オーバーロード ~集う至高の御方~   作:辰の巣はせが

116 / 133
活動報告で、日常回キャラ組合せの募集(?)をしています。
先着10名様。(御一人様1お題まで)

10名分たまったら一度打ち切ります。(第2回があるかは未定)


第116話

 モモンガは今、アルベドの私室……の寝室に居る。

 ベッドで横になり仰向けとなっているが、寝ては居ない。その横では全裸のアルベドが居てモモンガの胸に寄り添うようにして寝息をたてていた。寝顔もまた美麗で、見入ってしまえるほどだが、女性の寝顔を覗き込むのは良くないことだろう。

 そう判断したモモンガは、天井を見つめた。

 この日、モモンガはアルベドと同衾することで女体化が解除……男性に戻っている。同衾する直前のアレコレは、本当に必要なことだったかどうか。深く考えると微妙な気分になるので、モモンガは考えないようにした。

 

(まあ男に戻れたんだし、どうでもいいか。それに……)

 

 少し前までのアルベドの乱れた様子を思い出し、モモンガは気恥ずかしい気分になる。自分が初めてだった(アルベドも初めてだったそうだが)こともあり、すぐに達して情けなさに泣きたくなったり、気を取り直して何度もアルベドを求めたり。控えめに言っても自分は(けだもの)だった。

 そして行為全般について……凄かったと思う。それはもう色々と……。

 

(女の身体って何から何まで気持ちいいんだな~……。いや、自分が女だったときも気持ち良かったけどさ! しかし……)

 

 男に戻った今、思い返せば、『女の身体』というのも案外悪くはなかった。自分で見ても美人だったし、私室の姿見の前でポーズを取って遊んでいたのは、モモンガとしては墓まで持っていく秘密である。

 

(アンデッドなんだけどな! とはいえ、戦闘で負けて殺されるってこともあるから、墓が立つこともあるか……)  

 

 元の現実(リアル)から転移後世界に来たわけだが、ここで死んでも『次の世界』があるとは限らない。死後の世界ならあるかもしれないが、当分の間、モモンガは死ぬ気がなかった。

 

(結婚したら嫁さんができるものな。アルベドだけじゃないぞ? ルプスレギナと茶釜さんで三人。エンリとニニャとカルカ聖王女も入れたら六人か? マジでハーレムになっちゃった……。いや待て! ヘロヘロさんのメイドハーレムに比べたら少ないんだし、まだまだ普通の人数かもしれないぞ、これは!)

 

 ギルメンの多くが「モモンガさん。もう、モモンガハーレムでいいじゃないですか」と言うであろうことをモモンガが考えていると、全裸のアルベドがモゾモゾと擦り寄ってきた。起こしたか……とモモンガは思ったが、どうやら寝たままであるらしい。 

 

(か、可愛い! いや、綺麗な女性が擦り寄ってくるんだから、可愛いのとは違うんだけど! でも可愛い! 俺、幸せ!)

 

 気分が高揚するにつれ、脳内で言葉がたどたどしくなる。

 モモンガは、ついさっき童貞を卒業したわけだが、だからといってすぐに女慣れするわけではないのだ。そうやって胸の中のアルベドを観察していると、視線に気がついたのかアルベドが目を覚ました。二人で横になっているため、左側からアルベドの視線が向けられる。

 

「モモンガ様……」

 

 寝ぼけ顔のアルベドは可愛い。

 そうモモンガが思ったのも束の間、アルベドが表情を引き締めた。

 

「も、申し訳ありません! モモンガ様よりも起床が遅れるなど!」

 

 失態だと感じたことによる羞恥か、頬を染めたアルベドが懸命に訴えかけてくる。これまた実に可愛らしい。

 

「アルベド。落ち着いて……うっ!」

 

 モモンガは目覚めの生理現象……大きくなった『股間のモモンガさん』が、アルベドの下腹で圧迫されるのを感じた。同時に、アルベドも下腹部へ突き当たる感覚に気づいたらしく、頬を紅潮させる。

 

「モモンガ様……。お元気で、いらっしゃいます……ね?」

 

「うん。まあ、何と言うか……生理現象でね……」

 

 結局、モモンガ達がベッドから出たのは、もう一戦こなした後となった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 シャワーを浴び、モモンガは死の支配者(オーバーロード)となってフル装備の姿。アルベドも、いつもの衣装(化粧もバッチリ)となっており、二人でアルベドの部屋から出た。その際、モモンガは、落ち着きなく廊下の左右を確認してから部屋を出ている。

 

「いや、何……ギルメン達が待ち構えているかと思ったのでな」

 

 口調は、魔王ロールのそれだ。ベッドでいたしているときや、起床した直後は、鈴木悟モードや対ギルメン用の口調だったが、死の支配者(オーバーロード)となった後は何となく魔王ロールをしなければ……と思ったのだ。

 そして、退室時にギルメンを気にしたのは、部屋から出たところでギルメン達が居並び、「モモンガさん! 童貞卒業おめでとう!」等と囃し立てながら拍手する展開を警戒したことによる。

 

(そんなことになってたら、課金アイテム増し増しで<現断(リアリティ・スラッシュ)>を乱射してたと思う。フフフ、命拾いしましたね……ペロロンチーノさん!)

