オーバーロード ~集う至高の御方~   作:辰の巣はせが

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第132話

 偽ナザリック地下大墳墓。

 その調査隊であるモモンガパーティーは、現在、地下第一階層の最奥にて顔を見合わせていた。

 偽ナザリックとは、モモンガ達がつけた仮称であり、正式名称はインスタント・ギルドホームという。ユグドラシル末期にゲーム内販売されたアイテムで、転移後世界に来たあまのまひとつが、緊急の拠点として運用している……と思われるものだ。

 その敷地面積は、本物のナザリック地下大墳墓とほぼ同じであったが、地下層は一階層しかエディット設定できない。あくまで拠点体験用アイテムなのであり、スペックは最低限なのだ。モモンガ達は、その地下をくまなく探索したが、肝心のダンジョン主……あまのまひとつらしき人物を発見できないでいる。

 困り果てたモモンガ達は、最後に行きついた何もない玄室にて円陣を組み、意見を交わし合っているのだ。NPC達はというと、数歩離れて一列に並び待機中。向かって左から、アルベド、ユリ、ナーベラル、セバスの順でギルメンらを注視している。

 

「それで、弐式さん?」

 

 ギルド長だからという理由で司会進行を投げられた死の支配者(オーバーロード)……モモンガが、腕組みして立つ弐式を見た。

 

「どこを探してもダンジョン主は居なかったんですね?」

 

 すでに報告を聞いた後だが、確認せずにはいられない。

 聞かれた弐式は腕組みを解き、すがるように説明した。

 

「俺もインスタント・ギルドホームのことは知ってますけど……この地下層のどこを探しても見つからないんです……。念のため、分身体と入れ替わりで地上に戻って地表部も調べましたが、隠し部屋も無いようでして……」

 

 探索役としてのプライドにダメージが入っているらしく、弐式の口調は重い。

 この場に居るギルメンで、インスタントギルド・ホームの仕様を知っていたのはモモンガと弐式だけだ。<伝言(メッセージ)>で確認したところ、他ではヘロヘロも知っていたが、やはり知っている情報に違いはなかった。

 

「モモンガさん……」

 

 一人で考察していたらしいタブラが問いかける。

 <転移門(ゲート)>の類の魔法かアイテムで、別所のダンジョンないし施設と接続している可能性はないか。例えば、離れた別所からインスタント・ギルドホームを管理運営しているとか……。

 ありうる話だが、それだと弐式が探知して発見するだろう。

 

「それとアイテムの仕様上、そういうことは出来ないはずです。あくまで新規ユーザー寄せのお試しアイテムですし、色々でき過ぎるとゲームバランスが崩れますからね。でも、世界級アイテムか<星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)>を使えば……いや、それも無理か。それが可能なら攻略掲示板に情報が載ってたろうし……」 

 

 言いながらモモンガは首をかしげた。

 やはり、おかしい。自分が言ったとおり増設できない、外から遠隔操作もできないとなれば、やはりダンジョン主はインスタント・ギルドホームの中に居るはずなのだ。なのに、弐式が痕跡すら発見できないというのは……どう考えても不可解。

 

(何か……見落としているんだろうか?)

 

 時間が、むなしく経過していく。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「ククククク! モモンガさん達、焦ってるな。愉快愉快!」

 

 あまのまひとつが嬉しげに身体をゆすった。

 口ぶりと喜びようは悪の組織の改造人間にしか見えない。言わば怪人カニ男だろうか。

 ここ数分ほど罠部屋の増設作業(床に魔法陣エフェクトを出してMPと金貨投入)をしていた彼だが、モニター前に戻ってみれば、モモンガ達が円陣を組んで「あーでもない、こーでもない」と議論しているのだ。これが愉快でなくて何だというのか。

 

「インスタント・ギルドホームは、新規ユーザー向けのお試し商品。最低限のギルドホーム機能しかないから、ホームエリアは地表部と地下一層のみエディット可能。だから、地表部か地下一層のどこかに俺が居るはずだ! ……そう思ってるんだろ? 違わないけど違うんだなぁ、それが!」

