守護者統括アルベド。その他、階層守護者達。
セバスや、ルプスレギナを始めとした幾人かの
さらには(モモンガがタブラ達に言われてしかたなく呼んだ)宝物殿の領域守護者、パンドラズ・アクター。
僕らが勢揃いし、壁際に並んだところでモモンガは口を開いた。
「あ~……お前達。そうやって壁際で立っているのも何だから、空いている席に座ったらどうだ?」
モモンガの発言に、他のギルメン達が頷き……かけたのを、アルベドの悲鳴のような声が制止させる。
「とんでもない!」
ちなみに、アルベドのみはモモンガ席の左肩側後方(やはり壁際)に居るため、真っ先に声が届くのはモモンガということになる。突然の発声にモモンガがビクリと肩を揺らす中、アルベドはモモンガに訴えた。
「円卓の間の席は、至高の御方のためにある物です!
「ええ~……」
かすれたような声を出したモモンガは、対面側で真っ先に目が合ったヘロヘロに救いを求めたが、
(ぐぬ……。やむを得ないか~。……なんかこう、罰として立たせてる感がありすぎて話しにくいんだよぉ~)
こんなことなら玉座の間で話した方が良かったと思うモモンガであるが、一々玉座の間に集めるのも仰々しすぎて疲れるのだ。それを踏まえ、円卓の間にアルベドらを集めたわけだが、これはこれでモモンガにストレスが溜まっていく。
「で、では、そのままで聞くが良い……」
両手で顔を覆いたくなるのをグッと堪え、モモンガはギルメン会議での決定事項をアルベドらに告げ始めた。
「先日、ルプスレギナから進言があったが、それを採用することにした。すなわち、ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』の外部情報収集部局、いわゆる冒険者パーティー漆黒において人事異動を行う」
アルベドの腰で黒翼がバサリと動く。離れた位置で立つルプスレギナは、特に表情に変化はないが……いや、少し苦笑し肩をすくめたようだ。
「モモンガ班より弐式炎雷を分離、弐式班を新編成する。その際、ルプスレギナ・ベータを、新設する弐式炎雷班へ異動させ、班員が私のみとなったモモンガ班には、暫定的ではあるが守護者統括アルベドを配置する。また、弐式班にはコキュートス及びナーベラル・ガンマを増員、四人編制とする。この決定に異議のある者は?」
モモンガは壁際で居並ぶNPCらを見回す。
アルベドによってモモンガ班を追われる形となったルプスレギナ。彼女は、落ち込んでるかと思いきや、「うしっ!」と気合いを入れ直していた。どうやらギルメンに同行するというのは、NPCらにとって重大極まる任務であるらしい。モモンガ班から弐式班に移ったからと言って、気落ちすることなく、逆に使命感に燃えているようだ。
ちなみに、この時のルプスレギナは、モモンガの好感度アップを狙ったわけではなく、ただ純粋に気合いを入れ直していただけ。にもかかわらず、その姿を目撃したモモンガは「いちいち可愛いことするよな」と彼女に対する思いを新たにしていた。
続いてモモンガの視界に入ったのはナーベラルで、彼女はペストーニャから研修期間終了を告げられた上で参集している。今回の弐式班編入については聞かされていなかったらしく、その驚きは大きいようだ。いや、大きすぎたらしい。
「わ、私なぞを……。アインズ様に御迷惑をおかけした私が?」
その場で崩れ落ち、落涙する頬を手で覆う。両側からはルプスレギナとシズが肩に手をかけ「泣いちゃ駄目」や「さ、立って弐式炎雷様に立派な姿を見せるっす!」と声を掛けているのが聞こえてきた。
『女の子同士の友情って、いいよね……』
モモンガを始めとした、ギルメン全員の心が一つになった瞬間である。
特に、ナーベラルの創造主である弐式の萌え……感動ぶりは尋常ではなく、興奮した際のペロロンチーノばりに席を立とうとしたが、隣で座る建御雷によって押さえ込まれていた。
「じっとしてろ。今、大事な話してんだから」
肩を掴まれているだけなのだが、尻が椅子から離れない。諦めて力を抜いたことで建御雷の手が離れたが、弐式に反省している様子はなかった。
「俺……ナーベラルと冒険できるんだなぁ……。こっちの世界へ来て、マジで良かった」
「ルプスレギナも居れば、俺のコキュートスだって居るんだから。二人きりってわけじゃねぇぞ? ……モモンガさんと違ってな」
建御雷が言うも、弐式はスルーしている。
では、今話題に上がったコキュートスはどうだろう。
