オーバーロード ~集う至高の御方~   作:辰の巣はせが

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第17話 私は元々アインズ様を愛していますので

 その後、モモンガ達は更に幾つかのことを話し合った。

 例えば魔法に関する実験である。

 モモンガ一人で七〇〇以上の魔法を使用可能だが、それらはすべて、ユグドラシル時代と同様の効果を発揮するのだろうか。変わったところ……つまりは仕様の変更などがあったりはしないか。

 そこを実験して確認するためには、一つ一つの詠唱実験が必要だし、対人効果を確認するために『実験体』としての人間が必要である。また、ポーションの効能確認なども行うため、調達する人間の生死は問わない。

 と、こういったことを異形種化しているときに着想したわけだが、人化してから思い返すと吐き気を催す……とまではいかないものの、気分的によろしくない。

 例えば……。

 

「人里の墓を掘り返して死体の確保。新鮮な死体があれば、なお良し。まずはアンデッド作成なんか試してみたいな~」

 

「モモンガさん。それ、人化して考え直してみてよ?」

 

「……? ……うげろ。気持ち悪い……」

 

 弐式に言われて試してみたモモンガは、人化顔を渋面とし舌を出す。

 せいぜいが親の葬式に立ち会ったことがあるだけのモモンガらにしてみると、こういった考察は、考えるだけでも精神的にダメージを負うのだ。異形種化したままであれば、ある程度は先程のモモンガのように平気なのだが、その後に人化したときの落差がひどい。

 いっそのことNPCらに任せてしまえば良いのではないか。女性のアルベドに頼むのはどうかと思うし、デミウルゴスなら上手くやれるはずだ。だが、デミウルゴスのカルマが悪寄りなため、丸投げすれば非道なことをやりかねない。恐らく、やるはずと弐式も言っている。第一、自分達が嫌なことを、他人に押しつけるのもどうかとモモンガは思うのだ。

 

「ナザリックに押しかけてくるプレイヤーみたいな人が居れば、気兼ねなく死体にして……いえ、生きたまま人体実験とかできるんでしょうけどねぇ」

 

 と、これは古き漆黒の粘体(エルダー・ブラック・ウーズ)の姿で居るヘロヘロの発案である。直後に人化したヘロヘロは、眉間に皺を寄せて「うげっ」と言っているが、モモンガは悪くないアイデアだと思っていた。

 

「そう……ですね。ナザリックに土足で踏み込んでくるような奴らなら、それほど心は痛みません……か?」

 

「おいおい。人化してるまま言ってるけど。本気か、モモンガさん。……あ~……でも、俺も、そこまで嫌悪感とか無いかな。ウ~ム。人化してても、話し合ってる内に慣れてくるとか、色々ヤベーな……」

 

 口を挟んだ弐式が顔を顰めている。

 異形種化であれば異形種の、人化であれば人としての心情が強くなるのだが、その時、取っている形態ではない方の精神的影響が徐々に出てくるというのは、中々にキツかった。

 

「ああ~……俺、今は人なのに。心の中で異形種ゲージが溜まっていく~……」

 

「……弐式さん。モモンガさん。俺、思うんですけどね」

 

 頭を抱えている弐式を見やりながら、ヘロヘロはゲンナリ顔で話しだす。こちら世界へ転移して来てから、異形種化と人化を交互に繰り返していて何となく気づいたのだが、どちらか片方で居る間、弐式が言ったようにもう一方の『精神影響ゲージ』のような物が蓄積されていく。だが、それはある程度まで溜まると上昇が止まるようなのだ。

 

「え? そうなの、ヘロヘロさん? 俺は……今のところ、よく解らないけど?」

 

「弐式さんは、ハーフゴーレムということと、元々のカルマが中立よりだからじゃないですかね。俺はカルマが極悪だから、何て言うか、人化してても『異形種ゲージ』の溜まり方が体感できるんですよね。やたら溜まり具合が早いような……」

 

 それはモモンガさんも同じではないか……と話を振られ、思い当たることがあったモモンガは人化したままで頷いた。

 

「わかりますよ。俺なんか、アンデッドですから。ヘロヘロさんと比べても、ゲージの溜まりが早いと思います。……アンデッドの精神性も悪いことばかりじゃないと思うんですけど。まあ、いい気はしませんね。それで? 『精神影響ゲージ』が止まるんでしたか?」

 

 モモンガが続きを促したことで、ヘロヘロは脱線しそうになった話を元に戻す。

 つまり人化中。異形種精神ゲージの上昇は、これは感覚での話だが半ばぐらいで止まるっぽいのだ。逆もまた然りである。

 

「要するに、人のまま異形種精神に染まりきるってことはない?」

 

「一言で言えば、モモンガさんの言うとおりですかね。まあ、色々試してみないとわかりませんが。この問題に関しては、おおむね、そんなところじゃないでしょうか」

 

