オーバーロード ~集う至高の御方~   作:辰の巣はせが

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第13話 見てのとおり魔法詠唱者だ

「村を襲撃した者達からの、完了報告が来ない?」

 

 ニグン・グリッド・ルーインは、隊員からの報告を受けて首を傾げた。

 手はずとしては、まず帝国騎士に偽装させた者達が王国外縁の村を襲撃し、住民殲滅後に離脱。王国戦士長のガゼフ・ストロノーフが駆けつけたところを、ニグンら陽光聖典が強襲し、殺害するのだ。そうなっていた。

 前回の村落襲撃ではタイミングが合わずに失敗したが、今度は上手くやれるはず。

 そう考えて街道外にて潜伏していたのだが、村を襲撃した者達からの報告がない。

 報告に関しては陽光聖典の隊員が村に近づき、襲撃隊の隊員が出てくるのを待って接触するというものだったが、誰も出てこないのだと報告に来た者(陽光聖典隊員)は言う。

 

(成功はしたが、殺戮に夢中で報告を怠っている可能性。有り得るが。……いや、ないか。襲撃隊は隊長に問題があるものの、副隊長は勤勉な男だ。兵の一人ぐらいは寄こすだろう)

 

 ニグンは思案しつつ顔を指で撫でた。

 顔面を走る傷跡。

 かつて亜人の村を殲滅した折、王国のアダマンタイト級冒険者らと戦闘になって受けた傷だ。魔法治療で消すこともできたが、屈辱を忘れない為に残しているのである。

 いつか借りは返してやる。

 決意を新たにしたニグンは、次の可能性について考えてみた。

 

(襲撃隊が全滅している場合。一人の離脱者も無しにか? その様な戦力を、開拓村に常備しているなど、それこそ有り得ん話だ)

 

 この度の襲撃が事前に察知されており、その対策が成されていた結果……襲撃隊が全滅している可能性。

 それも無いだろう。

 何しろ、王国貴族共は愚昧だ。

 ちょっとした調略で、くだらないプライドを刺激され、王国最大戦力たる戦士長から最強武装を取り上げるほどなのだ。今更、戦士長に有利となる行動を取るはずがない。

 

「隊長。如何なさいますか?」

 

「ともかく、村に行ってみないことには解らんな」

 

 ニグンは報告に来た者と、周囲で待機する隊員らを見回した。

 皆、自分と同じく金属糸で編んだ衣服鎧を着ている。その数は四十四人。

 これまで数々の亜人村を滅ぼしてきた精鋭達だ。弱体化したガゼフが相手ならば、十分に倒しきれるだろう。

 ニグンは刈り上げた金髪の頭部を一撫ですると、マントをバサリとはためかせた。些かオーバーアクションだとは思うが、一隊を率いる者には演出が必要なのだ。

 

「三人送り出して村を偵察する。殲滅が完了していれば良し。予想外の敵戦力があって襲撃隊が全滅していた場合。相手の戦力を把握して戦うかどうかを決定する!」

 

「なかなか的確な判断だ。手堅いと言って良いだろう」

 

 その声は、少し離れた位置から聞こえた。

 ニグンが、そして居合わせた陽光聖典隊員の全員が声のした方を振り向く。

 茜色に染まりつつある空の下……草原に立つ五つの人影。

 中央で立つのは豪奢な漆黒のローブを身につけた、魔法詠唱者と思しき男。顔は平凡だが、魔法を使うのであれば油断することはできない。

 その男の向かって右に位置するのは、漆黒の甲冑を纏い、カイトシールドと巨大な斧頭を持つ武器(バルディッシュ)を装備した者。こちらは見るからに戦士職だが、装備の高級さが凄まじい。油断するべき相手ではないようだ。

 魔法詠唱者の向かって左側には、修道僧が着るような胴着を着た男が立っている。小柄な男であるが、その身体は筋肉質で、先の二人と同程度の実力があるとしたら、やはり油断はできないだろう。

 全身甲冑の戦士の隣り、向かって一番右端には着物を着た者が居た。スレイン法国ではあまり見ない衣服だが、確か忍者が着るような衣装だったはず。

 

(王国のアダマンタイト級冒険者……蒼の薔薇にも確か忍者が居たな。忌々しい記憶だ)

 