ライトブルーの蟲王は……冷気の息を撒き散らし、こちらも興奮状態だった。
「オオオオオオオオッ! ツイニ私ニオ呼ビガ! コノ時ヲドンナニ待チ望ンダカ!」
確認するまでもなく乗り気満々で、大変に結構である。
対照的に落ち込んでいるのが、シャルティアだ。
モモンガを巡るライバルと目していたアルベドは、モモンガ班への加入が命じられ、聞けばルプスレギナもモモンガとの仲が進展中とのこと。ナーベラルは創造主である弐式炎雷の班に配属されるし、コキュートスまでもが同班への配属となった。
自分と同じように班付きではない階層守護者と言えば、アウラとマーレの姉弟にデミウルゴス。だが、それぞれトブの大森林の探索であるとか、王国支配のための作戦指揮と言った重要任務を与えられている。
(では……
創造主、ペロロンチーノによって『一日に一度、自称が「妾」になる』と定められたシャルティア。その一回を胸中の独白で使用したシャルティアは、すがるような思いでモモンガを見つめ、我知らず……右手を挙げていた。
「あっ! ……なんで?」
「ん? シャルティアには何か異議があるのか?」
当然ながら、挙げた手はモモンガの目にとまっている。
シャルティアは「いいえ、そんな! 至高の御方の決定に異議などっ!? 不敬でありんす!」と、元より白い顔色を蒼くしていた。一方、モモンガらにしてみれば何を言うのかと興味津々である。
基本的にNPCは、ギルメンに対して反対意見を述べることが少ない。ギルメンやナザリックを思っての進言はするのだ。が、ギルメンの発言を引っ繰り返すとなると、途端に口が重くなる。いや、考えることすら罪悪と認識している節すらあった。
そんな中で、「異議がある者は?」と聞かれて挙手したシャルティア。
彼女は何を言おうとしているのだろうか。
モモンガは浮き浮きしつつ、銀髪の美少女に視線を向けた。
(いや~……意外だ。それ以上に面白い!)
本来、モモンガ……鈴木悟は、想定外の事態が苦手である。営業のプレゼンとて、徹底的に事前研究し、資料を取りそろえ、相手方の質問を想定するといった、万全の体制を整えて臨むのだ。故に、想定外の事態には苦手意識があるのだが……この時の彼は、肩の力を抜きノホホンと構えていた。
なぜなら今、自分の周囲にはギルメンが何人も居る。困ったことがあれば相談すればいいし、何と言っても知能派のタブラが居るのだ。自分一人で悩まなくて良いというのは、こんなにも気楽だったのか。そういう思いから来る安心感に、モモンガは満たされていたのである。どれほど満たされていたかと言うと、異形種化していたので精神の安定化が起こってしまったほどだ。
(……ふう。しかし、ナザリックの維持費を一人で稼いでた頃は、本当に相談相手が居なかったものな~。……引退した人にメールで相談するわけにもいかないし)
過去を振り返りつつ質問を待っていたモモンガだが、暫く待ってもシャルティアが口を開かないので首を傾げた。
「どうした? 何か言いたいことがあるのではないか? 遠慮せずに言うがいい」
「ですが、そのう……。思わず挙手してしまったのでありんして。至高の御方に対して異議などと、許されないことでありんすから……。これは、いわゆる提案のようなもので……」
その消え入りそうな声を聞いたモモンガは、シャルティアが他のNPCからのキツい視線にさらされていることに気づく。至高の御方に対して異議を申し立てようとしているシャルティアを、皆が敵視しているのだ。これは非常に良くない。
(程度の差はあるが、セバスやユリまでもか!? 普段温厚な人物のキツい表情って、傍目にも効くな……。胃が痛い……。今、骨しか無いけど……)
モモンガは一瞬、ギルメン達を見た。集まったNPCには、居合わせたギルメン達の創造した者も居る。彼らを一纏めにして指導……きつめに言えば『叱責』して良いものか。そこを意識したわけだが、皆から黙したままの頷きがあったため、敢えて相談無しに口を開いた。ただし、いきなり怒鳴りつけるわけにはいかないので、努めて朗らかに問いかけている。
「……お前達。私は『異議があるか?』と聞いたのだ。それに対し、異議がある者が挙手したからと言って何の問題がある?」
これにより、セバスやユリなどが一礼して表情を改めたが、アウラやマーレ、ソリュシャンにナーベラルが納得できない様子だ。
「……お前達……」
先ほどの発言と同じ出だし。だが、明らかにモモンガの声のトーンが低くなっている。
(やべっ! モモンガさん、怒ってる!)
