オーバーロード ~集う至高の御方~   作:辰の巣はせが

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第129話

 偽ナザリック調査隊、偽ナザリックに無事到着。

 <転移門(ゲート)>で移動した場所より歩くこと約二百メートル。短い移動距離であったが、一行は現地モンスターと遭遇しなかった。これは運ではなく、弐式炎雷が魔物除けのアイテムを使用したことによる。本来、カッツェ平野で出没するモンスター程度はモモンガ達の敵ではないが、弐式が「戦闘しつつ近づくと、偽ナザリック側に警戒されるかもですし。なにより、ほとんど現地材料だけで作った魔物除けを試したい!」と申し出たことで、モモンガ達が了承したのだ。

 

「そのお香みたいなの、アンデッドにも効果が良好ですね~。現地素材なのに」

 

 モモンガが感心しつつ言うと、弐式は胸をそらせる。

 

「忌避剤に聖水を混ぜ込んでありましてね。ンフィーレア君に頼んで調合してもらったんですよ。あ、素材採取は俺がやって、聖水は一番安いのを買ったものですね。低品質の割にお高かったかな? でもって、ンフィーレア君への依頼料は俺の財布から出しました!」

 

 なお、現地素材だけではパワー不足……なので、ナザリック側で強化処理をする必要があった。それとて処理する者のMPがほんの少し消費されるだけだから、強化処理に関して資材持ち出し及び出費は実質ゼロとなる。

 

「ちなみに、強化処理してくれたのはタブラさん」

 

 弐式が「ハイ、こちら!」と、身振り手振りを交えて名前を出したことでタブラが会話に入ってくる。

 

「フフフ、面白い試みだったから。今回、ロハで協力したんだよ」

 

 そうした雑談をしている間も偽ナザリックからは何の反応もなかったので、モモンガ達は顔を見合わせた。門前で十人からが駄弁っているのだから、偽ナザリック側から何かしら接触があるかと考えたのだが……。

 

「無視されているのか、気がついていないのか……」

 

 たっちが下顎に手を当て、フルフェイスのヘルムを傾けている。今は集合状態なので特に隊列は組んでおらず、各ギルメンの傍らでは各々の製作NPCが待機していた。たっちの制作NPCであるセバス・チャンは、たっちの左後方で立ち、正面の偽ナザリックに注意を向けながら口を開く。

 

「たっち・みー様。ここは私が訪問して、この墓地の主と話して来るというのはいかがでしょう?」

 

 白髪白髭の老執事が申し出たが、たっちは笑って首を振った。

 

「なぁに、やりようはいくらでもあるさ。ことの最初から敵対してたら、大昔の警察ぅ……組織みたいに玄関扉を蹴り飛ばして『大阪や! はよ開けんかいゴルァ!!』みたいな感じで良かったかもね。でも、私達やセバス達の出番は、もう少し後かな……。ですよね? モモンガさん?」

 

 たっちが振り返りながら言うので、モモンガは頷き自案を述べる。

 

「今回、弐式さんが同行しているので隊の探索力は高いです。ここは分身体を出してもらい、先行して挨拶でもしてもらおうか……と」

 

 弐式が居ない場合は、モモンガが見た目の小奇麗なアンデッドを召喚して同じことをさせるわけだ。この案の段階において、ギルメンはおろかNPC達すら何もしていない。分身体を出す案にしても、弐式に労力が発生しているぐらいだろう。そもそも、最初から弐式が分身体を出して偽ナザリックを訪問すれば、ギルメン達が出張らなくてもよかったのではないか。しかし、この偽ナザリックがある現地で一〇〇レベルプレイヤー複数と、それに準ずる戦力のNPCが待機しているなら、大抵のことには迅速な対応が可能だ。

 

(だから、俺とギルメンがここに来たのは間違ってはいない! 断じて、ギルメン発見の一大事にかこつけて皆でお出かけしたかったわけではないのだ~っ!! あ、ふう……)

 

 内心で理論武装していたモモンガは、精神が安定化するのを感じた。

 冷えた頭で考えると、やっぱり自分の我儘で皆を危険にさらしている。

 いや、理論武装をしたとおり、間違っているわけではない。

 そういった思いがモモンガの脳内で渦巻いているが、今回の調査隊派遣はギルメン会議で決めたことである。調査隊のメンバー選抜には、ぷにっと萌えの意見が大きく取り込まれてもいた。だから、モモンガ一人が責任を感じることはない。

 

(本当にそうか?)

