オーバーロード ~集う至高の御方~   作:辰の巣はせが

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第123話

 ナザリック地下大墳墓の第三階層、屍蝋玄室。

 階層守護者、シャルティア・ブラッドフォールンの住居である。部屋主たるシャルティアは現在、創造主のペロロンチーノとナザリック外でデート中。どうやらカルネ村に居るらしい。

 そういった主不在の部屋に、モモンガはパンドラズ・アクターと二人でお邪魔していた。

 名目はナザリック地下大墳墓の視察。しかし、その実態は、創造主であるモモンガと行動を共にしたいというパンドラの希望によるものだ。文書偽造してまでの誓願であったが、モモンガ不在時の代理決裁権者……アルベドの了解を得て、モモンガが受け入れた形である。

 

「ふむ……」

 

 応接間のソファで腰掛けるモモンガは、左隣で座るパンドラと共に室内を見回した。

 

(入ってすぐの一角に、衝立(ついたて)でスペースを作ったのか。応接専用で一室用意しないのか……と侮られる恐れがあるけど、そもそも外部の客が相手なら、会議室や応接室が別にあるものな。あくまでナザリック関係者用のスペースというわけだ……)

 

 理に適っている。モモンガは感心して二度ほど頷いた。ただ、気になるのは壁紙や照明器具が淫らさを醸し出したままという点だ。そこまでは手が回らなかったらしい。が、それも許容範囲だろう。

 

(今の俺、風俗店の一室で、パンドラと並んで待たされてる構図っぽくない? いや、待たされて暇だからって余計なことを考えちゃ駄目だ!)

 

 モモンガが己を戒めていると、パンドラがギュルンと首を回してきた。

 

「アインズ様? 何だか風俗店の待合のよ……」

 

「パンドラ。俺が敢えて口に出さな……んん! そういうことを言うんじゃない」

 

 最後まで言わせないことに成功したモモンガであるが、少し考え込んでしまう。  

 先程の<伝言(メッセージ)>で、通話前に相手がモモンガだと気づいたり、今だとモモンガの考えていることをそのまま口に出したり。これでは創造主と被創造物で、精神の構造が同じようではないか。

 

(たっちさんのセバスや、ペロロンチーノさんのシャルティア。その他のNPCもだけど、本当に節々で制作者とNPCが似てる。いや、弐式さんとナーベラルは、そこまででもないような……。それにつけても、俺のとこは内面が似すぎというか……。俺は敬礼したりハイテンションで喋りまくったりしないんだけどな~)

 

 普段の言動ではなく、根の深いところで似ている気がするのだ。

 異世界転移前から転移後までの間、モモンガはパンドラズ・アクターを黒歴史と認識していた。それは押し入れに隠したエロ本や、パソコンのDドライブの中を見られているような恥ずかしさである。ネットでの失言を掘り起こされる感覚にも似ているだろう。

 しかし、今感じているのは……。

 

(今では恥ずかしく思う過去の言動……黒歴史を、単に知られるだけじゃないな。自分の目の前で『自分自身』が実演とか再現している感じ? 言い回しがおかしいけど、そう言うしか……。うう~ん、第三者視点で自分の痴態を見せられてるとか~。恥ずかしくて目も当てられないとはこのことかぁ?)

 

 精神を羞恥で焼かれることはなはだしい。この感覚が異世界転移の直後で生じていたら、モモンガはパンドラを永久封印していたことだろう。だが、今ではモモンガとパンドラの間には確かな絆……それが大げさな表現なら、交流の時間が存在した。よって「ああ~、もう! こいつってばさ~」ぐらいのことは思っても、拒絶反応を起こしたりはしないのである。

 

「失礼します。紅茶をお持ちしました」

 

