オーバーロード ~集う至高の御方~   作:辰の巣はせが

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第122話

 その日の朝。

 死の支配者(オーバーロード)……モモンガは、自室の執務机で事務処理をしていた。

 彼はナザリック地下大墳墓の一番偉い人なので、ありとあらゆる書類がこの机に集まってくる。それは、ローブル聖王国を脅かす亜人氏族連合、その動向についての報告書であったり、今月の出費の集計報告書であったり、必要物の購入に係る物品調達要求書であったりだ。

 モモンガは、その一つ一つに目を通していく。

 

「亜人氏族連合? あの、ローブル聖王国に喧嘩を売りそうな亜人氏族をデミウルゴスが連合化したやつだっけ。え~? 氏族長同士で取っ組み合いの喧嘩ぁ? 分裂を防ぐために、一部の族長を徹底的に『教育』した上で、説得役に? デミウルゴス、頑張ってるな~。そろそろ氏族連合とか、始末した方がいいのかもな~……。ギルメン会議が必要だな、うん」

 

 ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』として、お祭りがてら一大決戦をしたい。そういう気軽な思いから計画していたことだが、今では交際相手であるカルカ達の国が脅かされるという構図になっている。この先、氏族連合の制御を誤り、暴発した末に聖王国で被害が出る……といったことになる前に、始末した方が良いのではないか。そうモモンガが思うのは当然のことだった。何より、カルカ達に良いところを見せたいではないか。

 

「この案件、迷っちゃうな~。もうちょっと寝かせておくか、それとも早急に対処するか……。まあ、いつでも粉砕できるんだから寝かせておいてもいいんだけどな。でも……」

 

 寝かせておけばデミウルゴスに負担がかかる。

 今は彼の創造主であるウルベルトが合流しているので、あまりデミウルゴスを酷使すると、ウルベルトから苦情が出るだろう。デミウルゴスの苦労は、どの程度のものなのか。現状維持で問題ないのか。その辺も踏まえてギルメン会議で議論したいところであった。

 

「物品調達要求書は……。塩や砂糖を外部で購入したい……か。ああ、辺境伯になって税収が出てきたし、消耗品など簡易なものは外部の金で外部で買い付ける。そういう話だったな。試験的にやるって話だけど、上手く行くかな?」

 

 ユグドラシル硬貨はあまり使いたくない。シュレッダーに物資を投入して補充……換金できるが、それだと、この世界の物資が消えていくばかりだ。そこで、転移後世界で得た金銭で、転移後世界で物資を調達する。それならば、ユグドラシル硬貨の消費や、シュレッダーに投入する物資の量も抑えられるのではないか。

 

(上手く行くといいな~。耕作で麦とかを作って換金するのも同時進行中だし。どっちも成功したら、そこから発展して、もっと節約できたり他に良い方法を思いつくかもしれない。俺達、寿命ってものがなさそうだから、ナザリックは少しでも長持ちさせないとな!)

 

 獣王メコン川やペロロンチーノなどは寿命がありそうだが、そこはアイテム類を駆使して何とかなる。そうタブラが言って笑っていたので、心配することはない。

 モモンガは、明るい未来を感じながら次の書類を手に取った。

 

「ん? んんん? なんだこりゃ?」

 

 鼻歌交じりで目を通していくと、先程までの書類とは違った(おもむき)の内容が書かれており、モモンガの思考は一時停止する。

 

「アインズ様に随行してのナザリック地下大墳墓視察? つまり、俺と一緒にナザリックを見て回りたいと? う~ん、こういうのって俺が思い立って随行者を決めるものじゃないの? 起案者は誰だ?」

 

 骸骨顔に?マークを浮かべながら確認してみると、起案者はパンドラズ・アクターとなっていた。

 パンドラズ・アクターは上位二重の影(グレーター・ドッペルゲンガー)で、モモンガが製作した自慢……もとい、自分のNPCだ。卵顔に黒い丸だけの目と口、某ドイツ系親衛隊のような軍服姿。ハイテンションかつウザいトークに、これまたウザいオーバーアクションが織り込まれるのが特徴で、制作時には最高に格好良いと思っていたモモンガの黒歴史である。

