オーバーロード ~集う至高の御方~   作:辰の巣はせが

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第42話

「ま、こんなところかしらね」

 

 グッタリしたギルメン達を前に、ぶくぶく茶釜は溜息をつきながら肩の力を抜いた。説教されていたギルメンらは青息吐息ではあるが……。

 

「茶釜さん達は、いつ頃こっちの世界に来てたんです? 帝国でワーカーというのをやってたらしいですけど」

 

 一応、説教の対象とならなかったモモンガが、話題を変更するべく茶釜に話しかけた。もっとも、その意図だけでなく、茶釜姉弟が何をしていたかについては実際に興味がある。

 

(茶釜さん達に迷惑かけたような奴が居たら、ギュッという目に遭わさないといけないし……)

 

 人化しているのに発想が過激なのは、事がギルメンに関わることだからだ。

 一方、モモンガに聞かれた茶釜は、弟のペロロンチーノと顔を見合わせると、彼が頷いたのを確認してから話しだした。

 

「じゃあ……ユグドラシルの集合地に行こうとした……そのあたりから話してみようかしら。時系列的に他の人と違う感じだしね。ああ、そうだ」

 

 ふと思い出したように、茶釜はアルベドに目を向ける。それまでモモンガの後ろで立っていたアルベドだが、NPCの彼女には聞かせたくないような話もしなければいけない。

 

「込み入った話になるのよ。悪いけどアルベドは、少しの間だけ外に出ててね?」 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 アルベドが一礼して退室すると、茶釜は当時のことを話しだしている。

 茶釜とペロロンチーノは、弐式が指定したユグドラシルでの集合地へ行こうとはしていたらしい。しかし、モモンガからの誘いに応じられなかったように、仕事の都合で身動きが取れなかったのだ。

 当日も、せめてメールで連絡しようとしていたのだが、モモンガどころか弐式にもメールが届かなかった。収録の合間にはペロロンチーノもメールをしたそうだが、これも駄目だったとのこと。

 

「俺も四十一人の中じゃ、仲の良かったギルメンに片っ端からメールしたんだけど、駄目だった。あ、でも、通じた人は居たかな?」

 

 ペロロンチーノが口を挟むが、モモンガ達が確認したところ、ペロロンチーノが言うメール等で連絡の通じたギルメンとは、ユグドラシル集合地に来なかった者達であるらしい。

 

「ふうん? 何か……ルール的なものの存在を感じますねぇ」

 

 そうタブラが呟くと、皆がタブラに注目するが、タブラ自身は「ああ、続けて続けて」と茶釜を促したので、語り役は再び茶釜に戻った。

 

「私と弟で現実(リアル)の記憶があるのは、ユグドラシル最終日から三日後まで……かしらね」

 

 ユグドラシル最終日を過ぎて一日たち、二日たち、そして三日目。茶釜達は、なおもギルメンらと連絡を取ろうとしていた。しかし、連絡がつくのは、後で解ったことだが、ユグドラシル集合地に行かなかった者ばかりだ。

 姉弟で、それぞれ帰宅してからは、ネットでユグドラシルに入ろうとも試みたものの、既にサービス終了後であり、ログインすら出来ていない。その後、とある事情でモモンガに連絡するべくメールを送信しようとしたところ……。

 

「その瞬間、例の集合地に居たわけよ。最初は驚いたわ~……何度試してもログイン出来なかったユグドラシルに入れたわけだし、アバターは人間のモノだけど、現実(リアル)での容姿に近い感じだし……。アイテム類は空っけつだったかな。キャラ作成時に指定できる最低限の衣類だけは着用してたっけ。ユグドラシルって、そのあたりの規制はキツかったものね」

 

 中でも最大の驚きは、居合わせたギルメンらの時間認識だ。誰も彼も、その場に居た全員が「今はユグドラシルの最終日だ」と言って譲らないのである。唯一の例外が、たっちみーとウルベルトで、この二人に関しては、ユグドラシル終了日の三日前からログインしていたらしい。

 

「もちろん、三日間ずっとじゃなくて、気がついたら居た……ってのが、私達と同じなんだけど……」

 

 謎は残るが、たっち達の話は一先ず置くとして茶釜姉弟の『その後』である。

 最も遅れてログインしてきたヘロヘロを発端とし、弐式が盛り上げ役となってナザリックに押しかけようとしたところまでは記憶にあるが、気がつくと姉弟で真っ昼間の荒野に放り出されていた。