 ヘンリエッテの声が聞こえた。

 聞いたままの用件だろうからモモンガが入室を許可したところ、ヘンリエッテは、髪の短い吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)……アネットを伴って入室してきた。最初にヘンリエッテが扉を開け、後ろからカートを押すアネットが入ってくる。そして、ヘンリエッテが扉を閉めた。一般メイドでもやっていけるのでは……という程の綺麗な所作であり、テーブルに紅茶セットを置かれたモモンガは感心しつつ頷いた。

 

「うむ。では、頂くとしよう。おっと、人化せねばな」

 

 今は異形種化しているので、そのまま紅茶を飲むと顎骨の底から抜けてこぼれるだけ。そのコントギャグのような展開を避けるべく、モモンガは人化の腕輪によって人化した。一瞬で気優しげな黒髪の青年が出現(装備もスッキリした黒ローブにチェンジ)し、モモンガの右隣で並んで立つ吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)二人と、左隣で座るパンドラが頬を赤らめる。

 

「うん?」

 

 ティーカップに手を伸ばしたモモンガは、ヘンリエッテ達とパンドラを交互に見た。

 

「どうしたんだ? お前達?」 

 

 言いながらティーアップを持ち上げていると、ヘンリエッテがモジモジしながらモモンガを褒め称える。何でも白骨顔も麗しいが、人の顔もまた素晴らしいのだとか。

 

「そ、そうか? そうなのか?」

 

(そんなに男前だったかな? 俺……)

 

 自分ではどうとも思わない面相なので不思議な気持ちだ。しかし、ヘンリエッテ達の態度の理由はわかった。では、パンドラはどうなのだろうか。

 

「私ですか? ヘンリエッテ嬢達と同じですが?」

 

「それ、すっごい微妙な気分なんだけど?」

 

 ゲンナリ顔で言い、モモンガは紅茶を一啜りした。実に美味。元の現実(リアル)で飲んだ、匂い付きの色水とは雲泥の差であり、香しさと美味しさが口内で社交ダンスしているようだ。

 

(美味しさが高レベルすぎて、まだ慣れないな~……)

 

 舌が子供、あるいは貧乏すぎて、このナザリックでは飲食するたびに驚いてしまう。感動と驚きを新たにして紅茶を楽しんでいると、パンドラが「そう言えば……」と話し出した。

 

「人化した顔と言えば先日、アインズ様が女性化した際のお顔もまた美麗でした!」

 

 モモンガは、むせそうになる。危険なのでティーカップを顔から離すと、パンドラを軽く睨んだ。

 

「おま、人が飲食しているときに……」

 

「なにか……まずかったでしょうか?」

 

 パンドラは本当に理解していない様子だ。モモンガは困り顔になったが、テーブル脇で立つヘンリエッテ達が「アインズ様の女性のお顔!」と小さく歓声をあげたので、顔をそちらに向ける。聞けば、るし★ふぁーの罠でモモンガが女性化した際、ヘンリエッテ達はモモンガの姿を見ていなかったらしい。

 

(性別が変わっている間、第九階層の他はマーレのところに逃げ込んだりしたぐらいで……第三階層には来なかったからな)

 

 そりゃそうだ……と頷いていたモモンガは、周囲からの視線を感じて我に返る。ヘンリエッテとアネットが何か言いたげな視線をチラチラ向け、左からはパンドラの視線が五月蠅い。

 

(んん? 今の話の流れで、何か俺に言いたいことがあるのか? それも言いにくい感じの……)

 

 今の話とは、パンドラが「女性化したモモンガは麗しい」等と言ったことと、それを聞いたヘンリエッテ達が歓声をあげ、モモンガの女性化した姿を見てないことが判明したことだ。

 

「ひょっとして……」

 

 モモンガはヘンリエッテ達を見上げた。

 

「俺……いや、私の女性化した姿を見たい……のか?」

 

 まさかな~……と確認してみたら、アネットがモジモジし出し、向かって左のヘンリエッテが「だめよ! 至高の御方に誓願だなんて!」と(たしな)めた。が、ヘンリエッテも辿々しく言っており、気持ちはアネットと同じなのだろう。なお、左隣でパンドラもモジモジしているが、こちらは無視されている。

