オーバーロード ~集う至高の御方~   作:辰の巣はせが

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第125話

 ナザリック地下大墳墓、第六階層。

 円形闘技場にて、モモンガが『敵』と対峙している。

 倒すべき相手は、モモンガから見て前列左よりたっち・みー、少し間隔を空けてベルリバー。後列左からウルベルト・アレイン・オードル、やまいこ、タブラ・スマラグディナ。

 モモンガのチームは、前列左から武人建御雷、ぶくぶく茶釜、獣王メコン川。後列は左からパンドラズ・アクター、モモンガ。前衛三人は間隔を詰めているが、たっちのチームより一人多いので間隔が狭くとも壁役は務まる。むしろ、たっち・みー側よりも前衛のタンク機能は上だった。

 これら二チームにより、今まさに五対五の……PVPが始まろうとしている。

 彼我の距離は一〇〇メートルほどで、敵と斬り結ぶには少し遠く、魔法を撃ち合うにはまあまあの中距離だ。どこがどう『まあまあの中距離』かと言えば、<火球(ファイアボール)>を飛ばすにはほどよい距離で、 <隕石落下(メテオフォール)>を使うには近すぎる。そういった距離だ。

 

「さぁて……」

 

 モモンガは、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン(レプリカ)を握り直しながら、唇を舐めた。と言っても今は死の支配者(オーバーロード)の姿なので気分だけであるが。

 

(事前相談はしたけれど、最初は魔法の撃ち合いだな。魔法職は向こうにウルベルトさんとタブラさんが居て、こっちは俺だけ。メコン川さんとパンドラを入れても思いっ切り負けてるから、防御重視で魔法を組み立てるとして……。問題は近接戦闘か。一〇〇メートルぐらい、たっちさんやベルリバーさんなら一秒かからず斬り込んでくるから、飛んでくる魔法攻撃を防ぎながら、突撃破砕を目的とした魔法も使わないと。いやはや忙しいなぁ……ま、今考えた展開でことが進めば……だけど)

 ウルベルトとタブラを相手取るだけでも防戦一方のところ、相手側には、たっちとベルリバーという近接職が居る。おまけに回復役でやまいこまで居る始末。バランスが取れてて羨ましい限りだ。アミダクジの神様も不公平なものである。

 しかし、モモンガ側にも頼りになるギルメンは居るのだ。そして自慢の息子、パンドラズ・アクターも……。

 

「それでは……」

 

 右方、離れた場所に居る審判……ぷにっと萌えが右手を挙げた。

 

「はじめ!」

 

 ぷにっと萌えの手が振り下ろされ、最初に行動したのはたっち・みー。突撃を行おうとしたのだが、これは予備動作の段階でモモンガに見抜かれている。モモンガはまず、牽制の<火球(ファイアボール)>を撃ち出すと、続けざまに<魔法効果範囲拡大化(ワイデンマジック)>と<魔法三重化(トリプレットマジック)>により強化した<骸骨壁(ウォール・オブ・スケルトン)>を展開した。

 縦横高(たてよこたか)さ、厚みまでもが強化された<骸骨壁(ウォール・オブ・スケルトン)>が三つ出現し、簡易的なバリケードとなる。もちろん、たっちやベルリバーであれば、真っ向から破壊することはもちろん、迂回することも飛び越すことも可能であったが、ウルベルトらと魔法の撃ち合いをすると思っていたモモンガが、いきなりの防御を図ったので一瞬戸惑ってしまう。初っぱなの斬り込みに対して、一時的にだが妨害できた形だ。

 しかし、モモンガが防御に注力したことで、相手方ではウルベルトやタブラがフリーとなる。

 

「私達の相手はお留守ですかねぇ!」

 

 挑発めいた台詞を吐きながらウルベルトが、タブラと呼吸を合わせ、更にはベルリバーも加わって<火球(ファイアボール)>を二十数発を撃ち出した。三人がかりであっても数が多いように思うが、こちらも強化したのである。放たれた<火球(ファイアボール)>は<骸骨壁(ウォール・オブ・スケルトン)>を飛び越す曲射弾道で飛び、モモンガは<骸骨壁(ウォール・オブ・スケルトン)>の仕込みにかかりきりであるから、これに対応できない。が、ここでモモンガ陣営からも<火球(ファイアボール)>が撃ち出された。それらは、たっちチーム側の<火球(ファイアボール)>を幾つか迎撃していく。迎撃されなかった何発かはモモンガチーム側に着弾したが、茶釜が大盾で防いだり、他のメンバーは回避するなどして被害は出なかった。 

 

「<骸骨壁(ウォール・オブ・スケルトン)>が邪魔で、向こうの様子がわからないなぁ」

 

 フムと鼻を鳴らしてタブラが言い、ウルベルトは「そうですねぇ」と相槌を打ったが脳内では今の攻防について素早く考察が行われている。

 

(今のやり取り……タイミング的にモモンガさんは動けないはず。さっきの<火球(ファイアボール)>はメコン川さんかな? それにしては手数が多かっ……ああ、パンドラズ・アクターか)

 

 おそらくパンドラズ・アクターは、ウルベルトかタブラの姿になって<火球(ファイアボール)>を打ちだしたのだ。ウルベルト達には打ち負けたが、防御に長けた茶釜が居ることを考えると、被害は軽微か無かったようにウルベルトは思う。

 

(先に<骸骨壁(ウォール・オブ・スケルトン)>を潰すんだったな。たっちが何とかすると思ったが……)

 

 チラリと、やまいこを挟んで左向こうに居るタブラを見ると、彼も同じ思いだったようで頷きが返ってきた。一方、突撃を邪魔されたたっちは、最初に立ち止まったところで動けずに居る。

 

「こ、これは!? 取れない!?」

 

