オーバーロード ~集う至高の御方~   作:辰の巣はせが

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第26話

「彼の名は、武人建御雷である!」

 

 玉座に座したモモンガが、腹筋(異形種化してるので存在しないが)に力を込めて発声する。

 

 おおおおおおっ! 

 

 階層守護者と、その後ろの吸血姫の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)二名。それらの右脇で居並ぶ、セバス・チャンに、戦闘メイド(プレアデス)達。

 皆が皆、驚きと歓喜を交えた声をあげる。

 次の瞬間。モモンガの少し左前方……位置的にはアルベドの反対側に、武人建御雷が出現した。

 筋骨隆々たる大柄な半魔巨人(ネフィリム)。身に纏っているのは深紅の和風甲冑。手にした武器は自身が改良に改良を重ねて作成した大太刀、建御雷八式。ザ・サムライの異名に恥じぬ堂々たる武者ぶりである。

 その圧倒的な存在感に、シャルティアやアウラにマーレ、事前に帰還を知らされていたデミウルゴスやアルベドも涙を禁じ得ない。そして、武人建御雷の帰還に涙したのはセバスや戦闘メイド(プレアデス)吸血姫の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)らも同様である。

 だが、たった一人、微動だにしない者が居た。

 第五階層守護者、凍河の支配者コキュートス。

 カマキリとアリを足したような異形、二本の足に四本の腕を持つ武人は、玉座脇で立つ建御雷を凝視したままピクリとも動かない。

 あれ? と言った空気が、玉座を中心とした左右方向へ広がっていく。

 数多く居るNPCの中でも、コキュートスは建御雷が作成したNPCだ。喜ぶとか泣くといったリアクションが予想されたのだが、これはいったいどうしたことだろうか。

 モモンガやギルメン達だけではない。

 僕達も、怪訝そうにコキュートスへ視線を向けている。

 至高の御方がまた一人、ナザリックに帰還したのだ。ナザリックに所属する者にとって至上の喜びである。しかもコキュートスにとって、武人建御雷は創造主。にもかかわらず、その登場に何ら感動を示さないのは不敬だ。NPCらの感覚では万死に値する。

 

「コキュートス。いったいどうしたでありんすか? もう少しこう……」

 

 場所柄、ここまで我慢していたシャルティアだが、動かずに居るコキュートスに苛立ったのか声をかけた。しかし、そのシャルティアの表情が引きつる。

 

「立ったまま気絶していんす!?」

 

「えっ? うえええ!? こ、コキュートス! 大丈夫なの!?」

 

 シャルティアとは反対側で立つアウラが、目を丸くしてコキュートスに呼びかけた。その彼女の向こうに居るマーレも、杖を抱きかかえたままオロオロしている。

 だが、コキュートスは反応しない。彫像のように立ち尽くしたままだ。

 

「ええ~……」

 

 シャルティアらが騒いだことで状況を把握したモモンガは、あまりの展開に呻き声を漏らしている。次いで建御雷に目を向けたが、さすがの彼も絶句している様子だ。

 しかし、コキュートスは死んだわけではなく気絶していただけなので、この事態はすぐに収束する。

 コキュートスが目を覚ましたのだ。

 

「ウ、ウウム?」

 

 二度ほど頭を振り、左上段の手で頭を一撫でする。

 

「ドウヤラ気ヲ失ッテイタヨウダナ。シカシ、武人建御雷様ノ御帰還トイウ、素晴ラシイ夢ヲ見タゾ。アレハ素晴ラシイモノダッタ!」

 

 フンス!

 

 感動のあまり冷気の息を吐いているが、その発言内容に呆れ顔となるアウラ達……の更に向こう。デミウルゴスから声が飛んだ。

 人差し指で眼鏡位置を直しつつ彼は言う。

 

「何を言ってるんですか。夢なんかじゃありませんよ、コキュートス? ほら、玉座の方を見て」

 

「ムッ? 玉座?」

 

 これが人間種か亜人系の……目蓋を持つ者であれば、目をしばたたかせていたのだろうか。その様な気配を放ちつつ、コキュートスは玉座方向へと目を向ける。

 そこには玉座に座するモモンガ。両脇に並ぶ至高の御方。そして玉座の右脇にアルベドが居て……何より、左脇には武人建御雷が立っていた。

 

「ブ、武人建御雷様! 我ガ創造主! オオオオ、イツオ戻リニ!?」

 

「え? いつって……俺はナザリックの外に飛ばされて……ええ?」

 

 異世界転移時の出現場所について言及しかけた建御雷。しかし、コキュートスが聞いているのはそういう事ではないと感じ、口をつぐんでいる。

 一瞬、妙な静寂が玉座の間を支配した。

 そして一つの咳払い。モモンガの発したそれが、静寂を打破する。

 

「あ、あ~……コキュートスよ。念のために聞くが、お前……直近の記憶は何処まである?」

 

「アインズ様。直近ノ記憶……デ、ゴザイマスカ?」

 

 コキュートスは不思議そうに首を傾げたが、やがて説明を始めた。

 それによると、モモンガが新たな至高の御方の帰還を宣言したところまでは覚えているらしい。

 

「つまり、そこから気絶していたと?」

 

「ソノ様デ……」

 

 申し訳なさそうに言うコキュートスに対し、ぎこちなく頷くモモンガ。だが、内心では精神安定化の一歩手前に迫るほど噴き出していた。

 

(武人建御雷の『武』の字を聞いた時点で気絶してたとか、それマジか!? デカい図体して、なんて可愛いんだ! こいつ!)