 忍者の存在。そして人数的に似ていることから蒼の薔薇を連想したニグンは、警戒すべき相手だと判断している。これが魔法詠唱者と全身甲冑の者だけだったなら、歯牙にもかけず殺していたことだろう。

 強者を観察する目。それが魔法詠唱者(モモンガ)やヘロヘロ達に最初に向かったあと、ニグンは更に気になる者を発見した。

 出現した者達の中で、向かって最も左側に居る者。

 三十歳前後の男だが、その男が帝国騎士の鎧を着ているのだ。

 

「あの者は……襲撃隊の一員か? 誰か、知っている者は居るか!」

 

「襲撃隊の副隊長で、確か名はロンデス・ディ・グランプだったかと……」

 

 陽光聖典隊員の一人が淀みなく答える。

 何故、襲撃隊の一人が見知らぬ者を伴ってここに居るのか。村の襲撃はどうしたのか。他の襲撃隊の者はどうしたのか。そして何故……ロンデスは魔法詠唱者らを従えているのではなく、従うようにして立っているのか。

 解らないことだらけでニグンは苛立ったが、鼻から一息吸い込み冷静さを保った。

 

「……判断力を褒めて頂けたようで、光栄だな。魔法詠唱者(マジックキャスター)殿」

 

 任務中の遭遇戦となるかどうか。取りあえず会話から探りを入れることとする。

 魔法詠唱者に戦士、忍者に武道家らしき者。やはり冒険者パーティーのようなモノではないだろうか。

 

(要注意……だ)

 

 かつて王国のアダマンタイト級冒険者(蒼の薔薇)と対決し、痛い目を見た記憶がニグンを警戒させていた。

 ロンデスを連れている点については、大いに気になるが……そこは会話の中で聞き出せば良い。

 

「私はニグン・グリッド・ルーイン。旅の巡礼者のリーダーを務めている」 

 

 

◇◇◇◇

 

 

「先に名乗って頂けて痛み入る。私はアインズ・ウール・ゴウン。見てのとおり魔法詠唱者だ」

 

 <転移門(ゲート)>で飛んできたモモンガは、幻術で構築した人化顔にて自己紹介を行う。幻術の下は死の支配者(オーバーロード)であり、アイテムボックスからスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを取り出せば、全力戦闘が可能な状態であった。

 

(何が旅の巡礼者だよ。こっちはベリュースから聞いて、大まかな正体は掴んでるんだからな)

 

 人数はニグンを入れて四十五人。これは弐式の分身体により把握できている数だ。

 その数を繰り出してくるのなら、恐らくは陽光聖典……とは、襲撃隊隊長のベリュースの言である。

 モモンガはチラリと、一行の端で立つロンデスを見た。

 聖典部隊を倒す。その現場に立ち会わせてやろうとモモンガが言ったとき、ロンデスは大いに驚いていた。直後、彼は断ろうとしたものの「我らが敗北すれば、そのままスレイン法国の戦闘部隊に拾って貰えるのではないか? 部下の遺体も回収できるぞ?」と付け加えたことで同行を承諾している。

 更に言えば、この場に来たのはモモンガ達五人だけではない。

 ナザリックから呼び寄せた僕らが現場を遠巻きに包囲しており、転移阻害も既に施した後だ。この時点において、すでにニグンら陽光聖典は逃亡など成し得ない状況にあった。

 そして<伝言(メッセージ)>がモモンガに入る。相手はナザリック側の監視担当だ。

 モモンガは魔法探知を行わせ、同時に遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)での監視及び周辺探査も行わせていたのである。

 

(ふむ。ニグン達以外に潜伏している者は居ない。弐式さんの分身体からも新たな報告は無い……か)

 

 ならば、相手をするのはニグン達だけだ。

 基本的に戦って殲滅するつもりで居るが、どうやらニグンは会話での接触を試みているらしい。

 

(まあ、それも構わないか。あれだけ人数が居たら、何人かお持ち帰りしたいし……)

 

 今は死の支配者(オーバーロード)なので、拷問すれば良いとか物騒なことを考えついている。

 考えてみればニグンという男、スレイン法国の特殊工作部隊隊長であるなら、ベリュースやロンデスの上位互換ではないだろうか。得られる情報も段違いで多いはずだ。

 

(少なくとも、こいつは生きたまま確保だな)

 

 ゲームプレイ中、イベントを進めるためのアイテムを発見。

 その様な感覚を得たモモンガはウキウキしていた。

 