 たっちが驚きの声をあげた。彼の太ももから足に掛けて、粘液がこびりつき、移動を妨げているのだ。手で取ろうとするも、今度は掌に粘着物質がついてどうにもならない。

 

「上手くいったかな?」

 

 モモンガチーム側では、<骸骨壁(ウォール・オブ・スケルトン)>を見ながらメコン川がほくそ笑んでいる。たっちの動きを妨げた粘着物質は、メコン川が作成した行動遅延及び他妨害のアイテムだ。その名をストレートに粘着玉と言うが、作成したのは転移後世界に来てからだったため、このアイテムの存在をたっちは知らなかったのである。

 

「弐式さんと一緒に作ったアイテムだし? 力尽くじゃあ、なかなか剥がれないなぁ」 

 

 愉快そうに笑うメコン川だが、ただ笑っているわけではない。次の仕込みのために手を休めるわけには行かないのだ。そして、たっちの苦境もそう長くは続かなかった。彼の背後……すなわち味方側から一発の<火球(ファイアボール)>が飛来したのである。

 

「えっ!? ちょ……おわぁ!?」

 

 ボウンという鈍い音と共にたっちは炎に包まれた。だが、炎は一瞬で消え、身を守る姿勢になっていたたっちは、先程まで存在していた粘着物質がボロボロと剥がれ落ちていくのを目撃する。

 

「たっちさーん! 一度、戻って来てくださーい!」

 

 手を振って声を張り上げているのはベルリバーだ。今の<火球(ファイアボール)>は彼の仕業らしいが、どうやら粘着物質を焼き落とすのが目的だったらしい。

 

(一声かけて欲しかったな~)

 

 何となくムッとしながらではあったが、たっちは元居た場所に戻った。戻る途中、モモンガチームから魔法でも飛んでくるかと肩越しで振り返ったが、特にそういったことはない。

 

「いやあ、すみません。声かけてからだと、どんな邪魔をされるかわからなかったもので」

 

 出迎えたベルリバーが、頭部を掻きながら説明する。たっちは「いや、助かりました。ありがとうございます」と言って軽く頭を下げると、改めて<骸骨壁(ウォール・オブ・スケルトン)>を振り返った。

 当初の予定は、たっちが斬り込んで攪乱し、ベルリバーとやまいこも敵陣に突入。前衛同士の乱戦に持ち込んだ上で、モモンガチームの後列にはウルベルトとタブラが攻撃魔法の雨を降らせる。モモンガ達が態勢を立て直す前に、たっちが茶釜らを突破してモモンガを倒す……というものだった。速攻で勝負を決めるには、単純な力押しが良いと判断されたのだ。しかし、そうはならなかった。

 これは、たっちチームの作戦失敗を意味するのか。否、これは第一段階に過ぎない。

 

「モモンガさんに手が届かなかった……。では、例の手で確実に届かせるとしましょうかねぇ」

 

 ウルベルトが悪い顔で笑うと、チームメンバーに笑いが伝播していく。

 今回、ちょっとした小細工を考えてあるのだが、数人がかりで手が込んでいるので、実行したときの……モモンガ達のリアクションが楽しみだ。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「いきなり、たっち・みーさんだけで突っ込ませるとは大胆不敵? いや、それでどうにかなると思われてたってことは……」

 

 モモンガが呟くと、それを聞いた前列の建御雷が反応する。

 

「舐められてるのかな~。面白くないなぁ……」

 

 ちょっぴり機嫌が悪そうだが、そこまで怒った声でもない。

 

「ダーリ……ギルド長? 打ち合わせどおりにやっちゃう?」

 

 後列の『モモンガ』から見て建御雷の右隣……三人居る前列の中央から茶釜が『モモンガ』に話しかけた。『モモンガ』はキョロッと斜め上を見上げてから、大きく頷いている。

 

「予定に変更はありません! 準備は完了してますね!」

 

 テンション高く宣言する『モモンガ』を、前列の建御雷、茶釜、メコン川が振り返って頷き、すぐ右隣では『ベルリバー』が居て同様に頷いている。『モモンガ』は『ベルリバー』に向き直ると、彼に向けて話しかけた。

 

「パンドラよ。ベルリバーさんの戦い方は、相手方の行動を阻害するのが基本だ。能力値の精度では本人に及ばないだろうが、お前の高い知能に期待する!」

 

「ぅお任せください! んアインズ様! このパンドラズ・アクター、全身全霊をかけて務めてみせます!!」

 

 『ベルリバー』が、四腕のうち右上段の腕で敬礼しつつ叫んだ。テンションが高い上に声も大きい。その様子を見て建御雷達が吹き出しそうになっているが、モモンガに配慮して必死で堪えている。もっとも誰もが目を逸らして俯き、肩を震わせているので隠しきれてはいないのだが……。

 

「ん、あ~……ごほん」

 

 チームに蔓延する何とも言えない空気。モモンガは照れくささを咳払いで誤魔化した。

 

「ウォームアップも済んだことですし! 次、始めるとしましょうか!」

 

 

◇◇◇◇

 

 

 再開したPVPは、またもや<火球(ファイアボール)>の撃ち合いで始まっている。

 ただし、たっちチーム側の標的は壁越えの敵陣ではなく、<骸骨壁(ウォール・オブ・スケルトン)>そのものだ。邪魔な壁を吹き飛ばし、突破口を開く。迂回したり飛び越すのも一つの手段であったが、先程、たっち・みーがメコン川による粘着玉に被弾しているので、視界を確保するべく壁の排除を優先したのである。一方、モモンガ側は、<火球(ファイアボール)>の投射先を<骸骨壁(ウォール・オブ・スケルトン)>と壁越えの敵陣に振り分けていた。壁を派手に爆砕してたっちらの斬り込みを阻害したかったし、先程は手の回らなかったウルベルトとタブラに魔法で攻撃されたからだ。同じ目にあわないよう、牽制のためとして一部の<火球(ファイアボール)>を後列へ飛ばしたのである。もっとも、そんなついでの攻撃がウルベルト達に通用するはずもなく、結果として<骸骨壁(ウォール・オブ・スケルトン)>が双方の<火球(ファイアボール)>によって爆砕されるに留まった。これにより発生した土煙もすぐに晴れ、両チームは再び相手チームを視認している。

