オーバーロード ~集う至高の御方~   作:辰の巣はせが

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第127話

 おっす、俺の名はサキュロント。ちょっと小粋でキュートな軽戦士だ。

 あ? 中年でキュートはない? 

 (こま)けぇことを言うなよ。それに中年って歳でもねぇし。ホントだぞ?

 いいか? 俺は王国で一番の闇組織、八本指ってとこで警備部門に所属している。

 六腕の幻魔サキュロントって言ったら、ちょっとした有名人なんだぜ?

 え? 犯罪組織の人間が有名だとマズい? そこはそれ、裏社会の界隈で有名ってことよ。

 最近は、物凄く強い人らが八本指を傘下に入れちまって……でも、話せば解ってくれる人達だし、すげぇ武具やアイテムも手に入るとあっちゃあ良い話だよな。組織はカタギ寄りの運営方針になったけど、裏稼業は大方同じ……いや、麻薬部門が医薬品製造部門になったんだっけ。

 俺自身は幻術で姿を消したりできるから、あちこち走り回って情報を仕入れてるのさ。国外へ行ったりもするんだぜ? いや~、外国で珍しい食い物を食べるとか最高だなぁ。いやいや、ちゃんと仕事はしてるさ。今日だって、割と珍しいんだか奇妙なものを見たもんで、それを知らせにヘイグ武器防具店まで来たんだ。

 でだ、そんな俺は今……大ピンチです……。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「ほほう、広大な墓場?」

 

 ナザリック地下大墳墓……の外壁に設けられた受付棟。

 タブラ・スマラグディナによる設計及びデザインの二階建て家屋で、外壁を蔦が這っていたりと無駄に怪しさを醸し出している。その中にある会議室で、モモンガは机上に身を乗り出した。聞かれた相手はサキュロントだが、彼は長い会議テーブルの端で立ち、顔を青くしたまま頷いている。

 

「そ、そうなんでさ! カッツェ平野の何も無かったところに出現してまして……」 

 

 正面のモモンガ、死の支配者(オーバーロード)に対し、サキュロントは身振り手振りを交えながら説明した。モモンガの両脇には、手前からサキュロント側の奥にかけて異形が数人席に着いており、その後ろには幾人かの異形種が立っている。各ギルメンの制作NPCであるアルベドやデミウルゴスなどだ。モモンガを始めとしたギルメンはサキュロントに対して普通に接しているが、アルベド達から彼に向けられる視線は厳しい。嘘など吐こうものなら八つ裂き、あるいはもっと恐ろしい目に遭わされることだろう。

 恐怖、圧倒的な恐怖により、サキュロントの膀胱は限界寸前だった。

 

(ボスぅ、ボスぅ~。俺今、めっちゃ怖いぃぃ! ちびっちゃいそうだぜ~っ!)

 

 今ここに居ないゼロ、六腕のリーダーは何も答えてくれない。

 この日の昼過ぎ、怪しい物件の目撃情報を得たサキュロントは、ゼロに一声かけた上でヘイグ武器防具店に出かけたのだが、話の触りまで口に出したところでヘロヘロが「それは、みんなで聞いた方がいいですねぇ」と呟いた。……かと思うと、すぐさま店員らに本日閉店を指示。どこかに対して<伝言(メッセージ)>を始めて、直後に<転移門(ゲート)>の暗黒環が出現した。呆気に取られていたサキュロントは、中から出てきたタコのような異形種……タブラ・スマラグディナに肩を掴んで引き込まれ、現在に至るというわけだ。

 ギルメン会議はモモンガと茶釜が戻ってすぐに始まったが、モモンガは子犬のようにプルプル震えているサキュロントを見ると、斜向かいで座るウルベルトに話しかけた。

 

「ウルベルトさん。妙な墓場と聞くと、我々としては複雑というか面白い気分ですよね? ギルドホームがナザリック地下大墳墓なわけですし」

 

「言われてみるとそうですねぇ。まだ詳しい内容を聞いてないけれど……そうだ。幻術の魔法をやりくりして、サキュロント君から聞いた情景を再現してみましょうか?」

 

 山羊顔の悪魔が歯を剥いて笑うと、モモンガ達は面白そうだと話に乗る。皆の承諾を得たウルベルトは、鼻歌交じりで会議テーブルの中央に魔法陣を展開した。テーブル天板に貼り付くようにして出現した青い魔法陣は、出現直後からクルクルと回り出す。

 

「え~、この魔法陣は本来なら見えない仕様です。今見えてるのは、解りやすくするために可視化したんですね。で、この上に幻術による立体映像が出現する……と」

 

 ウルベルトが説明しているが、この魔法はタブラも修得している。モモンガも死霊系魔法で似たものを修得しているが、汎用性はウルベルトらの魔法の方が高かった。

 

「この魔法はねぇ、イイ感じに作った幻影を戦闘エリアに置いて、寄ってくるアホ共を引っかけるのが楽しいんですよね~」

 

 ユグドラシル時代を思い出しているのか、ウルベルトは感慨深そうだ。

 モモンガ達はホッコリしたが、ウルベルトの背後で立つデミウルゴスは「ウルベルト様の武勇伝! 素晴らしい!」と感涙している。今この場に居る(しもべ)は、パンドラズ・アクター、アルベド、デミウルゴス、セバス・チャン、シャルティア、アウラとマーレ、コキュートス、ナーベラル。皆、創造主の後ろに居てデミウルゴスと同様に嬉しそうにしている。

 ギルメンとしては、今回のギルメン会議に都合のついたメンバー……モモンガ、タブラ、ウルベルト、たっち・みー、ペロロンチーノ、茶釜、武人建御雷、弐式炎雷、ぷにっと萌えが揃っており、これだけの異形種らの前で、一人立つこととなったサキュロント氏の心境は先に述べたとおりだ。今も気絶して倒れたい思いで一杯だったが、ここで昏倒したら何をされるかわからない。いや、異形が集う前で意識を手放してなるものかと、必死の思いでウルベルトからの質問に答えている。

 

「じゃあ、大まかに外観から教えて貰えますか?」

 

