オーバーロード ~集う至高の御方~   作:辰の巣はせが

44 / 133
第44話

 一晩明けて、各自で朝食をとったギルメン達は、異形種化した状態で円卓の間に再集結していた。

 今回はアルベドにデミウルゴス、パンドラズ・アクターを主軸とし、他は各階層守護者らも円卓の間に入れている。各NPCは創造主が帰還している場合は、その後ろで、そうでない者は創造主の席の後ろで立っていた。なお、アルベドのみは、タブラからの勧めによって、モモンガの後ろで立っている。つまりは、パンドラズ・アクターと並んで立っているのだ。

 

「え、え~……昨日は、茶釜さんとペロロンチーノさんが帰還したことで、それ一色でして。他のことは、あまり話せませんでした」

 

 背後から感じる、妙な闘争の気配。それを感じながら、モモンガは司会を務めている。

 この朝、皆を集めたのは、先日は話せなかった現状報告や、今後の予定について話し合うためだ。多少は重複することがあっても再確認ができるので、かまわないだろうと判断している。

 まず、ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』としての活動方針。

 これはナザリック地下大墳墓の維持費を安定供給するべく、支配域を増やしていくのが主軸である。異世界転移後のモモンガ達は、ノリで世界征服などと言ったが、デミウルゴスが大真面目に対応し、精力的に活動していた。

 

「直近で聞いた話では、王国の支配がほぼ完了しているとのことで……レエブン侯なる者が、ナザリックに来るのだったか?」

 

 モモンガが視線を動かす。そこはギルメンのウルベルト・アレイン・オードルの席であるが、その後ろにデミウルゴスが立っていた。

 

「はい、モモンガ様。早ければ三日後、この地に訪れる予定です。……正確には、カルネ村を経由し、ナザリック出張所から転移してくることになるでしょう」

 

 ナザリック出張所とは、当初は空き家を借りて戦闘メイド(プレアデス)のユリ・アルファを常駐させていたものだ。現在では、カルネ村から少し離れたトブの大森林にグリーンシークレットハウスを設置し、そこでユリを常駐させている。

 

「……確か、森のグリーンシークレットハウスには、スレイン法国の陽光聖典隊員が居るのではなかったか?」

 

「はい。現在、交代及び連絡のため、隊員の入れ替え中でして。滞在しているのは二名です」

 

 デミウルゴスからは、レエブン侯に数日遅れる形で法国からも訪問団が来る……との追加報告がされている。

 つまり、王国と法国から、それぞれ偉い人がやってくるのだ。

 前にも聞いて胃を痛めたことだが、モモンガとしては、自分には荷が重すぎるという意識が強い。タブラが同席してくれるそうなので、そこが救いではあるのだが……。

 

「そう言えば、タブラさんはクレマンティーヌやロンデスから、この世界の情報を聞き取りしてるんでしたか?」

 

「ええ、クレマンティーヌが居てくれて助かります。彼女、法国の最強特殊部隊の一員だったそうですから、知ってることが多いんですよね~。あと、一般常識的な話だと、ロンデスが居るのも大きいかな。彼、クレマンティーヌが語り漏らしたところを補完してくれますし……」

 

「ほほう……」

 

 タブラに二人を預けていたが、なかなかの成果が出ているようだ。モモンガは感心したが、タブラに任せていた件については、もう一つある。

 

「タブラさん。巻物(スクロール)の素材についても調べて貰ってましたが、どうです? 良いのが見つかりました?」

 

「それなんですけどね~」

 

 途端にタブラの語りが鈍くなる。いったい、どうしたのだろうか。普段であれば、聞きもしない余談を交えて喋り倒すというのに……。モモンガや他のギルメン達は顔を見合わせたが、やがてタブラが報告を再開した。

 

「いえ、実はですね。アウラ達の協力を得て、トブの大森林に棲息するモンスターの皮などを試していたんですが……」

 

