オーバーロード ~集う至高の御方~   作:辰の巣はせが

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第31話

「はぁあああ……」

 

 悩み多き少年、エ・ランテル期待の薬師、ンフィーレア・バレアレが深い溜息をついた場所。そこは悩みの多くの部分を占める少女、エンリ・エモットの自宅である。

 トブの大森林での薬草採取から戻ったンフィーレアは、森の賢王……現ハムスケより、森の勢力バランスが崩れつつあると聞かされた件について村長宅で報告。モモンガ達と共に対策を協議した。

 結果として村を囲う防壁を築くことが決定し、モモンガからゴーレムを数体借り受けることにもなったのであるが……。

 

「ゴーレム数体を一体につき、エ・ランテルの安宿の泊代程度で貸し出すなんて……。どういう金銭感覚してるんだぁ? しかも月額ぅ!?」

 

 食卓上で組んだ腕に顔を埋める。

 家主たるエモット夫妻は、件の防壁建築の説明会が開催されるため村長に呼び出されており、今この家に居るのはンフィーレアとエンリ、それに彼女の妹のネムだけだ。

 

「僕の感覚だと、モモン……ここは村の中だしアインズさんでいいのか。いや、人前だと『様』を付けた方がいいかも?」

 

 過日発生した、帝国騎士を装った法国騎士隊の襲撃。

 これを撃退したのは『アインズとニシキ(弐式)』であるという村内評判であり、村民にとってモモンガらは崇敬の対象となりつつあった。そこへ来て、防壁建築のためにゴーレムを超格安で貸し出すとあっては、崇敬の念が倍増……もはや崇拝化である。

 もちろん、エンリも『アインズ』を崇拝する一人で、しかもンフィーレアが見たところ、それは恩人に対する思いだけではない。

 

(エンリ。アインズさんのことを話すとき、瞳がキラキラしてた。頬だって赤く染めてるし! これって絶対に恋だよね! あああああああ!)

 

 どうして、こうなったのだろう。

 自分は、エンリとは歳が近い唯一の異性で、仲だって悪くなかった。なのに、暫くして会ってみると、エンリは最近知り合ったばかりの男に夢中なのである。

 嫉妬せずにはいられない。

 だが、燃え上がりかけた嫉妬の炎は、モモンガの顔を思い出すや鎮火した。

 ンフィーレアが思うに、彼とモモンガでは差がありすぎるのだ。魔法詠唱者としての実力。財力だって大きく違う。背丈はともかく、顔は……そんなに負けていないと思うが、たまにモモンガが見せる優しげな微笑。あれはンフィーレアとて目を奪われることがあった。

 

(つまり、見た目だけじゃなく、人柄だって僕が惹かれるほど凄いわけだ。アインズさんにはエンリを諦めないって言ったけど……。どうやって勝てって言うんだぁ!?) 

 

 唯一の救いは、エンリを遙かに上回る『絶世の美女(ルプスレギナ)』が、モモンガの近くに居ること。モモンガの方でもエンリを意識してはいるようだが、ルプスレギナとの仲の方が親密そうに見えていた。

 

(エンリ……。アインズさんに振られないかなぁ……) 

 

 仮に声に出したとして、それがエンリの耳に入ったら、ンフィーレアが振られること必至の台詞である。

 

(努力で振り向いて貰えるなら、いくらでも努力するけど……)

 

 外堀から埋めていくのはどうだろうか。エンリの両親に対する心証を良くし、味方に付ける。エンリの結婚相手がエ・ランテルの名士の孫だなんて、願ったり叶ったり。

 そういう風に思って貰えたら最高で、事実、村が襲撃される前までは順調に事が進んでいた。エンリ狙いの下心でアプローチしたわけではないが、好きな女性の両親なのだから割り増しに愛想良くもすれば、サービスもすると言うものだ。

 しかし、エンリの両親の目は、今では完全にモモンガに向かっていた。どちらかと言えば、父親の方は弐式に恩義を感じているようだが、彼にしてみればモモンガと弐式のどちらでもエンリの貰い手としては最高であろう。

 

「はぁああああ……」

 

「ンフィー、どうかした?」

 

 井戸から水をくんできたエンリが、食卓部屋に入ってくる。木製のコップをンフィーレアの前に置いた彼女は、対面の椅子に腰掛けた。

 

「どうしちゃったの? 溜息なんかついて」

 

「え? いや、あははは。ちょっと……ね」

 

 君と恋仲になるために、何処をどう攻めたものやらと考えを煮詰めてました。

 などと言えるはずもなく、ンフィーレアは誤魔化している。そんな彼に対し、エンリは胸前で手指を組むと、こちらも熱い溜息をついた。

 

「ねえ、ンフィー聞いた? アインズ様、村にゴーレムを貸してくれるんですって! それも信じられないぐらい安くで! 凄い凄い魔法使いで、お金持ちで……優しくて。私、憧れちゃうな~」

 

「ぐう……」

 

 ンフィーレアは小さく呻く。

 エンリは、だらしなくデレデレしているわけではない。心からモモンガを尊敬し、あこがれの念を抱き、それを『友人』であるンフィーレアに語っているだけなのだ。

 なのに、ンフィーレアはエンリの笑顔が眩しくて直視できないでいた。

 そして、その後の数分間。

 エンリは『自分が如何にアインズ様を尊敬し、憧れているか』をンフィーレアに語って聞かせ、満足した後に「両親の手伝いに行く」と言い家を出て行った。

 後に残ったのは真っ白に燃え尽き、テーブルに突っ伏するンフィーレアのみ。

 

「もう駄目だ……。エンリぃ~……。……惚れ薬……開発してみるかなぁ……」

 

「ほれぐすり……って、なぁに?」 

 

