「……これは、どうしたものですかね……」
セバス・チャンは苦悩していた。
今、彼の目の前では一人の大男が座り込み、自分の喉を押さえてむせている。
事の発端はこうだ。情報収集のため、エントマと共に王都の路地裏を散策していたのだが、とある店舗の裏口からずだ袋が放り出された。気になったのでエントマに中身を露出させたが、どうやら中には怪我人が入っていたらしい。
セバス自身は、地元民とのイザコザを回避するべく無視しようとしたのだが……創造主であるたっち・みーの影響が出たのかどうか、つい袋の近くを通ってしまい、結果としてズボンの裾を掴まれてしまう。直後、目の前の男が裏口から出てきて、こう言ったのだ。
「おい、爺、何見てるんだ?」
後は御覧のとおり。
困った人を助けるのは当たり前。
たっち・みーのモットーに従い、更には女性から『助けて』の言葉を引き出したセバスが、掴みかかってきた男を締めあげて今に到る。
さて、問題となるのは、この後だ。
セバスには一度助けた女性を、その命の危機が迫っていると知りながら放置するという選択肢はない。このまま連れ帰り、ソリュシャンに治癒の巻物を使わせて治療を……。
「あっ……」
思わず声が漏れ出る。
王都で確保した住居兼店舗、そこで合流できるのはソリュシャンだけではない。至高の御方であるヘロヘロも居るのだ。
(本当に……どうしたものなのか……)
「この糞ジジイ! よくもやりやがったな!」
回復したらしい大男が再び掴みかかってきたが、セバスは軽く躱して間合いを詰めると、素早い拳の一撃で今度こそ男を昏倒させる。これで暫くは起き上がってこられないだろう。
それでは、これからセバスが取りたい行動に関し、何が問題なのか。それを考察しなければならない。
セバスは無言で女性を抱え上げると、その場を離れるべく歩き出した。
「セバス様~? その人間をどうされるのですかぁ? 私のオヤツとかですかぁ~」
エントマが話しかけてきているが、そんなことをする気は毛頭ない。何しろ、助けた対象なのだ。それをエントマの軽食にするわけにはいかない。
まず、この女性を連れ帰る行為。これについて考えるべきだ。それ自体がナザリックの利益になるかと言えば、否定せざるを得ない。自分で言うのも口惜しいが、これは完全なるセバスの自己満足だからだ。更に言えば、住居兼店舗に連れ戻ることで、女性の危機が倍増する恐れがある。エントマが言ったように、ナザリックの者は多くが人間に対して否定的であり、蔑んでいた。食料としか認識しない者も存在する。余程気をつけなければ、碌な扱いをされないだろう。
最後に、いや、一番最初に考えるべき事なのだが、このセバスの行為が至高の御方らにとって、どう思われるか……である。放り出せ……ならまだしも、速やかに処分せよ……という命令が出たとき。勿論、セバスは従うのだが、想像しただけで気持ちは重い。創造主であるたっち・みーの心情やモットー、そういったものを裏切ることになるのではないか。そこまで考えが到っただけで自害したくなる。
(……道ばたで拾ったものです。少しだけ密かに匿い、体調等が回復したら帰す……。そうしてみては……)
「ん?」
気がつくと隣を歩くエントマが、ジッとセバスを見上げていた。
(エントマ……。なんでしょうか? 少し前にも、こんな風に見上げられたことが……)
その瞬間、セバスは至高の御方……その纏め役たるモモンガの言葉を思い出す。
(あれは確か……。そう、ナザリック地下大墳墓が転移した直後のこと。私とエントマが……)
