オーバーロード ~集う至高の御方~   作:辰の巣はせが

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第115話

「……」

 

 アルベドに向けて<伝言(メッセージ)>を飛ばしたモモンガ(人化中なので女性体)であったが、アルベドの「はい! (わたくし)、モモンガ様の! ……アルベドです……」というハイテンションで始まって、スンと終わる応答に言葉を失った。

 

(精神の安定……じゃなかった停滞化か。最近は馴染んできたって聞いてたけど、やっぱり影響は消えてないんだな~……)

 

 申し訳なく思う。だが、このことについてはアルベドとは相談済みで、アルベド本人が納得している状態だ。加えて言えば、アルベドの創造主であるタブラ・スマラグディナの了承も得ている。

 だから、モモンガは正座のまま背筋を伸ばすと、要点だけ述べようとした。

 

「ようやく覚悟ができたと言うか、決心がついたと言うか……その気になった……と言いますか……ですね」

 

 まったくもって要点だけではない。

 言い進めるにつれ、言葉から威厳が消え去っていく。

 そもそも、自身の女性化の解消にあたり、女性化したままアルベドと同衾することについては、アルベドは了解しているのだが……。

 

(ああもう! 俺ときたら! ここでグネグネと言い淀んでいてはアルベドに失礼だし、俺の男がすたる! 今は女だけどな!)

 

 内心で吠えるも、ここはアウラ達の私室。

 少し離れた場所で並んで座って居る茶釜達からは……。

 

(「ダーリン、頑張れーっ! 早く済ませて、私の順番を頼むわね~っ!」)

 

(「お、お姉ちゃん? アインズ様、アルベドさんとお話ししてるのかな?」)

 

(「そうみたい。う~む、これはドキドキする展開だわね。将来に向けて参考にしよっと!」)

 

 興味津々の視線と小声が飛んでくる。

 

(茶釜さん、圧が、圧が~っ! それとアウラ、何の参考にする気!?)

 

 こめかみに指を当てたままのモモンガは、泣きそうと苦笑の混じった困り顔で通話を続けた。

 

「い、今は私室か? そっちに行っていいだろうか?」

 

「もちろんです! ……お待ちしていますね?」

 

 ハイテンションで了承した直後、しっとりと落ち着いた物言いで付け加えてくる。先程連絡を取ったときのスンとした終わり方でないのは、アルベドの方で精神停滞化の入るタイミングを計ったからだ。つまり、精神の停滞化が解除されるタイミングで、精神停滞化が発生しない程度に気分を盛り上げ直したのである。

 ともあれ<伝言(メッセージ)>は終了した。後は、決戦の場へと赴くのみ。

 モモンガはすっくと立ち上がると、ギルドの指輪(リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン)をはめた手をギュッと握りつつ、茶釜達を見た。

 

「茶釜さん。行ってきます……」

 

 そう言い残し、モモンガは姿を消す。

 見送った茶釜は、粘体を触腕状に伸ばすと、近くのアウラと、その向こうのマーレの頭を撫でた。うっとり顔になる姉弟を見やりながら、一息吐いて彼女は呟いている。

 

「私の時も、あんな顔で来てくれるのかしらね~……」

 

 

◇◇◇◇

 

 

 モモンガはギルドの指輪(リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン)で転移した。

 モモンガの私室の、一つ飛んだ隣にあるアルベドの私室。その前が転移先だ。アルベドは許すどころか喜ぶだろうが、モモンガには女性の私室内へいきなり転移するという選択肢はない。

 最強装備ではなく、紫がかった黒ローブに装備替えし、モモンガは扉に向けて咳払いをした。

 

「あ、あ~……ゴホン。アルベド、私だ。モモンガだ」

 

 人化しているので女声だが、さっき<伝言(メッセージ)>で話したばかりだ。室内のアルベドは迷いなく「はい! ……お待ちしていました」と返事をする。一瞬の間があったが、やはり精神の停滞化が発動しているらしい。

 

「う、うむ、それでは失礼する……」

 