 異形種で居続けても、人の精神ゲージの影響がある以上は、完全な異形種的精神に染まることはないということでもある。

 死の支配者(オーバーロード)古き漆黒の粘体(エルダー・ブラック・ウーズ)とハーフゴーレムの種族的な違いはどうか。そこに元々のカルマ値なども影響してくるだろうし、そもそも一方の形態をとり続けていた場合に、片方の精神ゲージが中程を突破する可能性もあった。

 ようは、ヘロヘロが言うとおり、色々と試さないとわからないわけだ。

 それに今のモモンガ達は、素の身体は異形種の方となっている。どうあがいたところで完全に現実(リアル)時代の人間になるのは、それこそ世界級(ワールド)アイテムでも使用しなければ無理だろう。

 

「ともかく……実験用の死体に関しては、戦うことで生じた死体や、ナザリックに侵入してくる連中を活用するってことにしますか」

 

 話を締めくくるモモンガに対し、ヘロヘロ達は異議無しとして頷く。

 こうして一息ついたわけだが、ここで先程の話題について弐式が軽口を言った。

 

「侵入者を捕獲して資源にする……か。ダンジョン経営系のゲームみたいになりますかね?」

 

「ハハハ。それは中々、いや、結構面白いかも知れませんね。ナザリック地下大墳墓の維持費調達に役立つかな……」

 

 同意を示したモモンガであるが、その台詞の終盤には滲み出るような重みがあった。モモンガは数年以上にわたり、ほぼ一人でナザリック地下大墳墓の維持費を稼いできたのである。言葉も重くなろうと言うものだ。

 

「ダンジョン経営は、真面目に考えた方が良いのかもしれませんね。それをナザリック地下大墳墓でするのかは別ですが。少なくとも、人里を襲って略奪とかするよりマシでしょう」

 

 ヘロヘロの呟くような提案に、モモンガと弐式は頷いている。

 攻撃者や襲撃者を返り討ちにして金品を剥ぐのは良いが、進んで非道なことはしたくないのだ。

 

「よそのプレイヤーが居たとして睨まれるのは勘弁ですし。後から来る、たっちさんに怒られるとか、もっと嫌ですからねぇ……。さて、更に話題を変えるとして……」

 

 気分展開の意味合いも兼ねて、モモンガは明るい話題を模索した。明るい話題。自分にとってのそれは何かと言うと、こうしてギルメンが揃ったからには『冒険』であろう。

 

「情報収集の意味合いも兼ねて、俺達で外に出かけたいと思うんですよね。エ・ランテルって都市があるそうですし、そこで冒険者とかいう仕事でもしてみませんか?」

 

 カルネ村村長に聞いた情報で、ある程度のことは掴めているのだ。後は、実体験として……楽しみたい。いや、ここまでシリアスに頭を使いすぎて疲れている。モモンガ達にはリフレッシュ、あるいは発散の場が必要だった。

 

「正直、NPCらの忠誠心が重くて。息抜きとかしてみたいんですよね~」

 

「俺はメイドの忠誠心なら、何処まで重くてもウェルカムですが。その他が、ちょっとね~。ここは、モモンガさんの案に一票。ソリュシャンを見せびらかしながら人里とか歩いてみたいです」

 

 心なしかヘロヘロの鼻息が荒い。いや、人化しているために彼の表情はハッキリと見えていた。普段細い目は幾分見開かれており、眉はVの字、頬は紅潮している。

 ユグドラシル時代。NPCはギルドホームの外に出せなかったし、一五〇〇人規模でプレイヤーの襲撃を受けた際も、第八階層で撃退したため、戦闘メイド(プレアデス)の存在を知る者は少ない。

 見せびらかして自慢したいんだろうな……とモモンガと弐式は思ったが、敢えて口には出さなかった。モモンガはヘロヘロが喜んでるところに茶々を入れたくなかったため。そして弐式は、ナーベラルを再教育する予定なので、暫く外を連れ回すのは無理だからである。 

 

「ナーベラルが同行できないのは痛いですけど。俺も外は見たいかな。モモンガさんの気持ちもわかるし、またアインズ・ウール・ゴウンの皆でワチャワチャやりたいもんね。だから満場一致かな?」

 

 満場一致である。

 となればモモンガらの思考は、当面の面倒くさいことよりも、楽しく異世界冒険することに向けられる。

 カルネ村の村長情報では、この世界はやはり異世界ファンタジーな世界観らしい。それも典型的な西洋系ファンタジーRPG風だ。ユグドラシルの位階魔法が使えるのは御都合的に思えるが、過去にプレイヤーが存在したらしいことから、何かした結果であるのは推察できる。

 そこを踏まえての冒険であり……。

 

「どういうパーティー編成で行くか……ですよね!」

 

 モモンガは、ウキウキしているのを隠そうともせず議題を提示した。

 モモンガを始めとした一〇〇レベルプレイヤーが三人。他にも戦闘時に頼りにできそうなNPCで一〇〇レベルの者が多数居る。

 どうパーティー組むか、NPCからは誰を連れて行くかで円卓の間では賑やかに意見が交わされた。

 そして約一時間が経過。

 会議を終えたモモンガらは、デミウルゴスを呼び出して幾つかの打ち合わせをした後、玉座の間へと移動することになる。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 玉座の間。

