オーバーロード ~集う至高の御方~   作:辰の巣はせが

38 / 133
第38話

「これで滞在登録完了……と。それでね、おねーさん。この依頼紙について、ちょっと聞きたいんだけど~?」

 

 帝都冒険者組合、そこで滞在登録を済ませた弐式炎雷は、後ろに班員らを待たせながら受付嬢に話しかけた。カウンター上に片肘置いて前屈み。フレンドリーさをアピールするべく、人化した状態でもあり、面はまくり上げている。

 一見、気の良い若者風であり、敵意や粗暴さは微塵も感じられなかった。故に、受付嬢は特に眉をひそめるでもなく、この新顔冒険者(弐式)に応対してくれたのだが……。

 

「……あら? そんな依頼……貼り付けてあったかしら?」

 

 二十代半ば……やたら美形が多い転移後世界でも、中の上クラス(注・弐式判断)と思われる受付嬢は、訝しげに弐式が差し出した依頼紙を覗き込んだ。その声が聞こえたのだろう、少し離れて座っていた別の受付嬢が席を立ち、弐式の対応をしている受付嬢の背後へ回る。

 

「よく見なさいよ。請負人(ワーカー)依頼じゃないの。普通の依頼とは、受付の組番号が違うんだから」

 

「ああ、忘れてた……」

 

 助言を受けて頷いた受付嬢は、弐式に対して説明し始めた。

 まず、請負人(ワーカー)とは冒険者登録をしないで冒険者業を行う者のことを言う。実際は、荒っぽい犯罪紛いの仕事も請けるため、登録外冒険者……では柔らかい表現かもしれない。冒険者組合や組合登録の冒険者にしてみれば、商売仇以上で犯罪者未満の鼻つまみ者となる。

 ワーカーで居るメリットは、組合を通さずに依頼を請けられるため、手数料その他を差っ引かれることがない点。デメリットは依頼は自分で探す必要があるし、依頼自体の解決に掛かる情報収集もすべて自らで行わなければならない点。依頼主に裏切られることもあるが、通常の冒険者であれば後ろに控えているはずの組合が存在しないため、自身の安全確保についても自己責任となるのだ。

 

「……事情あって、仕方なくワーカーになる方も居ますので……。皆が皆、素行が悪いというわけではないのですが……」

 

 そう言う受付嬢は、少し困り顔となっている。弐式が小声で確認したところ、組合受付で『ワーカー』という言葉を連呼したくないらしい。

 

(役場の受付で、担当職員が『ヤクザ』を連呼してるようなものか……)

 

 チラリと後方の様子を窺うと、ナーベラル達の向こう、各テーブルで座る何組かの冒険者達が、胡散臭そうな目で弐式達を見ていた。どうやら、今程度の会話でも注目を浴びてしまうらしい。

 要点だけ聞いて退散した方がイイと判断した弐式は、受付嬢に続きを話すように促す。

 

「あ、はい。それで、ワーカー依頼ですけど。この場合は……」

 

 ワーカー側で、組合冒険者の助力が必要な場合、依頼掲示板の片隅に貼りに来ることがあるのだそうだ。無論、無断というわけではなく、受付に一声かけて……である。

 

「掲示板に依頼紙を貼るには、期間に応じて費用が発生します。他国の組合にも依頼を出す場合は、別途手数料を支払ってもらいます。……普通は、そこまでして冒険者組合の手を借りるワーカーなんて居ないんですけど……」

 

 どうも、そのワーカーには余程の事情があったらしい。

 商売敵やドロップアウト組と言っても、場合によっては組合冒険者と助け合うこともある。良い気はしない冒険者組合ではあるが、打算や現実を見て、そして先に述べたように事情ある者達への配慮のため……こういったワーカー依頼に関しては黙認状態なのだった。

 

「ちなみに、そのワーカーの人って、どんな見た目でした? 依頼人としては二人居るみたいですけど?」

 

 この手の聞き取りは、かつての現実(リアル)であれば個人情報として扱われ、聞き出しにくいのだが、転移後世界では別のようだ。もっとも、弐式達が銅級とはいえプレート持ちの冒険者なのに対し、聞き出し対象の二人は、ワーカーだという事もあるだろう。ともかく、受付嬢は弐式が拍子抜けするほど、あっさりとワーカー達の容姿を教えてくれた。

