オーバーロード ~集う至高の御方~   作:辰の巣はせが

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第12話 あの、ナーベラルは大丈夫なんですか?

「アインズ様……」

 

 女性の声がした。

 アルベドは村長宅で情報収集中なので、この場に居るナーベラルが発したのだ。

 明るい未来に胸を取らせていたモモンガは、機嫌良くナーベラルを振り返る。

 

「ナーベラル、現地人の協力を得られそうだぞ! お前は、どう思う?」

 

「そこの下等生物(ゴミ虫)を、栄えあるナザリックに入れるおつもりですか?」

 

 その瞬間、場の空気が凍りついた。

 嬉しそうに語っていたモモンガは口を開けたまま固まり、その隣で立っていたヘロヘロは信じられないモノを見たように目を丸くしている。弐式などは組んでいた腕を解きかけ……た状態で、モモンガ同様固まっていた。

 一方、言われた側のロンデスはと言うと、部下達と相談していたところで振り仰ぎ、呆気に取られてナーベラルを見ている。他の騎士達も同様で、ベリュースですら泣くのを止めてナーベラルを凝視していた。

 

「そもそも……」

 

 至高の御方と騎士ら全員がフリーズする中、そして咎める声も出なかったことで、ナーベラルは蔑みの視線をもってロンデス達を一瞥する。

 

「人間など役に立つはずないではありませんか」

 

「ナーベラル!」

 

 声高に弐式が名を呼び、ナーベラルはポニーテールをビクリと揺らした。明らかに怒りの色が混じった声だったことで、怯えの表情を創造主に向ける。が、弐式は構わずに歩み寄り、ナーベラルの腕を掴んだ。

 

「モ、アインズさん。俺、向こうでナーベラルと話してきますんで……」 

 

「あ、あの、弐式炎雷様!?」

 

 何を勘違いしたのか、頬を赤く染めたナーベラルが森へと連行されていく。その後ろを呆然と見送っていたモモンガだが、ふと思い出したようにロンデスに視線を向けた。

 

「あ~……それで、先程の件だが……」

 

 ぎこちない声で問うたところ、ロンデスは部下三名と目配せしてからハッキリと答える。

 

「ありがたい勧誘だったが、お断りさせて貰おう。どうも、我々は歓迎されていないようだ」

 

(ですよね~……)

 

 例えメイドであろうとも、あんな拒絶を示す者が居る組織から誘われて、ホイホイついて行く気にはならないのだろう。それにナーベラルの言葉でモモンガは再認識したが、彼が思っていたよりもナザリックNPCの人間種蔑視は酷いようだ。ロンデスもナーベラルを見て、その辺を察したのかもしれない。

 

(真面目そうな雰囲気が、たっちさんっぽくて好印象なんだけどな……)

 

 未練はあるが、本人が嫌がるものを無理に連れ去るわけにもいかないだろう。魔法で記憶操作するのも何か違うような気がする。

 

(気が変わって訪ねて来たら……)

 

 その様なことをモモンガが考えていると、ヘロヘロがロンデスに話しかけた。

 

「じゃあ、このまま……そうですね。駆けつけてくると言う王国戦士長に引き渡して構わないと?」

 

「ああ、作戦が成功したのならともかく我らは失敗した。そして捕らえられた。ならば被害者に対する責任は取らねばならないだろう。少なくとも、ベリュース隊長と俺ぐらいはな……」

 

「ん?」

 

 笑みすら浮かべて言うロンデスに、ヘロヘロが首を傾げる。その彼がモモンガを見て、モモンガも首を傾げたところで……ロンデスが立ち上がった。

 

「アインズ・ウール・ゴウン殿。せっかくの御勧誘を非礼にも断ることを許していただきたい。そして厚かましいが、俺の願いを聞いて貰えないだろうか?」

 

 ロンデスの願い。それは、部下である三名の騎士を見逃して欲しいというものだった。厚かましいと言えば厚かましいのだろう。だが、モモンガもヘロヘロも、ロンデスの申し出を笑ったり蔑む気はなかった。

 二人で顔を見合わせ頷き合うと、モモンガはロンデスに向かって言う。

 

「良かろう。私達にとって、君達は取るに足らない弱者だ。二人や三人、誤差の範囲内だな。本国に戻ったなら、カルネ村に手出しするな。我らを怒らせたくなければ……とでも報告して貰いたいものだ」

