オーバーロード ~集う至高の御方~   作:辰の巣はせが

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第43話

 ナザリック地下大墳墓の第九階層。

 そこはロイヤルスイートと呼ばれ、荘厳と絢爛さを兼ね備えた……まさに理想の白亜。アインズ・ウール・ゴウンのギルメンらが、趣味と酔狂を注ぎ込んだ階層でもある。主にギルメンの私室、お馴染み円卓の間、執務室に客間が配置され、店舗施設や娯楽施設も数多く備わっていた。

 その中の一つ、スパリゾートナザリック。十七もの浴槽(九種類)を有する一大入浴施設で、大浴場に至っては十二エリアに分割されている。

 ナザリックに帰還を果たしたぶくぶく茶釜は、アウラとマーレを連れて混浴露天風呂へと繰り出していた。

 

「うっはーっ! ユグドラシル時代にも見に来たけど、転移した後だと何これ? 極楽って奴なの!?」

 

 胸から太ももまでを湯浴み着で覆った茶釜は、両手を高く掲げて感動に浸っている。その後ろでは、やはり湯浴み着を来たアウラと、二人の女性と同じように『胸と尻下』まで湯浴み着で覆ったマーレが居た。

 混浴露天風呂だから男のマーレが居ても良いのだが、それでも男性ギルメンから言わせるとマーレは『勇者』であり、相手が茶釜なだけに『大変な糞度胸』ということになる。もっとも、茶釜が「風呂に誘ったは良いが、マーレだけ男風呂に一人で入るのは可哀想」と彼を混浴露天風呂に誘い、マーレが喜んで受け入れただけなのだが……。

 

「身体を洗ってから入りましょーね~」

 

 引率のお姉さん風に茶釜が言うと、「はい! 茶釜様!」「わ、わかりましたぁ!」といった声が返ってくる。ユグドラシル時代に作成したNPCの双子。その二人が意思を持って動いており、基本的には命令に従ってくれるとあって、茶釜は興奮を抑えるのに苦労していた。

 

(やっべー。愚弟がロリ趣味なのが理解できてしまいそうで、なんてゆうか超怖いわ~……。ダメダメ、弟に毒されちゃ駄目! 女同士のアウラならまだしも……いや、駄目だけど。異性のマーレが相手だと、本当に洒落にならない。こういう時はアレよ! YESロリータ、NOタッチ!) 

 

 YESロリータ、NOタッチ。

 これは通常、少女に対して使われる言葉だが、今の状況では男児たるマーレにも適用して良いだろう……と茶釜は思う。ちなみに以前、ペロロンチーノが「ショタや男の娘には、また別の言い方や標語があるんじゃないの? YESショタとか」と指摘したが、「うっさい黙れ、愚弟! うちのマーレは少女枠なんですぅ!」と姉によって封殺されている。

 色々と歪んでいるが、少なくとも幼児に対して、いかがわしい行為に及ぶべきでないというのは、現実(リアル)における社会人……ぶくぶく茶釜の精神の根底にまで叩き込まれた『社会常識』であった。そのはずだった。

 しかし、しかしである。

 この転移後世界にあってはユグドラシル運営は存在しない。ちょっとエロいことを口走っただけで垢バンしてくる、無敵の邪神は居ないのだ。そして、ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』ギルメンは、ナザリックNPCに対して絶対の発言力と強制力を持つ。対するNPC達は、何を言われても絶対に服従だ。

 つまり……茶釜はナザリックNPC、特に自身の制作したアウラとマーレに対し、何をしても良いのである。

 ……。

 

「とう!」

 

 ざっぱあ!