「し、敷地は円形です! 高い塀に囲まれていて、正面は入口……開放状態でした」

 

 少し噛みながらではあったがサキュロントは答えた。自分の目で見てきたのだから、情報に間違いはない。ただ、相手の機嫌を損ねるわけにいかないので、表情は必要以上に真剣そのもの。額には脂汗が浮いている。対するウルベルトはフンフン頷きながら、机上の幻影を操作した。

 

「円形で外部に高い塀……。こんな感じ?」

 

 土身の敷地が出現し、その周囲を成人男性の身長より高い塀が覆う。敷地には石板型の墓石がポツポツと生えているが、すでに墓石があるのは事前に墓地と聞いていたからだ。

 

「おお、凄ぇ。幻術って、こんな速さで自在に細かいことが……」

 

 サキュロントは姿を変えていく幻影に目を瞠っていたが、自分以外の者から向けられる視線を感じ、慌てて説明を続けた。

 

「うわっと、その塀の高さだと墓石はもっと小さいですね! 具体的には……ナザリック地下大墳墓と同じぐらいの塀です」

 

「ほほう?」

 

 ナザリック地下大墳墓と同じくらいと聞いてウルベルトは興味を持ったらしい。モモンガらも気になったが、まだ作業中なので黙っている。ウルベルトは外壁のデザインをナザリックと同じに変更した。同時に墓石のサイズを縮小して、相対的に塀が高くなるようにする。

 

「こんなところかな? サキュロント君、感想は?」

 

「うう~ん、俺が見たのとかなり近くなりました。けど、現地のは外壁がもう少し見た目がしょぼかったです。何と言うか大雑把で、雑って言うんですかね」

 

 サキュロントは、幻術を維持したまま映像に手を加えていく様に心を奪われているらしい。瞳をキラキラさせながら説明を続けた。ウルベルトも、小手先の幻術であったが相手が感心しているので悪い気はしない。鼻歌交じりになりそうなのを堪えながら、『悪魔キャラ』を維持している。

 そうして暫くサキュロントの説明と、それに応じたウルベルトの幻影操作が続いた後……ついにサキュロントが「ほぼ、こんな感じです!」と太鼓判を押す幻影が完成した。ギルメン達はジッと幻影に見入るが、暫くは誰も声を発しない。最初に口を開いたのは武人建御雷だったが……。

 

「こりゃまた、随分とナザリック地下大墳墓に似てますね」

 

 そう、完成した幻影は、ナザリック地下大墳墓に似ていた。

 

「建やんの言うとおりだよ。微妙に惜しいというか、劣化しているというか……。でも、何だろ? 俺が似たようなことをできるとして、俺がやっても、こんな感じになる……みたいな?」

 

 弐式が首の裏を掻きながら肩をすくめている。彼の意見にはモモンガ達も同感であり、皆が顔を見合わせていた。

 カッツェ平野に出現した謎の墓地。

 見た目がナザリック地下大墳墓に似ており、サキュロントが言うには大きさも同じぐらいであるらしい。しかも、ナザリックのギルメンらが口を揃えて「自分がやっても、こんな感じになるんじゃないか?」と言うのだ。

 

「地下への入口まで備わっているのか。それも見た目が似ているし……」

 

 たっちが困惑した様子で唸るが、その後を継いで口を開いたタブラに皆が注目した。

 

「思うにね、ナザリック地下大墳墓を知っている者が模倣して造ったとして、ユグドラシル時代の情報知識しかないと見たよ。なにしろ、私達が今居る受付棟がないからね」

 

 言われてみればそのとおり、受付棟がない。

 ナザリック地下大墳墓の正門脇の受付棟。これは、転移後世界でタブラが合流した後で建設されたものだ。それが無いのだからカッツェ平野の墳墓は、タブラの言うとおりユグドラシル時代の知識しかない者が造ったものなのだろう。

 と、モモンガ達が結論づけようとしたところで、タブラが人差し指を立てた。

 

「もっとも、今のナザリックを真似ようとしたけど、受付棟は面倒くさくて省略した……ということも考えられるね!」

 

 これでモモンガ達の肩から力が抜けたが、いち早く持ち直したモモンガは今の話もあり得ることだと考えていた。

 

 

(いったい、何が正しいんだろう? それに……)

 

 ナザリック地下大墳墓に似た拠点らしきものが、この転移後世界にある。

 この事実に……新たなギルメンとの合流を結びつけるのは、ただの願望だろうか。

 ウルベルトの幻影がサキュロントの報告内容を再現するたび、あの墳墓がギルド『アインズ・ウール・ゴウン』のギルメンが造ったものであり、そこにギルメンが居れば……と、そうモモンガは思ったのだ。

 

(何かの罠かもしれないが、確かめてみないことには……。やはり現地に行くべきか!)

 

 この時点で、モモンガの中では調査隊の中に自分が組み込まれることは確定事項である。だが、皆に止められることは予想できていた。七〇〇以上の魔法を習得したモモンガは、状況への対応力が高い。戦闘になったとき、モモンガが居ると居ないで大違いと言われるほどだ。つまり、いざというときのためにモモンガは予備戦力とした方がいい。

 

(安全策を採るなら、現地人……八本指あたりから人を出して調査に向かわせる。状況に応じて、ナザリックからも調査隊を出して、状況次第でギルメンを複数向かわせる……だ。それは、わかるんだけど……でもなぁ)

 

 ここ最近、モモンガは新たなギルメンの合流に立ち会えていなかった。

 子供っぽい我が儘だが、次にギルメンと合流する機会があれば、自分もそこに居たいではないか。

 

(よし! ギルメンで調査隊を編成だ! なぁに、五人か六人居れば大抵のことは何とかなるし、そこに俺も加わる! 説得の理屈を今すぐ考えて……ええっ?)

 

 頭の中で企みを構築していたモモンガであったが、右斜め前の一番遠くで座るぷにっと萌え……その彼が、闇の奥で眼を光らせているのを見て戸惑う。よく知らない者には解らないだろうが、あれはニヤニヤしている顔つきだ。

 

(まずい! 考えを読まれた! 俺、そんな解りやすい顔してたっけ!? 今、骸骨顔なんですけどぉ!?)