 どうも巻物(スクロール)素材としては良くないらしい。良くて第一位階の魔法を封入できるかどうかなのだ。もっと時間を掛けて素材を集めれば、もう一つか二つ、封入位階が上昇するのではないか。そうタブラは睨んでいたのだが、ここで新たな展開が訪れる。

 

「デミウルゴスが、使ってみてはどうか……ということで、持ち込んだ革がありまして。それを使った上で、私が個人所有する巻物製作アイテムを併用すると、現時点で第三位階の魔法を封入できたんです」

 

「ほう! それは素晴らしい!」

 

 モモンガは、骸骨の顔では表現できないだろうな~……と思いつつ、顔をほころばせた。

 この転移後世界は、魔法の位階が貧弱だ。人類最強と呼ばれる魔法詠唱者(マジックキャスター)でも第六位階まで、様々な高級資材や大人数を動員して、やっと第七位階が使用できると言ったところか。

 そんな世界だからこそ、第三位階の巻物などは高く売れるだろう。研究が進めば封入出来る位階も上昇するかもしれないし、革の調達が容易になれば量産も期待できる。実に夢の多い話だ。

 必然、モモンガの興味はデミウルゴスが供出したという革に向かう。

 

「それで? デミウルゴスが持ってきたという革。それは何の皮なんです?」

 

「人間の皮」

 

 極短く、何の感情も含ませずにタブラが言うと、円卓の間は静まりかえった。その状態は数秒程続いたが、司会のモモンガが咳払いしつつ確認を行う。

 

「に、人間の皮……ですか。いや、異形種化してて良かったです。人間に同族意識とかないですからね。とは言え……どうやって調達した革なんですかね?」

 

 この質問にタブラは答えず、デミウルゴスに解説役を投げた。あまり話したくないらしい。

 

「ナザリック周辺の街道は常に監視下にあります。通行人狙いで潜んでいた野盗を捕獲しまして、皮を採取した次第にございます」

 

 一礼し、胸に手を当てて説明するデミウルゴスは、実に嬉しそうだ。最後に「皮を採取するための専用施設などがあれば、もっと効率は良くなるのですが」などと言うものだから、壁際で戦闘メイド(プレアデス)と共に立つセバスからの視線が、実にキツいものとなっている。

 さて、現状、最も効率の良い巻物(スクロール)の素材が人間の皮だと判明したわけだが、これをどうすべきか……モモンガ達は悩んだ。

 

「俺としては……」

 

 モモンガは率先して思うところを述べる。会議の場が固まったのだから、そこを動かすのは司会の役目だからだ。

 

「人間の皮であっても、皮は皮。そう思います。それが素材として良好であるのなら、積極的に使っていくべきでしょう」

 

 その瞬間、デミウルゴスの尾の先がヒョコリと持ち上がる。どうやら、自分が持ち込んだ人間の革について、モモンガが肯定的なのが嬉しかったらしい。しかし、そのデミウルゴスの歓喜も、続くモモンガの言葉を聞くことで沈下する。 

 

「とは言え、問題は会話可能な生物の皮という点です。対応を誤れば、後から来るであろうギルメンの心証が悪いものとなるでしょう。怒るのは、たっちさんや……やまいこさんでしょうが……。というより、これ……無差別採取なんかしたら、ウルベルトさんも怒りますよね?」 

 

 伺い気味にモモンガが言うと、ギルメン達は皆が頷いた。中でも建御雷が挙手し、モモンガの許可を得てから発言している。

 

「モモンガさんの言うとおりだ。ウルベルトさんは悪に拘ってたが、猟奇殺人は好みじゃない。あの人のは何て言うか、事を正すにあたってルールに拘らない。後悔しない……後悔しない方向で自分を通すとか、そういうのだしな」

 

 この意見に関しても、ギルメン達は頷くことで同意した。モモンガも同意しているが、視界の端で大きくしょげているデミウルゴスが気の毒でならない。

 