 

 考えている内に洗い場へと到着し、右にアウラ左にマーレを配置して座った茶釜は、かけ声一発、黄色基調のプラ洗面器で冷水をかぶった。キンキンに冷えた、やり過ぎ感溢れる冷水が、頭部から肩、背中や太ももに股間、そして臀部へと流れ落ち……茶釜の全身を震わせる。

 

「うひいいいっ! 冷たい! って、何で温度調節がマイナスまであるのよ! カランの口に氷柱(つらら)ができてるじゃない! いったい誰が、こんな……」

 

 スパリゾートナザリックの制作メンバーは誰だったか。そして、今居る露天風呂を主に手がけたのは……。

 

(ジャングル風呂なんかはブルー・プラネットさんがメイン。その他は他二人と共同。装飾ギミック担当は確か……)

 

 茶釜の脳裏にギルメン随一の鼻つまみ者が浮かぶ……が、敢えてそれを無視する。こっちの世界に転移してて欲しくないからだ。故に関係者の内で、叱りやすい人物が代わって浮上し……。 

 

「ブルー・プラネットさんか……。合流したら、この冷水を根で吸水させてやる……」

 

 肩まで伸ばした髪から水の雫をしたたらせ、茶釜は苦笑気味に笑った。

 実際にやるかはともかく、この場の苛立ちを誰かにぶつけなくては気が収まらないのである。と、そんな彼女をアウラとマーレが不思議そうに見上げており、視線に気づいた茶釜は慌てて笑みを浮かべた。

 

「ど、どうかした? 二人とも?」 

 

「い、いえ……その……ですね」

 

 歯切れの悪い言い方をしながらアウラが俯く。その茶褐色の耳は真っ赤に染まっていた。

 

「ぶくぶく茶釜様は、綺麗だなぁ……って」

 

「え? あ~……アウラみたいな美少女に言われると照れちゃうわ~。でも、本当にそうなの? と言うか、私、今はピンクの粘体じゃなくて人間の姿なんだけど?」

 

 問われたアウラは「ぶくぶく茶釜様は、お美しいんです!」と言って譲らない。視線を動かしてマーレに目で問うたところ、力強い頷きが返ってきた。

 

「私が、綺麗……美しい……ねぇ」

 

 茶釜は洗い場正面、個別に貼り付けられた鏡を見る。そこには、入浴着を身にまとった女性が映し出されていた。現実(リアル)で長年見慣れた顔……ではない。詳しく述べるとすれば、血色が良くなり健康さも増している。

 

「むう……。言われてみれば……」

 

 かつての生業としてギルメンらに知られていた声優業。ただし、声優という職業は、俳優業の一芸に過ぎず、茶釜は舞台やドラマにも出演していた。時にはオーディションに受かって、ヒロイン役を任されたこともあるぐらいだ。元々、容姿は優れていたのである。そこに健康美が加われば、美しさが増し増しだ。

 そして最も注目すべき点は……ほんの少し、いや数年近く若返っていること。

 

「一応、二十代……かな? 元々童顔だって言われてたから、そう大きく変わってない感じだけど。肌の張りとか艶が……。なんで私だけ……。モモンガさん達は、現実(リアル)のオフ会で会った時のままなのに……」

 

 聞けば人化が出来る出来ないと言った段階で、すでに個人差があるらしいし、この若返りも個人差だろうか。顔のあちこちをいじくり「あ、眉が手入れしないままで綺麗……。マジ?」などと呟いた茶釜は、「あとで、モモンガさんとタブラさんにでも相談するか」と言ってから、心配そうにしているアウラとマーレを見た。

 

「取り敢えず洗いっこしましょう! その後で、お風呂にドボンよ!」

 

 

◇◇◇◇

 

 

「……結構、散らかってるね」

 

 ナザリック地下大墳墓の第二階層、屍蝋玄室。そこはユグドラシル時代にペロロンチーノが作り上げた、シャルティアの私室……その領域である。玉座の間での帰還式を終えた後、ここまで共に歩いてきたが、そのことがシャルティアにとって仇となった。

 普段、シャルティアが爛れた生活を送っているせいで、屍蝋玄室は、そこかしこが放置された物品等で散乱していたのだ。本来であれば、ペロロンチーノに見られても大丈夫なよう、吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)らを総動員して整理整頓、屋内清掃を行っていたはず。今回、それを急遽やったのだが、達成できなかった。理由としては、帰還式のあと、すぐにペロロンチーノがシャルティアを連れて屍蝋玄室へ行くと言い出したことによる。また、素直に「今散らかっていますので」とでも言えば良かったものを、プライドの高さからシャルティアが言い出せなかったのも大きい。