 ナザリック地下大墳墓において、この場に来る至高の存在は長らくモモンガ一人のみとなっていた。

 だが、それも過去の話だ。

 ヘロヘロが戻り、今また弐式炎雷が帰還した。

 この事実は、ナザリックに存在するNPCらすべてにとっての福音である。

 玉座を前に居並ぶNPCらは、興奮の面持ちでモモンガらの登場を待っていた。

 そして、指定された時刻よりも一時間早く居並んでいたNPC達は、玉座付近へ転移して来た気配を察知し、一斉に傅く。

 現れた気配は三つ。

 玉座に座す気配。これはモモンガであろう。その両脇に位置する気配。これらはヘロヘロと弐式炎雷のはずだ。

 この玉座の間に、至高の御方が三人も居る。

 静まりかえった玉座の間で満ちる、歓喜の熱気。このままであれば、倒れる者が出たかもしれない。

 そこに、モモンガからの声が掛かった。

 ……。

 

「皆、面を上げよ」

 

 ザッ。

 

 傅いているNPCらが頭を上げた。ただそれだけの行為なのに、集められたNPCらが一斉に行うと音が凄い。玉座の間の広さに比して、人数としては少ないのだが、やはり揃った行動から来るものなのだろう。 

 そしてモモンガらに集中する、忠誠の眼差し。モモンガのみならずヘロヘロも弐式も引きかけたが、何とか踏ん張ることに成功していた。

 どうして耐えることができたのか。それは、三人が異形種化していたからである。

 人化した状態では、この状況に立たされる緊張感に耐えきれないと判断したことによる異形種化であったが、どうやら正解だったらしい。

 

「ふむ……」

 

 モモンガは続けて発声する前に、居並ぶ者達を見た。

 アルベドが居る。階層守護者らが居る。その他、ペストーニャにセバス。戦闘メイド(プレアデス)。デミウルゴスの親衛隊と、主立った高位NPCが集められていた。

 その中で、戦闘メイド(プレアデス)については、カルネ村に残していたルプスレギナ・ベータを呼び戻しているので全員揃っている。このためカルネ村が手薄となるが、陽光聖典隊員二名の仮宿とした、グリーンシークレットハウスに、モモンガ付きのハンゾウを一人送っていた。今のところは客人扱いなので、丁重な対応を心がけるよう命じたから問題ないだろう。また、八〇レベル超えのハンゾウと他に影の悪魔(シャドウ・デーモン)が居るなら、暫くは何者かの襲撃があっても大丈夫だろうとモモンガは判断していた。少なくとも、ベリュース隊レベルの襲撃なら軽く撃退できるはずだ。

 モモンガは勝手な外出について軽く詫びた後、弐式の方に顔を向け、再び正面を向いて語り出す。

 

「見てのとおり、我が友、弐式炎雷さんがヘロヘロさんに続き帰還した。これは我ら、ナザリック地下大墳墓に住まう者にとって、この上なき喜びである」

 

「マサシク、モモンガ様ノ仰ルトオリカト!」

 

「私も、そう思うでありんす!」

 

 コキュートスとシャルティアが賛意を示し、その後にデミウルゴスなど他の者達が続く。それらを満足そうに聞き届けたモモンガは、大きく頷いた。   

 

「そこで……だ。これから私は幾つかの重要な事項を話す。心して聞くように」

 

 ザッ!

 

 再び音がした。

 先程も聞いたが、姿勢を正すだけで音がするのは凄いとモモンガは思っている。再び気圧されそうになるも、ここから話すことはヘロヘロの出番にもつながるので、失敗するわけにはいかない。

 モモンガは天井から垂れていた自分の旗を一瞥し、口を開いた。

 

「私は名を変えた。今後、私を呼ぶときはアインズ・ウール・ゴウン……アインズと呼ぶように。モモンガと呼ぶのはヘロヘロさん達仲間だけだが、それとて対外的にはアインズと呼ぶ。このことを忘れるな」

 

 ハッ! という声が見事に揃って唱和される。

 ただ、アインズ・ウール・ゴウンの名はモモンガ個人が自由にして良いものではなく、ギルドメンバー全員の所有するものだ。この点について異議があるか確認したが、NPCらは皆が賛同している。ついにはモモンガを指し「アインズ・ウール・ゴウン万歳」を叫んだほどだ。

 

「うむ。今後とも、よろしく頼む……」

 

 続いてモモンガは、改名の理由をアインズ・ウール・ゴウンの名を知らしめるためだと説明する。

 

「アインズ・ウール・ゴウンは元々ギルド名だ。その名を知らしめることで、ある効果を私は狙っている。その効果とは……この転移後の世界に来て居るであろう、ギルドメンバーに気づかせ、こちらへの帰還を促すことだ!」

 

 瞬間、玉座の間に居合わせたNPCらに電流が走った。

 そして怖ず怖ずと挙がった手が一つ。それはシャルティアのものだ。

 

「シャルティアか。発言を許す」

 

