言い負かされそう! だが!)

 

 小市民感覚の持ち主であるモモンガにとって、自分が紅茶を飲み茶菓子をつまむ際、後方に人を立たせておくというのは許容できる感覚ではない。平たく言えば『落ち着かない』のだ。

 

(百歩譲って、飲食店のウェイトレスさんなら! いや、それでも駄目だ!)

 

 ともかく、マーレを移動させなければならない。移動先は円テーブルの対面一択だ。

 

「マーレよ。私はな、自分一人でなら一人なりに茶を飲んで菓子を食べようとも。しかしだ、同じ部屋に親しい者が居て、一人で飲み食いする趣味はないのだ。よって、お前の待機場所は私の右斜め後方ではなく、対面席となる。わかるな?」

 

「し、親しい者!」

 

 斜め下から来るモモンガの視線を受け止め、マーレの心臓が跳ね上がる。モモンガの言わんとするところは、かろうじて理解できた。が、今のマーレの脳内は『親しい者』というモモンガの声で埋め尽くされている。

 

(はわぁああああ! アインズ様が、アインズ様が僕のことを『親しい者』って! こんな過分で身に余って、嬉しくて過分なことって、あっていいの!? いいのぉ!?)

 

 嬉しさのあまり、思考が支離滅裂だ。

 ナザリックの(しもべ)にとって、ギルメン……至高の御方に構って貰えることは至上の喜び。そこへ『親しい』などと言われた日には、このマーレの反応も無理ないことであった。 

 その後、ふらつく動作でマーレが対面に座り、モモンガは「うむ」と頷いてから、ティーカップに手を伸ばす。

 

「おっと……異形種の姿のままだったか」

 

 このままでは飲食ができない。「これはウッカリだな」と笑いながら人化したところ、対面のマーレが「あっ……」と声をあげた。マーレの前で座るのは、死の支配者(オーバーロード)……ではあるが、今はもう骸骨ではない。モモンガが人化し、その姿が女性体となっているのだ。

 

「むう!」

 

 マーレの反応を見たモモンガは、そう言えばそうだった……と思いつつ、気優しげな顔立ちを困り顔にしながら微笑む。

 

「ナザリック内には通知されているが、このとおり、今は人化すると女性になってしまってな。見苦しいかもしれないが、許して欲しい」

 

(どうだ、納得してくれたか?)

 

 微笑みながら様子を伺うも、マーレは硬直したままであり微動だにしない。

 口を半開きにしてモモンガを凝視しているが、惚けたような表情でもマーレほどの美少女……美少年になると、絵画のように美麗だった。

 ……。

 ……マーレが、まだ復活しない。

 さすがに心配になったモモンガは、テーブルに上半身を乗り出す。

 大きな乳房がユサッと揺れ、その感覚が煩わしい。

 

(邪魔だな……)

 

「マーレ、どうかしたのか?」 

 

 努めて優しく問いかけたところ、マーレが反応を示した。

 まず、その形の良い鼻から一筋の血が垂れて落ちる。

 モモンガは、「何かの攻撃でも受けたか!?」と血相を変え、手を伸ばそうとしたが、そこから逃れるかのようにマーレが遠ざかった。これは逃げたのではなく、座ったまま後方に倒れたのだ。そして彼の頭部が床に落ちると同時に、プシッと鮮血が噴き上がる。

 

「ま、マーレぇええええ!?」

 

 呼んだ名前の発音が、後半から悲鳴に変わった。

 立ち上がったモモンガがテーブルを回り込んで駆けつけると、マーレは完全な失神状態。

 

「くっ……いったい何が! ……あっ」

 

 立ったままマーレを見下ろしていたモモンガ。その視線がマーレから自分の胸元にスライドする。そこに見えたのは、胸元が大きく開かれたローブと、こぼれ出そうになっている乳房。普段、死の支配者(オーバーロード)の時は、みぞおち辺りにあるモモンガ玉を見せつけるべく、ローブの前を開けているのだが……。

 

(そのままで人化したのがマズかったか~)

 

 いそいそと胸元を閉じる。

 ようするに、マーレはモモンガの過度な露出に興奮して失神したのだ。至高の御方の、それも異性の露出となれば、マーレも耐えることはできなかったらしい。

 

(ギルメンが相手の時は気をつけてたけど、マーレが女装美少年だから気にしなかったんだな~。きっとそうだよ! そうに違いない!)

