オーバーロード ~集う至高の御方~   作:辰の巣はせが

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第50話

 ごきげんよう諸君。

 私の名は、ニグン・グリッド・ルーイン。

 スレイン法国特殊工作部隊、陽光聖典の隊長だ。

 本日は、神官長会議で決定した、『魔法詠唱者(マジックキャスター)アインズ・ウール・ゴウンとの友好的接触』を目的とし、リ・エスティーゼ王国のカルネ村へと出向いている。と言っても、派遣隊……訪問団の長を務めるのは私ではない。

 驚くなかれ、六色聖典の取り纏め役にして、土の神官長……レイモン・ザーグ・ローランサン様だ。レイモン様は元漆黒聖典隊員だから、実働隊員としての従事経験は当然あるだろうが、神官長取り纏め役の陣頭指揮など聞いたことがない……。まったくもって驚きだ。驚くと言えば、本国を出発する際、私もレイモン様の指揮下に入るよう言われている。理由を聞くと、派遣される訪問団は漆黒聖典主体となるが、その人数が足りないので部下を連れて同行せよとの仰せだった。

 人数が足りない? はて? 

 漆黒聖典の構成員は、陽光聖典ほど数が多くないが、それでも一騎当千の猛者が全部で十二人は居たはずだ。ああ、例のクレマンティーヌは脱走したらしいが、補充で一人入ったらしい。それら全員で行けば良いではないか……。なぜ陽光聖典隊長の私が、よその隊のオマケとして同行しなければならんのだ……。

 ……。

 ……ゴウン殿らの容姿を知ってるからだな……。とほほ……。

 そして、出発当日の朝。集合地に赴いた私は、そこで一人の少女を見る。

 白黒の頭髪で中々に見目麗しいが……彼女が噂に聞いた番外席次らしい。異名は確か、絶死絶命だったか……。あの神人であり、途轍もなく強い漆黒聖典隊長を完膚なきまでに叩きのめしたという。とにかく、私の想像を超える怪物少女だ。漆黒聖典隊員の中で比較的気さくな巨盾万壁……セドラン殿に話を聞いたところ、番外席次の同行は、レイモン様が強引にねじ込んだらしい。それ以前に、レイモン様による陣頭指揮、これもまたレイモン様の強い意向だとか……。

 ただ、番外席次を外に出すのは、神官長会議でかなり揉めたらしく、本国の護りが手薄になる他、『重大な危機』を招きかねないとの懸念もあったようだ。だが、レイモン殿が「万難を排すべく彼女が必要である!」と押し切り、やむなく彼女を出す代わりに、漆黒聖典からの派遣人員を絞ることになったとのこと……。

 妙だな。私が知るレイモン様は、もっと沈着冷静で、自分の意思を通すにあたっては根回し等、事前の準備を怠らない方だったように思うが……。焦っておられるのだろうか?

 それに、番外席次一人と、今回同行しない漆黒聖典隊員十人近く。それが戦力として釣り合うかどうかも気になるが……そこは、陽光聖典所属の私には関知しかねるところだ。

 しかし、なるほど……それで漆黒聖典の派遣にも拘らず、隊長とセドラン殿、それに番外席次の三人しか居ないのだな。私と二名の陽光聖典隊員は、まさに人数合わせか。

 ああ、いや、ゴウン殿の面通しの役目があるのだった……。

 ……む? 遅れて一人来た? あれは……カイレ様か? げぇ!? ケイ・セケ・コゥク!? しかも着用しているだと!? カイレ様は高齢の女性で、こう言ってはなんだが『若き美貌』というものが消え去って久しい御方だ。そのカイレ様が、か、躰の線が出て、かつ太股もあらわな衣服を着用すると……ぐふう! し、視覚的な破壊力が……。いや、言うまい。目を逸らせば大丈夫だ。ともかくケイ・セケ・コゥクの話だな。あれこそは法国にあって最重要の秘宝、神のごとき力を持つ驚天動地、超絶無比の……いかん、自分で何を言ってるか解らなくなってきた。先程、眼球に注入された精神的打撃が、脳に回ったのかもしれん。よ、要するに、凄まじく強力なマジックアイテムなのだ。効果は精神支配……だったな。それを持ち出して、どうするつもりなのだ? まさか、ゴウン殿に使うつもりなのか? いかん! それはマズいぞ! 相手は二人以上なのに一人精神支配したところで……あ、同士討ちさせれば良いのか……。

 それなら……。

 ……っ!。

 だああああああっ! 駄目だ駄目だ!

 最低でも三人居るんだから、一人支配したぐらいじゃ押し負けるではないか!