 幼い声がすぐ脇で聞こえ、ンフィーレアの身体がビクリと揺れる。

 軋むような動作でンフィーレアが顔を向けると、そこにはエンリの妹、ネムが居て、不思議そうにンフィーレアを見上げていた。

 焦るあまり、気の迷いを口に出すと言った有様のンフィーレアであったが、顔を上げた瞬間からネムと顔を合わせるまでの間。ほんの数秒ほどで、いつもの雰囲気と面持ちを復帰させている。

 

「ああ、他人に自分を好きにさせる薬さ。まあ、違法薬なんだけど。直接に飲まない香水なんかは違法じゃないしね。そこを工夫して異性を惹きつける……そんな薬の注文が入ってるのさ」

 

 勿論、この場で考えたデタラメのエピソードだ。

 普段のンフィーレアは、営業トークの中で薬物に関する話題をぼかして話すことが多い。素人さんに知られてはいけない原材料や薬草について、口に出すときは注意が必要だからだ。

 そうやって培った話術で、ネムを煙に巻くことにしたのだが、どうやら上手くいったらしい。

 

「ふう~ん。よくわかんない。あはははっ!」

 

 不思議そうにしているネムの頭を撫でてやると、嬉しそうに笑いはしゃいだ。

 わからないと言った口で、エンリに惚れ薬のことを話すかも知れないが、今『ネムに説明した』という事実を設けたばかり。エンリに問われたとて、同じ説明をするだけのことだ。

 

(こういう、駆け引きとか誤魔化し合いとか……。エンリ達相手には、したくないんだけど……)

 

 今回ばかりは、やむを得ない。緊急措置として職業スキルを活用したまでのことだ。

 

「じゃあね! ンフィーお兄ちゃん!」

 

「う、うん……」

 

 屈託無く笑いながら、ネムは姉の手伝いをするのだと言って家を出て行く。

 後ろ姿を見送るンフィーレアは「エンリの、妹かぁ……」と呟き、数秒後には何かを振り払うように頭を振るのだった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 ロンデスとクレマンティーヌをユリ・アルファの駐在所(カルネ村における借家)に預けたモモンガ達は、ンフィーレアを護衛しつつエ・ランテルに戻っている。薬草については通常の倍ほどの量が採取でき、その質も上々だとか。

 

(まずは依頼達成……いやいや、エ・ランテルに着くまでが仕事です! 気を抜いてはいけないな……)

 

 ンフィーレアが御者を務める荷馬車。その左側で弐式の後ろを歩きながら、モモンガは気を引き締めた。すぐ後ろにはルプスレギナが居て、鼻歌交じりで歩いているのは何となくわかるが、時折、熱い視線が飛んでくる。

 

「モモンさんの背中、格好いいっす~……」

 

 などという呟きも聞こえたりで、モモンガとしては「そうか? そうなのか!?」と自分の後ろ姿について考えることもあった。

 他に気になることと言えば、街道移動中……漆黒の剣のニニャが、暇を見ては魔法運用について聞きに来ることだ。

 魔法の理屈などモモンガには理解できないが、低位階の魔法をやりくりしてパーティーに貢献する術ならお手の物。ユグドラシルで練り上げた戦法・戦術を伝授したところ、ニニャの尊敬の念は天にも昇るほどとなった。

 

「モモンさん、素晴らしいです! どれもこれも、こんな戦い方や第二位階魔法の使い方なんて、初めて知りました!」

 

「ハッハッハッ。そうかな? いやあ、それほどでもないんだけどね」

 

 モモンガは照れくさそうに笑い、頭を掻いた。

 鈴木悟としては、趣味の話題で年下女性から尊敬されたことがない。故に、機嫌の程は実に上々だ。

 前方を行く弐式からは「ルプーが近くに居るのに、別の女の子と仲良くするとか。モモンさん、ただもんじゃねーな」などと呟かれ、それが強化された聴覚で拾えるのだが……モモンガは努めて無視をした。 

 

(まったく。ニニャは愛嬌があって可愛いけど、見所がある魔法詠唱者なんです。上級者としては面倒見たくなるじゃないですか。素直だし! あと可愛いし!)

 

 後輩的存在に慕われている。それが可愛い系の女子とあっては、愛想が良くなって当然なのだ。

 

(そのはず! ……と思いたいんだけど、エンリのこともあるし。アルベドにルプスレギナかぁ~……。俺、やっぱ気が多いのかな……)

 

 現実(リアル)ではない自然あふれるこの世界に来て、色々と吹っ切れてしまったのだろうか。ヘロヘロ的な感じで……。

 そう思いつつ、一つ物を教わるたびニニャが「うはぁ! 凄いです!」とはしゃぐのを見ると、モモンガは自然に頬が緩んでいく。

 そして、それを面白くなさそうに見つめる視線が二組あった。

 一人は、ルプスレギナ。彼女はモモンガを慕っており、既に告白済みの身である。明確な返事はモモンガから告げられていないが、感触は悪くないと思っている。そんな彼女にとって、人間の女……ニニャがモモンガに擦り寄るのは、まったくもって面白いことではなかった。ただ、ニニャを感情的に排除しようとはしない。そういった行為がモモンガ達、至高の御方の嫌うところであるのは理解できているからだ。

 

(人間なんて面白おかしくブッ殺したいっすけど。アインズ様と冒険して築き上げた『こっちの私』のイメージ。損なうわけにはいかないっすからねぇ)

 

 強硬手段に出てモモンガに嫌われるぐらいなら、今見ている苛立つ光景など幾らでも我慢できる。そう覚悟を決めたルプスレギナは、そのつど深呼吸をして気を落ち着けるのだった。

 と、このようにルプスレギナは、自らの恋路のハッピーエンドに向けて心を砕いている。

 その一方で、ただひたすらに落ち込んでいる者も居た。

 

(なんなの、アインズさん。中性的な少年にも大人気とか……。どっちでもいけるの? いけちゃうの?)

