ナザリック地下大墳墓第六階層。
ナザリック視察……という名目の散歩中であるモモンガは、第四、第五の階層を通過した後、
「アぁインズ様? 第六階層ですが、アウラ殿とマーレ殿の居住区……巨大樹には行かれないのでしょうか?」
「その、俺を呼ぶときに抑揚を付けるのを……。いや、まあいい。さっき<
実のところ、第四階層の地底湖ではガルガンチュアが居たが、話し相手にはならないので、一通り目視で確認した後は、そのまま第五階層へ移動していた。第五階層はコキュートスの管轄である氷河。しかし、コキュートスは不在だった。つまり、三つの階層で続けて(第四階層は微妙なところだが)主不在だったことになる。
「で、ぶくぶく茶釜さんに聞いたんだが、手の空いてるギルメンを集めてPVPをやるつもりらしい。武人建御雷さんやコキュートスも、あっちに居るそうだ。あ、そうそう、俺が<
普段は冷静沈着な茶釜が、『はえっ!? ダーリン!? 私が今、ええっ!?』と慌てている姿は、音声だけでもレアだった。録音しておきたいと思ったほどだ。
(本当に録音してて、それが茶釜さんにバレたら……茶釜さん、怒るかな~? ペロロンチーノさん風に折檻されちゃうかな?)
何となく寒気を感じたモモンガは、プルプルと白骨顔を左右に振る。
交際相手なのだから手心を加えて欲しいと思うものの、交際しているからこそ折檻がキツくなったりはしないだろうか。そして、その時、自分は茶釜に何をされるのか。
「それは、もちろん……ナニじゃないですか? んん、アインズ様」
「脳内思考に変な口出しするんじゃあない。あと、お下品!」
軽くお説教したモモンガは、特に怒っているわけではない。むしろウキウキしていた。茶釜との<
(今の人数になってからだと初めてのPVP! これは燃えてしまうじゃないか!)
とはいえギルメン全員が参加するわけではないらしい。外部で活動中の者も居るからだ。
『誰が参加するかは到着してからのお楽しみよん!』
これは茶釜のコメントであるが、モモンガは心から楽しみにしていた。
(相手の組み合わせも事前に把握できない、ぶっつけ本番! 身内の模擬戦だから、負けても責任は軽いし! うほほ~い! たぎってきたーっ!)
声に出さず、異形化しているために表情にも出ない。時折発生する精神の安定化が、モモンガの興奮ぶりを示すのみだ。しかし、この喜びは被創造物であるパンドラズ・アクターには感知できており、パンドラは右隣を歩くモモンガを見て「おおっ」と小さく声を発すると、満足いったように何度も頷くのだった。
◇◇◇◇
円形闘技場は、ローマ帝政期の闘技場のデータを元に作成されており、ほぼそのものと言って良い。長径で一八八メートル、短径では一五六メートル。全高は四八メートルにも及ぶ。ユグドラシル時代では、伝説となった千五百人侵攻以外では抜かれたことのない難所であった。
「アインズ様? この第六階層は、それほどの要害だと?」
「ん~……ここまで来た連中が手強そうだと判断したら、ナザリック側はたっちさんやウルベルトさんを出してたんだ。俺や他のギルメンも出ることがあったけどな。その布陣を抜けることができる奴が居るのかと言うと……なあ?」
モモンガは、たっちや他のギルメンの強さに自信があるため、幾分、自慢げに語っている。対するパンドラは、創造主が機嫌良く語っているので素直に感心し、嬉しくも思っているようだ。このように道中の会話内容が良かったせいか、創造主と被創造物……二人揃って足取りが軽い。鼻歌交じりで円形闘技場の正面ゲートに入り、通路を抜けると、そこは広い闘技場で異形種……ギルメン達が幾人か揃っていた。
モモンガと<
総勢で九人。PVPをやると聞いていたが、四対五でやる予定だったのだろうか。
(俺が入ると十人か……。ちょうど半分ずつでPVPになるな。あ、審判を用意しておきたいから一人減らして、やっぱり四対五になるかな? と言うかタブラさんが居る~。さっきのアルベドの件で気まずいな~……)
先程、
「やあ、モモンガさんが来ましたよ!」
