「第七位階? 本当のことか? 陽光聖典隊長、ニグン・グリッド・ルーイン」
薄暗い聖堂。その奥の祭壇前で立つ温厚そうな老人が、跪くニグンに問いかけた。職名と並べてフルネームを呼ぶ。多少持って回った物言いのように思えるが、これは陽光聖典隊長としての立場にかけて、真実の情報であるかと確認しているのだ。
ニグンの前に立つ男。その名をドミニク・イーレ・パルトゥーシュと言う。
法国の風の神官長であり、かつての陽光聖典隊員でもある。
「はっ! 神官長様! 私と隊員達は見ました! 人智を超える強大な破壊力を! そして最高位天使を容易く屠ったことからも、第七位階到達者であることに間違いはないかと……」
ドミニクは暫し黙した後、諭すような口調で話しかけた。
「ふむ。第七位階到達者か。なるほど、現地を監視していた土の巫女が謎の大爆発で死亡し、その他大勢の被害者が出たが……。そういう事であったか。恐るべし、アインズ・ウール・ゴウン。その様な大魔法を、監視魔法に対する報復目的で使用するとはな」
ニグンはモモンガから聞かされていたのと、帰国時にも神官達から聞いていたので、事態は把握している。やはり、見せつけられた第七位階魔法<
(この件について報復するべしと、討伐部隊でも派遣されたら……)
例えば六色聖典最強の漆黒聖典が出たとしてアインズ・ウール・ゴウンに勝てるだろうか。答えは否である。ニグンは自信を持って否と言えた。何故なら、あの場にはアインズ・ウール・ゴウンの他、彼と立場を同じくするであろうと思われる者が二名居たのだ。
その二人が、アインズ・ウール・ゴウンと同じ程度の実力を有するとしたら……。
どう考えても勝ち目は無いだろう。
漆黒聖典は滅ぼされ、その報復として法国が滅ぼされる。
その結末だけは何としても回避しなければならない。
「ニグンよ。汝が見たこと、真のことであったとしよう。だがな、第七位階までだと思うか?」
「はっ?」
問いかけの意味が良くわからず、ニグンは顔を上げる。見下ろしてくるドミニクの顔は、平静。しかし、祭壇の蝋燭に照らし出される顔色は良くない。
「使用できる位階が第七までだとしたら、その様に軽々しく汝に見せると思うか?」
「そ、それは……」
確かに、ありえない。
第七位階が使える上限だとしたら、そのすぐ下の第六位階の魔法を使ったり、見せたりするのではないだろうか。かの
そしてニグン達を驚愕させるには本来、第四ないし第五位階でも十分事足りる。
なのに、何故あっさりと第七位階魔法を見せたのか。
「私が思うに、その者は第八位階を修めているのではないか」
「だ、第八位階……。大儀式と<
ドミニクは「私の推察に過ぎないが……」と言うが、ニグンは安心できなかった。現地で見たアインズ・ウール・ゴウンが、あまりにも簡単に第七位階魔法を行使したからだ。ならば、少し無理をして第八位階魔法を使えたとしても何もおかしくはない。
「事によると……アインズ・ウール・ゴウンと、彼の仲間らしき二人の人物。彼らは神人。いや、百年に一度現れるという、ぷれいやーなのかも知れぬな……」
「まさか……そんな……」
それは帰国する途上、ニグンも考えたことであった。気の迷い、あるいは小さな可能性かと思っていたが、こうして風の神官長から語られると真実味を帯びてくる。
「我らが仰ぐ神。偉大なりし六大神と出身を同じくするとしたら、やはり神なのであろう。……八欲王の如き、悪しき者である可能性もあるが……。そのアインズ・ウール・ゴウンという御仁、人柄はどうであった? 他の者……いや他の方々は?」
ニグンは出会った時点、及び戦闘になりかけた場面。更には第七位階魔法を見せられたときのことを思い出してみた。
「気さくな、そう……気さくな方々だと見受けました。ただし、敵に対しては一切容赦が無いとも感じております。軽々に戦いを挑むべきではないかと……」
「なるほど……。この一件は、私が単独で判断するべきではないな。私から六色聖典の取り纏め役たる、レイモン殿に話を持って行こう。汝もついて来るが良い」
「はっ! 承知いたしました!」
ドミニクはニグンの返事を聞くと「当然と言うべきか、最高神官長様にまで話が行くであろうな……」と呟き、聞いていたニグンは事が大きくなっていくことを実感する。