 

 硬直したまま狼狽える。人化していたとしたら、大量に汗を流していたことだろう。

 と、ここで精神の安定化が発生した。

 すうっと頭の冷えたモモンガの聴覚に、ギルメン達の声が届く。

 

「姉ちゃん、モモンガさんが精神安定化したみたい」

 

「う~ん、どうしたのかしらね? 何か悪いことを考えてて、タブラさんか萌えさんにバレたとか?」

 

「私じゃあないねぇ。ウルベルトさんはサキュロントと楽しくやってるし。ぷにっと萌えさんが妥当な線かな? まあ、調査隊を組むときに自分も行きたいとか。そんな風にモモンガさんは考えてたと思うよ」

 

 すべてお見通しだ。

 タブラのコメントを聞いたモモンガは、肩を落とした。

 

(俺って、そんなに解りやすいかなぁ!?)

 

 決まった、これで留守番決定。

 ……どうにかナザリックを抜け出す算段を立てるか。しかし、方法次第ではギルド長として身勝手が過ぎるということになるし、何か穏便に外に出る手立てを……。

 モモンガが思考の迷路にはまりかけたとき、ぷにっと萌えが挙手し、その場に居た者達は注目する。

 

「提案。ひととおり話は聞けたようだし、サキュロントには別室で待機して貰うのがいいと思います。ここからは内々の込み入った話になりますので」

 

 モモンガ達から異議は出ない。

 内々の込み入った話というのも、まあわかる話だ。後は謎の墳墓をどうするかの話になるのだから。

 

「それでは、失礼しますぅ……」

 

 見るからに血色の良くなったサキュロントが退室していく。その後ろ姿を見送りながら、ウルベルトが呟いた。

 

「存外、役に立つものですねぇ……」

 

 裏組織の八本指を傘下に組み込んで暫くたつが、各方面で成果があがっている。

 やはり、人類社会の裏で動くとなると、人間で構成された組織というのは有効だ。ナザリックの(しもべ)の至らない部分……必要以上の忠誠心から来る視野の狭さや融通のきかなさ。それらがないのは大いに評価できる。

 今回、役に立ってくれたサキュロントには、何か魔法のアイテムでも贈るべきだろう。そうギルメン間で話がまとまると、モモンガは紅茶と茶菓子でも出しておくよう(たっちに一声かけた上で)セバスに指示した。

 

「アインズ様の御命令です。別室で待機中のサキュロント様に、紅茶と何か茶菓子を用意しなさい」 

 

 通路に出たセバスが一般メイドに指示しているのを聞きながら、ぷにっと萌えが更に挙手をする。

 

「次の話に移るとしましょう。と言っても謎の墳墓……仮称・偽ナザリックとでもしましょうか。偽ナザリックの調査関連ですが……。では、ギルド長……どうぞ」

 

「あ、はい」

 

 話を振られたモモンガであったが、ぷにっと萌えが主導権を回してくれたことは勘づいていた。モモンガを立ててくれているのだ。しかし、何を話せば良いのだろうか。

 

(え~と、え~と。そうだ! 調査隊を送り込む前に、現地について考察だ!)

 

 自分には皆目見当がつかないが、ギルメンがこれだけ居るのだから何かしらのアイデアは出るだろう。

 

(やはり、頼るべきはギルメン!)

 

 暗い眼窩の奥で紅点を光らせたモモンガは、努めて司会っぽく喋りだした。

 

「偽ナザリックでしたか、当該墳墓へ調査隊を出す前に、何かしら思いついたことがある方は居ますか?」

 

 この問いかけにギルメンらは顔を見合わせたが、それらの顔が、ゆっくりとモモンガの方を向く。

 

「「「「「「先にギルド長の見解を聞きたいです!」」」」」」

 

「ぐうっ!」

 

 瞬時に精神が安定化したが、モモンガはありもしない心臓がバクバクいっているのを感じていた。

 

(ぐぐぐ、俺の、俺の見解かぁ!)

 

 モモンガ……元の現実(リアル)での鈴木悟は、交渉やプレゼンをそれほど苦としていない。充分に資料等を集めて対応するのが常だったからだ。準備期間が充分にあれば大丈夫。その一方で、突発的に意見を求められると狼狽えてしまうのが弱点ではある。

 

(うおおおおお! 回れ! 俺の脳細胞! いや、今は空っぽだけど!)

 

 アンデッドジョークはともかくとして、モモンガは考えてみた。

 偽ナザリック。自分だったら、どう造っただろうか。スケルトンなどアンデッドを召喚して作業させるか。いや、上級のアンデッドならともかく、数を出せる低レベルのアンデッドでは細かい作業は無理だろう。本物より雑と評される、偽ナザリックよりも酷くなるのは目に見えている。

 

(アウラが、テイムとかできたよな? 彼女が支配できる人型のモンスターなら、あるいは……)

 

 悪くないアイデアだ。しかし、これは自分と共にアウラが居ることが前提となる。では、自分一人でやるとしたらどうだろう。

 

(俺、不器用だからな~)

 

 ギルメン達が引退した後、彼らの姿を模したアヴァターラを製作したが、お世辞にも精巧な出来とは言い難い。彼がやっても、現にある偽ナザリック程の完成度にはならないだろう。加えて言えば、疲れ知らずのアンデッド体とはいえ、一人で土木建築などしたくはなかった。

 

(楽をしたいとなると、やはり魔法か……)

 

 修得した魔法で思い当たるのは<要塞創造(クリエイト・フォートレス)>だ。いずれ消えるにしても建屋建築魔法の部類と考えていいだろう。だが、あれで出来上がるのは要塞だけだ。デザインを変えて墳墓を出そう……というのは不可能である。

 モモンガは渋い顔になった。

 

(何だよ……結局、俺だと無理なんじゃないかぁ)

 

 今のところ解ったことは、発見された偽ナザリック、あるいは同水準の物を自分一人で造りあげるのは無理ということだ。

 