(「モモンガさん。会話途中で仕掛けます?」)

 

 左側、アルベドの向こうで立つ弐式が話しかけてきた。間に一人置いてるのに耳元で囁いている様に聞こえるのは、忍者スキルの一つであるらしい。

 

(「忍者的な戦闘の入り方で、一度やってみたいんですけど?」)

 

(「いや、向こうが会話するつもりのようですし。暫く付き合ってみましょう」)

 

「さて、色々と聞きたいことはあるが……」

 

 相談していると、ニグンの方から話しかけてきた。

 投げかけられた質問は、帝国の鎧を着た者は何者か……というもの。

 ごもっともな質問である。ここは王国外縁の開拓村付近。立派にリ・エスティーゼ王国領内なのだ。そこでバハルス帝国の鎧を着た者が居たら、不思議に思って当然であろう。

 

「帝国軍が侵攻でもして来ましたか? であるなら、我々としては遠退くように避難したいところですが……」

 

「ふむ、ふむ……」

 

 いきなり襲いかかってくるかと思ったが、意外と慎重だ。モモンガはニグンという男を幾分見直しながら、質問に対する回答を模索した。左右に視線を配ると、面で見えないが弐式は知らん顔をしているらしい。ヘロヘロはと言うと、こちらは苦笑いしながら首を傾げている。

 

(俺に一任か……好きにやって良いってことなんだろうけどさ)

 

 小さく溜息をつきながら、モモンガは口を開いた。次いで小さく笑みも浮かべている。

 

「ああ、こちらの帝国鎧の方はロンデス・ディ・グランプ。実はスレイン法国の軍人さんで、この先にあるカルネ村を襲撃に来たそうです」 

 

 ざわ……。

 

 一気にニグンの後方、陽光聖典隊員と思しき者達が落ち着きを無くした。

 弐式はともかく、モモンガには聞こえていない。ただ、「なんで知ってるんだ?」とか「そこまで喋ったのか!?」と言ったような内容だとモモンガは推察している。

 

「静まれ!」

 

 ニグンが一喝して隊員達を黙らせた。その表情は苦々しげであり、モモンガに向き直した顔は怒りでひくついている。どうやら、ここまでの会話演技も相当な無理をしていたようだ。モモンガはニグンへの評価を少しだけ減点した。

 

「いや、失礼をした。アインズ・ウール・ゴウン殿。なるほど。帝国騎士を騙る法国軍人とは、いやはや前代未聞ですな。よろしければ我々で引き受け、王国に連行してもよろしいが?」

 

「いえいえ。それには及びませんとも。聞いた話では、王国戦士長が近くに来ているそうでして。彼に引き渡す方が手間は掛からないでしょう」

 

 ……。

 数秒、沈黙の間が生じた。

 ニグンの顔の歪みが酷くなっている。そろそろ限界かとモモンガが思ったとき。ニグンは、幾分硬さを増した声で質問してきた。

 

「王国戦士長が? この近くに来ていると? そこの法国軍人が言ったのですかな?」

 

「さて、どうでしょう?」

 

「村を襲ったのは、そのロンデスだけではありますまい。他の者は今どうしているのか?」

 

「ふむ……」

 

 モモンガは白々しく首を捻ってみせる。

 

「神の御許……とやらに行ったのかもしれませんね」

 

「貴様、ふざけているのか……」

 

 ついに化けの皮が剥がれ、ニグンが怒りを露わにした。

 交渉失敗と言ったところだろうか。いや、違う。モモンガは端から陽光聖典と戦いに来たので、今行った一連の会話は単なるお遊びに過ぎない。

 

(会話の展開次第では、戦わずじまいだったかも知れないが……)

 

(「アインズさん。どうかしましたか?」)

 

 ヘロヘロが囁きかけてきた。幾分躊躇いがあり、それが伝わったのだろうか。視線だけ向けて聞いてくるヘロヘロに、モモンガは考えながら思うところを話す。

 つまるところ、今のニグンとの会話は楽しかったのだ。

 ゲームというか、漫画や映画のようなやり取りが興に乗ったのである。

 

(「なるほど、イベント戦というわけですか……。多人数のPVPになりますかね?」)

 

(「ふはは。PVPですか。それはいい! ユグドラシルのようです!」)

 