 

「かぜっちさんが女性の方。長身で黒髪の……格好いい感じだったかしら。盾二枚を両手に持つスタイル? ペロンさんは、こちらも黒髪。大柄ではなくて細身で……弓矢を持っていたわね。どうやら姉弟関係のようだった……かしら?」

 

「ますます、あの二人っぽいな。つか、これで別人だったら、暫く酒の肴にできるぐらい笑えるんだが」

 

 二人の連絡先がワーカー行きつけの安宿であり、その場所まで確認した弐式は、受付嬢に礼を言ってから班員らと共に組合を出ている。本来、帝都冒険者組合で手頃な依頼を探すつもりだったが、今の弐式には茶釜とペロロンチーノを探すという大目標があるのだ。脇目も振らず、ワーカーの集まる宿へ移動するべきだろう。

 

「ニシキ殿。知り得た情報の二人は、あの方々だと思われるか?」

 

 ラッセル(コキュートス)が後方から問いかけてきた。些か固い物言いだが、それでも臣下としての口調でないあたり、コキュートスなりに頑張っていると言える。

 

「さあな。それを確認しに行くんだから……」

 

 肩越しに振り返った弐式は、コキュートスが、そしてナーベラルとルプスレギナが、揃いも揃って悲痛な表情をしていることに気づいた。悪目立ちしない程度に駆けていた足が……止まる。

 

「何だ、お前達。そのシケた面は? ひょっとして、探し当てたワーカーが、例の二人じゃないかもって心配してんのか? 違ってたら責任とか絶望感を感じちゃうとかか?」

 

 身体ごと振り向いて言う弐式に、班員達は黙り込んだ。その態度が、どうにも弐式には気にくわない。通りのど真ん中、数人連れで立ち止まっている弐式らを、通行人達がチラ見していくが、苛っと来ている弐式は気にも留めていない。

 班員達が押し黙り、沈黙の時は数秒、あるいは十数秒ほども続いただろうか。最初に口を開いたのは、ルプスレギナだった。

 

「ニシキさん。私達は、こう思うんす。お捜ししなければいけない方々を見つけることができずに、なにが僕なのか……と。そんな役立たずの自分達に、存在価値が……いえ、その……」

 

「ああ、そっち方面か……」

 

 弐式は渋面になると、目を閉じて頭を掻く。

 そして、数秒後。おもむろにルプスレギナの前に立つと、彼女を見下ろしつつ言った。

 

「似たようなことはモモ……んん、ンガさんも言ってるようだけど。ルプスレギナ? それは駄目な僕対応です」

 

「へっ? ええっ!?」

 

 キョトンとして聞いていたルプスレギナの顔が、一瞬の間を置いて驚愕に染まる。それは、すぐ隣で立つナーベラルやコキュートスも同じだ。言葉足らずと言うよりも、簡潔すぎる物言いだったため理解が及んでいないらしい。弐式は溜息をつくと、路地裏を親指で指し示した。

 

「さすがに通行の邪魔だから、またもや路地裏へゴーだ」 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 先程の通りから、一番最寄りの路地裏。

 弐式は目の前で並ぶ班員らに対し、特にルプスレギナに向けて人差し指を立ててみせた。

 

「さっき俺は、ルプスレギナの考え方は『駄目な僕対応』と言ったが……。俺達、ギルメンから見ると、よろしくないってことだ」

 

 これを聞き、ルプスレギナの褐色の肌が蒼くなる。すぐさま何かを言おうとしたが、それは眼前に突き出された弐式の右掌によって制された。

 

「おおっと。死を以って償います~何て言ったら怒るぞ? 最近だと、アルベドがモモンガさんにそれを言って、こっぴどく叱られたって話だからな。俺だって、怒る。それにラッセル(コキュートス)?」

 

 弐式の目が向けられ、コキュートスがビクリと揺れる。普段の蟲王の姿であれば、お? ゆれた? ぐらいにしか思えないが、今は巨漢の戦士姿だ。明らかに動揺しているのが見て取れた。