 

(けど、俺も慣れてきたのか、一周まわってやっぱり格好いい感じだしな~。で、これか……)

 

 ナザリック最高責任者によるナザリック視察に随行。そう言えば聞こえは良いが、モモンガにしてみると、子供が親との散歩をねだっているようにしか思えない。モモンガは書類を持った手を机上に下ろすと、天井を見上げた。

 

(たまには良いか……。以前、一緒に風呂に入ったし。それと同じだ……)

 

 親と子のスキンシップというのは必要だろう。

 それに転移後世界に来てから、ある程度の月日が過ぎた。前述したとおり、パンドラズ・アクターに慣れたことで、彼を見て感じる羞恥心も大分治まってもいる。考えてみればギルメン以外、ナザリックの(しもべ)相手で最も気軽に話せるのが、あのパンドラなのだ。

 

「うん、パンドラとブラブラ散歩するのもありか……」

 

 モモンガは決裁者の押印欄に、自分の印鑑を押す。元の現実(リアル)では電子文書システムや電子決裁などがあったが、今のところ再現できていない。事務仕事は羊皮紙か、アイテムとして備蓄のあった用紙……他はブルー・プラネットが合流したことで生産可能になった植物性の用紙により行っている。ブルー・プラネットは「スクロールの方は順調に運用できてますし、目指す品質は上質紙です! 頑張りますよーっ!」と張り切っていたので、いずれはもっと良い用紙が使えることになるだろう。 

 ともかく、方針が決まったので一息つきたくなったモモンガであるが、ふと気づいたことがある。このパンドラの起案書、名目を取り繕っていても要は個人の要求を『至高の御方』に投げかけているに他ならない。こういった書類はアルベドがはねるか、判断に迷えばモモンガに相談しそうなものだ。そのアルベドから普通に流れてきたことに、モモンガは首を傾げたのだ。

 

(なんで何も言わなかったのかな? すぐ近くに居るんだし、直接聞くか……)

 

 モモンガは執務机で書類を睨んでいるアルベドに声をかけた。

 

「あ~……アルベド?」

 

「はい! アインズ様……」

 

 返事はテンション高いのだが、言い終わりにかけて声が平坦なものとなる。これは異世界転移の直前、モモンガが彼女の設定を改編し、モモンガのことを考えると思考が停滞するようになってしまったためだ。設定を変えたのは、ユグドラシル最後の時にモモンガが出来心を起こしたためだし、アルベドがこうなるなど設定を書き換えているときには思いも寄らなかった。つまりは事故である。その精神停滞化も、最近ではアルベドの精神に定着しつつあるそうだが、今でも時折停滞化するので、完全には定着していないらしい。 

 アルベドからは「体調等に影響はないので御心配なく」と言われていたが、モモンガは罪悪感を覚えている。しかし、一度終わった話を蒸し返すのもどうかと思い、モモンガは聞きたかったことを口に出した。

 

「さっき回して貰ったパンドラズ・アクターの起案書類だが……」

 

「はい! 宝物殿の清掃用具を新規調達する件ですね!」

 

 ……。

 

「は?」

 

「え?」

 

 モモンガが変な声を出し、アルベドが輝く笑顔を引きつらせた。

 モモンガの手元にある書類と、アルベドの認識している書類内容が違う。これは、いったいどういう事なのか。

 モモンガは手招きしてアルベドを机前に呼び寄せ、問題の書類をペラリと見せる。アルベドが読めるように逆さ持ちだ。アルベドは軽く前傾して一読したが、その綺麗な眉間に皺を寄せている。

 

(わたくし)が見た時と内容が変わっています。これは……まさか、アイテムや魔法による偽装!?」

 

「やったのはパンドラだろうが……。あいつ、アルベドの目を誤魔化すまでして俺とナザリック巡りしたかったのか……」

 

 このとき、モモンガの脳裏には二つの考えがあった。一つは「馬鹿じゃないの?」というもの。もう一つは「こうまで慕われてると悪い気はしないな、やはり……」というもの。正直言って公文書偽造もいいところなので、何らかの罰は与えなければならないが……。

 