 

 あまのまひとつは、元の現実(リアル)で工場一つを仕切る立場に居た。自宅兼とはいえ工場は仕事場であったため、セキュリティには人一倍うるさい。今回、まだ確証は持てないが別世界……転移後世界に一人で放り出された際、手持ちのインスタント・ギルドホームを使用するにあたって彼はとある工夫をしていた。

 まず、自身のクラフトスキルやアイテムを駆使し、カッツェ平野に巨大なくぼ地を作成する。掘り出した土砂類はアイテムボックス行きだ。あまのまひとつは生産職ビルドだから、アイテムボックスには余裕がある。その後、くぼ地の底に収まるようインスタント・ギルドホームを設置し、上部を覆いつくす形で……『地表部』を別途作成した。

 つまり、ナザリックを模した地表部の墓地は、あまのまひとつがクラフトスキルで作成したもの。そして、モモンガ達が地下第一層だと思っている現在地は、実はインスタント・ギルドホームの『本来の地表部』なのだ。

 

(インスタント・ギルドホームの地表部は、デフォルトが『平野』だったから、ダンジョン風に仕立てるのは楽だったな~)

 

 どちらかと言えば、その上に再現したナザリック地下大墳墓地表部の方が手間だったと言える。なにしろ記憶頼みで作ったため、ディテールが今一つなのだ。クラフト系スキルがなければ、もっと酷いことになっていた可能性すらある。無理をしてナザリック地下大墳墓を再現する必要はなかったが、発狂しきる前のあまのまひとつは、その外観からギルメンに発見してもらえることを期待していたのである。

 

「ともあれ、俺は『第二階層』に居るってわけよ。時間制限はあるけど、上層と接続する階段類は消去したし! 物理的な断絶だけじゃない、システム上の仕様やルールとしての断絶だぞ? 弐式さんが課金アイテムを使っても、この『第二階層』を探知できやしないんだ。仮に探知できたとしてだ、天上の剣(ソード・オブ・ダモクレス)対策だって課金アイテムや、その他諸々でやってるマジ鉄壁! これはもう、諦めて帰るしかないですねぇ~~」

 

 天上の剣(ソード・オブ・ダモクレス)は対建築物用の超位魔法だ。信仰系第十位階魔法で構築する防空壕すら貫通できるのだが、高レベルプレイヤーの嗜みとして知っているので、当然対策はしている。

 ここまで徹底した防御力及び隔絶状態では、自分も出入りできないのではないか。だが、大丈夫。この居室からの操作で上層への階段設置ができるため、管理者権限で出入りは自由なのだ。もっとも、すぐ上の階以外への階段及び通路設置ができないため、モモンガ達が帰ってくれないことには外に出られない。それに、先ほど独白したとおり、この有利状況には時間制限があった。だが……。

 

「ぶははははっ! か~え~れ! あ、そぉれ、か~え~れ!」

 

 とにかく今さえしのげれば良いと、あまのまひとつは意気揚々の帰れコールをしている。

 実に最高な気分だ。

 モニターの前で踊り狂う怪人カニ男。

 実に不気味な光景だ。

 しかし……それが中断される。

 

「か~……えっ?」

 

 モニターに映る死の支配者(オーバーロード)……モモンガが、通路の天井をジッと見上げていた。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 アルベドを始めとするNPCらは整列したまま沈黙している。

 周囲には気を配っているし、モンスター等の襲撃時には対応するが、今は至高の御方……ギルメンを注視しなければならない。少し前まで、ナザリック地下大墳墓に居るギルメンはモモンガだけだった。他のギルメンは、ほとんど姿を見せなくなって久しかったので、随分と寂しい思いをしたものだ。しかし、今では十人を超えるギルメンがナザリックに帰還している。ナザリックの下僕はより一層の忠誠を示さなければならなかった。ギルメンの一挙手一投足に注意し、必要とあらば身命を賭して助力をするのだ。

 

(ああああ、至高の御方の中心で思案するモモンガ様……素敵!!)