 ここからは距離の詰め合いだ。

 いかに相手側の戦士職を足止めし、自チームの戦士職を前に出すかである。

 互いのチームの中間地点で戦士職同士が激突……するのは、モモンガチームにとっては悪手だ。たっち一人を抑え込むのに、モモンガ側は前列三人をすべて投入しなければならない。いや、三人で足りるかどうかすら不安……ゆえに『ベルリバー』まで投入しているのだ。だが、何しろ相手はギルド最強の男。しかも、転移後世界で武技を修得して強さを増している。

 モモンガは攻撃に加わりながら、下唇を噛む心境だった。

 

(たっちさんの圧が想定していたよりヤバい! ぬあ! 茶釜さんがキックで浮かされた!? この人、怪獣か何かか!? ここは方針を転換して、パンドラをたっちさんに変身させるか?)

 

 だが、それをやると作戦行動の組立が崩れる。

 モモンガは歯を食いしばりながら、自分の役目を果たし続けた。

 一方、たっち・みーは一人で敵前列三人を相手取っていたが、モモンガ視点で見たほどの余裕はない。手練れの一〇〇レベルプレイヤー、それも前列配置が務まる三人が相手では誰か一人を倒すにも手間取るからだ。

 

(建御雷さんの新刀が硬すぎる! 茶釜さんが慎重になってきたから、もう簡単に押し切れない! メコン川さんも手数が多いし! それと! ベルリバーさん! じゃなかったパンドラがーっ!)

 

 混乱の極みに近いが、それでも戦闘機動が崩れないあたり、さすがはたっち・みーであった。この場において特筆すべきは『ベルリバー』で、茶釜や建御雷らの影から顔を出しては、魔法戦闘で言う至近距離から<龍雷(ドラゴンライトニング)>やデバフ系の魔法を飛ばしてくる。実にベルリバーらしい戦い方であり、ウザいことこの上なかった。ただ、数人でゴチャついているせいか、脇からスルッと出てきて斬り込んでくるような行動は取っていない。

 

(やはり、パンドラでは本人レベルの立ち回りはできないか? って、メコン川さんが火の玉を吐いてきた!? 何あれぇ!?)

 

 獅子顔が大口を開けたかと思うと、拳大の<火球(ファイアボール)>を吐き出す。とっさに斬り払うも、御丁寧に小規模ながら爆発したため、たっちはかすり傷を負った。

 前述の粘着玉もそうだが、ナザリックに合流後のメコン川は弐式炎雷と忍者アイテムの開発を進めている。他のギルメンが知らないアイテムは複数存在するのだ。

 軽視できない近接攻撃力に、中レベルの魔法攻撃力。そして忍者アイテム。加えて獅子獣人であるから噛みついたり引っ掻いたり。弐式炎雷ほどではないが、やれることの多さはベルリバー等を凌駕していた。とはいえメコン川自身の性分か斬り合いを好むので、ベルリバーほどには妨害行動をメインとしていない。

 そして、メコン川の手数に戸惑うところへ、建御雷が斬りつけてきたり茶釜が大盾で押し込んできたりする。そこへ『ベルリバー』の魔法攻撃だ。たっちは落ち着いてものを考える暇がなかった。

 

(モモンガさんがウルベルトさん達に抑え込まれてるから、こっちに魔法が飛んでこないのが救いか……。これは……駄目だな)

 

 仕切り直しの戦闘でも、たっちは敵陣への斬り込みを断念した。再び自陣へ撤収しようとするが、上手いタイミングでベルリバーの援護射撃が飛んでくる。しかし、この時は魔法の投射量が足りず、たっちは前線からの後退ができなかった。

 

(ベルリバーさん?)

 

 ほんの少し、たっちが意識を向けたところにベルリバーの叫び声が聞こえてくる。

 

「こんなろー! パンドラぁ! 俺の真似する上に、俺の邪魔してるんじゃなーい!」

 

 そう、ベルリバーは『ベルリバー』の魔法による妨害で、たっちへの援護が充分にできなかったのだ。この時、ベルリバーが装備していた武器は、そのすべてが『アイテム使用で魔法攻撃を行える』類いのものだったので、全武器全開で<火球(ファイアボール)>や<龍雷(ドラゴンライトニング)>等を放つが、『ベルリバー』は大盾を持つ茶釜の後ろに引っ込んで回避している。

 

(くそ~。たっちさん達にも言われたけど、敵に回すと何てウザいんだ俺!)

 

 不思議な物言いになっているが、現に『自分』が相手方に居るので問題はない。だが、手をこまねいていると、いつまで経ってもたっちが『予定どおり』に戻って来られないのだ。ベルリバーは一瞬黙考した後、あくどいと思いながら半笑いで声を張りあげている。

 

「こらぁ! パンドラぁ! 俺達は『至高の御方』だぞーっ! 少しは遠慮しろーっ!」

 

 この発言はパンドラだけでなく、敵味方のギルメンも聞き取った。ギルメンらは「うわぁ……ベルリバーさん、大人げな~い」と思ったが、『ベルリバー』は茶釜の背後に隠れたまま、こちらも大声で応じている。

 

「御言葉ですがベルリバー様! 今の私は皆様の敵なのです! 敵であれと仰せつかった以上、全力で戦うのが真の御奉公だと考えます!」

 

 ナザリックに、そしてギルメンらに尽くす(しもべ)の姿がそこにあった。

 ……やだ、格好いい……。

 感じ入ったギルメンら、ほぼ全員が一瞬動きを止める。『モモンガ』が仰け反りつつ胸に手を当て、茶釜などはピンクの肉棒姿であるが頬を染めている始末だ。子供に見せられないので、やめていただきたい。