モモンガの命令によってナザリック外を探索し、カルネ村を発見した……その報告をした際に、モモンガから聞かされたのだ。
『お前の判断は正しい。わからないことがあれば可能な限り、早い段階で相談をするべきだ。報告、連絡、相談は重要。お前の創造主たる、たっち・みーさんも、そこは(仕事柄)きっちりしていたからな』
報告、連絡、相談は重要。
ならば、ここはやはり報告をするべきだろう。報告先は……行動を共にする至高の御方であるヘロヘロ様。助けた女性に関しては、慈悲を願い出て、せめて負傷等の手当をした後に帰せば良い。
(ヘロヘロ様は……そう、ヘロヘロ様だけでなく、至高の御方は皆様方が、お優しい方。きっと、きっと大丈夫なはずです……)
この考えには、セバスの願望が多分に含まれていた。だが、実のところ、合流を果たしているギルメンだと、誰がセバスの相談を受けたとしても、女性の介抱ぐらいまでなら許可したことだろう。ちなみに最も危ないのは、異形種化した状態で小一時間経ったぐらいのモモンガなのだが、その彼とてセバスが真摯に願い出れば考慮ぐらいはするし、他のギルメンの目を気にして温情の籠もった配慮をする可能性が高い。
何にせよ、セバスは班長のヘロヘロに連絡を取ることとした。<
「エントマ。ヘロヘロ様に連絡を取ってください……」
◇◇◇◇
「……はい?」
エントマからの呪符
「ほほう。女性を連れ込みたいと? 仕事中のはずですが、中々やりますね」
『いえ、そうではなく。怪我人を保護したのでございます。それに……』
続くセバスの報告に、ヘロヘロの顔から笑みが消えた。
「地元のヤクザと揉めた? その女性は、その相手の店の従業員?」
『誠に申し訳ございません! すべては、私の不徳によるものでして!』
呪符
「起こってしまったことは仕方がないですよ。重要なのは、どう対処するかです。バグ取り作業のようなものですかねぇ。取りあえず、その女の人を連れて店に戻ってください。私も……今は冒険者組合の前ですから、すぐに行きます」
「どうした? なにか面倒事か?」
呪符
「<
この転移後世界では、<
「ハハハ、まあモノは使いようですよ。と、どうやら私の仲間が地元ヤクザと揉めたようでして……」
「ほ~う? ならば、俺が力になれるやもしれんな!」
得意げな顔で、ゼロは自らの分厚い胸板を叩いた。
「俺は、王都では裏の組織に顔が利く! どこの下っ端ヤクザが相手かは知らんが、まあ任せておいてくれ!」
「おお~、頼もしいですね! じゃあ一緒について来てくれますか?」
ニッコリ笑うヘロヘロ。その彼に向けてゼロが「承知した!」と答えた。
実に良い雰囲気である。しかし……その揉めた相手のヤクザ組織というのが、他ならぬ自身が所属する組織、八本指。その奴隷部門であることを、この時のゼロは気づかないでいたのだった。
◇◇◇◇
「
ヘロヘロが住居兼店舗に戻ったところ、一足先に戻っていたセバスとエントマが、入口の向こうで出迎え一礼する。顔を上げた彼はヘロヘロを見たが、すぐに同行者であるソリュシャン……の隣で居る大男、ゼロに気がついた。
「そちらの方は?」
「この人はゼロ。王都での協力者のようなものですよ。どうやらセバスの抱えてる問題にも、力になってくれるようです」
「なんと……」
完璧な執事であるセバスだが、ヘロヘロの説明に驚きを隠せない。