(ここ最近でパンドラに構ってあげたのは女体化騒動のときぐらいか……。超最近じゃないか! そんなに放置しすぎたということはないんだけどな~……)

 

「アルベドよ……」

 

「はい、アインズ様」

 

 モモンガは執務机の前で立つアルベドを見たが、少し気まずそうに白骨顔を下に向けた。

 

「このように文書を偽造した者。お前ならどう処するか?」

 

「死を与えるべきかと……」

 

 真っ直ぐな視線がアルベドから向けられる。対するモモンガは表情を変えずに居るのに苦労した……と言うよりも失敗していた。もしも人化していたら、驚愕を表情に出して目を剥いていたことだろう。

 

(パンドラは俺の創造物……息子なのに? 正気か?)

 

 そのまま受け止めれば、モモンガの好感度が激減する発言だ。事実、一瞬ではあったがモモンガのアルベドに対する好感度は下がっている。しかし、アルベドは設定上、頭脳明晰だ。何か考えがあるのでは……そう考えたモモンガは、アルベドの言葉を待つ。対するアルベドは、キリリとした表情のままで続けた。

 

「しかしながら、パンドラズ・アクターはアインズ様によって創造されし者。彼の不始末は、アインズ様に監督責任があると思われます」

 

「お、おう……」

 

 思いがけず自分に被弾したので、モモンガは口ごもりつつ応じる。そこへ畳みかけるようにアルベドが話を続けた。

 

「で、あるならば! ナザリックの支配者、その取り纏め役たるアインズ様が直々にパンドラを叱責すればよろしいかと。そう、例えば、一日ほど休暇をお取りになり、ナザリックのお好きな場所でお説教をするのです!」

 

「お、おおお……」

 

 モモンガは察した。

 アルベドは「文書偽造はけしからんが、内容上は親子の話になるし、説教がてら望みどおり一緒にブラついてやって!」と言っているのだ。つまり、気遣い&フォローである。

 

「そ、そうなれば今回の件は、うやむやか!」

 

 モモンガが眼窩の闇を発光させると、机向こうのアルベドは両拳を胸元でグッと握りしめた。

 

「はい、うやむやです!」

 

「それは素晴らしい!」

 

 モモンガは感心すると同時に感動したが、ここで精神がアンデッドの特性により沈静化する。アルベドの方でも精神停滞化が再発動したようで、スンと静まっていた。

 

「といった次第でして、余程の重大事でなければ(わたくし)が代理決裁で対応します。アインズ様は心置きなくパンドラと遊……ん、コホン。お説教をしてあげればよろしいのではないでしょうか?」

 

「うむ、そうさせてもらおうとも」

 

 善は急げとも言う。

 モモンガはアルベドのスケジュールを大まかに把握していたので、今からでも行動に出て大丈夫だと判断した。アルベドに確認すると「問題ありません」とのことであったから、その場で<伝言(メッセージ)>を行う。心なしかウキウキしてきたが、その様子をアルベドが微笑ましそうに見つめていた。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 ナザリック地下大墳墓、宝物殿。

 入ってすぐのエリアは、膨大な金貨や雑多なアイテムが小山のように積み上げられている。厳重な防犯対策が施されており、エリア内が毒効果をもたらすブラッド・オブ・ヨルムンガルドによって汚染されていた。ここでは毒無効系の対策をしていないと、三歩と歩く前に命を落とすことだろう。そして、そんな危険なエリアを一人の人物が歩いている。黄色基調の軍服に、芥子色のコートを羽織り、黒い軍帽を着用。モモンガの歩く黒歴史こと、宝物殿の領域守護者……パンドラズ・アクターだ。

 ブーツの踵を鳴らしながら歩く彼は、前だけを見て歩いているように見えたが、突然、その首がグリンと回り、左脇下方を見た。そこには雑に放り込まれたアイテムがあり、多数の金貨によって埋もれている。見た目にはペンライト風のアイテムだが……。

 

「こ、これは! 永遠なるサイリウム!」

 