 

「そうか、なるほど……」

 

 モモンガのアイテムボックスには『(仮称)るし★ふぁーの呪いの指輪』あらため『女性化の指輪』を入れてあるので、今ここでアイテム装備するぐらいは容易いことだ。見せてやっても良いかな……ぐらいの気持ちにはなっている。

 

「そしてパンドラズ・アクターよ。お前の意見を聴こ……」

 

「私も見たいです!」

 

 言い終わりに被せてパンドラが言い放った。

 モモンガは、大きな声に押されるようにパンドラとは反対方向へ上体を傾けたが、無言で姿勢を正すと、ティーカップを置いてから口を開く。

 

「俺が聞いたのは意見であって、希望じゃないんだけどなぁ。まあ良いか。美味い紅茶を飲ませて貰った対価としておこう。あ、パンドラについてはオマケだ」

 

 そう皆に言い、モモンガはアイテムボックスに手を突っ込んだ。ヘンリエッテたちが「恐れ多いことです!」「身に余る光栄です!」等と慌て、左隣からは「ああん、冷たいアインズ様も素晴らしい……」といった声が聞こえる。モモンガは、最後の声については努めて無視しつつアイテムを取り出した。

 何の変哲もない灰色の金属指輪……現時点での通称を女体化の指輪という。

 元は魔法習得数増加の偽装が施されたトラップアイテムで、真の効果であるプレイヤーの女性化をモモンガが受けたことで一騒動が発生した。

 

(今となっては、ただのアバターの性転換アイテムなんだけどな……)

 

 元の性別に対する異性とエッチしなければ性別転換を解除できない……という、ユグドラシル世界においては悪夢のような仕様は、タブラとウルベルトによって取り払われている。 

 その指輪を、モモンガは皆の視線を感じながら指にはめた。

 次の瞬間、黒いローブを着た女性が出現する。

 髪型は人化モモンガとほぼ同じだ。胸は大きくてスタイルが良い。また、女性化した状態の顔は、ナザリックの美人勢に負けないほどの魅力を持っていた。

 この姿、ウルベルトや他の男ギルメンが考案した呼称(モモンガは知らない)を、(にょ)モンガという。

 

「ふむ、数日ぶりで女になったが……。どうだ?」

 

 右手の平を握ったり開いたりしながら感覚を確かめていたモモンガは、ニパッと笑いながら皆に感想を聞いた。

 

「ふ、くくくく、お日様の雰囲気! 花の如き笑顔ぅ! (ふつく)しい、(ふつく)しいですとも! んぁいんずざばぁ~」 

 

 パンドラが座ったまま不気味に悶えている。目に優しくない光景だが、喜んでくれてはいるようだ。では、吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)二人はどうだったか。こちらはモモンガの右隣で立ち、アネットが背を反らしたり、ヘンリエッテが前屈みになっている。共通しているのは、両手で口元を覆っていることだ。鼻を押さえているようにも見えるのだが……。

 

(俺、女性化すると変な臭いがするのかな?)

 

 腕や腋をスンスンと嗅ぐものの、特に変な臭いはしない。女の体臭は、適度であれば香水のように感じることもあるが、自分の体臭であるせいか良くわからなかった。この一連の動作の間、モモンガはアネット達から目を離していたが、その隙に二人は視線で会話している。

 

(アネット! 私、鼻血出てない!?)

 

(見た感じ出てないわ! 私も背を反らしたおかげで喉の奥に全部流れたし!)

