オーバーロード ~集う至高の御方~   作:辰の巣はせが

120 / 133
第120話

 人のような鳥が居る。

 その鳥は明るく、和を尊び、陽の気に満ちた……変態紳士だ。

 こう聞かされたとき、あなたはどう思うだろうか。

 そんな馬鹿な、人で鳥で変態で、そのような者が居るはずがない。

 そう思うだろうか。

 だが、彼は実在する。ナザリック地下大墳墓という場所に……。

 

「まあ、アレですよ。レメディオスさんもケラルトさんも美人だと思うんですけどぉ。俺的には少し、オッパイが大き過ぎる感じなんですよね~」

 

 腕を組み、溜息交じりで首を振る彼は、爆撃の翼王……ペロロンチーノだ。

 黄金仮面の鳥人がエロ語りしている姿は実にシュール。しかし、自室であるから何を語ろうと自由である。その座ったソファの対面に、弐式炎雷とヘロヘロが居なければ、だが……。

 

「胸の大きさについては、別な意見があるんですけどね~。ま、それは良いとして、俺と弐式さんを呼んだのは、それを聴かせたかったからですかぁ?」

 

 古き漆黒の粘体(エルダー・ブラック・ウーズ)のヘロヘロが、ペロロンチーノの左前でウネウネと蠢いている。この問いかけを聞き、ヘロヘロの左隣で座る弐式が頷いた。

 

「俺は、ヘロヘロさんの好みよりも少しサイズが小さいのがいい。だけど、ペロロンさんの好みほど小さすぎるのものな~。とまあ、俺の乳見解を述べたところで……」

 

 弐式は両膝を掴むと、グッとテーブル上に身を乗り出す。

 

「ヘロヘロさんも言ってましたけど、どういった用件で呼ばれたんでしたっけ? しかも、NPCの同行不可で……」

 

 今回の呼び出しに関し、ペロロンチーノはナーベラルとソリュシャンの同行不可を条件付けている。つまりは二人に聞かせられない話をしたいわけだ。

 

「いや~、NPCの口が堅いのは知ってるんだけど、念には念を入れたいんです!」

 

 なるほど、この部屋にはペロロンチーノのNPCであるシャルティアの姿がない。ここまでしてギルメンだけの話をするということは、さぞかし重要な……。

 

「実はですね! たっちさん達の交際女性に、何かしらサプライズを~……」

 

「はい、解散」

 

 弐式が席を立った。ヘロヘロも、ぬるびちゃあとソファから床へ降り、ペロロンチーノに背を向けつつ忠告する。 

 

「サプライズするにしても、相手を考えてやった方が良いですね~。外部のお嬢さん方じゃないですか。それと! たっちさん達がマジギレしたら、ギルド長(モモンガさん)は味方してくれないと思うんです~」

 

 サプライズの内容にも依るだろうが、ペロロンチーノが仕掛けた側で、たっち達に非がなく、それで被害が発生したとしたら……ヘロヘロが言ったとおりになるだろう。

 

「ま、ペロロンチーノさんがやらかしたときに、モモンガさんが味方してくれるのって……あまり見ないんですけどね~」

 

 そう言い捨てて移動し始めたヘロヘロに、弐式が「急に呼び出すから何かと思えば……」などとぶつくさ言いながらついて行く。そこに、ペロロンチーノの声がかかった。

 

「待ってください! これは悪意の悪戯じゃなくて、たっちさん達を支援するためのサプライズなんですよ!」

 

「ほほう、支援?」

 

 弐式が、腰を浮かせて手を差し伸べているペロロンチーノを振り返る。少し遅れてヘロヘロも振り返ったが……。

 

「話を聞くんですかぁ~? 俺、嫌な予感がするんですけど~」

 

「まあ、聞くだけ聞いてみましょう。興味があります」

 

 胡散臭さで乗り気ではないヘロヘロと、気質がペロロンチーノ寄りな弐式。態度に差が生じているものの、二人は戻ってきてソファに座り直した。

 ペロロンチーノは安心した様子で肩の力を抜き、身振り手振りを交えて語り出す。

 

「いやあ、二人にお願いしたいのはですね。ヘロヘロさんにはアイテムの提供、借り出しかな? 弐式さんには、そのアイテムの運用補助ですね!」

 

 具体的に何を目的にするのか……という説明がまだだが、弐式達は顔を見合わせた。すぐにペロロンチーノに顔を向け直すが、最初に口を開いたのはヘロヘロである。

 