赤黒い血色の肌。ガッシリした身体のそこかしこに口を持つ、人型の異形種……ベルリバーが朗らかに声をあげる。四腕の下段右腕で青いブロードソード、左腕に赤いロングソード。上段の右腕ではスタッフを持ち、その左腕にはメイスが握られている。アイテム換装による装備替えもあるだろうが、今のところは攻撃主体の装備だ。防具としては、刺々しさが特徴的なブルーアーマーを着用しており、ユグドラシル時代における全盛期の姿があった。皆が引退等でユグドラシルを離れ、一人でナザリックを維持していたモモンガにしてみれば、このベルリバーの姿を目の当たりにできただけでも目頭が熱くなる思いだ。
その向かって右隣で建御雷が立ち、いつもの和風甲冑姿であるが、肩にかついでいる大太刀は初めて見る。弐式炎雷からチラッと聞かされていたが、あれが建御雷九式なのだろう。
(たっちさんが合流してすぐの頃、宝物殿から建御雷八式を引っ張り出してきてPVPをしたそうだけど。真ん中で叩っ切られたんだっけ……)
この反省を踏まえて作成されたのが、今持っている建御雷九式だ。八式よりも資金と資材をつぎ込んで防御力及び耐久力の向上を図り、たっちの剣を受け止めることが可能となった逸品である。
他のギルメンらも自身の最強装備で立っているのが見え、それはたっち・みーやウルベルトも同じだ。
純銀の騎士と大災厄の魔。
二人の姿を見ていると胸が熱くなる。ましてや、その周囲にやまいこやメコン川が居て談笑している様は、在りし日のギルド『アインズ・ウール・ゴウン』を見ているようだ。止めどなく湧き上がる感慨によって……モモンガは精神が安定化する。望まぬクールタイムに「あ~……」と呻くが、目の前のギルメンらが消えるわけではないため、すぐに気を取り直した。
(けど、あれぇ?)
少しの違和感。モモンガは骸骨顔で首を傾げる。
(NPCが居ないな……。茶釜さんから聞いた話じゃ、アウラやマーレと一緒に居るってことだったのに……)
建御雷の場合だと、コキュートスを連れているはずだ。たっちやウルベルトが居るので、セバスとデミウルゴスも居るのかと思っていたのだが……。モモンガが小首を傾げながら近づいて行くと、ぷにっと萌えが手招きして居るので事情を聞いてみた。どうやら、幾人かの制作NPCが居たのは確からしい。
「しかしながら、ギルメン同士で模擬戦するわけでして。実際には怪我しないようPVP用のアイテムを使いますが、それでもまあNPC達には刺激的でしょう? ギルメン同士で相談して、NPCには席を外してもらったわけです。今頃は通常業務に戻ってるんじゃないですかね?」
説明を受けたモモンガは大いに納得する。このPVPで使用する模擬戦用アイテムの効果(ダメージカウントの頭上表示オンオフ。残ライフの表示オンオフ、ダメージの広範囲無効化)は知っているが、それでも『至高の御方』同士で殴り合いをしたり、斬りつけ合ったりというのは確かに刺激が強い。
(親同士でルールのある格闘試合をやるようなもんだよ。勝った負けただけでも複雑な気分になるだろうし、ダメージが入らないとしても……なぁ)
例えば、やまいこを複数ギルメンで袋叩きにしたら、ユリと他のNPCで気まずい雰囲気になったりしないだろうか。そこに思い至ったモモンガは、視線を水平方向で左に回した。当然ながらパンドラと目が合う。
「パンドラズ・アクターよ。そういうわけだから、お前も……」
「ああ、モモンガさん。ちょっと待ってください」
パンドラに席を外すよう言おうとしたところ、ぷにっと萌えがストップをかけた。
なんでも、ぷにっと萌えが審判役を務めるため、ギルメン数がモモンガを入れても五対四になるらしい。人数上の不均衡が発生するのだが、新たにギルメンを追加しようにも、今ここに居ないギルメンは他に用があったり、何らかの作業中だったりするので呼べないとのこと。
「誰かのNPCを一人呼び戻そうか……と、皆で話し合ってたところだったんです。しかし、ですね」
ヴァイン・デス……ぷにっと萌えの視線がパンドラの方を向く。
「モモンガさんがパンドラズ・アクターを連れているじゃないですか。彼がPVPに入れば五対五になります」
「なるほど! 俺は良いと思うんですけど……」
モモンガは頷きながらパンドラに向き直った。
「パンドラはどう思う? ギルメン……あ~、至高の御方同士でPVPをやる。そこに加われという話だが……」