 ヘロヘロの呟きが一層モモンガを高揚させ、ついには精神の安定化を引き起こすに到った。だが、平静になっても胸の高鳴りは止まらない。

 ここに居るのはモモンガだけではないからだ。

 ヘロヘロが居て弐式が居てアルベドも居る。オマケにロンデスという観戦者まで居た。

 これで燃えずして何がユグドラシルプレイヤーだろうか。

 念のため弐式を見ると、コクリと頷いている。やって良いと言うことだ。

 モモンガはニグンを見直すと、馬鹿にしたように小首を傾げてみせる。

 

「貴様……? なんでしょうか? 我々がスレイン法国の軍人を多数殺したからと言って、何か御不満でも? ……陽光聖典の皆さん」

 

「やはり、そこまで知られているのか。喋るだけ喋って、のうのうと生きながらえているとはな……。無駄話が過ぎた。やはり倒しておくとしよう。皆殺しだ!」

 

 もはや演技すらしなくなったニグンが、忌々しげにモモンガを……そしてロンデスを睨みつけた。ロンデスは居心地悪そうに視線を逸らしたが、すぐニグンへ向き直って口を開く。

 

「陽光聖典の方! 戦うのであれば慎重になるべきだ! この者達はおかしい! 我々が戦ったのは仮面の男だけだが、数が増えたり目にも止まらぬ速さだったりと……とにかく油断をするべき相手ではない!」

 

 叫んでいる途中でアルベドが動きかけたが、モモンガはそれを止めさせた。 

 モモンガ達のすぐ近くに居ながら、モモンガ達の敵対者に向かって、モモンガらの情報を叫ぶ。ニグンからは蔑まれているのに……だ。

 そこにモモンガは、ロンデスの男意気を感じたのである。

 

(「かっくいー。まるで鳥居強右衛門(とりいすねえもん)だな」)

 

(「鳥居……なんです? 昔の人ですか?」)

 

 弐式の呟きにモモンガが反応し、更にはヘロヘロも視線を向けたことで、弐式が手短に説明する。

 

(「戦国時代のサムライですよ。籠城する味方に援軍が来てることを知らせに戻ったところを捕らえられ、真逆の報告をさせられそうになったんですが。逆さ磔の状態で、本当の報告内容を叫んで殺されたとか……そんな感じだったかな」)

 

 随分と詳しいが、これは彼の親友である武人建御雷から聞かされた逸話とのこと。

 

(「なるほど。下手したら俺達に殺されかねないわけですしね。確かに、格好いい。俺的にロンデスのポイントアップです」)

 

 モモンガは上機嫌に笑った。

 一方、ニグンも表情を改めている。

 恐らくロンデスは捕虜だ。あの冒険者パーティーに見える一団と戦って捕らえられたのだろう。どれほどの強さかは見当も付かないが、武装した騎士集団を撃退できるほどの戦闘力があるとすれば……やはり侮るべきではない。

 

(だが、任務は何よりも最優先される。ガゼフが駆けつけるのは間違いないだろうが、奴が来る前に倒しておくべきだ)

 

 この場に集結した陽光聖典の全戦力を持って殲滅する。

 決断したニグンが命令を下す……直前、モモンガが手を挙げて発言した。

 

「ニグンと言ったか? ここは一つ、我々とPVPをしないか?」

 

「な、なに?」

 

 PVP。その聞き慣れない言葉にニグンが硬直し、それを聞く準備ができたと見たモモンガは次のような提案をした。

 一つ、双方で人数を出し合い、試合を行う。

 二つ、一度に出す人数は十人まで。

 三つ、戦える者が無くなった時点で敗北。

 四つ、その他、負けと判断したら、残った中のリーダーが負けを宣言する。

 

「このような条件で、どうかな? 場合によっては死人が出るが?」

 

「お遊びのつもりか? だが、まあいい。四回ないし五回に分けて殺せば済むことだからな」

 

 ニグンが鼻で笑い飛ばした。どうやら、彼の中ではロンデスもモモンガ側の戦闘員としてカウントされているらしい。あるいはモモンガ達を殺し尽くした後で、ロンデスを処分する気なのかもしれなかった。

 なお、今のニグンの態度にアルベドが激昂しかけたが、これに関してはモモンガ達で宥めている。

 

「ニグンがやる気になってくれたようですね。じゃあ……誰から行きます? それとも全員で出ますか?」

 