 

 ギルド長としての責任感。それが、モモンガの気を晴らしてくれないようだ。

 この内心をギルメンらが知ったら、モモンガも考えたように「一人で背負いすぎだ」と笑い飛ばしてくれるだろう。モモンガ自身、そうなる展開だと思うのだが……。

 

(でもな~……でも……)

 

 最低限、責任感は持つべきだろう。

 ギルメン会議で決まったこととはいえ、その会議の長は自分なのだ。

 今更皆に帰れと言えない以上、全員を無事に帰せるように尽力しなければならない。

 モモンガがギルド長として、ギルメンに言わせれば必要以上に肩に力を入れていると、ピンクの肉棒……茶釜が話しかけてきた。

 

「ダーリ~ン♪」

 

 リズムに乗せて呼ぶのだが、この時、モモンガのすぐ隣にはヘルムを小脇に抱えたアルベドが居て、少しだけ表情を動かしている。茶釜に注意を向けていたモモンガは気づかなかったが茶釜の方では見えていたようで、首をかしげるように身体の上部を傾かせた。

 

「ふぅん? ……後でいいか。……それでね、ダーリン? その、弐式さんの分身体でご挨拶……さっそくやっちゃう?」

 

「そう……ですね。弐式さん、頼めますか?」

 

 茶釜に押される形でモモンガが頼むと、弐式が右手でサムズアップするや、一体の分身体を出現させて指示を出す。

 

「そんなわけで行ってきて。基本的に、ここの主を探して対話を試みること。お話がしたいから、お邪魔していいですか~とね。駄目なとき、情報は直接持ち帰るように」

 

「了解、本体。じゃ、行ってきま~す」

 

 軽く言って数歩歩いた弐式分身体は、ふと何か思いついたそぶりを見せるや、皆を振り返り声を裏返らせた。

 

「み、みんなぁ! 俺が死んでも代わりは!」

 

(はよ)行け……」

 

「は~い……」

 

 本体にどやされた分身体がテクテクと霧の中に消えていく。その後ろ姿を、皆が苦笑交じりで見送った。弐式にとって分身体は、スキル等で作り出した分身に疑似複製人格を載せたものであるらしい。だから、弐式本人と同じ言動であっても本当の意味での分身ではないのだ。

 

「時間経過で消えちゃうし、俺から接続を切っても消えちゃいますしね」

 

「なるほど、ユグドラシルにおける仕様と大差なく、しかし転移後世界ではそういう感じか……。どっちが本物だか、わからなくて困る……みたいな展開はなさそうだね」

 

 弐式の解説を聞いてタブラが頷いている。そのタブラは、ふと思いついたように弐式を見た。

 

「仮に、どっちが本物かわからなくなった場合。やまいこさんや武人建御雷さんなら『どっちか殺そう!』って言いそうなのかな?」

 

「それは恐ろしい仮定だよ、タブラさん……」

 

 文句を言う弐式だが、建御雷なら言いそうか、いや普通に悩むかな……と思っている。一方、名前を出された二人のうち、この場で居合わせているやまいこは半魔巨人(ネフィリム)の巨体をゆすり、身振り手振りを交えて憤慨した。

 

「ひっど~い! そんな(ひど)いこと、僕は言わないよ! 両方とも殴ろうって言うだけだもの~!」

 

 それはそれで酷い。

 弐式とタブラは顔を見合わせて肩をすくめたが、その近くに居たモモンガは、弐式分身体の背を見送っている。

 

(弐式さん、頑張って! 分身体だけど!)