(ヘロヘロ様は、私と別れてからの極短時間で、地元のヤクザ者をどうにか出来そうな人材を見つけたというのですか。なんという……これが至高の御方の力なのですね。それに比べて私は、まだまだ未熟……)
ヘロヘロの知らないところで、彼に対する尊敬の念が増していく。それに気がつかないヘロヘロは、店舗内の内部を見回した。店舗内と言っても内装には手が入っておらず、前の持ち主が残していった陳列台などが置かれているだけだ。
「それで? その女性というのは、何処ですか?」
「こちらです……」
セバスがヘロヘロらを奥へと案内する。いずれは、従業員の待機所であったり事務室であったり、そういう部屋になる場所だ。エントマに外部での警戒を命じたヘロヘロは、セバスに連れられて中に入って行く。これまたガランとしているが、床に敷いた毛布の上に……女性が一人寝かされていた。
見れば、全身アザだらけの傷だらけ、辛うじて息をしているのが解ると言ったレベルで、一刻も早く処置を施すべきだろう。
「ソリュシャン、彼女の傷の具合を診てもらえますか? 詳細が掴めたら報告に来てください」
「承知しました」
黒衣の女盗賊。そういった出で立ちのソリュシャンだが、この時はメイドとしての一礼を行っている。そして頭を上げるや、寝かされた女性の傍らで膝をつき、診断を開始した。
「じゃあ、奥へ行きましょうか?」
ソリュシャンが行動に出たのを確認し、ヘロヘロはセバスとゼロを促す。奥にも一室あり、机や椅子などが集められていたはずだ。そこで椅子等を並べれば、男三人ぐらいは座って話ができるだろう。もちろん、椅子の数には余裕があるので、ソリュシャンが入って来たら彼女も座ることが可能だ。
「申し訳ございません、ヘイグ様……。この度は私の勝手な判断で……」
「セバス?」
椅子を四つ並べて向かい合うように座る。と同時にセバスが謝りだしたので、ヘロヘロはキョトンとする。今日、セバスが取った行動で、何か謝られるようなことでもあったのだろうか。まあ、ヤクザと揉めたのは問題だろうが……。
「よくわかりませんが、事情を詳しく話してください」
改めて聞いてみたところ、状況は想像以上によろしくない。
まず、王都へ来たばかりだというのに、ヤクザ風の組織と揉めてしまった。しかも、セバスが少し話したという店舗側の男は、女性のことを『従業員』だと言ったらしい。解雇という体で処分しようとしていたらしいが、それでもセバスのやったことは拉致誘拐とされる可能性があった。
「ま、本人が助けて欲しいと言ったそうなので、拉致誘拐は無いですかね~。となると職場放棄の手助けをした感じなのか……」
ブツブツ呟きながらヘロヘロは考え続ける。
彼が思うに、今解っているリ・エスティーゼ王国の国軍……それ全部が相手であっても、ナザリック側が負ける要素は無い。ましてや、ヤクザ組織なんかは物の数ではないだろう。しかし、ある部分において非はこちらにあるようだ。それを力尽くで押し通すのは、ヘロヘロの美意識、それが言い過ぎなら良識にそぐわなかった。
(金でも渡して穏便に済ませましょうかね~……。……穏便に済まないで強請ってきたら、それを口実に実力行使に出ても良いわけですしね~)
相手側から非道に押し込んでくるなら、遠慮などしなくて良いのである。普段のヘロヘロからすると少々過激な思考に寄っているが、これは現在、彼が変形しているだけで異形種化したままであることが大きい。
(おっと、いけないいけない。人間的な思考を忘れては駄目ですよ……っと。でも、相手の出方を見るのは悪くな……おや?)