 

 ンフィーレア・バレアレである。言ってる彼自身も『中性的な少年』に分類されるのだが、本人は気がついていない。

 

(モテモテで羨ましいなぁ。……本当に……)

 

 ニニャと楽しく魔法談義をしているモモンガを、ンフィーレアはジトッと睨みつけた。今のところ街道は『この先暫く道なりです』状態なので、多少は手綱さばきが狂っても大丈夫。だが、手綱を握る手が震えているのは、すぐ隣で歩くペテル・モークの眼にも明らかだった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 翌日の午前中。

 モモンガ達は、エ・ランテルに帰り着いている。帰路では特にモンスターや野盗の襲撃も無く、ひたすらエ・ランテルを目指すのみだった。強いて言えば、モモンガとニニャの会話。そして、ルプスレギナに言い寄るルクルットの声が聞こえていたのみ。

 エ・ランテル到着後は冒険者組合へ向かい、両パーティー合わせて依頼達成報告を行っている。これは依頼主であるンフィーレア・バレアレが護衛対象であったため、完了検査は滞りなく終えていた。もっとも、ハムスケの使役魔獣としての登録が必要だったので、ほんのちょっぴり手間取りはしたが……。

 ともあれ、これにて冒険依頼は無事達成。冒険者パーティー漆黒の記念すべき初依頼は、成功で終わったのだ。

 依頼主であるンフィーレアとは冒険者組合で別れ、報酬は漆黒の剣とモモンガら漆黒とで分配している。そして夜になってから、そこそこお高い酒場で打ち上げパーティーをし、漆黒の剣とは名残を惜しみながら別れていた。

 

「いや~……モモンさん。ニニャちゃんの、『僕! 女の子れすけど! モモンさんと仲良くできまふか!』には、まいりましたね~。モテモテですね」

 

 夜道を歩く弐式が、モモンガを冷やかした。

 そう、打ち上げパーティーの場で、酔いの回ったニニャが自身の性別をカミングアウトしつつ、モモンガに訴えかけてきたのである。

 今思い出しても、ペテル達の引きつった顔と言ったらなかった。聞けば、パーティーメンバーの全員がニニャが女であることは知っていたそうで、気を遣って知らないフリをしていたのに……と、複雑そうであったのがモモンガとしては印象深い。

 モモンガ自身は弐式情報で知っていたが、いきなりの告白に人化状態でのほろ酔いが一瞬で醒め、しどろもどろの対応になったものだ。

 

「ん、まあ……。仲良くできるとは言ったし、男としては悪い気はしないんですけど。俺、これで良いんですかね……」

 

 モモンガは隣に弐式、後方にルプスレギナを連れたまま夜空を見上げた。ちなみにハムスケは、漆黒の剣との打ち上げ前に、冒険者組合と提携している馬車組合へ預けている。後で引き取りに行かなければならないだろう。その後は宣伝用に連れ回すも良し。カルネ村に置いて、防衛力の一助とするも良しだ。

 

「これで良いか……と言いますと?」

 

 つられて夜空を見上げた弐式が、面を付けた状態ではわからないが、恐らく横目でモモンガを見ながら聞き返す。モモンガは……すぐには答えなかった。

 

(星、綺麗だな~……)

 

 今日のところは晴天であり、星がよく見えている。

 空高く舞い上がれば、以前に弐式と共に見た広大な星空を見ることもできるだろう。今は、エ・ランテルの街並み、建物の屋根などが視界に入っているが……それはそれで、また趣深い。

 そうした中、モモンガは弐式に視線を戻した。月明かりが遮るものなく地上まで届いており、夜空の下で照らし出された弐式炎雷……忍者の姿は、そこまで時代劇者にこだわりがないモモンガが見ても実に格好が良い。

 

「俺、思うんですよ。弐式さん。アルベドと交際……中で、ルプスレギナに告白されて……」

 

 モモンガは肩越しにルプスレギナを振り返った。

 一瞬目が合ったルプスレギナは、少しだけ怯えたような眼をする。

 

「いや、嬉しいですけどね」

 

 弐式に向き直りながら言うと、後方からは非常に嬉しげな気配が伝わってきた。それを心地よく感じる自分に苦笑しながらモモンガは続ける。

 更にエンリ、ニニャ。二人の人間女性とも関係性は良好だ。勿論、社会人としての関係ではなく、男女の関係性として良好なのである。

 

「カルネ村から戻るまでにも考えたんですが。こんな気の多いことで良いんでしょうか。やはり、一人……」

 

 喜色にまみれていた後方からの気配が、一気に盛り下がった。

 ある意味で圧力がかけられているような感覚であり、モモンガは酢を飲んだような気分になったが、フォローの意味も兼ねて言葉を続ける。

 

「ないし二人に絞った方がいいんじゃ……」

 

 後方のルプスレギナの気配が、一転、再び嬉しそうなものへと変わった。ここまで来ると、疲れる一方で面白みも感じる。が、弐式が話し出したので、モモンガは意識を隣に向けた。

 

「前にも言ったかも知れないけどさ。いいんじゃないですか? 最終的に嫁さんが五人や十人になっても」

 

 弐式は言う。男と女の好きとか愛してるなんてのは、本人同士の問題なんだから。周りに不幸をまき散らしたり迷惑がかからなければ、それでいい。

 

「元の世界での重婚規程なんて、もう俺達には関係ないんだし。こっちの国……例えば王国の法律で似たようなのがあるかもですけど。そこは支配して法律を変えちゃえばいいんですよ。そもそも、俺達に王国の法律なんて関係ないか。後は……モモンさんが手を出した女性全員に対して責任を取れるなら。それでいいんじゃないですか?」