 そもそも、日頃から片付けておくとか、ギルメンが一人、また一人と帰還してきているのだから、ペロロンチーノが戻るまでの間に片付けておいても良かったのだ。それをしていなかったのは、シャルティアが「ペロロンチーノ様が御帰還あそばされたら、私は~……はふぅ……」などと、任務以外の時は夢想にふけって居たのが原因である。

 それだけ、自身の創造主が戻ってくると言うのは、NPC達にとっては重大事であるし、至上至福の出来事なのだ。とは言え、今回のシャルティアのような事例は珍しい部類だが……。

 

「ううう~っ……」

 

 スカートを掴んで涙目になるシャルティア。が、その彼女の頭にペロロンチーノがポンと手を置く。ちなみに今は異形種化したままなので、鳥人形態だ。

 

「俺も現実(リアル)じゃ部屋を散らかしてた口だし。ま、今からでも掃除すればいいんじゃないの? そんなわけで~……」

 

 ペロロンチーノは黄金仮面を装着した鳥頭を左右に向けると、壁際で控えている吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)らに話しかけた。

 

「俺、シャルティアと九階層の自室に行ってるから。君たち、片付けとか掃除を頼めるかな?」

 

「「「「「「「承知しました! ペロロンチーノ様!」」」」」」」

 

 綺麗に揃った声と共に、吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)達が一礼する。その中には、かつてタブラによって名を与えられた二名……髪の長いヘンリエッテと短髪のアネットも居た。二人は、武人建御雷の発見及び帰還にあたって功績があり、褒美として名を与えられたのである。それ以外に特別な待遇などは無かったものの、至高の御方によって名を与えられた一点をもって、同僚たる他の吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)らからは羨望の眼差しを向けられていた。

 何しろ、名を与えられたということは、ギルメンにとっては『名有りのキャラ』ということになり、必然的に覚えられ、たまに顔を合わせたときには名を呼ばれたりする。シャルティア関連で用があるときなどは、言付け役として使われたりもするし、名付け役となったタブラに至っては、たまに資料作成や必要書籍の取り寄せ等の手伝いをさせていた。

 それなりに重宝されていると言えるだろう。

 このあたりの事情はペロロンチーノも聞かされており、通り過ぎざまに「ヘンリエッテとアネットも頑張ってね!」と声をかけていく。当然ながら二人は「はい! ペロロンチーノ様!」と上擦った声で返事をし、他の吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)らは声にこそ出さないものの、やはり羨ましそうな視線を二人に向けるのだった。

 さて、ペロロンチーノはシャルティアを連れて今度は自室に向かったわけだが、その間の会話で思い知ったことがある。

 それは、シャルティアのモモンガに対する思いだ。

 

(キャラ作成時の設定に、死体愛好癖(ネクロフィリア)なんて入れるんじゃなかったな~) 

 

 そう、シャルティアの性癖には死体愛好癖(ネクロフィリア)が設定されているのだ。転移後世界で自我を有して動くシャルティアにとって、そのことが何を意味するのか。

 

(やっぱり、モモンガさん……。シャルティアにとってドストライクじゃないか……)

 

 ユグドラシル時代は、「シャルティアがモモンガさんに惚れてしまう!」などと言って大騒ぎしたこともあるが、ここへ来て現実味を帯びてしまった。いや、現実となってしまった。

 理想の嫁にとって最も気を惹く人物は、自分でなくて友人。

 この事実は今、ペロロンチーノを大きく打ちのめしている。

 

「ねえ? シャルティア?」

 

「はい! ペロロンチーノ様!」 

 

 自室に入って数分間、ペロロンチーノはシャルティアが率先して用意した紅茶を飲みながら彼女と雑談に興じていたが、覚悟を決めて話を切り出した。

 創造主のペロロンチーノと、好みドストライクのモモンガ。

 果たしてシャルティアは、どちらを選ぶのだろうか……。

 

「シャルティアは……確か、死んだ人が好きだよな?」 

 