一言一句同様に思ったのは弐式と建御雷だったが、タブラやヘロヘロも似たようなことを考えていた。モモンガが、身内相手で無茶な怒り方をする人物でないことは皆知っているが、誰かが一言述べて、彼をクールダウンさせなければならない。
「モ……」
声を発しかけたのはタブラ。しかし、一瞬早くアルベドが話し出した。
「あなた達、いい加減にしなさい」
怒りを押し込めた声はドスが利いており、実に怖い。苛立ちのあまり口を開こうとしたモモンガが後方を振り仰ぐと、アルベドはアウラやマーレなどを見据えて語りかけている。
「失礼を働いた。不敬だった。それならシャルティアは謝罪が必要だし、程度によっては罰が必要。けれど、アインズ様が仰ったように、シャルティアは求められて意見しようとしただけよ。至高の御方に対する忠誠心は重要。でも、それが過ぎれば至高の御方を不快にさせるわ。……そうですよね。アインズ様?」
オーラが幻視できるほどの迫力だったが、モモンガに確認を求めたときには女神の微笑みに変わっていた。
「あ、うん。うむ!」
モモンガは二度ほど頷いてから、壁際のNPCらに向き直る。
「アルベドが言ったとおりだ。以後、気をつけるように。さ、さて……シャルティア。待たせたな。話を聞こう」
「は、はぃいい」
モモンガ対面の壁際、向かって右端で立つシャルティアは、背筋を鉄棒でも入っているかの如く真っ直ぐ伸ばす。
状況は、アルベドのおかげではあるが良くなった。後は言いたいことを言うだけだ。
しかし、シャルティアは内心で冷や汗を掻いている。
(……ど、どうしよう……)
実のところ、シャルティアが当初申し立てたかったのは「他の者達ばかり任務を賜ってずるいでありんす! 私にも何か……そう例えば、アルベドと共にアインズ様の御随行を……」というものだった。
だが、アルベドにフォローして貰った今の流れで、自らの欲求を声高に叫べばどうなるか。考えるまでもなくシャルティアは非難されるだろう。モモンガや他の
(それぐらい、私にだってわかりんす! でも、挙げた手を引っ込めるわけにはいきんせん! アインズ様は、私の言葉をお待ちで……)
かつて無いほどの重圧が、シャルティアの脳を締めつける。
何を言えば丸く収まるか、何を言えば至高の御方に喜んでいただけるか。そして、自分にもホンの少しで良いから何らかの利益があれば……。
刹那。しかし、シャルティアにとっては数時間にも感じられる思考の狭間で、ふと、ある事柄が思い浮かんできた。
「……アインズ様。今ナザリックでは、私以外の階層守護者は皆、本来の使命とは別に任務を頂いておりんす」
(要は言い様でありんす! はしたなく、物欲しげに訴えるから心証が良くありんせん! ならば……)
シャルティアは周囲の反応を確認しつつ、力を込めて言葉を紡いだ。
「私にも何か一つ、任務を与えていただければ……。きっと、役に立って御覧に入れましょう」
間違った郭言葉が引っ込むほどの気迫。
それを受けたモモンガは「おお……」と声に出し、ヘロヘロや弐式からも「へえ」だの「ほお」と言った声が漏れ出る。
中でもモモンガは、「アルベドだけ狡い! 自分も連れて行け!」的なことを言い出すのではないかと身構えていたのだが、「仕事が欲しい。頑張ってみせます!」と言われたので感心せざるを得ない。
意欲は買うし、嬉しくもあるので何かさせてやりたいのだが……。
「ん?」
気がつくと建御雷が挙手していた。
「建御雷さん。何か?」
「その意気込みや良しって奴だよ。俺の所で一仕事して貰おうかと思ってな。他に用事を任せたい人が居るなら、順番について相談するが……」
他のギルメン達からの発言は無い。
「決まりだな。モモンガさんも構わないかい?」
「ええ。ですが、どのような仕事を?」
モモンガに問われた建御雷は説明を始めた。
現状、ナザリックにはブレイン・アングラウスとクレマンティーヌという、武技使いの人間が居る。その内、クレマンティーヌはタブラ預かりとなり、スレイン法国や転移後世界の情報を纏める任務に就く……ことになる予定だ。