ふと見ると、右前で座るゼロが腕組みをして唸っている。随分と渋い表情で、どちらかと言えば困り顔なのだが……。
「ゼロ? どうかしましたか?」
「いや、その……だな。事情を聞いて解ったことがあるんだが、その女が働いていた店というのがな。実は、俺の勤め先の関連組織のようでな……」
歯切れの悪いモノの言い方をしているが、その意味を飲み込めたセバスが鋭い視線をゼロに向けた。
「ゼロ様と仰いましたか? 力になるというのは、どういった意味だったのか……御教授願えますかねぇ?」
言葉遣いこそ丁寧だが、語気に含まれた圧力は凄まじい。少なくとも不機嫌なのはゼロにも理解できる。もしもゼロが、セバスをただの老人だと侮っていたなら、笑い飛ばしたかもしれない。だが、
よってゼロは、ニヤリと笑いつつ顔前で手の平を振る。
「そう怖い言い方をしなさんな、爺さん。その店は、俺の同僚がやってる奴隷……おっと、娼館ってだけだよ。ヘイグさんには世話になるからな。俺から口利きして、無かったことにしてもイイって話だ」
「同僚がやってる……奴隷……と聞こえましたが? この国では奴隷売買などは禁じられているのではなかったですか?」
幾分、セバスの語気が穏やかな物になったが、彼の追及は止まらない。ゼロが視線を向けてくるのを感じたヘロヘロは、ゼロ側の事情を知りたい気持ちもあったため、頷くことで説明の続きを促している。
「わかった。では、少し語らせてもらうか……」
ゼロによると、彼は八本指と呼ばれる……王都を根城とした大犯罪組織の幹部であるらしい。彼の場合は警備部門の長で、娼館を仕切っているのは奴隷部門の長、コッコドールという男とのこと。
「この国の、黄金の姫……第三王女のせいで奴隷売買が禁止になってな。奴隷部門ってのは落ち目なんだが……抜け道ってのはあるんだ。借金のカタに強制労働する契約を結ばせたりとか……そんな感じだな」
セバスが連れてきた女性に関して、ゼロは詳しいことを知らない。だが、扱われようからして最後の一働きをさせられたと考えている。あるいは、奴隷扱いの酷い客に、格安の奴隷をあてがったとか……そんなところであろう。
そのあたりを、ゼロはボカしながら説明していたが、ここでノック音がした。ヘロヘロが入室許可を出すと、ソリュシャンが入ってくる。同じく許可を貰ってヘロヘロの隣に座った彼女は、女の負傷の程度や病状についての報告を始めた。
「梅毒の他、二種類の性病。肋骨数本及び指の骨にヒビ。右腕と両足の筋が切断されています。前歯の上下が抜かれ、内臓にも不調の様子が……。裂肛もありました。後は薬物中毒の症状に、打ち身裂傷は数えきれず。そんなところでしょうか」
「随分と、えげつない事になってますねぇ」
うは~っと息を吐くヘロヘロが対側の男性陣を見ると、セバスがきつい視線をゼロに向け、ゼロは気まずそうに視線を逸らしていた。
「ソリュシャンは<
「はい!」
速やかに、かつ嬉しそうにソリュシャンが返事をする。
「じゃあ、それを使って治してやってください。病気やバッドステータスなんかも治るはずですし」
「承知しました」
恭しく一礼し、ソリュシャンが退室して行った。それを見送ったヘロヘロは、ゼロに向き直る。
ここから問題になるのは、八本指の奴隷部門がどういった行動に出るかだ。ゼロが言うには、いきなり荒事に出るわけではなく、まずは脅しに掛かるのが常道らしい。
「警備部門から人を出して欲しいと、俺に声がかかるだろう。後は、表だって圧力を掛けられる奴を連れて、ここへやって来る……そういう事になるだろうな」
それをゼロなら止められるのだ。
ゼロは自分を売り込めた気がして得意げな気持ちになったが、ヘロヘロがボソリと呟いた言葉を耳にして目を剥くことになる。
「……私の伝手で
幾らヘロヘロ達が強いと言っても、そこまでのことが可能だろうか。にわかには信じがたいが、ヘロヘロは人手を集めると言っている。
(