 

 自分の迂闊さに呆れる一方で、誰に対してのものか言い訳がましいことを考えてしまう。

 

「……でも、俺のせいだよな~」

 

 モモンガは嘆息しつつ、マーレの回復に努めた。

 治癒のポーション……興奮して倒れるというのはポーションで治るものなのだろうか。

 精神安定系の魔法……こちらもポーションの持ち合わせがあったが、今ひとつ前例(鼻血を噴いて倒れた者を回復させられるかどうか)に覚えがないので保留。これ以上、妙なことになったのではたまったものではない。

 

「結局は興奮しての失神だから、大丈夫……なはず?」

 

 モモンガは元人間だ。元の現実(リアル)において、子供の頃に鼻血を出して寝込んだことくらいある。ましてや、マーレはレベル一〇〇だ。大したことはないと思われるが、手当や介抱は必要だろう。

 

「鼻血は止まっているな? 取り敢えずハンカチで顔を拭いて、寝かせておくか……。何か枕代わりの物は……」

 

 正座を崩して座り込む(今の身体だと、その方が座りやすい)モモンガは、肩を落として天井を見上げる。その視線が床に落ちて、マーレが座っていたクッションに移るのだが……。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「茶釜様~。ぶくぶく茶釜様~」

 

 創造主の名を呼びながらマーレが駆けている。

 空は青空だが、周囲は白いもやが見えるのみ。明らかに現実世界の風景ではないが、マーレは一切気にしていない。満面の笑みで駆け続けていた。視線の先に茶釜が見えているわけでもないのに……である。

 とはいえ、その『茶釜』は唐突に出現した。

 マーレの前方、もやの晴れ間に野原があり、そこでピンクの肉棒が鎮座している。身体(?)の下部がクッション状になっていて、マーレの姉……アウラが両肘を畳むように置いて寝そべり、ニコニコしているのが見えた。

 

(お姉ちゃんばかり、ずるいよぉ!)

 

 嫉妬の気持ちが湧き上がる。

 至高の御方である茶釜は、自分と姉の創造主。姉一人で独り占めして良いはずがないのだ。

 目尻に涙が浮かぶ……が、そのマーレに対し、茶釜が触腕状の粘体を持ち上げて手招きするような仕草を見せた。

 

(僕も行っていいんだ!?)

 

 弾けるような笑顔を浮かべマーレが茶釜に駆け寄る。一瞬、先客たる姉のことが気にかかるが、アウラは茶釜の身体を膝枕のようにして寝そべったまま、立っている弟を「困った子だね~」と笑いながら見上げていた。

 姉も嫌がっていない様子。

 もはや、誰に遠慮することもない。

 マーレは茶釜に誘われるまま、アウラの対面側に飛び込んだ。

 あったかくて、ぷるんぷるん。

 寝心地が極上すぎであり、マーレは魂が抜けそうになる。

 

「マーレ? そんなに寝心地がいいの?」

 

 問いかけてくる茶釜の声は、鈴の音のように鼓膜を揺さぶり、それがまたマーレを幸せの境地へと誘った。しかし、至高の御方かつ創造主の声に対し、無反応で居ることは許されない。

 マーレは握った拳を胸前で合わせながら、ギュッと目をつむって叫んだ。

 

「は、はいい! 最高に幸せです!」

 

 その悲鳴のような声に、膝枕の主は苦笑気味で対応する。

 

「そうか。それなら良かった」

 

 声が……女性の声ではあったが茶釜の声ではない。

 

「ふえっ!?」

 