 

 見た目と言動が弐式と同じなだけあって、なんとなく割り切れないモモンガなのであった。なお、同じような視線を分身体に送る者がもう一人いる。弐式の制作NPC、ナーベラル・ガンマだ。

 

(弐式炎雷さま。御武運を……)

 

 たとえ分身体とはいえ、本物の弐式の姿と疑似人格を持つ……何より弐式炎雷が生み出した存在。祈らずにはいられないのである。

 黒い網タイツ(くさりかたびら)を履いた女忍者が祈る姿。

 それを、たっち・みーが腕組みしながら見て頷いた。

 

「主を見送る下僕(しもべ)か……いやぁ、絵になる光景だね。セバスはそう思わないか?」

 

 白髪白髭の老執事は、胸に手を当てて一礼する。

 

「おっしゃるとおりです。たっち・みー様」

 

 執事として非の打ち所のない所作。ユグドラシル時代に設定したとおりだ。タブラなどから聞いた話では、NPCの人格や性格は作成時の設定書きが大きく影響しているらしい。一方、あまり凝った設定を書き込んでいないと、創造主に似てしまうのだとか。たっちが記憶するところでは、種族設定やパラメータなどは別にして、設定としては『老執事であり、執事として完璧である』ぐらいのことしか書いていなかった気がする。したがって、セバスはたっちに似ているということになるのだが……。

 

(確かに言動は似ている気がする。しかし、なぁ。生真面目というか、堅苦しいというか……。このギルドにいる私を第三者視点で見たら、こう見えるのか? ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』は悪のギルド……か)

 

 悪のギルドといっても、犯罪組織ではない。面白半分で狩られる異形種を守るため、それがギルドの前身のクランを発足した動機である。その後にギルド化してからも理念に変更はなかったが、組織としては悪をテーマにしていたとたっちは思う。そんな中で正義を気取っていたのは、それはそれでダークヒーロー的な趣があったから正直、悪い気はしなかったものだ。

 しかし、セバスはどうなのだろうか。

 ナザリック地下大墳墓のNPCや他の下僕(しもべ)達といえば、カルマ値が低めである。ルプスレギナのように悪側に振り切っている者も多い。そんな中、善性を持つというのは、相当浮いた存在になるか、あるいは煙たがられたり嫌われたりするのではないか。

 

(いや、他にペストーニャも善寄りだったか? とはいえ全人員の中での比率がな~)

 

 やはり苦労はしているのだろうと、たっちは思う。セバス本人は、そのような素振りを見せはしないが……。

 たっちは、傍らに立つセバスの左肩をポンと叩いた。

 

「まあ、なんだ。悩み事があるなら、私で良ければいつでも聞こう」

 

「は、はあ……」

 

 唐突な話題の転換にセバスは目を丸くしたが、言った内容からすると気を遣ってもらっていることは理解できる。至高の御方、それも自分の創造主が気にかけてくれているのだ。こんなに嬉しいことは他にない。セバスは喜びを噛みしめながら頷いた。

 

「もったいないことです。ですが、その時が来たら相談させていただきます」

 

 遠慮するだけでは至高の御方は良く思わない。モモンガ達がナザリックに戻ってきてから、そのことを学んでいたセバスは返答を間違わなかった。たっちは驚きを示すように頭部を傾かせるとセバスに対して頷き、弐式の消えた方を見つめているナーベラルに視線を戻すのだった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 ……茶釜が滑るようにアルベドに近づいている。

 

(「アルベド、ちょっとこっち~」)

 

(「え? ぶくぶく茶釜様?」) 

 

 引っ張って移動させるにしても、アルベドは甲冑着用状態なので服の袖とはいかない。茶釜は伸ばした粘体でアルベドの手を掴み、偽ナザリックの反対……後方へと皆から離れていく。人間であれば他者から聞こえない距離であるが、モモンガ達の強化された聴力の前では隣で話すも同然だ。少し前、やまいこと弐式がヒソヒソ話をした際、盗聴防止のアイテムを使用したが、茶釜は使用していない。アルベドは「いいのかしら?」と一瞬考えたものの、茶釜が気にしていない様子なので(いぶか)しむことをやめていた。

 

(「さっき、私がモモンガさんに声をかけたときだけど~。アルベドの様子がね~。……私、何か気に障ることでもした?」)

 

 軽い口調で始まり、最後の問いかけのみ声が硬い。怒っている……のではなく、からかっているのだ。対するアルベドは、自分の思いの程度なんて見透かされているのね……と、至高の御方に対する尊敬の念を強めている。であるから、アルベドは小細工なしで本音を吐露した。ただし、モジモジしており普段のキリッとした姿はない。