 現実(リアル)からユグドラシルへ放り込まれ、今度は見知らぬ土地である。さすがにパニックになったが、気が落ち着いてきた頃に互いの顔や風体を確認したところ、ユグドラシル・アバターの姿であることを確認する。そこから連想して幾つか実験した結果、魔法や特殊技能(スキル)の類は使えたし、何より人間アバターと、ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』時代のアバターの姿をチェンジできることも判明した。しかも一〇〇レベルである。

 

「それでまあ、ユグドラシルでの初心者時代を思い出して……異形種だからって狩られまくってた頃のアレね……基本的には人間の姿で居ることにしたわけ。でも、弟には鳥人(バードマン)になって空から周囲を探索して貰ってたんだけど……」

 

 ちなみに、魔法が使えるので<伝言(メッセージ)>を何度も試したらしいが、誰にも通じなかったと茶釜は言う。

 

「ちょっと待った。茶釜さん。今は、どうなんです? 俺に<伝言(メッセージ)>して貰えますか?」

 

 挙手しながら言う弐式に対して、「え? いいけど?」と茶釜が<伝言(メッセージ)>を発動したところ、これが難なく繋がった。

 

「え? ええ? 何で?」

 

 戸惑いを隠せない茶釜であるが、それは居合わせたモモンガ達や<伝言(メッセージ)>の試用を提案した弐式も同じだ。そんな中で、タブラが一声唸ってから口を開いている。

 

「思うんですけどね。こっちの世界に転移すると、ギルメンの誰かと接触しない限り……<伝言(メッセージ)>の接続ができないんじゃないでしょうか?」

 

 タブラの推察するところでは、一度引退したギルメンは、ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』との繋がりが切れている。これはユグドラシル・プレイヤーとしての登録が解除されていることのみを意味しない。

 

「もっと他の、深い何かがあると思うんですけど。取りあえず、ユグドラシルで引退した結果、こっちの世界でも繋がりが切れたまま……という可能性が考えられます」

 

「それで、一度接触するまでは、<伝言(メッセージ)>で連絡できないか……。俺も<伝言(メッセージ)>は試したけど繋がらなかったしな……」

 

 頷きながら言ったのは、茶釜達と同様にナザリック外部へ転移した建御雷だ。彼も死を撒く剣団の洞窟に居た頃、何度も<伝言(メッセージ)>を試したが、やはり駄目だったと言う。ちなみに弐式の場合は、転移直後にゴブリンの襲撃を受けてパニックになったことと、翌日にはモモンガ達と接触できたので、<伝言(メッセージ)>を試してはいない。

 だが、これら茶釜達や建御雷の事例を思うと、タブラの推察が真実味を帯びてくる。とはいえタブラは、「まだ二組……三人の事例があるだけですからね。確実だとは言えません。そういう可能性もある……とだけに留めておきましょう」と慎重な態度であった。

 さて、話は茶釜達の転移後の動向に戻る。

 空行くペロロンチーノであったが、すぐに街道らしきものを発見し、そのことを茶釜に伝えた。荒野を彷徨くよりはマシだと判断した茶釜は、ペロロンチーノを地上に戻し、街道へと移動を開始する。

 

「その後は、どちらに進むかって話になったんだけど、まあ土地勘が無いからね。もう一度、弟を飛ばして、街道の……後で解ったんだけど、帝都の方へ探索を進めたのね」

 

 その途中で発見したのが、帝都へ向けて街道移動中のフォーサイト……ではなく、グリンガム率いるワーカーチーム『ヘビーマッシャー』だった。人間のみのチームだったので茶釜達は警戒したが、考えてみれば、今の自分達は人化が可能となっている。どうして可能となったかは不明のままだが、これを利用しない手はない。

 そのままテクテクと街道を歩き、転移後世界の人間よりは身体能力が高いので、さほど時を置かずにグリンガム達に追いついている。

 

「弐式さんに聞いたんだけど。多人数で複数班編制の冒険者チーム『漆黒』だっけ? グリンガムのヘビーマッシャーも同じタイプでね、私達が出会ったのはグリンガム率いる主班のチームだったかな? 大仕事の後で八人編制だったけど、帝都まで同行してくれたわけ。色々話が聞けて勉強になったっけね~。あと、イイ人揃いだった」