 

 関係した女性、全員に対して責任を取る。

 幾人も居る妻との関係を円満に保ち、養い、子育てをする。

 現実(リアル)で恋人の居なかったモモンガには、ハードルが高いことのように思えた。しかし、結婚して家庭を持つ男なら、誰もがしていることである。自分の場合は、奥さんの数が多くなるのだろうが……。

 

「今の俺には妻や子を守る力があるし、金だって稼げば良い……か」

 

「よっ! 大黒柱っ! 支える一家の数は多いぞ! まだ結婚してないけど!」

 

 茶化す弐式を苦笑交じりに睨むが、モモンガは普段は発揮できない『この方面の意気地』が沸き上がってきたような気がしていた。

 足を止めて振り返ると、ルプスレギナが遅れて一歩踏み込んできたため二人の距離が詰まる。手を回せば抱擁できそうな程の至近距離だ。

 

「そんなわけだ。すまないな、ルプスレギナ。『お前一人だけ』というのが理想だったかも知れないが……。すでにアルベドが居る以上、俺は、こういう奴なんだ。幻滅したか?」

 

「幻滅だなんて、とんでもないです!」

 

 モモンガなりに腹をくくった上での問いかけだったが、ルプスレギナは勢いよく首を横に振る。

 

「私はモモン……ガ様と……その、モモンさんに気持ちを伝えられただけで……。駄目だって言われなくて、本当に嬉しくて……」

 

 ルプスレギナは、どこかのサキュバスや吸血鬼のように、妻になりたいだとかは押し込んで来ない。これがもし『奥ゆかしさ』や『一歩引いた気の弱さ』を演出しているのなら大したものだ……と、端で見ている弐式は思ったが、彼が有する特殊技能(スキル)では、判断がつかなかった。

 

(メコン川さんの娘さんだし? 悪い話じゃないよな。これがルプーじゃなくてナーベラルだったら……邪魔をするか、俺が泣くけど)

 

 そもそも余所様の色恋ごとである、相談されてたら話ぐらい聞くし、思いつく範囲でアドバイスもするが、最終的なことはモモンガと相手が決めることだ。

 そんなことよりも弐式が気になるのは、今のルプスレギナの言葉に対し、モモンガがどう返すかである。ここでヘタレた物言いをするようでは、モモンガとルプスレギナの縮まった距離が開きかねない。

 

(余所のプレイヤーとPVPするよりハラハラするな……。てゆうか、俺が居る場で、そういう話すんのマジ勘弁……。てか、二度目なんだよなぁ~)

 

 実に居たたまれない気分だ。しかし、「俺、用を思い出したから!」と離脱するタイミングが、なかなか掴めない。第一、この恋愛ドラマがここからどうなるか、見てみたい気持ちだってあるのだ。

 離脱してから分身で盗み見する手もあるが、それをするぐらいなら堂々と居座って見聞きしよう。そもそも、弐式が居る場でおっ始めたのはモモンガ達なのである。

 

(邪魔者の自覚は大いにあるが、俺は悪くない! そして、情報収集に努めるのは忍者の道だ!)

 

 そして、この場を耐え抜き、後で今の話を酒の肴にして他のギルメンらと盛り上がろう。

 そう決めた弐式は、特殊技能(スキル)まで動員して気配を消し、居ながらにして空気と化すのであった。

 と、こうした弐式の努力もあって、モモンガとルプスレギナは更に二人だけの世界にのめり込んでいる。夜中なだけあり、他に通行人が居ないのが色々な意味で救いだ。

 

「ルプスレギナ……」

 

「は、はい。モモンさん」

 

 名を呼ばれたルプスレギナが返事をすると、モモンガは少し息を吸ってから切り出す。

 

「実を言うとな……。私は、お前のもう一面……(カルマ)の悪寄りな部分について知っている。ヘロヘロさんから聞いたのだがな」

 

「え……」

 

 ルプスレギナが硬直するが、モモンガは笑って彼女の肩に手を置く。自分を好きだと言ってくれている女性が相手なので、決してセクハラ行為ではない。

 

「ヘロヘロさんは、メイド関連のNPC作成に関わりがあるからな。獣王メコン川さんがルプスレギナを作るときに、彼から色々と聞かされていたらしい。と、そういうことを言いたいのではなくて……だな」

 

 モモンガは、ルプスレギナの二面性を知った上で、これからも側に居て欲しいのだと説明した。

 これを聞き……ルプスレギナは、驚きと共に歓喜によって身を震わせる。

 

(私が、こういう性格なのは獣王メコン川様が『そうあれ』として、私をお作りになったため。私は、そのことを誇らしく思っているけれど、戦闘メイド(プレアデス)の姉妹の中では、悪い方の性格を好ましく思ってない人が居る……)

 

 しかし、モモンガは言った。

 どちらの性格も知った上で側に居て欲しいと……。

 

「もったいない……お言葉です……」

 

 ルプスレギナの褐色の頬を、涙が伝って落ちた。

 

「でも、本当に? 悪い子の方の私で居ても? お嫌いになったりしませんか?」

 

「無論だ」

 

 胸前で祈るように手を組むルプスレギナに対し、モモンガは即答する。

 

「しかし、改めて考えると……どっちのルプスレギナも良い感じだな」

 

「そうなんですかぁ!? でもでもぉ、強いて言えばどっちの私が好みなんです?」 

 

 それはまあ、明るく人懐っこい方であろう。

 圧される形で答えを絞り出したモモンガに、ルプスレギナは大きな胸をポムンと叩いて見せた。

 