 元の現実(リアル)においてユグドラシルに活気があった頃、ネットアイドルがアバターを操作しつつミニコンサートを開くことがあった。当初、ファンタジーRPGの世界観でコンサート活動は如何なものかと物議を醸したが、舞台役者や吟遊詩人の範疇で良いではないか……と話が落ち着き、ここに運営が乗っかってコンサートグッズが販売されたのである。永遠なるサイリウムとは文字どおり、効果が永続的なサイリウムであり、グリップの先の大部分が発光する……ただそれだけの物だ。しかし、それがNPC達にとってどのような認識になっているかというと……。

 

「確か……至高の御方や、並び立つほどの実力者が重大発表をする際、聴衆が手に持って舞い踊ったと伝わる……儀式的アイテム!」 

 

 永遠なるサイリウムを拾い上げたパンドラが、それを右手で高く掲げている。見事に曲解されているものの、アイテム効果は光り続けるだけなので特に害はない。パンドラは手を下ろしてサイリウムをジッと見ていたが、おもむろに発光させ、再び頭上に掲げた。

 

「ラララ~、我が創造主モモンガ様~」

 

 歌い出し、その場でフィギュアスケートのように三回転。元の向きでピタリと止まると、右膝を曲げて左足を大きく開き、左手は軍帽のバイザーを摘まみながら右手でサイリウムを上下に振り出した。

 

永久(とわ)永久(とわ)に永遠に~、私をお連れください~、トゥ!」

 

 掛け声一発、前方へステップ。そのまま大股でスキップしながら、サイリウムを縦横に振り回す。

 

「アインズ様~、wie eine weiße Lilie(白百合のように)!」

 

「モモンガ様~、wunderbar(素晴らしい)!」

 

「父上様~、Ich begleite dich überall hin(何処までもお供します)!」

 

 スキップする度に歌詞が紡ぎ出され、最後の着地で直立不動となると、パンドラはサイリウムを持った手を右前方……敬礼のように突き出した。

 

Wenn es meines Gottes Wille(我が神の望みとあらば)!」

 

 最後の瞬間、宝物殿が暗転、頭上からスポットライトが降り注ぐ。

 パンドラは決めポーズを取っていたが、やがて照明を元に戻すと帽子を被り直し、肩をすくめながら首を振った。

 

「ふう、素敵アイテムの発見で、つい踊ってしまいましたが……。今日も華麗に決まったようです。モモンガ様をお慕いする舞が……」

 

 もしモモンガが見ていたら、死の支配者(オーバーロード)状態であっても、存在しないはずの心臓が止まってしまうだろう。最近慣れてきたとはいえ、キツいものはキツいのだ。

 

「この舞を完璧なものとするべく、ただいまより千回の練習を行いま……むむっ!」

 

 さあ踊りますよ~とサイリウムを持った方の肩を回していたところ、<伝言(メッセージ)>が着信する。パンドラはサイリウムを持った手を下ろし、あいた方の手でこめかみに指を当てた。

 

「はい! 私です! ヌァインズ様!」

 

『え? なんで俺だってわかるの!? あと、発音!』

 

 <伝言(メッセージ)>向こうのモモンガは大いに戸惑っている。<伝言(メッセージ)>は念話に近いシステムであるが、会話するためには言葉を声に出さなければならない。他にも問題点があって、着信した際、誰からの<伝言(メッセージ)>かはつないで会話しないとわからないのだ。そういった仕様上、話す前から相手がモモンガだと確信するのはおかしい……ということになる。この疑問に対するパンドラの回答は一つだ。

 

「我が創造主様の気配は、通話の前から伝わってくるものなのです!」

 

『なにそれ怖い……。いや、それはともかくとしてだ』

 

 モモンガは言う。お前の申請書は確認したと。今からでも良ければ、今日一日ナザリックを歩き回ろうではないか……と。

 パンドラのテンションは一瞬のフリーズの後、爆発的に上昇した。

 その上昇っぷりを文章で説明するのは困難を極める。敢えて言うならば、平方根の正の根号に(ルート)があり、あのような形状で上昇したのだ。

 

「無上の喜びです! 父上!」

 

『うん、声デカいから……。でまあ、喜んでるところ悪いんだが、一つ説教することがある』

 

 左手の指をこめかみに当てたまま、パンドラは首を傾げた。

 