「ああ、そうだ。アインズさん。私は予備兵力的な意味合いでパスします」

 

 ヘロヘロが自分を指差し参戦辞退した。

 何故か。それは現在の彼が人化をしているからだ。レベル三〇ぐらいの身体能力では、モンクであっても不安が残る。大事を取って、戦わないこととしたのだ。

 

「相手に異形種だとかの情報を渡したくないですしね。アインズさんや弐式さんみたいに、一〇〇レベルのままで戦える方法があればいいんですけどね~」

 

「ヘロヘロさんのとこのソリュシャンみたいな感じで、人間形態を取れるのが理想的ですかね?」 

 

 弐式の発案に、ヘロヘロが「それです!」と反応を示しているが、具体的に何をするかはナザリックへ行ってから考えることとなった。では、改めて第一戦闘者を決めるわけだが、ここでアルベドが挙手する。

 

「ん? どうした、アルベド?」

 

「アインズ様。一回目の戦闘では(わたくし)が一人で戦うべきかと」

 

「ほう?」

 

 感心したような、それでいて意外なような。そう言った複雑な気持ちがモモンガの中で湧き上がった。手柄を立てたいのだろうか。それともモモンガ達、ギルメンの身の危険を案じてのことか。

 

「アルベドには、何か思うところがあってのことか?」

 

「はっ! 至高の御方が、先に戦うなどあってはならないことです。まず僕たる(わたくし)が露払いを務めますので、アインズ様達は、どうか(わたくし)の戦いをもって敵の実力を測って頂きたく……」

 

 口が上手い。いや、彼女の言うことは、もっともだ。

 現状、ロンデスら襲撃隊はともかく、ニグン達……陽光聖典の実力の程は判明していない。つい気分が乗ってPVPを申し込んだが、場合によっては撤退戦になるかもしれないのだ。

 

「二人とも。一番手はアルベドということにして、一人で戦って貰おうと思います」

 

 モモンガの決定にヘロヘロ達は同意した。アルベドは防御が固いし、多少の攻撃などものともしないだろう。言い方を変えると、彼女がダメージを負うような戦況になった場合、撤退に移るべきだとモモンガは考えていた。

 

「と言うわけで、アルベドよ。お前の働きに期待する。連中の実力……その情報を可能な限り収集してくれ。それと、後々使えるかもしれんから、なるべく殺さない方向で頼む」

 

 指示を出すモモンガの左右で「騎士とか殺っちゃいましたからねぇ。まあ、ほとんど俺がやったんですけど」とか「う~ん。人化してると殺人行為とか嫌だな~って思っちゃうんですよ。でも現実(リアル)の頃より忌避感ないかも……」といった仲間の声が聞こえる。

 

(そう言えば弐式さんは今、中がハーフゴーレムで、ヘロヘロさんは人化してるんだったな。違いが出てるな~……)

 

 顔だけ幻術でヒトにしているモモンガの場合はどうか。

 こちらは人間種を同族に思えていない。これから死人が出たとしても、散歩中に蟻を踏み潰したぐらいの感覚しかないだろう。やはり、同じ異形種でもアンデッドのモモンガと、ハーフゴーレムの弐式では差があるようだった。

 

「承知いたしました。アインズ様」

 

 恭しく一礼し、アルベドが陽光聖典側に向き直って歩き出す。

 考え事をしていたモモンガは「う、うむ。頑張るように。後、気をつけてな」と声を掛けたが、これを聞いたアルベドは肩越しにグリンと振り返る。

 

「はい! モ……アインズ様!」

 

 弾むような声だ。振り向く際の挙動からして、ヘルムの中では笑み崩れているのが容易に想像できる。ヘルムをしているのが惜しい……と思うモモンガであった。

 

 ザッザッザッ。

 

 全身甲冑のアルベドが軽やかに進むと、陽光聖典の中から一〇人ほどが前に進み出る。

 どうやら十対一の戦いとなるようだ。

 

「最大で一〇人まで出して良いというルールなのでな! お前達の流儀に合わせてやったのだ。感謝するがいい!」

 

 尊大なニグンの声が草原に広がり聞こえてくる。

 モモンガやヘロヘロらにしてみれば「うわー。ノリノリのロールだ! 俺も負けてられないな」「いや、あれ、本物ですから」「ナーベラルが喋れるようになったし。二人用の口上とか考えるかな?」という反応しか無かったが、アルベドは違った。