 

 つまり、二人の姿勢や仕草は鼻血対処のためだ。

 女性化したモモンガの美しさに、鼻から大量出血しかけたのを未然に防いだのである。吸血鬼が噴血鬼になるなど、同僚に知られたら笑いものだし、シャルティアに知られたら折檻もの。何より、至高の御方の前で鼻血噴出など許されない。ナザリックの(しもべ)としては絶対に耐えなければならなかった。

 (しもべ)達の苦境に気がつかないモモンガは「満足してくれたのかな?」と女性化を解除しようとしたが、ここでパンドラの掌が左から突き出される。真っ直ぐ伸ばすのではなく曲げた肘が下に降りているポーズだ。

 

「パンドラズ・アクターよ。どうかしたのか?」

 

 魔王ロールの口調だが、今は女性化しているので『優しげな女性が頑張ってキリッとしている』ような雰囲気になっている。これもまた(しもべ)達には刺激的だったらしく、吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)達は悶え、パンドラも左手を出したまま身震いした。

 

「くおおお、さすがはアインズ様。凄まじい威力です……」

 

「威力? 何言ってんの、お前?」

 

 やはり、(しもべ)達の様子がおかしい。そう感じたことで、改めて女性化を解除しようとしたが、それより先にパンドラが口を開いた。

 

「どうか、(わたくし)共のことはお構いなく。それよりアインズ様。せっかく屍蝋玄室に来たことですし、普段しないことに挑戦してみてはいかがでしょうか?」

 

「いや、挑戦って……。俺は今、名目上は視察してるんであって……」

 

 何となく抵抗してみたが、自分で言ったとおり『視察』は名目だけの話だ。業務行動であることに強く拘る気がないため、モモンガの言葉には力がこもっていない。モゴモゴ言うモモンガに対し、パンドラは次のように提案した。

 

「職場体験という言葉があります。ここに居るアネット嬢やヘンリエッテ嬢が着用している吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)の衣装。アインズ様もお召しになってはいかがでしょうか! せっかく女性化しているんですから!」

 

 パンドラが顔前に持ち上げた左掌をギュッと握る。これこそ力説だ。

 なんで力入れてんだよ……と思うモモンガであったが、ヘンリエッテ達が期待に満ちた表情をしているので「ん~……着替えるくらいなら」と折れてしまった。

 

「では、衣装替えをお手伝いします。アインズ様は別室に移動願います」

 

「ふむ。この場で脱いでも別に……ああ、今の姿だと問題あるのか」

 

 立ち上がるモモンガは、男のままならパンツ一丁になるくらい簡単なのにと思った。しかし、パンドラはまだしもヘンリエッテ達の前で女性化を解除し、男のパンツ姿をさらすのは良くないとも思う。

 

(でも、このまま別室で着替え補助して貰うと、結局は裸を見られるのか。今は女だから、女に見られても平気……でいいのか? 良くわからなくなってきたな。この辺、女同士だとどうなんだろう?)

 

 身体が女性になっても、思考は男のまま。モモンガは困り顔で首を傾げた。

 

(きっと、わからないままで良いんだろうな……)

 

 理解が進んで女として深みにはまるのは不味かろう。そう判断して思考を打ち切ったモモンガは、ヘンリエッテ達に案内されるまま歩き出した。パンドラも席を立ち、モモンガの後をついていくが……。

 

「お前は、そこで待ってるんだ」

 

「はい……」

 

 モモンガがピシャリと言いつけたことで、パンドラがソファに戻って行った。どっかりと座り直し、膝の上に肘を置いて手の指を組む姿は……入れ込んでるキャバ嬢を待つ、気の焦った中年サラリーマンのようだ。それほどまでに、(にょ)モンガの吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)スタイルを見たいのだろうか。

 モモンガは別室に移る際、肩越しのジト目でパンドラを見ている。

 

(こいつ、俺に似ている……んだよな?)