「はいでありんす!」

 

 即答したシャルティアは、大きく膨らんだ胸元に手を当て、頬を染めながら自身の性癖について語り出した。

 

「私は、死体が好きで好きでたまらないのでありんして。この気持ち、ペロロンチーノ様から頂いたものでありんすぇ!」

 

「……ぐっは~……」

 

 絞められる鶏のような声を出し、ペロロンチーノはテーブルの上に突っ伏す。

 今、ペロロンチーノの前には、一つの壁がそびえ立っているのだ。それは『爆撃の翼王』と称されるペロロンチーノであっても飛び越すことはできない、果てしなく高い壁だ。その壁の名を……モモンガという。

 

(モモンガさん……。よもや、こんな形で俺の前に立ちはだかるとは……)

 

 気分を出しているが、ユグドラシル時代に気づく機会があったのだから、そのときに設定を書き換えておけば良かったのである。転移後世界に居る今の状況を予期せよというのは酷に過ぎるが、それでも機会を不意にしたのはペロロンチーノの責任であろう。

 

(キャラの完成度を優先した結果が、これだよ!)

 

 この部屋で一人、それも椅子に座ってなければ……おそらくペロロンチーノは両手と両膝を床について、うなだれていたに違いない。

 だが、こよなくエロゲーを愛する男、ペロロンチーノ。自身が心血を注いで完成させたシャルティア・ブラッドフォールンが、幸せになるのなら……そのために彼女がモモンガに嫁ぐことがあったとしても本望なのだ。なぜなら、可愛い女の子にはハッピーエンドがあるべきなのだから。

 

(ついでにエロもあれば最高だよね~。シャルティアと骨でどうなるのかは、俺の想像力を超えるけど)

 

 ともあれ、気持ちにある程度の整理がついた今、ペロロンチーノには更に確認しなければならないことがあった。

 答えはわかっている。改めて聞くのは勇気のいる行為だ。聞いて精神的なダメージを受けるのも承知している。だが、シャルティアに聞かなければならない。

 ペロロンチーノは、創造主と差し向かいでお茶していることが嬉しいのか、ひたすら上機嫌なシャルティアに向けて口を開いた。

 

「と、時にシャルティア。君がお嫁さんに行くとしたら、誰が良いのかな?」

 

 言った、言ってしまった。

 全身を覆う羽毛が汗によって濡れていく感覚を覚えながら、ペロロンチーノは大いに後悔する。自分は馬鹿ではないだろうか。そこに有ると解っている地雷を踏み抜きに行くなんて……。

 

(なにが精神的ダメージも承知の上だ。理想のお嫁さんで、最高の女の子に、面と向かって聞くことか!? 今、俺、めっちゃ死にたいんですけどぉ! 色んな意味で! てゆうか、死ぬ!)

 

 ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』のギルメンが一人、ペロロンチーノ。失恋に死す。だが、鳥人の心臓が停止しようとした……まさに刹那のところで、シャルティアの声が発せられ、ペロロンチーノを現世に留めた。

 

「ペロロンチーノ様?」

 

「はっ!?」

 

 我に返ったペロロンチーノが視線を真正面に向けると、ティーカップを皿に戻したシャルティアが不思議そうに小首を傾げている。 

 

「私がお嫁に行くとしたら、旦那様はペロロンチーノ様以外にありんせんでありんすが?」

 

 リーンゴーン。

 

 ペロロンチーノの心臓が、教会の鐘のような音を立てた。無論、彼の幻聴だが、それが聞こえてもおかしくないほど、今のペロロンチーノは幸福感で満たされていた。

 

「そ、そうなんだ!? う、うっはー! 嬉しいよ! ……でもさ? さっき聞いた話だと……」 

 

 シャルティアの好きなタイプは、死んだ人ではなかったか。ならば、ナザリック地下大墳墓における最高峰の死人と言えば、モモンガではないのか。

 そこを確認したところ、シャルティアは控えめなドヤ顔で胸を張る。

 