 許可を得て、おっかなびっくり入室したモモンガは、アルベドの私室をまず見回してみた。

 基本的にはギルメンの私室と同じ仕様で、そこにタブラが用意したであろう応接セットが用意されている。奥には執務机もあり、入室してすぐの家具等の配置はモモンガの部屋と似ていた。

 

「う~ん、ふむ……」

 

 アルベドは入ってすぐの場所で立っていたので、モモンガは二人きりということもあり、フランクな口調で聞いてみる。

 

「俺の部屋と……間取りを合わせてるのか?」

 

「愛する方との一体感を高めるためですわ」

 

 即答だが、愛の重さを感じたモモンガは数センチ身を引いた。

 

「そ、そうか……。それで、その……」

 

 お前と俺で……女同士のエッチを行いたい。

 覚悟を決めたとは言え、ストレートに言える度胸がないモモンガは、アルベドから目を逸らすと、大きな胸の下で手の指を組み合わせてモジモジしだす。

 むやみやたらに可愛らしい。

 これだけでもアルベドは鼻血噴出ものだが、ここに『追加の演出効果』が入った。

 モジモジしだしたタイミングで背後に百合の花が咲き乱れ、アルベドに対して精神的なダメージを与えたのだ。

 

(タブラ・スマラグディナ様から<伝言(メッセージ)>で教わってたけれど、これが乙女のオーラ! ああああ、モモンガ様! ……なんて、美味しそうなのかしら……) 

 

 精神の停滞化が発動したが、冷静になった分、思考が危ないことになっている。しかし、すぐさま飛び掛かってモモンガを『捕食』することはしない。それをやると、モモンガの心が自分から離れていくことが理解できているからだ。

 モモンガは奥手なので強く迫ってはいけない……というタブラの教えが、アルベドの暴走を抑制する一助となっているのもあるだろう。

 

(焦ってはダメ……。男性に戻ったモモンガ様が、御自身の意思で(わたくし)を御賞味くださるよう、上手く事を運ばなくちゃ……。タブラ様も、女のテクニックの見せどころだと仰ってたもの! くふふ~っ)

 

 タブラによる設定が現実化した結果、設定どおりの高知能を誇るアルベド。その彼女が選択した、次なる一手とは……

 応接セットで差し向かいで『お茶をする』こと……である。

 

(いたすまえに、じっくりたっぷり視姦……ではなく鑑賞させていただかないと! それと、お触りも! ……ふう、なにしろ二人きりなんですもの……)

 

 実に(よこしま)かつ淫ら。だが、それもこれも(アルベドの主観において)モモンガに対する愛ゆえなのだ。

 そういった痴女的捕食者の思惑に気がつかないモモンガは、勧められるままソファに腰掛けていたが、「お茶の用意をしますので」と言ってアルベドが席を外し、トレイにティーセットを載せて戻ってくると、感心して小さく声をあげた。

 

「アルベドにお茶を入れて貰うのは、よくあるけど……。なんかこう、良いものだな。いつも思うけど様になってるのがいい……」

 

 何の偽りもなく、真正直な思い。それを感じ取ったアルベドは、テーブルに向けて歩きながら頬を染める。

 

「くふっ! (わたくし)、家事が得意であれとタブラ様に創造されていますの」   

 

 それは『至高の存在』と『(しもべ)』の境を超えた、恋人同士としての軽口だ。言っているアルベド本人は、このような物言いで大丈夫かしらと内心で冷や汗を掻いていたが、モモンガの返答を聞いて子宮が跳ね上がる。

 

「まさしくそう……だね。また一つ、アルベドのことが好きになったかな」

 

 魔王ロールの低音。だが、口調はギルメンと話す際のもの……いや、もう一段踏み込んだ素の口調に近い。ナザリックの(しもべ)と話す際の気負い。それが随分と抜けた……そんな口調なのだ。

 それだけモモンガがアルベドに対して心を許していたのであり、それを察したアルベドは鼻血を噴出するのを必死で堪える羽目になった。

 

(も、モモンガ様……。ぐふううう……)

 