(創造主の意に反しそうな事をしてたわけだからな~。まあ、大事に到る前……と言うか、ウルベルトさんが来る前で良かったじゃないか)

 

 その後、タブラから一つの案が提示される。

 現状、巻物(スクロール)素材として、最も効率良い素材が人間の皮なのだから、それを安定供給できるようにするべきだ。それも、ギルメンら……特に、たっち・みーなどが納得する方向で……。

 

「その辺に配慮しつつ、新鮮な死体か、死体にしていい人間を調達すればいいんですよ」

 

「そんな方法があるんですか? タブラさん?」

 

 テーブル上で身を乗り出すようにしているペロロンチーノに、タブラは頷いて見せる。そして、ウルベルトの席の後ろで肩を落としているデミウルゴスに声をかけた。

 

「デミウルゴス。君は王国の支配を進めているそうだが?」

 

「は、はい。そのとおりでございます……タブラ様」

 

「じゃあ、死刑確定した罪人……死刑囚だね。これを引き取ることは可能だろうか? 法的に譲渡するとまではいかなくて良いんだ。例えば……王都や都市から人目に付かない程度に離れて、街道外で解放する。あるいは捨てると言った具合にだ……」

 

「なるほど……」

 

 デミウルゴスは、タブラが言いたいことを読み取ったらしい。モモンガとしても、死刑囚の身体から採取できるのなら、たっち・みーらも、それほど難色は示さないだろうとは思う。気になるのは、この程度の案が知恵者であるデミウルゴスに思いつけなかったこと。

 

(考えてみたら、人間に対して乱暴狼藉を働く……について、デミウルゴスは配慮とかしそうにないよな……)

 

 元より考えもしないのだから、思いつけなくて当然というわけだ。しかし、気づいた以上、デミウルゴスは理解が早い。

 

「街道外に放置された死刑囚を、我らが回収し、皮の採取を行うわけですね!」

 

「そのとおり。ただ、さっきから私達が言っているように、後から来るギルメンに対する配慮は必要だ。死刑囚を厚く遇する必要はないが、非道に過ぎる扱いは、これも無しとしよう」

 

 この後、必要なアイテムをデミウルゴスに貸し出しし、捕獲した死刑囚に関しては石化処置を施す。その後は、必要に応じ解呪して皮を採取すること。採取するにあたっては可能な限り苦痛を排することとした。第五階層の氷河で氷漬けにして保管する案も出たが、いちいち解凍するのはコスト的に問題があるとして却下されている。

 

「肝心の、死刑囚を街道外に放置する件については……大丈夫なのかな?」

 

「勿論です、タブラ様。死刑囚を、死刑執行後に墓地へ埋葬する事については、元より人間の間で批判的意見がありまして。そこを利用しようかと……」

 

 要するに、モンスターに捕食させて始末させようという発想だ。それはそれで、えげつないが、捨てたモノを拾うのだからナザリック側の手が汚れるわけではない。モモンガとしては「そうか?」と思う部分もあるが、他に代案を思い浮かべられないので、敢えて発言することはなかった。

 

「そんなところだねぇ。それで、たっちさん達が難色を示すようなら、他の手を考えようじゃないか」 

 

 そうタブラが言い、モモンガや他のギルメンらが頷いたことで方針は決定される。街道外で捨てられる死刑囚を回収し、第三位階魔法に耐えられる巻物(スクロール)を量産するのだ。皮に余裕があれば、より上位の魔法封入を試みる実験も行う。それら詳細についても話し合われると、次は冒険者チーム漆黒としての各班長達が、現状報告を行うこととなった。

 まず、モモンガ班だが、勧誘に成功したカジットは一先ずタブラに預け、巻物(スクロール)開発の助手とする。彼の母親の蘇生については、カジットの覚悟が決まったところで実験の一環として行う予定だ。エ・ランテル共同墓地にはカジットの弟子数名が残留しているが、彼らについては現地でカジットの配下を続けさせることにした。

 