 

「お前の創造主、建やんならだ。何かミスする度に死ぬ死ぬ言って、それで喜んでくれるとか思ってんの? もしそうなら、建やんが聞いたら呆れるぞ?」

 

「そ、それは……」

 

 口籠もるコキュートスを睨めつけた弐式は、最後に自らの創造NPC、ナーベラルを見たが……。

 

「お前は割愛。つか、俺が怒ってる理由とか理解できてる感じだし?」

 

 読心術なんて特殊技能(スキル)は無いが、その程度は見てわかるのだ。神妙な表情こそしているが、他の二人ほど理解が及んでいない……という様子ではない。

 

「まあ、身贔屓じゃないけど、ペスに預けた甲斐はあったってことだな。色々学べたようで結構結構。……でだ」

 

 弐式は僅かながら嬉しそうな表情のナーベラルから、ルプスレギナ達に向き直る。本来、ルプスレギナに対して説教するつもりだったが、ここはコキュートスにも言っておいた方が良いだろう。

 

(建やんには、後で言っておくか……。告げ口みたいで嫌なんだけど)

 

「いいか? お前らの忠誠心は、俺達ギルメンからすれば貴重だ。ありがたい。だがな、同時に、お前達の存在自体も貴重だ。捨てがたいんだ。わかるか? それを、お前ら、何かある度に死ぬ死ぬって。それを軽々しく口に出すのも、モモンガさんが怒った理由だけど。俺は俺で言いたいことがあるぞ? いいか? 過剰に責任を感じて無駄に落ち込むな。反省したり緊張感持つのは良いよ? でも、それで生活……あ~、任務に支障を来すとかあったら、馬鹿みたいじゃないか。周りの雰囲気だって悪くなるし」

 

 一気に喋り抜いた弐式は、ここで両腰に拳裏を当てると一息ついた。

 

「ルプスレギナは言ったな。俺達の役に立てなかったら存在理由が……って。んな、わけねーよ。そりゃあ度を過ぎれば怒りもするし、罰だってあるかもしれないけどさ。そう簡単に見捨てるかよ。価値だって無くならないぜ? そもそも、お前らを作るのに俺達がどれだけ手間暇かけたと思ってんだ。色んな意味で、安く見られちゃあ困るってこったよ」

 

 説教ぶりが建やんに似てきたな……などと思いつつ、弐式は話を締めくくりにかかる。

 

「まあ、とにかくだ。そういう風に落ち込んだり悩むことがあるなら、手近なギルメンか……それこそ創造主に相談しろ。お前らの親なんだから。同僚に相談したっていいんだぞ? というわけで、はい! この話、終わり!」

 

 パンパン手を叩き、弐式は表通りへと歩き出した。そう、言うだけ言ったなら元の予定行動に戻るべきだ。

 

「さあ、気を取り直せ~。気分を入れ替えろ~。コキュー……おっと、ラッセルは難しいかもしれんが、接客するときの愛想良い態度だ。それで行こう~。くれぐれも、くさくさした態度を茶釜さん達に見せるんじゃないぞ~? ……俺が茶釜さんに叱られるからな……」

 

 弐式さん、あなた……NPCの子らに何て顔させてんの。

 茶釜のドスが利いた声。それが幻聴となって弐式の脳内を通過していく。彼女が弟のペロロンチーノに対し、マジ怒りで説教している場面は何度か見かけたが、あの調子で叱られたらたまったものではない。

 ナーベラル達からは「了!」と返ってくるが、弐式は面をまくり、人化した顔で無理やり微笑む。

 

「リラックスだよ、リラックス。肩の力を抜いていこ~。な?」

 

 

◇◇◇◇

 

 

 同じ頃。エ・ランテルでは、モモンガがアルベドと共に城壁外周部……共同墓地に入ろうとしていた。西側地区で四分の一を占める巨大墓地は、なるほど手を入れれば隠れ家の一つや二つ作れそうではある。

 

「ああ、すみません。ちょっと良いですか?」

 

 門に到達したモモンガは、衛兵隊に一声かけた。共同墓地に入るための交渉である。理由としては『アンデッド蔓延るカッツェ平野へ出かけるための訓練』というのを用意していたが……。