「ペロロンチーノ様。愛と性癖……もとい、憧れは別腹なのでありんす。モモンガ様は、私にとって、言わば憧れと萌えの星。スターなのでありんすから」

 

「お、おおう。スター……」

 

 シャルティアの言に圧倒されながら、ペロロンチーノはあることを思い出していた。現実(リアル)で居た頃、結婚しているにもかかわらず、妻がアイドルグループにはまる。そんな事例をニュースか何かで見聞きしたことがあった。握手会へ参加するために音楽データを買い、イベントには必ず参加。自室には、アイドルポスターが所狭しと貼られているのだ。それでいて、妻や母であることを疎かにはしないし、夫のことはキチンと愛している。

 それがシャルティアの言った、愛と憧れは別腹というものではないだろうか。

 

「な、なるほど……。別腹か……」

 

 概ね納得したペロロンチーノは、顎下……正確には嘴下の汗を拭う。もっとも黄金仮面を装着しているので、マスク越しの仕草になってしまうのだが……。

 

「……よし、この際だから、これも聞いちゃおう」

 

 心は既に落ち着いた。

 シャルティア・ブラッドフォールンは、ユグドラシル時代と変わらず、ペロロンチーノの嫁なのだ。そうなると心に余裕ができた分、好奇心が湧いてくる。

 過日、弐式炎雷によって呼ばれていたユグドラシルでの集合地。ペロロンチーノは姉と共に時空を超えて参集し、今に至るのだが……。

 

(もしもあのとき、あの場所に居なければ。……もし、俺がこっちの世界に転移していなかったら?)

 

 ペロロンチーノが居ない世界で、シャルティアはどのような選択をしただろうか。仮定の話であると強調した上で聞いてみたところ、シャルティアは「その場合は、モモンガ様の正妻の座を希望したと思いんす」と言った。今の状況からペロロンチーノの存在を差っ引いただけなら、男性ギルメンはモモンガの他にタブラやヘロヘロ、弐式や建御雷と揃っている。その中でもやはり、好みの真芯を貫く存在……モモンガが一番良いのだろう。

 

(……こっちの世界に転移してきて良かったな~……。……あ、でも、俺が来ていない状況なら、さっき考えたみたいに、シャルティアの相手がモモンガさんってのも悪くないか……)

 

 自分の理想の嫁で最高の女の子、シャルティア。自分が側に居られないとして、モモンガなら任せられる。なんとはなしに思ったペロロンチーノだったが、今ここにペロロンチーノは居る……存在する。それがすべてだ。だから、シャルティアがモモンガの嫁になることはあり得ない。

 

(いや~、心晴れ晴れだよ! 肩も軽くなったな~……)

 

 しかし、変な汗をかいたので、一風呂浴びたい気分である。

 すぐにスパリゾートナザリックのことを思い出したペロロンチーノは、シャルティアを風呂に誘った。勿論、目指すは混浴露天風呂だ。

 

現実(リアル)ならアウトだが、ここは転移後世界! しかも俺は創造主で、シャルティアは忠誠を誓う僕! なんら問題はないな!)

 

「お風呂でありんすか!? 喜んで、お伴いたしんす!」

 

 創造主の言葉にシャルティアが逆らうはずもなく、それどころか彼女的に望むところのバッチコイ提案だったため、ここに二人の完全なる同意がなされた。 

 そう、向かう先は、第九階層のスパリゾートナザリック。現在、ぶくぶく茶釜とアウラ及びマーレが入浴中の場所である。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 暫くたって、ペロロンチーノは第九階層の通路で正座していた。

 シャルティアを連れて意気揚々とスパリゾートナザリックを目指したのだが、途中で風呂上がりの茶釜達と遭遇したのである。それだけなら、「各種店舗を見て回るんだ!」的に誤魔化すこともできただろうが、茶釜の「二人で何処行くの?」という質問に対し、シャルティアが「ペロロンチーノ様と混浴露天風呂に行く途中なのです。いえ、ありんす!」と正直に言ってしまった。

 

「ほぉ~う?」

 