「も、いえ……アインズ様。それでは、ペ、ペロロンチーノ様も、こちらに?」

 

 爆撃の翼王、ペロロンチーノはシャルティア・ブラッドフォールンの創造主である。モモンガの狙いを聞いた以上は、聞いて確認したくもなるのだろう。モモンガやヘロヘロ達に対する忠誠は本物だが、やはり自らの創造主は一段高いところにあるのだ。

 見れば、アウラやマーレも驚きに目を見開いているし、それはセバスやデミウルゴスも同じ。コキュートスなどは音高く冷気の息を吐き出している。

 

「こちらに来ている可能性は高いと、私は睨んで居るぞ? シャルティア」

 

「アインズ様ぁ……」

 

 感極まった様子で瞳を潤ませるシャルティアに頷き、モモンガはヘロヘロと弐式を見た。

 

「ヘロヘロさん。弐式さん。お願いします」

 

「心得た。では、まず俺から」

 

 モモンガの左方で居た弐式は一歩前に出ると、自分の呼びかけによって多くのギルメンがナザリック外で集まっていたことを説明し出す。モモンガに対して申し訳ない思いから、行動に出られなかったことをNPCらに詫びると、「弐式炎雷様が頭をお下げになることは!」との声があがったが、弐式は掌を前に出すことで制した。

 

「ここで詫びなきゃ、俺が納得できないんだ。わかって欲しいな。で……だ」

 

 まだ少し納得がいっていないというNPCらを前に、弐式は当時、ナザリックから離れた集合地に居たメンバーの名を挙げ始める。

 たっち・みー、ウルベルト・アレイン・オードル、ペロロンチーノ、ぶくぶく茶釜、武人建御雷、やまいこ。その他大勢。十数名にものぼるギルメンの名が出るにつれ、その被創造物たるNPCは歓喜の声をあげた。

 そして、ここで弐式が下がり、代わってヘロヘロが前に出る。

 

「他のギルドメンバーが、こちらに来ている可能性ですが。同じ場所に居て玉座の間に転移した私と違い、弐式炎雷さんはナザリックの外に転移して来ました。実例がある以上、ナザリックの外に目を向け、たっちさん達を探すべきだと私達は考えたわけです」

 

 ただ、ヘロヘロと弐式。ナザリック内とナザリック外に転移した違いは何なのか。所有する装備や、異形種だったり人化した状態だったりと解明すべき謎は多い。しかし、それよりも先にギルメンの探索だ。

 NPCらの熱気が高まりつつある中、再びモモンガが話しだす。

 

「聞け、ナザリックの子らよ。この転移後世界について、我らは余りにも無知だ。プレイヤーの影が見えるほか、どのような強者が潜んでいるか定かではない。よって今後、ギルドメンバーの捜索と情報収集を同時に行う。また、我らが身一つでなくナザリック地下大墳墓と共に転移したことは大きな僥倖であり、ここを拠点として維持するのは絶対条件だ。ギルドホーム維持のための資金繰りを行わなければならん。そこでデミウルゴス。何をすべきかは理解できているな? ギルメン達が、気持ち良く帰還するために何をしなければならないか……」

 

 モモンガはデミウルゴスに話を振った。

 彼が途轍もなく賢い者。ナザリック随一の知恵者として創造されたことに期待したのだ。

 指名されたデミウルゴスは、すっくと立ち上がり、尻尾を揺らめかせながら眼鏡の位置を直す。

 

「勿論でございます。アインズ様」

 

「頼もしいことだ。ウルベルトさんも鼻が高いだろう。では、当面の資金繰りについて皆に説明せよ。わかりやすくな」

 

「承知しました!」 

 

 一礼したデミウルゴスは、ウルベルトの名を出して褒められたことで尻尾をブンブン振りつつ、居並ぶNPC達を前に説明を始める。 

 その内容は、友好的関係を築きつつあるカルネ村を足がかりとし、周辺都市の調査を進め、内部より支配を進めること。そうして資金を調達する。あるいは物資を調達してエクスチェンジ・ボックスに投入、ナザリック地下大墳墓の維持費を賄うのだ。

 そうして行き着く先は、世界征服。

 この言葉は、モモンガがヘロヘロやデミウルゴスらとナザリック外で星空を見たとき、モモンガ自身の口から出ている。しかし、居合わせたデミウルゴスが実行する気満々だったため、先程のギルメン会議の後で呼び出し「取りあえず手近なところから! それも可能な限り、穏便な方向で!」と言いつけてあった。そのため、デミウルゴスの説明内容は穏便かつ平和的なものとなっている。

 一通り、デミウルゴスの説明が終わったところで、モモンガは皆を見回した。誰も彼もが、至高の御方に世界を捧げるのだと使命感に燃えている。

 

「デミウルゴス、御苦労だったな。皆の者よ、聞け。目標は高く置いて世界征服。だが、それは武力を持って世界を蹂躙することを意味しない。一つには先にも述べたプレイヤーを警戒するためであり、二つには戻って来るであろうギルドメンバーへの配慮だ」