 

 一番やらかしそうなギルメンの名を出したモモンガは、咳払いをしてから姿勢を正した。

 

「取り敢えず……朝食かな。食堂へ行こうか?」

 

「はい! モモンガ様! 仰せのままに!」

 

 腰の黒翼をパタつかせて言うアルベドに対して頷き、モモンガは歩き出す。食堂に到着するまで、浮かれ気味……と表現して良いほどにアルベドの機嫌が良く、モモンガは戸惑うことしきりだった。

 

(俺も嬉しい気分だし? アルベドも同じなのかもしれないな……)

 

 では、アルベドは何を思っていたか。

 

(くふ~、くふふ~。(わたくし)、モモンガ様に『女』にしていただいたのよ! ……ふう……。ああ、モモンガ様の熱い『男性自身』に貫かれて、我が身を掘削されるあの感覚! ……ふう……。思い出しただけで濡れるわ! そう言えば、ペロロンチーノ様が『くっころ』というジャンルがあると仰ってたような……。(わたくし)の場合、『くっさく』なのかしら? 『くっ! (さく)れ!』みたいな? きゃーっ! ……ふう……)

 

 と、このように、精神の停滞化を挟みつつ異次元の妄想にひたっていた。傍目には、いつもよりも機嫌が良い程度にしか見えないのでタチが悪い。やはり、中身は淫魔ということなのだろう。

 暫く並んで歩き食堂に入ったモモンガは、まず各テーブルに視線を巡らせた。一般メイドが幾人かいて、至高の御方……モモンガの登場に喜色を浮かべている。ギルメン等も幾人か居るようだが……。

 

(建御雷さんと弐式炎雷さん。ペロロンチーノさんとシャルティア。……うっ、茶釜さんとルプスレギナか……)

 

 ギルメンの中では、弐式のみが人化しているようだ。

 

(これは……気まずいなぁ……)

 

 テーブルに向かって歩きながら、モモンガは胃に痛みを覚えている。

 アルベドと『いたした』ことで、面白おかしく絡んできそうなのが弐式とペロロンチーノ。だが、より気になるのは、交際相手の茶釜とルプスレギナも居ることだ。はっきり言って、かなり気まずい。

 

(ついさっき、アルベドとアレしてたんだものな~……)

 

 茶釜達の方でもモモンガに気づいたようだが、手を振って「おはよう」と言う以外の行動は起こさなかった。二人とも並んで座っているが、紅茶セットと菓子が前に置かれているだけで、朝食を食べているという様子ではない。

 

(もう朝食を済ませた後か? 席を立たないのは……俺達が食べ終わるのを待ってくれてるのかな?)

 

 なるべく周囲に人の居ない場所を選んだモモンガは、アルベドを右隣に置き、並んで座る。当番メイドに取り寄せさせたのはモーニングセットだ。トーストと目玉焼き、かりっと焼かれたウインナーが食欲をそそる。添えられたサラダは、ブルー・プラネットの畑から採られたもので、ギルメンらからは「美味しい!」と評判だ。湯気立つコーヒーカップから漂う香りも、また良いものである。

 さっそく食し……。

 

「おっと、人化しなければ食べられないな……」

 

 モモンガは「これはしまった」と笑いながら人化した。直後、食堂内がざわめく。

 

(にょ)モンガさんじゃない!? モモンガさんだ! 元に戻ったのか!」

 

 弐式が腰を浮かし立ち上がりかけている。完全に立ち上がっていないのは、建御雷に肩を掴んで座らされたからだ。離れた場所では、シャルティアが「女性のアインズ様は、もう見られないのでありんしょうか?」と力なく呟き、ペロロンチーノから「アバターの性別を逆転させるアイテムって普通にあるから。頼めば見せてくれると思うよ!」と聞かされて暗くなっていた表情を明るくしている。

 るし★ふぁーが作成した性転換の指輪は、運営の目を可能な限りくぐり抜けるべく、課金アイテムまで投入された特別製だった。今、ペロロンチーノが言った性転換アイテムは、ただ単にアバターの性別逆転ができるだけで、よからぬ行為をしようものなら即座に垢バンされるという公式のアイテム。言わば、絶対に(性的な)悪さができない、お遊びアイテムなのである。