 レイモン様に確認したところ、「(なんじ)が報告したのであろう? 相手は『ぷれいやー様』かもしれないと。それが確実ならば友好に接するまでだし、そうでないとしたら、『ぷれいやー様』だと錯覚するほどの強者でしかないということだ。つまり、敬う対象ではなく討伐対象だな。ならば、強者に見合った用意をして何が悪い?」とのことだった。

 理屈は通っている気がするが、相手人数が多いことに対する解決策がない気がするのです。土の神官長様……。

 ……やはり焦っておられるのか。もう駄目かもしれない。

 いや! これは我らを鼓舞するために『強気』を演じているのだろう。現地に到着したら、現実を見据えた案を述べてくれるはず! きっとそうだ。そうに違いない! 

 ……そうであって欲しい……。

 そして本国を出発、カルネ村を目指した私達……訪問団だが……。

 道中、様々なモンスターに遭遇したものの、ほとんど漆黒聖典隊長……ええい、もう隊長で良いか……その隊長が一人で倒していた。多数が相手の時は手助けしようとしたが、私と陽光聖典隊員で数体倒す間に、彼は数十体倒している。ありえるか? ここまで差があるのか……。隊長は「第五席次が同行できていたら、もっと楽だった」と言うが、第五席次と言えば、クアイエッセ殿か。ギガントバジリスク等の強力個体を十体も操るんだったな。

 ……もう、私達なんて必要ないんじゃないかな……。

 いや、ゴウン殿の顔を知ってるのは私だけで……と、これはさっき言ったか……。

 ……。

 ……。

 ……。

 ついて来るんじゃなかった。拒否権など存在しないのだが、本当に心の底から同行を拒絶するべきだった。たとえ受け入れられずとも、その時に「嫌だ」と言った事実は、自分にとって心の慰めになるからだ。

 え? さっきの今で何があったのか?

 実は、もうすぐカルネ村に到着するのだが、レイモン様が……とんでもないことを言いだした。「ゴウンと会って、『ぷれいやー様』でなければ即座に捕縛する」とのこと。

 いやいやいやいや! それ、出発時にも聞きましたけど、本気だったんですか!? 

 レイモン様、私の話……いや報告を聞いてましたよね? ゴウン殿は、第七位階魔法を使うんですよ? 忍者のニシキ殿や、モンクらしき方も、そのゴウン殿と同格の強者だと見積もれば……勝てるわけないじゃないですか! そもそも訪問団の派遣目的は『友好的接触』ですよね? それがどうして捕縛という話になるんです? 

 どどど、どうどうどう、落ち着いて、落ち着いて考え直しましょう。ね?

 ……駄目だった。「ゴウンに負けて、敗北主義に成り下がったのか?」とか、皆の前で言われてしまった。皆の前でだぞ? それって部下を指導するやり方として、どうなんだろう。私は、これでも陽光聖典隊長なのに……。こんな事なら無理を言って風の神官長、ドミニク様にも同行して貰うのだった。私が言うのも何だが、ドミニク様はドミニク様で酷薄なところはある。しかし、今のレイモン様よりは現実が見えているはずだ。きっと上手くレイモン様を諫めてくれたことだろう。でも、ああ、もう駄目だ。この場には、レイモン様を止められる人間は居ない。カイレ様ならあるいは……と思ったが、それとなく相談したら、頭の中は『ぷれいやー様』に会うことで一杯。しかも、「『ぷれいやー様』でなかったら、その場で支配下に置いてやる」と鼻息の荒いこと、この上なかった。

 ……貴女(あなた)もか……。

 嗚呼、帰りたい……本国へ帰りたい……。

 今は悪い夢を見ているだけで、目を覚ませば、そこは本国の陽光聖典詰所。私は仮眠室で横になってるだけだったとか……。

 唇が笑みの形でひくつくのを感じつつ、頬をつねってみたが……しっかりと痛かった……。

 そうして夜の頃にカルネ村へ到着したのだが、なんと、ゴウン殿とニシキ殿が村の入口付近で出迎えてくれている。ゴウン殿の話では、ナザリック地下大墳墓の主人的な立ち位置らしいが、随分と腰が軽い。それほど、法国を重要視しているという事なのだろうか。従者として重甲冑の……そうだ、あの滅法強かったアルベドという女性。もう一人は赤毛褐色肌のメイドが居る。ゴウン殿達からは、相変わらず強さを感じないが、従者達からは、そこはかとなく強さを感じる。……わかってるとも、あれは擬態だ。おそらく従属神のアルベド殿は、途轍もなく強かったではないか。きっと何かしらのアイテムか魔法で、溢れる強さを隠しているに違いない。私は、ゴウン殿達の強さを知っているから、この『強者感の無さ』の不自然さを感じ取れるのだ。うむ、我が隊員二名も途惑っているようだな。先のカルネ村襲撃時……ガゼフ討伐作戦時の参加隊員だけあって理解できるのだろう。

 では、肝心のレイモン様は……どうだろうか?