「あれ? エ・ランテルの共同墓地で、カジットの一団を始末して功績や名声の足しにする作戦。あれは、どうなったんです?」

 

 挙手しつつ聞いてくる弐式に、モモンガは一瞬苦笑したが、そのまま説明を続けた。

 せっかく悪そうなことを企んでくれていたのだから、利用しない手はない。元からのカジットの計画に手を加え、墓地内でアンデッドを大量発生させるのだ。 

 

「それを漆黒のメンバーで駆除して、名声を稼ぐんですよ、勿論、墓地から外へは出さないように命令しますけど」

 

 得意げに語るモモンガに、今度はヘロヘロが「でも、何だかマッチポンプですよね~」と指摘する。勿論、これはマッチポンプだ。だが、マッチポンプの何が悪いのか。墓地内でアンデッドが発生するのは日常茶飯事で、外壁や門で封鎖されているし、冒険者が巡回したりもする。そこに普段より多くのアンデッドが出現し、モモンガ達が倒すだけなのである。

 

「なぁに、バレなきゃ良いんですよ。アンデッドの中には、普段どおり発生したアンデッドも混じってるんですから、冒険者による駆除活動には違いありません」

 

 シレッと言い放つモモンガであったが、この件については考慮すべき点があった。冒険者チーム漆黒の、誰をアンデッド討伐に向かわせるかである。

 現状、王国のエ・ランテルで滞在している……という事になっている漆黒メンバーは、モモン(モモンガ)ブリジット(アルベド)の二名だ。弐式班はバハルス帝国の帝都、ヘイグ(ヘロヘロ)班は、王国の王都で居ることになっている。<転移門(ゲート)>を使えば全班集結は可能だが、世間的には妙な目で見られることだろう。

 

「俺とタブラさんが冒険者登録ってのをして、増員しようか?」

 

 そう建御雷が言うと、タブラも頷いたが、モモンガとしては思い出したことがあった。建御雷とタブラの二人は、トブの大森林でリザードマンの集落を見に行くと言っていたのではないだろうか。あの件は、どうなったのだろうか。

 

(さっきの報告では話してなかったようだけど……)

 

 一応、モモンガが確認すると、タブラ達は顔を見合わせてから気まずそうにモモンガをチラ見する。

 

「すまねぇ、モモンガさん。忘れてたわ」

 

巻物(スクロール)の開発に研究。……あと、映画鑑賞がね~……」

 

 それぞれ、頭を掻いたり下げたりしているが、タブラに関しては趣味に時間を割いたのも大きいらしい。いや、完全に忘れていた建御雷も大いに問題なのだが。

 そもそも、モモンガ達が今手がけているのは、それぞれ思いつきや相談の結果による行動なので、厳密には勤務や職務ではない。よって、特に気合いを入れて取り組むという意識がギルメンにないのだ。

 しかし、締めるところは締めた方が良いのかもしれない。

 

(ナザリックの各所に、ギルメンや階層守護者の行動予定を書く掲示板……とか設置した方が良いのか? それも書き込みデータが連動して同じ表示が出るやつ)

 

 パソコンで言う共有フォルダに、社員の予定表を書くための……表計算ソフトで作ったカレンダーファイルを置くようなものだ。各ギルメンはアルベドないし、彼女の代理を務める者に予定ができた都度報告し、予定掲示板へ記載させるのである。

 これなら、誰が何をしているか把握できるし、自分自身の予定忘れも減ることだろう。

 しかし、タブラと建御雷が自分の行動予定を忘れていたと聞いた、まさにその場で提案するのもどうなのか。

 

「と言った感じで……どうでしょう?」

 