 

 今のモモンガは人化をしている。

 このような尊大な物言いは、底辺サラリーマンだった自分には似合わない。

 

死の支配者(オーバーロード)の外面であれば似合うのに……)

 

 そう思うモモンガであったが、不思議と噛むこともなく、声と口調に威厳を乗せて言い放つことができた。

 

「そこで集めてある武器を拾い、森に入って逃げるといい。森を出るまでくらいなら、私の手の者に護衛をさせよう。逃がした途端、遭難死や事故死されては意味が無いのでな。姿は見えないだろうが……まあ安心して逃げるのだな」

 

 そのように話し終えたところ、ロンデスが部下達に指示を出し、それを聞いた三名の騎士は渋っていたが……怒鳴りつけられるに及んで立ち上がった。

 

「ふむ……。では、こちらの準備だな」

 

 モモンガは伝言(メッセージ)で近場の影の悪魔(シャドウ・デーモン)数体を呼び、これから逃げ出そうとする騎士らの護衛を命じる。ナーベラルと違って、影の悪魔(シャドウ・デーモン)らは直ちに命令を受け入れ行動に出た……はずだ。少なくとも、森へ駆け込んで行った騎士達を迷うことなく護ることだろう。

 

「後は、ガゼフとやらに君らを引き渡すだけ……か」

 

「そのことだが……」 

 

 ロンデスはベリュースの隣りに腰を下ろすと、モモンガを見上げて言った。

 ガゼフが村に到着すると、暗殺部隊の襲撃があるだろう。その者達は、自分達などと違って遙かに強いはず。

 

「スレイン法国には六色聖典という六つの特殊工作部隊がある。それぞれ職務と得意分野は違うが、中には戦闘に特化した部隊があったはずだ。俺は詳しくないが……確か、そうですよね。ベリュース隊長?」

 

 いつの間にか泣くのを止めていたベリュースに、ロンデスが話を振った。

 資産家出の一子であり、箔付けのために任務参加した男……襲った村で娘を犯し、すがりつく父親を何度も刺して殺すようなゲスだが、ロンデスよりも地位は上だ。彼なら、もう少し詳しい話ができるだろう。

 

「う、うう……。父から聞いた話だが……」

 

 黙秘しても良いことはないと感じたのか、ベリュースは怯えた視線をモモンガに向けながら話しだした。モモンガにしてみれば、ベリュースらを相手に戦ってはいないので、怯えられる覚えはない。

 

(弐式さん。分身体に、どんな戦い方させたんですか……)

 

 弐式が消えた方を見るが、既に茂みの向こうに移動したらしく彼らの姿は目視できなかった。そして、その間にもベリュースの説明は続いている。

 

「む、六つある聖典部隊で暗殺任務と言えば、火滅聖典。しかし、相手はガゼフ・ストロノーフだ。誘い出したとは言え、正面から戦うのは厳しい……かも知れない。となると、陽光聖典が出てくる……と思うのだが……」 

 

 陽光聖典は、亜人集落の殲滅を基本任務としているとのこと。

 部隊編成についてベリュースは知らないとのことだったが、亜人の集落を殲滅できるのなら、かなりの戦闘力を持っていると思われる。

 

「なるほど、よくわかった。その者達を排除すれば問題ない。そうすれば村での葬儀も安心して行えるというものだ。ガゼフとやらが来るのを、のんびり待つこともできる」 

 

「随分と自信たっぷりだが、大丈夫なのか? 相手は聖典部隊だぞ?」

 

「ん?」

 

 ロンデスが厳しい眼差しでモモンガを見上げていた。彼は言う。目の当たりにしたことはないが実績は本物だ。スレイン法国の聖典部隊を甘く見ない方がいい……と。

 

(確かに甘く見てたかも知れないな~。ロンデス達を基準にしてはいけない……か。ならば、ここは目一杯頑張るとして……。そうだ、いいことを思いついたぞ!)