 

「クズ共……。下賤な下等種が立場をわきまえずに、身の程を……」

 

 爆発的に膨れあがる殺気と怒気。これを感じ取った陽光聖典隊員がたじろぐが、それらはすぐさま消え去った。

 

「失礼。当方は、一番手として(わたくし)が一人で戦います。いつでもどうぞ」

 

「女か!? しかも一人だと!?」

 

 ごつい甲冑を着込んでいるため、それまで性別が解らなかったのだろう。前列五人の隊員が顔を見合わせているが、その背後からニグンの叱責が飛んだ。

 

「狼狽えるな! 汝らにとって討伐対象の性別や人数など関係ない! 速やかに倒すのだ! 始めぇ!」

 

 号令と共に、陽光聖典隊員らがサッと左右に広がり身構える。対するアルベドは、ゆっくりと歩を進めるのみだ。

 ……。

 隊長ニグンの号令があったにも関わらず、一瞬の間が生じる。

 が、直後に隊員らは魔法攻撃を開始した。

 

 <正義の鉄槌(アイアンハンマー・オブ・ライチャネス)>、<束縛(ホールド)>、<炎の雨(ファイヤーレイン)>、<(ポイズン)>、<人間種魅了(チャームパーソン)>、<混乱(コンフュージョン)>、<傷開き(オープンウーンズ)>、<恐怖(フィアー)>、<盲目化(ブラインドネス)>、<衝撃波(ショック・ウェーブ)

 

 十種類の魔法がアルベド一人に向けて投射される。

 そして、そのすべてが彼女の甲冑とカイトシールドの表面にて弾け飛んだ。

 ……。

 再び戦場に沈黙の時が訪れる。

 陽光聖典隊員らは魔法を投射した構えのまま顔を見合わせたが、その沈黙を破ったのはアルベドだった。

 

「貴方達……。(わたくし)を舐めているのかしら? 何よ、今の魔法。低位階ばかりじゃない。せめて第八位階ぐらいは使って欲しいものね」 

 

 言ってる間にも距離は詰まっていく。

 隊員らの後方からは「ハッタリだ! 攻撃の手を緩めるな!」というニグンの叱咤が聞こえるが、隊員らは続けて魔法を使おうとしない。自分達が使用できる位階魔法では効果が無いと悟ったのだ。

 短剣を抜く者が多い中、スリングを取りだし鉄弾を装填する者も居たが、それを振り回す前に、アルベドが巨大な斧頭を持つ武器(バルディッシュ)の間合いに入った。

 

 シュキン……。

 

 ハサミで紙を裁断したような音。

 アルベドが剣を振り抜いた……と隊員らが知覚した一秒後。隊員のスリングを持った腕が足下に落下した。

 噴き出る鮮血。絶叫しながらのたうち回る隊員。 

 彼らが着用する金属糸の衣服鎧は、魔化されており、ニグンの装備より劣るものの防御力は全身鎧に匹敵するのだ。にもかかわらず、容易く腕一本切断された。

 この事実は、陽光聖典隊員をして恐怖に染めあげるに足るものだったが、なおも後方からニグンの声が飛ぶ。

 

「慌てるな! ポーションを使って負傷者を治癒せよ! 残りの者で炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)を召喚、奴目がけて突撃させるのだ! 急げ!」

 

 この時、ニグンは隊員の怯えや恐怖を「慌てている」と表現した。これは誤認や言い間違いではなく、隊員達に向かって叫ぶことで「自分達は怯えていない。慌てているだけだ」と思わせ、怯えの軽減を図ったのである。

 その効果はあったらしく、二人の隊員が負傷者を後方へ引きずっていき、残りの七人が天使を召喚した。

 <第三位階天使召喚(サモン・エンジェル・3rd)>。これによって召喚されるのが、炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)だ。光り輝く胸当てを着け、手に持つロングソードは炎を宿している。見た目は全身甲冑……あるいは人間大の人型機械のように見えるが、背には天使らしく翼が生えていた。

 それら召喚された七体がアルベドに剣の切っ先を向け、一斉に突撃を敢行する。

 だが……。

 

 ガツン、カツン。キン、ガキン。

 