 

 グリンガムらの方で勝手に『南方人』扱いして、茶釜達を特に怪しむでもなかったらしい。茶釜達の戦闘力には驚いていた様子だが、それでも右も左もわからない『おのぼりさん』に対して、親切に接してくれたのだとか。

 

「私が思うに、使えそうな相手だったら将来的に伝手やコネでも作っておきたい。そんな考えもあったんだと思うんだけど、助かったのは事実よね」

 

 その後は現地では有名な老ワーカー、パルパトラ・オグリオン率いるワーカーチーム、竜狩りに紹介して貰ったり、そのパルパトラからの口利きで、こちらも名が知れていたワーカーチームのフォーサイトに臨時加入したりもできた。

 

「パルパトラお爺ちゃんは、打算の度合いがグリンガム以上だったけど、私ら……新人に対する気配りなんかは高齢者相応の出来物だったわね~。フォーサイトを紹介してくれたぐらいだし」

 

 茶釜が言うには、良い人だと見せかけて適当なロクデナシチームに丸投げする可能性だってあったのだから、やはりパルパトラの配慮には感謝するべきとのことだ。

 

「フォーサイトは~。割と居心地良かったかな。仲間同士で和気藹々としてて、ユグドラシル時代を思い出しちゃったかも。で、そうやって何回か彼らにくっついて依頼をこなして……割と名が売れ出した頃……」

 

 街道でのモンスター討伐依頼を終えて、フォーサイトと共に帝都へ向かっている途中でモンスター集団の襲撃を受けたのである。その後は、弐式が助太刀するべく飛び込んできて……現在に到る。

 

「ま、こんなとこかな? 思うに、異世界転移してきたのは二週間程前なのかしら?」

 

 語り終えた茶釜は、冗談めかして肩をすくめてみせるが、今度はモモンガ達が現状を語る番となった。

 まず、ナザリック地下大墳墓が、丸ごとNPC達込みで転移して来ていること。

 その維持費を稼ぐため、数班に分かれて冒険者活動などをしているが、一部のNPCが世界征服事業に邁進していること。

 現時点でモモンガ班がエ・ランテル、ヘロヘロ班がリ・エスティーゼ王国王都、弐式班がバハルス帝国帝都に居ることなどだ。

 このように現状を説明したのは、既合流組の代表であるモモンガだったが、彼としては茶釜達に確認しておくべき事が一つある。

 

「茶釜さん達は、これからどうします? 現実(リアル)へ帰る方法を探しますか? 俺達は……こっちの世界に残るつもりなんですけど?」

 

 そう、モモンガ達は現実(リアル)に帰るつもりはない。しかし、茶釜とペロロンチーノはどうだろうか。程度の差こそあれど、現実(リアル)で行き詰まりを見せていたモモンガ達と違い、茶釜達は安定した職を有していたはず。以前に聞いた話では両親も健在とのことで、帰りたいのではないだろうか。

 しかし、茶釜姉弟から返ってきた答えは『帰る気は無い』だった。

 まず一点、モモンガらが気にしていた両親については、暫く前に他界していたらしい。ユグドラシルを引退することになった理由を茶釜達は「仕事が忙しくなったから」としていたが、あれは嘘で、実際は体調を崩した両親の介護が必要だったことによる。

 

「結局、その後で両親が亡くなって……。悲しかったけど……それでも生きてくためには仕事しなくちゃ……でしょ? ユグドラシルに復帰するのは、どの面下げて……って気があったし。で、舞台や声優の仕事を続けてたんだけど……出演してたアニメのスポンサーの……社長の馬鹿息子がね~……」

 

 いわゆる枕営業を茶釜に持ちかけてきたらしい。当然ながら茶釜は「冗談じゃない! ふざけんな!」と激昂。怒り心頭に発した状態で事務所に相談するも、これが頼りにならなかった。結局、スポンサーの力の方が強すぎて、茶釜は弟と共に職を追われるか、馬鹿息子の性玩具になるかのどちらかを選ぶ……そんなところにまで追い詰められていたと彼女は言う。

 

「手近な警察関係者と言ったら、たっちさんなんだけど。相変わらず連絡は取れないし……」

 