 

 カルマ値が善に傾いているであろうたっち・みー、中立寄りの武人建御雷など、非道な行為に嫌悪感を持つギルメンらに対する配慮はするべきだ。戻って来たは良いが、ゲームではない現実世界で非道なことをしていたと知られれば、それを嫌って再びナザリックを去ることもあるだろう。

 この辺りの事情をモモンガが述べると、シャルティアやアウラなどは納得いったように頷いた。

 

「故に頭を使い、スマートかつ穏便に支配域を広げていくこととなる。その方が税収等の収益も期待できるだろうしな。そもそも……だ」

 

 モモンガは冗談めかして肩をすくめる。

 

「強い者が力尽くで相手を屈服させるなど、できて当然。ウルベルトさんなんかが聞いたら、『面白味に欠けますよ。そもそも悪の美学に反しますねぇ』と言うに違いない」

 

 最後にウルベルトの名を出したところ、事前に打ち合わせをしていたはずのデミウルゴス。その彼の顔が引きつった。

 ウルベルトの意に反することを最初に考えた自分を恥じたのか、あるいは、密かに何か企んでいたのか。そこはモモンガ達には解らなかったが、こうして釘を刺しておけば大丈夫だろうと、敢えて指摘はしなかった。

 

「以上のことを踏まえ、お前達に厳命する」

 

 右手に持つはギルドの杖……スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン。それを床に突き立てると、呼応するようにスタッフにはまったクリスタルから各種の色が漏れ出す。それらの光を受け、モモンガは玉座から立ち上がった。

 

「アインズ・ウール・ゴウンを不変の伝説とせよ! 英雄が居るなら英雄よりも名高くを目指せ。我らより強き者が居るなら、力以外の手段を用い、数多くの部下を持つ魔法使いが居るなら、別の手段で。生きとし生けるもの、すべての耳にアインズ・ウール・ゴウンの偉大さを轟かせ知らしめるのだ!」

 

 事前に考えた長台詞がスラスラと口から出てくる。ユグドラシル時代に魔王ロールは散々やったが、今日の自分は格別だ。まるで本当の魔王じゃないかと錯覚してしまうほどだ。

 一度台詞を切ったモモンガは、ヘロヘロと弐式を交互に見て視線を交わすと、人化を行う。出現した顔は鈴木悟の顔だが、こちらの世界で人化を繰り返したせいか元の世界で居た頃よりは血色が良い。その優しげな表情で微笑みながらモモンガは言った。

 

「この世界の何処かに転移して居るであろう、お前達の創造主にまで届くようにな」

 

 最後の言葉。

 それは、この場にて一人座していたのなら口に出さなかったかもしれない。だが、ここにはヘロヘロが居て、ナザリック外転移して来た弐式炎雷が居るのだ。不安はあるものの、希望だってある。

 思いを込めて言い切ると、一斉に玉座の間に集った者達が頭を垂れた。

 一人の例外もなく、その頬を涙で濡らしている。コキュートスのように涙する身体機能が無い者は、声に出して咽び泣いていた。

 その場の空気、その光景。

 モモンガ達ギルメンにとって、一点の曇りもない名画の如きシーンであった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 興奮することしきりのNPCらが退室する。

 本来、モモンガ達が去り、残ったNPCらが逐次解散する流れだったが、モモンガ達は玉座の間に残っている。そして残っているのは彼らだけではない。

 退室して行ったNPCらの中で、一人呼び止められた者が居るのだ。

 アルベドである。

 転移直前、モモンガが行った設定改変が、どうやらアルベドに影響を及ぼしているらしい。そのことをアルベドはどう思っているのか。そして、元に戻せるとしたら、戻して欲しいのか。彼女の意思を確認したかったのである。

 一方、呼び止められた側のアルベドは、一人玉座の前で跪いていた。モモンガ達の位置だと、その表情はうかがい知ることはできない。

 

「……モモンガさん」

 

「う、はい。アルベドよ……」

 

 弐式に急かされ、モモンガがアルベドを呼ぶ。「はい」と耳に心地よい声で返事したアルベドは、続けて顔を上げるよう命じられると、その顔を上げた。表情は……キリリとしている。どのような使命を与えられるのかと少し緊張しているようであったが、モモンガ達の用件は別物だ。

 

「その……だな。この世界に転移する前、私は……お前の設定……タブラさんが組み上げた、お前の存在を構築する(ことわり)のようなものを変えようとした。いや、変えた。そのことで、お前に不都合や不具合が起こっているのではないか……と。そこを確認したいのだ」

 

 所々つっかえながら言い切ると、アルベドはキョトンとした表情となる。しかし、モモンガからの問いに対して返事をしないことは非礼。そう思ったらしく、再び表情を引き締めて発言してきた。

 

「確かに、あの時。モモ……アインズ様が私の中、奥深いところに手を差し入れてくださったことは覚えております」

 

(そこから覚えてるの!?)