 こうした中、たっちチームで一人動じなかったタブラが、たっちの周囲に<火球(ファイアボール)>の雨を降らせている。これにより、たっち・みーが自陣へと戻ることができた。

 二つのチームは自陣に引っ込むが、互いに相手の思惑が読めず、敵陣の様子を伺いながらの作戦会議が始まる。一気に押し切れず、一当てするたびに相談し合うのは不細工だが、闇雲に戦闘を継続して負けることを考えると、こうせざるを得ない。何より、お互い『相手も相談してる』との思いがあり、作戦会議に入ることを良しとした。

 なお、審判役のぷにっと萌えは「悠長で面白い戦闘光景だな~」と、ニコニコしながら見物している。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 戻って来たたっちは、まずタブラとベルリバーに声をかけた。

 

「タブラさん、ベルリバーさん、助かりました。ありがとうございます。でも、ベルリバーさん。さっきのは無いです。減点一ですね。度が過ぎると免許取り消しですよ?」

 

「道路交通法違反なの!?」

 

 たっちから注意が入ったので、ベルリバーが目を剥く。もっとも、お互い冗談で言っているので、すぐに流してモモンガ陣営を見た。

 

「さぁて……今の二回目で、私を突っ込ませてモモンガさんを倒すことに固執してる……ように思ってくれましたかね?」

 

「実際、固執してますものね。こっちは、あくまでもモモンガさん狙い……リーダー戦死で試合終了ですよね? どのみち、たっちさんを突っ込ませる方針に変わりはないですから。あれこれ考えて悩んでくれると最高ですね~」

 

 純銀の騎士と多口の魔剣士が笑い合う。

 PVPが始まってから、二度に渡ってたっちが単独突撃をしているが、すべてこの後の策の布石だ。ウルベルトとタブラ、両者考案による策で、ほぼ確実にモモンガを倒せるはずであった。

 

「ウルベルトさんとタブラさんが組んで考えても、『ほぼ』とか『はず』が付くんですね……」

 

 ベルリバーが「やだなぁ」と呟き、その背後からウルベルトが声をかける。

 

「相手はモモンガさんです。一対一ならともかく、彼の裁量で動く戦闘ユニット……ギルメンが複数居る以上、どんな悪辣な罠が潜んでいるやら……」

 

 モモンガはウルベルトを大いに尊敬しているが、ウルベルトもモモンガを高く評価している。PVP勝率はウルベルトの方が高いものの、余裕で勝てたことなど一度だってないのだ。

 

「それもあるけどさ。今回、本っ当にパンドラズ・アクターが厄介だよねぇ」

 

 ウルベルトの左方、やまいこの向こう側でタブラが苦笑した。

 その言葉に皆が頷いている。先程の『ベルリバー』の戦いぶり……あのベルリバー風の妨害行動は実に迷惑だった。たっち・みーの撤退に支障が出たほどで、ギルメン全員の姿能力を八割精度で行使できる厄介さが実感できた形だ。

 

「モモンガさん、次はパンドラに何をやらせるつもりなんだろう? ことによると、弐式炎雷さんに変身させて、姿を隠して送り込んでくる可能性もある……かな?」

 

 タブラの推察に、皆が背筋を震わせる。

 何でもできるに等しい選択肢の多さと、それに対処しなければいけない面倒さ。

 すべてが嫌すぎる。

 今からでも『モモンガ狙い』を『パンドラ排除』に切り替えた方が良いのではないだろうか。しかし、そう思わせてリーダーであるモモンガから攻撃の手を遠ざける……モモンガチームの策かもしれない。

 

「ややこしいよね~。たっちさんがモモンガさんをズンバラリンとできたら、一発で終わるのにね!」

 

 やまいこが古い言い回しを交えながら愉快そうに言う。その脳内では「男の子のシリアスな会話って尊いな~」等と考えて萌えているため、愉快そうな態度には幾分か萌え要素が含まれていた。そうとは知らないたっち達は、やまいこの発言に頷きながら自チームの方針を再確認している。

 たっちチームの狙いは、第一に敵リーダー……モモンガ死亡によるPVP勝利だ。戦術的には、たっち・みーをぶつけて倒したい。リーダーにリーダーをぶつけるので、たっちが返り討ちにされてPVPに負ける恐れもあるが、何のことはない。たっちがモモンガを倒せば良いのである。至近距離で一対一に持ち込めれば、モモンガがたっちに敵うはずがないからだ。

 その状況に持ち込むため、たっちの単独突撃を繰り返して心理的な揺さぶりを仕掛けたのだが、失敗してたっちが危機に陥ったらどうするか。この点に関してはウルベルトに秘策があるらしい。

 

「くっくっくっ……今は秘密です。自チームメンバーにも秘密にしないと効果がありませんのでね。まあ、保険ですが。これが実行されたら、我がチームの勝利は間違いありません」

 

 山羊悪魔が自信たっぷりなので、そうなのかな……と思いつつ、チームメンバーは何だか不安であった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「うーむ。向こうから悪魔の笑いが聞こえる……ような気がする」

 

 茶釜の影に隠れていたモモンガは、背筋に冷たいものを感じたが、すぐに気を取り直してチームメンバーを呼び集めている。

 

「よそのプレイヤーとPVPしているときは、こう何度も作戦会議はできませんが、身内同士の模擬戦ですし。何より向こうも相談中です。大いに相談しましょう」

 

 そう言って会議を始めたモモンガは、まず自身の見解を述べた。

 ここまで、たっちが単独突撃を二度行っている。近接の最強戦力を差し向けているのは、どうやらリーダーのモモンガを倒しての勝利に拘っているらしい。同じ手を何度も使うのは愚策だが、その要がたっち・みーであるなら馬鹿にはできない。何度も防ぎきれる自信がないからだ。