 警察。それ自体に通報するとして、警察沙汰にした後……しかも有力なスポンサーを敵に回したことで、自分達が解雇されるかも思うとそれもできない。にっちもさっちも行かなくなり、姉弟揃って精神的に追い込まれた状況下……最後の最後にモモンガに連絡を取ろうとしたところで、二人はこの世界に飛ばされたのだった。

 

「そんなわけでね~。私達、現実(リアル)に戻ったら、それはそれで詰み状態なわけ」

 

「だから、モモンガさん。それに皆さん! お願い! 俺達を、ここに置いてください!」

 

 ケッと吐き捨てるように言う茶釜に続き、ペロロンチーノが拝み倒す勢いで懇願する。

 このように事情を聞かされ、頼み込まれたモモンガ達であるが、聞かされた茶釜達の、あまりと言えばあまりな事情に言葉を無くしていた。

 

「思うんですけど、ここに来たギルメンって……たいがいヒドい状況ですよね~。現実(リアル)の方の話ですけど」

 

 重い溜息をつきながら、ヘロヘロが言う。

 ヘロヘロ自身、プログラマー業がブラック過ぎて体調を崩し、下手をすれば過労死が待っていた。

 タブラは家族を亡くし、職も無くし、将来に向けての希望が無くなったことで自殺寸前の有様。

 建御雷は両親から引き継いだ道場を閉めて、無職となることが確定していた。

 厳しい労働環境で何とか踏ん張っていたモモンガと弐式が、先の二人からすれば幾分マシと言える状態だったが、それは比較論であって、ヒドい状況だったことに違いはない。誰も彼もが碌な目に遭っていないのだ。

 以上のことを鑑みて視点を変えると、全員に共通しているのは、後顧の憂いがない……あるいは、現実(リアル)に未練がないという点であるが……。

 

「そこを偶然と考えて良いものか……ですねぇ。タブラさんは、どう思います?」

 

 モモンガから話を振られたタブラは、オールバックに纏めた頭髪に指を沈め、二度ほど掻いてから、質問者のモモンガに目を向ける。

 

「モモンガさんの懸念は、私も以前から感じてました。けれど、先の<伝言(メッセージ)>の件と同じで、事例が少ないです。なので偶然でないとは、まだ確定し難いですね。アインズ・ウール・ゴウンのギルメンは、最大でも四十一人。何人まで同じなら確定なのか? という問題もありますしね。今のところは、現実(リアル)に未練等が無い人ばかり転移して来ている……と言うだけに、しておきましょうか」

 

 一気に話し終えると、タブラは腰位置をズラして椅子の背もたれに寄りかかったが、その彼にモモンガが追加の質問を行う。

 

「設定好きのタブラさんとしてはどうです?」

 

「偶然なわけないですよ。こういうのに作為とか意図があってこそ萌えるんじゃないですか!」

 

 即答であった。

 社会人、あるいは組織人としてのタブラの見解は先のとおりだが、趣味人としては今の意見を押したいらしい。弐式などは「萌え……って……」と呆れ気味であったが、タブラの反応は実に彼らしいとギルメンの皆が思っている。

 

「偶然じゃないと仮定しておいた方が、いざって時に……驚きは少ないかもね~」

 

 苦笑交じりで茶釜が言うと、モモンガを筆頭に皆が頷いた。

 その後は、茶釜とペロロンチーノには、現役時代に使用していた部屋をそのまま使って貰うことが話し合われている。室内の物品については指一本触れていないとモモンガが説明したことで、茶釜姉弟が驚き恐縮、更には礼を述べるという一幕もあった。

 そして……。

 

「もはや恒例になりましたが、ギルメンの帰還報告の話です」

 

 モモンガが議題を切り出し、既に合流済みであったギルメンらが「んだんだ、それがあったね~」と頷いている。  

 合流したばかりの茶釜姉弟は一瞬何のことかわからない様子だったが、すぐに思い当たったらしい。なお、先に気づいたのは姉の茶釜で、弟のペロロンチーノは少し遅れて「あっ」と声に出している。

 

「モモンガさん。あたし、ちょっと持病の(しゃく)が……」

 

「それは大変です。上位の治癒ポーションを出しましょうか?」

 

「いえ、結構です……」

 

 逃げようとした茶釜であるが、すぐさま退路を塞がれたことで前言撤回した。そんな彼女を、建御雷が不思議そうに見つめて言う。

 

「茶釜さん、どうしたんだ? アウラやマーレに会いたくないのか?」

 