 

(「実は……ですね。ぶくぶく茶釜さまが、モ~、アインズ様のことを『ダーリン』と特別な呼び方をされてるのは、何と言いますか羨ましく思ったりでして……」)

 

(「ほ、ほほう! きゃわわ!」)

 

(「はい?」)

 

 茶釜が小声ではあるものの奇声をあげたことで、アルベドはキョトンとした。

 同時に、二人の会話を聞いていたモモンガがブホッと吹き出している。

 

「な、ななな、何の話をしているのかと思ったら……」

 

「いや~、盛り上がってまいりましたね~」

 

「弐式さん!? ……って皆さんも!?」

 

 気がつくとモモンガの周囲にギルメンが集まっている。

 それぞれのNPCらは、少し離れた場所で待機してモモンガ達を見守っており、聞こえるかもしれないが……あまり気にしなくてもよさそうだ。

 

(……いつの間に……。あんたら、俺の浮いた話になると盛り上がるよね!?)

 

 モモンガはプウと頬を膨らませたが、今は異形種化しているので表情に変化は出ていない。このようにモモンガ達は興味津々だったが、『聞かせている』側の茶釜は内心でニヤニヤしている。

 

(うほほ~。ダーリンの愛称を模索しているとは、おぼこくて良いわね~。……処女じゃないくせに……。でも、気に入った!)

 

 ここは年上女性としてアドバイスをするべきだろう。

 弟のペロロンチーノあたりに『年の功』と言われたらブン殴るだろうが、自分で言ったり思う分には何の差しさわりもない。茶釜は、聞こえているであろうモモンガの羞恥心をチクチク刺激しつつ、アルベド用のモモンガ愛称を模索した。

 

(「『ダーリン』は私用として、『あなた』は皆で使えるようにした方がいいわね! アルベドには何か希望はある?」)

 

(「わ、(わたくし)の希望……ですか?」)

 

 好きなように考えて選ばせてもらえる。少なくとも希望を聞いてもらえるのだ。

 アルベドはオロオロと狼狽えながら、茶釜との会話に没頭していく。

 その間、二人から発せられる『お前様』だの『ハニー』といった呼称により、モモンガは弐式とやまいこによって両側から肘で(つつ)かれ、背後ではタブラに「ほう!」やら「なるほど」などと言われることになった。

 当然ながら、モモンガの胃は痛い目を見る。異形種化していて胃がないのにだ。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 骸骨のありもしない胃がダメージを受けていたころ。

 弐式分身体は霧の中を進み、偽ナザリックの門前に居た。先程、皆で居た場所も門前と言えば門前だが、更に数メートル進んだわけだ。周囲の霧は濃いが、弐式本体の所有スキルを劣化とはいえすべて使えるため、彼にとって霧などは視認の妨げになるものではない。

 

(というか、本当にただの霧だな)

 

 気象条件を無視して際限なく湧いてくるあたりは厄介だが、それだけの話だ。

 弐式分身体は、前方、墳墓地表部の中心にある霊廟に目を向ける。本物のナザリック地下大墳墓であれば、そこから第一階層へ下りられるはずだ。モモンガ情報による『インスタント・ギルドホーム』であるなら、地下一階層まで製作可能らしいが……。

 

(ま、事前情報がひっくり返るなんてよくあることだな)

 

 鵜呑みにするのは忍者として格好良くないだろう。

 弐式分身体は、外壁の門(門扉は開放状態だが)から奥に向けて声をあげた。

 

「ごめんくださ~い。私、忍者のニシキという者ですが~」

 

 弐式炎雷であるとは名乗らない。

 中に居るのがギルド『アインズ・ウール・ゴウン』と無関係の者であれば、流す情報は少なく不正確である方が良いから。そして、相手がギルメンであるなら『忍者のニシキ』と言うだけでギルメンであるとわかってもらえるはず。

 数秒経過……。

 弐式分身体は右耳に手のひらを当て、上体を傾かせて返事を待っていたが、墳墓の奥からの返答はなかった。

 

「返事がない。ただの朽木……じゃなかった、墓場のようだ」

 

