オーバーロード ~集う至高の御方~   作:辰の巣はせが

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第130話

 インスタント・ギルドホーム。

 ユグドラシル末期のテコ入れアイテムである。お手軽に拠点を設置できるというのが売り文句で、地上エリアと地下一層を構築可能であり、各種設備を設定できる等、最低限のギルドホーム機能を備えていた。扱う者の手腕と課金次第では、一〇〇レベルプレイヤー数人をも相手どれる。新規ユーザーを獲得するべく、運営の期待とともに実装されたアイテムだったが、ユグドラシル終焉を覆すには至らず、ユグドラシルもプレイヤーも、ついでに運営も救うことはできなかった。

 そんなアイテムだが性能は(その規模の小ささ以外は)申し分なく、今のあまのまひとつにとっては救いの神と言える。

 

「よし、こんなものか……」

 

 地上部と接続する階段。そこから最も離れた居室で、あまのまひとつは一息ついた。居室は最初、ビジネスホテルの宿泊室風としたが、罠設置などを終えて気が落ち着いてきたら快適になるよう手直しが始まっている。それが今完了し、殺風景だった部屋は王侯貴族の部屋かと思えるほど豪華になっていた。

 ふかふかの絨毯の上を人化したあまのまひとつが歩いていく。

 異形種としてのカニ形態が不便……そして不安に感じたので人化できるすべはないかと思い立ったところ、普通に人化できてしまったのだ。

「おまけにレベルは一〇〇になってるし、どうなってるんだ?」

 その一〇〇レベルのおかげで、インスタント・ギルドホームの強化がはかどったし、色々と手を入れることもできた。不可解だが、ありがたいことに違いはない。前方を注視すると、そこにあるのは木製のゲーミングチェアとデスク。そして十面ものディスプレイだ。ここから迷宮内のモニタリング及び罠の設置や発動を操作できる。デザイン的にはファンタジー臭を壊さないよう、遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)っぽい見た目で、ゲーミングチェアと同様、メカメカしさが排されていた。

 ギシリとチェアをきしませて腰を下ろしたあまのまひとつは、さっそく監視システムを起動させる。操作はキー入力で行うが、樹脂製のキーボードなどではなく、空中に半透明のキーパネルが出現するタイプだ。

 

「現状、侵入者はなし……。罠の欠損も発動履歴もなし。さて……」

 

 つい先ごろまで町工場で社長と呼ばれていた男は、現状についておさらいしてみた。

 まず、この霧に覆われた場所は何なのか……さっぱりわからない。

 ほかのギルメン達はどこへ行ってしまったのか……不明だ。<伝言(メッセージ)>も不通状態となっている。

 なぜ自分は、レベル一〇〇なのか……やはり不明。

 そもそもログアウトできないのは何故か……これまた不明だ。

 

(運営にもコールできないしな。あと、この身体が妙に生々しいんだよな。まるで本物じゃないか……)

 

 異形種体から人間体に人化できたときは、元に戻ったと喜んだのだが、元に戻っていたならログアウトもできているべきだろう。結論、少なくともここは元の現実(リアル)ではない。そして、今の自分は異形種になれる人間か、人間の姿になれる異形種か。こればかりは感覚で理解できた。

 

(後者だな……。俺は人間じゃなくなったわけだ……。……工場が駄目になったばかりだってのに、人間としても駄目になるなんてな~……)

 

 背もたれに体重をかけながら視線を上に向けたあまのまひとつは、顔の前に左手のひらを移動させる。異形種であれ……と念じると、その手のひらが音を立てて巨大なハサミに変貌した。

 

(わかる。本物だ、本物の異形種の身体だ……。違和感とかないのが、本当に不気味だな)

 

 身体だけでなく本性まで異形種になったということなのだろう。

 一方で人化をすると、それはそれで落ち着くのだ。

 人間の感覚を知った状態の異形種とでも言うべきか。

 

(それもまた慣れていい感じになっていくのかな? ……ハア、だがまあ、とりあえず身体のことはさておき……)

 

 これからのことを考えるべきだろう。拠点を作ったので、しばらく様子を見てから外を探索するという方針は悪くない。問題は、設置した拠点の罠や、自分の持つアイテム類が外部の者に通用するか……ということだ。それなりにお高い罠類で、あまのまひとつのスキルにより強化したものがそろっている。だが、仮にここ……この世界(?)が巨大ロボットのあふれる世界なら、まるで通用しない可能性も考えられた。