「建やんは解らんだろうけど、ユグドラシル時代にゲーム感覚で萌えブチ込んだキャラが、意思を持って動いてるんだぜ? そりゃあ恥ずかしいさ」

 

 弐式が説明したことで、少しは納得いったらしい。建御雷は頷いたが、すぐに口を開きなおしている。

 

「けどよ? 意思を持ってるからこそ、作った責任はあるし大事にすべきなんじゃないか? そもそも、誰かに言われて嫌々作ったもんでもないんだろ? それを会いたくないとか。やっぱり、俺にはわかんねーな」

 

「「「ぐぬぬ……」」」

 

 言い返せる要素が絶無であるため、茶釜姉弟は唸ったが、ここにモモンガも加わっている。彼には『生きて動く黒歴史』ことパンドラズ・アクターが居るからだ。少なくともモモンガには、自己作成のNPCに会いたがらない茶釜達の気持ちは理解できる。

 

(二人にはアウラ達やシャルティアに会ってほしいんだけど。パンドラのことを考えるとな~……)

 

 モモンガさんも、パンドラと会えよ。でもって優しくしてやれ。

 建御雷の発しそうな台詞が、彼の声で幻聴となって聞こえる。本人が目の前に居るのに、何とも不思議な感覚だ。

 

(パンドラか~……。恥ずかしいは恥ずかしいけど、軍服とか格好いいんだよ。オーバーアクションも……な~……ヘロヘロさん達には、もう見られてるし……ん~……。ちょくちょく会って慣れてみても……。……いいや、違うな……)

 

 顔を合わすだけなら転移後に何度か会っている。だが、じっくり腰を据え、二人きりで語り合ったことはなかったのではないか。しかし、今日……作成NPCに会うことの恥ずかしさを口にする茶釜姉弟を見ていると、その往生際の悪い姿が、どうにも自分に重なってしまう。

 そこへ来て、モモンガの背を押す建御雷の声……の幻聴だ。

 何人かのギルメンに、すでにパンドラを目撃されてるというのも大きい。

 モモンガは後でパンドラを呼んで、ちょっとだけ話してみるか……などと考えつつ、作成NPCのことを思ってオロオロしている茶釜姉弟に目を向けるのだった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「あ~……回数も重ねたことで、何故(なにゆえ)、お前達が呼ばれたかについては察しがついていると思う」

 

 玉座の間。

 その最奥にある玉座で座したモモンガは、アルベドを左傍らに立たせ、左側には手前から弐式と建御雷、右側には、やはり手前からヘロヘロとタブラを配置して口を開いた。

 眼前には各階層守護者と、シャルティアの<転移門(ゲート)>によって連れ戻された、冒険者チーム漆黒の各班員らも集結している。皆、天まで昇りそうな高揚感に包まれており、それが少し離れた玉座のモモンガからもハッキリと確認できていた。

 

「何と言うか……。誰か戻るたびに招集して、すまないな」

 

「何を仰います!」

 

 悲鳴のような声を発したのはデミウルゴスだ。

 彼は、パンドラズ・アクター(一応、この場に呼ばれている)の如く、大きな身振り手振りで『至高の御方帰還』に対する思いを述べる。

 

「至高の御方が、お戻りになられた。この素晴らしき報に接し、我らナザリックの僕が集結するのは当然のことにございます!」

 

「そ、そうか?」

 

 他の者も同じなのか。そう思って視線を巡らせると、僕達は皆が同感だと言わんばかりに頷いていた。

 

「……そうなのか。うむ。では、発表するとしようか」

 

 精神的疲労を感じつつ、モモンガは司会を進行する。これにより喜びの度合いを増したのが、シャルティアであり、アウラとマーレであった。見れば、デミウルゴスの尻尾もヒクヒクと揺れている。その他、執事のセバスや、ユリやエントマにシズなどの戦闘メイド(プレアデス)らもソワソワしているのが見て取れる。いや、自身の創造主が未帰還である全ての僕が、期待に身を震わせているのだ。

 

(該当者を知ってるだけに、何だか申し訳ない気分だ……)

 

 シャルティアとアウラ達を見ながら、モモンガは帰還したギルメンの名を述べていく。

 

「今回合流し、ナザリックへの帰還を果たしたのは……ぶくぶく茶釜さんと、ペロロンチーノさんだ! では、どうぞ……」

 