 無論、表情や態度に出すわけにもいかない。耐えているうちに精神の停滞化が発生し、落ち着いたアルベドは、たおやかに微笑み「光栄です」とだけ答えている。

 モモンガはというと、「なんか恥ずかしいこと言っちゃったな……」と照れながら、紅茶カップに口を付けていたが、そのまま対面のアルベドを観察してみた。

 アルベド視点では、カップに口を付けた女性……モモンガが上目遣いでチラ見してきている状態であるため、これまた鼻血もの。この日何度目かの忍耐を試されることとなる。

 さて、守護者統括アルベドは、タブラ・スマラグディナが『設定上、モモンガの嫁として贈呈するべく』創造……作成したNPCだ。しかも、作成にあたり、各ギルメンから可能な限り『モモンガの女性の好み』を聞き出したという念の入れよう。

 腰まで真っ直ぐ伸びた黒髪。白い肌。整った顔立ち。黄金比率と言いたくなる体型の凹凸美。ユグドラシル時代、初めて稼働しているアルベドを見たモモンガは、「等身大立像で部屋に欲しいな」と思ったほどだ。

 つまり、モモンガにとって、アルベドという女性は、爪先から頭の天辺まで『好み』で構成された、言わば奇跡のような存在なのである。

 

(性格も良いんだよな~……何と言うか、サキュバス系なのにガツガツしてないし!)

 

 と、性格面でも好印象。もっとも、今のアルベドの性格は、元々のキャラ設定から『ビッチ要素』をモモンガが排し、更には代替記述として『モモンガを』と入力したことで生じた、奇跡のようなものだ。

 仮に『ちなみにビッチである』がそのままだった場合は、モモンガをメインターゲットとしつつ、男性ギルメンに色目を使っていたことだろう。そのビッチ設定から、今頃は数人とベッドインしていた可能性がある。

 更に言うと、異世界転移の直前、モモンガが中途で終えたアルベドの設定変更……『モモンガを愛している』を入力完遂していた場合。設定上、元より『モモンガを愛している』が組み込まれているアルベドにとっては二重設定となり、愛の度合いが二倍強化では済まなかった……と、ヘロヘロが推測している。

 

(愛ゆえに何があっても、何を排しても俺優先で……と、そんな重たすぎるというか、危ないことになってたかもしれないのか……)

 

 モモンガは、元の現実(リアル)では味わえなかった極上の紅茶で心癒やされつつ、背筋では悪寒を感じるという、器用なことをしていた。

 そして、唐突にアルベドの私室を訪問した目的を思い出す。

 

(俺、アルベドとエッチするんだよな……。茶釜さんや他の皆に押され、踏ん切り付けてやって来たけれど……)

 

 正面で座るアルベドを見ると、当然ながら視線に感づかれ、フワリとした微笑みが返ってきた。一瞬、鼓動が止まったような感覚が生じ、モモンガは慌ててカップに視線を戻す。

 

(あの唇、あの胸、腰、尻、全部好きにしていいのか? 俺、そんなことしていいの? 本当に!?)

 

 アルベド本人の、許可も同意もウェルカムもすでに確認しているので、極端な話、今すぐ(いにしえ)の怪盗三世のように脱衣ダイブしても許されるはずだ。そして、そんなことは理解した上で、この部屋に入った以上、煮え切らない態度はするべきではない。

 ……そうは思っていても、本題を切り出しにくいモモンガは、モジモジし続けるのだった。

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 無論、こうしたモモンガの経験不足から来る葛藤について、アルベドは手に取るように把握している。これが他の(しもべ)であるなら、相手が『至高の御方』ゆえに、重度の色眼鏡による崇拝で『素晴らしく高尚な好意的解釈』をしていたことだろう。

 だが、アルベドにはギルメンかつ自身の創造主……タブラ・スマラグディナによる入れ知恵があった。

 

「初心な若者だと思って対応するといいよ。うんと優しくしてやるのがいいね。アルベドの趣味から外れるかもだけど、愛する異性との純愛プレイもまた良いものさ。……最初は同性同士になるのかな?」

 

 モモンガが聞いたら「余計なアドバイスですぅ!」と口を尖らせたであろう助言により、アルベドがモモンガの態度を誤解することはない。

 