 ……駄目だな。ゴウン殿達を見る目が、完全に獲物を発見した狩人だ。あなた、聖職者で神官長でしょうが……。なんでそんなに攻撃的なんですか。ゴウン殿から強さを感じないから、『ぷれいやー様』じゃないと判断しているのだろうが……。と言うか、私、帰還時の報告で言いましたよね!? ゴウン殿達は、巧妙に力を隠してるって!

 ……これはマズいぞ。どうにかしなければ。……そうだ! 以前のように、ゴウン殿にお願いして第七位階魔法の実演をして貰えば良いではないか! それを提案しようと、私が口を開きかけたとき。レイモン様が声を大にして叫んだ。 

 

「皆の者! 私は見た! そして認識した! この者達は、『ぷれいやー様』にあらず! 何ら強き力も感じないことこそが、その証拠!」

 

 ぬあああああああああああ!? 遅かったぁああああ! 本当に、いきなり捕縛命令ぃぃぃっ!? もうちょっと様子見とかあああああ……。

 あ、ゴウン殿とニシキ殿が顔を見合わせて溜息をついてる!? 駄目だ、終わった……。これ、下手したら法国とか滅ぼされるんじゃなかろうか。それを私は、見ないで済むんだな……。はは、ハハハハ……。

 ……。

 いかん、立ったまま気を失っていたようだ。

 かなり恐ろしい思いをしたような気がするが、どれほど気を失っていたのか……。ちょっとした立ち眩みのようなもので、クラッと来ただけなのかもしれないな。周囲を確認すると、誰も居ない……。そうか、皆、殺されてしまったか……。違う! 皆、平伏しているのだ! 戦闘にはならなかったのか? レイモン様は、どうなったのだ!?

 急速に正気を取り戻していく中で、私が前方に見たもの。

 それはスレイン法国、土の神官長、レイモン・ザーグ・ローランサン様が、地面に頭を擦りつけて土下座している姿。そして、複雑な格子状に縄をかけられ、両手両足を背側で束ねて縛られている……番外席次の姿だった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「皆の者! 私は見た! そして認識した! この者達は、『ぷれいやー様』にあらず! 何ら強き力も感じないことこそが、その証拠!」

 

 そうレイモンが叫ぶや、巨盾万壁セドランがレイモンの前に出て巨大な盾を構え、同じく進み出た隊長がセドランの左脇で粗末な槍を構える。

 この様子をモモンガは……呆気に取られて見ていた。学芸会の下手な芝居を見せられているような気分でもある。

 

(何、この人……。俺が、自分はプレイヤーだって言ってるのに……)

 

 我に返るや、今度は苛立ちが募ってくるが、それもプシューとガス抜きのように萎んでいった。

 

(このパターンは何度か体験したなぁ。探知阻害の指輪のせいか……)

 

 ギルメンなら皆が装備している探知阻害系のアイテムは、ユグドラシルプレイヤーにも通用するアイテムだ。転移後世界にあっては、一〇〇レベルプレイヤーの圧倒的なオーラ、あるいは強者の気配などを完全に隠しきる効果が加わっている。レイモンが「何ら強き力も感じない」と言ったのは、このアイテムを装備したままで、隠蔽効果が継続しているからだ。

 

(ボコボコにして身体で解らせてやってもいいんだけど。それだと、後の話運びが面倒だし……。これまでの段取りが無駄になるのもな~。それにさぁ……)

 

 こちら側のアイテム効果とは言え、それで勘違いして敵対行動に踏み切ったとなると……レイモンの後方で顔面蒼白となり、アワアワと変な踊りを踊っているニグンが可哀想な気がする。

 

(てゆうか何だ、あれ? ハンドサイン? 頑張ってるな~、ニグン。問題は、それが背中を向けてるレイモンに見えてないってことだけどな。……ニグンは喧嘩相手の一員なんだけど、俺達に一定の理解を示してくれてる現地(びと)だしな~)

 

 今のところ、モモンガが知り得た法国関係者と言えば、ニグンを始めとする陽光聖典。そして……それ以外だ。

 

(おっと、クレマンティーヌとロンデスは~……元法国関係者だな。それで……だ)

 

 今、モモンガの目の前には『それ以外』の法国関係者らが居る。

 残念と言うべきか、ニグンにとっては幸運と言うべきか、レイモンの言動を見れば見るほど、モモンガにはニグンら陽光聖典がマシに思えていた。

 