 

(転移後世界に運営は居ないから、したい放題だよな~。しっかし、たまには良いかもだけど……それを俺が居る場所で言うかなぁ~)

 

 強化された聴力で聞き取るモモンガは、複雑な気分だ。

 溜息をついて食事を始めるが、ふと気になったのでモモンガはアルベドに聞いてみた。アルベドとは女性同士の行為もしたが、それが済んだ今はどう思っているのだろうか。女性になったモモンガを、再び見たいと思うのだろうか。あるいは、趣味でもない同性同士の行為は、本当は嫌だったのではないか。

 

「あ~……アルベドは~……私の女性化した姿を、また見たいと思うか?」

 

 特に大きな声では言っていない。落ち着いた口調での発言だったが、「あ~」の時点で静まりかえった食堂内の隅々にまで声が届いている。質問されたアルベドは、一瞬キョトンとした表情になったものの、ギルメンや一般メイドらが固唾を飲んで見守る中でフワリと微笑んでみせた。

 

(わたくし)は、アインズ様をお慕いしています。ですから、お姿が男性であろうと、女性であろうと、お慕いする心に変化などはありません。……といった前提で申し上げますと……また見てみたいです。じゅるり……」

 

 女神の如く語っていたのが、最後の舌なめずりで台無しである。

 軽く引いたモモンガは、「そ、そうか……」と短く答えたのみ……とはいえ、悪い気はしないので、少しだが乗り気になっていた。

 

「そうだな、たまには……良いかもしれんな」

 

 瞬間、アルベドの表情が喜びで輝き、食堂の空気までもが明るくなる。そこには安堵の色も混じっていて、さすがに気がついたモモンガが周囲を見回すと……。

 

「ペロロンチーノ様! 今の、お聞きになりましたでありんすか!?」

 

「良かったね~、シャルティア~!」

 

 吸血鬼と鳥人が嬉しそうにイチャイチャしている。

 

(俺の性別事情をネタにして、仲のよろしいことで……)

 

 モモンガは呆れたが、そう言えば忍者も居たな……と目を向けると……。

 

「こ、これは拡散……じゃなくて、タブラさんに伝言(メッセージ)しないと!」

 

「はあ……ほどほどにしとけよ?」

 

 弐式がこめかみに指を当てており、隣の建御雷は放置するていでコーヒーを啜っている。

 周囲に居る一般メイドらは、手を取り合って喜んでいる有様だ。

 では、モモンガの恋人衆である茶釜とルプスレギナは、どうのような様子だったか。

 

(そうだよ! 茶釜さん達だよ! たまには女になっていいとか! 何てことを言ってしまったんだ、俺! 茶釜さん達の反応を見るのが怖い! けど確認しないわけには~……)

 

 ギュッと目を瞑ってから恐る恐る開けていく。

 すると……。

 

「さすが! アインズ様、さすがっす! これこそ、さすアイっす! アインズ様のお美しい女性姿! それは失われていいものではないんすよ~っ!」

 

 ルプスレギナから飛んでくるのは大絶賛。

 しかし、ナザリックの(しもべ)がギルメン……至高の御方に向けて良い言葉遣いではない。少なくとも一般メイドが眉をひそめ、シャルティアが歯茎を剥いて歯ぎしりする程度には不敬だ。一方、言われた側のモモンガは、常にないルプスレギナの口調に小首を傾げている程度。そして……右隣席のアルベドは眉間に皺が寄って、こめかみには血管が浮いていた。

 守護者統括、大・激・怒……である。

 

「ル・プ・ス・レギナぁ……。あなた、それが至高の御方に対する……へっ?」

 

 憤怒で震えていたアルベドの声が唐突に沈静化。その声色の変化にモモンガだけでなく、食堂内の者達も気がつき、皆がアルベドを見た。戸惑い顔の守護者統括……を確認した後、続いてルプスレギナに目を向け直す。

 

「男前は、性別が変わっても凄いんすよね~。よっ、大統領!」

 

 浮かれ調子の声。だが、喋っているのは実はルプスレギナではない。

 彼女の背後で蠢くピンクの肉棒……元の現実(リアル)においては売れっ子声優だった、ぶくぶく茶釜だ。声質は違っているのに口調の模写精度が凄まじいため、ほとんど違和感がない。声優恐るべし……というやつだ。が、ノリノリな茶釜の前……テーブルの位置関係で、自分とモモンガの間にルプスレギナの席が来るよう、茶釜が自分の椅子を移動させている……に位置するルプスレギナは、引きつった顔で笑顔を浮かべている。目尻には涙が浮かんでいるようだ。そのルプスレギナの背後では茶釜が喋り続けているが、横幅があるので、ピンクの粘体が隠れ切れていない。