 乾いた金属音が聞こえるのみで、天使らの剣はアルベドの装甲に傷一つつけることができない。逆に剣が当たる位置まで接近したことにより、アルベドの巨大な斧頭を持つ武器(バルディッシュ)が一閃。七体の炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)は瞬時に切断され、消滅した。

 

「あ、ありえん……」

 

 ニグンの声に焦りの色が見えだす。

 意識を集中し、自分が召喚できる最強天使、監視の権天使(プリンシパリティ・オブザベイション)を召喚しようとするが……そこにモモンガからの声がかかった。

 

「ニグン殿。外野からの手出しはルールに入っていなかったはずだが? 今からでも総力戦に移るかね? ロンデス殿を除き、我ら三人も戦線に加わるが……よろしいかな?」

 

 その声が耳に入った瞬間。何か重石でも乗せられたかのように、ニグンは身体を硬直……屈ませた。

 

「い、いや。ルールを破るつもりは無い。時に、アインズ・ウール・ゴウン殿」

 

「なにかな?」

 

 一転して落ち着いた声でモモンガが返す。少し圧迫感が薄れたのか、ニグンが叫び返してきた。

 

「申し訳ないが、この一戦は我らの敗北としてよろしいか! そちらの女性には隊員では勝てそうにない! あと、作戦を練る時間も欲しい!」

 

「ふ、ふっははは。構わないとも! では、そちらの隊員は引っ込めたまえ。アルベドよ。お前も戻ってくるように」

 

 機嫌良くモモンガが言うと、動ける陽光聖典隊員らはズザザザッとニグンの元まで退いて行った。アルベドは、その後ろ姿を見つつ巨大な斧頭を持つ武器(バルディッシュ)を一振り、血糊を飛ばすと一礼してからモモンガ達の元へと戻ってくる。

 

「戻りました。アインズ様」

 

「御苦労だったな。見事な戦いぶりだったぞ! で、戦ってみた感触はどうだ?」

 

 モモンガの問いにアルベドは「くふー!」と一悶えし、ガチャリと音を立てて首を傾げてみせた。

 

「取るに足らない弱者。という印象しかありません。レベル三〇に達している者は居ないと思われます。あのまま戦えば、一瞬で全員を殺せたかと……」

 

「三味線を弾いていた可能性は?」

 

「無いと思われます。彼らの怯えように嘘は無かったようですし……」

 

 戦闘者、あるいは戦士職の勘であろうか。怯えが嘘かどうかまではモモンガには解らない。ただ、ヘロヘロと弐式は納得いったように頷いている。

 

「二人とも、今ので解るんですか?」

 

「俺、忍者だから。そういうスキルとか能力があるんだよね」

 

「私はモンクを修めてますから。その辺が関係してるんでしょうかね」

 

 フーンと感想を漏らしたモモンガは、自分も戦士レベルの一つぐらい持っておくべきだったかと思ったが、それは今考えても仕方ない話である。

 PVPは一旦休止となったわけだが、気になるのはニグンがどのような作戦に打って出るかだ。

 

「あの人達、作戦を練ってるらしいですよ?」

 

「アインズさん。プッとか笑ったら可哀想ですよ。にしても、戦い方を工夫したところで、レベル差が引っ繰り返ると思います?」

 

「無理でしょうね」

 

 モモンガは弐式の問いに苦笑しながら返すと、離れた位置で円陣を組んでいるニグンらを見やった。何やら声は聞こえてくるが、モモンガにとっては焦って混乱しているようにしか聞こえない。

 アイテムボックスを開き、恐らく出番の無さそうなスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを確認してから、モモンガは呟いた。

 

「さ~て、どう出る? 面白いモノを見せてくれよ~?」

 




ニグンさんが総力戦に出なかった理由
・モモンガさんが五人連れで登場したこと
・忍者の弐式さんが居ることで蒼の薔薇を思い出したこと
・ロンデスが一緒に居ること

あと、本作のモモンガさんは、ヘロヘロさん達が居ることで基本的に大らかです。更に人化を重視しているので、そこも影響があります。

あと、これだけは言っておかなければなりませんが
陽光聖典隊員の集団詠唱で<衝撃波(ショックウェイブ)>を最後に持ってきたのは、アニメを見た上でのこだわりです。
ルビを「ショックウェイ!」にしようかと30分ほど悩みました。


<御報告>
忠犬友の会さん、毎度ありがとうございます
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