 

 モモンガはロンデスの責任感は大したモノだと考えている。だが、その責任感を超えてナザリックに靡くことがなかったのは、ロンデスがモモンガ達の実力を知らないからではないか。そう考えたのだ。

 となると、問題なのは潜伏中の聖典部隊の強さである。

 

(騎士の実力はマジで大したことなかったものな。なんとか聖典がどれぐらい強いのかはわからないが、数倍ほど強くしたって俺達の全力で対処できない程じゃない……と思うんだ)

 

 今ひとつ強気になりきれないが、モモンガが考えたのは潜伏中の聖典部隊を捕捉撃滅……ないしは捕獲する様子を、ロンデスに見せようというもの。つまりは、彼を連れて戦いに赴くのだ。 

 

(弐式さんとヘロヘロさんも誘おう。様子見して大丈夫そうなら派手にやっちゃうぞ~……。駄目なら……ロンデスは諦めるか。それにしても弐式さんは遅いな……。またイチャイチャしてるのかな?)

 

 

◇◇◇◇

 

 

「あ、あの、弐式炎雷様。どちらへ……」

 

 ナーベラルが戸惑いの声をあげている。

 創造主たる弐式炎雷に手を引かれ、自分だけが連れ出される状況。

 すなわち、自分だけが創造主に必要とされている。

 と、手を引かれた当初は陶酔していたが、主の様子が何やらおかしい。先程から一言も口を利かないのだ。不安を覚えて呼びかけても返事をしないし、ひたすら歩き続けている。

 さらに数分ほど歩き続け、ようやく弐式の足が止まった。

 

「ナーベラル」

 

「はい! 弐式炎雷様!」

 

 主が名を呼んでくれた。

 それだけでナーベラルは天にも昇るような気持ちとなる。

 多くの至高の御方はお隠れになったが、モモンガは変わらず存在し続け、ヘロヘロが戻り、ついには自らの創造主が戻ってきてくれた。これからのナザリックは今まで以上に素晴らしい場所となることだろう。

 

「……ナーベラル」

 

 光り輝く未来を想像するナーベラルに、弐式は再び声をかけた。その声に怒気を乗せて……。

 

「は、はい。弐式炎雷様……」

 

 事ここに到り、ようやくナーベラルは気づく。自分の創造主は怒っているのだ。

 何か、自分は失態をしでかしたのだろうか。だとしたら、すぐにでも自害して謝罪しなければならない。しかし、いったい何が理由で主を怒らせることになったのか。そのことを知らずに死ぬのは口惜しいにも程がある。

 だが、ナーベラルが質問の許可を得ようとする前に弐式は話しだした。

 

「お前。さっきのアレは何だ?」

 

「アレ……とは、どのようなことでしょうか?」

 

 思い当たることができない。そのことがナーベラルには、自身を八つ裂きにしたいほど腹立たしく感じられた。

 

「さっき、アインズさんが勧誘した人間を『下等生物』だとか『ゴミ虫』とか言ってたろうが……」

 

「ああ、あれですか……」

 

 ナーベラルは鼻で笑いそうになる。

 しかし、その衝動を何とか抑え込み、当時の状況を思い出した。人間だけの話であれば記憶の片隅にも残らなかったろう。だが、あの時はモモンガや弐式が居た。至高の御方が関連したことであるからこそ、こうして思い出せるのだ。

 

「人間など、取るに足らない下等生物(ガガンボ)では? その様な者が、栄えあるナザリックに……」

 

「それは良いんだ」

 

 ナーベラルのセリフを遮った弐式は、ナーベラルに一歩近づき、自らが創造した美しい顔を覗き込む。

 

「お前が人間を蔑むのも、感情任せな物言いも。それは全部、俺が設定したことだ。お前を作ったときにな。だから、それはいい」

 

「ああ……」

 

 自分を創造してくれた主が、自分が『そうあれ』と望まれて決められ、それに従って取った行動を肯定してくれた。これほどの幸せが他に存在するだろうか。

 

「けどな。お前、本当にわかってないんだな」

 

「弐式……炎雷様?」

 

 幸せの絶頂に居たナーベラルを、そこに導いたはずの弐式の声が引き戻した。

 

「確認するぞ? お前にとって、俺達は何だ?」

 

「ナザリックの支配者。至高の御方でございます。そして弐式炎雷様は、私の創造主であらせられます」

 

 淀みなくナーベラルは答える。それはナザリックに住まう者にとって、呼吸するよりも自然であり、当然のことだった。

 

「じゃあ、その中でモモンガさんは?」

 

「至高の御方四十一人の纏め役であり、他の至高の御方からはギルド長、あるいはギルドマスターと呼ばれる御方です」 

 

 これもまたナザリックにおける常識である。

 胸を張って答えたナーベラルに対し、弐式は二度ほど首を横に振ると平静な声にて告げた。 

 