「それにしても何故、私なのだ? 本来であれば、レイモン殿の所へ報告に行くべきであろうが。いや、言わずともわかっている。事の重大さにおののき、陽光聖典ゆかりの私に先ず相談したくなったのだろう」
歩き出したドミニクの言葉に、ニグンは立ち上がりながら頭を下げた。
「はっ。御指摘のとおりです。恥じ入るばかりで……」
「聖典の隊長ならば、もう少し胆力があっても良いと思うが。ま、事が事だからな。私とて、本来は最高神官長様の所へ直行すべきなのだが……」
ドミニクはクククッと笑う。
「レイモン殿に判断を投げてしまおう……とな。こういう時、年下とは言え上役……いや、纏め役は便利だ」
どう反応して良いかわからないニグンは、「はあ」と生返事をしたが、ドミニクが話題を変えてきたことで、気を取り直した。だが、その内容を聞いて目を剥くこととなる。
「ところで汝は聞き及んでいるか? 漆黒聖典の第九席次が脱走したという話を……」
「え? はっ!? 確か、クレマンティーヌでしたか。は、初耳ですが……」
ここのところ任務で出ずっぱりだったニグンは、今聞かされた話題についてまったく感知していなかった。
クレマンティーヌ。年の頃は二十歳か少し上で、高速突撃を得意とする戦士だ。実力はガゼフ・ストロノーフを上回ると目されているが、性格は破綻している。殺人を好むのだ。その性格の歪みが生来のものか、育った環境によるものかは定かではない。だが、脱走する理由についてはニグンは心当たりがなかった。
「しかも法国の最秘宝、叡者の額冠を奪った上でな」
ニグンは立ち眩みを起こしそうになる。
「あの最秘宝をですか!?」
叡者の額冠とは先程、ドミニクが第八位階魔法について触れた際、ニグンが連想したマジックアイテムのことだ。
見た目は蜘蛛の巣状のサークレット。極細の金属糸、その所々に小粒であるが無数の宝石がつけられ、水滴が付着した様に見える。
効果は着用者の自我封印を条件として、着用者自身を超高位魔法を行使するためのアイテム化させること。一度装着すると、次に取り外した際に着用者が発狂するというデメリットがあった。
「それが奪われたとなると、装着していた巫女様は……」
「うむ。闇の巫女であったが発狂した。惜しいことであるし残念なことである。……可哀想でもあるな」
付け足すように『可哀想だ』と述べたドミニクに、ニグンはチクリとした胸の痛みを感じたが、敢えて触れることなく話題を続けている。
「クレマンティーヌには追っ手がかかりましょうか? また、叡者の額冠をどうするつもりなのでしょう?」
カツンカツンと、通路には二人が歩む音が響いていた。
聞かれたドミニクは、面白くもなさそうに鼻を鳴らしている。
「追っ手なら既に風花聖典が出ている。遠からず発見できることであろうよ。土の神官長、レイモン殿は息巻いていたな。何しろ古巣での失態……必ずや誅殺する! とのことだ」
続いて叡者の額冠の用途であるが、
売りさばいて現金に換えるとしても、あれほどのマジックアイテムを購入できる者が居るとは思えない。そもそも、金に困ったのであれば、追いはぎでもすれば良いのである。クレマンティーヌであれば容易なはずだ。
「故に金目当てでもないのだろうが。ふむ、見当はつかないな。まあ碌でもないことを企んでいるのは確実だろう……」
その後、ニグンはドミニクに連れられ、レイモンと面会することになる。ニグンからの報告を受けたレイモンは仰天するや、他の神官長らを集め、最高神官長をも加えた神官会議を行うこととした。
その結果、ニグンらの任務を妨害したこと、土の巫女が死亡した責任。これらを当面は不問にすることとし、友好的な接触を図ることとなる。
幸いなことにアインズ・ウール・ゴウンの拠点に近い場所、カルネ村には陽光聖典隊員が二名残されており、接触は容易いだろう。
出立するのはレイモンと漆黒聖典。そしてニグンだ。
漆黒聖典に関しては別命を帯びて行動中であるが、風花聖典隊員を使って、至急本国に戻るよう伝達することも決定されている。
そして、これら一連の会議内容や決定事項は、念の為、
◇◇◇◇
時系列的に言えば、スレイン法国で重大な会議が開かれていたのは、モモンガ達が登録目的で冒険者組合に入った頃である。
一方、クレマンティーヌがロンデスと接触したのは、モモンガ達がンフィーレア警護の依頼を請けて出立した日の夜であった。
この内、先にモモンガの耳に到達したのは、スレイン法国から得られた情報となる。
「ほう? 友好的な接触と来たか」