「文書偽造のことでしょうか?」

 

『なんだ、わかっているじゃないか。ああいうことは二度とするんじゃない。次やったら、ペナルティとして宝物殿への出入りを禁止にするからな? 期間は一年ぐらいにしておくか?』

 

「はい……いいえ、申し訳ありません……」

 

 モモンガの静かな怒りを感じ取り、パンドラは恐縮することしきりだ。宝物殿の出禁は、アイテム管理をこよなく愛する彼にとって大きな痛手。可能な限り避けたい事態である。そして、それ以上に恐ろしく思うのは、やはりモモンガの怒りを買ったことだ。とはいえ、そこまでの怒りではないらしい。

 

『しかし、わかんないな~。パンドラなら、もっと上手くやれたんじゃないかぁ?』 

 

 素の口調である。すでに機嫌の悪さはなくなっているようだ。

 

「はあ、なんと言いますか。アルベド殿を擦り抜けて父上に文書を届けることを考えたら……こう、無性に楽しくなりまして」

 

 そう答えながら、パンドラの頭脳は自分の行動について分析している。普通に考えれば、手順を踏んだ申請書類など書かずとも、<伝言(メッセージ)>一つでモモンガはパンドラの要望を受け入れてくれたはずだ。何故、自分はそうせずに書類を書き、すぐにバレるであろう文書偽造という行動に出たのか。

 

(父上に構って欲しかった。じゃれついてみたかった。悪戯が発覚して叱って欲しかった)

 

 まさに子供の理屈で赤面しそうになる。だが、後悔はなかった。

 

『う~む、悪い気はせんのだが……。本当に、次から気をつけるようにな? まあ、余りクドクド言ってもしかたがないし、これぐらいにしておくか。俺は、何度もループする説教で相手の精神を削るとかが嫌いでな』 

 

 何か嫌な思い出でもあるのか、モモンガの声に渋さが混じる。そこが気になるパンドラであったが、一転して明るい口調となったモモンガが「さて、ナザリックの視察だったか? そろそろ出発しようではないか。まずはシャルティアの第一階層から第三階層かな?」と話しかけてきたので、その場で背を伸ばして敬礼をする。

 

「Wenn es meines Gott……」

 

『それは禁止事項だ』

 

 言葉半ばでやめさせられたが、モモンガの声は怒っておらず、ただただ苦笑気味だった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「まったく、困った奴だな……」

 

 <伝言(メッセージ)>を終えたモモンガは、こめかみに当てていた指を離すと、魔王ロールの声で溜息をつく。この転移後世界に来てから、パンドラとはそれなりに交流を深めてきたが、最近は色々とテンションが高い。創造主……親としてしっかり監督しなければならないだろう。

 モモンガは執務机を挟んで立つアルベドを見た。パンドラとの<伝言(メッセージ)>中、ずっと待っていた彼女は、モモンガの視線を受けて微笑み返してくる。

 

「今、<伝言(メッセージ)>で注意しておいたのだが、直接会って叱ってくるとしよう。……ついて来るか?」

 

 言っておいて、モモンガは「しまった!」と思った。

 パンドラズ・アクターとナザリックをブラつく。それをアルベドに仕事を丸投げして行うのだが、残って仕事をするはずの彼女を誘ってどうするのか。無配慮な発言をしたことを、モモンガは強く後悔した。

 対するアルベドは、モモンガの失態……ではなく深謀遠慮は勿論のこと、直後の苦悩も察している。この状況に彼女はどう対応したか。彼女の思考及び行動について、順を追って解説しなければならない。

 まず、行動予定と相反する要望が出たことで、自分は判断力を試されていると考えた。同時に、自分がどう答えるかもモモンガは想定済みだと読み取っている。至高の御方、そして愛する男性の期待に添うべく、間違った答えは許されない。いや、先に読んだとおり、何を答えたとしてもモモンガの想定内なのだ。ならば……。

 

(私の思う最善を述べるだけ!)