この問いに対してパンドラは背筋を伸ばし、軍靴の踵を打ち鳴らした。
カツーンという乾いた音が闘技場に響き、同時にモモンガの羞恥心をえぐっていく。
「ぅアインズ様が、そうせよっと仰るならば! 是非などあろうはずが、ありまっせん! だぁうぞ、やれと命じてくださいませ!」
「……お、おぅ、少しテンション落とそうな?」
宥めるモモンガであるが、心の中ではパンドラを褒めてやりたい気分だった。なにしろ口調のテンションはともかく、オーバーアクションが少ない。これは褒めるべきだ。また、例のドイツ語を口走らなかったことも褒めるべきだろう。アレを言われなかっただけで、モモンガは凄くホッとするのだ。踵鳴らしに関してはどうかと思うが、この際、細かいことは言わないでおく。
(本来、他人の目のある場所でこそ褒めるべき! けど、ドイツ語未使用の件でパンドラを褒めるのは、皆の前だと何だか恥ずかしいしぃ。そっちは後で褒めておくか……)
「パンドラよ! その意気や良し! さすがは俺の息子だ!」
大声で褒めると、真っ直ぐに伸ばされていたパンドラの背筋が胸を張る形で反らされた。
「ぅお褒めいただき
「う、うむ!」
他のギルメン達の視線を感じながら、モモンガは鷹揚に頷く。そして、先程の認識に間違いがないことを確信していた。この場に他のギルメンが居なければ、パンドラは今の台詞を、ポーズを付けてクルクル回りながらビシッと言っていただろう。そして、そうしなかったパンドラがモモンガの面目を
「あとは、もう少し声が小さければ……。え~……では、パンドラにはPVPに加わって貰うとして……ぷにっと萌えさん? 各チームの割り振りはどうします?」
ぷにっと萌えに聞いたところ、アミダクジで決めるとのこと。すでにクジを用意してあるらしく、アミダクジの線を引いた用紙を差し出される。モモンガ以外のギルメンは、すでに名前の書き込みがあるようだ。なお、結果を読めないよう、用紙はクジの下あたりで幾度も折り込まれている。各種の魔法対策もされているので、一見薄っぺらい紙切れながら、コストはなかなかのもの。
「魔法使用無しだと、この状態で折り込み部分を見通せるのって弐式炎雷さんぐらいじゃないですかね~。では、モモンガさん。ペンです」
モモンガとパンドラは、ぷにっと萌えから羽根ペンを借り、それぞれ二本の横線を足してから名前を書き込んだ。
「モモンガ……と」
「パンドラズ・アクター……と」
空欄は少し離れて計二箇所。モモンガが先に記名し、その後にパンドラがモモンガの真似をするようにして書き込んでいる。親子、まさしく親子。人の父子がやれば微笑ましい光景だが、モモンガとしては何とも気恥ずかしい。
「記入っ完っ了っ! ぷにっと萌え様! クジです」
書き終えたパンドラが、最後の「クジです」だけ気取ったイケボで言い、ぷにっと萌えにクジ用紙を差し出した。
「あ、ああ、うん。ありがと~。え~と……それじゃあ皆さん、集合~」
パンドラからクジ用紙を受け取ったぷにっと萌えは、若干引きつつ……一瞬、両手で顔を覆っているモモンガを気の毒そうに見た後で……ギルメン達を呼び寄せている。そして、皆が見守る中、クジ用紙下部の折り込みを開いていった。
結果は……。
<モモンガ・チーム>
モモンガ、武人建御雷、獣王メコン川、ぶくぶく茶釜、パンドラズ・アクター
<たっち・チーム>
たっち・みー、ウルベルト・アレイン・オードル、やまいこ、ベルリバー、タブラ・スマラグディナ
と、このような割り振りだ。なお、モモンガとたっちがチームリーダーになっているのは、それぞれが現ギルド長と元クランリーダーであるから……という理由でチームメンバーから、リーダー役を押しつけられたことによる。たっちは「はあ、まあ良いですけど」と請け負っていたが、モモンガは何となく不満である。
(建御雷さんとメコン川さんは性格的に向いてないって話だけど、指揮役なら茶釜さんが居るのに~)
実際、茶釜の指揮能力は高い。ユグドラシル時代においても、戦闘中のヘイト管理などは達人級だった。彼女であればリーダーを任せられるし、指揮下で戦うのに不満はない。だが、自分が嫌なものを交際女性に丸投げするのは、人として男として不味いのではないか。そんな思いが、リーダー役を茶釜に投げることを良しとしなかったのだ。