「そこまで理解しておきながら……。俺に言わせるのかよ……。あのな……あのロンデスっていう人間をナザリックに勧誘しようってのはな。俺達が相談してるのは、お前も見てたろうが……コソコソ話してたから聞こえなかったか? 提案者は、この俺だ」

 

「え……」

 

 ナーベラルの表情が凍りつく。しかし、彼女の絶望はまだ始まったばかりだ。

 

「俺の話を聞いたモモンガさんは、最初渋った。そこを説得したのも俺だし、更に言えばヘロヘロさんも賛成してくれてる。全員一致で可決して、ギルド長のモモンガさんが『俺達を代表』して、外部の人間種であるロンデスを勧誘したわけだ」

 

「ああ、アアアア……」

 

 もはやナーベラルは顔色を無くしただけでは済まず、全身をワナワナと震わせている。

 

「至高の御方ってのが相談し合って決めて、対外的に取った行動だよな? そこにナーベラル、お前がケチをつけた。しかも、外部の人間であるロンデスの目の前でな。あれがすべての原因じゃないだろうが、ロンデスはモモンガさんの勧誘を断ったよな?」

 

「……」

 

 呻き声すら出なくなったナーベラルを、弐式は面の奥から凝視した。

 

「着てる服からしてメイドにしか見えない女が、主の交渉に口を挟む。そして台無しにする。なあ、わかるか? モモンガさんや俺達の足を引っ張ったのは、確かに問題だよ? それもあるけど……」

 

 一度言葉を切って考える。これから言おうとしているのは、先程の一件で最も気になっていたことだ。ナーベラル・ガンマの創造主として、彼女に対して責任ある者として、必ず伝えなければならないことでもある。

 

「お前さ……。さっきのアレで、自分がモモンガさんに恥をかかせたって理解できてるか?」

 

 付け加えるならナーベラルの行動によって、弐式の面目も潰れていた。彼はナーベラルの創造主だからだ。

 ただ、弐式は自分のことでナーベラルを責めるつもりはない。

 彼女のポンコツな部分は、自分が大はしゃぎしつつ数値を割り振り、設定を書き込んで作成したもの。ナーベラルの言動には弐式自身にも責任があるからだ。

 しかし、モモンガに恥をかかせたこと。これを見過ごすわけにはいかない。

 

「も、申しわけ……」

 

 謝罪の言葉を紡ごうとするが、ナーベラルは恐怖と絶望感のあまり舌が回らなかった。

 謝罪一つ口に出すこともできない。このような無能な自分が居ては、至高の御方の……創造主の迷惑になるばかりだろう。そう判断したナーベラルの口から、やっとのことで音声が吐き出された。

 

「すぐに、でも、じ、自害を……」

 

「馬鹿言え、舐めてんのか?」

 

 想定していた言動ではある。が、それを聞いた弐式の口調が粗雑なものとなった。

 彼は先ほど、モモンガから次のような話を聞かされている。

 

『連絡が回りくどくて時間の無駄だから。直接連絡して良いって言ったんです。そしたら、伝言(メッセージ)の向こうで「不手際につきましては自害してお詫びを!」とか始まって……。ナザリックNPCの忠誠心、マジでやばいです』

 

 これを聞いたとき、うかつに叱ることもできないな……と弐式は思ったものである。

 しかし、ナーベラルはやらかした。

 空気を読まず場もわきまえない。その調子で発した言葉が、友人であり、ギルドの長たるモモンガに恥をかかせ、ひいてはギルド『アインズ・ウール・ゴウン』の名に泥を塗ることとなったのだ。

 これを見過ごすことはできず、さりとて外部の者や他者の目の前で叱責することは憚られたため、こうして森に連れ込んだのだが……。

 

(自分のしたことを言われて気づいて、それで……軽々しく自害とか言い出すなんて……)

 

 自分の作成したNPC。理想の塊が、いとも簡単に命を捨てるようなことを言うものだから、ついカッとなったのである。

 

(きつく言い過ぎたのか? 叱りつける前の説教とか、諸々が……きつめだったか?)