 

「ぶくぶく茶釜さん……。ルプスレギナが困ってますから……」

 

 敢えて低い声で言うと、茶釜がルプスレギナの左肩側から顔(?)を出した。

 

「ごっめ~ん、ダーリン。喜びを伝えたかったんだけど、照れが入ってルプスレギナのモノ真似しちゃった! ルプスレギナも、ごめんね~?」

 

 茶釜がフレンドリーに謝る。モモンガは「ルプスレギナにも謝ってるし。もう良いですけど」と呆れ顔だが、すぐ後ろから『至高の御方』の謝罪を受けたルプスレギナは、総毛立つ思いで顔色をなくした。

 

(至高の御方に謝らせちゃった……か。そりゃ、あんな顔色にもなるか。しかし、褐色美女の顔面蒼白って、あんな感じなんだな~……)

 

 色の濃さが増したと言うか何と言うか……。

 と、これはモモンガの感想だが、普段見ないルプスレギナの顔色であるため、他の男性ギルメンらも同じことを考えている。

 この状況……今、外部でフォーサイトに臨時加入している獣王メコン川が居合わせていたら、何と言っただろうか。

 

(茶釜さん。その辺で勘弁してやってくださいよ……かな?)

 

 モモンガは思う。このメコン川の言葉を受けて、茶釜はきっと先程のように「ごっめ~ん」と返すのだろう。モモンガは、プルプル震えるルプスレギナの頭を、茶釜が伸ばした粘体で撫でている様を見ながらホッコリした。

 元の現実(リアル)でユグドラシルがサービス終了した、あの日。

 一度ログアウトしたヘロヘロが再度ログインしてくる瞬間まで、モモンガの心は孤独で満たされていた。だが今は違う。自分以外の四十人すべてではないが、多くのギルメンが戻っている。自分は……もう一人ではないのだ。

 

(ギルメン同士の会話を妄想しても寂しくない。むなしくならない。……なんて素晴らしいんだろう。……いや、本当に素晴らしい。こういう時に何度も実感するんだけど……)

 

 本当に、本当に……一人で異世界転移しなくて良かった。

 ナザリックがあって、(しもべ)達が居て、ギルメンは自分だけ。何度考えても寒気がする。異世界転移直後のカルネ村の一件、そのすぐ後の陽光聖典の襲撃、王国での冒険者活動や、バハルス帝国への対応。それらすべて、モモンガが一人先頭に立って解決しなければならないとしたら……。

 モモンガの額に嫌な汗が浮く。

 

(ギルメンに頼れないとしても、アルベドやデミウルゴスが居れば何とか……なりそう。……なるのか?)

 

 アルベド達の能力自体には問題も心配もない。しかし、モモンガ一人で彼女らを御することが可能だろうか。かつての自分は、中身が人間のギルメン達……ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』が崩壊するのを防げなかったのに。

 モモンガは頭を振って、気の重くなる思考を振り払った。

 

(やめよう。現にギルメン達は居るじゃないか! それに! 一人で異世界転移した俺なんて居ない。相談相手も居ないナザリック地下大墳墓で、一人で発狂していく俺なんて存在しないんだよ! 今の俺、万歳!)

 

 自分を満たしている幸せを噛みしめながら、モモンガは「アルベドの次は私達! 準備万端だからね~」と伸ばした粘体を振る茶釜と、怖ず怖ずと控えめな挙手をしながら「あの、もしよろしければ私も……」というルプスレギナに対して、困ったような笑みを浮かべるのだった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』最強の男、たっち・みー氏の朝は遅い。

 異世界転移の前、妻子に愛想を尽かされて逃げられた彼は、酷く(うつ)になることがあった。時として、やたらと明るく振る舞う……(そう)状態になることもあったが、比率としては鬱状態であることが多いのだ。

 そして本日、朝食時のたっちは鬱な気分である。

 彼は今、暗くした自室の寝室で、布団を頭からかぶり丸くなっているのだ。

 異世界転移して人型昆虫になった身であるが、布団を被るとホッとするのは、やはり元が人間だからだろうか。人化していないのは、人じゃない身体であれば、鬱な気分が少しはマシになるかと思ってのこと、だったのだが……。

 

(いや~……なんか、余計に気が沈むんですけど~……)

 