 

「あれこれ想像してもしかたないか。やはり、あとで外に出よう。腹をくくってかかるしかないな……」

 

 はぐれたギルメンと連絡を取って合流すること。可能であれば、現実(リアル)に戻る方法を考えること。大きく二つの方針を定めたあまのまひとつは、左手を人のモノに戻し、アイテムボックスから干し肉や飲み物を取り出した。今回のログイン時、雑多に詰め込んだアイテムの中には、回復アイテムとしての食糧が含まれていたのである。

 

「皆でモモンガさんのところへ行って、ゲーム内でドンチャン騒ぎするつもりだったんだがな~……。干し肉、美味(うま)~……メシは現実(リアル)よりも素晴らしいな!」

 

 なんにせよ当分は飲み食いに困らないし、現実(リアル)と違って食べ物が美味しいのはありがたい。仮に食料が尽きても、維持する指輪(リング・オブ・サステナンス)があるから、相当な期間をここで粘れるはずだ。

 

「引きこもっているわけにはいかんがね。ただ、なんというか、ふあ~あ、眠くなってきた。気疲れしすぎたかな?」

 

 あまのまひとつは大あくびをすると、一見は木製の高級品に見えるゲーミングチェアで寝息を立て始める。工場閉鎖でブチ切れて、気まぐれでゲームにログインしたら変な空間にとどまって、こんなわけのわからない場所に飛ばされた。しかも、たった一人でだ。だから、この気疲れというのは、まったくもって本当であり、こうして疲れて寝てしまうのも無理のないことである。

 ただ、あまのまひとつは知らないことであったが、この転移後世界にきたギルメンは基本的に異形種になっており、人化した状態で長時間過ごすことで本来の異形種で居続けられないストレスが蓄積するようになっていた。そのストレス蓄積とともに、とある精神ゲージが上昇する体質にもなっていて、これは時折、異形種化をすれば解消し、精神安定系アイテムを併用することで長く耐久できる。また、人化したまま寝る程度で溜まり切ったりはしない。しかし、タブラの検証により、今のあまのまひとつのように精神的に消耗しきった状態だと、ゲージの溜まりが早くなるのが……茶釜から折檻された状態のペロロンチーノの協力で確認されていた。

 ゲージが溜まりきったギルメンがどうなるかというと、精神に異常をきたし普段は見られないような言動をとるのだが……。

 そのゲージのことを、モモンガ達は『発狂ゲージ』と呼んでいる。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 弐式分身体は、通路を通って第一階層に侵入していた。

 侵入と言っても、罠の解除や回避をしながらであるから堂々と歩いていると言っていい。

 

(とはいえ……)

 

 後方を振り返る。

 第一階層のおどろおどろしくも暗い通路が見えるが、弐式分身体の視界では暗がりの各所にて罠がマーキング表示されていた。罠探知に類するスキル効果なのだが、危険度に応じて色分けがされている。解除済みは青色、未解除で危険度が低いものは黄色。そして、未解除で危険度が高いものは赤色という具合だ。黄色罠はともかく、赤罠を放置して進むのは後から来るモモンガ達にとって良くないのではないか。もちろんそうなのだが、残してきた赤罠は弐式分身体では解除できなかったのである。

 

(恐ろしすぎる。とんでもない罠通路になってるぞ……。これって高値の資材とか投入しているんじゃないか?)

 

 性能向上を狙うなら有効だろうが、コストパフォーマンスが悪すぎだ。これまで通過した場所の罠には、一回発動すれば消失する消費型の罠が含まれていたのである。これら罠の設置費用を自腹で出すことを考えた弐式分身体は、大きく身震いをした。

 

「冗談じゃね~……。おまけに、罠の解除難易度がバリ高なのが混ざってるし~」

 

 前述したとおり、未解除の赤罠がそうだ。

 弐式本体であれば解除できるかもしれないが、あそこまでの難易度となると分身体は手を出さない方が良い。そして悪いことに、罠の解除難易度は前進するほどに上昇しつつある。本体に満たない能力値の分身体では、対処不可能な罠が増えていた。