武技教官役として動かせるのは、暫く前に雇い入れたブレインのみなのである。
「俺とコキュートスで武技を教わったり、ブレインを鍛えたりしてるんだけどな。今度、コキュートスが外に出るだろ? 人手が減った……ってのもあるが、ここで一つ、日々の稽古に変化をつけたくてさ。シャルティアさえ良ければ、暇を見てブレインの相手をしてやって欲しいんだ」
コキュートスとは違う……シャルティアの目でブレインを測り、鍛える。その中でシャルティアが武技を修得できれば、それはもう万々歳ではないか。
「シャルティアは近接も強いからな。手始めに<斬撃>とか覚えてみてもいいんじゃないか? どうだ、シャルティア? しばらく俺の所に通うか? 俺と模擬戦もして欲しいんだがな」
言い終わりに建御雷がシャルティアを見ると、シャルティアは頬を紅潮させて頷いた。
「是非ともやらせて欲しいでありんす! 粉骨砕身! 励みますえ!」
気がつけば挙がっていた右手。ダメ元で考え、発した進言。
それらが上手く噛み合い、首尾良く御指名の任務を賜ったことで、シャルティアは天にも昇らんばかりの喜びようである。
こうしてシャルティアの一件が解決したが、浮かれるシャルティアを見て苦笑する者が居た。モモンガの左斜め後ろで立つアルベドだ。
彼女はシャルティアが挙手した瞬間、円卓を飛び越えてシャルティアに襲いかかる自分を見た……ような気がした。しかし、そうなる原因となったシャルティアの行動に、モモンガが関係するとの認識があり、精神の停滞化が発生したのである。
(そうだわ……。アインズ様が……アインズ様に……心地よくあって頂くために……。守護者統括としてシャルティアを……皆を指導しなければ……)
導き出した最適解のまま、アルベドは同僚達を叱責した。後はシャルティア次第であり、これ以上のフォローをするつもりはなかったが、どうやらシャルティアは自力で上手く切り抜けたらしい。
(残念なことだわ。アインズ様に色目を使う娘が一人、大きく後退するかと思ったのだけれど……)
ナザリック内の女性は、至高の御方を、そしてモモンガを異性として慕う者が多い。その中でもシャルティアは、アルベドと並んでモモンガに対し積極的であり、言わばライバル的存在だ。
ルプスレギナに関しては意外ではあったが、既にモモンガ側で受け入れているようだし、正妻の地位はアルベドに譲る気で居るため、やはり最大のライバルは『正妻の地位』を狙うシャルティアであろう。
シャルティアが目障りだ……。
(正妻の地位……アインズ様の……。……ふう……)
また停滞化した。苛立ちは一度霧散したが、精神復帰後はジワリとした苛立ちが残る。あまり愉快な感覚ではないものの、この停滞化によって救われている面があるのも確かだ。
(だから、まあ……)
アルベドは頬を染めて嬉しそうにしているシャルティアを見て、小さく微笑む。
(まあ……たまには良いのかしら……ね……)
◇◇◇◇
シャルティアの進言が受け入れられると、今度はデミウルゴスが挙手をした。「アインズ様。一つ、確認しておきたいことが……」との言いだしであり、アウラ達が目くじらを立てていた『異議あり』ではない。
もっとも、口を動かせばシャルティアの百倍手強い相手なので、質問される側のモモンガは脳内で大いに身構えた。
「デミウルゴスか……。確認したいこととは?」
「はい。冒険者パーティー漆黒の、モモ……んんっ……アインズ様班。その人数編制に、いささか不安があるかと……」
その瞬間、デミウルゴスとアルベドの視線が衝突する。バチィというSEが聞こえたような気がし、モモンガは再びアルベドを振り仰ぐ。斜め後方で立つアルベドはモモンガの視線に気づくと、すぐに目を合わせてきてニッコリと微笑んだ。その表情からは『眼から音がする何かを飛ばした』ようには思えない。
「アインズ様? 何か?」