 反射的に目を開いたマーレが真上を見ると、そこに居たのはピンク色の粘体……ぶくぶく茶釜ではなかった。だがそれは、最近になって見知った『女性の顔』。優しげに微笑み、マーレを見下ろしている。

 マーレは、その名を掠れた声で呼んだ。

 

「アインズ……様……」

 

 

◇◇◇◇

 

 

 モモンガは今、横座りをしている。

 いわゆる『女の子座り』だ。見た目は良いが、骨盤と背骨を歪ませてしまう危険な座り方。しかし、モモンガは人化していても人間よりは耐久力が高いので、問題とならない。

 そして、その左向きに倒された左の太ももには、マーレの頭部が載せられている。いわゆる膝枕というやつだ。

 マーレが倒れた際、この部屋にはモモンガとマーレが使っていたクッションがあったが、ふかふかすぎてマーレを寝かせると頭部が沈み込んでしまう。そこで、やむなく膝枕を行うこととなった。もちろん、前述したとおり人化した状態でだ。

 

(女の胸を見てマーレは倒れたんだから、死の支配者(オーバーロード)になった方がいい気もするんだけど……それだと太ももに肉がないしな~……)

 

 何やら幸せそうなマーレの頭を撫でつけながら、モモンガは視線を天井に向けた。

 

「ん、う……。アインズ……様」

 

「おお、気がついたか。マーレ!」

 

 小さな声を聞き取り下を向くと、仰向けになったマーレと目が合う。マーレは目を見開いて硬直しているが……。

 

「どうかしたか? まだ体調が悪いのか?」

 

「ふ、ふぇえええ!? はひ、はいんず様の膝枕で僕っ!」

 

 質問に答えることなくマーレは両手で顔を覆い、太もも上で身をよじった。より具体的には、グリングリンと左右に寝返りを打つ状態だ。

 

「あ、こら! 太ももの上で、そんな……ちょお!?」

 

 女性体でいると妙に敏感なため、モモンガは上体を反らしたが、それでもマーレを放り出すわけにいかず、モモンガは頬を赤くして困り顔となる。が、その声を聞いてマーレが動きを止めた。

 

「はう! 僕、アインズ様に御迷惑を~~っ!!」

 

「いやもう、そういうの良いから……」

 

 そっと伸ばした掌をモモンガはマーレの額に添える。

 

「熱は……ないようだな。まあ、暫くはこうしているといい。言っておくが、迷惑ではないからな?」

 

 こう言い含められるとマーレも大人しく従うしかない。至高の御方からの勅命……任務だと受け止め、キリッとした表情になるが、すぐに長く尖った耳がヘニョッと垂れ、表情が緩んだ。

 

「はうううう、幸せすぎて真面目を維持できませんよぅ」

 

「膝枕中に何を気張ろうとしてるんだ。もっと気を楽にしろ……」

 

 呆れ口調で言うモモンガは、ふと思い当たって心配げにマーレを見る。

 考えてみれば、マーレが倒れたのは服の前を開けたまま人化したモモンガが悪いのだ。

 

「すまなかったな。人化するにあたっては身だしなみ……いや、服の着こなしか? 気を配るべきだったのにな」

 

「あ、アインズ様が! アインズ様に悪いところなんて一つもありません! 僕がだらしなかったからで! 次からは、こうならないよう気をつけます!」

 

 必死で訴えるマーレを見て、モモンガは可笑しさを覚える。気をつけると言っても、どう気をつけるのか。女性の裸体に慣れる訓練でもするのだろうか。

 

(マーレが正座しながらエロ本を読む姿とか、考えただけで笑える。いや、微笑ましいのか?)