「だったら基本的には、こっちの私で行くっす!」

 

「か、かまわないのか? 今は、ああ言ったが。私は……」

 

「彼氏の好みに合わせるのも女冥利ってもんすよ!」

 

「そ、そうか……」

 

 かろうじて返事をしたモモンガの耳に、聞き捨てならない声が飛び込んだのは、この時だ。

 

「やべぇ。モモンガさん、コンソール操作も無しでNPCの性格設定を変更しやがった……。マジ、ぱねぇ」

 

「ちょっと、弐式さん!」

 

 弐式の声は呟きレベルだったが、はっきり聞き取ったモモンガは勢いよく振り向く。

 

「それは人聞きが悪いですYO!」

 

「イチャイチャしてるのが悪いんです。あと、なんでラップ風なんですか」

 

 ……。

 二人は暫し顔を見合わせた後、どちらから共なく吹き出した。

 今のやりとりは、以前に同じ二人でやったものだからだ。もっとも、ラップ風に言う役と突っ込み役は入れ替わっているが……。

 

「弐式さんは、ナーベラルとはどうなんです?」

 

 モモンガが聞くと、弐式は下顎部に手をやって、わざとらしく考える素振りをして見せた。

 

「まあ、それなりに進捗中ですかね。前にも話したとおり、ペスのところで順調にやってますし。そうだ! 今度、俺の冒険者チーム作っていいですかね? 漆黒の弐式班って感じで!」

 

 少し前までのモモンガであれば、この発言を聞いたときに寂しさを感じたことだろう。だが、今のモモンガは聞き終えてニンマリと笑っている。

 

「ナーベラルと外で良い感じになりたいと?」

 

「いけませんか? モモンガさん?」

 

「滅相もない。この方面でのお仲間が増えれば、肩身の狭い思いも……って、あれ?」

 

「おっ?」

 

 モモンガが不意に言葉を切り、弐式も何か感じたのか夜空を見上げる。つられてモモンガも夜空を見上げるが、そこには星が多く見える夜空があるだけで……。

 

『うははは~。モモンガさんも弐式さんも、こっちへようこそ~』

 

 巨大な古き漆黒の粘体(エルダー・ブラック・ウーズ)の幻影が、夜空に見えたような気がする。

 

「……冒険者組合の宿に戻って、ナザリックに転移しますか……。弐式さん」

 

「そうっすね。ロンデスとかを迎える準備とかしなきゃですしね。モモンさん……」

 

 見てはいけないものを見た気にでもなったか、弐式がモモン呼びに戻しつつ頷く。

 幾分盛り下がった状態でモモンガと弐式は歩き出すが、その後ろを付いて歩くルプスレギナは、自身の心情に戸惑っていた。

 彼女の創造主、獣王メコン川が設定した(カルマ)は、極悪寄りだ。ソリュシャンよりはマシな部類だが、それでも悪の色が濃い。そう、二面性があると言ってもルプスレギナの本質は『悪』なのである。

 つまり、『明るく快活で朗らかなルプスレギナ』というのは、彼女にとって演じやすく、性から外れたものではないが……本質とは異なる『人柄』。遊びの人格モデルなのだ。

 故に、愛するモモンガのためとはいえ、普段から演じ続けていくのは、二面性設定があるとは言え精神的な負担が生じる。しかし、そこを踏ん張ってこそ、愛しい御方をつなぎ止められるというものだ。耐えなければならない。

 そう思っていたのだが……。

 

(あれぇ? ……おかしいっす。モモンガ様のことを考えてると、こっちの私風に振る舞い続けても……)

 

 少し後ろから自身の明るい振る舞いを見て、それを鼻で笑い、その姿に騙されて安心している者を冷笑する。そういう気分になれないのだ。

 もちろん、モモンガ相手に裏のある態度や心持ちで居る気はないが、それまで出来ていたことが出来ない。そのことに気づいたルプスレギナは、戸惑うことしきりであった。

 それどころか、元より『明るく快活で朗らかなルプスレギナ』であったような気すらしてくる。そして、そうあることが嬉しく思え、胸が高鳴るのだ。

 

(これ……マジっすか? もちろん、本心からモモンガ様をお慕いして愛してるっすけど。こんな、純真な小娘みたいにドキドキするなんて……)

 

 獣王メコン川によって「そうあれ」と創造された自分が、変貌していく。それは恐ろしいことではあった。だが、モモンガを思うと心地よさに切り替わる。

 胸元に手を当ててみると、いつもより鼓動が速くなっていた。

 

「どうした、ルプスレギナ?」

 

 モモンガから声がかかり、慌てて顔を上げると、モモンガ達は少し先まで移動している。ルプスレギナがついて来ないので、足を止めて呼びかけたのだ。

 

「は、はい! 今行きますぅっ!」

 

 返事をして駆け出すと、モモンガと弐式は前に向き直って歩き出す。

 その左側を歩くモモンガの背。それは駆けて追うルプスレギナにとって、大きく、そして暖かいものに思えてならないのだった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「で、円卓の間に集まったわけですが」

 

 モモンガは自身の席に座し、ギルメン達を見回す。

 現在、円卓の間にはギルメンだけが入っており、ギルド長であるモモンガの他、ヘロヘロ、弐式炎雷、武人建御雷、タブラ・スマラグディナと、合流を果たしたギルメン全員が揃っている。ちなみに、ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』のギルメン会議であるからと、全員が異形種化している。 

 参加者数は、前回よりも増えており、そのことはモモンガにとって、この上ない喜びだ。人数が増えてこれほど嬉しいのであれば、たっち・みーやウルベルト・アレイン・オードル。その他多数のギルメン。彼らとも早く合流を果たさねばならない。