 

「……帰るか。今のところモンスターは配置されていないけど、もし出たとしたら戦いながら移動するとか自殺行為だしな」

 

 そこら中にある罠を踏んで起動させるのが目に見えている。侵入者撃退タイプの防衛ゲームでよく見られる、罠連鎖にはまる危険性すらあった。

 撤退を決断した弐式分身体だが、そんな彼の視界前方……暗がりから一つの影が抜け出てくる。

 

 ブビビビビビ……。

 

 妙に耳障りな飛行音を発しているのは、胴体だけでバスケットボール大サイズの蠅だ。その名をジャイアントフライという。攻撃手段は消化液を吐きかけることだが、射程距離は一メートルを超えることはなく、威力も低い。弐式の超軽防御ですら一撃では抜けない程度なのだ。危険視すべきは異常なレベルの回避力で、弐式本体であっても面倒な思いをするほどだった。

 弐式分身体は、ジャイアントフライを睨みながらジリジリと後退する。

 

(嫌な奴を配置してるな~……。確か、こいつには決定的な弱点があるんだっけ。魔法攻撃に、からっきし弱いこと!)

 

 第一位階魔法の<魔法の矢(マジック・アロー)>を無強化で撃っても一撃死なのだから、その弱点ぶりは明らかだ。問題は、そういった攻撃魔法を使える者が今ここに居ないことだろうか。

 

(本体なら魔力載せのできる手裏剣を持ってるけど……あ、駄目か。確か、攻撃魔法認定されないと無効化されるんだっけ? ひでー話だな~)

 

 つまり、ここに弐式本体が居ても対処が難しいわけだ。

 

「……あばよーっ!!」

 

 交戦しないことにした弐式分身体はクルリと向きを変え、元来た通路を駆けていく。能力が本体に劣るとはいえ、蠅ごときに追いつかれる程遅くはない。

 

「機動力じゃ負けるかもだけどなーっ!!」

 

 通路に残る未解除罠は多いが、駆け抜けるだけなら造作もないことだ。

 ただし……。

 

「包囲するように配置か、そうだろうな……」 

 

 弐式分身体の強化された聴覚が、周囲からの蠅の羽音をとらえている。このままだと地上に出るまでに囲まれるはずだ。これまた嫌な配置であったが、この程度の危険は織り込み済みだ。ここから先、周り中に罠がある状態での高速回避を強いられるだろう。しかし、弐式分身体は喉の奥で笑ってみせた。

 

「ハンデありの避けゲーとか上等じゃん。分身体でも舐めてんじゃねーぞ!」

 

 さらなる加速。この時点における弐式分身体の勝利条件は、弐式本体の居る場所に辿り着くこと。視界のあちこちを罠のマーキングが通り過ぎていく中、弐式分身体は自身の勝利を疑わなかった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「たっち・みー様、紅茶の用意ができました」

 

「うん、ありがとう。セバス……」

 

「やまいこ様、お茶うけはチーズケーキでよろしかったですか?」

 

「大好物だよ! ありがとうユリ!」

 

 周囲が霧で覆われている状況に変わりないが、モモンガ達、ギルメンの待機場所には少しばかり変化が生じている。

 まず、待機場所だけ霧が存在していない。これは、タブラが手製の消費アイテムを使用した結果である。モンスター避けを施しているとはいえ、隣に立つ者の顔さえ視認しづらいのでは気が滅入るのだ。

 そして待機場所には貴族趣味なテーブルと椅子。それらが二組用意され、それぞれにたっちとやまいこが居て紅茶を楽しんでいた。ことの発端は老執事……セバス・チャンが「待機中ですが、お茶の用意など……」とユリ・アルファと並んで進言したことによる。テーブルセットに紅茶セット等、これらをやまいこがアイテムボックスに入れていたことで、ティータイムとなったわけだ。だが、他のギルメンは紅茶のみいただき自分達はレジャーシートで良いとして座り込んでいた。なお、アルベドは普段着に着替えてモモンガの隣で腰を下ろし、ナーベラルはセバスとユリの補助をするべく戦闘メイド(プレアデス)服に着替えて、今ではユリの隣で立っている。