 

 困り顔で小首を傾げたモモンガは、一つ咳払いして気を引き締めた。

 

「しかし、そんなに興奮するようなモノか?」

 

 モノというのは、マーレが昏倒する原因となったもので……人化した女性モモンガの両乳房のことだ。

 死の支配者(オーバーロード)でいるとき、モモンガは性欲が希薄となる。だが、人化すると、それは人間並みとなった。ゆえに、女性の裸体に対し、男性たるマーレが興奮すること(マーレの場合は、対象が至高の御方ということが大きいのだが)についても理解がある。

 ここでモモンガが不可解に思ったのは、自分の乳房……裸体が、男性にとっての性の対象になり得るかどうかだ。

 

(だって人化して女になってもさ、俺の正体は男だよ? 男の胸を見たって、それで何が嬉しいわけ? さっぱりわからん)

 

 ここでモモンガは客観的に考え、ペロロンチーノ達の反応を思い出してみる。彼らの反応からすれば、十二分に女として意識されてはいるのだろう。直近で花を背負う珍スキル(?)まで発現したし、女になったモモンガが魅力的であるのは間違いない。改めて首を傾げることではないのだ。

 ……と『理解』したものの、やはり『自分の身体』である。

 モモンガには『納得』しがたいものがあった。

 

「俺の……コレが……ねぇ?」

 

 言いながら、何とはなしに下から左乳房を持ち上げる。

 柔らかくて重い。それに触れただけで、何やら背筋を走る感覚があった。

 その一方で、モモンガには『自分の胸板』を触ってるような印象も存在する。 

 

(精神的に女になったら、こういう疑問とかなくなるのかな? って、そんなの嫌だし。もう、色々と難儀だな~。……あ、俺、ノーブラだったっけ……)

 

「きゅう……」

 

 何やらか細い声が聞こえた。

 

「むっ? あっ……」

 

 胸が邪魔で見えにくいが、太もも上のマーレが再び目を回している。

 

「はにゅうう。は、はひんずしゃまのおっぱひ……」

 

「乳とかいじってる場合じゃなかったか。今度は……鼻血は出ていないようだな……」

 

 さっきの今で二回目となると、モモンガも落ち着いた反応だ。

 もう少し寝かせておこう……と、マーレの頭を撫でつけていたところ、遠くの方から足音が聞こえてくる。それはバタバタと慌ただしく部屋前まで来ると、ノックもなしで扉が開かれた。

 

「マーレ、居るーっ? 今、ぶくぶく茶釜様が……。あっ……」

 

「あっ……」

 

 扉を開いたのはマーレの姉、男装女子のアウラだったが、その彼女はマーレに膝枕をしているモモンガと目が合って硬直している。モモンガはというと「あっ……」と声は出したものの、こちらはマーレの頭を撫でる動きを止めていない。

 二人は、おおむね停止していたが、先に再起動を果たしたのはアウラ。彼女は背後に向けて向き直ると、モモンガ視点で右方向に向けて呼びかけた。

 

「茶釜様ぁ! 大変です! アインズ様がマーレに膝枕してます!」

 

「うぉおおおいっ!?」

 

 何てことを報告しているのか。

 モモンガは声をあげたが、その声は完全に裏返っていた。

 

(それに、茶釜さんが近くに居るのっ!?) 

 

 少し離れたところから聞き覚えのある声が届く。

 

「それって死の支配者(オーバーロード)で~? それとも人化してる~?」

 

「人化してま~~~す!」

 

 モモンガの顔が引きつった。

 

(いかん、逃げなければ! 悪いことしてるわけじゃないけど、なんだか逃げなきゃいけない気がする!)

 

 だがしかし、モモンガの太もも上では気絶から睡眠に移行したマーレが居て、寝息を立てているのだ。これでは転移門(ゲート)ギルドの指輪(リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン)で逃げることはできない。

 

(そっとだ! そっとマーレの頭を降ろして……)

 

 女装美少年の頭部に手を添えようとしたところ、マーレの手が素早く動き、モモンガの太ももにしがみついてきた。

 

「んう~、アインズ様~……」

 

「ね、寝てるんだよな? 本当に寝てるんだよなぁ!?」

 

(んもぉおおおお! 俺、どうすればいいの!?)