(自力は駄目。他力を、あてにできないとして魔法も駄目か。そうなるとアイテム……)

 

 ユグドラシルでは魔法を習得できない者のための救済措置、あるいはお遊び要素として多種多様なアイテムが流通していた。中には高い値段に見合った物凄いアイテムもあったが……。

 

(末期のお遊びアイテムで確か……)

 

 

◇◇◇◇

 

 

「インスタント・ギルドホーム?」

 

 珍妙なネーミングに建御雷が首を傾げた。どうやら知らないらしい。

 モモンガは、ギルメンらに聞き取りをしたが、引退せずアバターを残していたヘロヘロは知っていた様子で、他で知っているのは弐式だけのようだ。

 

「先程、幻影で見た低精度で墳墓を作成できるアイテムと言えば、俺の知ってる限りではインスタント・ギルドホームです。皆さんが引退した後、ユグドラシル末期に出たアイテムですから、知らないのも無理はありません」

 

 アイテムの主旨としては、ギルドホームを持たない者が『ごっこ遊び』的に使用するというものだ。

 

「低レベルプレイヤーなら頑張れば、中レベルプレイヤーなら気が向けば手を出せる。そんな価格帯のアイテムでして……」

 

 ある程度の地上構造物と、地下一層の迷宮施設を造れる。ただし、エディット機能は低かった。ユグドラシル時代の性能のままで運用……普段使いしようとすると、相当な手入れや増設が必要なはずで……。

 と、ここまで聞いた弐式炎雷が肩をすくめた。

 

「早い話がギルドホーム気分を味わうためのアイテムですか。皆が買える程度のレアリティなら、当時のユグドラシルでは他のプレイヤーに狙われることは……いや、PKには目をつけられそう? ともかく、俺なら要らないなぁ……」

 

 この弐式の見解に、ペロロンチーノやウルベルトなども頷いている。

 情報提供をしたモモンガも同意見だ。

 

「俺達なら、すでにナザリック地下大墳墓があるわけですしね。しかし、クラフト系生産職レベルが高い者が扱ったり、既存のアイテムを増設すると、幾つかの能力が向上するそうなんです。階層が増えるところまではいかなかったようですが……」

 

「生産職でレベルが高い者……ねぇ」

 

 茶釜が呟くように言う。

 この時、モモンガを含めたギルメン全員が思い浮かべていたのは、異世界転移の直前、弐式のメールで集まった者達……『モモンガさんに対して申し訳ないギルメンの集い』に居たギルメンのことだ。あの時に居た二十数名のうち十二名はモモンガと合流済みで、残りのメンバーで名前が分かっているのは、ホワイトブリム、源次郎、あまのまひとつ、死獣天朱雀の四名。このうち、生産職レベルが高い者と言えば……。

 

「鍛冶士の、あまのまひとつさんか……」

 

 建御雷が下顎を手で撫でながら唸った。

 これを聞いた茶釜が「確かに条件に合うわねぇ。あの人なら、この手のネタアイテムに手を出しそうだしぃ」と懐かしみ、モモンガ達は顔を見合わせて苦笑する。各席の後ろで立つNPC達は知らないだろうが、ユグドラシルにおいてパワードスーツという装着型のアイテムがあった。後発プレイヤーの戦闘力を底上げするために登場したものだが、飛行能力もあるため、他の空戦ゲームで腕に覚えのあるあまのまひとつが購入。意気揚々と、よりにもよってペロロンチーノに模擬戦を申し込み、完膚なきまでに叩きのめされる結果となった。以後、二度と、そのパワードスーツは使用されることがなかったという。

 一連の推察や過去の記憶から、偽ナザリックにギルメンが居るとしたら、あまのまひとつの可能性が高いだろう。そこを踏まえた上で以後の議論は進んで行った。

 

「では、あまのまひとつさんだったら、まずは交渉。敵性勢力の罠だったら、やっぱり交渉して……友好的でなかったら、ある程度情報を掴んで撤退ですね。ナザリックから調査隊を派遣するとして……派遣メンバーは誰にしましょうか? (しもべ)をつけるのもありだと思いますが」

 

 こうモモンガが言ったところ、頭の回転が速いデミウルゴスが挙手をした。

 

「偵察ということであれば、まずは(しもべ)のみで出すべきでしょう」

 

 これはモモンガのみならず、そろそろ(しもべ)との付き合いに慣れてきたギルメン達にしてみれば「ああ、そう言うよね」という感想があるのみ。心配してくれるのは嬉しいが、ともかくギルメン同士で相談して、今後の行動や方針を決めるだけのことだ。

 モモンガは「いっそNPCを置いて行く……は駄目なんだろうな~」と考えていたが、ぷにっと萌えが挙手しているので発言を許可したところ、彼は事務的な口調で語っている。

 

「デミウルゴス。君ら(しもべ)達の意見はわかるけどね。今回の案件は、大変なことに『偽ナザリック』だ。未合流ギルメンの仕業なら、私達が出向くのが手っ取り早い。何らかの罠であって、交戦するにしてもね。そうそう、未知の敵対勢力が相手かもしれないけれど、ナザリックのギルメンが数人居れば、撤退するぐらいは何とかなるはずだよ。モモンガさんが言った(しもべ)を幾人か同行させるというのは、私も賛成だけど……。まあ何だ、私達、ギルメンからの譲歩とでも思って貰おうかな?」

 

 これにはデミウルゴスだけでなく、「至高の御方が、我ら(しもべ)に対して譲歩などと!」と(しもべ)達がざわめいた。だが、ぷにっと萌えは右手を顔横に挙げることでNPC達を制している。

 

「ちょっと、いいですか?」

 

 ここでモモンガが挙手をした。今は調査隊を出す話をしているが、ぷにっと萌えには調査隊の編成について案があるのでは……と、そう考えたのである。

 

「ぷにっと萌えさん。ひょっとして調査隊のメンバー構成に関して、もう考えてあったりします?」

 

 モモンガの声が少し弾んでいるのは、調査隊に選抜されたいと考えているからだ。そのことを察しているぷにっと萌えは頷きながら答えた。

 