 

 見れば、ヘロヘロ達もプルプル震えている。どうやら思いはモモンガと同じのようだ。

 では、肝心の武人建御雷はどうだろう。

 モモンガが左脇を横目で見たところ、やはり建御雷もプルプル震えていた。だが、こちらは噴き出すのを堪えて震えているのではない。

 

「お、俺が戻ってきたのを、そんなに喜んでくれたのか。コキュートス! ぐふうう、最高だ! こんなことってマジかよ! 俺は今、モーレツに感動している!」

 

 左手には納刀した大太刀。右手はグッと握った拳。

 それぞれを高く掲げて建御雷は咆えた。それを聞いたコキュートスが「武人建御雷様!」と叫び、建御雷は愛すべき創造NPCに向き直っている。

 

「長いこと留守にしてて済まなかったな! コキュートス! 後で第六階層の闘技場へ行ってPVPしようぜ!」

 

「喜ンデ、オ付キ合イイタシマス! 武人建御雷様!」

 

 再会した主従の第一行動予定がPVP。

 それで良いのか……とモモンガは思うが、逆に建御雷とコキュートスの組合せらしいとも言える。

 創造主と被創造NPCの仲睦まじい(?)会話に、皆がホッコリしていた。

 めでたしめでたしだ。

 だが、一人、弐式炎雷のみは浮かない表情をしている。

 彼は親友たる武人建御雷と、その創造NPCのコキュートスが再会したことを大いに喜んでいた。つい最近、自分自身が創造NPCのナーベラル・ガンマと再会しており、親友の感激する心持ちは大いに理解できるからだ。

 事前に仲間達と相談した、サプライズ的に再会する演出も上手くいったようで、コキュートスが立ったまま気絶したのには驚いたが、上々の首尾に満足もしている。

 しかし、しかしだ。弐式は一頻り建御雷を祝福した後は、ある一点に視線を集中させていた。

 眼前で居並ぶ階層守護者ら……の、彼らにとって右方で並ぶ戦闘メイド(プレアデス)。その中ほどで立つナーベラル・ガンマ。その彼女から視線を離せなかったのだ。

 

(普通に……してるよな?) 

 

 過日、ナーベラルは、人間の騎士……ロンデス・ディ・グランプを勧誘するべく交渉中のモモンガに口を挟み、モモンガに恥をかかせている。もちろん、勧誘交渉は失敗した。その失敗は、ナーベラルのみの責任とまでは言わないが、彼女の差し出口によって潮目が変わったのは間違いない。

 事後、弐式はナーベラルを叱責し、彼女をメイド長であるペストーニャ・S・ワンコに預けて再教育を依頼したのだが……。

 

(預ける経緯を話してる途中から、ペスの目つきが鋭くなっていたの怖かったな~。最後のあたりなんか、歯を剥いて唸ってたし……)

 

 あれから、まだ数日も経過していない。そして今、少し離れた場所にてナーベラルが立っている。見た目は、ユリ・アルファなどのように澄ました『メイドの無表情』だ。

 少しは成長したのだろうか。

 

(後で話してみようかな……)

 

 ペストーニャから再教育終了の報告がない現状、弐式の方から声をかけるのはどうかと思うが、気になって仕方がないのである。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 武人建御雷とコキュートスの再会が一段落し、玉座の間では、僕達に対する表彰式が始まろうとしていた。

 今回、お褒めの言葉を賜るのはシャルティア・ブラッドフォールンと、ソリュシャン・イプシロン。そして二名の吸血姫の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)だ。

 まずは、シャルティア。

 彼女はモモンガの命により、転移後世界における武技使いの発見捕獲、あるいは勧誘のため活動していた。結果は、転移後世界でも超一流と目される武技使い、ブレイン・アングラウスの発見、勧誘成功である。彼の勧誘に関しては、この世界に転移して間もない武人建御雷が接触していたことで、ブレインが建御雷に心酔しており、非常にスムーズに完了していた。

 以上の経緯から、シャルティアは「自分の手柄ではない」と主張したのだが、それを聞いた建御雷が「みんな引き連れて、俺やブレインの居るところまで来てくれたんだろ? でなけりゃ、ブレインがナザリックに来るのが遅れてたかも知れねーじゃねーか。いいから、シャルティアの手柄にしとけ」と述べ、モモンガやヘロヘロらが賛同したことで、他の誰が異議を挟むでもなくシャルティアの手柄と確定している。

 なお、褒美に関してはモモンガを始めとしたギルメン全員からのお褒めの言葉と、ペロロンチーノが使用していたプレイヤー用百科事典(エンサイクロペディア)の譲渡となった。僕達からすれば、ギルメンから褒められるだけでも過分であるのに、それが現状存在する五人全員からとなれば、まさに天にも昇る気分となる。

 そこへ来て、自身の創造主であるペロロンチーノが使用していたアイテムの譲渡だ。先ほどのコキュートスではないが、シャルティアが立ったまま気絶しかけていたのでアウラが支える羽目になった。

 続いてソリュシャン。

 彼女の本来の任務は、ヘロヘロに同行し、王国王都の情報収集および商活動。その他冒険者として活動することである。

 現状、王都に到着していないので、彼女の任務は達成されていないし、当然ながら関連した成果も上がっていない。しかし今回、シャルティアからの要請によって、死を撒く剣団の隠れ家襲撃に参加。道中の罠などを発見解除し、隠れ家の抜け穴発見にも貢献していた。

 

「私も鼻が高いですよ~。さすがはソリュシャンです!」

 

 ヘロヘロが手放しで褒めている。

 先のシャルティアも喜びようが凄かったが、ソリュシャンの場合は褒める面子の中に自身の創造主が交じっているのだ。気絶こそしなかったが感極まって泣き出してしまい、触腕をフリフリしながらはしゃいでいたヘロヘロが硬直してしまう。

 こちらはユリ・アルファやルプスレギナ・ベータが宥め役となっており、玉座の間は一時、騒然となった。

 

(騒々しい、静かにせよ! な~んて、場を締める雰囲気でもないんだよな~。だいたい、練習もしてないのに、そんな偉そうな物言いができるわけないっての!)

 

 手の打ちようもなくモモンガが傍観していると、徐々にではあるが玉座の間が静まっていく。見ればシャルティアが持ち直し、百科事典(エンサイクロペディア)を胸に抱いて瞳を潤ませていた。ソリュシャンは……と視線を転じたところ、こちらは上手くユリ達やヘロヘロが宥めてくれたようだ。深々とヘロヘロにお辞儀するソリュシャンに対し、こちらへ戻ってくるヘロヘロは後ろ手(?)に触腕を振っている。

 残るは、吸血姫の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)達に対する褒美だ。

 今回、死を撒く剣団の殲滅及び、ブレイン・アングラウスの勧誘に際して動いた中で、彼女らが成したのは襲ってきた者達を下位吸血鬼(レッサーヴァンパイア)にし情報を得たことと、抜け穴の封鎖だ。抜け穴自体は使用されることがなかったらしいが、万一のことを考えると彼女らの働きを無視するわけにはいかない。

 

(これで何も言わなかったら、直接的な手柄にばかり集中して、補助の任務とかが軽視されたりするんだよな。……ナザリックのNPC達の忠誠心はヤバいから、無用の心配か?)