 

 モモンガは内心で悲鳴をあげたが、アルベドは気づくことなく話し続ける。

 

(わたくし)の認知します不具合……いえ、変化と言えば、アインズ様のことを絡めて物事を考えると、精神に安定や沈静といった現象が生じます。そして、それはアインズ様関連の思考でなくとも発生するようになりました」

 

 前半を聞き、モモンガ達は「やはり、そうか」と顔を見合わせ、後半を聞いて顔色を変えた。気にしていた症状が拡大していると、アルベドは言うのだ。

 このまま、アルベドの症状を放置しておいて良いのだろうか。円卓の間では、タブラの帰還を待つか、暫くは様子を見ると話し合ったが、まさか設定改変の影響が『モモンガ関連』以外に及んでいるとは気がつかなかった。

 

「あ、アルベドよ。それは元々のお前ではあり得ないことなのだろう? であれば、異常事態だ。タブラさんに無断でお前に手を出したことは深く詫びるし、お前を元に戻すことについて尽力するつもりだ」

 

 両脇でヘロヘロと弐式も頷いている。

 しかし、アルベドの反応がない。どうやら何か考えている様子なのだが……。

 

「アインズ様。私をどのように変えたのでしょう? 差し支えなければ、お教えいただけますか?」

 

「……」

 

 モモンガは即答できなかった。

 実際に彼が行った設定改変は、『ちなみにビッチである。』を『モモンガを』と書き換えたこと。このことを説明したとして、「では、モモンガを……の次に何が入るはずだったのか」と聞かれた場合。

 

(実は『モモンガを愛している。』って入力しようとしてただなんて。それをアルベド本人に言えって? 無理無理無理無理、絶対に無理! ふう……)  

 

 今のモモンガは異形種化しており、精神の安定化が生じた。人化した状態であったならば恥ずかしさのあまりギルドの指輪(リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン)を使用して逃げていたかもしれないが、なまじ平静になったことで、自問自答する余裕ができてしまう。

 

(でも、いいのか? こういう風にアルベドを呼んで、この件で話し合うなんて何度もできることじゃないぞ? いや、俺が命令したらアルベドは話を聞いてくれるんだろうけどさ!)

 

「アインズ様。お教え頂けないほど……重大なことだったのでしょうか?」

 

 ぶふっ!

 

 妙な音がした。

 聞こえた方……弐式を見ると、手で口元を押さえている。

 もしやと思い、モモンガはヘロヘロの様子も確認したが、こちらは後ろを振り返ってフルフル震えていた。

 どちらも異形種化しているのだが、聴覚経由で腹筋を直撃したらしい。

 モモンガも他人事であったなら吹き出していただろう。

 つまり、アルベドの問いかけとは、こうなのだ……。

 

『モモンガを愛している。とは、アルベド本人に聞かせられないほど重大事なのか?』

 

 真剣な面持ちでいるアルベドには悪いが、モモンガは滑稽極まる状況に嘆息し、ヘロヘロと弐式は爆笑するのを堪えるのに必死だった。

 確かに重大ではある。

 他ギルメンの創造NPC設定。これを変えようとしたという意味合いで重大事。

 そして、自分を愛するように仕向けた……と、対象女性であるアルベドに話すことも、モモンガの精神的なダメージから考えれば重大事だ。

 

(俺の精神的ダメージね……。思えば……そう、設定を変えられたアルベドのことを思えば、重大でも何でもないか……)

 

 モモンガは異形種化したままで、大きく息を吸った。

 ここは人化して話すことができれば格好良かったのだろうが、今のモモンガには無理な話である。

 

「いや、すまないな。アルベド。話すとしよう。できれば笑わな……いや違うか、一女性たるアルベドには、怒る権利があるのだな」

 

 どの口を裂けば『笑わないで欲しい』などという台詞が出るのか。モモンガは自分の愚かさを恥ながら、アルベドの視線を真っ向から受け止めた。

 

「……『モモンガを愛している。』とな。そう入力しようとしたのだ」

 

 一瞬、アルベドの腰にある黒翼がバサリと動く。はためくところまでは動かなかったため、目立つ動きではなかったが、彼女を注視しているモモンガらにはハッキリと見えていた。

 

「アインズ……様。それは……(わたくし)がアインズ様を愛することを、お望みということでしょ……うか?」

 

 色めき立つアルベドは、しかし、その言葉が終盤で尻すぼみとなる。やはり精神の安定化が起こったのだろう。

 モモンガ達は「やはり、そうなるのか?」と、アルベドの状態を目の当たりにしたことで渋い顔となった。

 が、返事を待つアルベドに対し、モモンガが黙っていることは良くない。

 

「う、うむ……。平たく言えば、そうだな。何しろ、アルベドは私好みであるからな。ああ、俺が女性にこんなこと言う日が来るとか……マジか。だが、今はそうではなく、アルベドを元に戻すという話で……」 

 

「早急に戻す必要は無いと考えます」

 

「え? はぁ!?」

 

 澄まし顔で言うアルベドに、モモンガは暗い眼窩の紅点を明滅させた。その両脇では、ヘロヘロと弐式がモモンガ越しに顔を見合わせている。

 