(まあいいか。せっかくのPVPなんだし、楽しむことにしよう)
「しかし、この編成……偏ってるな~……」
モモンガが肩の力を抜いている右隣で、白いたてがみの獅子顔に黒い甲冑……メコン川が腕組みしながら苦笑いしている。これに関しては他のメンバーも、モモンガを始めとして似たような表情だ。とはいえ、茶釜はピンクの肉棒状態なので表情が窺えず、パンドラも見た目上の表情は変わっていない。
さて、メコン川が言う『偏り』の最たるものは、たっちのチームに、たっちとウルベルトが居ることだろう。物理最強と魔法最強が揃っている時点で勝てそうにない。単純な魔法火力でモモンガの上を行くタブラが居るのも問題だ。回復役にやまいこが居るし、決め手の戦力ではないが、放置しておくと妨害行動ばかりするベルリバーが居るのも無視できない。
要するに、向こうに回して戦うにはヤバいチーム編成なのだ。
では、モモンガのチーム編成はどうなのか。
習得魔法700超えのモモンガが居るのは大きい。戦術のやりくりで、たっちやウルベルト相手でも食らいつける強さは本物だ。建御雷は先日、たっち相手のPVPで負けたようだが、新しい武器を用意しているので頼りにして良いだろう。メコン川は打撃力で建御雷に劣るものの、忍者寄りのビルドなのでトリッキーな強さがある。弐式炎雷の忍者
「大昔の特撮ヒーロー番組で、快傑ラ○オン丸というのがありましてね。俺のアバターやビルドは、そこを目指してるんです」
ユグドラシル時代、そう言って機嫌良く語るメコン川との会話を、モモンガは鮮明に覚えている。ライ○ン丸が何なのかは、その後に映像データとを見せられてしっかり『教育』されており、たっちにも似たようなことをされた経験があるモモンガは、特撮ドラマを楽しみながら苦笑いしていたものだ。
ぶくぶく茶釜に関しては、その種族特性と愛用の二枚盾によって無類の防御力を誇る。いわゆるタンク職であり、前述したとおり指揮能力の高さも相まって立ち回りが非常に上手い。最近はヘロヘロを真似て、武技の要塞を会得したそうで、その防御力に磨きがかかっていた。
以上のことから導き出されるモモンガ・チームの傾向は、たっち・チームに及ばない魔法戦闘力、たっち・チームに及ばない物理戦闘力、たっち・チームに及ばない回復力、たっち・チームに勝る物理防御力であり、チームとの戦闘力は大きく引き離されていると言って良い。おそらく、たっち側も同様の見解だろう。
……ここまでは。
(だが、しかぁし!)
ギルメンらが雑談をする中、モモンガは俯き気味にほくそ笑んだ。
モモンガ・チームにはNPCではあるが、パンドラズ・アクターが居る。パンドラはドッペルゲンガー、それも
(コピー元の武具がないから、素の能力と貸与した武具で戦うことになるけど……。これはパンドラを知ってるからと言って、簡単に対処できるもんじゃないぞぉ! むほほ~っ!)
パンドラが有するギルメンの姿は、本来、引退した仲間達の姿を留めるために登録したものである。だが、実際に戦わせるとなると非常に使い勝手が良い。運用例としては、ベルリバーが得意とする『他のギルメンの陰から、こそこそ斬りつけたり魔法攻撃をしたり』などだ。ただし、斬りつけるときにたっち、魔法を使うときにウルベルトの姿になればどうだろう。アイテムや武具の条件次第では、ベルリバーを大きく上回るはずだ。
(実際は立ち回りも重要になるから、完全装備のベルリバーさんの上をいくのは難しいだろうけど。似たような嫌がらせを、自分に迫る精度でやられたら困るだろ~な~。ベルリバーさんも、他のみんなも! それに……)
ぷにっと萌えが審判役となって、このPVPではチーム参加しない。
これはモモンガにとって大きな福音だった。
正直言って戦略的なことはもちろん、戦術思考に関してモモンガはぷにっと萌えに勝てる気がしない。味方で居てくれれば幸いだが、そうでないなら敵に回らないだけでもラッキーなのだ。相手チームにはまだタブラとウルベルトが居るが、ぷにっと萌えの相手をするよりは何とかなるだろう。
(それでも勝てないとは思うけど、一泡吹かせるぐらいはね~。さてさて、どう戦術を組み立てるかな?)