日中、街道で出没した
街道を離れると言っても、会話が聞こえない程度に離れただけであり、離れる理由も知人からの<
転移後世界では信用がおけないとされる<
(『はい。アインズ様。ありがたいことに、攻性防壁での被害や、ニグンらの邪魔をした件については一時不問とするとのことです』)
デミウルゴスの声に僅かながら怒気が混じっている。
こめかみに指を当てながらモモンガは首を傾げたが、すぐに思い当たった。
人間達から『不問にする』『大目に見てやる』的なことを言われて、怒っているのだ。
(口で『ありがたい』って言ってるんだから、そう思っておけばいいのに。俺なんか、賠償金を払えとか言われなくて良かっ……まあ、言われても無視したけど)
先に覗き見して、こちらの攻性防壁に勝手に引っかかったのだから、モモンガ的に非難される筋合いはないのである。
「我らナザリックの者にとって、人類至上主義国たるスレイン法国は警戒に値すべき国だ。だが、友好的に接触してくれると言うのであれば、無碍に扱うことはない。油断はできないし、警戒は必要だがな。ふむ、今の仕事が済んだら速やかにナザリックに戻ることとしよう。ヘロヘロさん達との協議が必要だ」
(『承知いたしました!』)
一転してデミウルゴスの声が喜色に染まった。
どうやらモモンガの口から、「ギルメン全員で戻る」という言葉が出たのが嬉しいらしい。
見た目、出来るビジネスマンといった容貌のデミウルゴスなのに、モモンガは『可愛い』と思ってしまった。
(姿見えてないのにな~。尻尾振ってる姿が想像できちゃうし……)
(『カルネ村近くの森で滞在している陽光聖典隊員。彼らに連絡を取るとのことですので、動きがありましたら逐一報告させて頂きます』)
「うむ。よろしく頼む」
<
(ドロップアイテムが出ないとか。こういうところはゲームじゃないんだな~)
思わぬところで感心しつつ、モモンガは移動を再開するという一行に再度加わる。そして、弐式にデミウルゴスの報告を伝えつつ街道を歩き出すのだった。
◇◇◇◇
エ・ランテルからだと東北にあるカルネ村。
そこを経由地として滞在拠点を確保、森に向かうというのがンフィーレアの提示した行程である。薬草の採取量にもよるが概ね三日ほどを要するとのことだ。
ンフィーレアが乗る馬車を護衛しつつ街道を進むモモンガ達は、前述のとおりモンスターの襲撃を撃退した後、日が沈む少し前から野営の準備を始めている。
まず、街道脇の一辺二十メートルほどの範囲を野営地とし、そこを囲うように木の棒と鈴を併用した警戒装置……鳴子を設置した。これは同行冒険者としてモモンガと弐式に割り振られた作業だ。もっとも『器用度』を兼ねる『すばやさ』がべらぼうに高い弐式が居るため、その作業自体はあっと言う間に完了している。モモンガとしては割り振られた作業の中で、棒一本立てるだけに終わって心苦しかったが、続いてニニャが<
ユグドラシルには無かった魔法なので、興味津々なのだ。
弐式は「俺は他の作業を手伝ってきますから」と言って離れ、ルプスレギナはダインと共に夕食の準備に取りかかっている。結果としてモモンガは、同じ
(知らない魔法か~。種族の
「あの、モモンさん? そんなに見られると、何だかやりにくいです。面白いものでもないですし」
「十分に興味深いですよ? 私では使えない魔法ですから」
「え? でも、モモンさんは第三位階まで魔法が使えるんですよね?」
意外に思ったのかニニャが手を止めて聞いてきた。
先の
これがニニャにとっては、途轍もない行為に見えたらしい。その『途轍もないモモンさん』が第一位階の魔法を使えないと言ったので、彼は目を丸くした。
「何だか、信じられないです」
「師匠の教え方が偏ってたのかもしれませんね」
もちろん、モモンガに師匠など居るはずもない。ユグドラシル時代にモンスターを狩りまくって経験値を溜め、時には必要なアイテムを用立てて魔法の位階を上げ、増やしていっただけのことだ。
ニニャからは師匠について聞かれたが、すでに死んだとか名前については教えて貰えず『師匠』とだけ呼んでいたなどと言って誤魔化している。
その後、ニニャからは魔法を教わりたいと言われたが、冒険者パーティーが別なので無理ということにした。
(機会があったら、魔法書なんかのアイテムを渡してみるのも良いかもな。こっちの世界の人間にも使えるのか?)