(どうなんだろうなぁ。まとまった数が居る、現地人の特殊工作部隊とか。超欲しいんだけど。それを言ったら漆黒聖典もそうか……)

 

 注意すべきは、スレイン法国が人類至上主義で、亜人蔑視が強い国だということ。異形種救済のために結成されたギルド『アインズ・ウール・ゴウン』とは、そりが合わない可能性が高い。

 その辺も踏まえて、法国とは慎重に接触したいと思っていたのに、この有様だ。ギルド長のモモンガとしては、ただでさえ異世界転移してから日が浅く、これから他のギルメンも探さなくてはいけないのに、妙なトラブルは避けたいのである。

 

(取り敢えず、いつもの手でいくか……) 

 

「弐式さん。異形種化して、指輪を取っちゃいましょう」

 

「え? ああ、なるほど。やってみますか! ふひひ、たまげて引っ繰り返ればいいんだ」

 

 ここまで黙っていた弐式も、レイモンの言動には腹を立てていたようだ。悪そうな笑い声とともに、指輪のはまった手を差し上げる。

 

「「せぇの……」」

 

 タイミングを合わせて指輪が引き抜かれた。弐式は衣装そのままな上に、面も装着した状態なので、異形種化しても見た目は変わらない。一方、モモンガは悟の仮面を着用していないので、死の支配者(オーバーロード)としての骸骨顔が剥き出しだ。更には最強装備まで装備し直すというオマケつきである。

 そして溢れ出すのは、一〇〇レベルプレイヤー二人による……力の奔流。

 この力の前には、転移後世界の高いところで四〇レベル程度の者達など、ひとたまりもなく心折られてしまうのである。ちなみに以前、クレマンティーヌなどが複数ギルメンによる一斉指輪解除を体験している。もちろん、ひとたまりもなかった。

 今回は、モモンガと弐式だけと比較的に規模は小さいが、あくまで比較論であり、転移後世界の現地人にとって大き過ぎる力であることに変わりはない。

 まず、レイモンが失神。糸の切れた操り人形のごとく、膝から崩れ落ち、顔面を地面にて強打する。次いで漆黒聖典隊長と巨盾万壁セドランが硬直。失神しないでいるのは、さすがに漆黒聖典と言うべきだろう。そして、カイレは……その世界級(ワールド)アイテム、傾城傾国を使えぬまま、胸を押さえてうずくまった。

 

(むう、女性高齢者か……。心臓発作とかで死ぬの、やめてくれよな? 色々と微妙な気分になるんだから……。あと、傾城傾国を着た状態で死ぬのも勘弁だ。正視するに堪えん)

 

 次にモモンガは、ニグンと陽光聖典隊員の二名に目を向ける。こちらはニグンが立ったまま気を失い、隊員らは引っ繰り返って気絶していた。

 これにて法国のナザリック訪問団は壊滅……いや、まだ一人残っている。

 一人正気を保ったまま、熱に浮かされた視線を向けてくる少女……番外席次、絶死絶命だ。見たところ、十文字槍状の戦鎌(ウォーサイズ)を装備しているのだが、鎧を身につけている様子はない。

 

(軽装の戦鎌使いか? 確か、希少な生まれながらの特殊能力(タレント)持ちで……)

 

 そうモモンガが思った瞬間、番外席次が瞬時に距離を詰めてきた。転移後世界の現地人にしては随分と速い。だが、一〇〇レベルプレイヤーとして完全状態になったモモンガには、まだまだ対応可能な速さではある。

 

「フッ、<時間停止(タイム・ストップ)>!」

 

 その瞬間、時間が停止した。勿論、飛び込んで来た番外席次の動きも停止する。飛び込み様、戦鎌で薙ぎ払おうとしたらしいが、跳ねた状態なので空中停止したままだ。

 

「お~、けっこう良い動きしてましたけど。モモンガさんには(さわ)れませんでしたねぇ……。ま、時間対策が無いとこんなもんか……」

 

 つかつか歩いて近寄った弐式が、番外席次の顔を間近で覗き込む。彼自身は高レベルかつ、アイテム等で対策しているので<時間停止(タイム・ストップ)>は通用しない。従者ではアルベドが停止することなく待機しているが、レベルの低いルプスレギナは停止状態にあった。

 弐式はアルベドらをチラ見した後、改めて番外席次の顔を覗き込む。

 完全に停止しているが、熱に浮かされたような笑顔は変わりがない。

 

「……ペロロンさんが居たら喜びそうな表情だなぁ……」

 

 エロい云々について、敢えて触れずに言った弐式は、アイテムボックスから何やら取り出した。それは赤い縄で手で掴めるように束ねられている。

 

「弐式さん。それは?」

 