「ふ~ん、なるほど。俺に関しては、アイテムを出すってことだけですか。他に手伝ったりは?」

 

「ありません」

 

 ペロロンチーノは即答した。対するヘロヘロは、数秒ほどウネウネしていたが、やがて思いついたことがあったらしく口を開いた。

 

「……どんなアイテムを出してほしいんですか?」

 

「それはですね!」

 

 ペロロンチーノが口に出したアイテム名は想定外だったが、ヘロヘロはアイテムボックスに持ち合わせがあった。特に変な機能もないので、レメディオスやケラルトを相手に使うとしても問題はないだろう。

 

(どんなアイテムでも、使い手次第で結果が想定外! になる可能性があるんですけどね~。さて、どうやら……ここが離脱の分岐点ですかね~)

 

「いいでしょう! わかりました。おおむねの用途も理解できましたし、深くは聞きません。アイテムだけお出しして、返却は後日。買い取りなら別途相談するということで……俺は帰っていいですよね?」

 

 アイテムボックスから注文どおりのブツを取り出しながら、ヘロヘロはペロロンチーノに確認した。ペロロンチーノはさほど残念そうでもなく、テーブル越しにアイテムを受け取り頷いている。

 

「ありがとうございます。どうせなら最後まで関わって行かれては?」

 

 誘いの言葉。だが、その声色からは『本心からの誘い』か『巻き込むための誘い』なのかが判別できない。隣で座る弐式は……こちらは特に気にしては居ないようで反応なしだ。

 

(弐式さん、もう乗り気なのかな。逃げた方がいいと思うんですけどね~)

 

 ぶくぶく茶釜の居ない場所でペロロンチーノが楽しそうにしている。これは危険信号なのだ。下手をすれば折檻に巻き込まれると判断したヘロヘロは、謝絶してから部屋を出た。

 

「……」

 

 閉じられた扉をヘロヘロは振り返る。

 弐式を連れ出すべきだったか……そう思ったものの、ヘロヘロはフルフルと全身を左右に振った。弐式がペロロンチーノの言動を怪しんでいるようであれば、ヘロヘロは弐式に声をかけただろう、だが、今思い返しても弐式は乗り気だった。

 

「ま、弐式さんもいい歳した大人ですしね。自己責任でしょう」

 

 武士の……いや、スライムの情けで茶釜への告げ口はするまい。

 そう決めたヘロヘロは、「暇ができたことだし、ソリュシャンを誘って王都の武器防具店でも見回りに行きますかね~。久々で王都デートですよ~」なとど呟きながら、ペロロンチーノの部屋を離れるのだった。

 一方、室内で残ったペロロンチーノと弐式は、ヘロヘロの離脱に関してそれぞれに思うところがある。

 ペロロンチーノの場合、「人手が減った感じ? でも、アイテムは借りたし、後は弐式さんが居るから大丈夫かな~」というもの。

 弐式の場合は、「あれ? 俺、ペロロンさんのやらかしに巻き込まれてる? どうしよう……」というものだ。

 この瞬間こそ、弐式が離脱する最後の機会だったと言っていい。だが、弐式はペロロンチーノから説明を受け、それにより納得。行動を共にすることを選んだ。

 そう決断するに至った理由は、たっち達にとって悪い話ではないこと。更に言えば、面白そうだからである。女性趣味の違いは大きいが、面白ければいいという部分では似た者同士な二人なのであった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 当然ながら、たっちとウルベルトはペロロンチーノ達の企みを知らない。

 そんな二人は現在、お相手(たっちはレメディオス、ウルベルトはケラルト)を連れてのナザリック案内を続行中だった。

 行く先は闘技場であったり、最古図書館であったり、姉妹が揃ってトイレ休憩となって、たまたま同じトイレに入ったものだから、外で待つたっちとウルベルトが気まずい思いをしたり……。 

 そうやって時折、ニアミスをしながら二組が行き着いたのはナザリック食堂である。

 

タチ(たっち)! ここの食事は……凄く美味しいな!」

 

 今、たっちの目の前……テーブルの対面席では、お子様ランチを元気よく食滅中のレメディオスが居た。物凄い勢いでミニハンバーグやプリンが消えて行く様は、見ていて気持ちが良いくらいだ。

 食堂に案内し、昼時が近いこともあって早めの食事を……となったのだが、写真付きのメニューの中で、お子様ランチがレメディオスの心を射止めたらしい。ただ、お子様用の料理なだけあって量が足らない。レメディオスが格闘中のお子様ランチ皿、その右脇には、すでに同じ皿が四枚積み上げられていた。