(くふふ、タブラ様の仰ったとおり。戸惑ってらっしゃるのね……。愛らしいことおびただしいわぁ……)

 

 慈愛の表情で微笑みながら、このサキュバスは次の段階に進もうとしていた。

 お見合いはこのぐらいにし、次は軽いボディータッチ。今は女性同士なのだし、それ以前に恋人同士。ちょっと相手の身体に触ったとして、それは悪いことではないだろう。

 

(悪いどころか最高よ! シャルティアじゃないけれど、女の良さに開眼しそうで困るわぁ! いいえ、困らない! 相手はモモンガ様なのだもの! ふう……)

 

 精神停滞化で適度にクールダウン。

 モモンガが来てから何度目の精神停滞化だかは、もはやアルベド自身も把握できてない。勢いが削がれることを忌々しく思うものの、そのおかげで冷静に対処できているのも事実。そして現状、自分は上手くやれている。

 

(このまま、ベッドインまで雪崩れ込むのよ!)

 

 ちなみに現時点、ナザリック内において、アルベドにはモモンガを目標としたライバルが存在しない。茶釜とルプスレギナは、第一夫人をアルベドに譲る気でいるし、外部の夫人候補であるエンリ・エモットとニニャについては、その『外部の者であること』からモモンガと接する時間が少なく、自然とではあるが候補としての順位が下がっていた。 

 

(一番のライバルになるとしたら、死体愛好のシャルティアだけど……彼女にはペロロンチーノ様がいる。だから除外していいはずよ)

 

 そういったモモンガ周辺の女性事情からすると、急いでモモンガと事をなす必要はない。だが、創造主であるタブラや、至高の御方である茶釜の後押し、私室にモモンガが一人で来ていて、しかも『やる気』であること。この絶好の機会を逃す選択肢はアルベドにはなかった。

 

(よし、やるわ!)

 

「あの、モモンガ様?」

 

 スッと立ち上がり胸に手を当てる。見上げてくるモモンガに対し、アルベドは隣に座って良いかを確認した。

 お互いを解り合うためには対面よりも隣同士で。

 モモンガは戸惑いはしたものの、隣に座らなくて良い理由を積み上げて逃げるでもなく、素直に受け入れている。

 普段の彼らしくないが、この部屋には『そういうことをするために』入室しているのだ。ちょっと気圧された程度で逃げはしない。

 

「か、構わないが……」

 

 テーブルの右側を時計回りに回り込んでくるアルベドを見上げ、その動線を目で追うモモンガ。アルベドがテーブルとソファの間に入り、流れるような動作で横移動して距離を詰めてきたとき「人は、こんな綺麗な所作で横移動できるのか……」と感心したが……気がつくとアルベドが右隣に腰を下ろしていた。

 

(ち、近い! 肩が当たってる! 柔らかっ!? それでいて温かい!)

 

 アルベドとは以前、スパリゾート・ナザリックで混浴したことがある。あのときは湯の中でのことだったが、今回はより相手の体温が感じられて、お肌の触れ合い感が増すのだ。

 そして、並んでソファに座ったことでモモンガは気がついた。

 座高に関して、モモンガよりもアルベドの方が低い。

 立って並ぶと、女性化モモンガの方が少し背が高いから、それも当然……と言いたいが、問題なのは立ったときの身長差よりも座高の差が開いていること。

 

(俺の胴長短足が引き立つなぁ……。この身体、そんなに悪いプロポーションじゃないと思うんだけど、相手が悪すぎだよ)

 

 女になったモモンガは確かに美人の部類だが、ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』が誇る美術系ギルメンによる天上の美……アルベドには及ばない。もっとも、たっち・みーなど男性ギルメンが居合わせ、このモモンガの思いを知ったとしたら、女性化モモンガの体型にはアルベドにない魅力があると言うことだろう。

 作られた完全な美に対する、生粋の自然美というべきか。

 もっとも、そういうところまで思考が及ばないモモンガは、内心で嘆息している。

 

(なんかアレだな。女として負けた気分~……。……って女じゃねーし! 早く元に戻るためにアルベドと~……うっ!?)