 

「すまねぇ、モモンガさん。俺とメコン川さんで、たっちさんを倒せてたらなぁ」

 

 申し訳なさそうに言う建御雷に、モモンガは無言で首を横に振った。

 何を言葉にしても建御雷は納得しないだろうから、敢えて何も言わない。

 モモンガも建御雷も、他の者達も、皆それがわかっているので話題は次に移る。

 たっちチームは、この後も変わらずモモンガを狙ってくるはずだ。では、三度目もたっちを突撃させてくるかと言うと……。

 

「判断ができないわよねぇ。たっちさんが健在なら建御雷さんが言ったとおり、そのうち私達の防衛ラインを突破されるかもしれない。だったら何度でも突撃してくるでしょうし、多少の怪我はやまちゃんが回復させちゃう。でも、そう何度も同じことをしてくるかというと……ああ、堂々巡り~」

 

 さすがの茶釜も、ウルベルトらの策は読めないようだ。これを聞き、メコン川が腕組みしながらハハッと笑う。

 

「心配しすぎとは言いませんが、そう気負わなくていいですよ。こっちは前列に茶釜さんが居て、両脇を俺と建御雷さんで固めてます。相手がたっちさんでも、そうそう抜けやしませんて。高度な柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対処すればいいんですよ。行き当たりばったりに聞こえるかもですけど、こっちにはモモンガさんの作戦がありますからね」

 

 自分達の力を過信しているわけではない。だが、茶釜を落ち着かせる意味合いも込めてメコン川が言い、最後にモモンガを見た。期待のこもった視線を受けたモモンガは照れ臭そうに頭を掻く。

 

「いや~、上手く行くといいんですけどね~。……そして、パンドラよ」

 

 メコン川に相槌を打ちつつ、モモンガはパンドラズ・アクターを呼ぶ。

 己の厨二精神を全力で詰め込み製作したNPCは、黙したままモモンガを見ていた。

 

「引き続き、お前に頼ることになるが……諸々頼んだぞ!」

 

「お任せください。モモンガ様……」

 

 ここが正念場だと悟っているのだろう。ハイテンションでなく、敬礼するでもなく、パンドラズ・アクターは静かに答えている。

 多口の魔剣士と死の支配者(オーバーロード)は互いに頷き合うのだった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 またもや戦闘再開となったが、早々にたっち陣営で異変が生じている。

 前列のたっちら、後列のウルベルトらの間……高さ十数メートルのあたりに大量の岩塊が出現したのだ。岩塊一つの大きさは、建御雷などの半魔巨人(ネフィリム)よりも二回りほど大きく、その数は数十を超える。

 当然ながらモモンガ達も目撃しており、互いに顔を見合わせていた。

 

「あれは……岩というより土の塊? 闘技場の地面をえぐり抜いたのか……」

 

 モモンガの見立てでは魔法で強化した後で、飛来する魔法攻撃への防御に使うか、そのまま飛ばしてたっちの突撃補助に使うかだ。しかし強化したからと言って、土塊でモモンガ達にダメージが入るだろうか。まったくもって否だ。その分のMPを攻撃魔法に回し、拡大等で弾数や威力を増した方が良いのではないか。

 

(むしろ、土塊を飛ばすことで、ウルベルトさんかタブラさんの手が塞がるんじゃないか? ベルリバーさんにやらせるにしても、あの手の運用だと、使ってるのは<念力(テレキネシス)>か? なら、使ってる間は自分が動くと制御が難しいし……)

 

 動けなくなると、ベルリバーは固定砲台になってしまう。彼が得意とする『誰かの影から妨害行動』という持ち味が死んでしまう形だ。

 

(……土塊を雨霰と飛ばして、たっちさんの突撃補助にする……が正解かな?)

 

 モモンガの中で結論が出た。

 対処法としては<魔法の矢(マジック・アロー)>を拡大強化して、土塊を迎撃することが挙げられる。だが、この時、建御雷の背後に移動したモモンガに向けて、ウルベルトから強化された<龍雷(ドラゴンライトニング)>が数発飛んできた。牽制射撃のつもりだろうが、強化されているので軽視できない。また、ある事情から今のモモンガは、強い魔法防御ができないので、簡単に防ぐわけにはいかなかった。

 

「そんなときの俺ですよ! うりゃりゃりゃりゃーっ!」 

 

 建御雷が建御雷九式で斬り払い、モモンガも可能な範囲で防御したため事なきを得たが、今の防御行動で土塊を迎撃するタイミングを逃してしまった。

 

(数が多すぎて茶釜さんじゃ手に負えないか。何より土塊は飛んでくるんだからな。魔法で対処……メコン川さんやパンドラは……)

 

 チラリと視線移動させたところ、メコン川は<魔法の矢(マジック・アロー)>で迎撃しようとしているが、専門の魔法職ではないので手数が足りないだろう。

 

(どうせ飛んでくる土塊は魔法で強化されてるだろうから、メコン川さんの魔法攻撃力だと全部撃ち落とすのは無理だよ……)

 

 では、パンドラはどうか。彼がウルベルトかタブラに姿を変えれば、あの胡散臭い土塊を全部撃ち落とせるはず。しかし、モモンガが見たのは、猛烈な魔法爆撃に耐えるパンドラの姿であった。

 

(なぁっ!? あっ……タブラさんか!)

 

 そう、今は後列に移動しているパンドラ。彼に向けて攻撃を行っているのは、タブラ・スマラグディナだ。単純火力ではモモンガを凌駕する魔法職の攻撃が、車列を組んだ車載式ロケット弾の一斉射撃のごとく撃ち込まれている。あまりの爆発と閃光で、パンドラの姿が見えないほどだ。

 

(耐えているようだが、パンドラを抑え込まれてるとなると……)

 

 やはり、土塊を完全に防ぐことはできないと判断するべきだ。

 

(まずいな……)

 

 モモンガは、たっち・みーによる単独突撃、その斬り込みが本気で行われることを予感する。多数の土塊によって建御雷ら前列を混乱させ、たっち・みーが突破してくる算段なのだろう。そして、至近距離にまで詰められたらモモンガに為す術はない。

 

(だが、まだだ! まだ負けたと決まったわけじゃない!)