「も、戻す必要は無いと言ってもだな! なんかこう、不便じゃないか? 私のことを考えると、精神が安定化するのだぞ?」

 

 こうモモンガが言うと、そこでようやくアルベドが思案顔になる。<支配(ドミネート)>で喋らせているわけでもなく、読心術をスキルとして有しているわけでもないモモンガらに、アルベドの思案は読み取る事ができない。

 固唾を呑んでモモンガらが見守る中、アルベドは次のように考えていた。

 

(不便……なのかしら? アインズ様に抱かれているときに、度々、(わたくし)が平静に戻ったりするとか? ……ああでも、平静に戻る理由がわかった今となっては、興奮状態から平静に戻る際に『演技』で繋げる手もあるわね。それはそれでプレイの一環として楽しめるかもしれないし。アインズ様に御迷惑はかからないはず。残るは、(わたくし)の興が削げる可能性か……)

 

 アルベドが思うに、アインズに抱かれてる最中なら一瞬平静に戻ったところで、どうと言うことはない。新たに燃えあがれば良いだけの話だ。

 それに、この限定版精神安定化は今のところ役に立っている。例えば、アルベドはシャルティアと衝突することが多い。主にアインズ関連の事柄ではあるのだが、この精神の安定化で上手く場を裁けたことが何度かあった。

 

(ただ、その影響は、アインズ様に対してだけでなく発生するようになってきている。とは言え、興奮状態でなければ、ある程度は普通に思考が可能なようでもあるし……。平静さが維持できるメリットは大きい。……有益な変化ではないかしら?)   

 

 アルベドの口元に笑みが浮かんだ。

 これは……チャンスだ。

 今、モモンガ様は自分に対して心を砕いてくれている。この状況を最大限活用して、シャルティアに大きく差をつけるべきだ。

 

「アインズ様。(わたくし)の言を不快に思われましたら、自害をお命じくださいませ。今考えましたが、やはり問題はありません。アインズ様は御自身の『アンデッド特性による精神安定化』をモデルケースとしてお考えのようですが、(わたくし)のそれは少し違うように思われます。今のところ、なんら問題はございません」

 

「そ、そうなのか?」

 

「はい。時にアインズ様。この機会ですので、(わたくし)の方からも伺いたいことがあります」

 

「なんだ? 言ってみるが良い」

 

 モモンガはアルベドが気にしていないというので少し安心していたが、何の気なしに質問を許可したところ、アルベドが更なる一撃を加えてきた。いや、アルベド側に攻撃の意思は無いだろうが、それほどに次の質問は効いたのである。

 

「そもそも、アインズ様が変えられる前は、どのような(わたくし)だったのでしょうか?」

 

「ぐふっ!?」

 

 一瞬で精神の安定化が生じ、モモンガは呻いた後で少し尻の位置を前にずらした。当然、頭の位置が連動して下がっている。

 

 『ちなみにビッチである。』

 

 これをアルベド本人に伝えて良いものだろうか。自分がビッチとして創造されていたという事実は、被創造物であるNPCにとって許容範囲なのだろうか。これを教えたことで、タブラ・スマラグディナとアルベドの間に亀裂が生じたりはしないか。

 モモンガの脳内にて様々な思いが飛び交う。もしも人化していたとしたら、大量の脂汗を流したことだろう。

 モモンガが固まり、ヘロヘロらがどう助け船を出したものかと困惑していると、アルベドは澄まし顔で発言した。

 

「何となくですが察しがつきます。(わたくし)には聞かせられないような……過酷な事柄だったのでしょう。しかし、敢えて言わせて頂きます。現状、何の問題もなく、また支障もありません。どうかアインズ様には、お気遣いなきよう」

 

「そ、そうなの……か?」

 

 モモンガの気持ちが傾きつつある。いや、これは妥協しつつあるのだろうか。少なくとも自分の進言により、モモンガの心配ごとが解消ないし低減されるのであれば、それは大きなポイント獲得だ。

 アルベドは内心ほくそ笑むと、重ねて進言した。

 

(わたくし)の創造主、タブラ・スマラグディナ様に申し訳ないとのことですが。至高の御方同士のことなれば、(わたくし)が敢えて口を出すことはありません。将来、タブラ・スマラグディナ様が御帰還の際には、お二人で協議されるのがよろしいかと存じます。その結果、(わたくし)の処遇がどうなろうとも、(わたくし)は受け入れますので」

 

 おお……。

 

 その様な声が、ヘロヘロと弐式から漏れる。声色からしてアルベドの言に感心しているようだ。これはアルベドだけでなく、モモンガも察することができている。

 

(タブラさんが来るまで保留。この方向かぁ……)

 

 問題の先送りのようだが、当のアルベドがここまで言うのだ。保留にして良いのだろう。

 そう判断したモモンガは話を締めくくり、アルベドを退室させようとしたが、ここでアルベドが発言の許可を求めてきた。

 

「まだ、何かあったか?」

 