 そう心に決める一方で、モモンガには気になることがあった。

 自分以外のギルメンが、ニヤニヤであったり、生暖かい眼であったりと様々であるが、総じて楽しげな視線を向けてくるのだ。

 

(何だろう。この場を逃げた方がいいような……この場に居てはいけないような……)

 

「……皆さん。どうかしました? 俺の顔に何か付いてますか?」

 

「いえね、モモンガさん」

 

 タブラが、タコのような頭部をククッと傾けながら言う。

 

「ルプスレギナとの関係が大きく前進したそうで……」

 

「なっ! ……っ! 弐式さんっ!?」

 

 腰を浮かせたモモンガは、建御雷の隣で横を向いている弐式を睨んだ。下手な口笛を吹いているのが小憎たらしい。  

 

「い、いやあ。ギルド長の幸せエピソードは、ギルメン間で共有しないといけないな~……って」

 

「そういうのは、俺のプ~ラ~イ~バ~シ~に配慮した上でやっていただきたいんですけどね!」

 

「モモンガさん。弐式の馬鹿が、すまねぇ……な!」

 

 言うなり建御雷が弐式の後頭部を鷲づかみにし、円卓上へ押しつける。

 

「いだだだだっ! 建やん、これダメージ入ってる! ごめん、助けて!」  

 

 ジタバタもがく弐式に、建御雷が「謝るのはモモンガさんにだ」と言い、弐式がモモンガに謝罪したことで場は収まった。

 モモンガにしてみれば、そこまで激怒していたわけではない。なので、建御雷の行動に驚いてしまったが……どうやら女性関係をネタにして、長時間弄られるのは避けられたらしい。その点については助かったとモモンガは思っている。 

 

(前に似たようなことで弄られたときは酷かったからな~。建御雷さんが合流してくれて本当に良かった)

 

 建御雷は、小難しい話には関わってこないが、仲間内での礼儀には割りとキチッとしたところがある。気さくで大らかではあっても、度を越した失礼や無礼は許さないのだ。他のギルメンで似たところがある者と言えば、ぶくぶく茶釜などが挙げられる。

 

(茶釜さんの場合は、シモの話に厳しいんだけど……。おっと……)

 

 会議を進めることを思い出したモモンガは、小さく頭を振って皆を見回した。

 

「え~……それで皆さん。議題についてですが……」

 

 まずは、かねてから外部協力員として勧誘していた、ロンデス・ディ・グランプがカルネ村に到着したこと。そして、彼がスレイン法国の特殊工作部隊、漆黒聖典に所属していた女性、クレマンティーヌを伴っていたことだ。

 

「その漆黒聖典ってのは、六色聖典の中で戦闘力が突出してるんだっけ? 弐式の見たところではどうだ?」

 

「レベル四〇ぐらいかなぁ。この世界では、確かに突出して強いと思うけどさ……」

 

 建御雷の問いに弐式が答える。そのレベルの低さに建御雷は興味を失いかけたようだが、ブレインより強いと聞かされると興味を持ち直したらしい。

 

「そっか。じゃあ武技とかの教官役にも使えそうだな……」

 

「この世界の案内役や解説役としても使えますよ。ブレインは教官役で収まってますけど、割りと有名人らしいですし。ロンデスとクレマンティーヌも、俺達が外に出るときに同行させたいですね」

 

 モモンガの提案に皆が頷く。これでロンデスに加え、クレマンティーヌもナザリックでの『お雇い』の身分となった。いや、なって良いと決まったわけだ。もっとも、この後の顔合わせで「やっぱり、やめます」とロンデス達から言われかねないが……。

 

(断られたら……。記憶操作でもしてロンデスは放り出す……いや、別途雇い直すか。クレマンティーヌは可哀想なことになるかもだけど……)

 

 頼ってきた人間が、こっちの事情を知った上で就職辞退した……からと言って、モモンガは殺そうとまでは思わない。ただし、クレマンティーヌは前職が前職なので、可能な限り情報を絞り出したいところだ。

 

(拷問部屋行きにはならないだろうが、<支配(ドミネート)>と<記憶操作(コントロール・アムネジア)>を使うことになるな。……対象女性(クレマンティーヌ)のプライバシーが完全無視になるとか……。……どう考えても悪手だな)

 

 この時、モモンガは考えただけに留めている。数人とは言え、今はギルメンが居るのだ。そして、ここはユグドラシルではない。ゲームではない現実で、皆がどう思うか。それを常に考慮すべきであるから、過激なことを思いついても即行動へ移すのは危険だろう。

 ロンデスとクレマンティーヌが『無事』にナザリックの一員となったら、第六階層の森林部で居を構えさせる案。こちらについても、皆の了承を得たので、モモンガは内心で胸を撫で下ろした。

 これはロンデス達を心配していた……わけではなく、ギルド長として外部の者をポンポン追加するにあたり、会議が揉めることを気にしていたのである。昔、たっち・みーとウルベルトが喧嘩を始めたときなどは、毎度胃の痛い思いをしたものだ。

 また、弐式がナーベラルと他幾人かを引き連れ、冒険者パーティー漆黒の弐式班として行動したい件についても認められていた。

 

「モモンガさんが、ルプーとイチャイチャしてるのを見てるとさぁ。俺もナーベラルと楽しくやりたいんだよね~。……外で、それも別班で」

 

 外は兎も角、別班で行動したい理由は「やっぱさ、NPCとイチャイチャしてる姿をギルメンに見られるって……嫌じゃん?」だそうで、聞かされたモモンガは少しばかり苛っとしたものだ。

 

「俺は、ルプスレギナとイチャイチャしていたわけでは……。ゴホン。それで? 弐式さんは、他に誰を連れて行くんです?」

 