 こっそりブルー・プラネットの黒歴史に一撃入れつつ、弐式分身体は姿勢を戻して腰の左右に手を当てる。呼びかけて返事がないのなら、乗り込むまでだ。忍者らしく忍び込むのも一興だが、今回は罠の有無を確認しつつ進んで、危ないと思ったら戻って報告するのが仕事だ。一応、<伝言(メッセージ)>で本体に連絡してみると、特に妨害されるでもなく通話がつながる。

 

「本体~、聞こえる~? 門のところで呼びかけたんだけど、返事がないから中に踏み込むね~」

 

『オッケー! 気をつけて。<伝言(メッセージ)>が通じなくなったら、いったん戻ってきてね!』

 

 このように報告を済ませ、方針の確認もできたことで、弐式分身体は敷地の中へと入って行った。敷地内の地表部も、おおむね本物のナザリックと同じ。墓石等の配置はざっくり同じで、造形は今一つ。ただし、絵心のある者が朧気ながら思い出しつつ作り上げた……といった印象を弐式分身体に与えていた。

 

(こう見てると、ナザリック関係者が記憶だよりで作った感が強い。そして手先が器用そう……やっぱり、あまのまひとつさんなのかな?)

 

 周囲に気を配りつつ前進すると、霧の中から霊廟が出現する。本来、ここから入って地下層へ移動するのだが……。

 

(モモンガさんが言ったアイテムだと、地下一層までしか造れないんだっけ? アイテム名にインスタントとか入ってるだけのことはあるよな~)

 

 念のために探知スキルを使用したが、地表部に居住区はないようだ。そうなると、やはり地下へ下りるしかない。

 

(ま、行くしかないよね~……)

 

 一応、入り口前で再度呼びかけてみたが反応はなし。ここでも弐式本体に<伝言(メッセージ)>で報告し、いよいよ弐式分身体は内部に入って行く。

 

(内部の造りも、ほとんど一緒か……。そして……)

 

 薄暗い通路に広がるトラップ、トラップ、そしてトラップ。

 落とし穴に突き出し槍、局所的な吊り天井、果ては隠し爆裂魔法など。本物のナザリックと大きく違う点は、入口からすぐの通路にこれらの罠が設置されていることだろうか。本物のナザリック地下大墳墓の場合、トラップの配置は第一階層に踏み込んでからなのだ。

 

(で、この罠数の多いことよ……。しかも、高レベルの探知じゃないと見つけられない仕様ときた……。なんつ~殺意の高さだ……)

 

 目の前で広がるトラップ群の隠蔽精度。これを実現するには、高レベルのレンジャー系や盗賊系能力が物を言うが、それなしでとなると、トラップ自体の隠蔽性能が高くなければならない。つまり、高レベルのクラフト系のスキルが必要となるのだ。これでまた一つ、このインスタント・ギルドホームの主があまのまひとつである可能性が高くなったように思える。

 

(だとしたら、なんで俺の呼びかけに応じてくれないんだろ? やっぱり、発狂してるのかな~)

 

 ブルー・プラネットを転移後世界で発見した時、彼は(自力で人化したのち、時間経過で発狂ゲージがたまった結果の)発狂状態であり、見るに堪えない言動だった。どのくらい酷かったかというと、正気に戻った後のブルー・プラネットが、いまだに気に病んでいるほどだ。もう一つ、本心からナザリック勢を敵視していることも考えられるが、その可能性は低いだろうと弐式分身体は考えている。

 

(あまのまひとつさんに恨まれる覚えとかないしな。それと……)

 

 ここまで来て、あまのまひとつではない別人でした……なんてことだったら、それはそれで驚いてしまうだろう。

 

「さ~て、奥に居るのは何でしょうねぇ~。あまのまひとつさんでありますように~」

 

 軽く笑いながら、弐式分身体は歩き出した。

 相手との接触及び情報収集が最優先で、可能であれば戻って直接報告すること。

 それが自分の任務だ。仮に死ぬようなことがあっても分身体が消えるだけで、弐式本体に痛手はない。その場合、情報が弐式本体に渡らないが、やむを得ない状況もあるだろう。

 

(そうそう、頑張っても無理なら仕方がないってね!)