「まあね! で、さっきはああいう話をしたけれど、俺としては高い確率で偽ナザリックにギルメン……あまのまひとつさんが居ると思うんです。……タブラさんやウルベルトさんも確信めいたものがあるんじゃないかな?」

 

 この言葉に場は大きくざわめく。

 その中で、ほぼ対面で座るウルベルトとタブラが困ったように視線を交わし、同時に肩をすくめていた。

 

「やれやれ、ナザリックの中では一応知恵者ぶってるつもりなんですけど、ぷにっと萌えさんには敵いませんねぇ。どうです? タブラさん?」

 

 山羊悪魔がカラカラ笑うと、タブラも愉快そうに笑う。

 

「まあまあ、適材適所。得意分野の違いですよ。今回は記憶から必要な情報を引き出すにあたって、萌えさんの検索力が高かった感じですかね」

 

 ぷにっと萌えの発言にウルベルトらが同調したことで、場の空気が調査隊メンバーについての見解を聞く流れになった。モモンガは、ぷにっと萌えに対して発表を促す。

 

「ぷにっと萌えさん、調査隊のメンバー案。それを発表して貰えますか?」

 

「わかりました。この場に居るメンバーで……ということでしたら。まあ、今週の留守当番の私とペロロンチーノさんは外れますね」

 

「あ、そうか! 俺、留守当番の週だったっけ」 

 

 ペロロンチーノが声をあげる。

 彼はナザリック地下大墳墓に残るつもりのようだ。行きたいのであれば抗議しただろうし、自分が必要なら声がかかるだろう……ぐらいの構えでいるらしい。この反応を見た、ぷにっと萌えは「それで調査隊ですけど、まずは言うだけ言ってみましょうか。その後で相談して調整する感じで……」と、彼が思うところの調査隊メンバーを挙げていく。

 

「たっち・みーさん、タブラさん、ぶくぶく茶釜さん、弐式炎雷さん。今は居ないけれど、やまいこさんにも頼みたいかな? そして……モモンガさん」

 

「俺っ!?」

 

 最後に名前が出たので、モモンガは俯き気味だった顔を跳ね上げた。ぷにっと萌えは、先程見たようにニヤニヤしている。

 

「ギルメン合流となるかもだし、今回は行ってみたかったんでしょ? 我慢ばかりさせているとストレスが溜まりますからね。ギルド長の発狂ゲージが溜まる事態は避けたいんですよ。ま、モモンガさんの対応力を当てにしているのもありますけど」

 

「ぷにっと萌えさん……」

 

 気を遣って貰ったことでモモンガは感動した。そして、元の現実(リアル)でのユグドラシルで、もはやモモンガしか居なくなったナザリック地下大墳墓。そこで、一人ギルドホームを維持するべく、頑張っていた自分を思い出す。あの頃のことを思えば、ギルメン達が居る今のなんと幸せなことか。

 

(くほおおお。あ、精神が安定しちゃった……)

 

 モモンガはスンとなったが、そんな彼を見て場が良い雰囲気になったのは確かであり、調査隊メンバーに名前の挙がらなかったウルベルトや建御雷は特に文句を言わなかった。選抜メンバーが攻守等でバランスが良いのもあるだろう。探索役兼前衛で弐式、前衛のメインでたっち、タンク役で茶釜、魔法火力でタブラ、回復役でやまいこ、後衛の要としてモモンガ。叩いて良し守って良し、実にバランスが良い。

 ギルメン達からすれば、このメンバーだけで良いんじゃないかと思うところだが、今回はここに(しもべ)……NPCを加えることとなる。ウルベルトなど、残留ギルメンにしてみれば「今回は留守番か~」程度の感覚だったが、(しもべ)……特に創造主が調査隊に入っている者からすれば死活問題だ。なんとしても同行したい。ある種、殺気めいた雰囲気を噴出するアルベド達を見やりながら、ぷにっと萌えはギルメンらに「続けて随行する(しもべ)について、案を述べてもよろしい?」と確認して、承諾を得たので(しもべ)の名を挙げていく。

 

「モモンガさんとタブラさんの護衛役でアルベド。パンドラは能力が便利すぎるから、ナザリック防衛のために残留」

 

 タブラの後ろで「よっしゃぁ!」と小さく聞こえたのでモモンガはアルベドを見たが、どうやら口で言っただけらしく、両手を前にして清楚な雰囲気で立つ姿に変わりはなかった。一方、創造主への同行とならなかったパンドラズ・アクターは軽く胸を反らしただけだったが、これはすぐ後ろでのことなのでモモンガにも感じ取れている。

 

「すまんな、パンドラ。今回は留守を頼む」

 

Wenn es meines Gottes Wille(我が神の望みとあらば)!」

 

 禁則事項だと言ってるにもかかわらず、パンドラは声高に叫んだ。この行動は通常、モモンガの羞恥心を激しく刺激するため、目の当たりにしたモモンガは悶絶するか異形種化していれば精神が安定化するほどである。しかし、この時のモモンガは頷くだけで特に狼狽えたりはしなかった。パンドラを置いて行くことに対して思うところがあったため、甘んじて受け止めた結果であった。

 この光景を、ぷにっと萌えは静かに見つめている。

 

「……」

 

 今生の別れじゃあるまいし。そう思いながら、これはゲームではない本物の……現実世界でのことだ。今生の別れになることもあるだろうとも考えていた。主従の間柄、関係性を慮るのであれば、誰も彼も参加させた方が良いのではないだろうか。そこまで考えたところで、ぷにっと萌えは「否」と判断した。

 

(お祭り気分だったのは認めるけど、俺は冷静だ。楽しい中にも必勝のプランあり! 元の現実(リアル)……ユグドラシルで軍師とか言っておだてられてた頃を思い出せ。やることは何も変わっちゃいない。楽しんだ上で勝つべくして勝つ……だ)

 

 今回やるのは調査派遣。強行偵察でも攻撃部隊投入でもない。

 調べるだけ調べて帰る。調査先でギルメンが居たら、どうにかして合流するか、やはり情報だけ持ち帰る。危ないと思ったら即撤退。それだけのことだ。

 