 やることなすこと上手く行かない。そんな気がする。人化してみようか、いや、それだって上手く行かないに違いない。どうせ自分は、女房子供に逃げられたダメ人間。おっと、今や人間ですらなくて……人間に同族意識とか無いよな~……。逃げた人間の女子供なんて、どうでもいいか……いや、そうじゃなくて……。

 と、そういった事をグネグネ考えていたところで、自室のドアがノックされた。

布団から顔だけ出していたたっちが身体を揺らす。

 たっちが今居るのは寝室だが、聴力は人間時代の比ではないので容易に聞き取れるのだ。

 

(びっくりした~。考えすぎてて気配とか気がつかなかった……)

 

「たっち・みー様。セバスです」

 

 たっちが製作したNPC、セバス・チャンが自室外の通路に居るらしい。

 白髪の老執事。竜人設定だが、執事としての能力は完璧で、格闘にも秀でている。それ以外の設定をマメに決めなかったからか、思考形態はたっちに似ている……というのがタブラの見解だ。そうであるなら、今の精神的に不安定なたっちにとって、良き相談相手になるのではないか。

 

(そう思ってた時期が俺にもありました~)

 

 諸々話してみたところ、セバスは相談相手にはならなかった。

 何故なら、天より高い忠誠心を持つNPCの中で、セバスは誰が設定したのか(・・・・・・・)『執事』なのだ。己の分を超えて意見することなど滅多にない。話ぐらいは聞いてくれるが、だからと言って「こうすればよろしいでしょう」なんてアドバイスは期待できないし、今までに聞けたためしがなかった。

 

(勝手に恐れ入って発言を控えるんだもんな~。それにさ~、創造主と被創造物で主従の間柄なのに、俺の方から「聞いてくれよ~」なんて泣きつくのも考えてみたら格好悪いし……)

 

 そもそも、セバスの中の『たっち・みー像』。これを、なるべく壊したくないのだ。元の妻子だけでなく、セバスにまでガッカリされたら、たっちは立ち直れない自信がある。

 と、このようなことを考えていて返事をしないものだから、セバスが重ねて声をかけてきた。

 

「あの、たっち・みー様? 朝食の時間ですが……お身体の具合でも良くないのでしょうか?」

 

「いや、そういう事ではなくて……」

 

 これが他のギルメン相手なら、ひたすら暗黒面を全開にして愚痴り倒すだろう。だが、相手はセバス。前述したように、面子ぐらいは保ちたいたっちは、鬱の中で根性を絞り出した。ギシギシと心のきしむ音が聞こえた気がするが、それを無視してベッドから出て行く。

 

「ちょっと待て。服装を整える」

 

「お手伝いします」

 

 ノータイムでセバスが申し出た。

 アイテムボックスから甲冑を取り出していたたっちは、それを両手で下げたまま寝室扉をジッと見つめる。

 

(いや、アイテムなんだから普通に瞬着できるんだけど……)

 

 早い話、手伝って貰うほどのことではない。とはいえ、執事が身支度の手伝いをすると言うのだから、彼の仕事を奪うべきではない……とも、たっちは考えた。

 

「では頼もうか。鍵はかけてないので、そのまま入って来てよろしい。私は今、寝室に……うん?」

 

「どうか、なさいましたか?」

 

 たっちが言い淀んだので、セバスが聞いてくる。何故言い淀んだのかと言えば、セバスの他にも気配が感じられたからだ。どうやら女性のようだが……。

 

「セバス。他に誰か居るのか?」

 

「はっ、ツアレニーニャを同行させています。ナザリックでの研修も必要なことですので」

 

「ふむ? ふむ、ツアレ……」

 

 たっちは首を傾げながら記憶を探る。どこかで聞いた名前なのだ。

 

「思い出した。セバスが、仕事帰りにお持ち帰りした女性……だったかな?」

 

 徐々に記憶が甦ってくる。

 ナザリックに帰還してすぐ、通路で再会したセバスから(ガッチリ両肩を掴んで)事情を聞いたのだった。

 ツアレニーニャ・ベイロンは、貴族にさらわれて娼館に売られ、身体をボロボロにされた上に性病までデバフされた気の毒な女性だ。確か、モモンガの恋人である冒険者の娘……の姉でもあるはず。今は回復しているらしいが……。

 そこまで思い出したところで、外から誤魔化すような咳払いが聞こえてきた。

 

「たっち・みー様。着替えのお手伝いを……」

 

「はいどーぞ。入っていいよ」

 

 何となくではあるが気が楽になったたっちは、軽い調子でセバスらの入室を許可する。

 そして着替え後……。

 白銀の鎧、コンプライアンス・ウィズ・ロー。胸に巨大なサファイアが埋め込まれている鎧。それを身につけたたっち・みーの立ち姿は、まさに純銀の聖騎士だ。

 