 モモンガが、怖ず怖ずと提案したところ……ギルメン達は皆が掲示板設置に同意している。

 堅苦しいのは御免だが、掲示板なんかは有れば便利。そういった感覚らしい。

 なお、エ・ランテルでのアンデッド大量発生事件……もといナザリック主催イベントについて、参加するのはモモンガ班だけとなった。それで良いのか……と、モモンガはギルメンらに念押ししたのだが、デート中なんだから二人で頑張ってきて……との反応だった。言われたモモンガは言葉に詰まったが、後ろで立つアルベドは頬をほんのり赤く染めて俯いてしまう。その彼女の隣に居るパンドラズ・アクターは、満足気に何度も頷いているが、こちらに関してモモンガは……。

 

(こんにゃろう……)

 

 と思っていた。しかし、ここ最近では、パンドラズ・アクターにも可愛げを感じてきたところなので、「まあ、いいか……」とも思っている。

 ギルメンらが居る中で一緒に風呂にも入ったし、それなりに恥ずかしい感覚も薄れた……はずだ。ならば、そのうち一緒に外へ出てもいいだろう。モモンガも製作NPCを持つ身なのだから、誰かに見せびらかしたい気持ちはあるのだ。

 

(ドッペルゲンガーなんだから、自力で人間に偽装させて……。コスチュームを色違いか、もう少し弄って……。そうだ、大昔のドイツ軍歩兵っぽくしてみてはどうだろう? マシンガンとか、あと何だっけ? パン、パンツァー・ファウスト? そういうのを持たせて、柄付きの手榴弾とか投げさせるんだよ! さ、最高すぎる! 銃火器なんかは魔法アイテムです……とか言い張っちゃえ!)

 

 妄想がはかどるが、今は会議中。他の議題や報告を済まさなければならない。

 モモンガ班の次は、ヘロヘロ班だ。ヘロヘロ班は現在、リ・エスティーゼ王国の王都に到着して間もないが、店舗を確保したりと事前の予定は、順調に進捗しているようだ。とは言え、問題は発生したようで……。

 ギルメン席に座ったヘロヘロが、触腕風に粘体の一部を伸ばし、頭頂部を掻くような仕草をする。

 

「地理把握のために行動していたセバスが、現地で女の人を拾ってきまして……。ツアレという名前だそうですが……」

 

 瞬間、壁際で立つセバスには、円卓の間に居た全員の視線が集中した。

 NPC達の視線に込められた感情は、ほとんどが同じである。

 

「お前、ヘロヘロ様に迷惑かけたのか!?」

 

 というもので、最初の一瞬は驚愕が、その次には殺意が込められていた。

 一方で、モモンガを始めとしたギルメン達の表情は明るい。

 

「いや~、<伝言(メッセージ)>で聞いてましたけど。セバスもやるものですね」

 

「ペロロンさん……。セバスは怪我人を保護しただけでしょ? でも、たっちさんがやりそうな事で、ほっこりしますよね~」

 

 ペロロンチーノと弐式が騒いでいるが、その他はモモンガを始めとして、特にセバスを責める声が挙がらない。居合わせたNPC達は、この様子にも驚いているようだ。

 

「ね、ねえ? マーレ? ヘロヘロ様も、弐式炎雷様も、怒っていないみたい?」

 

「う、うん……。そう……見えるけど?」

 

 戸惑いがNPCの間で広がっていく。続けてセバスが、ツアレを拾った結果、現地のヤクザ組織と揉めたことについて報告すると、またもやNPC達に殺気が宿るが、やはりモモンガ達は怒る気配を見せなかった。

 

「そのゼロって人が、問題のヤクザ組織の幹部だったとか……。なんとまあ、イベントが繋がってる感じで……。ヘロヘロさん、楽しそうじゃねーか」

 

「建御雷さんの言うとおりだわ。私も、また外に出てみた~い!」

 

 建御雷が羨ましそうに言い、それに同調した茶釜が、ぬるびちゃあ! っと身を震わせる。このことで建御雷背後のコキュートスと、茶釜背後のアウラにマーレが三人で顔を見合わせ戸惑っているのだが、建御雷達は気づいていない。

 