 場が大きくざわめいたが、モモンガは淡々と茶釜達の登場を促した。姉弟との再会や合流、そして残留意思を確認できたのは嬉しいし、高揚感を感じるが、この『帰還の儀式』の司会を務めること数回目。さすがに慣れてきているのだ。

 

(でもギルメンが戻って来たことを喜ぶNPCらを見ていると、やっぱりこう……胸が熱くなるな。胸熱だ。いやホント、マジで……。……あ、やば……精神が沈静化しそう……。……ふう……)

 

 落ち着きを取り戻しているところに、左脇の方から(それまで弐式の特殊技能(スキル)とモモンガの魔法補助で姿を消していた)茶釜とペロロンチーノが進み出る。

 当然と言うべきか、双方共に異形種としての姿だ。また、霊廟から装備を取り寄せているので、姿も(茶釜はともかく)全盛期のものとなっている。

 その二人の姿を見て、立ち上がった者達が居た。

 シャルティアと、アウラにマーレだ。

 

「ペロロンチーノ様ぁ!」

 

「「ぶくぶく茶釜様!」」

 

 三人とも立ち上がりはしたが、そのまま動こうとはしない。跪いていたのが、許しを得ずに立ち上がったので、それがマズいと思っているようだ。縋るような視線がモモンガに向けられ……。

 

「かまわん。創造主の元へ行くが良い」

 

 と、モモンガが許可した瞬間。三人は、各々の創造主の元へと駆け出した。

 さて、一〇〇レベルNPCの突進となったわけだが、アウラとマーレのダブルタックルを、茶釜は真正面から受け止めている。ギルド随一のタンク役は伊達ではない。

 

「この子達をこうして抱き留められるなんて。そんなことが実際に出来るとわかってたら、もうちょっと……まともな自分用アバターを選択したのにね~」

 

 苦笑しつつ言う茶釜に「そんなことないです! ぶくぶく茶釜様は凄く綺麗です!」「ぼ、僕も、お姉ちゃんと同じように思ってます!」と涙ながらにエルフ姉弟が訴えている。

 実に良い光景だ。モモンガ達も感動のあまり、涙を禁じ得ない。

 一方で、ペロロンチーノは色々と酷いことになっている。

 まず、シャルティアのタックル。これをペロロンチーノは受けきることができなかった。

 金色の甲冑。その胸部にシャルティアが激突するや、後方へ吹き飛ばされたのである。弐式と建御雷が受け止めていなければ、ダメージを負っていたかもしれない。少なくとも、鎧下の胸部はズキズキと痛んでいる。

 

「あたたた。凄いタックルだな……」

 

「はうあ! ペロロンチーノ様! もうしわけございません!」

 

 背後から弐式達に支えられたペロロンチーノが後頭部を擦っていると、その胸に顔を埋めていたシャルティアがガバッと顔を上げ、縋りつくようにして謝罪する。

 

「だ、大丈夫だよ。特に問題は……。……」

 

「ぺ、ペロロンチーノ様?」

 

 途中で言葉を切ったペロロンチーノを、シャルティアが心配げに覗き込んだ。ペロロンチーノは、暫しシャルティアを見つめた後……感極まったように呟く。

 

「ホントだ。本当にシャルティアが動いて喋ってる……。これは……シャルティアと色んな事ができるんだろうか? していいのか!?」

 

「ああ! ペロロンチーノ様! シャルティアは、ペロロンチーノ様に全てを捧げられます! どうか、如何様にでもぉ!」

 

「シャルティアアアアアアア!」

 

 想像を遙かに超える美声、それで「如何様にでも」などと言われたペロロンチーノは、瞬時に理性が吹き飛び、愛すべきNPCを掻き抱くが……。

 

「ペロロンさん。そういうのは自室でやってくんねーかな?」

 

「建やんの言うとおりだよ。てか、早く退いて……」

 

「あ、すみません……」

 

 背後に居たギルメン二人に言われ、ペロロンチーノは立ち上がる。もっとも、シャルティアを抱きしめたままだ。ペロロンチーノとの体格差によって、彼女は人形かヌイグルミのように見える。

 こういった様子であり、茶釜もペロロンチーノも、NPCとの再会を果たしていた。そして、そんな二組を玉座からモモンガが見つめている。

 

(二人とも、会う前は散々恥ずかしいとか言っておいて……。他のみんなも普通にしてるし……。やっぱ、黒歴史なんて他人から見て、そんなに気にすることじゃないのか?)