「おおお……」

 

 セバスが感嘆の声を漏らしているが、鎧の着付けを手伝わせるのはもう数回目なので、いい加減に慣れて欲しいとたっちは思う。が、そういった面もナザリックの(しもべ)の有り様なのだとギルメン達から聞かされているため、敢えて指摘したり止めさせたりはしない。

 

「さて……と」

 

 風もないのにはためく赤マントをひるがえし、たっちはセバスを見て……からツアレを見た。真っ直ぐ伸ばした金髪が印象的で、顔立ちは普通寄りの美人。気弱げな雰囲気も印象的だが、なんとなく元の現実(リアル)における元妻に似ているような気がする。

 

(どうなんだろ? もうちょっと美人になったら、はっきり似てる感じかも。つまりは、その程度の『似ている』か……。まだまだ、吹っ切れてないな~……)

 

 元妻と離れ、離れすぎて異世界にまで来てしまった。

 いつまでもウジウジしていてはいけないと思うのだが、時折、爆発するように気が重くなるのは正直言って困りもの。<記憶操作(コントロール・アムネジア)>で、元妻子の記憶を消してみてはどうかとも思ったが、しかし、そうやって嫌な記憶を自力ではなく他力で消すのは人として間違っているのではないか。

 

(損な性分だよ。でも、昆虫人間になっても、自分を曲げたくないしな~……)

 

「うん、御苦労」

 

「はっ!」 

 

 実にキチンとした所作でセバスが一礼し、少し遅れてツアレも頭を下げる。

 

「ツアレさんだったか。ナザリックには慣れてきたかな?」

 

「は、ひゃい!?」

 

 噛んだ。

 たっちとしては単に話を振っただけなのだが、若い娘さんを緊張させているとあっては少し気になってくる。

 

(やはり顔か? 顔なのか? 今はヘルムを着用しているというのに……。そう言えばユグドラシル時代、茶釜さん達も昆虫顔には慣れてくれなかったな……)

 

 本来、たっち・みーのアバターはトンボ系の昆虫人間だ。そこをたっち個人の強い拘りにより、課金アイテムでバッタ風に変更している。なお、この拘りだが、ギルメンの女性陣からは理解を得られていない。

 

(茶釜さんと、やまいこさんの二人は、この転移後世界で合流済みで……久しぶりで虫顔を見せたら「ごめん、やっぱり無理!」とか「虫の良さって、ボクわからないな~」って言われたし~……あ、何か鬱な気分になってきた……)

 

 元妻子のことで鬱になり、拘りを拒絶されたことを思い出して鬱になる。

 

(今の自分はグラスハートって奴だな。そういやバッタって、英語でグラスホッパーだっけ? ぷぷっ……)

 

 モモンガやタブラが聞いたら、発狂ゲージについて心配されそうなことを考えていたたっちは、上手く返事ができなくて恐縮しているツアレと、心配そうにしているセバスに向けて笑いかける。

 

「ゆっくり慣れていけばいいさ。セバスも彼女には優しくしてあげるといい」

 

 

◇◇◇◇

 

 

 ナザリックにおける魔法最強、そして大災厄の魔。

 ウルベルト・アレイン・オードル氏の朝も、また遅い。

 彼の場合、異世界転移後のナザリック生活が長くないので、直に触れる魔法アイテムなどに大興奮。自室に籠もってウホウホしているため、朝食時の行動は遅くなるのが常だった。なので、彼が製作したNPC、デミウルゴスが朝食時の迎えに来ることが多い。

 

「いや~……つい夢中になっちゃって。デミウルゴスには感謝してもしきれませんねぇ」

 

 通路を山羊頭の悪魔……ウルベルトは、機嫌良くカラカラ笑った。話し相手は、斜め後ろを歩くデミウルゴスだ。

 

「感謝などと、もったいない。至高の御方に対する当然の奉仕ですので……」

 

 恐縮することしきり、しかし長い尾が嬉しげに揺れているのをウルベルトは見逃さなかった。

 

「ふふぅん。さぁて、今日は何をしますかね~……と、そう言えば、聖王国近辺の亜人達ってどうなってましたっけ?」

 

 ここで言う亜人達とは、ローブル聖王国にちょっかいを出していた亜人氏族を、デミウルゴスが集約し、一大勢力に仕立て上げていたものを言う。本当ならマメに各個撃破すると良いのだが、ギルメン達が「全員で大暴れしたい」という統一意見(金貨を使用した多数決すら必要なかった)を示したため、わざわざ巨大な集団にしているのだ。