「それで~、モモンガさん。俺的にはセバスの拾った女の人をですね……ああ、今はカルネ村出張所の客間で寝かせてるんですけど。彼女をナザリックで引き取れたらな~……って思うんですよ~」

 

 このヘロヘロの申し出に、ほんの一瞬だが円卓の間がざわめいた。「え?」や「本当でありんすか!?」といった声は、主にNPC達から挙がったが、提案を受けたモモンガはその骸骨顔をククッと傾ける。

 

「ん~……すでに、クレマンティーヌにロンデス。ブレインにカジット。現地の人間を何人か雇ってますが、彼らは現地人の中でも有能な部類です。そのツアレという女性は、何かこう……特技とかが有るんですか? 俺としては、引き取るにあたってメリットとか有ればなぁ……と思うんですけど?」

 

 引き取るための条件を付けつつ、モモンガは更に「困ってるから手助けする……は良いとして。その都度拾ってきたら、ナザリックが現地人で溢れてしまいますよ。ロンデスとかを雇った俺が言うことじゃないかもですけど……」と付け加える。

 難色を示すモモンガであったが、カルネ村に住まわせればいいんじゃないかと思っているので、そこまでツアレに対して否定的ではない。ヘロヘロが何か言ってくれて、その辺で落としどころになるかどうか探っているのだ。

 

「特技……ですか。特殊技能(スキル)じゃなくて何か……ありましたっけ? セバス?」

 

「はっ! 恐れながら……」

 

 一礼したセバスは、とある空席を一瞥する。そこは、未だ帰還を果たしていない彼の創造主、たっち・みーの席だ。

 

(たっち・みー様……)

 

 王都の路地裏で捨てられたツアレ……彼女の口から『助けて』という言葉を聞いたあの時。彼女を守るために取った行動は、たっち・みーの行動理念『困った人を助けるのは当たり前』から逸脱したものではないとセバスは考える。

 モモンガが言うとおり、手助けするだけならともかく、連れ帰ってしまったのは問題だろうが……ならばこそ、軽々に見捨てる気はセバスにはなかった。幸いなことにヘロヘロはツアレに対して同情的だし、モモンガも、そこまで強く反対しているわけではない。

 

「ツアレから聞きますに、彼女は家庭料理が得意なようでして。ナザリックの食堂にバリエーションが加わるやも……と考えた次第にございます」

 

 ナザリックに対するメリットとしては弱いかもしれない。しかし、話の流れから察するに、何かしらメリットを挙げればモモンガは納得するような雰囲気だ。これで、上手くいく……話がまとまる。そう、円卓の間に居る多くの者が思った、その時……。

 一つの手が挙げられた。

 それは、たっち・みーと同じく空席となっている、ウルベルト・アレイン・オードルの席……その後ろで立つデミウルゴスの手だ。

 

「セバス……栄えあるナザリックの食堂で、家庭料理とは……如何なものかと。そう、私は思うんですけどねぇ」

 

「デミウルゴス様。今、私に質問をされているのはモモンガ様でして、私は、それに答えたに過ぎません」

 

 家庭料理は如何なものかと聞かれ、モモンガに聞かれたので返事したまでだ……と返すセバス。いつになく攻撃的であり、デミウルゴスの笑みが一瞬ひくつくが、そのデミウルゴスは「私だって、モモンガ様に発言を許可されているのだよ」と反撃した。

 そう、発言の許可は下りている。

 挙げられたデミウルゴスの手と彼の視線に対し、モモンガが思わず頷いてしまったのだ。

 

(ううっ……)

 

 始まってしまった口論に、かつての記憶が甦る。

 セバス達の創造主、たっち・みーとウルベルトも、こうして些細なことで口論をしていたものだ。当時は胃の痛い思いをさせられたが……。

 

(……って、あれ?)