 

 女性に対して叱責慣れしているわけではない。

 不安になる弐式であったが言うべきことは言っておかないと、この先、同じ失敗をナーベラルは繰り返すだろう。最悪、余所のプレイヤーの機嫌を損ね、それでプレイヤー同士の殺し合いになりかねない。

 ナーベラルには人間蔑視やナザリック外部の者への蔑視を、内心はともかく外に出すことを控えて欲しかった。

 

(何か……上手い説教は無いもんかな)

 

 弐式は震えるナーベラルを前に考え、一つのアイデアを思いつく。

 

「なあ? お前、メイドだよな? 戦闘メイド(プレアデス)だが……メイドには違いない。そうだよな?」

 

 問われたナーベラルは跳ね上げるようにして顔を上げ、弐式を見上げた。

 メイドであるかどうか。存在意義の大半について聞かれているのだ。

 ならば自分は胸を張って答えなければならない。 

 

「もちろんです! ナザリック地下大墳墓の深奥にて、至高の御方を護る最後の盾となる。その任務を与えられていますが、私は……私達、戦闘メイド(プレアデス)はメイドです!」

 

 至高の御方の一助となって戦うだけなら、強力な僕やモンスターは他にも存在する。だが、自分達は戦うこと『が』できるメイドとして生み出された。

 否、戦うこと『も』できるメイドなのだ。至高の御方に奉仕することこそが本分である。

 

「俺達のメイドであることに誇りを持ってるってんだな?」

 

「はい!」 

 

 弐式は二度ほど頷くと、声に柔らかさを戻しつつ姿勢を戻し、腰に手を当てる。

 

「じゃあ、簡単だ。メイドの業務には接客も含まれる。外から来た客に不自由させないよう、嫌な思いをさせないよう。自分の行いで主人に恥をかかせないよう。メイドらしく在ればいいんだよ。お前の仕事と、お前が外の奴ら……例えば人間をどう思ってるかなんてのは、まったくの別問題だ。そうだろ?」

 

「それは……そうですが……」

 

 口籠もるもナーベラルには反論しようがなかった。そもそも至高の御方の言に反論するなどおこがましい話だ。それこそ万死に値する。だが、外部の者。そして人間に対してナザリックのメイドとして振る舞えるだろうか。ナーベラルは自信が無かった。

 

(ユリ姉様や、ソリュシャン、ルプー姉さんなら……上手くやれるかも。いえ、シズやエントマだって上手くできると思う。でも、私は?)

 

 人間に対して込みあげる嫌悪感。口をついて出る侮蔑の言葉。

 すべてが、創造主に『そうあれ』と決められたことなのだ。 

 

(それを体現せずに……ユリ姉様達の様に? 私に可能なの?)

 

「無理か?」

 

「……っ!」

 

 弐式の声が再び冷たさを増す。

 

「できないなら構わないぞ?」

 

 許された。コンマ一秒、その様な考えがナーベラルの脳をよぎったが、そんな甘い話があるわけが無い。

 

「接客どころか対外的な対応もできないメイドなんて、人前に出せないからな。お前にはナザリックで待機していて貰う。何かあって外に出すのは、今日が最後ってことだな」 

 

「そんな……」

 

 愕然とするナーベラル。

 本来の戦闘メイド(プレアデス)の存在意義からすると、弐式の言は「元の配置に戻す」と言っているだけのことだ。しかし、これからも至高の御方は外に出て行くことがあるだろう。その護衛として今日のように同行できない……同行が許されないのは、耐え難い絶望だった。

 一度、同行を許されて、次からは許されない。

 それはナーベラルにとって無能の烙印を押されたのと同じなのだ。

 凍りついたナーベラルに対し、弐式は肩をすくめて見せる。

 

「それが嫌なら精進するしかない。心を入れ替えろなんて言わないさ。『メイド』をやればいいんだ。俺はナーベラルならできると信じてる」

 

 信じてる。それを聞いたナーベラルの表情が明るくなったが、対する弐式の心は痛みっぱなしだった。

 先程、自分でも言った。

 ナーベラルが、今のような言動を取るのは弐式自身が設定したからなのだ。

 それを偉そうに説教して矯正しようだなんて、ナーベラルが可哀想すぎやしないか。

 いったい自分は何様なのか。

 

(至高の御方か……。分不相応。おこがましい。そんな思いしか湧いてこね~し)

 

 弐式は空を見上げた。森の木々、その先端の隙間から青い空が見えている。村では埋葬から葬儀が始まり、夕刻の頃には一通り済んで静かさを取り戻すだろう。

 

(モモンガさんなら、ナーベラルをどうしたんだろうな……)