 風呂上がりで上機嫌だった茶釜。その人化した額に青い筋が浮く。表情的には笑顔なのだが、目が据わっているので、ひたすら怖い。その彼女が、怯えるペロロンチーノに茶釜が正座を命じたことで、今の状況ができあがったというわけだ。

 正座する完全武装の鳥人、ペロロンチーノ。

 その前で腕組みしながら立つ浴衣美人、ぶくぶく茶釜。

 二人の後方では、それぞれの制作NPCらがオロオロしながら様子を見守っている。

 

「弟。お姉ちゃんはね、あんたは小さな女の子に……実際に手を出すようなことはしないと信じてたよ」

 

「過去形なの!? それに、まだ手を出してないし!」

 

 ペロロンチーノの言い分は正しい。手を出すとしたら、風呂場でのことになるため、通路移動中だった彼はシャルティアに手を出していないのだ。しかし、その言い訳は茶釜には通用しなかった。

 

「そんな屁理屈は通りません。さて……どうしたものかしらねぇ……」

 

 茶釜が、弟に対する折檻メニューについて考え出すが、ここでペロロンチーノの脳をあるアイデアが駆け抜ける。

 今、人化して浴衣を着た姉は、見るからに風呂上がりだ。よく見ればアウラとマーレも浴衣姿である。よもやマーレだけを男風呂に放り込み、女二人と男一人に分かれて……というのは考えにくい。そして先程、茶釜がシャルティアに向けた質問。そこから導き出される起死回生の策とは……。

 

「ま、マーレ? 聞きたいんだけどさ? さっきまで何してたの?」

 

「え? ぼ、僕……僕は、ぶくぶく茶釜様と、お風呂に入ってました……。一緒に……」

 

「あっ……」 

 

 掠れるような声を発したのは他ならぬ茶釜だ。

 弟のペロロンチーノが、少女のシャルティアを伴って混浴露天風呂へ行くことを咎め立てした彼女であったが、ついさっきまで、茶釜自身が少年のマーレと混浴風呂で居たのだ。

 これで弟に対して偉そうな物言いができるだろうか。

 

「姉ちゃん。……俺とシャルティアが一緒に風呂入(ふろはい)ることについて、とやかく言えるの?」

 

「で、でも! 私達は普通にお風呂入ってただけよ!? ね、ねえ! マーレ!?」

 

 創造主、ぶくぶく茶釜からの支援要請。彼女に創造された僕として、マーレは(まなじり)を決し、恐れ多いながらペロロンチーノに向けて訴える。

 

「は、はい! ふ、普通に洗いっこしただけですから!」 

 

「洗いっこ!? 姉ちゃんとマーレが!?」

 

「どひぃ!? それ言っちゃうかな~っ!?」

 

 予想していたとは言え、驚きを隠せないペロロンチーノ。そして、掌を顔に当てて天井を仰ぐ茶釜。

 形勢は逆転した。

 ペロロンチーノとシャルティアは、何も言えなくなった茶釜を振り切り、混浴露天風呂へ直行。薄い本が出せそうなぐらいの熱々入浴プレイへ……至れなかったのである。

 なぜなら、通路のど真ん中で騒いでるところへ、別の一団が通りかかったからだ。

 

「お? 何だ、ペロロンさんも風呂か? 俺は弐式と一緒なんだが、一緒に行くか?」

 

 人化して着流し姿の武人建御雷が話しかけてくる。手提げ籠を持っており、中には徳利が詰め込まれているようだ。そして、その背後から、いつもと変わらず忍者服姿の弐式炎雷が顔を出す。

 

「いや~、さっきまで建やんの部屋で飲んでたんだけどさ。寝る前に、風呂行って飲もうぜってことになって~」

 

「で、途中で俺達が合流したんですよ……って、何してるんですか? 茶釜さんにペロロンチーノさん。また、ペロロンチーノさんが何かしたとか?」

 

 弐式の言い終わりにつないで発言したのは、人化したモモンガである。簡易なローブ姿だが、その隣には軍服着用のパンドラズ・アクターが居て、ビシリと敬礼をしていた。敬礼した際に、モモンガの表情がひくつく。しかし、それは一瞬のことだったので誰にも気づかれていない。