 

 中でもアルベドの目力は危ない……もとい、真剣である。

 愛する男の仕事モードを目の当たりにし、濡れない女など存在しないのだ。今まさに甲冑内では、満水ダムのごとく尿以外の体液放流を……。

 

「……ふう」

 

 危ういところで停滞化が生じ、アルベドは粗相するのを免れた。

 モモンガによる設定改変……『モモンガを……』があることと、設定の後半が未記載だったため、アルベドはモモンガについて何かを考えたとき、一瞬思考が停滞するのだ。言い換えると暴走する寸前に急ブレーキがかかるので、スンと醒めてしまうのである。ここ最近は設定改変効果が馴染んできていて違和感がなかったのだが、今回は興奮の度合いが大きく、停滞化が発生したらしい。

 アルベドは深呼吸をすると、ヘルムのスリットからモモンガを注視した。

 今、モモンガ達は、ダンジョン主を発見できないことで協議を重ねているが、何も問題はない。至高の御方達なら、そしてモモンガならば万事上手くいくのだ。

 これはアルベドだけでなく、セバスやユリなど他のNPC達も同じ思いであった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「ふ~~~~ん……」

 

 たっちや弐式、タブラまでもが戸惑いの表情を浮かべる中、いち早く立ち直ったのはモモンガである。とはいえ、アンデッドの精神安定で復活したのではない。この状況が気にかかり、考え込む形で冷静になったのだ。

 

(やっぱ今の状況、おかしくね?)

 

 この場に居るギルメンでインスタント・ギルドホームを知っているのは、モモンガと弐式炎雷。そして、サービス終了の日まで可能な限りログインを行い、新アイテムの情報もチェックしていたモモンガは、この場に居るギルメンの中で最も当該アイテムに詳しいと言える。

 その彼の知識上、ダンジョン主が中に居ないという状態はあり得ないのだ。

 

(皆には話してあるけど、このアイテム……高レベルプレイヤー相手にセキュリティ能力が低いというか尖りすぎで、誰か一人居ないと最低限の運用すらできないんだよな)

 

 簡単に言えば、事前設置の罠ならともかく、その場その場で罠を追加したりモンスターを適宜配置するなどは、プレイヤーが中から直接操作しなければならない。今回、モモンガ達はダンジョン内で襲撃されているので、この一点だけ見てもダンジョン内にダンジョン主が居るのは間違いなかった。

 

(それに仕様上、転移系の魔法で出入りができないし……)

 

 転移魔法で、いきなりダンジョン内に押し込まれることのないように……という運営の心づくし的な仕様設定である。しかし、この仕様、運営の意図どおりの性能を発揮したが、地上には一つの出入口だけで出入りしなければならない不便さが生じていた。この辺、ナザリック地下大墳墓にも似たような不便さはあるのだが……。

 

(で、弐式さんの探知で発見できないってのが、もうね……。引っかけ臭いというか何というか……。さて、こうやって長考している間に、迎撃を諦めて逃げられる可能性もあるけど、不可視とか隠蔽魔法を使って、こっそり入れ違いで外へ? 普通に考えて弐式さんの探知に引っかかるよな……)

 

 このダンジョン内に()らずして、先ほどまでのようにモモンガ達に対処できるか。それも再考したが、やはり不可能だ。世界級アイテムの幾つかを使えば、似たようなことは出来るかもしれないが費用対効果が悪い。

 

「中に居るまま、弐式さんに見つからないよう防衛指揮やダンジョン内操作を……ねぇ?」

 

 声に出して呟きだしたモモンガを、ギルメン達やNPC達が見つめている。モモンガは視線に気づかないまま呟き続けた。

 

「ダンジョン主の情報は、交渉する気がなくて敵対していること。金貨に余裕がありそうなこと。手勢としてのモンスターに余裕がないこと。クラフト系スキルが、超のつく一級品なこと。一人ないし小人数で対応していること。あと、あまのまひとつさんだったら戦闘職じゃないってことか……」

 