 

 たっち側にも作戦はあるだろうが、こっちにだって作戦はあるのだ。それが上手くはまりさえすれば、勝ち筋が見えてくる。

 

(それに、あの数の土塊を飛ばすにはウルベルトさんかタブラさん、あるいは足を止めたベルリバーさんの……誰かの手が塞がるはずで、魔法攻撃が一人分減ると思えば……って、はあああああ!?)

 

 モモンガは目を剥いた。

 浮遊していた土塊が上昇したかと思うと、一箇所に集まり、とある人物の頭上目がけて降り注いだのだ。その、とある人物とは……半魔巨人(ネフィリム)やまいこ。両手に赤いガントレット『女教師怒りの鉄拳』を装着した彼女は、すわった目で前方を睨むや、落下してきた土塊を次々と殴り飛ばす。

 

「そぉ~れ! だだだだだだだだだっ!!」

 

 ガツンあるいはドゴン、本当に拳で殴っているのか疑わしくなる殴打の音と共に、土塊が射出されていく。これぞ固定砲台だ。低い角度の放物線を描いて飛んだ土塊群は、次々とモモンガ陣営に振りそそぐ。やはり魔法で強化されているのか、茶釜が大盾で受け止める際にかなりの衝撃が発生しているように、モモンガには見えていた。更に土塊は、後列にも着弾しだす。

 

(くそ~、やはり全部は防ぎきれないな……。なんだこれ? 魔力壁を中和してくるぞ!?)

 

 恐らくはタブラかウルベルトの仕業だろうが、実に厄介だ。そして、最も厄介なことは、これら土塊の攻撃に合わせてたっちが突撃してきたことだ。無論、ウルベルトらの援護射撃を背負った上での突撃である。まずいことに一回目や二回目と違い、やまいこによる土塊攻撃が加わったことで突撃を防ぐのが難しくなっていた。だが、それでも大盾を持った茶釜が前に出て、その左を建御雷、右をメコン川が固める。そして建御雷の背後には『ベルリバー』だ。土塊を飛ばすという小細工があったとはいえ、この四人をたっちが抜くことはできないとモモンガは考える。

 

(さっきまでだって追い返せてたんだ! 今度だって!)

 

「あっ……」

 

 その声は誰が発したのか、モモンガにはわからなかった。声の主を探し、思わず振り向いたモモンガは、そこで見た光景を前に思考が停止する。

 前列と後列の中間点。そこにはウルベルトらの魔法の他、土塊が幾つか着弾していたが、その内の一つが霞のように薄れていき、中から……たっち・みーが出現したのだ。

 と、同時に前列、建御雷らから驚愕の声が発せられる。

 

「これ、幻影かよ!?」

 

 モモンガが振り返ると、袈裟懸けに斬り裂かれたたっちが風で吹かれた霧のように消え、攻撃した建御雷、抑え込もうとした茶釜、加勢に入っていたメコン川が唖然としている姿が見えた。突撃してきたたっちは、幻術か何かによるニセモノ。そうなると、土塊の中から出現したたっちこそが本物で……。

 メコン川が叫ぶ。

 

「たっちさんを止めろ!」

 

 幾分、笑いの籠もった絶叫だったが、モモンガチームは誰一人対応せず、たっちの『モモンガ』への接近を許してしまった。

 

「もう遅い! 威力、極限圧縮! 次元断切(ワールドブレイク)!!」

 

 相手の魔法的防御や耐性を無視してダメージを与える魔法に<現断(リアリティスラッシュ)>があるが、その上位的存在……『ワールド・チャンピオン』を極めなければ修得できない超弩級最終スキル。しかも、効果範囲を絞って刃にのみ攻撃力を圧縮したものだ。『モモンガ』には防ぐことはできず、一瞬で体力が削り飛ばされた。

 

「うわはははは! モモンガ討ち取ったりーっ!!」

 

 たっちが振り抜いた剣を肩に担いで高笑いする。久々の集団PVPで気分が乗っているらしい。あるいは、妻子に逃げられた精神不安定による躁鬱の躁状態なのか……。

 

「ぐわああああああああっ!!」

 

 一方、痛みは感じないはずだが、大袈裟に叫んだ『モモンガ』がその場で三回転し、バタリと倒れる。

 

「ん? んんん?」

 

 モモンガにしては妙なリアクションだと、たっちは剣を担いだまま覗き込んだ。

 そして目を剥く。いや、剥くと言うよりはヘルムの覗き窓から両目が飛び出す、いわゆるギャグ漫画的驚愕と言っていい。何故なら、そこで倒れて居たのは死の支配者(オーバーロード)ではなく、黄色い軍服に黒い軍帽……上位二重の影(グレーター・ドッペルゲンガー)、パンドラズ・アクターだったのだから。

 

「はっ!? はああああ!? じゃあ、モモンガさんは……」

 

(すき)ありゃああああっ!!」

 

 下に空間のある薄い鉄板に、少しジャンプして飛び乗る。

 そうした際に発生する鈍い音が、たっちの後頭部で生じた。

 いつの間にか背後に立った茶釜が、大盾で殴り飛ばしたのだ。

 

「ぐはぁっ!? ちゃ、茶釜さん!!」

 

 もんどり打って倒れたたっちは身体を起こし、尻餅をついた状態で茶釜を指差す。

 

「そんな鉄板の! 端だけ持って殴るのは暴力が過ぎますよ!」

 