 

 アルベドとは反対側に視線を向け、唇を波線のようムニムニ動かしていたモモンガは、不意に右手の指が何かに絡め取られたことで思考を停止した。

 膝上に置いていた手を見ると、いつの間にかアルベドが、モモンガの右手指に自身の左手指を絡ませている。

 細くしなやかで柔らかい。

 指と指を絡め合わせる感覚は、モモンガの背筋に電流に似た何かを走らせていた。

 

「あ、アルベド?」

 

「不躾……だったでしょうか?」

 

 少し頬を紅潮(実際は湯気が出そうなほどだったが精神停滞化で治まりつつある状態)し、瞳を潤ませて言われたのでは「放してくれ」や「不躾だな」などと言えるはずもない。

 

「い、いや、そんなことはないが……。せ、積極的だな……と」

 

「もちろんですわ。何故ならモモンガ様は、(わたくし)をお求め……いえ、男性に戻るために必要……なので、ここに来られたのでしょう? 恋人として積極的、そして協力を惜しまないのは当然です」

 

 モモンガは、「ううむ。当然……なのかな?」と内心で小首を傾げながら、アルベドの指の感触を確かめる。アルベドの方でも同様に返してきたので実に心地よい。そして、ここで改めてアルベドから漂う香水の香りを再確認し、モモンガはリラックスしつつアルベドに対しての『その気』が盛り上がっていた。

 そんなモモンガにアルベドが顔を寄せ、提案してくる。

 

「モモンガ様。これから(わたくし)達は、シャワーを浴びた後、寝室で行為に及ぶわけですが……。その際のことは勿論ながら、今のこの場においても(わたくし)から提案があります」

 

「んあ、なんか背筋が……じゃなくて、提案? き、聞こう……」

 

 指を絡ませあうだけで愛撫されている気になっていたモモンガは、何とか気を取り直して頷いた。アルベドは言う。モモンガは女性の身体の感じ方や、感じやすい部分について知るべきではないか……と。

 

「僭越ではありますが、(わたくし)がレクチャーさせていただきます」

 

「ふむ……(童貞の俺にはありがたいが……)。具体的にはどうするのだ?」

 

「はい」

 

 アルベドは花のような微笑を浮かべながら続けた。

 女性同士の行為を知る……そのレクチャー方法は、アルベドがモモンガを愛撫することで女性の性感について指導する。つまり身体で理解する……ということだ。

 

(レズ行為における攻め受けの、受けを俺にやれというわけだな。恥ずかしいが……まあ、一理ある……のかな?)

 

 この一連の会話中も、アルベドはモモンガの手を握ってくる。その心地よさに、モモンガは徐々に思考を鈍らせていた。普段の彼であれば、ぐいぐい来るアルベドに対して引くところ。だが、やはり訪問目的が『性行為』なので、様子を窺うようにアルベドを見ながら頷いている。

 

「そ、そうだな。は、恥ずかしいが、私も男だ。今は女の身だが……身体で覚えるとしよう」

 

 はい、言質取った。

 もとい、モモンガの了承を得たアルベドは、その獣欲を欠片も見せずにレクチャーを開始する。

 

「はい、モモンガ様。それではまず……耳です」

 

 囁きかけながら、右隣のアルベドが顔を寄せてきた。

 

「耳っ!? 耳って、そういう場所なの!?」

 

「ふぅうう……」

 

 右耳の上から下、そして下から上。

 なぞるようにしてアルベドの吐息が吹きかけられていく。

 

「んひゃ!?」

 

 耳でくすぐったく、背筋でゾクゾクした感覚が走った。モモンガは肩をすくめたが、アルベドが少し身を引いたのを感じ、顔ごと視線を向ける。アルベドはニッコリ微笑んでモモンガが落ち着くのを待っているようだ。

 猶予を感じたモモンガは、肩の力を抜きながら右耳に手を当てる。

 息を吹きかけられた耳は、特に何ともなっていない。何の変哲もない自分の耳。しかし、そこに息を吹きかけられただけで、あのように感じてしまうとは、まこと女性の身体というのは敏感であるらしい。

 そのように自分の身体ながら再発見をしたモモンガは、感心するやら驚くやらで、呆然としている。そこへアルベドが、話しかけてきた。

 