 

 断じて自分は、こんな感じじゃないと思うものの、ひょっとしたら……こんな感じかも。

 ちょっと不安になるモモンガであった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)達は、基本的に同じデザインのドレスを着用している。おおむね白色ドレス姿で、胸回りは肩や腋が全露出しているが、腰から下は露出部分がない。屍蝋玄室の淫靡な雰囲気からすると、大人しいデザインと言えるだろう。これはユグドラシル時代の運営が露出部を減らした結果だ。ただ、前述したとおり、胸回りの露出部分は多く、着用すると全体的に身体の線が出る。こういった衣装を女性化したモモンガが着用するとどうなるか。

 

「ふわぁああああ! アインズ様! お美しいです!」

 

 衣装替え完了と同時にヘンリエッテが歓声をあげた。それは周囲に居る彼女の同僚達も同じだ。きゃああと湧き上がっている。

 

「え? あ~……そうなのかも?」

 

 モモンガ当人としては、鏡に映る自分の姿に困惑気味だ。

 着替えるだけなら兎も角、化粧まで施された自分は随分と美人である。前に女性化していた頃は、ほぼノーメイクだったので、化粧効果により美人度が格段に上昇していた。

 

(これは、吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)達の手腕に感心するしかないなぁ。けどさぁ……)

 

 感心はするが、困惑が消えない。何故なのか。

 実のところ、女性化した状態で化粧をし、その上で鏡を見ると……どうにも亡き母を思い出してしまうのだ。血の繋がった母と子だし、男の状態でも気優しげな面立ちは母に似ている。そこへ女性化して化粧も加わると、母のイメージに大きく寄ってしまうのだ。ちなみに現実的な話として、実際の母親はここまでの美人ではなかった。いわゆる思い出補正が入っており、そのことはモモンガ自身も気がついていたが深く考えないようにしている。

 

(母さんは美人だった。それで良いじゃないか……)

 

 ちょっとしんみりしつつ、盛り上がる吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)達を取り巻きのようにして元の部屋に戻ったところ、パンドラズ・アクターが、ソファに脹ら脛を当てる形で音高く立ち上がった。

 

「は、母上!」

 

「誰が母ちゃんか……」

 

 モモンガはジト目で応じる。母上呼びに対して母ちゃんで返したのは、何となく母上という言葉が気恥ずかしかったからだ。

 

(しかし、女性化するたびに母呼ばわりしないで欲しいなぁ)

 

 自分は男なんだから……とゲンナリ顔をするものの、その表情すら美しいと吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)達の間で評価が高い。パンドラに至っては感動のあまり、見ていて不安になる動作をしている。

 

「ああ、アインズ様……。どうか、どうかデータクリスタルにお姿を保存する許可を……」

 

「ああもう、良いよ良いよ。好きにして」

 

 パンドラがデータクリスタル(タブラがよく使う直方体タイプ)を持ち出して言うので、モモンガは投げやり気味に許可した。これが元の現実(リアル)で、忘年会にて下手な女装をしている姿だったら写真撮影など断固拒否しただろう。だが、今は上から下まで心以外は女なのだ。気にするほどのことではない。次いで、物欲しそうな顔をしている吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)達にも許可を出すと、大きな歓声があがり、屍蝋玄室は撮影会場と化した。

 

「え? 次は背中を向けて振り返り? そんなポーズ、需要あるのか?」

 

 当初、やけくそ気味にポーズを取っていたモモンガだが、次第に吹っ切れて気分が乗って来た。パンドラの出すポーズの注文にも一々応えていき、ポーズ一回ごとに吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)達はのぼせて倒れたり、復活してデータクリスタルを構えたりと、お祭り騒ぎは途切れることがない。

 そして、そんな中、<伝言(メッセージ)>がモモンガに着信した。

 

(むむむ、これは……タブラさん! の予感!)