 

「真っ昼間から墓荒らしするってもんでもないし、かまわんだろう。今は昼時だし、アンデッドも、居たとしてスケルトンかゾンビだろう。せいぜい頑張るんだな」

 

 と、このように割と簡単に許可が出た。

 衛兵からの有り難い言葉を背に受け、モモンガはアルベドを前に置いて墓地を進んで行く。歩きながら見渡せば、確かに広い墓地であるし……何となくではあったが、ナザリック地下大墳墓の地表部を連想した。アンデッドも、前情報どおりスケルトンやゾンビが居るのを感じる。

 

「さて……そろそろ良いかな?」

 

 門や共同墓地を囲む壁上からは見えなくなったと判断し、モモンガは人化を解いた。そして発動した魔法は……<転移門(ゲート)>。これは、モモンガ達が別所へ行くためのものではなく、ナザリックから助っ人を呼ぶためのものだ。

 

「え……と。お邪魔します?」

 

 こわごわ暗黒環から顔を出したのは、最古図書館で情報の書き写しをしているはずのクレマンティーヌだった。今回、彼女の知人が共同墓地に潜伏していると言うので、それを訪問するにあたり、モモンガはクレマンティーヌを呼ぶことにしたのだ。

 

「うん。よく来てくれた。さっそくだが、カジットなる者のところへ案内してくれるかな?」

 

「え? あ、はい」

 

 クレマンティーヌが知るところの、ナザリックで一番偉い人……モモンガが普通に話しかけてきたので、クレマンティーヌは呆気に取られる。だが、口籠もっているのは良くない。何故なら、モモンガの隣に居るアルベドが、ヘルム越しに刺すような視線を飛ばしてきているからだ。

 

「わ、私が聞いていた、ズーラーノーン筋の話だと、最奥の地下霊廟に神殿があるそうで。そこを根城にしてるはずです」

 

 クレマンティーヌとしては、すでにモモンガらに提出済みである秘宝、叡者の額冠……これをカジットに提供し、カジットの計画を後押しして騒動を起こさせるのが狙いだった。

 

「エ・ランテルで有名な薬師の孫。ンフィーレア・バレアレ、でしたか。その少年が持つ『ありとあらゆるマジックアイテムを使用可能』な生まれながらの異能(タレント)が都合良くて、彼を誘拐しようとかも考えてたんです」

 

 叡者の額冠は、装備すると装備者の精神を破壊、自我を封印することで超高位魔法の使用が可能になるというアイテムだ。ンフィーレアならば使用可能だが、デメリットである自我封印からは逃れられない。また、装備を解除すると発狂してしまうという更なるデメリットまであった。

 

「それをンフィーレアで実行するつもりだったのか。何と言うかエグいな……。ああ、話し方は普通にしてくれていいぞ? 人化は解いたが、今は『お出かけ中』なのでな。私も気が楽で良い」

 

 ナザリック地下大墳墓で、モモンガはクレマンティーヌがロンデスと会話しているのを見たことがある。普段からアノ口調だと色々と問題はあるが、場を(わきま)えてくれるなら、むしろ普段の口調で話してくれた方が良い。ギルメンは増えたものの、ナザリックには異常に持ち上げてくるNPCが多く気苦労は絶えない。なので、モモンガは砕けた会話を欲しているのだ。

 単なる提案の気分で言ったモモンガだが、言われた側のクレマンティーヌは大いに驚いている。彼女の生まれてから培ってきた常識において、プレイヤーとは神そのものなのだ。自分が絶対に勝てないと思っている神人ですら、プレイヤーの前ではゴミ同然。そんな神様から、普段どおり喋れと言われても……。

 

「ええっ!? 私なんかが、ぷれいやー様に対して恐れ多……」

 

「そういうの、いいから。……まあ、無理にとは言わないが……」

 

 (はよ)う口調を変えろ。そう急かした一方で、無理やり喋らせるのもどうかと思ったモモンガは、後半でトーンダウンしている。それがションボリしたように見えたクレマンティーヌは、重い溜息をついて顔を伏せ……すぐに顔を上げた。