「落ち着かれましたか? それでは次に……髪です」

 

「髪って……さすがに耳と違って、神経とかないんじゃないか?」

 

 低学歴のモモンガとて、それくらいは知っている。しかし、アルベドは微笑んだまま、困ったように小首を傾げた。

 

「そこは……体験あるのみですわ。まずは頭皮に触れず、髪だけ撫でてみますが……よろしいでしょうか?」

 

「あ、ああ……よろしく頼む」

 

 耳への吐息がけだけで、あそこまで感じたのだ。たとえ髪だろうと何かあるのでは……。そう考えたモモンガは身構えたが、それでも逃げることはせずに了承する。

 

「では……」

 

 白い肌の、しなやかな手。

 それが伸ばされ、モモンガは身体に力が入った。が、アルベドの指がモモンガの黒髪……後頭部のあたりを撫でると、やはり首筋から背筋に走るものを感じる。

 

「うんんん……」

 

「モモンガ様。これが女の髪……ですわ」

 

 いつの間にか顔を近づけていたアルベドが言うと、モモンガは身を震わせながら、目尻に涙を浮かべた。

 

「嘘だ……ろ。ただの、頭髪……じゃないかぁ」

 

 この時点でモモンガ本人には自覚がないものの、すでに股間の秘所が反応を示しだしている。それが『濡れた感覚』としてモモンガの意識に触れるのは、もう暫く後のことになるのだが……。

 その後、モモンガは肩に触れられ、首筋や背骨の上を人差し指で撫でられるなどして、その都度『女の声』をあげることになる。最初こそ、「なんで男の俺が……」と疑問を感じていたモモンガは、今ではトロンとした目つきで息を荒くしていた。

 

「はあ、はあ……。……ふう……」

 

 この「ふう」は、異形種化して精神の沈静化を利用……したのではなく、人化状態で一息ついたもの。ある意味休憩だが、アルベドの部屋に入ってから、もう何度目だか自分でも把握できていない。

 その一息を見たアルベドが、気遣わしげに顔を寄せる。

 

「モモンガ様? お疲れでしょうか? ポーションをご用意していますが……」

 

「い、いや大丈夫。ちょっと胸がドキドキしているだけだから……」

 

 ソファの背もたれに体重をかけ、斜め上の角度で天井を見上げるモモンガは、「エッチするときに、ポーションを飲みながらとか……変だし」と考えていた。それは、元の現実(リアル)ではポーションは存在しなかった上、そういったものの服用なしにエッチできないのは男の矜持が……という思いからくるもので、意地のようなものだ。

 だが、そのなけなしの『男の矜持』を粉砕する発言が、アルベドの口から飛び出す。

 

「そうですか。では息が整ったら、次はオッパイ……触ってみますね!」

 

「おっぱ……」

 

 天井に向けていた頭の角度を戻したモモンガは、目を見開いてアルベドを見た。

 これまでのお触りだけで、ここまで感じさせられたのだ。それが乳房ともなれば、自分はいったいどうなってしまうのか。

 

(怖い……。けど、これをしないと女の身体のことがわからないし……)

 

 冷静になって考えると、モモンガの身体ではなく、アルベドの身体をアルベドの指導にもとづいてモモンガが触る……でも良かったのだ。確かに、今のモモンガの身体で覚える方法だと、より女の感じ方を実感できるだろうが、アルベドの身体を『教材』にしていた場合は、もう少し落ち着いてものを考えられただろう。

 しかし、現実、触られて感じているのはモモンガの身体だ。

 そうなったのはアルベドが会話誘導し、モモンガの身体を触る口実にしていたわけだが、気持ちよさで身体が浮くような状態のモモンガは、特に不思議に思わず、アルベドの申出に対し、恐る恐る頷くのだった。

 

 




 この第115話と次の第116話の間に、モモンガ&アルベドのエッチ回が存在します。
 R-18にして別投稿しています。

集う至高の御方の第115話の直後について(9月2日0時まで)

  • 別投稿のR-18にしてガッツリ。
  • エッチシーンは不要。本編優先。
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