 

 少し前、パンドラがやったように相手を当てようとするが、やはり何かの波長が伝わってくるような気配は感じられない。

 

「……アインズだが?」

 

『あの……アルベドですが、その……』

 

 相手がギルメンか(しもべ)か、どちらでも良いよう魔王ロールで通話に応じたところ、執務室に残してきたアルベドからの<伝言(メッセージ)>だった。しかし、<伝言(メッセージ)>向こうのアルベドは戸惑っている様子。

 

「どうかしたのか?」

 

『いえ、お声が女性の声色ですので……』

 

「ああ……」

 

 なるほど、そりゃそうだとモモンガは思った。<伝言(メッセージ)>は仕様上、姿は見えないが声は届くというもの。女性化したモモンガが話せば、当然ながら女声で聞こえただろう。

 

「いや、なに……」

 

 モモンガは、見返りポーズのまま通話を続けていたが、右手の指をこめかみに当てつつパンドラをチラッと見た。

 

「今は屍蝋玄室だが、パンドラのリクエストで女性化しているのでな」

 

『えっ!? それは羨ましすぎ……ふう……。創造主様が相手とは言え、軽々しく誓願するのは感心しませんね』

 

 どうやら精神の停滞化が発生したらしい。アルベドの停滞化は「モモンガに関して何か考えると、精神が一瞬停滞する」というもので、モモンガの沈静化のように何でもかんでも沈静化するわけではない。また、停滞化したからと言って治まりがつくわけでもない。だが、アルベドの極めて高い知能が、停滞化の短い時間で理性的なリカバリーを可能としているのだ。

 アルベドは澄ました口調に戻り、用件を告げる。

 

『ブルー・プラネット様から、試作アイテムの持ち込みがありまして。ナザリック製の上質紙です』

 

「ほほう」

 

 ブルー・プラネットが熱心に開発していた用紙のことを思い出し、モモンガは女声ながら魔王ロールでほくそ笑んだ。

 

(試作品の段階らしいけど、持ち込みをするとは自信がありそうじゃないか! ブルー・プラネットさん、やるなぁ!)

 

 ギルメンの頑張りに、頬が緩むのを禁じ得ない。

 

『アインズ様に今すぐ、直接御覧に入れるかを確認したところ、「組織の中のことだから、アルベドを通すよ。余裕があったら遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)で見せてあげて」とのことです。現物は手元にありますので、遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)を使用すれば、今すぐに御覧いただけるかと……』

 

「ふ~ん……ふむ」 

 

 鼻を鳴らして周囲を確認すると、パンドラや吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)達は、すっかり静まりかえってモモンガを見ていた。モモンガは完全に振り返り、左手を腰に当てると、右手はこめかみに指を当てたままで宣言する。

 

ギルドの指輪(リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン)を使うまでもないか。皆、アルベドから報告があるそうなので、遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)を使用する。先程の応接セットのテーブルを使わせて貰うぞ!」

 

 

◇◇◇◇

 

 

 モモンガの私室……の一角にある執務机。 

 

(まったく、パンドラズ・アクターときたら本当に(ずる)いわ。(わたくし)だってモモンガ様の可憐な姿を見たいのに~~~っ!)

 

 アルベドは、自分の執務机に遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)を載せながら、プウと頬を膨らませている。とはいえ、遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)を使うのだから、少なくとも姿ぐらいは見られるだろう。現在、<伝言(メッセージ)>を継続しながらの作業中だが、腕力が常人の比ではないので重いアイテムも片手で設置可能なのだ。執務椅子に座ったアルベドは、作業完了をモモンガに報告する。

 

「アインズ様? 遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)をセットしました。(わたくし)のチャンネルに合わせると映像がつながります」

 

 ちなみに、モモンガ達が使用する遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)は、転移後世界においてタブラやウルベルトの手が入ったことで、会話が可能なレベルで性能向上している。

 

『うむ、そうか。では<伝言(メッセージ)>は終了し、接続するぞ?』

 

 <伝言(メッセージ)>からモモンガの女声が聞こえ、ただの鏡だった画面に別の場所が映った。言うまでもなく屍蝋玄室だが、問題はそこではない。画面の向こう、おそらくは応接テーブルのソファで座る女性の姿に、アルベドの目は釘付けとなった。