 このような配置なので、たっちとやまいこのみ優雅なティータイムを楽しんでいるように見えるが、これはセバス達が他のギルメンを差別しているということではない。どちらかと言えば、モモンガ以下のギルメンらから愛でられているのだ。

 

「せっかくだし、セバスはたっちさんの、ユリはやまいこさんのお世話をしてはどうかな?」

 

 このタブラの提案に茶釜と弐式が悪い顔で乗り、「あの、やめた方が……」と良い子ぶるモモンガを説得の末に抱き込んでこうなったのだ。そうして、NPCにかいがいしく世話されるギルメン二人をモモンガ達が観賞するという構図ができあがったのである。

 

「いや~、ご主人とメイドさんのこういうシーンっていいですね~。俺のナーベラルも絵になってるし~」

 

「ほんとにね~。帰ったらアウラとマーレにもメイド服を着せてみようかしら? おっとアウラには執事服よね~、そこは譲れないもの!」

 

 弐式と茶釜がティーカップ片手に盛り上がっている。二人の右後方で座るタブラもティーカップ片手だが、こちらは「やりにくそうにしているたっちさんと、状況をものともせず楽しむやまいこさんの対比が良い感じだね。そうだ、録画しておかないと!」などと言ってデータクリスタルを持ち出していた。

 

「あの、ほどほどにしておいた方が……」

 

 力なく声をかけるモモンガだが、彼も彼で「その辺にしておいて、皆の分のテーブルを出すか造りますよ! と言うか、今出してるテーブルに加わればいいでしょ!」と流れを変えにかかることはない。なぜなら、モモンガはタブラにおおむね賛同していたからだ。

 

「んん~、まあ、皆が楽しそうだからいいのかな……」

 

 たっちも、そこまで嫌そうにはしていない。

 ならば、このまま紅茶を楽しむのが正解だ。

 人化しているモモンガは、相変わらず美味いナザリック持ち出しの紅茶を味わっていたが、アルベドがカサカサッとにじり寄ってくるのを感じ、カップから口を離した。左方を見ると、肩と肩が触れ合うまでにアルベドが接近している。当然ながら顔が近い。ナザリックの女性NPCは、ほぼ全員が天上の美とうたわれる美貌を誇るが、アルベドに関してはタブラが事前調査したうえでモモンガ好みにしているため、モモンガにとってはトップクラスの美しさを感じてしまう。

 

(いや~、ドキドキするな~。しかし! ここで「どうかしたか? アルベド?」と言ってしまうのは、過去のモモンガさんよ。今の俺は相思相愛でアルベドと交際しているのだから、このぐらいで童貞臭い対応をしたりしないのだ! 事実、童貞じゃないしな!)

 

 と、内心で童貞臭いことを考えるモモンガは、アルベドとの肩の接触を静かに楽しんだ。

 アルベド側としては肩接触が許容範囲と判断し、たまにチラチラと視線を交わしながら肩を押したりすり合わせたりしている。ただそれだけなのだ。そこから先には進まないのだ。なぜなのか。ほかにギルメンが居るからか。それもあるが実のところ、肩の感触だけで股間が危ないことになりかけていたので、モモンガ側は大いに自重せざるを得ないのだった。では、アルベド側はどうだったかというと、以前にタブラから「無理強いをすると、モモンガさんは逃げる」と言われたことを覚えており、ソフトなイチャイチャを楽しむに留めていた。もし仮に、ここにモモンガと二人だけであったなら、モモンガの了承を得た上でのことになるが、おっぱじめていたことだろう。

 そして、こうしたゆるゆるの空気の場へ、弐式分身体が帰還することとなる。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「……随分やられたな」

 

 霧の中、弐式本体……弐式炎雷が立ち上がり、戻ってきた分身体に声をかけている。

 時間的には昼を回ったころだ。皆でレジャーシートに座って、軽く食事をしたり紅茶を飲んだりと休憩していたが、そこへズダボロになった分身体が戻ってきた。全身各所が裂け、黒く焦げ、凍結し、腐敗している。どう見ても無事ではないが、分身体はスタスタと歩いていた。そして、弐式が声をかけるやシュタッと右手をあげる。

 

「たっだいま~。いや~、ひどかったよ~」

 

 声の調子も平時と変わらない。しかし、見た目があまりにも酷いので、モモンガを始めとしたギルメンの誰も声を出せなかった。声をかけられた際に立ち上がったり腰を浮かした状態で固まっている。ただ一人、ナーベラルのみが声を震わせた。