 

 そう思いたいが、油断するべきではないとモモンガは考えている。

 ヘロヘロ達に相談したところ、「何か成果や功績があるなら褒めるべき時は褒める。それが大事だから、大いに褒めてやるべきだ」とのことだった。

 

吸血姫の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)、二名よ。今回、シャルティアやソリュシャンを補佐した働きに、私たちは大いに満足している。よくやってくれたな」

 

 守護者らの……強いて言えばシャルティアの後方で立っていた吸血姫の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)達は、それぞれが「滅相もございません!」「我々ごときが、アインズ様からお褒めの言葉など! すべてはシャルティア様達の功績です!」と遠慮することおびただしい。

 

(ただ、見るべき働きがあったから褒めてるだけなのにな~。何かアイテムをやるってわけでもないし……。吸血姫の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)か~。……ん?)

 

 ふと、モモンガは思い当たった。

 この吸血姫の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)達はPOPモンスターであり、他にも多数存在するのだが、彼女らに固有の名称はあっただろうか。今のところ吸血姫の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)と呼んでいるが、それはあくまで種族名なのだ。

 気になってシャルティアに確認してみたところ、特に名はないと彼女は言う。

 

「普段は、『お前』、『貴女たち』で事足りているんでありんして……」

 

「そ、そうか……」

 

 見ればPOPモンスターとは言え美人なのに、気の毒……なのか。いや、これでいいのか。どうしたものか……。

 数秒ほど黙考したモモンガは、一つのアイデアを思いつく。

 

(アイテム等を渡す程じゃないけど、褒めるだけでは何か寂しい。今聞いた話を取っかかりに名前を付けてあげてはどうだろう?)

 

 何しろナザリックの所属NPCは、ギルメンに気にかけて貰えたり、相手して貰えただけで大喜びなのだ。名前を付けるだけなら無料(タダ)だし、単に褒めるだけよりも箔が付く。これは名案ではないだろうか。

 モモンガは僕たちに「暫し待て」と言うと、ギルメンらを手招きで玉座周辺に集めた。なお、元々近くに居たアルベドは、そのまま話の輪に入っている。

 

(何となく気まずい……かな?)

 

 キョトンとしたシャルティア達の視線が痛いが、せっかく周囲に仲間達が居るのだから相談しておきたい。決して、なんとなく皆と話し合いたくなったからではない。その様に自己弁護したモモンガは、改めて仲間達に説明した。

 

(「と、言うわけでして。あの吸血鬼の花嫁達に名前でも付けてあげたいと思うんです」)

 

(「それはいいと思うんだけどよ。ひょっとして、モモンガさんが名前を考えるのか?」)

 

 そう建御雷が言うのだが、その声には聞き間違えではない『確かに嫌そうな気配』が滲み出ている。

 喜色満面で提案していたモモンガであったが、さすがに心外だと建御雷を見上げた。

 

(「なんですか。俺のネーミングセンスに問題でも?」)

 

(「問題あるだろ? 誰だったかが止めてなけりゃ、俺達、今頃はアインズ・ウール・ゴウンじゃなくて異形種動物園だぞ?」)

 

(「うっ……」)

 

 それはモモンガ達が、ナザリック地下大墳墓を入手する前の逸話である。クランからギルドへ登録替えする際に、モモンガが考案したギルド名が『異形種動物園』だった。その場では趣味の悪いジョークとして流されて、結局は『アインズ・ウール・ゴウン』と決定されたが、このことは後々までギルメンにからかわれるネタとなったのである。

 

(「う~……。じゃあ、どんな名前なら……」)

 

 口惜しく感じつつモモンガが言うと、建御雷は弐式、ヘロヘロと順に見てから、タブラ・スマラグディナで視線移動を止めた。

 

(「そりゃあ、こういうことはタブラさんだろ? なにか良い感じのネタから引っ張ってきてくれるはずだ。なあ、タブラさん?」)

 

 指名を受けたタブラは、大きな目をギョロッと動かし頷いてみせる。

 

(「ふふふっ。任せてください。と言うわけで、私が考えますけど。良いですよね?」)

 

(「わ、わかりましたよぅ」)

 

 幾分、しょんぼりとしたモモンガであるが、考案するのはタブラで、あくまでも名付けるのはモモンガの仕事となった。言い出したのはギルド長なのだから、命名もギルド長がやるべきとなったのである。

 

(「え? それだと、タブラさんの良いところを俺が取っちゃうんじゃないですか」)

 

(「ギルド長の手が足りない部分を、ギルメンが補う。組織というのは、そういうものですよ」)

 

 タブラの発言に、ギルメンらは「おおっ!」と感心したような声をあげたが、その中にはモモンガも含まれている。

 納得いったモモンガは、さっそくタブラに名前を考案して貰った。

 

(「髪の長い方がヘンリエッテ。短い方がアネット。どうです?」)

 

 モモンガ的にはピンとこなかったものの、どうやら大昔の吸血鬼映画から引っ張ってきた名前であるらしい。

 

(「吸血鬼映画から来るなら、有名どころでカーミラとかだと思ってました」)

 

(「アネットは、その役をやった女優さんの名前なんです」)

 

 ちなみにもう一人のヘンリエッテは、最初期の吸血鬼映画で、吸血鬼役をやった女優の名前から貰ったらしい。

 そんなこんなで名前が決まった後は、いよいよ吸血姫の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)らに対しての命名式となった。

 当然の如く、吸血姫の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)二名は恐れ入って辞退しようとするが、モモンガは「我ら総意に基づく褒美だ」と辞退の意思を突っぱねた。

 

「ちなみに、タブラ・スマラグディナさんの考案によるものだ。心して聞くように」

 

「「タブラ・スマラグディナ様!」」

 

 二人声を揃えて叫んでいるのが、なんだか可笑しい。

 ふとタブラの方を見ると、「余計なこと言わないで良いのに」と言いたげであったが、モモンガは無視することにした。

 こうして吸血姫の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)二名には、髪の長い方にヘンリエッテ、髪の短い方にアネットという名前が授けられる。以後、彼女達は同僚の吸血姫の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)らから羨望の眼差しで見られることとなるのだった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 吸血姫の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)……のヘンリエッテとアネットが退室し、玉座の間にはモモンガとギルメン、アルベドと階層守護者。そしてセバスと戦闘メイド(プレアデス)が残っている。なお、ヘンリエッテらと入れ替わるようにして、パンドラズ・アクターが呼び出されていた。立ち位置は玉座の左側……つまりアルベドの反対側で、先程まで武人建御雷が立っていた場所。それに伴い建御雷と弐式は一人分、左方へスライドしていた。

 

「あ~……これからデミウルゴスに、ナザリックの対外戦略の説明。及び、現況報告を行って貰う。これは重要なことであり、我らギルメンの他、僕の主立った者達が知っておくべきことだ」

 

 このような前置きをしたモモンガは、デミウルゴスを見て頷く。

 お前、説明しろ……の合図である。

 ナザリックにおける最高の知恵者。組織運営面ではアルベドにかなわないが、拠点防衛や戦略戦術においてはアルベドを大きく上回る。

 そのような彼と世界征服について語り、手近のエ・ランテルを支配下に置くことをモモンガらが提案してから、まだほんの数日だ。大して事は進んでいないと思うが、念のため確認はしておくべきだろう。

 

(タブラさんも居る。パンドラも呼んだ。俺が理解できないような展開になっても大丈夫……なはず!)