 その条件で、ダンジョン内に居てモモンガ達に対応し、なおかつ姿を隠し通せる方法。自分ならどうするか……。

 

「実は、地表部に隠し部屋がある。……それなら弐式さんが発見してるか。上方向に隠し部屋を造るのは無しだな。横方向、ダンジョン最外縁……外郭に穴を開けて隠し部屋を設置……。それって可能なのか? 可能だとしても、それはそれで弐式さんが発見するよな。エディット機能で可能なことなら、それこそ弐式さんが見つけちゃうし。却下だ……」

 

「うへ、えへへ……」

 

 独り言の節々で弐式の名前が出ており、それが彼の能力の高さを示していることで、弐式が照れ臭そうに頭を掻いている。ギルメンらは苦笑しつつ弐式を見ていたが、続くモモンガの言葉を聞いてモモンガに視線を戻した。

 

「じゃあ下か。でも、インスタント・ギルドホームは、設定可能な地下層の上限が一層分だけだし。下方向に増築とか無理だよ。俺がやるなら、ここから……ここから……」

 

 モモンガの視線が上を向く。そこには何の変哲もない石造りの天井があった。続けて視線を足元に向けると、そこには石畳がある。

 

「下や横が無理なら、やっぱり上に隠れ場所を増築するしかないわけで、それはさっきダメ出ししたし……。うん? ……上に増築?」

 

 ここで、あまのまひとつが「いかん、そうじゃない! 気づくなモモンガさん!」と叫んでいるのだが、当然ながらモモンガには聞こえない。

 

「上に増築か、なるほど。なるほど、そうか……上と下だ……。可能性は高いぞぉ!」

 

「何か気づきましたか?」

 

 タブラが声をかけてきたので、モモンガは大きくうなずいた。

 

「推測ですけどね。やはりダンジョン主は、ダンジョンの中に居るんですよ!」

 

 モモンガは続ける。

 

「俺は、こう思うんです。ダンジョン内に居なければならず、どんなに上手く隠れても発見されそうなら……自分の居場所に目を向けさせない努力をすればいい。その努力とは……」

 

 あらかじめ地面に広大な穴を掘り、その底にインスタント・ギルドホームを埋めて、上から覆いつくすように『地表部』を造る。埋めたギルドホームの地表部相当のエリアをダンジョン風に仕立てて……。

 

「自分自身がこもる場所は『本来の地下一層』に用意し、階段や通路を必要に応じて断絶。時間制限はありますが、システムとして『地表部』と『地下一層』が切り離されるので、プレイヤーの探知が及ばない。この偽ナザリックは……実質的に地下二層まである! ……というのはどうでしょう?」

 

 モモンガが説明を終えると、ギルメンとNPC達の視線が足元に向けられた。その中で、たっちが顔をあげて確認する。

 

「するとモモンガさん。ダンジョン主は、今居る場所の更に下に居ると?」

 

「可能性の一つですけどね。他の方法は、ちょっと思いつかないかな。世界級アイテムを使えば、まだ何かあると思うんですが……」

 

 ギルメン達から納得いったように、そしてNPC達からは感動したような溜息が漏れ出た。弐式などは悔しそうに首の後ろを掻いている。今は異形種化……ハーフ・ゴーレムになっているはずなので痒みは感じない。仕草だけのことだ。

 

「言われてみれば、そうか。モモンガさんの言うとおりだ。そこまでされたら、端から下を注意してても見つけられないかもな。なにしろシステム上、この下に階層はないことになってるんだから」

 

 

◇◇◇◇

 

 

「弐式さんとタブラさんを誤魔化せそうだったのに、なんで気がつくかなーっ!」

 

 『本当の最下層』の居室で、あまのまひとつが悔しげに叫んだ。しかし、どこか感心しているようでもある。

 

「さすがだぜ、モモンガさん! そうだよな、俺が思いつくぐらいだものな! しかしだ! そこから、どうやってこの階層に降りる? 接続を切った別階層は絶対に移動不可能! 難攻不落だぞ!」

 