(たっちさんのセバスは近接戦力が増える点と、精神的に不安定なたっちさんのお目付役で参加。茶釜さんのアウラとマーレは残留。モンスターを多数動員指揮できる能力と大規模魔法を使える点は、今回は地下に潜るだろうからあまり有効じゃないし。ナザリック防衛に回って貰おう。弐式炎雷さんは……ナーベラルを連れて行きたがってる風だし、ナーベラルは参加……と。同じ戦闘メイド(プレアデス)のナーベラルが出るのだから、やまいこさんのユリも参加……。う~ん、やっぱり人に配慮しちゃうんだな~。ゲームの時の方が楽だったわ。当たり前か……)

 

 軍師のどうのと言われたところで、元の現実(リアル)で職業軍人だったわけではない。人情を排しきれないことを口惜しく感じながら、それでもぷにっと萌えは考え続けた。

 

(冷静に、冷静に……。ナーベラルやユリを連れて行って大丈夫か? ギルメンと比べてレベル差が大きいのが不安だな。でも、NPCを盾代わりにした撤退を考慮するなら、断然連れて行くべきだ。そんなこと、弐式さん達が了承するわけないか……。じゃあ、やっぱりアウラを参加させて多数のモンスターを盾にして……駄目だな、地下の通路の広さによっては多勢が邪魔になる。ダンジョンに潜るとき、数人編成で行くのが何故望ましいかを思い出せ……) 

 

 ぷにっと萌えとしては長考、しかし、モモンガ達からすれば数秒ほどの瞑目の後、ぷにっと萌えは随行するNPCを発表するのだった。

 




 全国のサキュロントファンのため、サキュロントをクローズアップ。
 そのうち、他の六腕メンバーも出したいですね。
 対して蒼の薔薇は……今度のリクエスト分で出ると思います。

 今回の捏造アイテムは、インスタント・ギルドホーム。
 シルバニアとか鬼太郎ハウスみたいなオモチャ感覚で扱えます。
 ゲームのラクガキ王国みたいに、プレイヤーの腕によっては大変なことになるとか、そんな感じ。
 出した理由は……何となく思いついたから!

 ぷにっと萌えさんによる調査隊メンバーの選抜について。
 早い話が書いてる私の都合優先です。
 最初、特典SSのナザリック攻略で編成されたモモンガチームを再現しようかと思ったのですが、キャラの出番調整でああなりました。この辺でユリとナーベラルに行数割きたいな~と。おっとセバスも。
 そのせいで、ぷにっと萌えさんが悩み多き感じに。