 

「弐式……炎雷様……」

 

 口元にあてていた手を下ろし進み出ようとするが、その前に弐式炎雷が立つ。

 

「お疲れさま、分身体の俺。記憶の融合……できるよな?」

 

 そう言って握手を求めるように右手を出した。分身体を戻す際、分身体の記憶を取り込むことができるのだ。ただし、これを行った分身体は消滅する。だが、分身体は肩を揺らして笑った。

 

「ハハハ、もちろんさ本体。それに……」

 

 チラッとナーベラルを見た分身体は、おどけるように肩をすくめる。

 

「こんなボロッちい姿、いつまでもナーベラルに見せていられないものな」

 

 差し出された弐式の手を握ると、分身体の身体は積もった綿埃(わたぼこり)が風に吹かれるようにして崩れだした。

 

「本当にお疲れだよ……」

 

「気にすんなよ。俺ら、忍者じゃん?」

 

 その言葉を最後に分身体は消滅する。

 弐式は、分身体の手を握っていた手で片手合掌をすると、俯いたまま暫し立ち尽くしていた。数秒たち、モモンガ達を振り返ると弐式は朗らかな声で言う。

 

「さて、何から話しましょうか?」

 

 

◇◇◇◇

 

 

「早い話が罠山盛りのダンジョンですね」

 

 弐式炎雷が分身体の記憶を頼りに説明している。

 門から進んで地下に降り、数多の罠をかいくぐって最奥付近にまで到達したが、分身体の力量での前進が困難と判断し、帰還した。

 

「それで撤退中、ジャイアントフライの追撃を受けたんですよ。いや、蠅自体や攻撃には当たらなかったんですけどね。けど、俺に当たらないもんだからって、連中、罠の方に突っ込みまして……」

 

 発動した罠が放つ矢や突出槍、それらは弐式自身が気持ち悪く感じるような動きで回避したが、範囲攻撃系の魔法罠を回避しきることができなかったのだ。

 

「まあ、外装がボロくなる程度で戻ってこられたのは、さすが俺の分身体と言っていいでしょう!」

 

 ちなみに外装のみの損傷というのは嘘で、そこそこの痛手を分身体は被っている。本当のことを言わなかったのはナーベラルに心配させないためだ。

 

「と、ここまでが分身体の記憶です。俺の見立てだと、到達場所から最奥までの間は更にヤバい罠があると見ました。それこそ第十位階魔法の罠もあるかと……」

 

 弐式の報告を聞き終え、モモンガ達は顔を見合わせる。

 聞けば採算度外視の危険罠があるようで、高位階の魔法罠もあるらしい。

 だが、物理罠であれば弐式炎雷が何とかする。分身体では厳しかったろうが、本体なら何とかなるだろうし弐式自体もいけると考えているようだ。魔法罠の方は対応する手立ての多いモモンガと、錬金術系のスキルを持つタブラ・スマラグディナが居るから、こちらも対応可能だろう。たとえ第十位階を超える超位魔法が飛んできたとしても、対処は可能だ。

 

「課金アイテムも色々と取り揃えてきたからね!」

 

 明るい口調でタブラが言うのでモモンガも頷いた。

 

「俺だって同じですよ。ギルメンと合流できるかどうかなんです。諸々、凄いのを持ってきました!」

 

 モモンガの声に張りがある。弐式分身体の頑張りにあてられたのもあるが、得られた情報から攻略可能なダンジョンと判断したのだ。

 

(やはり偽ナザリックはインスタント・ギルドホームのようだし? アイテム性能の規模から考えても短期集中で攻略できそうだ)

 

 仮に最奥の人物が世界級(ワールド)アイテムを使用したとしても、こちらにだって世界級(ワールド)アイテム所有者は居るのだから対応可能だ。

 モモンガは決断した。

 

「行きましょう、皆さん!」 

 

 偽ナザリック調査隊、現地ダンジョンに向けて突入開始である。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 あまのまひとつが目を覚ましたのは、弐式分身体が地下に降りて少したった頃だ。