モモンガが考えたのは、第三位階の使用制限を解放するための、魔法冊子のことである。これを使用することでステータス値の『魔法攻撃』と『魔法防御』が上昇し、能力値が一定以上に上昇すれば、経験値に応じて第三位階魔法を修得するというものだった。
こちらの世界に来てからモモンガは何度か読んでみたが、書いていることが難しすぎて理解ができない。その点からも、この訳のわからない本と化した魔法書アイテムが、ニニャにとってどう効果を及ぼすのか、モモンガは検証したいと思っていたのである。
「ダインさん。お肉、切り終えたっす!」
「なかなかの手際なのである!」
モモンガがニニャと語り合ってる頃。ルプスレギナは、夕飯の支度をしているダインの手伝いをしていた。
モモンガや弐式がやると、焼いた肉は炭になったり、切ろうとしていた野菜がペースト状になったりと、過程を認知できずに駄目な結果が生じてしまう。これはどうやら有する
つまりは、フレーバーテキストで定められているからそうなっていたらしい。モモンガが異世界転移の前にアルベドの設定を書き換えて、それが転移後のアルベドに影響を及ぼしたようなものだ。
これを知ったときの弐式の落ち込み様は、モモンガには見ていられなかった。もっとも気の毒すぎて見られないという意味ではない。弐式がナーベラルをポンコツ仕様と定めたことを後悔しているように、モモンガもパンドラズ・アクターの設定に関して後悔する部分が多く、弐式同様、落ち込んでしまったからだ。要するに弐式を心配するどころではなかったのである。
結果として二人して落ち込んだのでペテル達には心配させ、ルプスレギナもオロオロしていた様だが、夕飯の支度が終わると事態は収束した。
時刻は地平線に夕日が隠れる頃。皆、空腹を覚えていたので『とりあえず食べよう』という空気になったのである。
完成した料理は、塩漬けの燻製肉で味付けしたシチュー。他に堅焼きパンと乾燥イチジク。ナッツ類だ。
一口食べてみたモモンガと弐式は、ナザリックでの食事とは比べるべくもないが、その美味しさに瞠目する。元居た
思い返してみれば、エ・ランテルを出てからの全てが新鮮で楽しかった。青空の下で陽光を浴び、風に吹かれながら旅をする。これをVRではなく身体で体感できることの何と贅沢なことか。
(「弐式さん。俺、こっちに来られて本当に良かったです」)
(「ですね。何だろう、夢みたいだ……。今頃はヘロヘロさんも、同じ気分を味わってるんですかね」)
「美味しいですね!」
声がしたので視線を向けると、ニニャがお椀のシチューを口に運び、朗らかに笑っている。
やはり美形だ。この世界は美形率が高く、ペテルもハンサムだし、ルクルットもペテルの上を行くぐらいには美形である。それにつけてもニニャは男性なのに愛らしく、モモンガとしては自分の性癖を信じられなくなるところだった。
それが解消されたのは、弐式から「モモンさん。あのニニャって子、女の子ですよ?」と耳打ちされたときで、弐式の有する
「女特有の血の臭いが……あ痛っ」
小声であったが下品なことを言おうとしたので、弐式から軽くデコピンをされるルプスレギナであった。
ニニャの性別判明はさておき、食事は楽しく進んでいく。
主な話題はモンスター襲撃時のモモンガ達の戦いぶりだ。
モモンガの<
中でもルクルットが「惚れ直しました! 付き合ってください!」等と言い、さすがに気を悪くしたのか、それとも演技なのか……ルプスレギナが膨れっ面となった一幕も生じている。
「しつこい人は嫌いっす。と言うか、何もモモンさんの前でやらなくてもいいと思うんす」