 黒のショートヘア、豊満な胸に細い腰。気優しげな表情は男性時での面影を残し、女性としての魅力を引き上げている。これが女性化したモモンガを見たアルベドの感想だが、ここまでは以前に女性化モモンガを見たときの印象と変わらない。しかし、眼球から入って脳を焼いていく視覚情報は他にあった。

 

(え? どうして吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)の衣装をお召しになっているの? それに、お化粧まで……。理解が及ばな……淫靡、ひたすらに美しく淫靡! ああ、駄目駄目! 停滞化が発生してるんだけど、そんなの掻き消す勢いで淫靡! 鼻血とか出てないわよね!?)

 

 と、このように停滞化は発生しているものの、視覚情報の衝撃がアルベドをフリーズさせ続けている。その結果、モモンガ側からはアルベドが普段どおりに見えていたので、アルベドにとっては幸いと言うべきだろう。

 一方、画面向こうのモモンガは、ここでようやく自分の格好を思い出したらしい。

 ふと視線を下げて下方視界を阻害する双丘を見ると、それを包む衣服を見て慌てだした。

 

『こ、この衣装はだな! 職場研修的に着てみてはどうかと提案があったので、それに乗ってみたのだ!』

 

 身振り手振りを交えてまくし立てるのだが、見る間に顔面が紅潮していく。その様が、アルベドにとっては狂おしいほどに愛おしい。アルベドは無意識のうちにアイテムボックスからデータクリスタルを取り出し、撮影を始めていた。この辺、紛れもなくタブラ・スマラグディナの娘だと言える。

 

「はあああん。アインズ様ぁ、愛らしくて可愛くて、とても眼福ですぅ」

 

 左手を頬に当て、顔の高さまで持ち上げた直方体のデータクリスタルでパシャパシャと連撮り。脳内では、後でパネルやポスターにする予定が組み上げられていた。そんなアルベドだったが、その停滞化ガン無視の惚けた頭……片隅で、危機感を抱いている。

 

(何か……この辺でアインズ様の許しを頂いて、通信を終わった方が良い気がするわ。何が危ないかは解らないけど、でも、あああ……アインズ様、いえモモンガ様。このお姿を可能な限り画像として残さなければ! もう少し、もう少しだけなら撮影してて大丈夫よね? ね?)

 

 冷静になって考えれば、パンドラズ・アクターが現地で撮影しているのだから、後から画像データをカツアゲすれば良かったのだ。なにもモニター越しで撮影する必要はない。だが、遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)上のモモンガに釘付けのアルベドは、通信を終了する決断ができなかった。

 そうしているうちに、テンパりが極まったモモンガが誤って絶望のオーラ……ではなく、女性化しているので乙女のオーラを発動してしまう。

 

『うあ、しまった!』

 

 叫ぶような声と共に、モモンガの背後で白百合が咲き乱れた。

 死の支配者(オーバーロード)のスキルには絶望のオーラというものがあり、様々なデバフ効果や、レベルを上げれば即死効果などがあって危険極まりない。しかし、女性化した状態で使用すると、なぜか背後や周囲に百合の花が咲き、絶大な魅了効果を発揮するのだ。そして、その効果は遠隔視の鏡の鏡越しであっても効果を発揮したらしい。アルベドにしてみれば爆発的な白熱光(※イメージ表現)となって、データクリスタルを持った彼女の上半身をジュッと焼き……そこでアルベドの記憶は途切れている。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「いやあ、大変でしたね! んんアインズ様!」

 

「他人事みたいに言うな。お前も騒ぎの原因の一つだろうが……」

 

 屍蝋玄室を後にしたモモンガとパンドラは、二人で第三階層の通路を歩いていた。今ではモモンガも女性化を解いて異形種化しており、いつものフル装備姿だ。左隣を歩くパンドラは、いつもと変わらない様子だが、遠隔視の鏡に映るアルベドが鼻血を噴いて倒れた時は、さすがの彼も慌てている様子だった。