(くれない)捕縛縄(ほばくなわ)。課金アイテムですよ。MPチャージすれば何度でも使える類いの品で、ちょっとお高いんですけど……。まあ、忍者的に持っておきたかったと言うか……」 

 

 苦笑しつつ説明した弐式は、それを使用状態にすると番外席次の顔前で設置した。

 

「本来は投げつけるんですけど、今は時間停止中ですからね。こんな感じになるのか……。効果が発動するのは、時間停止が解除した後だな」

 

 お値段数千円のこのアイテムは、自分より低レベルの相手を高確率で捕縛するというもの。持続時間は捕縛成功から十五分。一回のMPフルチャージで二回使用でき、使用回数を使い終えると、一時間経過するまでMPチャージができなくなる。

 

「ユグドラシルの時は、一〇〇レベルプレイヤー相手の戦闘がほとんどですからね。一〇〇レベル未満の、因縁を付けてきた連中にしか使ったことはないんですけど」

 

 他の問題点と言えば、身代わり系のアイテムがあるとそちらに反応する等、対抗策が複数存在すること。そして、三種類の縛り方をスロット管理できるが、発動する縛り方はランダムという仕様だ。総合的に評価するなら、ジョークアイテムの類いである。

 

「このタイミングで使ったら、回避も抵抗もできないだろうな~。お? そろそろ<時間停止(タイム・ストップ)>の効果切れですか?」

 

 説明を続けていた弐式が言うと、その三秒後に魔法の効果が切れた。当然ながら、突撃中だった番外席次は紅の捕縛縄に突っ込むことになり……。

 

 バシィ!

 

 鞭で引っぱたかれたような音と共に捕縛され、地面に転がることとなった。

 

「えっ!? 何これ!?」

 

「えっ!? 何これ!?」

 

 まったく同じセリフだが、前者は番外席次のもので、後者は弐式の発した声である。番外席次は、気がつくと自分が捕縛状態にあったので驚いたのだが、弐式の驚きは別のところにあった。

 

「なんで……なんで、こんなエッチな縛り方になってるんだぁ!?」

 

 頭を抱えた弐式が叫ぶ。

 エッチな縛り方とは、番外席次を拘束した……縄のかけ方にあった。まず、その胴体を亀の甲模様に見える……いわゆる亀甲縛りにし、手足を背側に反らせるようにして束ねて縛っているのだ。

 

「痛い! 痛たたた!? 縄が、縄が股間に食い込んでる!? てゆうか、なんで縄ぐらい切れないのよぉ!?」

 

 ジタバタすることすらできず、番外席次は地面に転がったままで藻掻いている。

 

「うわああ! ごめん! でも、事が解決するまで我慢してて!」

 

「我慢できるわけないでしょ!? この変態! 私は自分から迫るのはいいけど、無理矢理されるのは嫌なの! ……私に勝った人が相手なら別だけど……」

 

「なんか言い出したし……」

 

 謝っていた弐式は、捕縛状態にある番外席次が妙なことを口走りだしたので、引き気味に気を落ち着かせた。そこへ……モモンガが声をかける。

 

「弐式さん……。その縛り方……」

 

「いや! ちが、違うんです! モモンガズさん! 俺は、グルグル巻きを設定してたはずで! 他の設定スロットに、別の縛り方は入れてなかったはずなんですぅ!」

 

 呼び方が限りなく『アインズ』から遠のいているが、弐式は気づかずに弁明を続けた。

 

「え~? でも、アイテムの所有者は弐式さんなんでしょ? 他の誰が設定を変えるんです?」 

 

「それは……はっ!」

 

 弐式は思い出す。かつて、このジョークアイテムを購入したことをギルメンに自慢して回っていたとき、ある人物が「素晴らしいアイテムじゃないですか! ちょっと貸してもらえます?」と言ったことを。そして、その人物の申出を自分が快諾したことを。

 

 ピッ!

 

 素早くこめかみに指を当て、弐式は<伝言(メッセージ)>を飛ばした。

 

「ペロロンチーノさん! 見てるんでしょ! 何てことしてくれるんですか!」

 

『ご、ごめ、ごめんなさい! だって、あんな風にエロモンスターを縛れたらいいな……って~っ!』

 

 <伝言(メッセージ)>で伝わるペロロンチーノの声は半泣きだ。それもそのはず、彼が居る円卓の間には姉のぶくぶく茶釜も居て、一連の状況を見聞きしているのだから。

 

「泣いたって駄目ですよ!? 俺がユグドラシル時代に使ってたときは、一種類の縛り方だけのつもりだったんですけど! でも、たまたま亀甲縛りが出なかっただけで……下手したら、俺が垢バンされちゃうでしょうが!」