そんな規模の裏組織など、ゼロは聞いたことがない。だが、冒険者を兼ねた商人業などという、ゼロからすれば趣味や道楽のようなことをしているヘロヘロが、これほどに強いのだ。彼の後ろに何か組織が……いや、ヘロヘロほど強い存在が数人でも居たら、もうどうしようもない。敵対したら、八本指などはヘロヘロが言ったように丸ごと消し飛ぶだろう。
(念のために裏を取るか? いや、駄目だ。こそこそ嗅ぎ回っていると
ちょっとした出費だが、廃棄予定の女一人分ぐらいはどうとでもなる。
「ヘイグ殿。せっかく相手方の関係者である俺が居るんだ。ここは一つ、任せてくれないか? 悪いようにはしないつもりだ」
「そうですか? ……じゃあ、取りあえず頼んでみますか。私の方でも、友人達に相談したいですし。でもまあ行動に出るかは、ゼロの報告を待つことにしますので……なるべく早くで、報告して欲しいですね」
「了解した。任せてくれ!」
自信たっぷりに請け負ったゼロは、椅子から立ち上がると部屋を出て行った。その後ろ姿を見送ったヘロヘロは、セバス付きの
「つまりは、あのゼロを信用しておられないと?」
「保険ですよ。ほ~け~ん~。一応、バレないことを最優先にさせてますから、何か面白い話を持ち帰れたら上出来。ゼロが行き着く隠れ家なんかの場所でもわかれば、もうそれでデカした感じですよ」
視線が鋭いままのセバスに言ったヘロヘロは、続けて<
(蒼の薔薇のリーダーと接触できたことも報告しなきゃですね~。いや~、俺って割と働いてる感じですかね~)
内心でハッハッハと笑い、口元は笑みの形に口端を持ち上げるに留める。そして、<
『へ、ヘロヘロさん!? ヘロヘロさん! 大変です! 大変なんですよ!』
「ど、どうしました? そんなに慌てて?」
大抵の事態にもノンビリした態度を崩さないヘロヘロであるが、ギルド長が慌てふためいている様子は、さすがに驚いてしまう。
『ちゃ、茶釜さんとペロロンチーノさんが見つかりました! 弐式さんが帝国の方で遭遇したって!』
「え? えぇええええええええ!?」
押さえきれずに声が出たことで、セバスが目を見開き腰を浮かせた。次いで、ダダダダと隠密
「ヘロヘロ様!? 今のお声はっ!?」
偽名を使うことも忘れてソリュシャンが声をかけた。が、こめかみに指を当てたヘロヘロは、サッと空いた方の手の平を挙げてソリュシャンを、そして視線によってセバスを制する。
「モモンガさん。俺は今、王都の一角で住居兼店舗を確保してまして。そこに居るんですけど。<
『え? ええと、そっちに<
……ブツン……。
かなりテンパった様子の声を最後に<
ギルド長、慌ててるなぁ……と思うヘロヘロであったが、慌てる気持ちは十分に理解ができる。またギルメンが合流できたのだ。しかも、今回は二人同時らしい。
(けど、ペロロンさんはともかく、茶釜さんか~。
ブラック企業に扱き使われ、体調を崩していたヘロヘロ。彼は、間違っても
では、ぶくぶく茶釜はどうだろうか。彼女は
(ペロロンさんの場合は、理想の嫁さん……シャルティアが居ますからね~。こっちに残りそうな気もしますが……)
それもこれも、二人に直接会って話を聞いてからだろう。ヘロヘロとしては転移後世界に残留して欲しいが、
(俺の幸せの場所は、ソリュシャンやメイド達が居る転移後世界で決定ですけどね~)
「セバス、ソリュシャン……」
ヘロヘロは思案するのを止め、控えたままのセバス達を見た。「はっ!」というキビキビした声が聞こえる中、ぶくぶく茶釜とペロロンチーノが戻ったことを伝える。
「なんと! ぶくぶく茶釜様とペロロンチーノ様が!」
セバスが驚愕し、ソリュシャンと顔を見合わせた。それはナザリックの僕にとって最上級の朗報だ。叶うことであれば、一刻も早く茶釜達の元へ馳せ参じ、神々しい姿を目にしたい。そう思う二人であったが、ヘロヘロが下した指示は『待機』であった。
「この場を手薄にするわけにはいきません。
この指示に対してセバスが何か答えようとしたが、その前に<