 

「ほれぼれする食べっぷりだね~……。おっ?」 

 

 人化した状態でハンバーグステーキを食べていたたっちは、少し離れた食堂入口からウルベルト(人化中)が入ってくるのを目撃する。左隣にはケラルトを伴っており、実に楽しそうだ。

 

(あんなホッコリしたウルベルトさんって滅多に見ないよな……)

 

 姿を目撃したものの、特に声をかけたりはしない。

 お互いに、今は交際相手と楽しい時間を満喫中なのだ。顔を合わせれば気まずくなる(特にカストディオ姉妹のトイレ休憩時は気まずかった)相手に、わざわざ接触する必要はないだろう。

 それとなく目で追っていると、ウルベルト側でもたっちに気がついたようで一瞬嫌そうな顔になった。が、それ以上の反応を示すことなく、たっちの前方、レメディオスの背後あたりのテーブルに着いている。たっちに背を向けるよう席についたのは、たっちの顔を見ながら食事をするのが嫌なのだろう。一方、ケラルトはウルベルトの対面に座ったので、二組の席位置が少しずれていることもあり、たっちからはケラルトの顔が見えていた。

 最初に目が合ったのは、テーブルに着く前だったが目礼が返ってきたのみ。たっちとケラルトで仲が悪いということはなく、普通に親しく接しているので、これは食堂で大きな声を出すのを躊躇ったことによる。次に目が合ったのは、テーブルに着いた直後だが、たっちに向いた視線が、続いて姉……レメディオスの背に向き、それがレメディオスの右脇にある四枚重なった皿に向けられると、ケラルトの目が見開き、次いで両頬が赤くなった。

 

(「姉さん!? 交際相手の前で何て量を食べてるのーっ!?」って台詞が聞こえた……気がする~)

 

 ケラルトの表情から言いたいことを読み取ったたっちは、「いや、私、女性の健啖ぶりに対して好印象を抱く性格ですから!」と内心でフォローしている。もちろん、ケラルトには聞こえていない。

 

「ん? どうかした?」

 

 たっち組に背を向けて座るウルベルトは、ケラルトの様子に首を傾げたが「な、何でもないのよ?」と言われたので気にしないことにした。メニューを手に取り、近くに居た一般メイドが業務外ながら注文を聞きに来たので……。

 

「日替わりランチセットを頼みます」

 

 と伝える。一般メイドはウルベルトから指示……命令されたことに興奮していたが、続いてケラルトに注文を聞くことを忘れてはいなかった。ナザリックのNPC達にしてみれば、人間などゴミクズか塵芥である。加えて、一般メイドのような戦闘に秀でない者は、恐怖すら覚えていた。だがしかし、今日この場に居るレメディオスとケラルトは、至高の御方の賓客。絶対に失礼があってはならない。失礼があったとしたら万死に値する。

 そういった使命感を胸に抱き、一般メイドは接客対応していたのだ。が、それに気づかないケラルトは少し悩んでから伝えた。

 

「わ、私も同じので……」

 

「ほほう、合わせてくるとは……」

 

 ウルベルトがニヤリと笑う。

 これがペロロンチーノと同伴者シャルティアの組み合わせであれば「うひょー! シャルティアがペア注文してくれてる! ラブラブじゃないかーっ!」とペロロンチーノが有頂天になるところだ。だが、異性との交際経験が少ないとは言え、ウルベルトは一味違う。ケラルトの微妙な表情から異変に気づき、人化中でありながら転移前より優れた感覚で周囲を探知……背後で行われているレメディオスの爆食模様を把握していた。

 

(くくく、姉と違ってお上品なところを見せたいってか? 普段は腹黒でツンケンしてるケラルトが? 可愛いところがあるじゃないか……。タブラさん、これがギャップ萌えなんですかねぇ)

 

 感慨深く思うも、今ここにタブラは居ない。

 しかし、脳内のタブラが「まずはウルベルトさんも一歩踏み出した感じですか。しかし、ギャップ萌えの道は奥深く、また裾野が広くありまして……」と講義を始めそうになったので、ウルベルトは強引に脳内タブラを掻き消した。

 

(ああ~っ、まだ話したいのに~っ!)