「い、いや、何でもない。……それで、デミウルゴス? 人数編成の不安とは、やはり数が少ないということか? 私とアルベドでは不安だと?」
慌てて正面左方、壁際で立つスーツ姿の悪魔に確認したところ、「さようです。アインズ様」という返事があった。
「ヘロヘロ様と弐式炎雷様の班には、それなりの僕が複数配置されています。しかしながら、アインズ様の班の新編成……アインズ様の他は、アルベド一人のみというのは……」
デミウルゴスは首を左右に振り、肩をすくめて見せた。
いやはや、呆れました。
そんな声が聞こえた気がする。
これがモモンガに対しての態度であるなら(僕間で)大問題だろう。だが、今回、デミウルゴスはモモンガに対して話しながら、その真の矛先は別に向けられていた。
すなわち、アルベドである。
「そのような次第でして、アインズ様。この件に関しましては、私からアルベドに確認したいことがあるのですが。よろしいですか?」
聞いて良いかと言われても、モモンガには断る理由がない。だが、今の話の流れでアルベドに丸投げするのは、モモンガの男としての意地が許さなかった。
「ふむ。デミウルゴスよ。お前の不安はもっともである」
斜め後ろで「え? アインズ様?」というか細い声が聞こえたが、モモンガは無視して話し続ける。
「しかし、だ。冒険者パーティー漆黒、モモンガ班のリーダーは私だ。まずは私に聞くのが筋だと思うが、どうかな?」
「それは……」
デミウルゴスが少し狼狽えたような素振りを見せた。
このような状況では、モモンガはNPC……僕同士で話すに任せ、話がこじれだしたら介入してくることが多い。デミウルゴスとしては、言葉に出した不安は真実であったが、外に出る至高の御方の安全について配慮が足らないようにも思え、少しアルベドに釘を刺したかっただけなのである。
なのに、この時は事の最初からモモンガが介入してきた。
デミウルゴスらしからぬ計算ミスと言える。そうなった原因はと言うと、ただただモモンガのアルベドに対する思いと意地の発露にあった。
つまり、モモンガが感情的に自分の話に介入するはずがない。ある程度は傍観しているはず。そう思い込んでいた故のミスだったわけだ。
こういった事情により、デミウルゴスの予定では『デミウルゴス対アルベド』の構図になるはずだったのが、今では『デミウルゴス対モモンガ』の構図となっている。
(どうして、こんなことに……)
モモンガの盾役ならば、防御最強のアルベドは適役であり、問題になるのは二人のみと班員数が少ないことだけだ。だが、僕視点で人員の少なさを言うのであれば、ヘロヘロ班や弐式班だって少なすぎるのである。本来ならば、軍団規模の兵力を率いて貰うべきなのだから。
勿論、そういったことを承知しているモモンガは、理路整然と反論した。
一方、デミウルゴスは元からアルベドに釘を刺すのが目的であり、上手くすればモモンガの気が変わって一人ないし二人の増員をねじ込めれば……と思っていた程度。多少の抵抗を見せたものの、モモンガに翻意させる気など端から無かったため、大人しく引き下がることになるのだった。
ちなみに、モモンガとデミウルゴスが話している間……アルベドが頬を染め、その瞳を潤ませながら立ち尽くしていたのは言うまでもない。
◇◇◇◇
(ウルベルトさんが合流してたら、もうちょっと楽だったかな?)
一礼して引き下がるデミウルゴスを見ながら、モモンガは思う。
先ほどのような場面でデミウルゴスの創造主、ウルベルト・アレイン・オードルが居合わせたなら、どうなったか。ウルベルトはデミウルゴスではなく、モモンガの肩を持った可能性が高い。
なぜならウルベルトは「他人の色恋に口出しするのは野暮」というポリシーの持ち主だったからだ。モモンガとアルベドが交際中なのは、現状のギルメンは全員が知っていることなので、合流を果たしていたならウルベルトも知っていたことだろう。
(デミウルゴスを叱責はしないだろうけど、咳払いして黙らせたりした……かな?)