「向こうで皆集まってますよ! ヘロヘロさんも早く来て下さい!」
「じゃ、じゃあ、セバスにソリュシャン。後は頼みましたよぉおおおお~っ!」
拉致されるかのようにヘロヘロが暗黒環へと押し込まれていく。その姿が消えると暗黒環は消失したが、セバスとソリュシャンは暫くの間、傅いた状態で頭を垂れ続けるのだった。
◇◇◇◇
「いや~……円卓の間よね~。懐かしいな~」
黒髪を肩で切り揃えた女性が、円卓の間にて席に着き、周囲を見回している。一見、金属鎧を身にまとった女戦士風だが、彼女こそがギルド『アインズ・ウール・ゴウン』四十一人が一人、ぶくぶく茶釜なのだ。その隣で座る青年弓使い……ペロロンチーノも、久しぶりで見る円卓の間を懐かしそうに見回している。二人とも、今のところは人化した状態のままだ。この二人の様子を、対側で座るタブラ・スマラグディナに弐式炎雷、そして武人建御雷がホッコリした様子で眺めていた。ちなみに、元から設定された配席ではなく、茶釜達と既に合流していたギルメンとで分かれて座っている。
「ヘロヘロさんのとこに行ったモモンガさん、まだ戻らねぇのか?」
建御雷がボソリと呟くと、その場に居たギルメン全員が顔を見合わせた。そして、その視線が壁際で立つ、一人の女性に向かう。
「アルベド? モモンガさんから連絡とか来てない? <
代表して問うたのはタブラであったが、連絡は来ていないとアルベドは言う。
「いや、謝らなくていいから」
そう言ってアルベドを元の姿勢に戻させると、タブラは小さく溜息をついた。
このように集結したギルメンらは、茶釜姉弟を含めてソワソワしだしているのだが、建御雷やタブラが気にしたようにモモンガが戻って来ないのが原因である。とはいえ戻りが遅いということではない。何故なら、ヘロヘロを迎えに行くと言ってモモンガは<
つまり、モモンガが姿を消してから一分と経過していないのである。
(これはアレだ。宴会場には主賓が来ているのに、幹事役の人が遅れた出席者を迎えに行ってるとか、そういう状況だ)
そう思ったタブラが一人苦笑していると、暗黒環から一人の青年が出てきた。黒い武道着姿……ヘロヘロだ。続いてモモンガも出てくる。人化しているモモンガは、その顔にホッとした気持ちがありありと表現されていた。
「皆さん、お待たせしました! これで現時点でのギルド『アインズ・ウール・ゴウン』のギルメンが勢揃いです!」
少しばかり芝居がかった物言い。しかし、それがギルメン達の気分を高揚させる。何故ならモモンガが喜んでいるのと同様に、自分達も喜んでいるし嬉しいのだ。
「いやあ、めでたい! 茶釜さんにペロロンさんも合流か~。建やんが合流してからだと、そう日が経ってないわけで、次のギルメンも早めに合流できそうですよね!」
ヘロヘロと同様、こちらは班員らを帝都の安宿に残してきた弐式炎雷。彼が上機嫌で言うと、モモンガ達は皆が頷いた。
「では、ぶくぶく茶釜さんとペロロンさんから、何か一言……頂きましょうか!」
そう言ったのはモモンガ……ではなく、タブラである。瞬間、ヘロヘロの、弐式の、そして建御雷の目に妖しい光が宿った。
ギルメンの合流。すなわち、恒例の土下座タイムである。
ユグドラシルの集合地において、弐式がノリで言ったことではあるが、今のところ、モモンガと合流を果たしたギルメンの全員が、モモンガに対して土下座謝罪を敢行している。タブラのように失敗する者も居たが、茶釜姉弟の場合は果たしてどうなるか……。
「一言……ねえ」
皆から注目される中、まず茶釜が席を立った。そして……。
「モモンガさん。招集かかってたのに行けなくて、ごめんなさいね? 今度、時計にサービスボイスを追加で入れるから……それで何と言うか……許してね? てへ」
「はっ?」
茶釜の立ったままでの謝罪に対し、一声発したのはモモンガではない。かすれるような声だったので誰の声だったのかも判別不可能だ。場の空気は軽く硬直状態に陥ったが、すかさずペロロンチーノも立ち上がる。