 

 鼻歌交じりで歩く弐式分身体は、特に危機感を覚えていなかった。

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 時間は、また(さかのぼ)る。

 ここはユグドラシルのとある平野。弐式の呼び掛けで集まったギルメンらが、歪んだ時空にほぼ気づかないまま議論を繰り広げている。話の内容は、モモンガの居るナザリック地下大墳墓に行くかどうかといったものだ。中には現実(リアル)で親交のある者同士にて相談をしていたりもするが……。

 野間一敏(のまかずとし)こと、あまのまひとつはどうしていたかというと、一人、離れた場所にて座り込んでいた。この場に来て最初に弐式と言葉を交わした後は、ずっとこのままだ。少しうつむき気味なので、何か考え事をしているようにも見え、そのために誰も近寄ってこない。事実、考え事をしているのだが、それは取り留めもないことだ。

 

(みんなでモモンガさんのところへ行かないのかな~……顔を合わすのが気まずいっていうのはわかるな~……。あ~、でも工場が駄目になったのに、こんなことしてていいのかな? でも、なんか現実(リアル)に戻りたくないんだよな~。ナノマシンって、あとどれくらい持つんだっけ?)

 

 と考えたところで、思考がループする。単に思考が堂々巡りしているのではなく、同じ場所に居るたっち・みーとウルベルトが陥っている『強制的な思考ループ』に彼もはまっていたのだ。それはギルメン達が集合した場所に漂う、不可思議な現象あるいは力というべきか。今では、ほとんどのギルメンが影響下にある。そして……あまのまひとつはギルメン達の中にあって、とりわけ症状が重かった。つらく厳しい状況下で集合地に顔を出したのは彼に限った話ではない。体調面に関してはタブラなど、あまのまひとつより数段状況の悪い者も居たぐらいだ。

 にもかかわらず、彼の思考は混乱を極めている。

 

(俺、ここでこんなことしてて良いのか? 皆でウジウジ悩んでないでモモンガさんのところへ……いや待てよ、仕事を駄目にしたような俺が行ってもモモンガさんの迷惑になるだけじゃないか? 違うぞ! それはそれとして仕事だ仕事! 食っていく方法を考えなくちゃ! でも、モモンガさん……)

 

 このように、あまのまひとつの脳内で渦巻く内容は『現実(リアル)のこれから』と『モモンガ』に対してのものが半々だ。他のギルメンは『モモンガ』が七から八割、『その他』が二から三割。だが、このことで彼のみモモンガに対して思いが薄いということにはならない。どちらかと言えば、モモンガ偏重の精神状態となった他のギルメンらが異常なのであって、あまのまひとつは平常寄りと言っていいだろう。

 ともかく、彼だけがモモンガに対する思いの程度が違う。

 そうやって正気にしがみつけていたせいかどうか、はたまた他の要因があったのか。

 ギルメンらが一斉に転移した際、彼は転移先で大いに苦しむこととなる。

 

「へっ? ここは? っ(いっだ)ぁああああああ!?」 

 

 彼が飛ばされたのは、転移後世界においてカッツェ平野の名で知られる場所。周囲に充満する濃い霧のせいで視界は真っ白だ。ギルメンらと共に居た集合地とは違う光景であり、そのことにまず驚いたあまのまひとつだが、この驚きは突如発生した頭痛により上書きされる。

 

「痛い痛い痛い痛い!!」

 

 ナノマシンの異常を疑ったが、彼はネット接続に関しては一般人並みの知識しか持たず、医療や医学に関しても同様である。考えてわかるはずがなく、疑ったどまりという成果のなさに泣く……間もなく頭痛は彼を責めたてていった。

 

(あた、頭が割れる! 変な持病でもあったか!? もうゲームどころじゃないぞ、早くログアウト……できない!?)

 

 ログアウト用のウィンドウも開かず、コードを引き抜こうとしても回した手は空回るのみ。運営と連絡を取ることもできず、カニにも似た異形種は平野にてのたうち回った。

 

(ぽ、ポーション! 持ってるけど、実際の頭痛に効果なん……て、痛でででっ!! もう、なんでもいいから!)