 

「じゃ、じゃあ……大丈夫そうな時には、ロンデスやブレインと話してる感じで行きますから。……空気読み間違えたときは、柔らかい感じで御指摘願えます?」

 

「うむ。そうしよう。で? 続きを聞かせて貰えるかな?」

 

 クレマンティーヌの了承を得たことで、一転してモモンガの声は明るいものとなった。すぐ隣りでアルベドが、ハアと溜息をついたような気がしたが、それは「仕方ないわね」といったニュアンスを感じたので、モモンガは敢えて無視をする。

 

「え~、説明の続き、行きます」

 

 二人の様子を窺いながら、クレマンティーヌが説明を再開した。

 

「私、法国からの脱走者でして……」

 

「口調……」

 

 ボソッとモモンガは指摘したが「マジメな報告を上司にしてるんですから。それ用の口調というのがあります」とクレマンティーヌに言われ、何も言えなくなってしまう。隣のアルベドは、今度は満足そうに何度も頷いており、モモンガは口をへの字に曲げた。……もっとも、今は異形種化しているので、表情に変化は生まれなかったが……。 

 

「法国からは追っ手が掛かっていたものですから、カジットがやらかす騒動のドサクサに紛れて逃げようとしてたんです」

 

 マジメな報告用の口調と言っていたが、先程までよりは幾分柔らかく感じられる。何となく気分が良くなったモモンガは、報告内容について頷いて見せる。

 

「ほうほう。では、カジットは何をやろうとしていたのかな?」

 

「死の螺旋という大儀式ですが……」

 

「大儀式? ふむ……」

 

 モモンガは首を傾げた。

 この転移後世界は、八欲王のせいと思われるがユグドラシル魔法が存在する。モモンガはユグドラシル魔法については偏りがあるものの、割と良く知っている方だ。なのに、死の螺旋については思い当たることがない。

 

「この世界の独自魔法か? それとも……」

 

 デミウルゴスからの情報では、ユグドラシルにあったアイテム名が、現地語なまりで伝わっていることもあるようだ。

 

(今のところは詳細不明だな……。警戒しておくべきだろう)

 

「それもまあ、カジット本人に聞けばわかることか。素直に応じてくれると手間が省けるんだが……」

 

 この先で潜伏している連中を活用して名声を稼ぎ、カジットについては、彼の態度次第で彼自身の運命が決まると言って良いだろう。反抗的なら<支配(ドミネート)>で色々喋らせても良いし、タブラに脳を吸ってもらう手もあった。

 

(おっと、いけないいけない。死の支配者(オーバーロード)になると、どうも考えが物騒になるよな。ここは営業マンとしての経験を活かして、人材を勧誘だ!)

 

 現実(リアル)での仕事経験のため、交渉に関しては幾らかのノウハウを持っている。それが活かせるかどうか、モモンガは少しだけ楽しいと感じていた。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 リ・エスティーゼ王国、王都の中央通り……から少し外れた商店街。

 

「さて、私達は冒険依頼を遂行するべく、旅立ちます~」

 

 冒険者組合の伝手で早々に店舗兼住居を確保。簡単なモンスター討伐依頼も受注したヘロヘロは、入口で見送るセバスに向けてヒラヒラと手を振った。対するセバスは、隙のない所作で一礼する。

 

「いってらっしゃいませ。ヘイグ(ヘロヘロ)様」

 

 彼に関しては留守番兼ねた情報収集、そして各所での商談が任務だ。情報収集に関しては本来、ソリュシャンが適任だろうが、そこはソリュシャンを連れ歩きたいヘロヘロの意向により、セバスが担当とされている。

「例のゴミ装備を見せ歩いて、ついでに色々と話を聞けば十分ですよ。困ったことがあったら、自宅待機。私の帰りを待って相談してください」

 

 

 ゴミ装備とはユグドラシル時代に、戦闘によってモンスターからドロップした物や、PVPで入手したアイテム類……の中でも最下級品のことだ。ギルメンの私室等にて「捨てるのも面倒くさい」と、大量に溜め込まれており、それらを売りさばくつもりなのである。転移後世界は、強さだけでなく流通するアイテム類も貧相なので、飛ぶように売れるはずだ。