 階層間の接続を切ったら難攻不落。

 ……新規ユーザー向けのお手軽アイテムなのに、そんなことができたらゲームバランスとしては無茶苦茶だ。なので、当然ながらデメリットは存在する。それは……。

 

(このインスタント・ギルドホーム。地表部との接続が断絶すると、一定時間経過で機能停止するんだよな。罠とか自動扉とか、他の施設機能も全部! しかも、デフォルトの階層移動用の階段を自動再設置した上でだ! 脱出用の仕様かもしれんが、運営め、余計なことを! ……だから、完全断絶で長期籠城戦ってのができない……)

 

 ユグドラシルでの仕様上、完全断絶可能な時間は一時間。解除してから次に同じことができるまでのインターバルは三時間。階層断絶の仕込みがバレた以上、モモンガ達は時間経過で出現する階段を使用し、機能停止した最下層に侵入するだろう。

 

(時間切れになるタイミングで、俺のお手製『地表部』を崩落させてやろうか? ……モモンガさんとタブラさんが居るから、パーティー全員を落盤等から守るのは余裕だな。糞が……。駄目かな? けど、やってみる価値はあるか? やらないよりは……)

 

 あまのまひとつは最下層に踏み込まれることを前提に、今後の方針を決めようとしていた。制限時間までは少し余裕があるので、やれることはある。この最下層には先程、かなり気合の入った罠部屋を設置したが、他に何か罠などを仕込んで……。

 

「そ、そういや資材の手持ちが、もう……うん?」

 

 ……ハサミの腕で腕組みするあまのまひとつは、モニター上のモモンガが更に話しているのに気づいた。話し相手は……たっち・みー。

 

(たっちさんに何か頼んでる? この状況を、たっちさんでどうにかできると?) 

 

 いくらたっちでも無理だろうと鼻で笑いかけたが、先刻、リビングアーマーが散々な目にあわされたのを思い出し、あまのまひとつは生唾を飲み込んだ。

 

(……と、とにかく、これ以上余計なことをされては……)

 

 残りのモンスターを差し向けて妨害するか。いや駄目だ、瞬殺されるに決まっている。罠の増設だって、敵対者の足元に直置きができない仕様なので、どうにもならない。最下層の通路はデフォルトの迷宮仕立てだが、手を入れなおすにしても資材が不足している。先程、渾身の罠を仕掛けるのに手持ち資材のほとんどを使ってしまったからだ。

 

(金貨とMPだけで設置できる罠なんて、弐式さんに太刀打ちできるわけないし……)

 

 あまのまひとつにできることは、モニターを見つめることだけだった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「ユグドラシル由来の施設系アイテム……それも拠点規模のダンジョン系って、壊すのは難しいと俺は思うんですよね」

 

 モモンガが皆を前に語る。

 グリーン・シークレットハウスなどは破壊可能だろうが、拠点規模で運用可能なダンジョンとなると、破壊するには余程のことが必要だ。余程のこと……モモンガは世界級アイテムや超位魔法の天上の剣(ソード・オブ・ダモクレス)であれば、ナザリック地下大墳墓クラスは無理でも、インスタント・ギルドホーム程度なら破壊可能だと考えている。だが、そこまでの『威力』を持ち出すとインスタント・ギルドホームは丸ごと吹き飛んでしまう恐れがあった。

 

「あまのまひとつさんだったら、当然、天上の剣(ソード・オブ・ダモクレス)のことは知ってるでしょうから、対策もされているでしょう。まあ、試してみるのも良いかもですが……」

 

「はい! 発言します!」

 

 モモンガの説明が一瞬途切れたタイミングで、やまいこが挙手をする。

 

「つまり! 小規模で物凄い威力の攻撃なら、システムで封鎖された下層にも行けるかもってことだね!」

 

 モモンガは頷きを返した。

 

「そのとおり。そして、その小規模でまとめられる物凄い攻撃に、俺は心当たりがあるんですけど……」

 

 視線をたっちに向けると、その場に居たたっち以外の視線がたっちに向けられる。

 たっちが右の人差し指を自分の顔に向けた。

 