 

 タブラは設定魔と呼ばれるだけあって、その膨大な知識が頼りになる。パンドラは、アルベドやデミウルゴスと同等の知恵者という設定だ。

 モモンガとしては現状、考え得る最強の布陣でデミウルゴスの報告に備えたのだが……。

 

「では、報告を始めます。エ・ランテルの内部からの支配につきましては……すでに完了しております」

 

「は?」

 

 モモンガの下顎がカクンと落ちた。

 ヘロヘロや弐式炎雷も固まっている。平気な顔をしているのはタブラとパンドラ。合流したばかりで、それほど事情が飲み込めていない建御雷ぐらいだ。

 僕達に関しては、シャルティアが「と、都市一つを支配済みでありんすか? 皆殺しにしたのではなくて!?」と驚愕し、アウラの「ほえ~っ。デミウルゴスって、やっぱ凄いんだね~」といった声も聞こえる。

 その驚きの輪にモモンガも加わりたかったが、彼はギルド長。NPCらが至高の御方と崇める存在の中にあって、取りまとめ役を担う身なのだ。

 

(落ち着け、俺! それとなく、それとなく確認するんだ! 本当に今、どうなってんの!?)

 

「静粛に! して、デミウルゴスよ。お前に対し、多少の注文を付けた上で『良きに計らえ』と命じたのは、つい先日のことである。にもかかわらず、すでに完了とは見事。ウルベルトさんも鼻が高いことだろう。そこで……支配完了に至った経緯をだな、他の守護者達に説明するのだ。それは後学のためでもある。ゆえに、わかりやすく……な?」

 

 頑張れモモンガさん! その調子!

 最近、幻聴がよく聞こえるような気がするが、今のは弐式炎雷の声だろうか。

 モモンガは小さく頭を振ると、デミウルゴスを注視した。デミウルゴスは胸に手を当て深々と一礼している。一々格好いいのが何とも羨ましい。

 

「承知しました。アインズ様。では、皆もよく聞いてくれたまえ……」

 

 

◇◇◇◇

 

 

 過日、モモンガから『まずはエ・ランテルから支配せよ』との勅命を受けたデミウルゴス。

 彼が最初に行ったこと。それはエ・ランテル都市長、パナソレイ・グルーゼ・デイ・レッテンマイアの寝室に深夜乗り込み、巧みな弁舌を以て彼を心酔、服従を誓わせることだった。

 

「え? <支配(ドミネート)>とかを使わずにでありんすか?」

 

「そうだよ、シャルティア。彼は人間にしては中々に出来る人物でね。幾つかの政策論議をしたら、すっかり協力的になってくれたさ」

 

 ハッハッハッと笑いながら言うデミウルゴスは、余裕綽々である。前述したが、デミウルゴスは組織運営能力ではアルベドに劣るのだ。それでも、この結果。必死で平静を取り繕うモモンガであったが、開いた口が塞がらないとはこのことだ。

 

「ふ、ふむ。なるほど。事の始まりからトップを狙うか……。なかなかのものだ。しかし、それだけではないのだろう?」

 

 それだけではない…というのは、モモンガのはったりである。

 一都市の都市長を信服させたからと言って、直ちに都市支配につながるわけではない。という程度なら、モモンガでも理解できるのだ。パナソレイだけ支配し、翌朝「エ・ランテルを丸ごと、誰々の支配下に入れる!」と告知させたとしても、彼が狂人扱いされて都市長の座から引きずり下ろされるだけだろう。

 しかし、モモンガの気が回るのは、そこまでだ。

 では、どうやって都市全体の支配につながるのか。それを考え出すと、途端にモモンガの脳は白紙に戻るのだった。

 これはヘロヘロや弐式に、建御雷達も同様らしく、呻ったり力なく頭を振っていたりする。ただ一人、タブラは平然としているようだが、こちらは興味深そうにデミウルゴスを見ているだけだ。

 

(マジで解らないんだって。教えて! デミウルゴス先生!)

 

「御明察、恐れ入ります」

 

 主人達の混乱に気づかないデミウルゴスは、モモンガに向け再び恭しく一礼する。

 そして彼の解説が再開された。実のところ、強者としての圧迫感に物を言わせた部分はあるのだが、デミウルゴスにとっては些細なことだ。パナソレイは市民の安全を願っていたが、ゆくゆくはモモンガら、至高の御方の臣民となる者達である。そして、ナザリック地下大墳墓の維持費用……その収穫畑でもあるのだ。請われるまでもなく大事に扱うつもりでいる。

 王国軍どころか、それが敵対国たるバハルス帝国の軍と合同して押し寄せたところで撃退が可能なのだ。

 そこを理解して貰ったことで、ようやく都市長は服従を約束したのだった。

 

「ちなみに、彼に対する監視は万全です。あとは王都から派遣された一部貴族や、幅を利かせている大商人。このあたりで特に汚職にまみれて居る者。他では有力なヤクザ者ですかね。それらを、都市長の協力の下でピックアップ。更に、その者達からも、同業他者を『推薦』して貰いました。こちらについては、少し『教育』を施したうえで支配下に置いています。多少の拒食症を発症しておりますが……ま、許容範囲かと」

 

「う、うむ……」

 

 異形種化したままのモモンガであるが、右頬を汗が伝って落ちたような感覚を覚えている。

 いったいどんな『教育』を施したと言うのだろうか。

 モモンガが思うに、パナソレイ都市長も相当に怖い思いをさせられたはずだ。

 そこに加わるデミウルゴスの教育……。

 

(うん。考えるのをやめよう……)

 

 きっと知らなくて良いことなのだろう。パナソレイより酷い目に遭ったのは悪事を働いた者だけらしいし、きっとこれで良いのだ。

 