 

(すみませんね~。今、忙しいですから~)

 

 ふと気がつくと、対面で座るケラルトがジッとウルベルトを見てきている。

 

「どうかした……んですか?」

 

 ウルベルトは素の口調から「ウルベルト口調」に切り替えて問いかけた。切り替える必要性はなかったが、これは考えごとをしていた直後だったので、さすがのウルベルトも少し慌てたことによる。

 一方、ケラルトは気まずそうに視線を左右に向け、上目遣いでウルベルトを見た。

 

「いえ、その、ね? 私って、よく考えたら……男の人とこういうところで御飯食べるの初めてだな~……って」

 

「ほっ?」

 

 ウルベルトが珍妙な声を出す。よもやケラルトから、初心な女学生の如き台詞が出るとは思っていなかったのだ。それを可笑しく感じてニヤリとするものの……。

 

「考えてみたら、俺もそうかも……」

 

アレイン(ウルベルト)もそうなの? 意外ね~……モテそうなのに」

 

 心底意外そうにしているケラルトに「まあ、世の中の女性に見る目がなかったんだよ」と言いながら、ウルベルトは元の現実(リアル)の頃を思い返す。

 

(ガキの頃は根暗な孤独者で、学生の頃はリア充嫌いのはねっかえり。成人してからは間違った世の中を正す正義の……フン……正義じゃないけど活動家だったものな)

 

 その時々で一杯一杯だったので、まともに異性と付き合う気にはなれなかった。

 異世界転移してからは、冒険者などに面白い女性を見かけることはあったが、行動を共にするたっちが精神的に不安定だったこともあり、積極的にナンパする気になれていない。そうした中、少し余裕ができてきた頃にケラルトと出会したのである。

 

「さあね、自分がモテてたかどうかは興味ありませんね。今が良ければ、良しですよ」

 

 ウルベルト口調で言うと、ウルベルトはケラルトの視線を受け止め、見返した。ケラルトはウッと呻き、頬を染めつつ目を逸らしている。

 

「今が良いってことは、私と食事をしてたり、私と一緒に居るのが良いってことね。ずるいわ~……不意打ちは駄目よ。ええ、駄目ですとも……」

 

 口を尖らせてブツブツ言っているが、異世界転移後、聴力が強化されているウルベルトにはすべて聞こえていた。

 

(くっくっくっ。そんなつもりはなかったですけど、『悪魔(ずる)くて当たり前』……ですからねぇ。愉快愉快!)

 

 この思いを口に出したら、ケラルトが怒って魔法の一つでも飛ばしてきそうだが、そうなったとしてもウルベルトは笑って受け流すつもりである。レベル差がありすぎて防ぐのは簡単だし、そういったじゃれ合いをやってみたいからだ。

 

「オコサマランチを、おかわり! で頼む!」 

 

 背後からはレメディオスの追加注文が聞こえる。声が弾んでいるので、御機嫌なのは間違いない。ウルベルトは常にない穏やかな笑みを浮かべると、届けられた食事に手を付けた。ケラルトも届いた料理の美味しさに目を見張り、ニコニコしながら食事をしている。

 実に良い雰囲気だ。たっちとウルベルトがホッコリしているので、一般メイド達も同じようにホッコリした雰囲気となったが、そうした食堂の空気が一変する。

 たっち組とウルベルト組、双方の食事が終えた頃に、新たな『至高の御方』が姿を見せのだ。

 ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』のギルド長こと、モモンガの登場である。

 この時のモモンガは人化状態で、お供としては戦闘メイド(プレアデス)のルプスレギナ・ベータを連れていた。つまり、交際相手を伴ってお食事に来たわけであり、たっちやウルベルトの行動と変わりがない。

 そして、姿を見せた『至高の御方』はモモンガだけではなかった。

 ペロロンチーノと弐式炎雷の二人も、モモンガから少し遅れるように食堂入りしている。こちらは(しもべ)の同行はなく、二人のみ、異形種状態での登場だ。

 ギルメン三人の姿を見た、たっち達の感覚は「あ、友達が来た」というもの。たっちだけでなく、ウルベルトまで無警戒で居たのはケラルトと良い雰囲気だったからだ。これは完全なる油断と言っていい。何故なら、モモンガは別として、ペロロンチーノと弐式は企みを持ってこの場に現れたのだから。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 少し前。

 

「おや、ペロロンチーノさん達も食事ですか?」

 

 後方から接近してきたギルメン二人……人化したペロロンチーノと弐式(面をまくり上げて挨拶してきた)に対し、こちらも人化中のモモンガは振り返った。共に歩くルプスレギナも振り返り、ペロロンチーノ達に対して一礼している。ちなみに、モモンガがペロロンチーノの名だけで呼びかけたのは、並んで歩く二人の中で、ペロロンチーノが僅かに先行していたためである。