 さて、ペロロンチーノを正座させた状態の茶釜だったが、弟が何かしたのか……と聞かれて、すぐに返答ができていない。当然だ。まだ何もしていないのだから。

 

(これからシャルティアを風呂に連れ込もうってところだったんだけど! 私がマーレと混浴しちゃった後だから、それを言うわけにも……)

 

 万事休す。このまま弟は、現実(リアル)ではアウトな相手(シャルティア)を連れて、混浴露天風呂に行ってしまうのだろうか。少なくとも茶釜は、マーレやアウラに対して洗いっこ以上のことをしていないが、弟はやる。やるはずだ。

 

「ぐぬぬぬぬ……」

 

 唸る茶釜。対して、ペロロンチーノは全身から力を抜いた。これで、当初の目的どおり、シャルティアと混浴を楽しめる。そんなことを考えているのだろう。

 だが、そうはならない。

 

「よっしゃ! 丁度いいや! ペロロンさんも、俺達と一緒に風呂へ行こーぜ?」

 

 ズカズカと歩み寄った建御雷が、ペロロンチーノの腕を取って引っ張り上げたのだ。

 

「へ? え? 一緒って、あの……シャルティアは?」

 

「男風呂に女の子を連れ込めるわけねーだろ? 何のために女風呂があると思ってんだ?」

 

 会話しつつ建御雷は移動開始したので、必然的にペロロンチーノはシャルティアから遠ざかっていく。

 

「まあ、シャルティアと風呂入りたいなら、自室のバスユニットでして欲しいですよね~」

 

 そう言うのはモモンガであり、何が起こっていたのかは察したようだが、ペロロンチーノの肩を持つ気は無いらしい。

 

「いってらっしゃ~い! シャルティアは私が預かっておくから~っ!」 

 

 ブンブン手を振った茶釜は、呆然と立ち尽くしているシャルティアに話しかけた。

 

「邪魔して悪かったけど。ここはまあ……次の機会にして……。どう? 私達とお風呂に入らない? 湯冷めした感じだから、また入り直したいしぃ~」

 

「ぶ、ぶくぶく茶釜様とでありんすか!?」

 

 鼓膜を揺さぶる魅惑の誘いに、シャルティアは瞳を輝かせる。もちろん、ペロロンチーノとの混浴が無くなったのは残念だが、目の前の相手は創造主の姉だ。しかも美人。男女どちらでもOKなシャルティアとしては、これは願ってもないチャンスと言える。そもそも創造主の姉とは言っても、ぶくぶく茶釜は言わば『余所様の至高の御方』なのだ。それだけにペロロンチーノよりは、甘えるにあたってのハードルが高い。が、向こうから誘ってくれるなら、ついて行くことに文句を言う者は居ないのである。現に、アウラやマーレは少しムッとしていたが、口に出して反対はしていない。

 

(ペロロンチーノ様とは、今晩寝室で……)

 

 初めてを奪って貰えば良い。

 そう判断したシャルティアは、アンデッドであるにも関わらず、太陽のような笑みで茶釜の誘いに応じるのだった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「ううう……。シャルティアとの混浴が~……」 

 

 人化して、肩まで湯につかったペロロンチーノが泣いている。その左傍らで湯に浸かる弐式は、こちらも人化した状態で御猪口の日本酒を干していた。

 

「やろうと思えば、いつの夜にだってやれるんだから。今日は巡り合わせが悪かっただけだよ~。ほれ、ペロロンさんも、グイッとやろう! あ、お酒の話ね」

 

 言いつつ湯に浮いた盆から徳利を取った弐式は、酒を注いだ御猪口を差し出す。それをジトッと睨んだペロロンチーノであるが、引ったくるようにして手に取り、顔を上に向けて一気にあおった。

 

「ぷはぁ! ……お酒、美味いっすね……。食うもの飲むもの、みんな美味いし。転移してきて良かったな~。……弐式さん、弐式さんはナーベラルとはどうなんです? もうしちゃいました?」

 