「凄い攻撃で私が……ということは、次元断切(ワールドブレイク)ですか?」

 

「ええ、先日のPVPで使ってた極限圧縮版。アレならいけると思うんですよね!」

 

 鼻息荒く言うモモンガには勝算がある。インスタント・ギルドホームのアイテム規模に対し、たっちの極限圧縮版次元断切(ワールドブレイク)ならば打破できる可能性が高い。それと、もう一つ。あの日のPVPで見た極限圧縮版次元断切(ワールドブレイク)を、もう一度見たかったのだ。

 

(頼んだら見せてくれるだろうけど、甘える感じになるのも嫌だしぃ~)

 

 この機会を利用せずしてどうするか。

 モモンガの心境にタブラや茶釜といったPVP参加メンバーは気づいていたが、あえて何も言わない。弐式に関してはPVP不参加だったものの、ユグドラシル時代では見られなかったたっちの新技と聞いて、興味津々のようだ。

 一方、居並ぶNPC達は、全員がPVPに不参加かつ知らなかったため、頭上に?マークを浮かべている。その中でアルベドが挙手をした。おずおずとした動作なので普段の服装なら美し可愛らしく見えただろうが、今は全身甲冑を着用しているため非常に厳つい。

 

「あのう、PVPが……あったのでしょうか?」

 

「うむ!」

 

 代表してモモンガが答えた。

 先日、ナザリック地下大墳墓の第六階層……円形闘技場(コロッセウム)にて、モモンガチーム(モモンガ、武人建御雷、獣王メコン川、ぶくぶく茶釜、パンドラズ・アクター)と、たっち・みーチーム(たっち・みー、ウルベルト・アレイン・オードル、タブラ・スマラグディナ、やまいこ)でPVPを行ったのである。結果としては、たっちチームの勝利であり、その中でたっちが使用したのが極限圧縮版次元断切(ワールドブレイク)だ。すべてのパワーを相手に向けた剣の刃先に集中、物理だろうが魔法だろうが防御ごと真っ二つにする。

 通常の次元断切(ワールドブレイク)と比べ、格段に威力は勝るが……通常版と比べて格段に気疲れするというデメリットがあった。

 

「いやね、こう全パワーを刃先……それも鍔元から切っ先まで這わせて、維持しつつ攻撃するのが物凄~く集中力を試される感じでして……」

 

 たっちが説明しながら例える。平均台の上を全力疾走しつつ、小さなビーズを人差し指と親指でつまんだまま、縦に三十個積み上げて上から糸を通すぐらい……という、非常に解りにくい例えだ。当然と言うべきか、モモンガ達には今一つ理解できなかった。

 

「ま、まあ、上手く維持したまま直撃できたら通常版より凄いんですよ!」

 

 場の空気から気まずさを感じたたっちが説明を締めくくる。その彼の後を引き継ぐように、弐式が人差し指を立てた。

 

「先日のPVPでは、モモンガさんに直撃させたはずが、実はパンドラズ・アクターだったと聞きましたけどね」

 

「弐式さん。その情報開示は、今は不要です」

 

 たっちがヘルムの下で口を尖らせる。モモンガとパンドラに上手くハメられたとはいえ、演技を見抜けず目標を見誤ったのは、たっちとしては大いに反省すべき失敗だったのだ。

 NPC達はというと、ギルメンらから聞かされるPVPの内容に、その都度どよめいている。至高の御方同士による集団対戦。

 

((((何としてでも見てみたかった! あと、同じ下僕なのに、一人だけ参加できたパンドラズ・アクターが羨ましい!!))))