「デミウルゴス。少し、いいかな?」

 

「はっ! タブラ・スマラグディナ様! なんなりと!」

 

 デミウルゴスがタブラに向き直って一礼する。タブラは「長いからタブラで良いよ。他の皆もそう呼んでくれていいからね」と前置きし、首を傾げた。

 

「都市長と都市の有力者を、表裏共に支配したのはわかったよ。だが、都市を支配下に置くというのは、相当無茶な命令を強制できる……と、そのレベルに至って初めて言えることだ。都市民達はどうするのかね? モモンガさんから聞いた話では、冒険者組合や魔術師ギルドといった組織もあるそうじゃないか。取るに足りない強さではあるが、彼らが一々反抗していたのでは『支配』とは呼べないのではないか? 私は、そう思うんだがね?」

 

(「凄ぇ! 目の付けどころもだけど、あんなにスラスラ喋れるとか。さすがタブラさんだ!」)

 

(「いや、建やん。話の内容に注目しろよ。タブラさんの心配事が残ったままなら、テロとかサボタージュの心配をしなくちゃいけないんじゃね? 都市長とか支配してるのがバレたらの話だけどさぁ。……あ、バレなくても無茶したらサボられたりするのか」)

 

 建御雷と弐式がヒソヒソ話をしており、近くに居たモモンガには聞こえていたが、モモンガは会話に加わらず内心で頷くにとどめている。

 

(ちょっと立ち位置が遠いし。でも弐式さんの言うとおりだよな。デミウルゴス、どうする気なんだろ?)

 

 モモンガ達の心配を余所に、デミウルゴスはニンマリ笑った。

 

「それら御指摘の点につきましては心配御無用です。当面、エ・ランテルを支配下に置いたことは秘密事項といたします。その上で、ナザリックへの現金供給ルートはヤクザ者からの徴収とし、様子を見つつ商人からも献金させましょう。先のヤクザ者達を経由することになりますがね。その他では、一部貴族に様々な便宜を図らせます。こういったことに関し、本来であれば都市長が目を光らせておくべきなのですが……」

 

 その都市長がデミウルゴスに協力的なのだ。

 つまり現時点、都市民や冒険者組合に目を付けられるようなことをしなければ、エ・ランテルはナザリック地下大墳墓に対する維持資金……その供給源になったも同然だった。

 

「如何でしょうか。タブラ様?」 

 

「悪くないね。及第点と言っていい。念のために確認しておくが……。我らナザリックの支配下に置く以上、都市民の生命財産には直接手出しはしないのだろうね? 犯罪者達の管理は重要だよ?」

 

「勿論です。ヤクザ者達には多少の示威行動はともかく、直接的な暴力行為は自衛以外では禁じております。まあ、闇賭場などは、そのままやらせておりますが」

 

「ふむ……」

 

 ここでタブラは、玉座のモモンガを見ている。

 

「モモンガさん。私が思うに、今聞いたデミウルゴスの方針で良いと思います。特に問題点は見当たりませんし。あったとしても後で修正が利く範囲でしょう」

 

「そうですか……。ヘロヘロさん達は、どう思われますか?」

 

 モモンガはヘロヘロ達に確認したが、特に意見を言う者は居なかった。と言うよりも、聞きたいことは、タブラが聞いた状態だったのである。

 

「よろしい。デミウルゴスよ、よくやった! 我らナザリックの者は、とかく外部の者を弱き者、取るに足らぬ者と軽視しがちだが……お前の支配方針は、そこから一歩踏み出したものだ。そうとも、ナザリックに臣従する者は、すべからく平穏な生活を得るべきである。本当に良くやったぞ、デミウルゴス!」

 

 手放しで褒めちぎっているが、言葉の中で「従ってくれる外部の人に乱暴なことはするなよ?」という意味を込めている。

 

「ありがとうございます! アインズ様!」

 

 尻尾をブンブン振っているデミウルゴスを見て、モモンガは大きく頷いた。そんなに無茶をするでもなく、この短期間で都市一つを現金供給源にしてしまうとは。

 

(デミウルゴス、恐ろしい子! てゆうか、ここまでの成果を出されたら、デミウルゴスにも褒美が必要だよな~……何にしようかな)

 

 そのようなことをモモンガは考え出すのだが、デミウルゴスの報告は、まだ終わってはいなかった。

 

「そして、アインズ様。別件になりますが、エ・ランテルに関連して報告があります」

 

 モモンガ達は顔を見合わせる。

 

 まだ、あるんですか?

 

 代表してモモンガが問いかけたいところだが、気合いと根性で堪えて続きを促した。

 

「フム。聞こう」

 

 デミウルゴスが言うには、パナソレイ都市長と幾つかの打合せをした際、もっと有力で有能な貴族を紹介できないかと要求したらしい。その際、パナソレイは幾つかの名を挙げていたが、その中でデミウルゴスが目を止めた者の名、それが……。

 

「レエブン侯?」

 

「エリアス・ブラント・デイル・レエブン、というのがフルネームです。王国には六大貴族と呼ばれる者が存在し、その中でも国王の派閥と貴族の派閥を行き来する……蝙蝠と渾名される男ですが……」

 

 パナソレイに拠れば有能であることは間違いがなく、腹芸がこなせる程度には人が練れているのだとか。

 

「現在、そのレエブンなる者に、パナソレイの筋からつなぎを取っております。身分が違いすぎますが、パナソレイは帝国との紛争地帯に近い都市の都市長ですので、無碍にはできないかと」

 

 デミウルゴスは、レエブン侯の次は大臣格の者達に手を伸ばし、続いて王子や王女……最終的には国王へ到達するつもりで居るらしい。

 

「私が直接出向いて脅すなりすれば、事は簡単なのですが。臣従する者、皆が震え上がって頭を垂れるというのは、アインズ様や他の至高の御方の好むところではないと考えました」

 

 普段であれば「愚考いたしました」となるが、モモンガ達の意を汲んで……ということなので言葉を選んだらしい。

 

「そ、そのとおり! 性急に動いては事をし損じるとも言うしな。積み重ねが大事だと私は思うぞ? そうだ。そのレエブンが貴族の中でも上位の者なら、一度呼んで、ナザリック地下大墳墓の地権についても話し合いたいところではあるな。いや、そういったことは、もっと下位の者が良いのか?」

 