「はい。アインズ様は(わたくし)に対して『モモンガ(様)を愛している。』と定められる。その、おつもりだったのですよね?」

 

「え? あ、あ~……そうだ。すまないな。女性の心を掴むのに、その様な真似を……。男として恥じ入るばかりであるし、アルベドには幾ら詫びても足りない」

 

 アインズの声に苦味が混じる。情けない思いと申し訳なさもブレンドされ、罪悪感も上乗せされたことで、精神の安定化が起きたほどだ。

 

 しかし、アルベドは首を横に振る。

 

「何ら問題はありません。問題があるはずないのです。何故なら……(わたくし)は元々アインズ様を愛していますので」

 

 

◇◇◇◇

 

 

 アルベドも去り、玉座の間にはモモンガ達が残るのみとなった。

 モモンガは今、玉座に座したまま脱力している。

 彼にとって『愛』が絡む会話を女性と興じるのは、精神的な負担が大きかったのだ。

 何より、最後にアルベドが残していった言葉が気になる。

 

(わたくし)は元々アインズ様を愛しています』

 

 どういう事なのだろうか。

 

「弐式さん。アルベドは、元から俺のことが好きだったようです」

 

「みたいっすね。タブラさん、日頃から『モモンガさんの嫁にどうです?』とか言ってましたが。あれ、口で言ってるだけじゃなかったのかな?」

 

 弐式が首を傾げているが、タブラがその様なことを言っていたのはモモンガも知っている。タブラ本人から直接聞かされていたからだ。容姿もモモンガに聞き取りした上で設定したと、そんなことも言っていた。もっとも、アルベドの容姿に関しては単純に嬉しく思ってみていたし、嫁云々について聞かされているときは冗談だと思い、真に受けていなかったのだが……。 

 

「モモンガさんは、アルベドの設定を見たんですよね? モモンガさんを愛してる……なんて書いてありましたか?」

 

「見ましたけど全部は読んでませんよ。ヘロヘロさん。だって、あんな長文だったし……」

 

 確かに長文だった。

 モモンガは流し読みをしたので、内政や主婦業が得意……などはチラッと目に止まったような気もするが、どこかにそれらしいこと(モモンガを愛している。)が書いてあったのだろうか。

 

「仮に……ですよ? 単に好みの問題じゃなくて、アルベドの設定に元々『モモンガを愛している。』と書いてあった場合。俺が『ちなみにビッチである。』を消して当初の予定どおり『モモンガを愛している。』と書き込んでたら……どうなったでしょうね?」

 

 ヘロヘロと弐式は顔を見合わせたが、この質問にはヘロヘロが答えている。

 

「どちらかの記述が死文になるか……。文章の流れで上手くはまったとしたら、記述の意味合いが強化されていたかもしれませんね。下手したら二倍強化では済まないかも……」

 

「それってつまり『モモンガを愛して愛して愛しちゃってるの!』って事になってた可能性もあるとか?」

 

 弐式の質問にヘロヘロが頷き、モモンガの骨顎がカクンと落ちる。

 

(愛が深まる? 今のアルベド以上に? ビッチじゃなくなった状態で!? いったい、どうなるって言うんだ!?)

 

 止めどない寒気が背筋で生じ、連動して精神の安定が生じた。

 真冬の極寒を味わったモモンガであるが、ヘロヘロが「まあ、仮定の話をしていてもしょうがないですよね」と会話を締めくくったことで、気を取り直す。このホッとした気分は『精神安定効果』では得られない。やはり持つべきは友……そしてギルメンと言うべきだろう。

 

「彼女の意思も確認できましたし。当面、アルベドについては様子見でいいでしょう。後は、モモンガさんの問題ですけどね」

 

「へ? 俺の問題?」

 

 ヘロヘロに対し自分を指差すモモンガ。その彼に弐式が苦笑交じりで話しかける。

 

「アルベドに対する責任の取り方だよ。自分を愛させるつもりで設定変えようとして、それは未遂だったようだけど。今のアルベドはモモンガさんの設定改変の動機を知って、その上で愛してくれてるんだぜ? 受け入れるなり、ごめんなさいするなりしないといかんでしょーが」

 

「うう……」

 

 呻くモモンガにも言い分はあった。

 それは確かにアルベドの容姿は好みのドストライクだし、タブラも狙って作成したようではある。アルベドが元からモモンガを愛しているというのも、彼女が嘘を言っていなければ、それはそうなのだろう。

 だがしかし、アルベドの設定を変えようとしたとき。あの時はユグドラシルの中で、アルベドはゲームキャラ……NPCだったのだ。

 それを責任取るとか、何か結論を出さなければならないだとか……。

 

(でも……アルベドみたいな女性に愛されてるって……凄く嬉しいよな……)

 

 一男性としては、そうも思うのだ。

 たっぷり数分間、ヘロヘロらが見守る前で黙考したモモンガが出した結論とは……。

 

「暫く保留で……。と言うか、まずはお友達から?」

 

 であり、それを聞いたヘロヘロ達が溜息交じりに肩を落としたのは言うまでもない。

 


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