 ウルベルトに問われたデミウルゴスは、人差し指で眼鏡の位置を直すと、説明を始めている。歩きながら話す姿は、スーツ姿も相まって秘書のようだ。

 

「そのことにつきましては、最近になって幾つかの氏族の長が『そろそろ始めよう』などと主張していまして。内々に排除することも可能ですが……」

 

 今のところは、まだ調整可能ということらしい。

 ウルベルト個人としては、もう良いのではないかと思うが、念のために亜人の数を聞いてみたところ、三十万に近いとのこと。随分と増えている。これはデミウルゴスによる入れ知恵で効率的な狩りや、安定した出産や育児が可能となったこと。そして、ブルー・プラネットによる高栄養の作物……を利用して、タブラが作成した成長促進剤を食材に混ぜたことが大きい。

 

「そろそろ仕上がってきたのかな? ギルメン会議で言ってみますかねぇ。亜人相手の大決戦をしてみませんか……とね。ナザリックの、ほぼ全力出撃になるでしょうから胸が躍りますねぇ」

 

 紅蓮や餓食狐蟲王、それに攻城戦専用のゴーレムであるガルガンチュアは置いていくので、全力出撃に『ほぼ』がつくと言ったところだろう。それでも合流済みのギルメン全員と共に戦うのは楽しいに違いない。亜人は相手として物足りないが、デミウルゴスが頑張って数を集め、そして増やしたのだ。ありがたく楽しませて貰おう。

 

「当然ですが、(しもべ)達も幾人か参加させますよ。せっかくナザリックの外に出られるのですしね。創造主と一緒に戦うなんて、けっこう嬉しいんじゃないかな?」

 

「無上の喜びです!」

 

 鼻息荒くデミウルゴスが即答するので、ウルベルトも機嫌良く笑った。が、その機嫌も次の十字路で急降下する。左方の通路から、たっち・みーがセバスらと共に姿を現したからだ。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 たっち・みー側では、ウルベルトの接近には鉢合わせの前から気がついていた。たっちもセバスも気配感知ができるからだ。なお、たっち達は、自分達の背後から他のギルメンが近づいていることも察知していたが、誰であるのか解っていたし、とりあえずウルベルトにのみ集中している。

 

「これはウルベルトさん。おはようございます」

 

 まだ午前中であるし、正午までは時間的に遠い。なので、おはようと挨拶をしたのだが、対するウルベルトは嫌味を言おうとして止めている。

 

(重役出勤ですか……と言うと、こっちにも刺さるしな。やれやれ、朝っぱらから悪いものを見たぜ……。元リア充め……)

 

 異世界転移前のたっちの境遇は、ウルベルトも聞かされていた。リア充でなかったウルベルトの感覚から言っても大層悲惨だ。だが、たっちに対する長年培われた悪印象は、そう簡単には消えない。

 ウルベルトは本来の口調で内心毒づき、「ええ、おはようございます」とだけ返してから右に曲がった。たっち達は真っ直ぐ進んだので、同じ方向へ進むこととなる。その後暫く、二人は何も語らず歩いていたが……。

 ウルベルトが口を開いた。

 

「それで? 今日は鬱な気分じゃないんですか?」

 

 チクリと一発。

 言ったウルベルト自身「我慢できなかったぜ。俺も、どうしようもねーな~」と思うのだが、こればかりは性分なのでしかたがない。この時、進行方向に向かってたっちが左でウルベルトは右。二人は並んで歩いており、それぞれの後ろには、セバス(通路壁側にツアレ)とデミウルゴスが居た。ツアレは良くわからないなりにオドオドしていて、NPC組はどうだったかと言えば……セバスとデミウルゴスは共に顔色が悪い。たっちとウルベルトの仲が悪いのは承知していたものの、実際に喧嘩が始まりそうとなれば生きた心地がしないのだ。至高の御方に対し、不敬だと感じつつセバス達が思ったのは「マズい、始まった!」というもの。いざ事が始まれば、自分達ではどうしようもないのだから絶望感が増していく。

 ここで、たっちが聞き流せば良かったのだろうが、ついさっきまで本当に鬱状態だったため、それは無理な話だ。なので、ついトゲのある口調で言い返してしまう。

 

「はっはっはっ! ウルベルトさんと語らってると鬱になってしまいそうですがね!」

 

 この言い返しで山羊の額に血管が浮いた。ビキィッというアレだ。

 

「いやいや、お褒めいただき恐縮の極みですとも」

 

「いやいや、嫌味が理解できないとは、物わかりの悪さが悪魔的で……」

 