パンドラズ・アクターを作成したときは、ここまで戦闘に組み込むことを想定していなかった。ギルメン達の姿を留め置くことが、モモンガの主目的だったのだから。しかし、PVPであっても本格的にパンドラを組み込むとなると楽しくてしかたがない。
モモンガは御機嫌であった。
◇◇◇◇
モモンガがウキウキしている一方、少し離れた位置で、たっち・みーチームが円陣を組んでいる。円陣と言っても前屈しているわけではなく、顔を合わせて円形に並んでいるのだが……。
ウルベルトが、肩越しにモモンガチームを振り返りながら言う。
「相手チームにモモンガさんが居るのは大問題です。バフとデバフの連打で時間経過と共に、戦力差が逆転したり……まあ、いつものことですが。それに加えて今回は……」
盗聴防止アイテムを作動させているが、それでもウルベルトは更に声を潜めた。
「パンドラズ・アクターが居るのって、面倒だと思いませんか?」
モモンガの切り札……パンドラズ・アクターは、さっそくウルベルト達に目をつけられていた。パンドラの能力は、ギルド上位の強者とて無視できないのだ。
「ウルベルトさんの言うとおりです」
ウルベルトの対面で立つたっちが口を開く。
「一人だけ参加するNPCですが、軽視はできません。想定されるパンドラの運用はどんな感じでしょうね?」
この、たっちの質問に答えたのはタブラだ。タコに似た頭部をククッと傾けながら思うところを述べている。
「たっちさんとウルベルトさんの姿を使い分けながら、ベルリバーさんっぽく戦う……かな?」
それは、モモンガが考えていたパンドラ運用例の一つだ。
見抜いたタブラが凄いと言うより、真っ先に思い浮かぶ運用法なのである。
これを聞いたチームメンバーは、皆が嫌そうに呻いた。強者の陰から嫌がらせ行動をするベルリバーは実にウザい。気がつくと戦況を左右するほどの影響を生むのだから、放置しておくのは危険だし、気が散ることこの上なかった。
皆が「だよね~」と頷き合う中、ベルリバーが憮然としている。
「……なんか俺、ディスられてません?」
「褒めてるんだよ~。ベルリバーさんを敵に回すと厄介なのは事実だもの。でも、どうする? パンドラを先に何とかする?」
やまいこがベルリバーを宥めつつ、皆に確認した。邪魔な存在が居るなら真っ先に排除。実にやまいこらしい。ウルベルト達は顔を見合わせたが、少し話し合った結果、まずモモンガを倒すことが決定された。
ウルベルトが人差し指を立てて言う。
「モモンガさんとパンドラ。どちらを先に倒すかで残った方がどう出るか……。本当に死ぬわけじゃないし、倒されても『PVPが終わるまで死体のふりする』ですからね。モモンガさんが先に倒されたとして、パンドラは大きく動揺しないかもです。ですが、指示や命令……指図をする創造主が動かなくなったら、多少は行動に遅延が出るかもしれません。優秀と言っても、結局は『ナザリックの
逆にパンドラが先に倒されたとして、残ったモモンガはすぐに態勢を立て直してくるだろう。モモンガは、一対一ではたっちやウルベルトに対して分が悪いが、戦闘巧者なのは確かであり、先にウルベルトが述べたとおり、モモンガが行使するバフやデバフが強力なのだ。加えて彼のチームには近接打撃力である建御雷とメコン川が居て、鉄壁防御の茶釜が居る。いずれも強力なギルメンだが、この三人に実力以上の戦闘力を発揮させないためにも、モモンガは早急に排除するべきだろう。
「そこで……モモンガさんの意表を突きます」
そう言うとウルベルトは山羊顔を歪め、意地の悪い笑みを浮かべるのだった。
◇◇◇◇
無論、モモンガ側でもチームメンバーによる作戦会議が行われている。
パンドラの運用方針を固めたモモンガだが、今回のPVPは一人で戦うのではない。他の者との協議は必要なことなのだ。
「ふうん。ダーリン? そのベルリバーさん戦法だけど、ウルベルトさん達には読まれてるって理解してるわよね?」