 誤字修正、毎度ありがとうございます。


<第126話のボツ原稿>

 フォーサイトは冒険者ではない。請負人(ワーカー)と呼ばれる、冒険者組合に属さず、冒険者組合が取り扱わないような依頼を請け負う者達だ。かつて茶釜姉弟は、転移後世界に来た頃にバハルス帝国で請負人(ワーカー)らの世話になった。その縁あってナザリックで接待ダンジョンアタックをさせ、以後は親しい関係を維持している。先程名前の出た獣王メコン川などは、フォーサイトメンバーである魔法詠唱者(マジックキャスター)の少女、アルシェ・イーブ・リイル・フルトと仲良くしており、時折ではあるがフォーサイトに合流して冒険に出かけていた。
「ふむ……」
 モモンガは一声唸り、ナザリックの現状を思い返す。
(今週、ナザリックでの留守当番はウルベルトさんと……たっちさんか)
 ギルメンの合流者が増えたことでギルド『アインズ・ウール・ゴウン』のメンバーも数を増している。人数的に余裕ができたため、ナザリックの留守当番は二名制になっていた。今週の当番はモモンガが記憶検索したとおり、ウルベルト・アレイン・オードルとたっち・みー。魔法職最強と近接最強のコンビであるから戦力的に問題ないが、二人の仲の悪さは大問題だ。ぷにっと萌えとタブラ・スマラグディナ監修による当番表は、当番リーダーとサブのローテーション表で構成されており、なるべくギルメンの組合わせが重複しないようになっている。言い換えれば、仲の良し悪しにかかわらず、コンビを組むことがあるということだ。
(で、今週の組み合わせなわけだが……。そんなに心配しなくてもいいかな~?)
 仲が悪いとはいえ、たっち達も良い歳をした社会人。ゲーム時代ならともかく、この現状で感情を優先したりはしないだろう。そのはずだ。
(たっちさんが鬱状態になっても、ウルベルトさんなら対処慣れしてるはずだしぃ~)
 モモンガの脳内でウルベルトが「慣れるとか嫌なこと言わないでくれます? まあ、いいですけど」とぼやいた気がするが、モモンガは山羊悪魔への信頼で包み隠し、茶釜を見返した。
「いいですね! 俺も行きますよ! ただ、ギルメンの外出となると……活動人員と行き先、行動目的と大まかな外出期間について留守当番に申告が必要ですが……」
 誰と誰が、どこで何の目的で行動し、期間はいつ頃になるか。これを取り纏めて申告するのが現状のナザリック・ルールである。目的の危険度によっては、(しもべ)達を護衛として引き連れなければならない。
「そう、それよね! ええと……」
 まずは、活動人員だが、茶釜によると今回参加するのは、モモンガ、茶釜、弐式炎雷。同行する(しもべ)は、ニンジャ装備のナーベラル・ガンマ。主従合わせて計四名だ。茶釜の制作NPCであるアウラとマーレの姉弟は同行しないが、この不参加はアウラ達が提案したことによる。茶釜が言うには、モモンガとお出かけする茶釜に気をつかったらしい。
「自分達に構ってる時間をモモンガさんとの時間に回して欲しい……だって。良い子達すぎて泣いちゃう! 今度、い~っぱい構ってあげなくちゃね!」
「ですね!」
 前衛として茶釜と弐式。弐式は探索役が得意で、後衛としては魔法職のモモンガとナーベラルが居る。回復役が居ないのでポーション頼りとなるものの、攻防バランスの良いパーティーとなるようだ。
 一方、請負人(ワーカー)のフォーサイトは双剣使いのヘッケラン・ターマイト、僧侶のロバーデイク・ゴルトロン、野伏(レンジャー)イミーナ、魔法詠唱者(マジックキャスター)のアルシェからなる四人組。モモンガが把握しているギルメンの行動予定では獣王メコン川が同行中のはずだ。
「行動目的は、新発見された遺跡の調査ね!」
 バハルス帝国の南方、カッツェ平野に突如として都市型の遺跡が出現したらしい。その調査をフォーサイトが請け負ったので、メコン川経由で茶釜に情報が入ったとのこと。
 カッツェ平野は濃い霧に覆われた、アンデッドが徘徊する危険地帯だ。数百年前のものと思われる建築物の残骸や尖塔なども存在が確認されている。
「発見された……って、もう知られている建築物とかじゃなくてですか?」
「そうなの。装備品回収が目的で平野入りした請負人(ワーカー)が、今まで何も無いと思われていた地点で目撃したんだって!」
 今まで何も無かった地点で、突如出現した遺跡。
 妙に身に覚えのあるモモンガは眉間に皺を寄せた。
「俺とヘロヘロさんがナザリック地下大墳墓ごと異世界転移したのと似ている……かな?」
 そう決めつけるのは早計だが、似ているのは確かだ。
 不意に、自分が居るのが日中のカルネ村ではなく、暗くジメジメしたダンジョンの中……であるような感覚になる。ほんの一瞬の錯覚であったが、モモンガは背筋に痺れを感じた。
(うおー、何か凄く楽しい気分になってきた! 冒険の予感だよ! これ!)
 ユグドラシル時代のゲーマー気分になったモモンガは、一気に上機嫌となる。
 お気楽な思考であるが、これは自分の他にギルメンが多く居ることが大きい。一〇〇レベルプレイヤーが何人も居るのは心強いし、何より困ったときには友人に相談すれば良いという状況がモモンガの肩を軽くしていた。
 もしも……もしもこれが、自分一人で異世界転移をしていたら、どうなっていたか。
 モモンガは、微塵も楽しいと思わなかっただろう。詳細のハッキリしない厄介ごとが生じたと煩わしく思い、自分だけで判断して行動しなければならないことにストレスを感じたはずだ。一人で判断を背負うのがストレスだとして、ナザリック地下大墳墓がギルメン無しのNPCだけの状態であればどうなったか。ひょっとすると腹を割った相談などできず、計り知れないほどのストレス状態になったのではないか。
(ははは、いやいや! 駄目な方に考えすぎだって! ナザリックにはアルベドやデミウルゴス、パンドラズ・アクターという知恵者が居る。彼らと充分に相談して、シャルティア達と力を合わせれば! 立ち回り次第で大抵のことは何とかなるし、俺だって気楽でいられるはずさ! ナザリックの支配者、バンザーイ! だよなぁ? どこだか別世界の俺!)
 違う世界線の自分に脳内で確認したモモンガは、しょうもないことを考えたもんだぜ! と軽く頭を振ってから思考を元に戻した。
 さて、冷静になった頭で考え直すと、正直言って、かなり……とまでは行かないものの、そこそこの大ごとである。
 そこに存在しなかったはずの遺跡。何があるのか、あるいは何が居るのか。
 単なる廃棄都市の可能性もあるが、場合によると、一〇〇レベルプレイヤーが十人くらい、同じく一〇〇レベルNPC十数体とで住まう大要塞かもしれないではないか。そんなところに、モモンガ達が数人でノコノコ出向いて良いわけがない。
 悪い方向に考えすぎと言って捨てるほど、モモンガは、その遺跡とナザリック地下大墳墓が似た状況であることを忘れていなかった。
(常に最悪の状況を想定する! そうですよね! ぷにっと萌えさん!)
 この転移後世界で合流したギルメンの名を思い浮かべつつ、モモンガは茶釜に言う。
「めっちゃくそ楽しそうな案件ですが、これってギルメン会議しなきゃいけないレベルだと思うんです」
「うっ! あ~……そうよね~」
 茶釜は家の壁から離れて直立すると、向かって左側面から粘体を伸ばして頭……頭頂部を掻いた。どうも様子がおかしい。気になったので聞いてみると、モモンガに言われるまでギルメン会議にかける必要性に気づいていなかったそうだ。
「メコン川さんから<伝言(メッセージ)>で聞いて、ダーリンと遊びに行くネタができた~……と思ったら、こっちに来ちゃってて……てへっ!」
 気まずくもあり、照れ臭くて恥ずかしい。
 そんなピンクの肉棒の姿に、モモンガは胸がトゥンクと高鳴る。お誘いネタを思いつくなり会いに来てくれたというのは嬉しい。茶釜さんのこと、マジで好きだな~……と思ったところで、視覚から脳に流れる『ピンクの肉棒の姿』が再認識され、モモンガは少しだけ我に返った。
「じゃ、じゃあ、まずはタブラさんに連絡してみますか。……<伝言(メッセージ)>だけで話が終わるかもしれませんけどね。」