 双方、言葉に籠もる怒気がどんどん強くなっていき、セバスとデミウルゴスが「はわぁああああ!?」と顔を引きつらせていく。涙目と言っていい。

 だが、ここで新たなギルメンが登場した。

 たっち達の後方から移動してきた異形種……タブラ・スマラグディナ、そしてヘロヘロである。

 瞬間、場の空気が固まった。

 たっちとウルベルトは「俺達の問題ですから放っておいてください!」と目で訴え、セバスとデミウルゴスは「お願いですから、何とかしてください!」と表情で訴える。ちなみにツアレは、手の指を組んで「あううう、(こ~わ~)い~です~……」と涙目の状態だ。

 

「ふ~む。まずいところを見ちゃいましたね~~」

 

 古き漆黒の粘体(エルダー・ブラック・ウーズ)のヘロヘロが、右隣で立つ脳食い(ブレインイーター)……タブラを見上げる。

 

「何とかするにしても、相手がね~。どうします? タブラさん?」

 

 たっちとウルベルトが物理と魔法の最強であるなら、ヘロヘロとタブラも物理及び魔法の面で高い領域に達している。戦闘スタイル的に噛み合うと言えば、そうなのだが……。

 

(その物理も魔法も負けてますからね~。痛い目を見せるぐらいはできるかもですが。さて、タブラさんは……やる気なのかな~)

 

 タブラはヘロヘロからの問いには答えず、沈黙したまま数秒が経過する。たっちとウルベルトが「タブラさんは関与しない方針か?」と互いに視線を向け直した……その時。

 タブラが、アイテムボックスから長方形の板型データクリスタルを取り出した。その板面を親指でなぞると、勇ましい音楽が鳴り出す。たっちとウルベルトは、一瞬頭上に?マークが浮いたものの、音楽に乗せられる形で取っ組み合いを始めた。

 

「っしゃーおらぁ! デビルチョップ!」

 

「なんの! こっちも騎士(ライダー)チョップぅ!」

 

 組んずほぐれつのプロレスだ。まさに、男と男の六〇分一本勝負。

 (いにえしえ)のギャグアニメや漫画で言えば、ひとかたまりの土埃の中から、時折、拳や足や顔などが見える……そんな戦闘(?)シーンでもある。

 数歩分離れた位置では、セバスとデミウルゴスがオロオロしており、ツアレは先程のポージングのまま固まっているようだ。

 この様子を見やりながら、タブラが溜息をついた。手に持ったデータクリスタルは撮影モードに移行している。

 

「お互い、溜まるものがあるみたいだし? 剣も魔法も無しなら良いストレス発散になるんじゃないか……とね」

 

 異形種化したタブラはタコ顔なので、その表情は読めない。手に持つデータクリスタルからは、今も音楽が流れ続けているが、ほへ~とタブラを見上げていたヘロヘロは、その曲目が気になった。

 

「タブラさん。ちなみに何て曲なんです? 随分と格好いいですけど?」

 

「大昔のプロレスの入場曲だよ。なんとかライズだったかな? 当時有名なプロレスラーの入場曲で……」

 

 終わることなき乱闘を前に、タブラはヘロヘロに向けて解説を続けるのだった。




 モモンガさん、脱童貞。
 いたしてるシーンは、今のところ書く予定がありません。

 一人で異世界転移しなくて良かった!芸は、3回目ぐらいですかね?
 これまでは書き手として、その場のノリでモモンガさんに言わせてましたが、今回は明確に『原作のアインズ様』を意識したシーンにしています。『集う至高のモモンガさん』は、原作アインズ様のことをもちろん知りませんが、本作のモモンガさんが幸せを噛みしめると共に、原作アインズ様にとって酷な物言いになるよう意識してみました。
 読んで原作アインズさんが気の毒で複雑な感覚になるか、原作アインズ様の悲惨が引き立つ感じで笑っていただければ、書き手としてどちらであっても幸いです。

 たっちさんのアバターモデルは、感想掲示板で入手した情報ではトンボだそうで。ずっとバッタ扱いを通してきましたが、ちょっとだけトンボ要素を入れてみました。なので、課金アイテムでアバターのモデルチェンジしてるのは捏造設定です。

 たっちさんとウルベルトさんでは、身体能力に差がありすぎてプロレスにならない気もしますが、そこはまあプロレスですので。仲良く喧嘩しなって感じですかね?
 プロレスは最近見てませんが、昔はそれなりに見てました。聞こえる曲と曲名が一致するのってサンライズだけなんですよね~。スカイハイとかも大丈夫かな?

 1~3回ぐらい、日常回を続けたいかな~。
 活動報告で弐式&ナーベラルがありましたので書いてます。


<誤字報告>
tino_ueさん、安全 空間さん

 毎度ありがとうございます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。