 

 もしも、モモンガが一人で外に出ることがあって、ナーベラルをお供にした場合のことを弐式は考えてみた。

 ナーベラルが例の言動でモモンガに迷惑をかけ、困らせている姿が容易に想像できる。

 モモンガはナーベラルをその都度叱るだろうが、ナーベラルの自害言動に閉口して、そのうち厳しく叱るのを止めるかもしれない。言っても無駄と諦めることもあるだろう。

 

(叱られてるうちが花……を通り過ぎるわけか。俺のナーベラルがね……。……たまらんな)

 

 そうならないためにも、ナーベラルについては自分の手元に置いて矯正……いや、指導をしていくべきだろう。

 

(あとは……NPCが動いてるってことは、ペストーニャも動いてるのか? だったら、ナザリックに行ったらペスに相談してみるか)

 

 ペストーニャ・S・ワンコは弐式が記憶するところでは、メイド長の立ち位置だった。自分のことを至高の御方と言って崇めてくれているなら、相談ぐらいは乗ってくれるはず。

 

「こんなところか……」

 

 大まかな方針を決めた弐式は、肩の力を抜きナーベラルの頭に手を置いた。

 

「悪いな、ナーベラル。お前を、そんな風に作ったのは俺だ。そういう風にしか出来ないのに、無理言ってるとは解ってるんだ」

 

「そんな! すべて、私が到らないせいなんです! 弐式炎雷様には……うっ」

 

 言いつのるナーベラルの頭が乱暴に撫でられる。

 

「黒ポニーテールは至高だが……。たまには降ろしてロングストレートも悪くないかもな」

 

「えっ?」

 

 目を丸くする戦闘メイド(ナーベラル)に「こっちの話さ」と言い、弐式は歩き出した。行く先はカルネ村。モモンガ達の元へと戻るのである。

 

「諸々はナザリックに行ってからだな。相談したい相手も居るしぃ。そうそう、最後に言っておくが……」

 

 ついて来るナーベラルを、弐式は肩越しに振り返った。

 

「俺はな。『死んで償います』とか、自分から言い出す奴が嫌いだ。たぶんアインズさんやヘロヘロさんも同じだぞ? だから、今後は気をつけてくれ」 

 

 

◇◇◇◇

 

 

「弐式さん。ナーベラルと何か話してたんですか?」

 

 広場に戻ってきた弐式達を見て、モモンガが声をかける。弐式は「やあ」と手を挙げると、ナーベラルを伴ったまま近づいてきた。ナーベラルは少し落ち込んでいるように見える。

 

(森に行ったタイミングがアレだったから、お説教の後で慰めてイチャイチャしてると思ってたけど。きつめの説教だったのかな?)

 

 先にナザリックと伝言(メッセージ)をした際に慌てたことだが、ナーベラルにまで『死んでお詫びします!』などと言い出されては困る。それに、今は埋葬作業が進んでいるところで、この後は葬儀の予定だ。みっともなく騒ぎ立てたくはないのである。

 

「どうも、アインズさん。さっきの件で、ちょっと話が長引いちゃって。……と、あれは……ルプスレギナ……でしたっけ?」

 

 弐式の目がモモンガから、村人達の間で立って指示している女性に移った。

 僧服めいたメイド服と帽子に身を包み、聖印を象った武器を背負っている。赤毛に褐色肌で、そこそこ長身の女性だ。なお、胸は大きい。 

 

「ええ。メコン川さんのとこの子です。クレリック系を修めてまして、葬儀の取り仕切りとかが出来るんじゃないかな……と、ナザリックから呼んでみたんですが。思いのほか上手くやってるようです。人間相手にも愛想良く振る舞えるとか、最高ですね」

 

 最後にルプスレギナを褒め称えたところ、離れた位置でルプスレギナが帽子をひくつかせて上機嫌になったのが見えた。それほど大きな声で話したつもりはなかったが、聞こえたとしたら大した聴力である。一方、森から戻った際に落ち込んでいた風のナーベラルが、更に表情を暗くしていた。

 

「あの、ナーベラルは大丈夫なんですか?」

 

「ははは。だ、大丈夫ですとも」

 

 噛みそうになりながら言う弐式は、大丈夫じゃないだろうなと思っている。

 先程、人間種への接し方に関して諸々叱責されたナーベラルにとって、同じ戦闘メイド(プレアデス)の姉妹が失敗しないどころか上手くやって褒められているというのは、屈辱あるいは劣等感を覚えるはずだ。