 

「とはいえ、やはり連絡要員が必要かな~」

 

 こめかみを指で掻いたヘロヘロは、誰を呼ぶべきかと考える。出発前にも話に出たが、エントマ・ヴァシリッサ・ゼータ。彼女あたりが良いかもしれない。

 

(スクロールじゃなくて、呪符で<伝言(メッセージ)>できるってのがポイント高いですよね~) 

 

「決めました。ギルド長に連絡を取って、了承が貰えればエントマを呼びます。彼女なら単独で留守番ができますし、連絡要員としても優秀です」

 

 弐式ばりに人差し指を立てつつ言うと、セバスが再度一礼する。

 

「承知しました。それでは、情報収集と商談につきましては、エントマの到着を待つか、私の単独待機が決定となってからでよろしいでしょうか?」

 

「うん、そうしてくれます? 面倒事を押しつけちゃって、悪いんですけどね~」

 

 滅相もございません。

 そういった声に送り出されながら、ヘロヘロは歩き出した。中央通りに一度出てから進み、城門より外へ出るのだ。隣を歩くソリュシャンは、黒基調の革鎧を装備しているが、特に顔を隠しているわけでもなく、両足の太股は露出していた。それらは(ヘロヘロ)の欲目関係なく、魅力的に過ぎ、行き交う人々の……主に男性の視線を集めている。

 

(いや~、良い気はしませんけど。イイ気分ですね!)

 

 ユグドラシル時代、ナザリック地下大墳墓は第八階層まで攻め込まれたことがあった。だが、それより下層に居た戦闘メイド(プレアデス)達は、外部への情報流出が少なかったようにヘロヘロは記憶する。ギルメン個人で、親しい知人に見せびらかした事例はあるが……。

 

(それが、こうして衆目に晒されて……。ああ……男共の視線は気に入りませんが、ソリュシャンが注目を浴びてるというのは……。うん?)

 

 ソリュシャンに対し向けられる数多くの『色目』。その中に一つだけ異質なものを見かけたヘロヘロは、それに対して目を向けた。何を持って異質なのかと言えば、視線の種類である。色香や美貌によって、だらしなく細められたものではなく、敵意にも似た鋭い視線が一つだけあったのだ。

 

(俺が持ってる、モンク系特殊技能(スキル)の何かが反応しましたかね?)

 

 視線の主を見たところ、大柄な男性であるらしい。マントとフードを着用しているので、顔まではわからない。だが、チラリと見えた褐色の腕は太く筋肉質で、格闘に向いていると言える。何より、黒基調の衣服が格闘者の道着っぽく、同じく黒い胴着を着ているヘロヘロは親近感を抱いた。

 

(冒険者ですかね~。見たところモンク系っぽいですけど)

 

 

◇◇◇◇

 

 

 ゼロ。この筋骨逞しい男は、リ・エスティーゼ王国王都に巣くう犯罪組織、『八本指(はっぽんゆび)』に所属している。その中でも警備部門の長を務め、最強の実働部隊『六腕(ろくわん)』にあってはリーダーを務めるほどの重鎮であった。

 しかし、最近はどうも景気がよろしくない。

 この国の第三王女が余計なことを言い出して、奴隷売買を禁止してしまったし、組織と繋がりのあった貴族共も反応が悪くなっていた。たちまち組織が立ちゆかなくなるほどではないが、麻薬部門が管理する地方の麻薬畑が燃やされたとも聞く。組織では焼き討ち犯を捜索しているが、それが発見されたという報告は聞こえてこない。

 

(つまらん……。腕尽くで解決しない事なんて、俺の性には合わん!)