 

 モモンガが発言を終えてから、ここまでに要した時間は瞬き一回の二〇分の一。

 

「アインズ様。お説教の場に第三者が居るのは、パンドラズ・アクターも困ることでしょう。ここは心置きなく、お二人で行動するのがよろしいかと……」 

 

「ふむ、そうか。そうだな」

 

 モモンガは内心焦ったままだったが、白骨の顎に手を当てて考え込む素振りをした。

 

「アルベドの言うとおりだ。まさしく、そのとおりだ。適切な助言をありがたく思うとも!」

 

 数秒経ってからアルベドの顔を見直しつつ言うと、アルベドはフワリと微笑む。出来る女の余裕の態度。だが、腰の黒翼はパタパタと開閉していた。

 そして会話は終わり、モモンガは執務室……自室を後にするべくアルベドに背を向ける。ドアを開け通路に出たが、そのドアを閉じる際、見送りで一礼しているアルベドに声をかけた。

 

「二人で行動と言えば、アルベドとは暫く二人で行動していなかったな。何かこう適当な用を考え、スケジュールを調整しておいてくれ。たまには二人でブラつくのも良しだ」

 

 キザ臭い台詞を噛まずに言えてホッとしたモモンガだったが、閉めたドアに背を向けたところ、室内から「よっしゃぁああ!」と声が聞こえたのでモモンガは心に満足を得た。二度ほど頷くと、そのまま歩き出す。行き先は、パンドラズ・アクターとの待ち合わせ場所である。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 ナザリック地下大墳墓、第三階層。

 取り敢えずは第一階層から……ということで、モモンガは先に来て待っていたパンドラズ・アクターと地表部で合流。そのまま第一階層と第二階層を視察していた。

 

「勝手知ったる……とは言うものの」

 

 モモンガは、白骨顔に表情が出ないことをありがたく思いながら苦笑する。

 出会うスケルトンやゾンビなどが、モモンガを見かける度に直立不動で一礼するのだ。何となくであるが居たたまれない。

 

(なんか会社の重役になった気分~。いや、ナザリックでは偉い人のポジションなんだけどさ!)

 

 それとパンドラだ。こうしたモンスターらの一礼を見る度に、左隣を歩く彼はドヤ顔をする。切実にやめて欲しい。

 

(こいつも表情は出ないけど、胸を張ったり、何処から出してるのかフンスって鼻息が聞こえるんだよな~。子供がパパ自慢してるのかぁ?)

 

 悪い気はしないが、少し恥ずかしかった。

 しかし、ドイツ語をまくし立てたり、いちいち敬礼したりしているわけでもなし、ドヤ顔の程度で「それをやめろ」と言うのはいかがなものか。ここは大人の器量を見せる意味でも我慢するべきではないか。そういった事を考えつつ、時には気がついたパンドラの改善点を述べたりしながら、モモンガはパンドラと共に歩いて行く。

 暫くして到着したのは、シャルティア・ブラッドフォールンの住居……屍蝋玄室だ。シャルティアの部屋は大人の玩具が散乱する、淫らこの上ない有様となっている。しかし、それは過去の話で、ペロロンチーノが帰還した後は吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)らに命じて可能な限り整理整頓が成されていた。もっとも、雰囲気がいやらしいのは変わりないのだが……。

 

「さて、さっきシャルティアに<伝言(メッセージ)>したときは、ペロロンチーノさんと外出中とのことだったな」

 

 つまり、室内にシャルティアは居ない。ペロロンチーノとの外出行動、平たく言ってデートを邪魔する気もないので、彼女を呼び戻すわけにはいかなかった。また、呼び戻すほどの重大事でもないだろう。

 では、屍蝋玄室は素通りするかどうかという話になったが、シャルティアが「視察なのですから、どうぞ御自由にでありんす! 私の部屋に見られて困るところなどありんせんのでして!」と鼻息荒く豪語した。これにより屍蝋玄室への訪問が確定となる。

 

(ペロロンチーノさんが合流した直後に、散らかってる部屋の惨状を目撃されたそうだし。整理整頓された部屋を自慢したいんだろうな~)

 

 部屋の扉の前で立つモモンガは苦笑していたが、左隣のパンドラが一歩前に進み出る。

 

「アインズ様。ここは私が……」

 

 その足取りは軽くリズミカルだ。その他はオーバーなアクションをしていない……はずなのだが、ウキウキ感が醸し出されている。

 

(あ~、まあ~、いいか。……いいのか?)