 

 そう思うと同時に……。

 

「皆様も参加したいと、至高の御方(うぉんかた)に請願すればよろしいと思いますが?」

 

 いかにもパンドラズ・アクターが言いそうな幻聴が聞こえ、イラっとする。

 ギルメンに対し、ナザリックの下僕が簡単に請願できたら悩んだりしないのだ。

 

「では、モモンガさん。足元に向けて次元断切(ワールドブレイク)するわけですが、場所はどうします? ここで良いんですか?」 

 

 話を逸らしたいたっちが確認し、モモンガは大きく頷く。

 

「かまいません。下に行ければいいわけですから。ただ、斬ってできた開口部が、どれくらいの時間開いたままかは今のところ不明ですけどね」

 

「ふむ、降りて開口部が閉じたら、今度は上に向けてブッ放せばいいのか……。了解しました。それでは……。……セバス」

 

「はい、たっち・みー様」

 

 呼ばれた老執事が音もなく進み出る。立ち位置は、たっちの左後ろだ。それを待っていたたっちが左腕を横に出すと、セバスは左腕に装着された盾を取り外した。

 

「念入りに斬りたいからな。少し預かっていてくれ」

 

「承知しました」

 

 セバスは(うやうや)しく盾を捧げ持つと、大事そうに抱きかかえて下がって行った。

 

「さぁて、それでは……」

 

(「ねえ、タブラさん。あの盾って、自分で外してからアイテムボックスに収納……で良いわよねぇ?」)

 

(「だめですよ、茶釜さん。男の子は幾つになってもロマンが必要なんです」)

 

 何やら聞こえるが、たっちは聞かないことにして剣を抜き放つ。それを両手で握りしめたたっちは、左足を引いて剣を振り上げた。この構え限定というわけではなく、気合とともに斬ることで次元断切(ワールドブレイク)は発動する。しかし、たっちを良く知るモモンガ達ですら見たことのないエフェクトが生じていた。

 純銀色の光の線。

 鍔本から切っ先に至る刃先に、少し浮いたように純銀色の光が生じているのだ。

 

「あれが……極限圧縮?」

 

 やまいこの声が聞こえた瞬間。

 たっちは剣を振り下ろす。

 

次元断切(ワールドブレイク)!!!」

 

 ほぼ一瞬どころか居合わせた誰の目にも止まらなかったが、まず切っ先が石畳にするりと入り、腕の振りと手首の返しによって円形に切れ目が走っていく。そして振りぬいた姿勢でたっちが動きを止めた直後、金属同士を打ち合わせたような音が聞こえ……石畳が落ちていった。

 直径三メートルほどの円形の穴。それがたっちの前、足元に生じている。明らかに腕の伸ばしや姿勢調整で届く範囲の切断面ではない。しかし、それよりも目をひく光景が生じていた。石畳の切断面が金色に輝き、青白い電光をほとばしらせているのだ。

 

「ふむふむ。どうやら構造物だけでなく『システムの隔たり』のようなものまで斬れたようですね。階下が見えてます……」

 

 覗き込むたっちにつられてギルメンらが穴に寄って来る。

 モモンガもそうだが、他の者たちも一様に驚きを示していた。

 

「うは~。本当に下の階の石畳が見えてる……。拠点型アイテムの外郭やシステム構造とか、プレイヤーの技で壊せるんだ?」

 

 声に出して驚いているのは弐式だが、「たっちさんの強さって、マジで人外。ああ、今は異形種だっけ……俺もだけど」とは頭の中だけの呟きである。また、モモンガも驚きを隠せないでいた。

 

「たっちさんなら出来ると思ってたけど、これはまた……。ナザリック地下墳墓で第一階層を掘り進めても、第二階層には通じない……いや、石畳より下には掘り進められないのに……。え? ナザリックでも同じことができるの? やっぱり、たっちさんは凄い……」

 

 モモンガの驚きまじりの称賛を聞き、たっちは胸を反らす。この間、盾を持ったセバスが近づいて来たので、たっちは左腕に盾をつけてもらった。

 

「たっち・みー様。お見事でございました」

 

「いやあ、ありがとう、セバス。初挑戦だったんだけど。成功してよかったよ」

 

 鼻にかける気はないが、他人から褒めて貰うのは嬉しいものだ。

 