 

 モヤッとした気分を解消すべく、フード着用ではあったが気晴らしに表通りを歩いてみた……というのが、本日の彼の行動だ。しかし、適当にブラついていたところ、ゼロは気になるものを見かけている。最初は、何やら騒がしいな……程度だったが、道行く者達の視線がある一点に集約されていくのだ。

 見れば冒険者の盗賊職、そんな出で立ちの女が歩いている。それだけなら珍しい物ではないが、ゼロが目を見張ったのは第一に女の美しさだった。落ち目となった奴隷売買部門の長、コッコドールの息がかかった娼館で幾人かの美女を抱いたことはあるし、麻薬取引部門の長であるヒルマ・シュグネウスは、元が高級娼婦だったと言うだけあって相当な美女だ。美人枠に入れると言うなら、六腕の一員、紅一点のエドストレームも戦闘者ながら上物の美女である。だが、それらと比べても、通りを行く盗賊風の女は圧倒的な美しさを誇っていた。

 そして第二の着目点。その盗賊職らしき女が、自分よりも強いのではないか……という感覚だ。威圧感や殺気などは感じないが、一挙手一投足、それらがゼロから見て大変な高みにある。 

 

「あんな奴が……居るのか……」

 

 普段の、自分の腕っ節に自信が満ちあふれ、手頃な強者とは喧嘩を売ってでも戦ってみたい。そんな状態のゼロであれば、「コッコドールが喜びそうな美女だな」で済ませていたことだろう。しかし、今日の彼はブルーな気分だった。最近の上手くいかない状況にウンザリして、気分転換に出歩いていたのだ。

 その気分の差が、一目見ただけの盗賊女の強さを勘づかせたのである。

 

「一緒に居る男は……俺と同じ、モンクか? しかし、女ほどの強さは感じられない。動作も一般人程度だ……」

 

 続いてゼロが注目したのは盗賊女……ソリュシャンと共に歩く男、ヘロヘロであったが、ヘロヘロは探知阻害のアイテムを装備しているため、一〇〇レベルプレイヤーとしての威圧感が封印中である。しかも、モンク職持ちとは言っても当の本人がユルユル気分で歩いているため、ソリュシャンのように動作に凄味が表れることはない。同行者設定とは言え、護衛のつもりで居るソリュシャンとは、違いが出るものなのだ。

 結果として、ヘロヘロはゼロの興味の対象外となったものの、立ち止まっているゼロに対してヘロヘロ達は歩いているため、二人の……特にゼロが気にかけたソリュシャンの姿は暫くすると見えなくなった。ヘロヘロ達について行く野次馬も居たようだが、ゼロはヘロヘロ達に背を向けると、肩越しに一度振り返ってから歩き出す。

 

「何にせよ顔は覚えた。目立つ美女だから、後で探すのも容易いだろう。組織に勧誘するか……」

 

 あるいは自分よりも強そうな者に対し、師事を請うべきか。と、一瞬浮かんだ考えを、ゼロは一笑に付した。

 

「馬鹿な。この俺が女に教えを請うなど……」

 

 一笑に付したはず。しかし、捨て去りきれない思いが彼の脳裏に、そして拳にこびりついて残っていた。

 ギュッと握った拳。その爪側を上に向け、ゼロは覗き込む。

 これまでの人生で鍛えに鍛え抜いてきた、自分の自信のよりどころだ。今日まで、すべてこの拳で渡り歩いてきた。

 

(こいつを極限まで鍛え上げるのが、俺の望みだ)

 

 そのためには手段は選ばない。八本指に居るのだって、資金潤沢であるし、良い思いをしながら生活し、好きなように戦えるからだ。

 ……。

 

「少し会って……話を聞いてみるぐらい、構わないかもしれんな……」

 

 誰に言うでもなく、いや、恐らく自分に言い聞かせる為の呟きを漏らしたゼロは、踵を返すと歩き出す。その行く先は……ヘロヘロ達が向かった方向だ。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 弐式達はバハルス帝国帝都、その少しばかり治安の悪い場所を歩いていた。

 冒険者組合で聞いた、ワーカーの溜まり場となっている宿が目的地である。

 

「ああ、あそこか……」

 

 言いつつ見た先には、二階建ての古びた宿があった。見ている間にも、一組の冒険者……もといワーカーが数人連れで出てくる。

 

(フフン。さすが、俺!)