「ペロロンさん。もっと声は小さめで……。今、サーチしたら混浴露天風呂の方に茶釜さんとアウラにマーレ、シャルティアも居るみたいだし。そういう話を女性陣に聞かれたくないんだよ~」

 

 困り顔で言う弐式であったが、自分がした報告内容で一つ引っかかる部分があった。

 

「って、茶釜さん……マーレと一緒に入ってるのか……。普段、女装させてるからって……」

 

「でしょ? でしょ? 姉ちゃんが、それやってるのに! 俺だってシャルティアと一緒に混浴したかった~……。……って、今行けば一緒に入れるんじゃん!」

 

 名案だ! とばかりにペロロンチーノが立ち上がるが、右傍らで手酌飲みしている建御雷から、氷のように冷たい声が飛ぶ。

 

「今行ったら茶釜さんも居るぞ? その歳で、実の姉と裸の付き合いか? ん?」

 

「うぐっ……」

 

 どぽん。

 

 ペロロンチーノは力無く湯に沈んだ。

 

「ぶくぶくぶく。ううう……。歳、歳、歳~。歳は甲子に在りて、天下大吉~」

 

「なんで黄巾賊のスローガンなんだよ?」

 

 冷静に突っ込む建御雷に、「昔、三国志系の女体化エロゲーがあったんですよ~」とペロロンチーノが答えている。早くも酒が回っているようだ。どうやらペロロンチーノは酒に弱いらしい。弐式はと言うと、こちらも手酌飲みを続け、ペロロンチーノのエロゲ話題に関わるまいと横を向いている。

 

「あのゲーム、素晴らしい出来で、ヒロインも超ツボだったんですけど! 例によって声をあててるのが姉ちゃんで~~~っ!」

 

「聞いてねーよ、ペロロンさん……」

 

「俺も、ナーベラルを風呂に誘ってみるかなぁ……。自室なら……」

 

 実に騒がしい。そして、このように騒いでいる建御雷らから、少し離れたところで……モモンガとパンドラズ・アクターが湯に浸かっていた。

 

「ふう~。やはり人化しての入浴は最高だな」

 

「本当に、疲れが落ちますね~」

 

 はふうと顎下までを湯に沈めたモモンガに、パンドラが応じる。茶釜姉弟の帰還報告式の後、モモンガがパンドラを風呂に誘ったのだ。これに喜んだパンドラが承知したことで今に至る。

 

(パンドラと肩を並べて風呂に入るとか、ユグドラシル時代は想像すらしなかったよな~)

 

 先程、通路で茶釜姉弟に会ったときにパンドラが敬礼をした。彼のオーバーアクションについては、その一挙手一投足に至るまでが、モモンガにとって羞恥の象徴。そのはずだったのだが、どういうわけか少しイラッときた程度で済んでいる。

 モモンガが思うに、どうもここ最近、パンドラに対する苦手意識が薄れている気がするのだ。やはり、すでに幾人かのギルメンに見られたからだろうか。

 ギルメン達は、パンドラのオーバーアクションを見て面白がりはするが、馬鹿にしたりはしない。

 

(後は、パンドラを格好良く思って貰えれば……。……ま、いいか。パンドラの格好良さは、俺だけが解っていたら、それで充分だよな。いや、格好いいとは思って欲しいけど!)

 

 でも、ドイツ語だけは止めさせよう。

 そう心に決めたモモンガは、いつか将来の外出で、パンドラに何をさせようかと考えつつ目を閉じるのだった。

 




 お風呂回なのだ。
 何度か触れてますが、早くレエブン候とか法国の一団をナザリックに到着させたいんですけど。こういうのを書かずには居られないんですよね~。
 次回ぐらいで、到着するのかな?
 転移門(ゲート)を使える人が多いと、行ったり戻ったりが頻繁に行えるので、何処でキャラ出してもおかしくないのは助かってます。

<誤字報告>

トマス二世さん、佐藤東沙さん、フウヨウハイさん、憲彦さん、kubiwatukiさん

ありがとうございました。

セリフに関してはテンポや口調を優先するので、多少文法がおかしいところは、そのままにしておくことがあります。
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