 

 こうして思い出す分には、中々に懐かしく感じてしまう。見ればギルメン達も「たっちさん達を思い出すよね? 姉ちゃん」や「あれで、クエストへの出発が遅れたことがあるのよね~」といった様子で、良いものを見せられている気分になっているようだ。 

 

(フフッ。やはり、NPCはギルメン達の子供ということか……。……俺のパンドラもな……)

 

 肩越しにチラリと振り返ったモモンガは、軽く肩をすくめ、咳払いによってセバス達の口論を止める。

 

「お前達、いい加減にしろ。ともかく、そのツアレという女を連れて来い。今は、カルネ村だったか? ペロロンチーノさん? シャルティアに<転移門(ゲート)>で連れてきて貰っても?」

 

 ペロロンチーノに、シャルティアを使って良いかと確認したところ、「全然、オッケーっす!」と快諾を得られた。セバスにも確認したところ、「すでにソリュシャンによって、一切合切が治癒されたとの報告が上がっておりますれば。ここに呼んでも差し支えないかと……」とツアレ自身の状態についても問題がないとのことだ。モモンガは頷き、シャルティアに目を向けたが……その前に、人化して挙手している茶釜に目が止まる。

 

「茶釜さん?」

 

「人間の女の人を呼びに行くんでしょ? 私が一緒に行くわよ。怖がらせちゃいけないし……。それに、モモンガさん達も人化しておいて。異形種の姿だと、卒倒しちゃうかもしれないから」

 

 正論だ。

 ギルメン間から同調する声が挙がり、モモンガも茶釜の意見に同意したので、この場に居るギルメンらは一斉に人化を行った。

 

「じゃあ、行ってくるわね~」

 

 シャルティアによって構築された<転移門(ゲート)>の暗黒環に茶釜が消えると、モモンガ達は肩の力を抜いて語り合う。

 

「俺、スルトとか倒しに行こうって揉めてたときのことを思い出しましたよ」

 

「モモンガさんもですか? 俺は、エロ系の女性型モンスターを狩りに行きたいとか言って、姉ちゃんに叱られましたっけね~」

 

 ペロロンチーノが<転移門(ゲート)>の暗黒環を見つめながら言う。叱られた記憶ではあるのだが、それでも何処か懐かしそうだ。

 茶釜が戻るまでの間、皆でワイワイと、たっち・みーとウルベルトについて語り合う。それを聞くNPC……例えば、アウラやマーレなどは『至高の御方』の話題に目を輝かせていた。一方で、話題のギルメンの製作NPCであるセバスとデミウルゴスは、それぞれの創造主の話題を喜びと共に聞き入り、同時に二人が喧嘩していたエピソードについて、何となく気まずさを感じている。

 そんな中で、暗黒環から茶釜が戻って来た。今の茶釜は重装の女戦士風だが、その彼女に手を引かれて出てきた金髪の女性……ツアレは、その身体をメイド服に包んでいる。

 

「ヘロヘロさん?」

 

「俺は着せてませんよ? 基本的にセバスやソリュシャンに任せてましたしね」

 

 問うモモンガに対し、武道家姿のヘロヘロは顔前でパタパタと手の平を振った。代わって答えたのは茶釜だ。

 

「ちょっとした寝間着を着てるだけだったしね。何か着せられる物を……って探したんだけど、運び込んであった荷物からメイド服を見つけたのよ。そんなわけで、ヘロヘロさん? 一着拝借したから」

 

「かまいませんよ~。元々、従業員用に用意した物ですしね~」

 

 気前よく返事をするヘロヘロだが、その彼には「あんた、武器防具店の従業員にメイド服を着せる気だったのか!?」というギルメンの視線が突き刺さる。少なくとも、現地人を雇い入れるにしても女性限定のつもりでいたのは明白で、これにはさすがのペロロンチーノも引いている。

 

「くっ。ヘロヘロさんに一歩先を行かれた感じだ~……」

 