 

 困り果てている間にタイムリミットが訪れる。

 ナザリックで認知される『モモンガの第三夫人候補』……ぶくぶく茶釜がピンクの肉棒、もとい粘体の姿で登場したのだ

 

「確かに膝枕……。いくらダーリンでも、私のマーレにお触りするには本人と私の許可が……」

 

 圧のこもった声で言う茶釜だが、言い進めるにつれて声のトーンが平坦化していく。カマキリの鎌のように構えていた触腕状の粘体二本も、スッと下に降ろされた。

 扉付近で立つ茶釜とアウラは、ジッとモモンガ達を凝視するのみ。

 

「あの……茶釜さん?」

 

 モモンガは戸惑う。

 この状況と展開で、突然に空気が固まる要素があっただろうか。疑問に思うが、その答えを茶釜が口走る。

 

「なにこれ、超エモい!」

 

「凄く古い表現ですよね、それ!?」

 

 百年以上前の流行語だっただろうか、最古図書館の漫画データで見たことがあるな……などとモモンガが考えていると、茶釜が素早く這い寄ってきた。そしてモモンガの眼前にピタリとつけると、モモンガの顔を見て、マーレを見て、再びモモンガを見る。

 

「ダーリン……いやさ、モモンガさん」

 

「はい。って、どうして言い直したんです? 別に良いんですけど」

 

「膝枕……羨ましい……」

 

「はいっ!?」

 

 モモンガは驚いたが、茶釜は構わず喋りだした。

 ガチ装備の黒髪短髪お姉さんが、女装美少年を膝枕して愛でてるとか、なんたる尊さ。

 自分もやって欲しい。

 普段は愚弟のことを厳しく締めてるけれど、こればかりは別腹。弟は駄目でも姉なら許される真理。姉だから許されるんです!

 

「というかね! ずるい、マジで羨ましい! モモンガさんの恋人なんだから、私も膝枕して欲しい! それぐらいねだっても良いと思うの!」

 

「い、いつもの茶釜さんじゃない!?」

 

 太ももにマーレの頭を乗せたまま、モモンガは上半身だけで茶釜から身を逸らした。もっとも、それで取れた距離は十数センチ程度で、あまり意味はない。

 

「他の人達と、交際相手とじゃあ接し方は違うんですぅ! だからモモンガさん、私にも膝枕~~っ」

 

 迫るピンクの肉棒。その後方では、アウラが人差し指をくわえて何かを訴えかけている。

 こうなった以上、モモンガに拒否する選択肢はなかった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「あ゛~……癒やされるわ~……」

 

 この温泉に浸かったオッサンのような声は、ぶくぶく茶釜のものだ。

 彼女は異形種化したまま、モモンガの両膝に頭頂部を載せて寝そべっている。美人女性の膝にピンクの肉棒。大変な絵面だが、モモンガの膝枕を堪能しているのは茶釜だけではない。

 右太ももにアウラ、左太ももにマーレが頭を乗せており、三人ともがモモンガの膝を枕にしていた。なお、アウラとマーレは、だらしない顔で寝息を立てている。

 

「茶釜さん。正面で良かったんですか? 太ももじゃなくて膝だし、ゴツゴツしてますよね?」

 

「それはそうなんだけどぉ、膝と膝に挟まれてるって、なかなか良いものなのよん」

 

「はあ……」

 

 そんなものなのかな……と、モモンガは眉をハの字にしながら苦笑した。

 立場が逆になって、自分が人化した茶釜の両膝に頭をのせたとする。その様を想像すると、何となく気恥ずかしさを感じ、モモンガは困り顔で頬を染めた。

 

(この部屋に逃げ込んでから困ってばかりだな……)

 

 嫌なことをされての『お困り』ではないため、悪い気はしない。

 そして、元々逃げ込んできた理由、『アルベドとのベッドイン』について、そこまで悩んだり焦ったりという気持ちがなくなってきていることにモモンガは気づいた。

 

(息抜きができて気が落ち着いたのか……)

 

「ねえ、ダーリン?」

 