 なるべくそれっぽいことを言う。そのつもりで考え考え話していたモモンガであったが、気がつくと玉座の間が静まりかえっていた。もっとも、モモンガとデミウルゴスの会話であったので、モモンガが喋り終えてデミウルゴスが反応しなければ、それで場は静かになるのだが……。

 

「ど、どうした? 私が何か変なことでも言ったか?」

 

「い、いえ。滅相もありません! 確かにナザリック地下大墳墓は、転移後世界の者からすれば突然に出現したもの。人間どもの法律においては、地権の問題が発生するでしょう。そう遠くない日に交渉役が訪れるはず……。恐らくはバハルス帝国からも……。これは……恥ずべき不覚。万死に値します!」

 

 頭を下げたデミウルゴスが、早口で申し開きをしている。

 最初、何を謝ることがあるのかと思って聞いていたモモンガだが、徐々にデミウルゴスの言いたいことが飲み込めてきた。

 デミウルゴスは王国の法律について熟知していたものの、ナザリック地下大墳墓の地権が係争案件になるとは思っていなかったらしい。

 

(人間ごときの法律で~……とか。栄えあるナザリック地下大墳墓について、権利を主張するなどおこがましい……とか。そんな感じか)

 

 ナザリックに所属するNPCらが有する共通認識……人間種への蔑視から生じたミスというわけだ。デミウルゴスを擁護するとしたら、エ・ランテルに関しては想定していた成果を収め、一歩進んでレエブンと交渉しようとしている状況。それを報告して至高の御方達に褒められ、舞い上がっていたのであろう。

 

(気持ちはわからないけど。そうなるのは理解できるかな。でも釘だけは刺しておくか……)

 

「デミウルゴスよ。勉強になったであろう。弱き者、愚かな者が多い。だからと言って全ての人間を軽んじていてはいかん。その者達の法律やルールもだな。幸い、大事に至る前に認識できたことだし、今回は不問にする」

 

 お説教して、あとはサッと流して終わり。

 また死を以て償うとか言い出されては堪らないのだ。

 一応、左右を確認すると、タブラ達は皆が頷いている。アルベドは何か言いたそうだったが、タブラが何も言わない以上、口を挟む気はないようだった。

 しかし、デミウルゴス本人は、どうやら納得がいかない様子だ。しきりに処罰を……と繰り返している。

 そこでモモンガは、一計を案じた。

 

「それほど罰して欲しいのならば、こういうのはどうだ? デミウルゴスよ、お前がエ・ランテルで成した功績は大だ。レエブンと交渉する準備を進めているのも素晴らしい。これは先のシャルティア達に勝るとも劣らない。よって私は褒美を考えていたのだが……それを無しとする。これでデミウルゴスに対する罰は決定だ。以後、異議申し立てを私は認めない」 

 

「しょ、承知いたしました……」

 

 胸に手を当てて一礼するが、デミウルゴスの尻尾が力なく垂れている。

 見れば見るほど可哀想。とはいえ、今の話題を引きずりたいとも思わない。

 モモンガはタブラの方を見ると、デミウルゴスがつなぎを取ろうとしている貴族、レエブン侯について相談した。

 

「タブラさん。せっかくですし、そのレエブンという人にナザリックへ来てもらいたいですね」

 

 モモンガが考えたのは、なるべく上位の人にナザリックの強さ、素晴らしさを知って欲しいというものだ。そうすることでナザリックの地権問題を穏便に解消しつつ、協力態勢……できるならば資金援助して貰える間柄に持って行きたい。その辺りの関係性を踏み台に、王国支配へ繋げる手もあるのではないか。

 

(うん! 我ながら、これは良い手だぞぉ!) 

 

 しかし、聞かされたタブラの思うところは少しばかり違っている。

 

「ええ。良い考えだと思います。圧倒的な財力に戦力。ナザリック地下大墳墓を見せれば、嫌でも納得するでしょう。デミウルゴスの言う恐怖に依らない……も捨てがたいですが、せっかく呼びつけるのですし? ここで心を折ってしまえば、私達に従った方が得であり、幸せだと思ってくれるでしょう」

 

「え?」

 

(いきなり、そこまでやっちゃうの? 接待して良い気分で帰って貰って、良い印象を与えるとかでいいんじゃないの?)

 

 だが、タブラはこの機会に一つでも多くの成果を求めているようだ。

 

「六大貴族と言っても、デミウルゴスの報告からすればピンキリのようですし。レエブン侯は、どうもピンの方ですね。ならば、心から臣従して欲しい……と。まあ、そんなところです。ドンと派手に出迎えて押し切っちゃいましょう」

 

 その後、地権問題が『縄張り争いのようだ』という観点から建御雷も会話に加わり、弐式が「何なら、俺が行って調べて来ようか?」と自分を親指で示したりする。ヘロヘロは、「やはり戦闘メイド(プレアデス)が勢揃いしてると見栄えがいいですねぇ」などと言っていたが、モモンガは聞かないふりをした。普段であれば同調してはしゃぐところだが、今は僕達の目があるのだ。なお、これらモモンガ達の会話を、アルベド以下のNPCらは実にホッコリした気分で見つめ、聞き取りしていたのは言うまでもない。

 そして、そういった時間にも終わりが訪れる。

 

「んアインズ様! そろそろ夜明けが近づいております。カルネ村にお戻りになった方がよろしいのでは?」

 

 パンドラズ・アクターが敬礼しつつ進言してきたのだ。

 彼のデザインやオーバーアクション。それはNPC作成時にモモンガが『格好良い』と信じて設定したモノであったが、今こうして見ると……やはり恥ずかしい。過去の自分に、他人に見られることを考慮しろと説教してやりたいぐらいだ。

 

(……当時は誰かに見て貰いたくて、ウキウキしながら設定したんだっけな~……)

 

 若干遠い目になりつつも、モモンガはパンドラに対して返事を行う。人に話しかけられて相手を無視するのは、社会人として失格なのだ。

 

「う、うむ。もうそんな時間か。さすがに夜が明けて以降の行動まで、ドッペルゲンガー任せにはできないな。夜が明けてペテルやエンリ達が訪ねてきたら、細かい仕草で違和感を持たれるかもしれない。……戻るとしますか、弐式さん。それとルプスレギナ……」

 

 指名したのは自分のパーティーメンバーの二名だ。ヘロヘロ班のセバスとソリュシャンに関しては、ヘロヘロに一任する。他は平常業務に戻る……と言ったところだろう。

 しかし、ここで挙手する者が居た。

 弐式炎雷である。

 

(うっ……)

 

 先程、円卓の間で似たような流れがあった。その時、手を挙げたのも同じ弐式であり、酷い目に遭ったモモンガは嫌な記憶が甦っている。

 だが、弐式の発言は「少しだけ時間を貰ってナーベラルと話したいんだけど。いいですか?」というものであり、彼がナーベラルをペストーニャに預けていたことを知るモモンガは快諾した。

 

(そうかぁ。弐式さん、ナーベラルのことが心配なのかぁ。俺のことばっかり女性問題で弄んでくれちゃって。このネタで弐式さんを弄れないかなぁ……なんて。うん?)