 一方、モモンガの問いかけにペロロンチーノは歩きながら小首を傾げた。

 

「今日は、ルプスレギナがお供ですか……」

 

 ナザリック内を徒歩移動しているモモンガを見かけるとき、同行しているのはアルベド、ぶくぶく茶釜、ルプスレギナの誰かであることが多い。これは女性三人がモモンガの交際相手であるからで、場合によっては二人、多くて三人がついて歩くこともある。

 では、今日この時、同行者が戦闘メイド(プレアデス)のルプスレギナ一人である理由とは何か。

 と言ったところで、実は大した問題ではない。複数女性と交際している男が、その内の一人を連れ歩いていると言うだけのことだ。ペロロンチーノと弐式は単なる興味本位の姿勢だったが、何の気負いもなくモモンガが言った次の言葉を聞き硬直する。ついでに歩く足も止まった。

 

「いやあ、なんかルプスレギナの顔が見たくなりましてね」

 

 ……。

 

((キザなセリフだ!?))

 

 ギルメン二人の心が声もなく一つになる。もちろん、<伝言(メッセージ)>など使ってはいない。だから、続く会話も単なるヒソヒソ話だ。

 

(「弐式さん! モモンガさんって、あんなこと言う人でしたっけ?」)

 

(「まったくNOです! ああいう物言いが許されるのは、良くてたっちさん、悪くてペロロンチーノさんですよ!」)

 

(「目の前の俺をディスらないでくれます!?」)

 

 囁きあうギルメン二人の視線が、モモンガの背に突き刺さる。

 モモンガは機嫌良さそうに笑っているが、左隣を歩く……否、歩いていたが足を止めたので遅れつつあるルプスレギナは、褐色の頬を真っ赤にして俯いていた。

 

「んっ? あ……」

 

 他三人が足を止めたことで、モモンガは振り返った。そして、ギルメン二人とルプスレギナの反応を見て自身の言動に思い当たる。

 

(ぬあああ! 女性の顔が見たいからとか、何言っちゃってるんだ、俺ーっ! ふう……って無理か)

 

 種族特性での精神沈静化に期待するも、残念、今は人化中なのだ。

 

(あ~……一度、死の支配者(オーバーロード)になってクールダウンしようかな~……。それにしてもマズいぞ、今の発言は!)

 

 自分のキャラっぽくない発言も問題だが、今の軽はずみな発言で、ペロロンチーノ達からは嫉妬の炎が……。

 とモモンガは思ったが、目の前のギルメンらは何ら変わりなく普通にしている。

 

「おや? ペロロンチーノさん達は、怒ったり嫉妬の炎を燃やしたりしないんですか?」

 

 二人に問いかけると、ペロロンチーノ達は顔を見合わせてから肩をすくめて見せた。

 

「モモンガさん、お忘れですか? 俺と弐式さんは、交際女性が居るんですよ~」

 

「そうそう。正式に交際宣言とかしてないけど、俺にはナーベラル。ペロロンチーノさんにはシャルティアが居ますものね~」

 

 男二人で「ね~?」と声を合わせている様は、ギルメンに対して寛容なモモンガであってもイラッとくるものがあった。しかし、それも一瞬のことだ。モモンガにだって交際女性は居るからである。

 

「んっんっ、ゴホン! では、俺とルプスレギナは食事をしますので……。では、行こうか、ルプスレギナ?」

 

「は、はい! アインズ様!」

 

 ルプスレギナが元気に返事をし、歩き出すモモンガについて行く。手をつないではいないが、モモンガの左袖を恐れ入りながらつまむ姿は何とも可愛らしい。とてもカルマが凶悪とは思えないが、それを口に出すほどペロロンチーノ達は無粋ではなかった。

 

「う~……む」

 

 ギルメン二人の視線を感じながら、モモンガは唸り、ルプスレギナに囁きかける。

 

「別に手をつないでもいいんだけど?」 

 

 それは限りなく素の口調で、ルプスレギナが帽子で隠れた耳を基点に全身を震わせた。

 

「ふぉおおお、アインズしゃま! 今の素の口調! 不意打ちはダメージが大きいっすよ~……」

 

 困り顔ながら微笑むルプスレギナに対し、モモンガはカクンと首を傾げている。

 

「ダメージ? 俺、何か攻撃したっけ? それより、ほら……」

 