 

 悩み多き創造主が首を傾げている前で、パンドラが扉をノックし、直立不動の姿勢で声を張り上げた。 

 

「ごめんください! どなたですか!(1カメ、右前方の下から全身煽り気味) 宝物殿領域守護者のパンドラズ・アクターと申します!(2カメ、左斜め横顔アップ) お入りください!(3カメ、正面バストアップ) ありがとぅ~」

 

 誰得のカメラワーク。そして、最後をイケボでしめることにより決まりだ。言うまでもなく、これは創造主が望む(しもべ)ムーブではなかった。

 

「おいこら、ちょっと待てい!」

 

 モモンガが歩み寄って伸ばした手でパンドラ右肩を掴む。その右肩越しにパンドラが「父上、なにゆえ……」と振り返っているが、なにゆえも何もあったものではない。

 

「浮かれてるのはわかるが、よそ様を訪問するときはもっと普通にしてくれ。それと、何で最後の『ありがとう』だけイケボなんだ……」

 

 自分でも、「そこを気にするの?」と思うモモンガだが、気になるものはしかたがない。

 

「いえその、そのように発音するのが様式美だと、タブラ・スマラグディナ様が……」

 

 どうやらタブラによって吹き込まれたネタ言動だったようだ。

 

(余計なことを……)

 

 モモンガが、また最古図書館を出禁にしてやろうかと考えていると、屍蝋玄室の扉が、内側から開かれた。恐る恐る顔を覗かせたのは、吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)のヘンリエッテ。かつて功績を挙げたことでタブラから名を付けられた二人のうち、髪が長い方……ヘンリエッテだ。

 

「あ、あの……パンドラズ・アクター様? 先程、シャルティア様からアインズ様のご訪問があると連絡がありまして、今は~……はぅあ!?」

 

 ヘンリエッテの最初はパンドラに向いていた目が、視界にモモンガが入った瞬間、大きく見開かれる。

 

「アインズ様! このような場所でお待たせして申し訳ありません!」

 

「あ、いや、今来たばかりで……」

 

「さささっ、中にお入りください!」

 

「あ、はい……」

 

 驚きと、至高の御方に対する粗相がないかとの不安。それらによってパニックを起こしたヘンリエッテは取りつく島がない。しかし、社内の一部署に社長か会長が来たのだから、それは慌ててもしかたがない。

 

(まあ、それだけではないんだろうけどさ)

 

 モモンガが思うに、これはシャルティアによる伝達ミスの可能性がある。おそらく、「アインズ様が訪ねて来る」としか<伝言(メッセージ)>で言わなかったのではないか。「アインズ様がパンドラズ・アクターを連れて訪ねて来る」であったなら、パンドラを見た瞬間にアインズが一緒に居ると思ったはずなのだから。

 ともあれ、小市民的感覚のモモンガにしてみれば、訪問先で気をつかわれ過ぎなのは落ち着かない気分になる。あわをくった吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)とのやりとりを終わらせるべく、モモンガはパンドラと共に屍蝋玄室へ入って行くのだった。

 






 リクエストのモモンガ&パンドラの日常回になります。
 2~3話で書き上げの予定。
 パンドラの奇行は書いてて楽しいです。

 「ごめんください!~」のあたりは、吉本新喜劇の桑原和男さんの持ちギャグを拝借しました。


 今回の捏造設定は、『永遠なるサイリウム』全般。
 まあユグドラシルだと、ありそうです。

 この調子でナザリック巡りをしますが、全域巡ると長くなるので、屍蝋玄室の他は二箇所ぐらいですかね。
 デミウルゴスのところに行ってみたい気もしますが……さて……。
嫉妬の魔将(イビルロード・エンヴィー)はコミック版のデザイン(鳥頭の下に人間女性の顔の下半分がある)が好きなんですけど。出すとしたらコミック版になるかもしれません。原作は丸々鳥頭でしたっけ。

<誤字報告>
桜一郎さん、tino_ueさん、 佐藤東沙さん

毎度ありがとうございます
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