 この問いに対し、弐式は首を傾げることで返答している。

 要するに決めていなかったのだ。

 モモンガと弐式以外のギルメンは顔を見合わせたり、肩をすくめるなどしたが、結局のところ、どういった編制であれば良いのだろうか。

 弐式の戦闘力は転移後世界にあって破格だが、同レベルのプレイヤーを前にしたときは装甲値の低さが問題となる。壁となり得るタンク役が必要だが……。

 

「コキュートスを人化させて、高級防具でガチガチに固めて同行させるってのは?」

 

 挙手しつつ建御雷が言うが、これは良い案だと皆が思った。コキュートスに人間蔑視が皆無というわけではない。しかし、他の階層守護者と比べれば遙かにマシだ。

 まずは、妥当なところであろう。

 もっとも、コキュートスの創造主である建御雷が、今言ったような装備で同行する案もある。しかし……。

 

「弐式がナーベラルとイチャイチャするのを見せつけられるんだろ? 俺ぁ、真っ平御免だ。そもそも、弐式も嫌って言ってるしな」

 

 とのことで、建御雷は残留することとなった。

 暫くはコキュートスが守護していた第五階層に陣取り、ブレインなどと稽古などに励むらしい。

 弐式班のメンバーが、タンク役戦士(コキュートス)探索役(弐式)魔法詠唱者(ナーベラル)と決まったところで、後は回復役……信仰系の同行者が居れば様になる。

 モモンガが、マーレか人化したペストーニャとかか……などと考えていると、弐式が挙手しつつ発言した。

 

「モモンガさん。ルプスレギナを俺んとこに移してくれません?」

 

「ルプスレギナを……ですか?」

 

 モモンガは首を傾げる。

 要望に応えるのは(やぶさ)かではないが、そうなるとモモンガ班から回復担当が居なくなるのだ。モモンガ達を負傷させられる存在は、そうは居ないだろうが、冒険者として活動する手前、第三者を治療する必要があるかもしれない。治癒のポーションを多数持ち歩けば良いとしても、ポーション作成のための原材料……特にユグドラシル由来の品が有限とあっては、あまり使いたい手ではない。

 

(それこそ俺の所にマーレを入れるか、ペストーニャを入れるかだな。しかし、弐式さんの班でやっても良いわけだから……。何故、わざわざルプスレギナを引き抜くんだろう?)

 

 気になったモモンガが確認したところ、弐式は幾分呆れが混じった声で答えた。

 

「モモンガさん。次はアルベドを連れて行くんでしょ? 女の子二人の方は良いかもしれないけど……ルプスレギナ同伴で、アルベドとイチャイチャするのは駄目でしょーっ?」

 

 それとも、パーティーメンバーを自分以外女にして、みんなとイチャエロな冒険をしたいのか。

 

「うっ……」

 

 指摘を受けたモモンガは、座した状態でよろめくという器用な挙動を見せた。

 アルベドとは交際状態で、ルプスレギナとも同じく交際中だ。弐式が言ったとおり、ルプスレギナ側ではアルベドの同行を推したぐらいだから、アルベドと険悪なことにはならないだろう。また、アルベドは自身が『第一恋人』という認識があるだろうし、ルプスレギナには借りがあるようなものだから、これまたルプスレギナと険悪な状態になる可能性は低い。

 二人同時に連れ歩いて大きな支障は無いと言える。

 しかし、だ。個別に恋人とした女性達を、まとめて連れ歩くというのは、モモンガにとって精神的難易度が高い所業なのである。

 

「ペロロンチーノさんなら、『ハーレムだぁあああ! ひゃっほぉぉおおい!』とか言って喜ぶんでしょうけど。ああ、俺も大丈夫かな……メイド限定ですけどね」

 

 ヘロヘロが粘体の身体をフルフルさせながら言う。

 だが、モモンガは、ペロロンチーノやヘロヘロではない。

 いずれ……いずれ、妻を複数人持つことになろうとも、今は無理。

 結局、モモンガは弐式案を呑み、ルプスレギナを『異動』させることにした。

 

「では、弐式さんの班は、弐式さん、コキュートス、ナーベラルとルプスレギナの四人編制と言うことで決まりですね」

 

 このモモンガの取り纏めに、その場の皆が了承。弐式班の編制が確定した。

 そうなると、次なる問題が浮上する。ルプスレギナを引き抜かれ、弐式が別班になったことで、モモンガのみとなったモモンガ班をどうするかだ……。

 

「いっそのこと、アルベドと二人で行動してみませんか?」

 

 タブラの発言に皆の視線が彼へと集中した。

 防御力が高い戦士系のアルベドを前衛とし、モモンガが魔法詠唱者として後衛を務める。

 バランスとしては良いのだろうが人数が少ない。この編制を人間でやると、数的戦力不足が問題となる。だが、そこは一〇〇レベルプレイヤーとNPCだ。まずもって大丈夫だろう。

 回復に関してはポーションを使えば良いし……。

 

「在庫が気になるにしても、今は錬金術を修めてる私が居ますからね。最悪、転移後世界の材料でも良い感じのポーションを作って見せますよ」

 

 ……妙に協力的だ。

 何か含むところでもあるのだろうか。

 

(いや、おおよその見当はついてるんだけどね……)

 

 だが、確認はしておくべきだ。

 モモンガは、タブラに向き直ると直球で尋ねてみた。「何か、お考えですか?」と。

 強く聞いたわけではないが、タブラはその手指でタコ頭を掻いた。

 

「いえね。モモンガさんはルプスレギナと良い感じらしいですし、ここはアルベドとも大いに前進してみてはどうか……とね」

 

「やっぱり……」

 

 ハアアアと深い溜息をついたモモンガであるが、アルベドと二人旅というのも興味がある。元設定の『ちなみにビッチである。』が残っていたなら不安もあったろうが、今のアルベドならば問題はないはず。