「だまらっしゃい!」

 

 大盾を振り上げてにじり寄るピンクの肉棒は、眼下のたっちを大喝した。

 

「手の込んだことしてダーリンを狙うとは不届き千万! 野郎共! やっちまいなー!」

 

「「うい~っす、姐さん~!」」

 

 茶釜の号令により、彼女の後ろから建御雷とメコン川が出現する。

 ギャグ調で前に出た建御雷らであったが、その後の攻撃開始は速やかなものだ。

 

「メコン川さん。たっちさんを立たせるなよ?」

 

「オッケー、建御雷さん。温存してた粘着玉を大放出しちゃいますぜ~」

 

 言い合うなり建御雷が建御雷九式を振りかぶって躍りかかり、メコン川が取り出した粘着玉複数をポポイのポイと投じる。結果、トリモチ状の液体で身動きの取れないたっちを、建御雷とメコン川がボコボコにし、そこに茶釜が加わるという地獄絵図が展開された。

 

「ちょ、皆さん! 三対一はズルいですよ! ぐはっ!?」

 

「何言ってんですか! さっきまでだって三対一だったでしょーが!」

 

 抗議するたっちに対し、建御雷は容赦なく攻撃する。相手の動きをアイテムで封じて、複数でタコ殴り。建御雷としては性に合わない戦いだが、これは集団PVPだし、身内同士の模擬戦だから我慢できる範疇なのだ。むしろ楽しかったりする。

 

「いやあ、ひどい絵面だな~」

 

 こっそり距離を取っていた『ベルリバー』……モモンガは、幻影を解除して元の姿に戻ると、たっちに向けて手を合わせて拝んでいた。

 

「南無南無。俺狙いだとは思ってたけど、突撃回数を重ねてから、いきなりたっちさんを敵陣に放り込んでくるとはね~。しかも、あんな手で……」

 

 具体的に何をされるかについては読めなかったので、早い段階でパンドラと立ち位置を入れ替えていたのだ。結果的に、『たっちによるモモンガの一撃ノックアウト』を阻止できなかったが、斬られたモモンガは実はパンドラだったので、今回はモモンガの作戦勝ちであろう。

 このまま、たっちを倒し切れば、リーダー死亡でモモンガチームの勝利だ。

 

(ふふふ、ぷにっと萌えさんは俺達の負けと予想してたけど、ひょっとして……ぷにっと萌えさんに勝ったと考えていいんじゃないだろうか! これは凄いじゃないか!)

 

 と、PVPが終了していないのにフラグを立てていたモモンガであるが、ここで敵陣からの魔法攻撃が途絶えていることに気づいた。たっちを巻き込む恐れがあるので、攻撃の手を控えている……にしては静かすぎる。何かしら魔法が飛んできていれば、モモンガも敵陣に注意を向けていたのだが、この時は直前までベルリバーのフリをしていたこともあって、気が回らなかったのだ。慌てて敵陣を注視すると、手をくわえて狼狽えているやまいこが居て、タブラとベルリバーは特に何をするでもなく立っている。

 そして、ウルベルトが居ない。

 

「えっ? 居ないって……どこ!?」 

 

 思わず声に出し、それが聞こえた乱闘中の四人が動きを止めたところへ、どこからともなくウルベルトの声が聞こえてきた。

 

「上かっ!?」

 

 モモンガが空を仰ぎ見ると、かなり高い位置で青空を背にした山羊悪魔が滞空している。彼もまた、土塊に紛れて移動して来たのだろうか。いつの間にかそこに居て、魔法の発動準備をしていたのだ。

 

「荒れ狂え! 我が怨念の(ほむら)! 降りよ、究極の災厄!」

 

 それは魔法の呪文詠唱。内容はウルベルトの気分次第で毎度変わるので、今回も事前に考えてきたのだろう。このパターンから予想される発動魔法は一つだ……。

 

「げぇ!? マジですか!? たっちさんも居るんですよぉ!?」

 

 何をする気なのか悟ったモモンガが、喉の奥から悲鳴をあげた。だが、ウルベルトは止まらない。

 

「糞たっちよ、反省と猛省と自省の涙を(こぼ)せ! <大災厄(グランドカタストロフ)>!」

 

 ワールド・ディザスター職の者のみが使用できる究極破壊魔法。最大MPを六〇%使用することで発動可能であり、ユグドラシル時代はMP回復方法が時間経過しかなかったことで、文字どおり一回こっきりの超絶切り札だ。異世界転移の直後……鬱状態だったたっちの介護役を務めていたウルベルトの怨念が、今、超位魔法を超える破壊エネルギーとなって、ギルメンら(味方のたっち・みー含む)の中で炸裂した。

 これにより、すでに倒されて死亡扱いの麻痺状態だったパンドラズ・アクターは別として、たっちとの戦いによる負傷が癒えていない建御雷とメコン川。諦め状態で立ち尽くすモモンガが死亡判定となる。茶釜に関しては、卓越した防御力でなんとか生き延びたが、今回のPVPルール上では、彼女一人が生き残っても意味がない。

 そして爆心地は、もちろんこの人。

 たっち・みー。

 跡形もなく消し炭に……とはならなかったが、元より減っていた体力が一瞬で消失。死亡判定となった。

 結果、両チームのリーダーが同時死亡となり、残員数の多いたっち・みーチームが勝利をおさめたのだった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 PVP後の闘技場、中央付近。

 

「結果発表! そして反省会!」

 

 タブラの構えるデータクリスタルの前に、ぷにっと萌えが顔を出し、手をパンパン叩きながら怒り気味で宣言した。居並ぶギルメンが「うお~」とか「いえ~」とか「萌えさん、格好いいよぉ~」などと言いながら拍手をする。