 茶釜がダーリン呼びした瞬間、両膝に乗る感触が変化したので、モモンガは茶釜を見る。そこでは人化した茶釜が居て、モモンガを見上げていた。

 

「少しは気が晴れた?」 

 

「茶釜さん……最初から俺のために……ってわけじゃないですよね?」

 

 一瞬、タブラから何らかの要請をされた茶釜が、モモンガの様子を見に来たのかと思ったのだが……。

 

(茶釜さんなら、タブラさんの要請とか断りそう……)

 

 特に根拠はないが、そうモモンガは考える。

 茶釜はというと、嬉しそうに微笑んだ。

 

「交際相手のことを理解してくれてて嬉しいわ~。他のギルメンのことでならともかく、ダーリンのことだしね~。内容にも依るけど、基本的にモモンガさんの肩は持っちゃうわぁ~」

 

 そう言って笑うと、茶釜は話を続ける。

 

「そもそも、ここに来たのはアウラを送ってきただけだし。偶然よ、偶然。でも……何か困ってたんでしょ? その何かってのも、まあアレだわ、アルベド関係かな……と思うんだけど」

 

 ここで茶釜の雰囲気が変わった。

 悪戯っぽく話していたのが、急に真面目な表情となってモモンガを見上げてくる。

 

「ねえ、モモンガさん。その状態でアルベドとするのって……嫌なの? そうじゃないわよね? きっとそう、戸惑っているだけなんだと思う。でもね、私は、モモンガさんを急かしたりしない。少し前に、アルベドを急かしはしたけれど……」

 

 言っている茶釜は、どことなく歯切れが悪い。

 これもまた、いつもの茶釜らしくない……が、やはり自分を差し置いて『アルベドとの行為』をすすめるのは、複雑な気分であるらしい。

 そのことを察したモモンガは、自分がグダグダしているせいで茶釜やアルベドに迷惑を掛けているとして罪悪感を覚えた。

 

(……逃げてる場合じゃなかったんだよな……)

 

「とか言っちゃってさぁ……アルベドに先駆けて行動に出るのは、やっぱり嫌だし。だけど、とっとといたしちゃって順番を回して欲しいって気もあるしぃ……。んん~……やっぱりモモンガさんを急かしたくなってきたかな……」

 

「すみません……」

 

 モモンガが一言謝ると、茶釜は苦笑した。

 

「謝って欲しくて言ったんじゃないし、モモンガさんが謝ることでもないわよ。でも、少しは背中を押せたかしら?」

 

 膝上の茶釜がウインクする。

 それを見たモモンガは胸が高鳴るのを感じたが、目を細め、微笑みながら頷いた。

 

「そう……ですね。すみません、俺……行きます」

 

 どこへ行くのは問うまでもない。

 茶釜は瞳を閉じて頷くと身体を起こし、アウラとマーレを呼んで起こした。

 

「茶釜様……おはようございまふ……」

 

「お姉ちゃん、よだれ垂れてるよ……」

 

 そう言うマーレも、口元にはよだれの跡が見える。

 

「よし……」

 

 全員が身体を起こしたので、モモンガは身体を起こした。

 そして、おもむろにこめかみに指を当てると<伝言(メッセージ)>を発動する。

 

「アルベドか? 今人化してるので解りづらいかもしれんが、モモンガだ。今……何処に居る?」

 




御無沙汰しています。
今回、1万文字超えられなかった。
時間が~……。

今回、感想でアイデアを頂いた『アインズ&マーレ』をメインで書きました。

あとは……『モモンガ&ルプスレギナ』でしたっけ?
女体化モモンガさんとの絡みには不参加かな……。
でも、アバターの性別変えるアイテムぐらい普通に有りそうだし
運営チェックが無い世界ならいけそうかもですね。

さて、次は7月中に投稿できるかな……。


<誤字報告>

D.D.D.さん、kubiwatukiさん、tino_ueさん、佐藤東沙さん

毎度ありがとうございます
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。