 当然というべきか、疲労困憊状態下……人化したままで寝ていたあまのまひとつは、すっかり発狂していた。

 どんな具合に発狂していたのか。

 それは、『侵入者を即座に敵認定して、相手が誰であろうと改めない』というもの。これはブルー・プラネットが発狂したときの状態に似ている。

 地下侵入時の弐式分身体は、本人が特に隠形しなかったせいもあってモニターに映っていたが、あまのまひとつは相手が弐式炎雷だと知った上で排除の方針を変えなかった。

 

「弐式さんか……。あれ、本体なのかな?」

 

 さすが旧知の中だけあって、ギルメンの手口は心得ている。

 もっとも、本体だろうが分身体だろうが撃退するだけなのだが……。

 

「俺の『安全地帯』への侵入は許しませんよ……っと」

 

 机上で浮かぶ半透明のキーパネル。それを操作し、あまのまひとつはジャイアントフライを配置した。弐式炎雷と思しき人物の進行方向を囲む形の配置であり、撤退する行動を見せたら左右や進行方向から襲いかかる設定となっている。

 

「あとは、たぶん当たらないだろうから五回避けられたら、近くや進行方向のトラップに突っ込ませるか。誘爆に巻き込めたら最高だな……」

 

 結局、通常の攻撃ではかすりもせず、想定したとおり自爆攻撃に巻き込んで追い返す形となった。この撃退戦で弐式が特にアイテム類を使用しなかったため、あまのまひとつは侵入した弐式が分身体だと確信している。

 

(そうなると次は本体が来るかな? ん~?)

 

 気がつくとキーパネルの一部に警告表示が出ていた。拠点への接近者感知の表示である。あまのまひとつは弐式分身体の撃退に気を取られて、接近警告に気がつかなかったのかと思ったが、感知時刻は弐式分身体の侵入よりも前だ。

 

「俺が見落としてたのか? 危ない、危ない。弐式さん本人が来ているのかな?」

 

 外部配置した映像送信用の魔物経由で確認したところ、敷地のすぐ外で待機中のモモンガ達を発見した。一眠りする前は、合流を切望していたモモンガ達の発見であったが、今のあまのまひとつにとっては自身と自身の拠点を脅かす悪党にしか見えない。

 

「ああ、弐式炎雷さん、発見。ちゃんと居るな。あとは……うげぇ、たっちさんと茶釜さんとタブラさんにやまいこさん。で、駄目押しにモモンガさんか……。その他、なんでナザリックの外に出せてるのか知らないけどNPCが四人? 何、この強力編成……」

 

 一方、拠点側に居るのは、あまのまひとつのみ。絶望的な戦力差である。しかし、探し求めていた知人友人らの発見だから、発狂さえしていなければ、あまのまひとつは外に飛び出て対話を選んだことだろう。だが、悲しいかな今の彼は発狂している。外に居る連中は侵入を許すべきでない敵……にしか思えなかった。そして、せっかく設置した拠点を放棄するという選択肢も彼にはなかった。ここに籠もっていれば長期間粘れるはずだし、何より機能拡張や罠の設置に手持ちの資金資材を投入しすぎている。

 

(もったいなさ過ぎて逃げられない!!)

 

 拠点に対する執着もあり、あまのまひとつは施設や諸々を放棄して逃げることも選択しなかった。そうなると、あとは徹底抗戦あるのみだが、戦うことで手持ちのアイテム類が急速に損耗するについては良しとしている。この辺、やはり発狂状態の影響が出ているのだ。

 かくしてここに、あまのまひとつ氏の『たった一人の戦争』が始まる。

 

「絶対に撃退してやる。ここは俺の住処なんだからな!」

 

 勝っても負けても悲しい思いをするのは自分なのだが、あまのまひとつの戦意は旺盛であった。

 




早めの投稿となりました。
キリの良いところで投稿したので、いつもより文字数はちょっと少ないです。

次回、採算度外視罠とモモンガ率いる偽ナザリック調査隊が激突します。
まあモモンガさんらが考えているように、大抵の罠は問題じゃないのですけど。その辺はまあ、何もかも楽ちんで終わっても面白くないので、何か考えてみます。 

このシリーズが終わったら、次のリクエストに手を付けなくちゃ。

<誤字脱字報告>
毎度ありがとうございます。
最近、個別でお名前を出してなくて申し訳ありません。
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