 

「モモンガさんも冒険者として一働きしたことですし、こっちの世界には少し慣れたんじゃないですか?」

 

 ならば、アルベドをエスコートして旅することも可能ではないか。

 そう推してくるタブラに、モモンガは苦笑交じりではあったが頷いている。

 

「わかりました。アルベドと二人で行動しましょう。何かあったら、すぐに<転移門(ゲート)>で逃げるか、ナザリックに連絡します」

 

 この決定も皆の了承得たことで、外部行動班はモモンガ班と弐式班。そしてヘロヘロ班の三班構成となった。なお、ヘロヘロ班……ヘロヘロ、セバス、ソリュシャンの編制に変更はない。

 その後、ロンデスとクレマンティーヌ。この二人をどう扱うかが話し合われ、当面は二人ともナザリックの第六階層で住まわせ、最古図書館(アッシュールバニパル)にて転移後世界の情報を書き留めることとなった。これには司書長である骸骨の魔法使い(スケルトン・メイジ)、ティトゥス・アンナエウス・セクンドゥスとタブラが関わる。

 当初の狙いどおり、転移後世界の案内役を担わせようにも、モモンガらの活動域は今のところ、王国に留まっている。この時点で、お尋ね者のロンデスが使えない。クレマンティーヌの場合は、スレイン法国にあってロンデスよりも上位機関の所属だったため、前述したように当分は図書館通いが良いだろうと判断されたのだった。

 そうして大まかな打合せが終わると、モモンガの<伝言(メッセージ)>により、円卓の間に守護者統括アルベドが、その彼女からの<伝言(メッセージ)>で階層守護者らが招集されることとなる。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 第九階層通路。

 

「え、円卓の間に集合だなんて……。やっぱり緊張するよね。お姉ちゃん……」

 

 杖を持ったダークエルフの女装男子……マーレ・ベロ・フィオーレは、斜め前を歩く男装女子の姉……アウラ・ベラ・フィオーラに話しかけた。おどおどしている弟と違い、普通に歩くアウラは肩越しにマーレを振り返ると、ニヒヒと笑いながら答える。

 

「ビクビクしない。アルベドも、今後についての指示があるって言ってたじゃん。何か任務を賜るんだよ、きっと!」

 

「そ、そうなのかなぁ……。そうだといいけど。えへへ……」

 

 嬉しそうにマーレがはにかむので、アウラは苦笑気味に前に向き直ったが、そこに一人の少女が居た。 

 

「げっ、シャルティア……」

 

 創造主、ぶくぶく茶釜によって『仲が悪い』と定められた存在。ナザリック地下大墳墓の第一から第三階層までを担当する守護者……シャルティア・ブラッドフォールンだ。ボールガウン姿のシャルティアは、通路十字路の右側から姿を現したが、こちらもアウラを発見して嫌そうな顔をしている。

 

「ちびっ!? そちらも呼ばれたんでありんすか?」

 

「ちびって言うな! ああっ……と、守護者は全員呼ばれたみたいだからねぇ」 

 

 売り言葉に買い言葉。いつもの調子で喧嘩を始めようとしたのだが、アウラはすぐに切り替えて答えた。なぜなら、シャルティアの後ろからデミウルゴスとコキュートスが姿を現したからだ。

 これは、新たに出現した二人に怯えたのではなく、至高の御方に呼ばれての移動中、喧嘩をして時間を浪費するのはマズい……それを、彼らを見ることで瞬時に思い出したことによる。それは、アウラの反応を見たシャルティアも同様だったらしく、ススッと移動するとアウラの隣に並んで歩き出した。

 

「聞いた話でありんすが。ルプスレギナが、アルベドをアインズ様達に同行させるよう願い出たとか……」

 

「それ、あたしも聞いたよ。でもまあ、いいんじゃないの? アルベドもアインズ様と良い感じらしいし」

 

 心底口惜しそうなシャルティアと、飄々とした態度を崩さないアウラ。実に対照的だ。少し後ろを歩くマーレは、二人が本気で喧嘩し出さないかとハラハラしているが……。

 

「我ラマデ呼ビ出サレタト言ウコトハ、各々ニ指示ガアルノダロウカ?」

 

「さて、どうだろうね。だが、アルベドの他では少なくともコキュートスに大役が与えられると見たがね。もっとも、至高の御方からの命令は、すべてが大役なのだけれど」

 

 ズシズシ歩くコキュートスの隣で、デミウルゴスが指先で眼鏡位置を直しながら会話に応じている。

 

「何ッ? コノ私ニカ!?」

 

 ブシーッ!

 

 冷気の息を吐くコキュートスにデミウルゴスは頷いて見せた。

 

「ああ。私が推察したところでは……おや?」

 

 通路の向こうに見えてきた、円卓の間の入口扉。その前に一人の女性が居る。

 守護者統括アルベド。その彼女が扉に手をかけようとしたところで、シャルティアの声が飛んだ。

 

「アルベド! 抜け駆けする気!?」

 

 いの一番で入室したかったのだろうか。同行する者達は顔を見合わせたが、誰一人言葉を発することなく「条件反射的に張り合ってるだけだな」と察し、敢えて口出しはしなかった。

 そして、アルベドが入室せずにシャルティア達を待ち、シャルティア達が歩くのを止めなかったので、両者は扉前にて合流することとなる。

 

「抜け駆けだなんて人聞きの悪い。<伝言(メッセージ)>で呼ばれたときに、たまたま近くに居ただけよ」

 

 アルベドは集まった者達を一巡り視線で撫でると、ふわりと微笑んだ。

 

「さあ、至高の御方がお待ちよ。皆で入室しましょう」




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