◇◇◇◇


 終わるわけがなかった。
 霧に包まれた平野にて、突如出現した遺跡。
 そんなものがギルメンの心に突き刺さらないわけがない。
 ブルー・プラネットやペロロンチーノなど、刺さらないギルメンも一部居るが、たっちや建御雷など、円卓に集まった多くのギルメンがノリノリだ。
 まずは偵察という名の様子見をして、大したことなさそうなら調査に踏み切り、危険だと判断したら一度ナザリックに帰って以後の対応を再検討する。この方針で決まったが、(しもべ)だけで突っ込ませるのは却下された。
 理由は、面白くないから。
 かつてのユグドラシル時代、モモンガ達は如何なる新挑戦するダンジョンにも自らで突入していた。NPC達をナザリックから出せない仕様だったこともあるが、とにかく自力だ。あくまでゲームの話であり、全滅したとしてもゲーム内で不利益を被るだけで、現実に死んだりすることはなかったわけだが……その方針や気質は、転移後世界での『現実』であっても変わりはない。
 護衛目的で一定数の(しもべ)を連れて行くとしても、まずは自分達で乗り込むのだ。
 そして、ナザリックとして乗り込むにあたり、同時期に遺跡入りするフォーサイトが邪魔と言えば邪魔だが、妨害工作などして彼らを追い返すことはしないと決定されている。なぜなら、すでにフォーサイトに同伴することとなっているメコン川が、「い、今更キャンセルとか嫌ですよ! 俺とは別でギルメンチームを組めばいいじゃないですか。危ないか様子が変だと思ったら撤退。それでいいんでしょう? 周囲に姿を隠した影の悪魔(シャドウ・デーモン)を配置すれば、撤退時の足止めになるし。それでいいじゃないですか!」と、白獅子のたてがみを振りつつ抗弁し、ニヤニヤ顔で聞いていたモモンガ以下のギルメンが受け入れたのである。
 そうして議論が続き、最終的にメコン川の提示した方針が採用された。いくつか修正が入ったが、基本的に姿を隠せる(しもべ)で遺跡を包囲するというものだ。中に入ったギルメンからの定時連絡が途絶え、一定時間が経過したらナザリック待機のギルメンに報告が行き、現場では全(しもべ)が遺跡に突っ込むことになる。中のギルメンは、その混乱に乗じて撤退するのだ。
 ここまで決まると、後は偵察チームのメンバー選抜だが、フォーサイトに同行するメコン川は外すとして誰を選ぶべきか。その検討が始まったが、モモンガと茶釜、それに弐式のメンバー入りが早々と確定していた。元々、そうする予定だったし、魔法詠唱者(マジックキャスター)、盾役、探索役でバランスが良かったからだ。ここに前衛を一人か二人、後衛として魔法職か回復役が欲しいところである。
「じゃあ、ボクが参加するね! 盾役も回復役もできるから頑張るよーっ!」
 モモンガチームへの参加が確定し、半魔巨人(ネフィリム)……やまいこが盛り上がっている。今居るギルメンでは最も回復役に向いているのだから、これに文句を言う者は居なかった。これで四人目、あと二人ぐらい欲しいが……。
(茶釜さんと弐式さんと、やまいこさん。そして(モモンガ)か。う~ん、ここは前衛を増やすべきか、後衛を増やすべきか……)
 前衛としては、たっち、武人建御雷、ヘロヘロが居る。後衛の魔法職だと、タブラ・スマラグディナかウルベルト。
 ギルメン同士で相談したところ、たっちとウルベルトが脱落した。
 二人は、今週のナザリック留守当番なのだ。
「当番ですしね、仕方がないですね……」
「何も、こんな時まで当番に拘らなくても……」
 純銀の騎士が残念そうに呟き、山羊悪魔がブツブツと文句を言っている。
 当番業務が大事なのもあるが、この二人が揃ってナザリックに地下大墳墓に残っているというのは、外出するギルメンにとっては大きな安心材料だ。偵察の結果、全力出撃することもあるだろうし、二人には体力等を温存していて欲しい。
「全力出撃時の要と言うなら、モモンガさんにも残って貰いたいんですけどね~」
 右斜め方向から、ぷにっと萌えの視線が飛んでくる。この視線を受けたモモンガは「そうですね」とは言わなかった。ギルド長席で座したまま背筋を後ろに引いている。ぷにっと萌えの指摘に納得できるが、自分だって外に出たい。そう、茶釜と外で遊びたいのである。
 数秒間の沈黙。
 ぷにっと萌えは、それ以上のことは言わなかった。一応、言うだけ言ってみた……そういった印象を受けたモモンガは小首を傾げつつであるが議論を再開。偵察チームに前衛向きの誰を組み込むかが話し合われている。一方、ぷにっと萌えは、顔を守るように上下から生えている緑の葉……その隙間の奥で目を細めた。
(しかたがないか。あまり役職や立ち位置に押し込めてもストレスが溜まるだけだし。それに……モモンガさんを偵察隊に組み込むのは充分に『あり』だ。まず、モモンガさんの戦闘スキルの高さと修得魔法数から対応能力が高く、偵察隊の生還率が高くなる。それに、『遺跡』に居る何かと交渉事になるかもしれない。そうなったらモモンガさんが居ると居ないでは大違いだ。モモンガさんは自身の交渉力を過小評価してるけど、実は凄い。相手方と交渉になったら、そうそう悪いことにならないと思うんだけどな~)
 ぷにっと萌えが思うに、モモンガの交渉力の源は、センスであり誠意であり培った営業スキル。更に言えば(ガチャ引きを除く)強運だ。
 彼を相手に交渉をすると、身構えている相手ほどモモンガのペースに巻き込まれていく。初見の相手なら、なおさらだろう。
(モモンガさんを良く知らない状態で駆け引きすると、「今のは上手く行っただろう」や「これが今できる最良の判断だ」といった具合に、良い感じの落としどころを自分で考えちゃう。怖いことに、その落としどころがモモンガさんの望む形か、それ以上になってるのを気づけないんだ。しかも、その結果からモモンガさんの評価を上げてしまう。だから、次に会ったときに余計身構えちゃって……)
 相手にとって悪循環の始まりである。
 では、先程……モモンガの『身内』であるぷにっと萌えは、どうだったろうか。
 モモンガの希望どおりにした場合のメリットに注目していた。モモンガを偵察隊に組み込むことで隊の生還率が上昇すること。交渉事では、モモンガの存在が有利に働くだろうこと。
(デメリットは、決戦時に居て欲しいモモンガさんを偵察隊に出すこと。彼を危険にさらすこと。……そこに目を(つむ)って、)



 ……以上、第126話のボツ原稿となります。
 モモンガ&茶釜リクの本文に入れようとしたのですが、リクのお題がかすんじゃうので、分離しました。実際の127話の展開と違っているのは、126話を書き終えた後で書き直したから。
 長文のボツ原稿で、なんかもったいなかったので載せてみました。
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