 

 気がつくと挙げられている手の位置が変わっている。

 弐式は既に手を下ろしてナーベラルの元へ向かっているので、今挙がっている手は……ルプスレギナのものだ。視線が弐式を追いかけていたので、ナーベラルの近くで並んでいるルプスレギナが挙手していることに気づいた……のだが。

 

(何だかニコニコしてるな。悪い報告や申立ではなさそうか?)

 

「ルプスレギナ。何かあるのか? あれば、聞くが?」

 

「お許しを得て申し上げます」

 

 ルプスレギナは一礼してから話しだした。

 それは、守護者統括のアルベドについてのことだ。最近のアルベドは、ナザリック地下大墳墓の運営管理に忙殺されている。ナザリックの僕としては、至高の御方に尽くすことが至上の喜びであるが、アルベド本人は以前、モモンガの外出に同行することを希望していた。

 

「アルベド様は、アインズ様をお慕いになっています。時にはアインズ様と外出してもよろしいのではないでしょうか?」

 

 ほう?

 

 この声はギルメン全員からあがっている。

 それは、ナーベラルに話しかけようとしていた弐式も同様であり、少し驚いたようにルプスレギナを見ていた。居合わせたNPCらなどは、至高の御方に対して、その様な申立は……と眉をひそめるセバスやユリ。やるじゃない! と感心した様子のアウラやソリュシャン。自分自身ならともかく、選りによってアルベド!? と驚愕するシャルティアなど様々である。

 一方、名前を出されたアルベドは、モモンガの右隣で一瞬ニンマリとし、すぐさま清楚な表情に戻していた。ただし、腰の黒翼はパタパタと動いており、その様子は幾人かに目撃されている。

 ちなみにモモンガは、向かって左斜め前方の戦闘メイド(プレアデス)列、その中のルプスレギナに注目していたため、右隣で立つアルベドの翼の動きは目撃していない。

 

「うむ。確かに、アルベドにはナザリックのことを丸投げしたままであるな。アルベドよ。お前の忠勤、大いに感謝している」

 

「もったいない御言葉です。アインズ様……」

 

 この時になってモモンガの視線はアルベドへ向けられたが、既にいつもの状態へ戻っていたアルベドからは何の違和感も覚えなかった。

 恭しく一礼するアルベドに対し、モモンガが頷いている。と、ルプスレギナが更なる発言をしてきた。

 

「アルベド様の御意思もあるかと思いましたが、私としても思うところがありまして、勝手ながら進言させていただきました。この罰は……」

 

「いや、罰とか、そういう話ではないな」

 

 モモンガは左掌を差し向けてルプスレギナの発言を遮ると、右隣で立つアルベドに確認する。

 

「ルプスレギナに言われたから……では、少々情けないものがあるが。私としては、アルベドと共に外へ出てみたいと思っている。しかしながら、アルベド自身の意思はどうだ? そして、ナザリックの運営管理について、何か支障はあるか?」

 

(わたくし)の意思は、アインズ様と御一緒したい……ただ、それだけです。ナザリックの運営管理面につきましては、数日程度でしたら問題はないかと。ただし、(わたくし)の代行を務める者が必要となりますが……」

 

 アルベドが返答し、それを受けたモモンガはフムと唸って下顎に手を当てた。

 

「パーティーメンバーへの加入は構わないだろう。元々、後からメンバーチェンジが可能なようにギルド登録しているからな。今は現状のパーティーメンバーにて行動中であるから、一度、エ・ランテルに戻ってからということになるか。アルベドの代行については……パンドラズ・アクター」

 

「はい! アインズ様っ!」

 

 玉座の左脇からテンションの高い声が聞こえる。

 あまり見たくないなと思いつつ、モモンガは目の端でパンドラに確認した。

 

「お前、暫くだがアルベドの代わりに執務を取り仕切れるか?」

 

「お任せください! とはいえ引き継ぎには、少々お時間を頂きたく……」

 

「う、うむ。当然のことだな」

 

 お時間を頂きたく……と立ったままのパンドラが身を寄せ、モモンガは玉座に座したまま反対側に身を逸らす。

 しかし、アルベドの代行としては問題がないようだ。

 

(俺の心にザクザク斬り込んでくるけど。こいつ、使えるな~)

 

 モモンガは、自分で作ったNPCながら感心してしまう。だが、見た目と挙動は今なお大きなマイナス要素だ。と言っても今更作り替えるなど、それが可能だとしてもモモンガの良識が許さない。よって、このまま我慢するしかないのだろう。

 

「引き継ぎには、どれほどの時間がかかる?」

 

 このモモンガの問いに、パンドラとアルベドは玉座を挟んで視線を交わした。もっともパンドラの目の部分は漆黒の穴だったが……。

 

(わたくし)としては一日あれば充分かと……」

 

「ぅ私もアルベド様と同意見です! んんァインズ様!」

 

 左側のみ、やたらと五月蠅い。

 人化していたなら顰めっ面になっていただろうモモンガは、アルベドの方を向いて頷いた。

 

「よろしい。先程も言ったが、私は今の依頼を遂行しなければならない。二、三日は出たままなので、一日と言わず余裕を持って引き継ぎをするがいい」

 

「「はっ!」」

 

 玉座の左右で二人が頭を垂れる。

 こうしてルプスレギナの進言から始まった、アルベドのモモンガ一行への加入は決定事項となった。いや、解決しなければならない問題点が残っている。

 アルベドの角と腰の翼。

 これをどう誤魔化すかだ。

 鎧……ヘルメス・トリスメギストスを着用していれば腰翼は鎧に隠れ、露出した角は装飾の一部だと誤魔化すこともできるだろう。しかし、せっかくアルベドを外へ連れ出すのに四六時中、全身鎧の姿で居ろというのはあまりにも酷だ。

 人化アイテムを装備させることも考えたが、それだと大幅に弱体化してしまう。ならば、強者ないしプレイヤーに見破られるのを覚悟の上で、幻術を使うことも……。

 