 

 それでもオーバーアクションは恥ずかしいけどな……。

 そんな風に内心で付け足しながら、モモンガはある覚悟を決めていた。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 ぶくぶく茶釜とペロロンチーノの帰還報告式が終わって、小一時間後。

 せっかくナザリックに戻ったのだから、一晩くらい泊まっていっても良いのではないか。そうモモンガが提案したことにより、冒険者チーム漆黒の各班は、元の出張先には戻らず、各自がナザリック地下大墳墓での一夜を過ごしている。

 一例を挙げると、モモンガはパンドラズ・アクターを自室に呼んで話をするなどしていたが、武人建御雷と弐式炎雷の場合は、二人で酒盛りをしていた。場所は建御雷の私室。無論、弐式は人化しているが、彼に合わせるように建御雷も人化した状態である。

 

「建やん。建やん、聞いてるか?」

 

「ああ、聞いてるよ」

 

 二人は床の中央で胡座をかいており、その間には大皿に盛られた摘まみ類が置かれていた。NPCに関してはコキュートスもナーベラルも居らず、完全な二人きりだ。

 すっかりできあがった弐式が、黙々と飲んでいる建御雷に対して一方に話しかけている。

 

「建やんよぉ。だから、俺は言ってやったんだ」

 

「おう」

 

 建御雷が短く相槌を打つと、弐式は升に満たされた日本酒をあおる。

 

 ゴッゴッゴッ……。

 

「ぷはぁ! ルプスレギナとコキュートスにさぁ! ちょっとミスしたぐらいで一々死ぬとか言うなって! そんな軽々しく、お前らのことを見捨てたりするか! いい加減にしろってな!」

 

「……おう」

 

 建御雷は少し間を置いたが、やはり短く相槌を打った。弐式はと言うと、空になった升の中身を見つめるや、泣きそうな顔で口をへの字に曲げる。

 

「阿呆だな、俺。馬鹿だなぁ、俺。軽々しく見捨てるわけないとか、どの口から出てくるんだ。俺……前にナーベラルを見捨ててるんじゃん」

 

「……ああ、そうだな。俺もだ」

 

 建御雷は自分が持つ大杯を床に置いた。

 そう、弐式や建御雷は、かつてユグドラシルを引退するに当たって作成したNPCを見捨てている。だが、それは当時のユグドラシルが単なるゲームだったからだ。ナーベラルやコキュートスが、ゲームのキャラに過ぎなかったからだ。記念だと言って、キャラだけ持ち出すことも出来なかったからだ。

 そう、どうしようもない事情は確かにあったのである。

 しかし、こちらの世界に転移して来て、意思を持って動くNPCらと会い、彼らがユグドラシルを去った創造主らをどう見ていたか。それを知る機会を得て、弐式達は思い知らされた。

 

「至高の御方は、モモンガ様一人を残し、他の方は去って行かれた。あるいは、姿をお隠しになった……か」

 

 建御雷が呟き、それを聞いた弐式が肩を揺らす。

 

「な? そんな風に思われてたなんてさ……。俺達が何かこう……悪い事をしたみたいじゃん? なんだってんだ。……こっちの世界に来なけりゃ、こんな気持ちにならなくて済んだ……ああ、いや違う!」

 

 弐式は大皿の摘まみ、その中の乾き物を鷲掴みにすると口に放り込んだ。バリボリ音を立てて噛み砕き、酒で流し込む。

 

「ぶはっ! ナーベラル達を置いて出ていった話だ! そんな俺が偉そうに説教こいたんだぜ!? 見捨てるもんかーってさぁ? 恥ずかしくて顔から火が出そうだったわ! けどさぁ! けど……」

 

 それまでの勢いを無くし、弐式は肩を落とした。

 

「ああいう時にさ、他に何て言えば良かったんだ? モモンガさんは俺みたいに叱ったって言うけど、タブラさんなら? 茶釜さんなら? ヘロヘロさんやペロロンさんなら何て言ってた? ……建やんなら? だってさ、だってアイツら、すぐに死ぬとか言うし……」

 

 そこから先は、もう言葉にならない。肩を上下に揺すりだした弐式をジッと見つめ、建御雷は酒瓶を手に取る。そして異形種化すると、体格が拡大したことでリーチが伸びた腕を伸ばし、弐式の升に酒を注いだ。