 

『うああああん! ごめんなさい! でも、俺だって、弐式さんが気づいて亀甲縛りを削除してると思ってたん……』

 

 ……ぶつん……。

 

 唐突に、ペロロンチーノの声が途切れた。

 

「ちょっ、ペロロンさん!?」 

 

 夜空を仰ぐように通信していた弐式が、その顔を地面に向けるように振りながら呼びかける。そこへ、<伝言(メッセージ)>の通信線が伸びてくる感覚があった。

 

「あっ! ペロロンさん! いきなり<伝言(メッセージ)>を切って、どういうつも……」  

 

『ごめんなさいね。弐式さん……』

 

 <伝言(メッセージ)>主はペロロンチーノではない。姉のぶくぶく茶釜だ。通話相手が入れ替わったことで弐式は戸惑ったが、茶釜の声に含まれる怒気が尋常ではないため、声を発することができない。

 

「え? お? は?」

 

遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)改で全部見てたわ。愚弟には焼きを入れておくから……。弐式さんは戻ったら、手裏剣の的にするなり好きにしてあげてちょうだい。本当に、ごめんなさいね。……あ、悪いんだけど、その番外席次って子に謝っておいてね? 弐式さんへの埋め合わせはするから……』

 

 そして<伝言(メッセージ)>が途切れる。

 後に残ったのは、何とも居たたまれない気分の弐式と、状況が解らずオロオロしているモモンガだ。アルベドとルプスレギナは、先程まで激怒していたのだがモモンガらの狼狽え様を見てキョトンとしていた。

 

「に、弐式さん?」

 

「なんかもう、俺……PVP的な気分では無くなりまして……」

 

 声をかけたモモンガに返事をしながら、弐式は法国の訪問団を見る。探知阻害の指輪は外したままなので、気絶する者や硬直する者が出る等、悲惨な状態は続いているようだ。

 

「アインズさん。取り敢えず、レイモンが目を覚ましたら事情を聞くなりしましょうか……」

 

 

◇◇◇◇

 

 

 結局、法国の訪問団は、それぞれが自然に目を覚ますのを待つこととなった。

 と言っても、最初にレイモンが復活してからは皆の回復が早く、最後に立ったまま気絶していたニグンが目を覚ますまで、二分ほどを要したのみだ。

 そのわずか二分ほどの中で、事態は急速に動いていく。

 まず、レイモンが目を覚ますなり平伏した。地面に額をこすりつける様は、紛うことなき土下座だ。

 

「スレイン法国って、土下座の文化とかあったのか……」

 

「六大神様からの伝承にございます!」

 

 モモンガの呟きに対し、すかさずレイモンが答えている。その口調からは、当初の攻撃的な態度は微塵も感じられない。説明を受けたモモンガにしてみれば、「何伝えてんだよ。六大神の……たぶんプレイヤーの人達……」と呆れてしまう。が、レイモンの土下座を見て呆気に取られていた隊長とセドランが怖ず怖ずと平伏し、カイレや陽光聖典隊員など、遅れて目を覚ました者達が平伏し出すと、モモンガは我に返って咳払いした。

 

「ん、ごほん。弐式さん。取り敢えず指輪を元に戻しましょう」

 

「そだね~……」

 

 弐式の声は、まだ脱力したままだ。ゆえに、ここからはモモンガ一人でレイモンらと話を進めなければならない。<転移門(ゲート)>でギルメンの助っ人を呼びたいが、せっかく人数を絞って揺さぶりをかけたのだから、それはまだ早いと言うものだ。

 

「む? ニグンも目を覚ましたようだな。取り敢えず、事情を聞かせてもらおうか。わざわざ連絡要員を置いて、日取りを決めて、その上で訪問団を送って来たにしては、随分な言動だったが……。……何か、釈明はあるのかね?」

 

 考えてみれば、世界級(ワールド)アイテムの傾城傾国まで用意しての行動だ。簡単に勘弁してやることはできない。

 

「はっ! その件につきましては、すべて(わたくし)が責任を負うべきものです! スルシャーナ様!」

 

 最後に出た名前に、モモンガは「ん?」と首を傾げるが、すぐにクレマンティーヌから聞かされていた、六大神の一人の名であると思い出した。

 

「私は、お前達の神……スルシャーナではない。同郷、同種族ではあろうが、別人だ。さて、私達を強者でないと誤認したのは、アイテムの効果によるものだから目をつむってやってもいい。だが、そこの老婆が身につけているアイテム、それは強大な力を秘めているな? そこまで事前準備されたのでは、私としても生半可なことでは水に流すことは難しいが……。釈明はどうした?」

 