 

 探索役として鍛え上げた弐式は、少しの会話だけでも正確に目的地へ行き着けるのだ。僅かに得意げな気分となり、弐式はナーベラル達を連れて宿の中へと入って行く。入った先で最初に感じたのは……多くの視線だ。

 今は昼過ぎであり、遅めの昼食を取ろうとしているのか、数組のワーカーチームが各テーブルに居た。それらが弐式達に視線を向けてきたのである。

 

(う~ん。このパターン、多いな~……でも、当然の反応でもあるよな)

 

 入って来たのが余所者か新顔か。あるいは、名の知れた犯罪者か。一瞥ぐらいはしてみるものなのだろう。そして、こうした宿の酒場に入ると、班員の中の女性が注目を浴びる。これもまた、いつもと同じだ。

 ヒューといった口笛やら、下品な誘い声が聞こえてきた。その辺もまた、冒険者組合の冒険者と同じ……いや幾分か、こちらの方が下品だろうか。

 

(冒険者組合の顔色を窺わなくていい分、タガが外れてるんだな)

 

 違いはわかったが気にしない対応に変わりはない。絡んできたとしても、死なない程度にブッ飛ばすだけだ。

 カウンターにまで移動した弐式は、宿主らしい男に話しかける。

 

「俺に一番高い酒を頂戴。それと聞きたいことがあるんだが……」

 

「冒険者か……。こんなとこに来るもんじゃねぇが……」

 

 言いつつ陶器のジョッキを出した宿主は、口元の白髪髭を歪ませながら酒を注いだ。弐式はと言うと、カウンター上部に貼り出された板書きのメニューに目をやり、懐から酒代と、それに加えて銀貨を一枚出す。更に空いた方の手で、ワーカー依頼の用紙も出し、そこで質問開始だ。

 

「この依頼紙を見てね。かぜっちって人と、ペロンって人に会いたいんだが……」

 

 瞬間、酒場内の空気が揺らいだ。宿主の返答がまだなので、弐式の発言に何やら問題があったらしい。

 

「どうやら皆さん、御存知のようで……。で?」

 

「……そいつらなら、五日前だったかな。ワーカー一組にくっついて出稼ぎに行ってるよ。帝都外の西街道で掃除……モンスター討伐だから、もうすぐ帰ってくるんじゃないか?」

 

 急かされた宿主は、カウンター上の通貨を手の平で掻き集めると、それを握り込んで奥へと消えて行く。

 

「へえ。二人とも……こっちで、上手くやってるっぽい?」

 

 一人呟いた弐式は、ジョッキの酒をあおる……それなりに美味しかった……と、離れた場所で分身体を数体出した。もうすぐ帰ってくると言うのであれば、こちらから出向いて捜したいのだ。ひょっとしたら面倒事に巻き込まれているかもしれないし、そうであるなら助けに行かなければならない。

 そうして放った分身体の一人から、「聞いた容姿の男女……を交えた、ワーカーチームを発見した」と報告があったのは、わずか数分後のことである。

 




 月曜から、忙しくて書けるかわからないので、頑張って書いたのだ。
 ゆえに次の土日で投稿できるかは、ちょっと自信が無いという……。
 色々と上手く乗り切れますように……。

 今回は弐式さんのお説教を入れてみました。モモンガさんの対アルベドの説教は、あんな感じでしたが……弐式さんが怒るとこんな感じ。
 一回ぐらいの説教描写で、ナザリックNPCが様変わりするのもどうなのか……という事で、敢えて書いてみました。
 後は、NPC間で情報共有して内心はともかく、態度が大人しくなってくれれば……と思うんですけど、それだとモモンガさんが警戒しているストレスが溜まるんですよね~。
 その辺りで、また何か書けそうかな。

 ちなみにゼロに関しては書いてるときに、出しちゃえ! という感覚での登場となりました。彼の運命にどう影響するかは未定です。

<誤字報告>

阿久祢子さん、冥﨑梓さん、Mr.ランターンさん、佐藤東沙さん

ありがとうございました

★★茶釜ペロン姉弟が同行してるワーカーチーム★★
アンケート実施しております。
期日は7月31日(金曜) 正午。
注:姉弟と一緒だからといって死亡フラグが消えるわけではありません。

茶釜ペロン姉弟と行動を共にしてるワーカーチームは?

  • フォーサイト
  • ヘビーマッシャー
  • 竜狩り
  • 天武
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。