フルフル震えるピンクの肉棒……茶釜が聞いてくるので、モモンガはフフ~ンと鼻を鳴らす。
「当然です。パンドラの運用法として、ベルリバーさん風に戦うのは有効な手段ですしね。普通は、それをやります。読まれて当然でしょう。そこで……ウルベルトさん達の裏をかこうと思います」
とはいえ、ウルベルトやタブラの知謀を読み切れるわけではない。その方面で二人に勝てないことは、モモンガ自身が一番理解している。ならば、どうするか。
(ウルベルトさんと……それもタブラさん込みで読み合いか。ゾクゾクするなぁ)
「……」
モモンガは左隣のパンドラを一瞥すると、茶釜に向き直った。
見つめ合う骸骨とピンクの肉棒……。
「絵にならんっすねぇ。建御雷さん」
「いやあ、でもこれ、ペロロンさんがエロ騒ぎしそうですよ。メコン川さん」
獅子獣人と
「茶釜さん。あ、それと建御雷さんにメコン川さん」
茶釜に話しつつ建御雷達に呼びかける。男性異形種らは一瞬顔を見合わせたが、「きたきた!」「モモンガさんの悪だくみが始まったぜ!」などと言い合いながら寄ってきた。
失礼な話である。
「それとパンドラもだ」
「私も?」
左隣のパンドラは、首を傾げながら自らの顔を指差した。
「至高の御方の会話に加わってよろしいのですか?」
「PVPの作戦会議だぞ? かたっ苦しいことを言うな。お前にも頑張ってもらうんだから!」
「おおおおお! アインズ様!」
軽く注意しただけなのだが、パンドラは感動している様子。
やる気があるのは大いによろしいので、モモンガは頷いてから皆を見回した。
「で、まあ、勝ち目は薄いんですけど。やってみたいことがあるんですよね~」
「ほほう! 聞きましょうか!」
メコン川がノリ良く言うと、チームメンバー全員が「げへへへ」と悪そうな笑みを浮かべる。パンドラのみ、そんなモモンガ達を見て視線を顔ごと左右に振っていたが、すぐに咳払いをすると同じようにゲヘヘ笑いを行った。この様子を見ていた建御雷は「おっ?」と一声発すると、パンドラを指差しながら言う。
「モモンガさん。パンドラって、けっこう可愛いじゃないですか」
「ふふふ、そうでしょうとも!」
オーバーアクションで失笑を買うのは嫌だが、その一方で褒められると嬉しいのは確か。モモンガは自慢げに肩を揺らし、話を元に戻した。
「では、気を取り直して作戦です。さきほどは、パンドラをベルリバーさんっぽく運用するとして、それはウルベルトさんに読まれるのでは……と話していましたが~」
チームを率いて戦う以上、それが和気藹々のPVPであっても恥ずかしい戦いをする気はない。モモンガは頭脳をフル回転させて説明を続けるのだった。
◇◇◇◇
「え~、それぞれのチームで作戦が纏まったようですので、PVPを開始します! その前に事前説明!」
審判役のぷにっと萌えが、目の前で左右に分かれた二チームを見回しながら声を張りあげている。本人もPVPに参加したかったのではないかとモモンガは確認したが、ぷにっと萌えは「また別の機会で良いですよ。このPVP、双方の『読み合い』に興味がありますしね」と笑ったものだ。ちなみに勝敗予想を聞いたところ、たっち・みーチームの勝ちだそうで、どんな風に彼が展開予想したのか、モモンガとしては大いに興味があった。
(限られた情報からどう読んだのか、後で聞いてみようっと。しっかし、俺達の負けか~。でも、たっちさん達を驚かせるぐらいはやれるさ! ふひひっ、楽しみ~)
この時のモモンガの心境は、新ネタを披露したくてウズウズしている芸人そのもの。彼の作戦を聞いたチームメンバーも、ほとんど同じ気持ちなので、まさに心は一つの状態。チームの士気は非常に高かった。
「昔、みんなで課金して買ったPVPシステムを使用しますので、命の危険はありません! 事前にテストしましたから思い切りやってください!」
ぷにっと萌えの説明が続く。