 訂正しなければならない。引いていたのではなく羨ましがっていたのだ。

 さて、円卓の間に連れ込まれた人間女性、ツアレであるが、席に着いている人物らはともかくとして、壁際で立つ者の中の……コキュートスを見て大いに怯えている。一見して人間でないと見てとれる者は、他にアルベドやパンドラズ・アクターなどが居た。だが、コキュートスの見た目の方が、ツアレにとってはインパクトが強かったらしい。

 

「あっ……」

 

 漏れ出た声、それは武人建御雷のものだ。自分達が人化することに気が向いていて、つい背後のコキュートスのことを忘れていたのである。これはモモンガ達も同様で、一瞬、言葉を無くしたが……そこに茶釜の容赦ない言葉が降りかかった。

 

「あんた達、何やってんの?」

 

「ぐっ……」

 

 反論の余地がなくモモンガ達は押し黙ったが、そんな彼らを無視して茶釜はツアレに向き直った。

 

「怖がらせて、ごめんなさいね~。まあアレよ、置物だと思って気にしないで……」

 

「は、はい……」

 

 まだ少し怯えている様子であったが、茶釜に手を引かれて彼女の席の近くへ移動していく。その間、コキュートスの「置物……」という呟きがあり、これを聞いた茶釜は「後で謝っておかなくちゃ……」と内心舌を出していた。

 そうして、茶釜の席の後ろでアウラとマーレ……茶釜の右肩側なので、アウラの隣にツアレが立ったのだが、モモンガが何か言う前に弐式が身を乗り出す。

 

「あれ? この女の人、何処かで見たような気がしますけど?」

 

「え? 何よ、弐式さん? 同じ部屋にナーベラルが居るってのにナンパ?」

 

「違ぇって! 人聞き悪いですよ、茶釜さん! 本当に見たことが……って、ああ、そうか! モモンガさん!」

 

「はい?」

 

 突然、名を呼ばれたモモンガは間の抜けた声を出したが、続く弐式の言葉を聞いて少なからず驚くことになる。

 

「漆黒の剣のニニャちゃんに似てるんですよ! ひょっとしたら話に聞いてた、お姉さんじゃないですか!?」

 

「え? ええええ!? そうなんですか!?」

 

 思わず席を立ったモモンガであるが精神の安定化が……人化しているために発生しない。ドキつく胸を異形種化することで解消したかったが、さすがに一人だけ異形の姿をさらすのもどうかと思ったので、モモンガは根性で耐えている。   

 

「み、見間違いとか?」

 

「俺の忍者特殊技能(スキル)……と言うか、探索特殊技能(スキル)を舐めて貰っちゃあ困ります。一度見た人物の顔は、脳内データベースに入ってますから。今、頭の中で見比べてるんですけど、そっくりですよ! 顔立ちが!」

 

 力説する弐式に、「マジですか……」と返したモモンガは、改めてツアレの顔を見た。初対面の女性の顔を覗き込むのはどうかと思ったし、茶釜に叱られるかと思ったが、茶釜は茶釜で、一連の会話から事情を読み取ったのか何も言わない。

 

(言われてみると、目の感じとか似てるのか……)

 

 ならば、ここは漆黒の剣のニニャに連絡を取って、姉の発見を告げるべきだろう。いや、確証は無いので、姉らしき人を発見したと告げるべきだ。

 

「やれやれ……」

 

 モモンガは一息吐いてから頭を掻く。

 妙なところで思わぬ縁が繋がったものだ。しかし、生死不明の身内が無事だとしたら、これはめでたい事なのだろう。

 自分のことを慕ってくれている少女魔法詠唱者(マジックキャスター)。その喜ぶ姿が脳裏に浮かび、モモンガは「悪くない気分だな」と呟くのだった。




17日の月曜に仕事上のイベント目白押しで試練が多いので
土日で気合いを入れて書いたのだ。
無事に切り抜けられますように……。

<捏造ポイント>
弐式は探索特殊技能(スキル)で人の顔を覚えられる。

<誤字報告>
冥﨑梓さん、佐藤東沙さん、憲彦さん、化蛇さん

いつもありがとうございます~。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。