「いっそのこと、開き直ってみてはどうです?」

 

 ヘロヘロがアドバイスしてきた。

 デミウルゴスから聞いた話では、この世界において人間種は弱小種族で、亜人やモンスターの勢力の方が強いとのこと。

 人間種から見れば亜人は敵対種族だが、一部では人間種と交流する亜人部族もあるらしい。

 

「以前から組んでる亜人女性なんです! で押し切っちゃえばいいんですよ!」

 

「そ、それは……」

 

 それじゃ、まだ幻術を使って少しでも隠す方がマシだ。

 そう思うモモンガは少しばかり引いたが、彼にとっては意外なことに、このヘロヘロ案をタブラが後押ししたのである。

 

「モモンガさん。私は良いアイデアだと思いますよ? そもそも玉座の間で配備されてたアルベドは、かつての一五〇〇人侵攻の時でも戦闘参加していませんからね。容姿や名前などは、ほぼ外部に漏れていません。この世界の亜人事情も好都合です。下手に隠して、バレたときに誤魔化すことを考えるなら、いっそ角とか晒して歩けば良いんですよ。それに……私の娘についてウダウダ言うような奴は、ぶっ飛ばしてしまえば問題ありません」

 

(いや、問題ないわけないでしょ! 何言っちゃってるの、タブラさん!)

 

 いつになくタブラが過激だ。ヘロヘロのアイデアで引いたモモンガは、このタブラの発言によって更に引くこととなった。

 しかし、ありのままの姿でアルベドを連れ歩けるというのは魅力的だ。

 確かに問題点は残ったままである。だが……ヘロヘロとタブラの言葉が、モモンガの背をグイグイと押していた。

 

「そう……ですね。その線で行ってみますか」

 

 基本的には、別のグループで傭兵として活動していた女戦士……アルベドが、都合によりモモンガのパーティーに転入してきた。そういうことにする。

 

「装備は……聖遺物級(レリック)で纏めるとしよう。パンドラとデミウルゴス。この世界の戦士系職の装備情報を元に、見た目は派手すぎないが立派……というところに落ち着いた品を探し、アルベドに見繕ってやってくれ。宝物殿の武器庫から持ち出して構わない」

 

「承知しました! アインズ様!」

 

「承知しましたっ! んんァインズ様っ!」

 

 デミウルゴスとパンドラズ・アクターが声を揃えて一礼する。

 ……一部揃ってない部分があったが、モモンガはスルーして頷いて見せた。

 その後、<転移門(ゲート)>による野営地への移動を半時間後とし、玉座の間は一時解散となる。

 タブラは、一息つくべく映画鑑賞に向かい、弐式はナーベラルを連れて、別室へと移動。

 建御雷はコキュートスを伴い、第六階層の闘技場へ。ヘロヘロは「メイド達の顔を見たいので、出発は明日にする」とのことで、ソリュシャンを連れて食堂の方へと姿を消している。なお、馬車移動に関しては満喫した様子であり、再出発時は<転移門(ゲート)>使用で、一気に王都近くへ飛ぶつもりのようだ。

 その他、パンドラズ・アクターとデミウルゴスは、アルベドの装備を探すため、宝物殿へと移動している。

 アウラには、ナザリックの隠蔽作業を終えていたマーレを付けて、近くの森……トブの大森林の調査をするよう、モモンガが命じた。なお、アウラには、ナザリック地下大墳墓正門脇に受付棟を設置するようにも併せて命じている。モモンガ的には、簡単に放棄できるログハウスで良かったのだが、凝り性のタブラが「私が素材を提供しますから、ナザリックの外観にあったイイ感じので行きましょう。客を宿泊させる設備なんかもあれば良いですね!」と主張し、誰も反対しなかったので、そこそこ設備の整った建物が建てられることとなる。

 取りあえず、作業に取りかかるのは夜が明けてからだとモモンガが指示したことにより、アウラ達は第六階層の自分達の住居へ戻ったようだ。

 残りの戦闘メイド(プレアデス)達については、ユリに連れられてメイド部屋へと移動している。ルプスレギナが、モモンガに同行して再び外へ行くことになるため、モモンガの許しを得て同僚達と休憩(お茶会を兼ねた業務連絡及び報告会)をするらしい。

 退室時、ルプスレギナは心の中で「イシシシシ! アルベド様を気遣う心優しいメイド美女の演出いただきっす! アインズ様の好感度、更にゲットっす! アルベド様、ごちになります!」と、ほくそ笑んでいたが、無論、声には出していないので、モモンガやアルベドには知る由もないことであった。

 そして玉座の間には、玉座に座したモモンガと右隣で立つアルベドが残るのみとなる。

 ……。

 暫し、沈黙の時が流れた。が、やがて耐えきれなくなったモモンガが咳払いをする。

 

「あ~……アルベドよ。出発の時まで時間がある。少し、話でもしようではないか」

 

「はい! アインズ様!」

 

 輝かんばかりの笑顔。

 見とれてしまったモモンガが我に返るのは、固まった彼を心配して、アルベドが何度か呼びかけた後のことであった。

 




王国ルートって感じでしょうか。
裏から支配しきって、後でドカンと表に出る感じ……になるのかな。
ウェブ版であった辺境候の王国版になるかは未定です。

デミウルゴスのエ・ランテル支配については、強引適当も良いところですけれど
まあ、あんな感じということで
実際に可能かどうかは別として、デミウルゴスなら何とかしちゃうかな~と。

アルベドを同行させることにしました。
理由は……ルプスレギナのヒロインポイントが加算されすぎたこと。
ここらでモモンガさんと同じ場所で出番増やさないと……。

本作は、この辺りから原作ルートから離れていく感じです。
とはいえ原作であった幾つかのイベントは拾いたい気もします。

ちなみにヘンリエッテとアネットの元ネタは、

『吸血鬼』(原題:Vampyr)
ヘンリエット・ジェラルド(マルグリット・ショパン役)

『血とバラ』(原題: Et mourir de plaisir) 
アネット・ヴァディム(カーミラ役)

から頂きました。 

<誤字報告>

ARlAさん、Mr.ランターンさん、ゲオザーグさん、ありがとうございます

皆さんには、いつも感謝しております
前にも書いたけど誤字報告機能、マジ便利

クレマン&叡者の額冠無しのカジットさんはどうなるべき?(5月15日24時00分まで)

  • まだ潜伏中
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