これによりルクルットは頭頂部にペテルのゲンコツを貰うこととなったが、モモンガと弐式は苦笑するしかなかった。もっとも、少し前にルプスレギナから告白をされていたモモンガはドギマギしてもいたのだが……。
話題は更に転換され、漆黒の剣の目的が、英雄譚等で知られる十三英雄……その一人の黒騎士が所持していたと言われる、四本の剣の所有にあると聞かされている。
闇のエネルギーを放つ魔剣キリネイラム。癒えない傷を与える腐剣コロクダバール。掠り傷でも死に至る死剣スフィーズ。能力不明の邪剣ヒューミリス。
モモンガとしては、シャルティアの修得した
(色々調べてみないと何とも言えないけど。何だか面白そうだ……)
モモンガが一人考えている間に、目的とする剣の内の一つ、魔剣キリネイラムは王国のアダマンタイト級冒険者、蒼の薔薇のリーダーが所有していることがンフィーレアより語られ、ペテル達は少しばかり落胆した様子だった。だが、たちどころに気を持ち直し、残り三本の発見と取得を誓い合う。
それまでは、小さな宝石を四つ柄にはめ込んだ漆黒の短剣が、冒険者パーティー漆黒の剣の印になるとのことだ。そうやってペテル達が「今聞いた話は、ニニャの日記に書いておこうぜ!」などとワイワイやっているのを見ると、モモンガと弐式は何だかホッコリした気分になる。
「皆さん、本当に仲が良いですね」
温かくなった心のまま口に出すと、ペテル達はキョトンとした様子を見せた。
続けてモモンガは「冒険者とは皆、こういう者なのか」と聞いてみたが「命がけだから、団結する」「異性が居ると上手くいかない。揉め事の種だ」と聞かされ、ニニャが微妙な表情になっているのを目撃している。
(あ~……パーティーメンバーには内緒にしてるのかな? じゃあ、触れない方が良いか)
「チームが一つの方向を向いていると、行動がまとまりますし」
一瞬気まずくなりそうになった空気を払うべく、モモンガは意見を述べたが、これに対してペテルから質問が飛んだ。
「モモンさんは、ニシキさんやルプスレギナさんの他に、お仲間が居るんですか?」
「居ますよ? ヘイグという武道家ですが、今は別行動中です。他にも一人居まして。それと後は……もう少し人数が居たんですが……」
ペテル達は冒険行の中で仲間を失ったのだと解釈したが、モモンガは笑って否定する。
自分は彼らを探しているのだと、モモンガは説明した。
かつて自分が弱かった頃、一人の聖騎士に助けて貰ったこと。助けてくれた彼に四人の仲間を紹介され、最終的に九人でチームを組んだことなどを語っていく。
「ひょんな事で離れ離れになってしまいましたが、聖騎士、刀使い、妖術師、料理人、鍛冶師……。最高の友人達でした。幾多の冒険を繰り返しましたが、あの日々は忘れられません。そんな彼らに再会するべく、私達は旅を続けているんですよ」
友人。それを知り、得ることができたのは彼らのおかげである。現実では誰も手を差し伸べてくれなかったが、ユグドラシルではそれがあった。
この思い出があったからこそ、モモンガは一人でナザリック地下大墳墓に留まって踏ん張り、維持費を稼いできたのだ。
「モモンさん。今の話だけど、俺のことが抜けてる」
弐式が自分を指差しているが、モモンガは「弐式さんは今居るから省略しました」と言い放つ。そのじゃれてる二人の姿が、ペテル達の笑いを誘ったが、やがて笑いが収まるとニニャが話しかけてきた。
「いつの日にか、またその方々に会える日が来ますよ」
それは社交辞令的な言葉だったのかもしれない。あるいは、本心から同情してくれたのかもしれない。どちらであるか判別はできなかったが、モモンガの胸にはストンと落ちて染み渡っていく。