このPVPシステムは、円柱型の石材を和式の墓石風に三段積み上げたもので、外部には魔法文字がびっしり刻み込まれている。腰高の最頂部に手をかざすとコンソールが出現する仕様で、様々な設定が可能だ。今回のPVPにおける設定は以下のとおり。
・体力が残一割になった時点で強制的に倒れ、その場で麻痺状態化。頭上には『私は死体です』と表示される。事前に登録することで麻痺無効のプレイヤーも麻痺有効にできる。麻痺状態による痛痒は生じない。
・体力とMPは戦闘開始前に計測した数値で、PVP中の攻撃も魔法もすべて、プレイヤーに対して疑似扱い(地形に対しては無効)となる。従って実際の体力やMPは減らない。とはいえ疑似MPがゼロになると、MPを使用する魔法やスキルは使用不可となる。痛覚についてはオフ状態。
・勝利条件として、リーダーが死亡すると一発敗北。ただし、ほぼ同時に両リーダーが死亡した場合は、各チームで生存者の多い方が勝利。
ぷにっと萌えが言う確認説明を聞き、たっちが首を傾げた。
「異世界転移したことで仕様が変わってる感じですか? 一部は機能が変わったりしてますね。痛覚オフなのは、元々のゲームが痛みを感じる仕様じゃなかったからですかね? ……そこは設定可能な仕様であってほしかったな~。面白みがないですよ」
「物騒なこと言わないでくださいよ、たっちさん……」
たっちの呟きにベルリバーが反応する。言いつつ周囲の反応を伺うと、ギルメンの反応は二つに割れていた。
痛覚オン賛成派:たっち、建御雷、メコン川、ウルベルト
痛覚オフ賛成派:モモンガ、タブラ、ベルリバー、茶釜、やまいこ、パンドラズ・アクター
痛覚オフ派が多数派となっている。たっちらオン派が「ええ~」と口を尖らせていると、やまいこが目をギュッと瞑り、両拳を握りしめながら訴えた。
「痛くていいなら、普通にPVPをすればいいじゃない~っ!」
正論である。
わざわざ課金購入したアイテムを使うのだから、仕様上存在しない痛覚のオンオフ切り替えに拘るべきではないのだ。あと、やまいこが今のような物言いを始めると説得は至難の業なので、自然と議論の空気は消滅した。つきあいの長い男性ギルメンらは、女性ギルメンの気持ちに配慮するもの……けっして、あの手にはめられたガントレット『女教師怒りの鉄拳』で殴られるのが怖かったからではない。
「それぞれ話はまとまったみたいですので、システムに登録してください」
かくしてナザリックのギルメン、総勢九名(ここにパンドラズ・アクターが加わる)によるPVPが開始される。互いのチームリーダーによる腹の探り合いはあるものの、総じてウキウキ気分、和気藹々な空気の中で二つのチームは対峙するのだった。
リクエスト、モモンガ&パンドラの3回目。
次回で終わりそうなので全4回。起承転結が決まりそう……なのかな?
今回の捏造ポイントは「課金購入のPVPシステム」。ユグドラシル後期に販売された、本来は運営が設定できるようなことを、プレイヤーが設定してPVPできるようにしたもの。ゲーム全体の収益が傾いてきたことで、テコ入れ的に販売したアイテムの一つ……みたいな扱いです。最初はプレイヤーも面白がって買っていたけれど、クランやギルドであれば一つ有れば充分なため、販売実績はすぐに落ちていったという……本作設定。
次回は本格的にPVP。とはいえ、ユグドラシル風の戦闘模様に熟知しているわけではないので、オバロっぽいに留まる戦闘模様になると思います。
13~14巻あたりの記憶が定かではない感じで、読み返さないと亜人とか書けない~。
最近、映画効果か評価点を頂いて本当に嬉しいです。
前話の感想でも、新規の読者さんから感想をいただけて本当に嬉しかった。
効果音が気に入らないということで1話切り1点されて落ち込むこともありますが、1話の先を読んで楽しんで頂けてる方に最後まで読んでいただけるよう頑張ります。
<誤字報告>
アカイカさん、桜一郎さん、佐藤東沙さん。
毎度ありがとうございます。