 実のところ、モモンガは弐式とペロロンチーノの一件で気が抜けており、そこまで怒りが前に出ているわけではない。しかし、あわや世界級(ワールド)アイテムによる攻撃を受けるところだったというのは、対策を講じていても良い気分でないのは確かだ。思い出すだけで、徐々に怒りが込み上げてくる。そこへ魔王ロールをしていることも相まって、モモンガの口調は重々しく威圧感に満ちあふれていた。

 それに震え上がったレイモンが言うには、出発の当初から『ぷれいやー様であるなら友好的接触』、『ぷれいやー様ではないなら捕縛ないし討伐』と方針を決めていたとのこと。

 

「ただし、それは! 私が現場判断として考えたことでして! 本国の決定は、あくまで友好的接触だったのです! どうか、この一件につきましては、私一人の責任ということでお収めいただけますよう!」

 

「フム……断る」

 

 素っ気なくモモンガは言い、対するスレイン法国訪問団の面々が顔色をなくす。普段であれば、モモンガは困惑して沈黙時間を長く取るところだ。だが、レイモンが言い訳を述べ出す直前、タブラから<伝言(メッセージ)>が来ており、円卓の間でのギルメン意見を伝えていた。

 

『モモンガさん、皆と相談したんですけどね。戦争するとか滅ぼすまでは行かなくていいです。ここは可能な限り圧迫して、好条件を引き出す方向で行きましょう。この先、ずう~っと、ナザリックの糧になって貰うんですよ。さしあたり、傾城傾国は慰謝料代わりに頂きたいですねぇ。他にもあれば、この機会に巻き上げたいところです』

 

 やり口や発想がヤクザそのものだ。が、ユグドラシル時代のモモンガ達は、敵対ギルドに対して似たようなことをしたのである。懐かしい気分も相まって、モモンガはギルメンらの提案を受け入れることにした。

 

「ふむ……ふむ、なるほど。そうか……」

 

 こめかみに指を当てたいのを我慢しつつ、モモンガは頷く。レイモンらに<伝言(メッセージ)>で相談しているのを悟られたくないため、詳細な打合せができないのが辛いところだ。

 

「レイモンと言ったな? そこの老婆が着用しているアイテムのことは、先にも言ったとおり、我らは承知している。そのレベルのアイテムを持ち出されたのでは、お前達を滅ぼさないわけにはいかないだろう。確定ではないが、気分的には滅殺だ」

 

「そんなっ!?」

 

 悲鳴のような声があがるが、「オメーに、泣き言を言う資格とかねーから!」的な気分で居るモモンガは、取りつく島もない。軽く溜息をつくと、レイモン達と向き合っていたのが右九〇度に向きを変え、ツカツカと歩き出した。漆黒のローブが月明かりを反射し、ある種幻想的に見えるが、その顔は骸骨であり実に恐ろしい。レイモンらにとって更に恐ろしいのは、このままモモンガが立ち去ってしまうことだろう。『ぷれいやー』を怒らせたまま帰すなど、これ以上に恐ろしいことはない。

 

「一つ、聞きたい……」

 

 モモンガは足を止めると、顔だけでレイモンを見た。平伏するレイモンに対し、立っているモモンガからの視線であるため、必然的に上から目線となる。

 

「お前は、私達が『ぷれいやー』であれば、友好的接触を行うと言っていたな。友好的とは……どうしたかったのだ?」

 

「それは……その、人類を守護するための新たな神として、我がスレイン法国に御出願いたく……」

 

「却下だ」 

 

 話を聞いてくれる! と表情を明るくして言ったレイモンは、モモンガが即答したので言葉を無くした。

 

「そこの弐式と私は異形種だ。そんな私達に、人類の守護者……しかも、神になれだと? 話にならないな」

 

「で、では! ゴウン様は、人類の敵となられるおつもりでしょうか!」 

 

 声をあげたのは、レイモンではなく隊長だ。その手には、みすぼらしい槍が握りしめられている。

 

「そうは言わない。我々は迫害される異形種の味方だが、ことさら人類に敵対する気もないということだ。その証拠に、カルネ村の人々とは仲良くさせて貰っているぞ? ともかく、法国へ行き、神として腰を落ち着ける気はない。そして……良い様に利用される気もな……」

 

 ギン!