そうだ。自分は、この世界で残りのギルメン達を見つけ出すのだ。かつての四十人、その全員は無理かもしれない。だが、せめてヘロヘロや弐式から聞かされたメンバーとは再会したいものだ。タブラ・スマラグディナも戻って来たし、きっと大丈夫なはず。
決意を新たにしたモモンガは、その温厚そうな顔を全力でほころばせ……頷いていた。
「もちろんですとも!」
◇◇◇◇
「もちろんですとも!」
そう言ったモモンガの表情は晴れやかであり、心底嬉しそうだった。
これにはニニャのみならずペテル達も見入ってしまう。
やがてモモンガと弐式は、「少し話したいことがある」と言ってルプスレギナを連れて闇の向こうへ消えたが、残された面々はモモンガ達について語り合っていた。
「よそのパーティーとは言え、仲間思いな人を見ると嬉しくなってきますね」
ニニャが呟くと、その場に居た皆が頷く。それにはンフィーレアも含まれていた。
その後、話題は日中のモンスター襲撃時におけるモモン達の戦いぶり。その再評価に移っていく。
弐式の体術の凄まじさ、ルプスレギナの信仰系
「モモンさん、<
「ンフィーレアさんの言うとおりです。僕が思うに、モモンさんの使用できる魔法が第三位階までというのは嘘でしょうね」
ニニャの呟きを聞き、ルクルットが焚き火を前に前傾姿勢となった。
「俺達に嘘をついてるってことか?」
「結果として、そうなるんでしょうけど。どちらかと言うと実力を隠したいんでしょうね。僕はモモンさんに使用できる位階魔法について聞きましたが、もしあそこで第四から第六位階までの、どれかの位階の名が出たら……どう思ってました?」
ニニャの言葉に皆が顔を見合わせた。
その後の戦闘で評価が正されたろうが、聞いた時点では『とんでもない大ボラ吹きだ』と思ったに違いない。
「第一、よくて
「しかし、そうやって名声が高まれば、お仲間が発見でき易くなるのではないかな?」
ダインが言うと、皆が考え込んだ。
「揉め事を嫌ったんじゃないですか?」
ンフィーレアが怖ず怖ずと挙手しながら意見を述べる。
仲間を探し出したいのは山々だが、高すぎる実力によって騒がれるのは嫌なのだろう。一応ながら納得したペテル達は、話題を変えることとする。
それはモモン達の出身地が南方ではないかだとか、ニシキの装備は素晴らしいだとか。中でも、モモンがモテるかどうかを気にしたンフィーレアが、ルクルットに弄られる一幕もあったが、やがてモモンガ達が戻って来て見張りを立てて就寝することとなり、その場はお開きとなるのだった。
◇◇◇◇
少し時間を遡る。
ペテル達から離れて距離を取ったモモンガ達は、内々の相談をしていた。
主に、デミウルゴスから<
「前にも話しましたが、相手は人類の守護者みたいな国なんでしょ? かなり胡散臭いですけど。そういうのと正面切って事を構えたら、俺達以外の余所のプレイヤーが居たときに心証悪いですよ」
「弐式さんも、そう思いますか」
やはりヘロヘロや、ナザリックに残留しているタブラも交えて話し合った方が良いだろう。
「そう言えば、モモンガさん。シャルティアに仕事を一つ任せたんでしたっけ?」
「え? ええ、武技を使える現地人……。それも実力者を探し出し、連れてくるように……と」
シャルティア・ブラッドフォールン本人が任務が欲しいと言ってきたので、モモンガは一考、ガゼフが武技を駆使していた事を思い出し、任務を与えたのである。
「ヘロヘロさんを追いかけて、合流。途中まで行動を共にしつつ、面白そうな武技使いの話が耳に入ったら行動に出るように……と。まあ、判断に困ることがあったらヘロヘロさんに相談すればいいし、単独行動中なら気にせず俺に<