ウルベルト自身は元来気の優しい男だったので、後で自室にデミウルゴスを呼んで慰めたかも知れない。そう思うとモモンガは可笑しさが込み上げてきたが、吹き出すわけにもいかないのでグッと堪えることにした。
(ウルベルトさんや、たっちさんとも早く合流したいな~)
そんなことをモモンガが考えていると、円卓の間では僕側からの報告が行われている。
まず、第一から第三階層までの守護者、シャルティアは特に侵入者無しとのこと。ナザリック地下大墳墓には、外部からの侵入に対する結界及び警備網が存在するが、何らかの手段を用いて、いきなり各階層に侵入される可能性が皆無とは言えない。そこを考えると、シャルティアは十分に任務を果たしていると言える。以後、各階層守護者の報告が続くが、侵入者に関しては現状で『無し』だ。
アウラとマーレに任せていたナザリック正面での受付棟建築、並びに第六階層大森林での住居建築は既に完了したらしい。幾日か前に言いつけた受付棟は兎も角、第六階層の住居は完成が早すぎる。そこをアウラに確認したところ、「頑張りました!」と大変に得意げであった。
(休み無しでやったのか……。またはドラゴンキンなどを使った人海戦術だろうけど、感心できないなぁ……)
モモンガは大いに褒め称えたが、NPCらの献身の危うさを感じている。飲食及び睡眠が不要となるアイテム類。それらを装備すれば疲労無しで働き続けられるが、精神的な疲労はどうだろうか。ナザリックNPCの忠誠心と勤労意欲は、文字どおり超人的ではあるものの、気疲れ等で焼き切れたりはしないか。そこをモモンガは心配したのだ。
後でギルメン達と対策を相談しなければ……そう考えていたところに、アウラから一つの報告がもたらされる。
「それと~、森の奥でリザードマンの集落を発見しました。それぞれ離れてますけど、五つあるみたいです」
「ほう? リザードマン?」
モモンガの脳裏に、かつてユグドラシルで見かけた上級モンスターとしてのリザードマンが思い浮かぶ。ハイとかグレートとかアークとか、そういうのがくっついた強いモンスター達だ。
少しばかりの期待を込めて確認すると、アウラは「そこまで強そうなのは居ませんでしたね。冒険者……ですか? それの強そうなのくらいのが居たかな~って印象です」と返す。そこでモモンガの興味は急降下した。
(なんだ、雑魚か……。期待して損した。殺したらゾンビの材料ぐらいにはなるかな?)
今は異形種化しているので思考が物騒な方向へ流れていく。とはいえ、まだどうでも良いレベルの感覚だったので、急いでの方針決定はしなかったが、その間にタブラが発言した。
「なるほど! 森の奥にリザードマンの集落を見た! ですか。興味深いですね」
設定魔魂に火が着いたらしい。ひとしきり映画や古典小説に登場するリザードマンについて語っていたが、やがてタブラは「使者を出して交流したいですね」と言い出した。
「死獣天朱雀さんが居てくれたら、もっと面白いことになったんでしょうけどね」
教授や先生の愛称で呼ばれたギルメンの名を出すので、モモンガも思わず頬が緩む。
モモンガとしてはリザードマンに興味ないままだったが、ギルメンが乗り気で接触を図りたいというのであれば、止める気はない。安全確保のため、護衛を連れて行くことを条件に許可を出した。
「護衛……ですか。大丈夫とは思うんですけど、できれば前衛を任せられる人が良いですね。今日明日に出発するわけではないし……。そうだ、建御雷さん?」
「なんすか、タブラさん?」
不意に話を振られた建御雷が返事をしたところ、タブラは、「都合さえ良ければ、リザードマンの集落へ行くのに付き合って貰えませんか」と持ちかけている。誘われた建御雷は少し考えた様子だったが、すぐに「いいっすよ。後で日取りを打ち合わせますか」と了承した。なお、建御雷はタブラからの用件についてシャルティアを誘っており、シャルティアは二つ返事で了承している。
このようにして、リザードマン集落への対応も決定。
最後に……デミウルゴスによる、王国支配作戦の進捗について報告されることとなった。
モモンガやヘロヘロ達、
手始めに手を伸ばしたエ・ランテルは、裏からの支配が完了しているとデミウルゴスは報告していた、さて、そこから何処まで進捗しているのだろうか。
「結論から申しますと。王国支配作戦につきまして、進捗率は七割方と言ったところです」
モモンガら『至高の御方』の時が止まった。
先日は地方都市を支配したばかりで、今は王国全体を考えても七割の進捗率。