 モモンガは右手を回して左袖を掴むルプスレギナの手を外すと、左手で彼女の手を握った。

 瞬間、ルプスレギナの頬が更に赤みを増し、頭部からは湯気を発しつつ俯いてしまう。食堂内にて居合わせた一般メイドからは羨望の眼差しが向けられ、先にテーブルについて居たたっちとウルベルト、後方のペロロンチーノらは「ほほ~」と、感心したような声を漏らしていた。

 一連の展開にペロロンチーノと弐式は毒気を抜かれた気分になったが、すぐに我に返ると、食堂へ来た目的を思い出す。

 

「い、行くぜ、ペロロンさん!」

 

「行きましょう、弐式さん!」

 

 準備に手間暇と、それなりのアイテムを持ち出した本日の悪戯……ではなくサプライズ。モモンガが同席しているのは想定外だが、ここでやらずにどうするのか。ペロロンチーノ達は、視線をたっち達に向けると足並みを揃えて歩き出すのだった。

 そして、そうした二人を、手近なテーブルについていたモモンガ(左隣にルプスレギナが座っている)が、ジッと見ている。

 

「ん~……んん? これは何か……。おっとそうだ」

 

 一般メイドに二人分のオムライスを頼んだモモンガは、一礼して去って行く一般メイドに手を振ると、おもむろにその手……人差し指をこめかみに添えた。

 

「あ~、もしもし。俺です。いや、詐欺通話じゃなくて、モモンガですってば! それ、前にもやりましたよね!? ちょっと相談が……」

 

 

◇◇◇◇

 

 

「あ、たっ……タチさんとアレインさんだ~。食堂に居たんですね~」

 

 少し棒読みを感じさせつつ声をかけたのはペロロンチーノ。

 この時、たっちとウルベルトらは食後のコーヒータイム中であった。女性二人は『想い人の友人』だと見て会釈している。ペロロンチーノ達に顔を向けるたっちと肩越しに振り返るウルベルトは「あ、ペロロンチーノさんだ。それに弐式さんも……」程度の反応を示しただけだ。

 たっち達の側では、わざわざ声をかけてくるということは何か用なのではと考えていたが、実際に用があったペロロンチーノ達はそのまま距離を詰めていく。そして、ペロロンチーノが前に進み出てたっちの前に立った。二人の『用件』からすると、たっちとウルベルトには近い席で居てくれた方が話しやすかったのだが、手前からたっち、レメディオス。たっち達に背を向けるかたちで隣り奥側のテーブルにウルベルト、その対面席にケラルトという配置なので、これはやむを得ない。

 一方、たっちはチラリとウルベルトを見たが、左肩越しに振り向くウルベルトが肩をすくめたので席を立った。自分が話を聞くと決めたのだ。正直言って良い気分はしない。何しろ、自分は交際相手と食後のコーヒータイム中なのだから。

 

「ええと、私とウル……アレインさんに御用で?」

 

 たっちの声色が少々硬い。弐式は察して「えらいところで声かけちまった」と思ったが、ペロロンチーノは何ら気にすることなく朗らかに話し出した。

 

「いやあ、たっ……タチさんとアレインさんの女性のお友達が来てるじゃないですか。タチさん達にはお世話になってますし、ここは俺と弐式さんから一つ、女性方にプレゼントと思いまして! おおっと、プレゼントの提供者はヘロヘロさんですからお忘れなく!」

 

 これを聞き、たっちは後方で座っているウルベルトに再度視線を向ける。このときのウルベルトは、身体ごとペロロンチーノ達側に向き直っていたが……。

 

(こっち見るなよ、クソたっち。しかし、プレゼントねぇ……。発案がペロロンさんと弐式さんで、ヘロヘロさんに頼み込んで何か出してもらった……と? ケラルト達が喜んでくれるような物なら、ありがたいけど……)

 

 これが見知らぬ相手からの申出ならウルベルトは断っただろう。相手の顔を立てて謝絶ぐらいはしたに違いない。だが、今話を持ちかけてきたのはギルメンだ。ペロロンチーノは悪戯者枠だが、ギルメン相手に心ない悪事を働く男ではない。善意ないし厚意からの行動であるなら、断ることもないだろう。

 

(弐式炎雷さんも一緒だし、俺も考えすぎだな……)

 

 ペロロンチーノ(お調子者)は居るけれど、比較的マシな弐式が一緒に居る。このことがウルベルトの気を緩ませたのかもしれない。ウルベルトは深く考察するのを止めてペロロンチーノの話を聞くことにした。