 しかし、今「気にするな」と言ったところで、ナーベラルの心には響かないだろう。敢えて黙っておく方が良いのかもしれない。

 

「そうですか。クレリック系なら葬式とかできそうですしね」

 

 元々、カルネ村には外部から派遣された僧というのが居らず、葬祭事は村長が仕切っていた。それを知ったモモンガがルプスレギナを紹介したのだ。宗派的には、この世界の宗教と合致しないようだが、きちんとした僧職者に仕切って貰えるならと、村長側からの願いもあってルプスレギナに諸々任せたのである。

 実際、ルプスレギナは上手くやっていた。

 村人からの質問にも笑顔で答え、まとわりついてくる子供らの相手もしている。

 弐式などは、うちのナーベラルとは大違いだ。メコン川さん、上手いこと設定したな……と心の中で思っていたが、もちろん声には出していない。

 

「ルプスレギナが動いてるなら、やっぱり大丈夫そうかな」

 

「え? どうかしましたか?」

 

 ボソリと弐式が呟くので事情を聞いてみたところ。ナザリックでペストーニャが動いてるかどうかを質問された。答えは「動いてる」である。

 

「ナザリックの食堂で会いましたよ。ヘロヘロさんの登場に、メイド達が感動してしまいましてね。そこで彼女が登場して……」

 

「そう……ですか。アインズさん、後でお願いしたいことがあるんですけど……」

 

「かまいませんが?」

 

 なんだろう。とモモンガは首を捻ったが、この場での弐式は、それ以上話すことはなかった。

 そして、暫く時が過ぎて埋葬作業が終了し、ルプスレギナ・ベータが取りしきる葬儀が始まる。彼女が口にする祈りの言葉や、神の名は村人達にとって聞き覚えの無いものだったが、ルプスレギナの堂々とした態度と、本職の僧侶が醸し出す厳粛な雰囲気。それが、村人達を落ち着かせ、亡くなった者への祈りを捧げることに集中させていた。

 末席で葬儀に立ち会うモモンガは、周囲が夕日によって赤くなりつつあるのを見て、次に起こること、しなければならないことについて考えている。

 

(ガゼフは、そのままカルネ村に入れるとして。問題は聖典部隊とかか……。弐式さんは分身体を出して見張らせてるんだっけ? ロンデスに聖典部隊の相手をするところを見せるとしたら、もう行動に出た方がいいかもな)

 

 村には誰を残したら良いだろう。

 騎士達は弱すぎたが、今度は上位組織の戦闘部隊らしい。

 ここは先程も考えたがモモンガとヘロヘロ、それに弐式の三人で対応したいところだ。

 NPCらは護衛が必要とか騒ぐだろうから、アルベドを連れて行けば十分だろう。彼女の防御力は当てにできるし、相手が強すぎたらアルベドに防がせて、その隙に逃げる手がある。転移阻害をされる恐れがあったが、一〇〇レベルのプレイヤーとNPCが合わせて四人居るのだ。何とか切り抜けられるだろう。

 

(そうなると、今連れてきてるメンバーで言えばナーベラルとルプスレギナを残していくのがいいかな? 村の周りには影の悪魔(シャドウ・デーモン)が居るし、レベル四九の八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)も居る)

 

 八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)は、影の悪魔(シャドウ・デーモン)と手法は違うものの、不可視化が可能だ。同じく村の外縁部……森の中に潜ませていた。

 何者かの襲撃があっても、暫くなら持ち堪えられるだろう。

 モモンガはヘロヘロと弐式を目配せで呼び寄せると、村から離れた場所で潜伏中の聖典部隊を襲撃するべく打ち合わせを始めるのだった。

 




説教シーン書くの辛い

職場でお説教することもあるんですが、あれ……疲れるんですよね

カルネ村に本職の僧職者は居ない。居なかった。
これについては確認できてません。
騎士の襲撃で死んだことにしようかと思いましたが、それだと居たことになっちゃうし。
取りあえず本作では居なかったこととします。

ナーベラルがペストーニャによるスパルタ再教育コース確定。
原作じゃモモンガさんに叱られまくっても矯正できてませんし。
創造主の弐式さんに言われても、それだけじゃあ改まらないだろうな……と思ったことによります。
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