 ギルメン(パンドラを含む)はモモンガを中心にして半円状に並んでいるが、ウルベルトのみはギルメンとぷにっと萌えの間で正座させられていた。首元には茶色いロープで吊られた木板があり、そこには『私は味方ごと敵を攻撃した悪い山羊です。とってもすみません』と毛筆で書き殴られている。

 

「え~、ルール上は、たっちさん以外が生存したたっちさんチームの勝利です。モモンガさんチームは茶釜さんが生き延びただけですしね」

 

 ぷにっと萌えは言った。このPVPでは、事あるごとに相談会を開くという悠長さはあったが、お互いの策が実に面白く、また策の応酬のような展開があって実に面白かった。

 

「たっちさんが、パンドラをモモンガさんと誤認して次元断切(ワールドブレイク)を使ったときは爆笑しました。しかし……」

 

 ぷにっと萌えの視線が、正座中のウルベルトを射貫く。

 

「味方ごと攻撃するとか、美しくないと思うんですけどねぇ。ウルベルトさ~ん」

 

「ルール上、問題ないじゃないですか! 私はチームが勝つために最善を尽くしただけです!」

 

 まあ、そうなのだが、それを内々のPVPでやるのは如何なものか。こう指摘されたウルベルトは、「内々だから色々試せるんでしょう? ほら、ギルドの役に立ってる!」と抗弁した。もっともらしいのがギルメンの苦笑を誘う。腕組みして黙り込むたっちは不機嫌そうだが……。

 しかし、軍師の策はウルベルトの上をいった。

 

「なるほど。さすがはウルベルトさん、説得力がありますね」

 

「ははは、ぷにっと萌えさんに言われると照れますね」

 

「で、本音は?」

 

 問われたウルベルトは正座したまま腕組みをし、唸るように語る。

 

「いやあ、日頃スカしたバッタをジュッとやるのは気分が良かったですね~……あっ」

 

 ヤベェ言っちゃった……とウルベルトが口を押さえ、拳を振り上げて前に出ようとしたたっちを、両側から建御雷とメコン川が押さえた。

 

「まあまあ、たっちさん。ウルベルトさんに悪気があるのはいつものことですし……」

 

「建御雷さんの言うとおりですよ。誰が陣地に飛び込んできても、ああなったんじゃないですかね? たぶん……」

 

 今一つ効果がなく、二人はたっちによってジワジワと後退していく。

 その様子を笑ってみていたモモンガであるが、やまいこが寄ってきて話しかけた。

 

「ねえねえ? モモンガさんは、いつパンドラと入れ替わったの?」

 

「ああ、それはですね……」

 

 どのタイミングでというと、最初に<骸骨壁(ウォール・オブ・スケルトン)>を出してすぐのあたりだ。

 

「俺狙いなのは解ってたんですけど、具体的に何されるかは解らなかったもので。取りあえず入れ替わったんですよ」

 

 やまいこが「そんなに早くから!? ああ、『ベルリバー』さんになってたとき、建御雷さんの影から魔法は撃っても、斬り合いとかはしなかったものね~。そりゃ、中身がモモンガさんだから魔法だけになるか~」と驚いていると、ベルリバーも会話に混ざってきた。

 

「待ってください。ということは、ですよ? 俺の姿で『真の御奉公です!』って言ってたの、あれ、モモンガさんなんですか!?」

 

「フフフ、なかなかの演技だったでしょう?」

 

 得意げに笑うとベルリバーが感心したように何度も頷く。思い返せば恥ずかしいが、やってる最中は楽しくてしかたがなかった。

 その後、タブラも会話に加わり、PVP中に何を考えどう判断していたかをモモンガと語り合う。

 

(ああ……)

 

 PVPは楽しかった。

 こうして反省会で騒いで語り合うのも楽しい。

 ギルメンが寄って集まって、大騒ぎして……。

 

(ああ~、いいな~。これ~)

 

 ユグドラシル時代を再現していると言うよりも、あの日の続きを目の当たりにしているようで、モモンガは目頭が熱くなった。危うく精神が安定しそうになったが、ここで左隣で立つパンドラからの視線に気づく。

 

「うん? パンドラ、どうかした?」

 

「あふん! 素の口調! いえ、アインズ様が……父上が楽しそうで何よりだと……」

 

 言われたモモンガは、照れ臭そうに皮膚のない額を指で掻いたが、やがてパンドラを見つめ直すと大きく頷いた。

 

「そうだな。凄く楽しい。楽しいナザリック視察だったとも! 嬉しく思うぞ、パンドラズ・アクター!」

 

「父上……」

 

 幾分震えた声でパンドラが言う。直後、モモンガに全身で向き直って軍靴の踵を鳴らし、見事な敬礼する。

 

「望外の喜びです! 父上!」

 

 モモンガは敬礼する姿に引くでもなく手を伸ばした。そしてパンドラの左肩を二度叩くと、大騒ぎが続行中のたっち達を見物し直す。周囲のギルメン達からはホッコリした視線が向けられていたものの、死の支配者(オーバーロード)上位二重の影(グレーター・ドッペルゲンガー)は気にするでもなく、仲良く並んで見物し続けるのだった。

 




 いやあ、Wikiが閉鎖されて諸々キツいですね~。
 なんとかパンドラ回を書き上げました。
 パンドラの内面をもっとピックアップしたかったんですけど。
 こんな感じになっています。 
 あ、茶釜さんの「やっちまいなー」は、キルビル的なアレです。漫画ヘルシングで「ち」が「ぢ」になってたんですけど、ネタとして捻りすぎなので、御指摘により修正しています。

 
 本文中、『モモンガ』みたいなのは、入れ替わってるところ。
 モモンガの内面だけ書くときは、『』を外しています。

 活動報告でも書きましたが、ちょっと目を患っちゃいまして。
 頑張って治療に励みたいと思います。
 今は何ともないんですけど、早期発見できたので、まあ。

<誤字報告>

tino_ueさん、佐藤東沙さん

 毎度ありがとうございます。
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