 

「それで? 念のため……そう、念のために確認したいんですけど。プレゼントというのは、どういった物でしょうか?」

 

 他人への贈答品について聞く。失礼かつ無粋な行為だが、関わっているのが交際相手とあっては口を出さずに居られない。たっちも頷いているので、この質問には同意しているようだ。

 一方、ペロロンチーノはと言うと、少し焦りだしている。

 どういうわけか、ウルベルトは自分のことを警戒しているようだ。となると時間が経過するごとにボロが出る可能性が高くなる。ならば……。

 

(速やかに行動に出るべき! サプライズは鮮度が命!)

 

 そう判断したペロロンチーノは、アイテムボックスから一抱えほどの紙箱を二つ取り出す。底面が広い直方体のそれらは、何か薄い物……あるいは衣類を収納するのに適した形状だ。

 

「これは……服です。ヘロヘロさんが良い物をお持ちと言うので、譲ってもらいました! どういうジャンルかについては、これは装備……いいえ、着てからのお楽しみということで!」

 

「俺はペロロンさんと一緒に見ましたけど、かなりの逸品ですよ!」 

 

 弐式が、箱を持つペロロンチーノの左後方で胸を張った。衣服の提供者はヘロヘロだというのに、妙に得意げである。

 

「ふぅん。ヘロヘロさんのコレクションで、逸品の服か……。これは興味深いね」

 

 ペロロンチーノの右方に居たタブラ・スマラグディナが、タコ似の頭部を傾けて呟いた。

 

(そうそう! ……うん?)

 

 ギルメン中では知恵者ポジのタブラが賛同してくれている。弐式は嬉しく思っていたが……ふと違和感を覚えて首を傾げた。その違和感が何なのか。弐式が気づく前に、新たなギルメンの声が鼓膜を揺さぶる。

 

「お洋服をプレゼントだね! ペロロンチーノさんと弐式さん、いいセンスしてるよ!」

 

 手の指を組み合わせて乙女っぽく喜んでいるのは、やまいこだ。半魔巨人(ネフィリム)の姿でやるから絵面が怖いのだが、その彼女は弐式の左方で立っている。

 女性ギルメンからも、今回のサプライズは好評のようだ。

 そう思いながらも、弐式の中で生じた違和感は膨れあがっている。

 そして、弐式は気づいた。

 

(タブラさんとやまいこさん、いつの間に食堂に入ってきたんだ?)

 

 ギルドきっての偵察屋……忍者として有するスキル群は、二人が『通路から食堂に入ってきた』感覚を弐式に知らせていない。これは、どういうことなのだろう。

 

(最初から食堂に隠れていた? 俺にも解らないぐらいの課金アイテムとかを使って?)

 

 考えにくいことだ。そこまでの事前対応が可能なほど、自分達が情報を漏らしたとは思えない。

 

(課金アイテムと言えば、俺が探知できないくらいのアイテムを使って姿を消して……)

 

 こっそり後から食堂へ入って来た……これも無理だろう。この計画実行にあたり、弐式は気を張っていた。特に食堂に入ってからは、強めの警戒状態でいたと言っていい。そんな彼の探知を、移動しながら誤魔化しきるというのは高難易度が過ぎる。また、そんな高価なアイテムを消費するとも思えない。

 

(結論、やまいこさん達は突然現れた)

 

 知らない者が聞いたら「何を馬鹿なことを……」と言うだろう。だが、弐式が言ったことを実現可能なアイテムがあった。

 ギルドの指輪(リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン)

 この指輪を使えば、ナザリック内のどこからでも食堂に瞬間移動できる。あるいは<転移門(ゲート)>の魔法でも同じことが可能だが、<転移門(ゲート)>では弐式に感知されやすい。やはり指輪の能力だろう。ギルメン達なら、何らかのアイテムと併用して、弐式に感知させない方法を思いつけるはずだ。

 違和感の謎は解明できたようだが、わからないことは他にもある。ギルメン達は何故、食堂に集結しているのか。いったい何が切っ掛けだったのか。

 

(へぁ!?)