「俺もゴメンだよ、モモンガさん。どうしても外せない仕事があってさ……モモンガさんから連絡があったときには、もうキャンセルなんてできない状態で……。とにかく、ごめんなさい」
姉の隣に並んで頭を下げるペロロンチーノ。
場の空気は硬度を増すこととなったが、いち早く復活したモモンガが咳払いをした。
「いえいえ、そうやって謝って頂いて、俺の方こそ恐縮しちゃいますよ。お二人とも、どうか気にしないで……。そう、気楽な感じでいきましょう。ね?」
ペロロンチーノは勿論のこと、茶釜も普通にしているようで緊張していたのだろう。モモンガが気を遣いながら言うのを聞くと、目に見えて肩の力が抜けたようだ。そして、それを見たモモンガが朗らかに笑いながら言う。
「それにしても、茶釜さん達が土下座するかと思って緊張しましたよ。拘束系の課金アイテムを準備していたんですけど、いやあ使うことにならなくて良かった良かった」
「え? 土下座? なにそれ?」
腰を下ろした茶釜が不思議そうな顔をしている。その姉に身を寄せ、ペロロンチーノが耳打ちした。
「ほら、弐式さんが集合地で言ってたじゃん。モモンガさんの所に皆で押しかけてジャンピング土下座しようって……。アレじゃないの?」
「ああ~……」
納得いったように頷いた茶釜は、テーブル上で両肘を置いて手指を組む。
「モモンガさん。そりゃあね、
世の中には土下座が必要な場合、すべき場合も確かにあるだろうが、時と場所による。
「周囲にギルメンが居て、アルベドだっけ? 彼女も見てるってのに、私自身が言うのも何だけど……女性の土下座とか……モモンガさん的にも気まずいんじゃないの? そもそも土下座って、ノリでするものなの? 相手の気持ちを考えた上で、真剣に謝りたい人がすることじゃないわよね?」
「「「「ううっ!」」」」
タブラにヘロヘロ、弐式に建御雷。四人のギルメンが胸を押さえて呻いた。
「その様子だとタブラさん達は……やっちゃったみたい? ……まさかとは思うけど、面白半分で土下座したりは……してないわよね? あの集合地のノリ自体は悪いものじゃなかったけど、本当にやるとなると話は別なんだけど~……」
冗談めかして言ってる風で、しかし茶釜の目は笑っていない。隣で座るペロロンチーノが怯えているが、それはタブラ達とて同じだ。ちなみに、モモンガも怯えている。
その後、ペロロンチーノの失態に対する程ではないが、ちょっと厳しめのお説教が茶釜によって展開され、ギルメン達(モモンガとペロロンチーノを除く)は大いに反省することとなるのだった。
ピンクの肉棒にエロ鳥人、土下座せず!
まあ、人数多くなると人それぞれということで……。
今回、モモンガさんの出番が少ないです。モモンガファンの皆様申し訳ございません。
茶釜姉弟の合流によって、他ギルメンの出番が圧迫を受けるため、ヘロヘロ班の描写を持ってきた結果によります。
じゃあ、茶釜姉弟の合流を遅らせれば良かったか……と言うと……。
SSのタイトルがアレですし、適度にギルメンを補充しないと私にアレでオバロな禁断症状が出ちゃうのです。
最終回、近いかな……いや、まだブルプラさんとか、ぷにっと萌さんとか、何人か居るし~。
大トリがヤギ&バッタペアになるかは、今のところ未定です。
職業柄、弐式さんが発見する展開は多くなる予定。
セバスがツアレを拾ってる現場にヘロヘロ達が合流する展開も考えたのですが、本文のような形になりました。
<誤字報告>
憲彦さん、ゲオザーグさん、佐藤東沙さん
ありがとうございました
あんな、あんな数の誤字が……うせやろ……
嘘だと言ってよ、ジョー!
余談ですが、自分は学生時代以降は「嘘だと言ってよ!バーニィ!」をよく耳にしましたが
子供の頃だと、偉人漫画本とかでシューレス・ジョーの逸話をよく見聞きした口なのです
あれ自体は、新聞記者のでっち上げ話らしいですけど