 

「俺も同じように言ってたさ。恥知らずだと思うがな。そうさ、皆同じように言うだろうよ。何故なら、今のコキュートスらは俺達にとって本物だからだ。生きてるんだ。それを知った以上、ユグドラシルの時と同じように扱えるもんかい」

 

「建やん……」

 

 弐式が泣きはらした顔を上げ、建御雷は自分の大杯に酒を注いで一気に呷る。

 

「でもなあ、ユグドラシルの時にやってたことは取消にはできねぇ。だからさ、それを忘れないようにしながら、アイツらについて責任を取り続けるしかないんじゃないか?」

 

「責任……」

 

 それは創造主としての責任だ。

 ユグドラシル時代ならデータを削除して終わりだ。だが、今の建御雷達にそんなことは出来そうもない。出来るはずがない。ならば、NPC達を生み出した者としての責任は取り続けるべきだろう。

 

「連中の創造主様。(あるじ)、あるいは親としてな……。弐式の場合は、恋人や嫁さんでも良いのか? 俺のコキュートスなんかは……アイテム次第じゃ、女に変えて嫁さんにするのもありだな。ハッハッハッ」

 

 本気とも冗談ともつかない口調で言った建御雷は、最後に笑うと弐式を見直した。

 

「とは言えだ。そこら辺は各自のさじ加減だ。俺の勝手な言い分を、他の人に押しつける気はサラサラない。責任を取っても良いし、NPCを放り出して出ていってもいい。同じナザリックに居ながら、まるで相手にしないって選択肢もあるだろうよ。俺は……暫くダチか兄弟分、または弟子みたいな感じでコキュートスと付き合っていくつもりだ。もちろん、軽々しく死ぬなとか、見捨てたりはしねぇ! って言うつもりだぜ? みっともないのを承知でな。弐式……お前は、どうする?」

 

「俺?」

 

「そう、お前だ。お前は説教したんだろ? その上で、自分に説教する資格は無いって言って反省してる。だが、その先だ。いつまでもウジウジしたって始まらねぇ。お前は、どうしたいんだ。どうして行くつもりなんだ?」

 

 ……。

 数秒ほど、沈黙の時が二人の間を満たした。

 弐式は服の袖で目元を拭うと、親友たる武人建御雷……今は異形種化して、半魔巨人(ネフィリム)と化している彼の目を真っ向から見返す。

 

「ここで……このナザリックで、ナーベラルの創造主を続けるよ。格好悪いことも山程あると思うけど、でもナーベラルの創造主をやめたりしない。ずうっと一緒に居る……」

 

「なら、それでイイじゃないか。済んだことや過ぎたことは、酒でも飲んで忘れ……いや、紛らわしちまえ。そんでもって今晩寝たら、明日からはまたギルド『アインズ・ウール・ゴウン』をやっていこう。な?」

 

 そう言って酒瓶を突き出してくる建御雷に対し、弐式は苦笑にも似た笑みを浮かべると、残っていた酒を飲み干してから升を差し出すのだった。

 




 事情あって休暇を取ったので、投稿が早いのだ。
 次は、いつもどおりに土日掲載ですかね。
 台風5~7号に囲まれてるので、職場事情では、どうなるか……ですけど。

 弐式&建御雷の酒盛りのくだりですが。
 ナーベラルへの説教を自慢げに語る弐式を、建御雷が叱り飛ばす展開にするかどうか悩みました。
 でも、それをすると弐式さんを下げる感じになるので、本文のような感じにしています。
 今回の酒盛りシーンは、結構前から考えてまして。感想で『お説教』について触れられたときは、このシーンに早く辿り着きたいな~……とウキウキしてた次第。
 そう言えば、そろそろレエブン候がナザリックに来ますね。遅れて報告の御訪問隊も来るでしょうし。イベントは、まだまだ多い感じです。
 どっちも来るのが遅い? そこはもう御都合主義的な時間合わせというアレです。


<誤字報告>
kubiwatukさん、冥﨑梓さん、リリマルさん、憲彦さん、佐藤東沙さん

毎度のことながら、ありがとうございます。
御指摘受けて確認に行きますとね、何でこんなの見落としたんだろうってのが散見してて。自分のオツムに絶望感を感じてしまうのです。
そんなわけで、今後ともよろしくお願いします~。
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