 

 と、ここで弐式は、食堂からギルメンとカストディオ姉妹以外の者が姿を消していることに気づいた。これは、あまりにも気づくのが遅い。弐式らしくない失態と言えるが、ギルメン出現について考察していたので気づくのが遅れたらしい。

 

(一般メイドが誰も居ない! いつの間に!? 誰か……ギルメンの指図か!? くそ、考え込みすぎた! それに……)

 

 一般メイドだけでなく、戦闘メイド(プレアデス)のルプスレギナも居ないのか……と彼女の不在を確認し、次の瞬間、弐式は凍りつく。人化したモモンガが……視線を向けてきていた。頬張ったオムライスをモッキュモッキュしつつ、目だけはジーッと弐式達を見ている。

 

(も、『モモンガ様がみてる!』……って、デイバーノックがはまってる少女漫画みたいに言ってる場合じゃねぇ! 目が笑ってないの怖ぇええ!? え? なに? みんなが集まってるのって、モモンガさんが呼んだの!?)

 

 そうやって弐式が慌てている間に、食堂内にはぷにっと萌え、ベルリバーの二名も異形種の姿で姿を現していた。こちらはギルドの指輪(リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン)を使ったのがはっきりと解る。

 実のところ、当初に姿を見せたタブラなどは、アイテム併用で弐式の探知を誤魔化していた。この辺は、弐式が推測したとおりだ。そのタブラ達が、先に食堂で様子を伺い、これまたアイテムで隠蔽した<伝言(メッセージ)>によって後続のギルメン達を呼び込んだのである。

 

「タブラです。今の弐式さん、何やらたっちさん達に集中してるから、指輪転移で大丈夫そう。念のために安い消費アイテムを併用すると良いかな。ええ、簡単には逃げられないと思うね」

 

 そんなタブラ報告があったのだ。

 

(たっちさん達と、モモンガさんにタブラさん。やまいこさんにぷにっと萌えさん、ベルリバーさん……こ、これは……)

 

 事ここに至り、弐式は不味いと思い出す。

 自分達は悪いことをするつもりはないが、どうやら他のギルメン達はそう思っていないらしい。こうして集結されて圧を感じるのもあるが、何よりモモンガの目つきが剣呑すぎる。

 ここは逃げるなりして仕切り直した方が……。

 

(ペロロンチーノさん!)

 

 この件における相棒へ目を向けるも、右前で立つペロロンチーノは弐式の動揺にはまるで気づかず、作戦を決行しようとしていた。

 

(ペロロンさん、こっち見てーっ! と言うか周り見てーっ!)

 

 だが、声なき叫びがペロロンチーノに伝わることはない。

 これはもう駄目だ。何が何だか解らないけど、自分だけでも逃げなくちゃ。

 弐式は遁術系スキルを発動しようとしたが、その両肩は背後からガッシリと掴まれる。

 

「おっと、拘束耐性とかで逃げるんじゃないぞ? 弐式ぃ~……」

 

「た、建やん!?」

 

 いつの間にか背後で立っていた親友……甲冑姿の半魔巨人(ネフィリム)、武人建御雷。その彼に押さえ込まれたのでは逃げるに逃げられない。逃げたところで、後でこっぴどく叱られるからだ。

 しかし、建御雷に後ろを取られるとは、それほどまでに自分は動揺していたのだろうか。これこそ、課金アイテムか何かで自分の感知スキルを無効化したのではないか。今となっては意味はないが、この状態になったことの答え合わせを弐式は求めた。

 

「建やん、どうやって……」

 

「解るだろ? 課金アイテムだよ。モモンガさんから聞いたぜ~、ペロロンさんと組んで何かするんだって? みんなで一緒に見物するのも悪かぁないさ。悪さする気がないなら平気だろ? ん?」

 

 掴まれた両肩が握々(にぎにぎ)され、時折ミシリと音がする。

 

(終わった……)

 

 弐式は観念して肩を落とした。

 しかし、サプライズがモモンガ達のお気に召す結果になれば……まだハッピーエンドの目がある。内心「駄目かも……」と思いつつ、弐式は明るくたっち達に話しかけるペロロンチーノを見守るのだった。

 




前回から投稿の間隔が開いてしまいました。申し訳ございません。
仕事事情で、数年周期の当番イベントがポシャりそうになって、一瞬、解放された形だったのですが、しかし、やっぱりやるとなったので現在進行形で忙しかったり。他は家庭事情ですかね。

本当はサプライズイベントの本番と、その結末も書きたかったのですが、長くなるので次回に回します。それでリクエストのたっち&ウルは終わりということで。

課金アイテム使いすぎじゃないの? と思うんですけど、本作はノリ優先です。


<誤字報告>

D.D.D.さん、tino_ueさん、佐藤東沙さん。

毎度ありがとうございます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。