 

 アイテムボックスに手を突っ込む。

 あまのまひとつはギルメン引退時にアバターを削除したが、所持していたアイテムの多くを持った状態でナザリックを後にしていたので、資材やアイテム類を数多く所有したままだった。それらアイテム類を「もったいないから」と適当なアバター(名前は「ああああ」だった)に持たせて放置していたのだが、今回、何かの足しやネタになるかとごっそり持ち込んでいたのである。

 

「うおおおお!」

 

 とっさに掴み出したのは、かなりお高いポーション。生命力……HPの回復のみならず、MPも回復してさらに状態異常まで回復できる優れものだ。おまけに回復量は全回復。とはいえゲームの中の話なので、ここで効果があるかどうか。

 

「効いた!? すっげぇ楽チン!」

 

 先程まで、頭蓋骨の内と外に向けて発生していた掘削工事のごとき激痛が消えている。が、楽になってみたら、それはそれで腑に落ちない。ゲームのポーションで解消される現実の頭痛とは何なのか。

 

(まさかと思うけど、痛みを感じるようにゲームがアップデートされたとか? それって、ヤバすぎないか?)

 

 実際に痛みを感じるとなると、高威力の魔法攻撃を受けたときの痛み等は想像したくもない。あまのまひとつは怯えた目で周囲を見回した。見えるものは霧だけだが、霧の白さですら今の彼には恐ろしく感じる。アイテムを使って周囲を探れば、広範囲で点在するアンデッドの反応が感知された。

 

(おい、待てよ。俺、生産系ビルドに切り替えてるから、そんなに戦えないぞ! ゾンビとかならいいけど、野良の死の支配者(オーバーロード)なんかが出た日には……)

 

 一方的に倒されてしまうだろう。

 だが、ここで「いや待て……」と、あまのまひとつは考え直した。

 今使っているアバターは、見た目こそかつての愛用アバターそのものだが、実態はゲームにログインするため、ボーナス値を自動割り振りして作ったものだ。少しぐらいは戦えるのではないだろうか。

 

(でも、レベル一じゃん!! うおおおお! 無理だ、無理! に、弐式さーん!)

 

 すがる思いで、ギルメン集合の発起人たる弐式炎雷に<伝言(メッセージ)>するが通じない。他のメンバーや最終的にモモンガ宛てでも試してみたが、やはりつながらなかった。

 自分は、この右も左もわからない空間で、霧に包まれて独りぼっち。

 先程、霧に対して感じた恐怖が再びぶり返してくる。頭痛の記憶もだ。

 あまのまひとつは大きく身震いすると、アイテムボックスの中を探り始めた。

 

「なんかこう、結界とかバリアーとか、いやそういうのじゃなくて! グリーンシークレットハウス! は、今一つ不安だから……えーと! あれだ!」

 

 引退間際の頃、運営が斜陽を迎えたユグドラシルの状況打開策として売り出したゲーム内アイテムの一つ。インスタント・ギルドホームのことを、あまのまひとつは思い出す。あれは確か、地上構造物を設定しなければならないが、地下迷宮を一階層作れたはずだ。かつてのクラフトスキルは失われた自分だが、ゲームで培ったゲーム内構造物の設置経験は活用できるだろう。また、大量に持っているアイテム類も機能は生きているようなので、罠の設置などを行えるはず。

 

(拠点を造ったら暫く引き籠もって、様子見しながら周囲を探索しよう。そうしよう!)

 

 そう行動方針を決めたあまのまひとつは、手早く拠点構築の作業に掛かった。そうして色々と試した結果、自分のアバターがどういうわけかレベル一〇〇であり、引退間際の状態にある事を知って彼は驚愕することとなる。

 




ふい~。
ここぞとばかりにギルメンとNPCの会話をねじ込もうとするのですが、全体の展開が遅れがちになるという……。
やまいこさんとね、ユリの会話もやりたいんですよ!(力説
あまのまひとつさんパートが終わるまでに入れたいですね~。
モモンガ&アルベド&茶釜の会話も入れたいし。

あまのまひとつさんの頭痛とか、彼だけ妙なことになってるのは一応理由があるんですけど、それを作中で解説する機会はないと思います。ギルメン達は知りようがないし、本文で語るには裏設定が過ぎる感じで萎えるかもだし。

誤字指摘、毎度ありがとうございます。
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