お前、いったい何をしたんだ……。
そう言った視線がモモンガらから集中するが、デミウルゴスは誇らしげに胸を張ると具体的な説明を開始した。
まず、リ・エスティーゼ王国は、国王ランポッサⅢ世と六大貴族を最上位とした封建国家であり、六大貴族は王派閥と貴族派閥に割れている。
「六大貴族で使えそうなのは、王派閥に二家、貴族派閥に一家と言ったところでして。近々、ナザリックに呼びつけることを考えているのは、貴族派閥のレエブン侯です。他の二家、王派閥のぺスペア侯とウロヴァーナ辺境伯に関しては、すでに『交渉』が完了しております。ナザリックが王国へ接触した際には、進んで協力してくれることでしょう」
「他の三貴族は勧誘とかしなくて良いんですか?」
聞いたのはヘロヘロだったが、残りの大貴族に関しては、残しておくと害になるばかりであり、有益に使い潰した方が良いとデミウルゴスは言う。
例えば王派閥のブルムラシュー侯は、敵対国である帝国に、国家の情報を売り渡している。
例えば貴族派閥のボウロロープ侯は、多少軍の指揮能力はあるが、魔法を軽視するという王国独特の悪癖から使い物にならない。同じ貴族派閥のリットン伯は、勢力拡大ばかりのみしか意識しておらず、為政者としては無能を超えた有害だった。
こういった事情を聞かされると、モモンガ達としても敢えて取り込みたいとは思わない。
「そう言った次第でして。私が判断しますに、使える大貴族の中で最も有能なレエブン侯を味方につけるべく、近々、彼を呼ぼうと考えています。これは過日、御報告したとおりですが……」
ナザリック地下大墳墓を見せつけ、逆らうことの愚を認識させるのだ。
ここまで聞いたところでは、特に問題が無いように思える。大貴族らに対して行った『交渉』については、聞きたくもあり、聞かない方が良いような……。
少し悩んだが、モモンガは小さく頭を振って考えなかったことにした。
(うん。俺が知らなくて良いことなんだろうな……。タブラさん達も聞こうとしないし。今のところ上手くいってるみたいで……。だったら、それで良いじゃないか。これは決して思考停止とかじゃないぞぉ! で、大問題なのは、そのレエブン侯の相手をするのが、俺ってことか~……とほほ~)
貴族の偉いさんを相手に何を喋れば良いのだろう。
他企業の副社長とかを接待する感じだろうか。それはそれで胃が痛いが、今度呼びつけるレエブン侯は、モモンガの感覚で『外国の要人』という要素が加わる。しかも貴族。
タブラ達も同席してくれるので心強いが、出来れば勘弁して欲しいものだ。
「……そうもいかないか。わかった。デミウルゴスよ。お前の方で日程を調整し、レエブン侯との謁見の準備を進めよ」
「はっ! 承知いたしました! それと、もう一つ、スレイン法国に関しましては、ナザリックに対しての使節が出発したとのことです。近日中に、カルネ村に訪れるかと……」
「そうか、なるほど……」
言葉短く答えたが、モモンガはウンザリしている。
今、レエブン侯を迎える話をしたばかりで、暫くしたら別の国の人間がやってくるのだ。
見ればギルメン中で平気な顔をしているのはタブラのみ。他は皆、疲れたような顔をしている。
(この辺で切り上げるか……)
まだまだ話すべき事はあるかもしれない。しかし、モモンガの把握力や脳性能では限界が近かった。気分転換を図るためにも、別な行動に出たい。
その思いから、モモンガは会議の終了を告げる。
ギルメンらからは特に意見は無かったし、NPC達からも特に申立は無かった。だから、これで終わりだ。
そして予定された、次の行動が始まるのであるが……。
「あっ……。そう言えば、そうだったな……」
モモンガは予定を思い出して、胃がキュッとなる感覚を味わっていた。
次の予定。それは、玉座の間にクレマンティーヌとロンデス、それにブレインを呼んで、モモンガ達が異形種であること等を伝えることだ。
ブレインは建御雷の異形種化した姿を知っているので大丈夫だろうが、他の二人が、どういう反応を示すか。
拒絶するなら厳しい対応を取ることになる。
あまり良く知らないクレマンティーヌはともかく、ロンデスには好感を持っているので、モモンガとしては上手くいって欲しいのであるが……。
(こっちが雇い主の立場なのに、なんで面接を受けるような気分になるんだろうな~)
何となく釈然としないまま、モモンガは皆と共に席を立つのだった。
<誤字報告>
電話秘書さん、リリマルさん
ありがとうございました