 結局のところ、<伝言(メッセージ)>でタブラに連絡し、一通りの説明をした上でアルベドのことは彼に任せている。交際相手の彼氏としては薄情ではないかと思うのだが、タブラが「ポーションを使えば済む話だし。着替えや後始末は一般メイドにやらせるから、あとで顔を見せて……いや、さすがに恥ずかしいか。まずは<伝言(メッセージ)>で話してあげるといいね」と言うので、ナザリックの視察を続行しているのだ。

 

「でも、俺も行った方が良かったかな~……」

 

 後ろ髪を引かれる思いとはこのことか。もっとも今は死の支配者(オーバーロード)になっているので、頭髪は存在しないわけだが。

 

「アインズ様。女性……この場合、アルベド殿の立場に立ってみるとですね。交際相手の男性に、鼻血を噴いて倒れる姿を目撃されたわけです。しかも、女性化していたとは言えモモンガ様を見て……です。この上、鼻血で血まみれの自分を介抱されたりしたら、部屋に引き籠もって出てこなくなるのではないでしょうか。恥ずかしさのあまり……」

 

「ぬう……。そっか~、デリカシーに欠けてたかな~。お前に指摘されると、ちょっとショックだな~。じゃあ……後で<伝言(メッセージ)>をしておくか」

 

 実はこの時、モモンガは心の中で「鼻血を垂らすアルベドって、なんかエロく見えたな」等と新たな性癖に目覚めようとしていた。だが……。

 

「アインズ様? 鼻血とアルベド殿の組み合わせは性的だったでしょうか?」

 

「だから、そうやって俺の考え……いいや、そんなことは欠片も思っていないぞぉ! さあ、次は第四階層だ!」

 

 勢いで誤魔化したモモンガは、歩く速度を速めた。パンドラは一瞬距離を空けられかけたものの、すぐさま追従し左隣の位置をキープしている。

 第一の訪問先である屍蝋玄室で騒ぎを起こしたモモンガとパンドラズ・アクター。二人のナザリック視察は始まったばかりである。

 ちなみに後日、女性化モモンガによる吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)衣装撮影会を知ったペロロンチーノとシャルティアは、居合わせられなかったことが残念だったらしく、半日ほど二人で落ち込んでいたという。

 




 いやあ、気軽に女性化できるって、良いものですね。
 
 自分はTS物を書くと、精神まで女性化しないように書いちゃう傾向にありまして。(とはいえ、精神が女に侵食される作品とか昔書いたことがありますけど)要は「らんま1/2」の早乙女乱馬みたいな感じですかね。本作のモモンガさんは、乱馬ほどには女を武器にはしていませんが……。
 精神が男なものだから、ギルメンや(しもべ)が頼んだらオッパイぐらい見せてくれるんじゃないでしょうか。ローブの前をペロンと開く感じで。

建御雷「モモンガさん。女性化すると胸とかどうなってんです? やっぱ重いとか?」
モモンガ「重いというかユサユサするのがね~。見てみます?」(ぺろん
建御雷「あ~、なるほど。そりゃあユサユサするでしょうねぇ」
弐式「建やん、勇者過ぎる……」

 さて、ナザリック視察は初回が第一から第三階層となりましたが、このまま全階層を踏破すると長くなるので、次の階層で本文に出る訪問階層を終わろうと思います。パンドラ回が次回で終わるか次々回まで行くかは未定ですが。
 久しぶりでアンケートを採ってみますかね。
 ちなみに、(にょ)モンガネタは次は使いません。
 
 第五階層(氷河)、第六階層(大森林)、第七階層(溶岩)さて、どれで行きましょうか? 第四階層は割愛します。 あと、今回の屍蝋玄室のように階層主が居ないかもしれません。

<誤字報告>
D.D.D. さん、tino_ueさん

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