 

 モモンガの暗い眼窩の奥で、赤い炎が明滅した。それを見た隊長が、引きつるような呻き声と共に平伏し直す。

 

「そういうわけで、神として法国へ行く云々の話は無しだ。そもそも、亜人蔑視や捕らえたエルフを奴隷にして売りさばくといった政策は、我らが大いに嫌う行為である。平たく言えば、そんな国とはお近づきになりたくない。そう言ったところだな」

 

 モモンガが思うに、六大神の一人であるスルシャーナは、モモンガと同じ死の支配者(オーバーロード)であるらしい。そんな彼が、わざわざ亜人蔑視の教義を残したりするだろうか。六大神、残りの五人がやった可能性もあるが、スルシャーナが仲間達から嫌われていたのかどうか。謎は深まるばかりだ。

 

(タブラさんが言ってたっけ。有名どころの宗教で、教祖が残した教義がそのまま後世に伝わってる例なんてほとんど無いって。弟子や後世の信徒が、都合良く解釈して書き換えたりする例も多いとか……)

 

 タブラの解説を聞いていると、ちょっぴり宗教に興味が湧くが、今大事なことはスレイン法国とは関わりたくないということだ。もっとも、タブラが言ったとおり、慰謝料の類いは毟り取るつもりでいるわけだが……。

 

(何とか、こう……もうちょっと事を上手く運べないかな? ……そうだ! 長い年月で、教義が人間に都合良く変わってきてるなら、ここで手直しして、俺達に都合良くしたっていいよな!? 亜人蔑視を真っ先に無くして……亜人を優遇……まではしなくていいか。差別がなくなればいいんだし。後は、お布施の何割かをナザリックに納めるとか……。もちろん、今回の慰謝料とは別で! 俺達に関しては……敬えど利用するべからず! 勝手に崇める分には自由だよ? む~……でも勝手に神殿作って、俺達の名前を使って銭儲けされるのは嫌だから、法国には取り締まりをさせるかな? それをさせて、お布施を貰うとなると、少しは相談に乗ってもいい……のか? まあ、自分の国に来て教え導いてください、なんてのは駄目にしておこう)

 

 これらを頭の中で纏めたモモンガは、目の前に居るレイモンらを如何するか。それを円卓の間のギルメンらと相談するべく、<伝言(メッセージ)>を発動させた。

 通話相手は、タブラ・スマラグディナである。

 




 法国は……即滅亡とはならない感じですね。
 本作における各国の扱いは、

 王国>聖王国≧竜王国>>>越えられない壁>法国>帝国>エルフの国

みたいな感じです。越えられない壁の右側は、滅ぶ可能性があります。
王国がトップに来てるのは、ナザリック側の方針と、カルネ村住民とレエブン侯のおかげ。
聖王国は、カルカがモモンガさんの好み寄りかな……と思ったので。レメディオス次第では竜王国よりも下位になるかもしれません。
 竜王国は、あの女王は好感度稼げると思うんですけど、まあ聖王国と同じぐらいかな……と。
 法国は資金畑的に……。あと、レイモンが功を焦ったせいで、扱いは悪くなります。
 帝国は……ナザリックが王国寄りで動いてるので、舵取り次第では悲惨なことに。黒山羊の出番は無いかもしれません。
エルフの国に関して登場予定は未定ですが、今後出てくるとしたら茶釜さんが合流した後なので、滅んじゃうんじゃないですかね。

<捏造ポイント>

・紅の捕縛縄
 課金要素は縛り方をエディットできるところ。
でも、エロい縛り方をしたら垢バンされる糞要素あり。

・番外席次の強さ
 タレントとか良く解らなかったので、実力発揮前に捕縛することに。
 一〇〇レベルプレイヤーを二人向こうに回して、時間停止と課金アイテムの合わせ技ときたら、アレぐらいになるかな……と。
 ちなみに、竜王にバレる関連については完全に失念していまして。感想を見て、「ぬあ!?」と思った次第。本作では『ぷれいやー紛いの強者』対策で敢えて番外席次を連れ出したとか、たまたま見つからなかったとか、御都合主義的に流したいと思います。

・探知阻害の指輪を外すと圧力で倒れる
 実は、原作で倒れたとか影響があったのってフールーダとアルシェぐらいでして。そこから考察すると、現地人の誰も彼もが倒れるっていうのはおかしいんですよね~。
 後の話で、本文中で捕捉していますが、本作のモモンガさん達は、人化することによって生じた発狂ゲージがありますので、その絡みのストレスとか、そういったものが溜まっています。で、指輪を外すと圧力が噴きだして……という感じ。これもまあ、フォローとしては弱いという御意見を頂いているのですが、今から本文各所を書き直すのもキツいので、「集う至高では、そうなってるんだな~」と思っていただければ幸いです。


<誤字報告>

h995さん、たこ焼き製造工場さん、佐藤東沙さん

毎度ありがとうございます


それと、皆さん、毎度感想ありがとうございます
ブースト掛かりまして、今回、いつもより2000文字ほど多めです
評価のコメントも読んでますよ~、テンション上がる上がる(笑
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