(「タブラさん。さっきの次元断切(ワールドブレイク)だけど、極限圧縮! って叫ばなくても極限圧縮できちゃうの? じゃあ、PVPの時は何で叫んでたのかしら?」)

 

(「だめですよ、茶釜さん。男の子は幾つになってもロマンが必要なんです」)

 

 とある男女の声も聞こえてきたが、たっちは聞かないことにした。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 あまのまひとつは危機的状況にある。

 大穴を掘り、その底にインスタント・ギルドホームを設置して階層数を誤魔化したが、モモンガに見破られた。

 アイテムの仕様……システム設定を使った階層断絶で侵入を阻もうとしたが、たっちの次元断切(ワールドブレイク)で強引に突破されている。

 残るは今居る最下層だけで、罠部屋は一つきりだ。

 その罠部屋を突破されたら、彼の居室までは何の変哲もない迷路と申し訳程度の罠が設置されているだけ。その段階だと、モモンガ達を撃退する手立てなど、もう残ってはいなかった。

 

「だいたいさぁ、ダンジョンの不通箇所を切り開くってなんだよ? そんなことができたら一方通行扉を逆行するとか、通行にアイテムが必要な扉とか通れちゃうじゃん……。たっちさんって、あそこまでのアレだったっけ? 何を持ち出したら倒せるんだ……」

 

 考えても答えは出ない。あとは最後の罠部屋に期待するしかないが、モニター前で脱力するあまのまひとつは、その最後の罠部屋について思い起こしている。

 

(あれは、ユグドラシルで遊んでた頃、るし★ふぁーさんと爆笑しながらアイデアを出し合ったもので……)

 

 罠が決まった際の効果が恐ろしくえげつないのだが、それはフレーバーテキストだけのことで、効果は限定的だった。また、実際に運用するにあたって『流れ星の指輪』……超位魔法<星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)>を宿した指輪を必要とするなど、非常に使い勝手が悪い。さらに言えばコストも最悪だ。

 

(今の状況で想定どおりの効果が出るか不明だしぃ……。ユグドラシルでも『流れ星の指輪』が貴重すぎて試験運用ができなかったものな)

 

 ノリに任せて必要物資をすべて集め、後は組み上げるだけ……というところまでいって、もったいなさからアイテムボックスにて放置していたのである。まさか、本当に使う日が来ようとは……。

 

(あの罠効果がバシッと決まったら……みんな怒るだろうな~。土下座で勘弁してもらえるかな?)

 

 そこを心配するぐらいなら、今からでも名乗り出て謝ればいいのだ。だが、あまのまひとつは徹底抗戦の構えを崩さなかった。なぜなら、発狂しているからである。

 




 皆さん、聞いてください。
(わたくし)は数話前……あまのまひとつさんを失職させたり、絶望のあまり顔面を掻きむしったりさせてたんですが……。
 今回、怪人カニ男の姿で帰れコールをしながら踊り狂う姿を書くことになろうとは……。
 元の現実(リアル)での悲劇や絶望は、前振りでしかなかったというのか~~~。
 ……このまま、ブルー・プラネットさん枠になっちゃうんですかね~~。

 あと、久しぶりで、るし☆ふぁーさんがらみの災厄がモモンガさんに降りかかる……かも?

 それにしても発狂設定は本当に便利。
 簡単にギルメンを敵にできちゃうし、事後に仲直りさせるのも難易度が低いし。

 地表と地下が断絶すると施設全体に不具合が発生する……のは、昔、プレステであったゲーム『アジト』からアイデアを頂戴しました。あのゲームだと、地表部の出入口が破壊されると、一定時間経過でアジト全体が吹き飛ぶんですよね~。
 あらかじめ別の予備出入口を用意しておいて、通常は埋設。普段使いしている出入口が破壊されたら、とっさの工事処理で通路を伸ばして予備出入口を地表に出し、換気等が断絶しないようにする小技とかありましたっけ。

 想定では、あまのまひとつさんシリーズは残り2回ぐらい。
 年内で、もう一回ぐらい投稿できたら……と思います。

 誤字脱字報告、毎度ありがとうございます。
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