エ・ランテルで別れたヘロヘロはと言うと、実はモモンガ達よりもエ・ランテルからの出立が遅れていたらしい。と言うのも、馬車を用立て現地の御者を雇って移動するつもりであったため、準備に時間がかかったのだ。
「へ~。馬車旅行ですか。それも体験してみたいっすねぇ」
弐式が言うのだが、モモンガも同感である。
何しろ、自然など消え失せていた元の
冒険者兼商人という身分を作って行動しているヘロヘロを、何となく羨ましく思うモモンガと弐式であったが、ルプスレギナがニコニコしているのを見て二人で視線を向ける。
「どうかしたか? ルプスレギナ?」
「いやあ。モモンさん達が楽しそうにしてると、私も嬉しくなって来ちゃって」
そう言って帽子越しに頭を掻くルプスレギナを、モモンガは目を細めて見つめた。
「アルベドみたいな色白黒髪ロングはドストライクだが、ルプーのような赤毛褐色美人もまた良いものだ。ナイスバディは、どちらも同じだからな……と、モモン氏は思うのであった」
「弐式さん。勝手に俺のモノローグを喋らないでくれますか?」
モモンガが突っ込むと弐式は面をまくり上げ、人化した青年の顔でニシシと笑う。
「ごめんごめん。でもさ、俺……間違ったこと言ってました?」
「え?」
聞かれたモモンガは、少し後方へ仰け反った。隣で居るルプスレギナを見ると、こちらは顔を真っ赤にし、モジモジしながら俯いている。
「の、ノーコメントですとも!」
「はいはい。じゃあ、ペテル達の所へ戻りますか。ほら、ルプーもついて来な~」
弐式が話を締めくくり歩き出した。モモンガは多少ブツブツ言いながらも、後をついて歩き出す。その際、少し遅れてルプスレギナが歩き出し、モモンガの隣に位置した。
「あのぅ。モモンさん?」
「どうした?」
モモンガは、先行く弐式の背を一瞥しつつ返事をする。ルプスレギナは少し躊躇っていたようだが、意を決したように硬い声で言った。
「こんなことを言うのは不敬なんですけど。ほんの少しでいいですから。手を……繋いで良いですか?」
「手をっ!?」
美人の女性に手を繋いでほしいと言われる。
もう何回目かわからないが『
ちなみに食事をとる際に人化していたままなので、精神の安定化は発生しない。以前、タブラと再会したときに、異形種化の精神安定を人化することによってキャンセルしたことがあったが、ここは逆パターンを行うべきなのだろうか。
(いや、それはしてはいけない気がする。上に立つ者として、男として!)
止めどない気恥ずかしさの中で意を決したモモンガは、スッと手を伸ばすと、差し出され気味だったルプスレギナの手を掴んだ。最初に思ったことは温かく柔らかいということ。その感覚がモモンガの脳、あるいは男の部分を刺激するが、そこを根性で耐え抜きルプスレギナに声をかけた。
「こ、これで良いか?」
「あ、ありがとうございます! 一生の思い出にします!」
普段の「~っす」口調が消えている。
それほど嬉しいことなのだろうか。モモンガにはわからなかった。
ただ一つ思うのは、ルプスレギナと手を繋げて自分も嬉しいと思っていることだ。
だが数秒後。モモンガはアルベドのことを思い出し、脳内で頭を抱えることとなる。
土曜日の一日で書き上げました。なんだ、やれば出来るじゃないか……。
とは言え、土日に予定が入ったら書けないってことなんですけど。
やはり平日にチョコチョコ書き進めてこそ、余裕が生まれるんですけどね~。
ルプスレギナ、順調に好感度ゲージを蓄積中。
あと、例のキャンプシーンを書けたので大満足。
調整平均が赤く染まってるの、超嬉しいです。
捏造ポイントに関しては、魔法書のアレとか多すぎて、最近はピックアップできてません。申し訳なし。
<誤字報告>
甲殻さん、爆弾さん。ありがとうございました。